从'ー'从 オトナの階段を上るようです(-_-)6日目−1



『∫λノ゚ -゚リは( ^ω^)で妖魔退治するようですぜ』という空気作品を元にしています。


                       【零】

妖魔ハンターとは、俗称である。

いつしか世に蔓延り、人に仇成す異形の生物。
妖気と呼ばれる霊的オーラを帯び、その不可思議なエネルギーでもって、しばしば社会に霊的な障害を引き起こす。
そういった、所謂物の怪の類が、妖魔と呼ばれるモノたちである。

妖魔の討伐や、彼らが引き起こす問題──霊障への対処。
国家資格を有し、それらを生業にしている者を、一般的に退魔師と呼ぶ。

退魔師とは主に、霊障への対処に係る全般の作業を請け負う職業であるが、
直接な霊的戦闘を含め、主に妖魔の物理的排除を目的として依頼を受け、
それによって生計を立てている種の人間を、俗に妖魔ハンターと呼ぶ。
国家的な資格の有無は問わず、である。

公的機関の退魔師が妖魔への対処を行う際、危険を伴う場合に依頼するケースも多く、
そのほとんどが民間事業という事もあってか、退魔師の下位に属する職業と見なされている。

しかしその実情は、妖魔討伐という専門性に特化しているだけでなく、
退魔師の行うべき霊的事業全般も包括して行うケースも多く、実力はピンキリである。
それらを踏まえて考えた場合、正確には上位下位の区別はない。



現代社会とはすなわち文明社会であり、霊験の拠るべく範囲は極僅かであった。
高度成長が終わり、安定期を経てバブルの時代へ世が推移すると、最早霊障自体が稀な事象となり、
退魔師はもとより、スキマ産業同等の職であったハンターの存在は、世間から忘れ去られていった。

神霊に係る行事はもはや形骸化したシロモノであり、
人々は妖魔への畏怖はおろか、その存在すら感じることなく平和な日々を送っていた。
業界の一部では、バブル崩壊までの時代をハンター飽和期とも呼んでいたそうである。

しかし、そんな妖魔が近年、原因不明の増加を見せた。

社会の陰部であった妖魔と、彼らが引き起こす所謂怪奇現象は、時代時代で闇に葬られてきた事実であったが、
情報化社会の発展、主にネットのインフラの発達によって一般の人々が知るところとなり、
政府や一部関連団体と癒着したメディアによっても封殺できない段階へときていた。
度重なる霊的事件は、日本各地に点在する程度の民間ハンター稼業では追いつかず、一種の社会問題となった。

かくして、公的機関の設立を経て、妖魔とともに退魔師・ハンターの存在は広く世に知られることとなり、その需要は年々増加傾向にある。
政府の全面的なバックアップによる民間のハンター育成機関樹立、
さらに、霊障専門の国家機関においては、近年、採用枠の増設もあって、にわかに注目される職業と相成った。


これは、一流の妖魔ハンターを目指す一人の少女と、故郷を追われた孤独な妖魔による、
愛と冒険と部屋とYシャツと地の文書きすぎ面倒臭以下略による物語である。



                       【壱】

「そ、それまでっ!」


道場全体を揺らすような声が轟き、やがて辺りの空気が弛緩してゆく。

(; ゚∀゚) 「いやあ……やるなあ。 噂に違わず、ってやつか」

∫λリ゚ -゚ノノ 「……いえ、それほどでも。 あります」

その瞬間すっと力が抜け、男の首筋に宛がわれた木刀が降ろされる。

板張りの空間、中心で対峙しているのは、
呆けたような表情の男と、相手を射抜くように見つめる一人の少女。

少し鼻は低いが、白い肌にぱっちり開かれた瞳、充分に整った容姿と言えた。
薄い桃色の唇は凛と結ばれ、男とは対照的に汗一つかいていない。

( ゚∀゚) 「恐れ入ったよ。 聞きしに勝る実力だ。 折り紙つきだな」

∫λリ゚ -゚ノノ 「恐縮です」

一礼し壁まで下がると、くさぐさな思惑の篭った視線が集中する。
それらを意に介さず、後ろで結った髪をふわりと揺らす様は、どこか濃艶な魅力を湛えていた。



∫λリ゚ -゚ノノ 「では、ありがとうございました」

彼女の、冷静にして余裕のある振る舞いは、その場を退く際も同様であった。
周りの訓練生が、口々にその感想を漏らす。

「すげえよな、あの娘……」

「男勝りとはこの事だぜ。 あんなほっそいのによう」

「ほ、細いけど、出るとこは出てるんだな」

「や、やっぱりてめえも、そういうとこ見てたのかよ」

「あったりまえだろ。 汗臭い道場の中に女の子が一人だぜ」

「しかも、とびきり可愛いときた……愛想は全然ないけど」

先刻、彼女と木刀を交えていた男が、腕組みで頷き口を開く。

( ゚∀゚) 「うーん、まさに逸材だな。 とんだダイヤの原石が眠っていたもんだ」

∫λリ゚ -゚ノノ 「……」

聞こえていない素振りで髪を掻き上げ、彼女は道場の扉を開いた。



ざああああ……。

ノ リ゚ -゚ノリ 「〜〜♪♪」

シャワーを止めると、短い吐息とともにタオルで髪を包み込む。

ノ リ*゚ -゚ノリ 「ふう……」

湯船にちゃぷんと肩まで浸かり、一息ついた。
左腕の手首から鎖骨のほうへ、ゆっくり滑らせるように指先で撫でつける。
湯煙がもくもくと立ち込める様が、外気との温度差を表わしていた。

ノ リ*゚ -゚ノリ 「……今日で半月か。
       この瞬間だけだな、ここに来て良かったと思えるのは……」

大浴場を一人で占拠している満足感から、彼女は今一度長嘆を漏らす。

ノ リ*´ -`ノリ 「……ふ───ぅ」

薄白く濁った湯から覗く二つの膨らみは、少女らしからぬ自己主張に溢れている。
湯を吐き続ける獅子のオブジェだけが、その瑞々しい肢体を真正面から見据えていた。



……と思われていたのだが。

「おい、押すんじゃねえ!」

「さっみいいいいいい」

「見えるのか? 本当に見えるのか?」

「ばか、おい、声でけえって!」

暖気の雲に包まれた極楽と、魑魅魍魎が蠢動する地獄の沙汰は、
わずかに壁一枚を隔て、隣り合っていた。

川;塘v) 「おい、どけよ、早くどけっ」

/nパ_} 「お……いいからちょっと待てって」

(;´^ω^`) 「なあどうだ? 見えるんか? 全部見えちゃうんか──ッ!?」

寒空の下、三人の亡者が壁の穴に群がっていた。

/nハ;゚_} 「いや……それがその、湯けむりのせいでシルエットしか」

川;塘v) 「ハァハァ、こ、交代だ! どけ!」

/nハ;゚_} 「あーでも、うっすら見えてき……て、ちょっ」

(;´^ω^`) 「てめ、順番が違うだろ」



川;塘v) 「ふお、ふううぅおおおお!! ハァハァハァハァハァハァハァハァハァ」

(;´^ω^`) 「おい、何やってんだよ」

ハ;゚_r ゚リ 「やめろバカ、てめえこんなところで何を……」

川;塘v) 「うなじいいよ、背中いいよお、ちゅっちゅしたいおおおおお」

(;´^ω^`) 「み、見えるのか? 見えてるのかああ!?」

ハ;゚_r ゚リ 「ずりいぞテメエ! 俺は全然見えなかったのに……」

川;塘v) 「ふあ、立ち上がる!! お尻が見えハァハァハァハァハァハァハァハァハァ」

(;´^ω^`) 「順番だ、交代だ、どけっ」

ハ;゚_r ゚リ 「くそ、もう一個穴開けろ! 俺も見たい!!」

(;´^ω^`) 「だから声でかい……っておい、早くどけよ!」

川;塘v) 「はふあハァハァおっぱいハァハァ見えそうハァハァハァハァハァ」

ハ;゚_r ゚リ 「ばか、やめろズボン脱ぐな!!」

ノ リ*゚ -゚ノリ 「♪♪」

熱い湯に蕩けそうな肢体を巡り、醜き男たちの押しくらまんじゅうは続く。
その視線は光の漏れる、その一点に集中していた。



│^)           ハ;゚_r ゚リ ;塘v);´^ω^`)ハァハァハァハァ

│^ω^)         ハ;゚_r ゚リ ;塘v);´^ω^`)ハァハァハァハァ

 お?>( ^ω^)   ハ;゚_r ゚リ ;塘v);´^ω^`)ハァハァハァハァ


ゆえに、後方より迫り来る彼の存在に気付く者は居なかった。


     ( ^ω^)・・・ ハ;゚_r ゚リ ;塘v);´^ω^`)ハァハァハァハァ


     ( ゚ω゚)カッ  ハ;゚_r ゚リ ;塘v);´^ω^`)ハァハァハァハァ


透き通るような冬の星空に、三つの濁った叫喚が轟くのは、このわずか数秒後のこと。


−−−




          ◆ 从'ー'从 オトナの階段を上るようです(-_-)   第六夜 ◆





旅館の一室のような畳張りの生活空間。

ノ リ*゚ -゚ノリ 「ああ、さっぱりした」

浅黄色のパジャマに着替え、煎餅布団の枕元で手荷物を漁る彼女、名を折砂空子という。
そのまま、取り出した櫛を使って丁寧に髪を梳く。

頬を桜色に染めた、空子……クーは、ちょっと人より器量の良い事を除けば、
至って普通の、どこにでも居る湯上りの女の子のようだが、
何を隠そう、今や世間で知らぬ者はいない”妖魔ハンター”を目指す卵なのだった。

ノ リ゚ -゚ノリ 「矢張り、修行のあとの風呂はいいものだ……」

手鏡で確認しつつ、顔に化粧水を揉み込んでいく。

ノ リ゚ ー゚ノリ 「ま、コーチがあの程度じゃあ、流すべき汗も出やしなかったがな」

仕上げにぱちんと頬を叩くと、布団の上で肢を投げ出し、軽くストレッチをはじめる。
上体がしなやかに反り上がると、それにつれて両の膨らみが上方を仰いだ。

ノ リ゚ -゚ノリ 「しかし、ペンはまだ帰ってこないのか」

ひとしきり柔軟を繰り返したあと、伸ばしていた腕を降ろし、虚無の空間に言葉を投げかける。

ノ リ゚ -゚ノリ 「……ペン、おいペン! いたら返事!」







その声に呼応し、間の抜けた声が部屋に響いた。

「おっおっおっ……」

続けざま、障子がすっと横に開く。
座っているクーの視線、そのまた下方に、小さな影が姿をあらわした。

 │^ω^)チラ

まん丸い頭部に、とってつけたような平らな胴体。
そこから伸びた四肢はこれまた丸く、ただの出っ張りみたいなフォルムで、
その役割を果たしているのか、いささか疑問の残る風采である。

キュムキュムとけったいな足音を立てながら、
白い縫いぐるみのような物体は、布団へ向かってよちよち歩を進める。

( ^ω^)ノ 「おいすーですお。 ただいま帰りまし……」

Σ(゚ω(# )ノ て ガッ

言い終わらないうちに、その横面へ、容赦も情けもない平手が飛んだ。

ノ リ#゚ -゚ノリ 「……遅いぞ! どこほっつき歩いてたんだ」

(; ^ω^) 「ほ、ほっつき歩くって……
       僕は、あいつらの後片付けをしてたんですお!」

頬を張られた生物は、丸い腕をぴこぴこ動かして必死に反論する。




ノ リ゚ -゚ノリ 「ふむ。 それで、奴らはどうなった?」

( ^ω^) 「コーチの部屋に突き出してきましたお。 おそらくこってり搾られているはずですお」

ノ リ#゚ -゚ノリ 「不逞の輩め……私の風呂を覗くとはいい度胸だ」

( ^ω^) 「おっおっお。 見慣れてしまえば、命と引き換えに見るほどのものでもないのにお……」

Σ(゚ω(#○≡ ブッ

白い縫いぐるみのような彼は、新種の妖魔『ブーン族』の子供である。
今から丁度一年前、退魔師三級の資格試験に臨もうとしていたクーの前に現れ、
その危機を救った、命の恩人ともいうべき存在だった。

しかし。
見ての通り、普段は奴隷同様の扱いで虐げられている。

ノ リ゚ -゚ノリ 「ふん、修行とはいえ、こんな山奥くんだりに……
       おいペン、お茶。 茶だ。 早く注げ」

(; ^ω^) 「人使い……もとい、妖魔使いが荒いですお」

ペンというのは彼の名前であり、名付け親はクーである。
彼が現れたとき、シャーペンが机の端に転がっていた。
ただそれだけ。 いささか安直な由来である。

彼にはその外形を変化させ得る特技があり、
また、霊気のヨリシロ、媒体となることも可能である。
クーは、彼を自分に隷従する使い魔としてだけではなく、霊気増幅作用を持つ武器としても利用している。



ノ リ゚ -゚ノリ 「あと半月も、あいつらと一緒にいなきゃいけないってのは忍びないな」

先刻、騒々しさに何事かと飛び出したクーは、
浴場の外で、細長い縄状に変化したペンにまとめて縛り上げられた、三人の男達を発見した。

彼らはここ──美賦山・擬古田道場において半月をともにしている、修行仲間とも言える者達である。
もっとも、異端である彼女は、退魔師訓練生の若者の中でも少々浮いた存在であり、
そこには取り立てて仲間意識など無かったのだが。

浴後のものだけではない上気と、鋭い眼光をもって、男たちに詰め寄った。
バスタオルの結び目がはらりとほどけ、いやーんまいっちんぐとかやりつつも、
彼らをボコボコにのし、のちの処理をペンに課したのであった。

ノ リ#゚ -゚ノリ 「おまけに、弱すぎて組手の相手にもならんときた」

( ^ω^) 「おっお。 クーさんが強すぎるんですお」

肩で担ぐように急須をもち、湯のみにこぽこぽ傾けながら、ペンが呟いた。
奪うようにそれを受け取ると、端から溢れた茶の熱湯が彼の頭に降り注いだ。






ノ リ゚ -゚ノリ 「ずずず……ふー。 しっかしなあ」

もんどりうって畳を転げ回るペンの姿を全く意に介さず、ゆるり回想する。

ノ リ゚ -゚ノリ 「いくら所長命令とはいえ、こんな場所でおままごとみたいな修行をいくら繰り返したところで、
      あまり意味はなさそうなものだが」

──何せ、私は今のままで充分強いからな。

ペンの七転八倒を背景にそう呟くと、小さなこぶしを掲げ、ぎゅうと握り締めた。

−−−







∫λリ゚ -゚ノノ 「美賦山? 美賦山ってあの?」

( ´_ゝ`) 「ああ、霊験あらたかなあの美賦山だ。
       擬古派の総本山がある、観光地としても有名なあの美賦山だ」

説明的なセリフを口にしながら、
流石霊媒事務所所長であるアニー流石は、緩慢な動作で葉巻に火を点けた。

薄暗い雑居ビルの一角。 ボロくて日よけの意味を成さないブラインドが、遠慮知らずに西日を透かしている。
赤く照らされた横顔をニヒルに傾け、怪訝な表情のクーを一瞥する。
そんな彼は、ひとしきり煙を深く吸い込んだあと、盛大に噎せ五分ほど悶絶した。

(; ´_ゝ`) 「ごほっ、げほっ……つまりその、そういうわけだ」

∫λリ゚ -゚ノノ 「話が全く見えません。どういうわけだ……ですか」

( ´_ゝ`) 「そこで一ヶ月間修行してこいって事だ。
       ああ、もう師範代のほうに話はつけてあるから」

∫λリ゚ -゚ノノ 「いや、急にそんな事を言われても」

そう言って頬を掻くクーの顔の横、ガムテープだらけの窓ガラスが、風に煽られてみしみし音をたてた。








都内の一角、そのまた片隅のさらに端っこのほうに、所在無さげに掲げられた”流石霊媒事務所”の看板。

半年ほど前、退魔師二級の資格試験に合格するとすぐ、クーはそのドアを叩いた。
専門学校やセミナーの類には通わず、独学で妖魔ハンターを目指すためには、
公認退魔師の事務所に所属し実務経験を蓄えながら、というのが手っ取り早いと考えたためだ。

求人情報誌の隅っこに掲載されていた米粒ほどの要項を目ざとく発見し、
とんとん拍子で採用が決まった、そこまでは良かったのだが。

見た目の通り、閑古鳥すら鳴くのを惜しむようなこの事務所で半年近く助手を勤め上げた結果、
やらせて貰えた仕事は、雑用という言葉以外に表現の見つからないシロモノだった。

無論、助手とはいっても、彼女にどこかの社長秘書のような甲斐甲斐しさは微塵もなく、
書類整理や電話応対も含め、事務は専らペンに任せきりという体たらく。

かくして、実働時間の殆どを、所長をしばいたりペンをしばいたりして無為に過ごす毎日である。
無論、日々の鍛錬は欠かさないし、
トレーニングと称して事務所の器物を破壊したり所長をしばいたりするのは日常茶飯事だ。

そして、近隣からの苦情に対処したり、散らかった事務所の内部を泣く泣く片付けるのは、
言うまでもなくペンのお仕事である。







( ´_ゝ`) 「戻ってきたら、簡単な仕事を一件任せてあげよーかなー」

∫λリ゚ -゚ノノ 「何言ってるんだか。依頼なんてここ半月、まったく来やしないじゃないですか」

たまに舞い込む依頼といえば……。
台所に涌いたカビみたいな妖魔を駆除したり、逃げ出したペットの妖魔を妖気から探索したり、
下着泥棒をした妖魔を捕まえたり、ゲーセンでカツアゲしていた妖魔を熱く説得して更正させたり、と、
私立探偵ですらやらないようなしょっぱい事件ばかりである。

(; ´_ゝ`) 「う……じゃ、じゃあ、こうしよう。
       年末のボーナスってことで、次回の依頼料から経費を差し引いた、残り半分を支給する
       ……これでどうだ?」

∫λリ*゚ -゚ノノ 「行って来ます」

二つ返事で了承したその時には考えが回らなかったが、
所長がえらく羽振りのいい条件を提示してまで彼女を派遣させたのは、
なんという事もなく、それが仕事の一環だったからである。

美賦山は全国的に有名な霊的磁場の一つであり、その霊験効果を目的に訪れる者も少なくない。
六合目あたりには美賦神社というそのまんまなネーミングの社が建ち、世にも珍奇な神体が祀られているという。
来年は霊的に縁ある年らしく、年始にはいささか規模の大きい祭祀が行われるらしい。

はたして彼女は、修行と称して、それらに係る雑務の一端を担う目的でこの地に駆り出されたのだ。

−−−






ノ リ゚ -゚ノリ 「くそっ。 所長め、騙しおって」

忌々しげに眉を吊り上げ、唇を噛んだのは、
ここに来てからというもの、修行以外にも何かにつけ雑用を押し付けられるからである。
儀式に必要な霊具を運べだの、掃除をしろだの、仕舞いには巫女の手伝いをしろだのとのたまうのだ。

無論、見えないところでその雑務の殆どをペンに押し付けている。

ノ リ゚ -゚ノリ 「第一、修行というくらいなら、師範が直々に術法を伝授してくれていいだろうに」

( ^ω^) 「おっお。 所長の知人の方なんですお? 気になりますお」

そもそも、この道場の師範代であり、美賦神社の神主でもある偉大な術者には、何故か一度も目通しがかなっていない。
昼間、訓練生に稽古をつけていた男、所謂コーチはクーにとって恐るるに足らぬ人物で、
おまけに、肝要な霊術の類はからきしときている。

ここの”修行”とやらは、他の者は兎も角、彼女の心を満足させ得るものではなかったのだ。







ノ リ#゚ -゚ノリ 「見ていろ……必ずや霊力を高めて帰還し……」

( ^ω^) 「?」

ノ リ#゚ -゚ノリ 「来年中。 そう、せめて来年中には、退魔師一級の試験にパスしてやる」

( ^ω^) 「おー。その意気ですお。 頑張ってくださいお」

ノ リ*゚ -゚ノリ 「そして、その暁には──。
       手始めにあの事務所を乗っ取り、妖魔対策クーちゃん本部を設立するのだ!!
       ロリコン所長は雑用でこき使ってやる!!」
   _, ._
( ;^ω^) 「……」

彼女は一見すると、表情の起伏に乏しく物静かな態度ではあったが、
その実、素直でもクールでもない女の子だった──。

布団をステージに奮われる熱弁の他には、ヒーターの送気音だけが静かに響く、山林の奥地。
ペンの頭をぽこぽこ叩きながらの主張と妄想は、夜半、疲れ果てた彼女が眠るまで続けられた。

−−−






「……?」

もそり。
いつものように移動を果たした先、ヒッキーは己の状況に疑問を覚えていた。

時空の移動はスムーズにいった筈だった。
しかし、目覚めた先はいたく窮屈で、視界はいまだ暗澹たる闇に覆われている。

(-_-) 「ここは? ん……?」

むにゅ。 むにゅむにゅ。

背に覆い被さっているのは──なんだろう、布団?
うつ伏せに近い状態でヒッキーは思った。

不安定な床は妙に柔らかく、
その身を起こそうと突っ張った腕の先、掌の中で形を変える、ボールのような物体。

(;-_-) 「なんだろう、ここは一体……?」

ぱちん。
堅い音に続いて、視界が明滅した。







「う……?」

ノ リ# ー ノリ 「……」

眩い光が瞼を刺激する中、飛び込んできた光景は。
口許をぴくぴくと痙攣させている、パジャマ姿の──女の子?

(;-_-) 「わ、渡辺さん……じゃない、あ、あれ?」

そして、その両手で丹念に揉みしだいていたものは。

(|||-_-) 「ちょ、待ってくださ、その、誤解……」

ノ リ# - ノリ 「……問答無用!!」

──もはや、説明を要さない。

澄み渡る冬の星空を背景に、またも男の絶叫が轟き渡った。







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