从'ー'从 オトナの階段を上るようです(-_-)-4
从'ー'从 オトナの階段を上るようです(-_-)共通後半
【Termination......】
それはまったく、予想外の事態であった。
移動空間に於いて問題が発生するなど、二人とも微塵も考えていなかったのである。
だからこそ焦った。手にしているDATドライブは相変わらず赤く燃えるような光を発し続けている。
得も言われぬ浮遊感と不快感に苛む内に、ヒッキーがあることに感づく。
(-_-)「もしかして……」
从;-;从「な、何か、ふぇ、何かこころあたりがあるの!?」
だがヒッキーはしばらく逡巡したのち、渡辺に向かってゆっくりと首を振った。
(-_-)「いや……僕の思い違いです」
その事実、おそらく真実をヒッキーが渡辺に告げる事は酷であると言える。
だが、それゆえにヒッキーは自分の思考に確信を持つ事が出来た。
あのときだ、とヒッキーは思い返す。あの時……直前の世界で、渡辺さんは触手から体液の注入を受けた。
それは、幸い身体的異常として表面化する事は無かったが、
渡辺さんの構成情報、もっと言えば固有の波長を乱してしまった可能性は十分に有り得るのだ。
迂闊だった。だが、気付いたとしてもどうすればよかったのだろう。
博士「移動装置にも波長という物がある。
これが人によって異なってくるので厄介なのだが……
君のお父さんが起動させているDAT、およびそのジェネレーターの発する波長と、
君の持つ固有の波長がぴったり一致するんだ」
そんな博士の言葉がまざまざと蘇る。
空間はまるで二人を弄ぶかのように歪み、転がり、反り返って震動する。
キュビズム的彩色の明滅。上から下へと響くハウリング。あらゆる異常がその場に凝縮していた。
共に信じられるものといえば互いの汗ばんだ手のひらばかり。
皮膚を破るほどに力を込めて、とにかく離れないようにと努めた。
精神が壊れるすんでの所で、二人の視界に出口らしき白い光が飛び込んできた。
(;-_-)「あ、あと少しみたいです!」
从;-;从「う、うん!」
渡辺が更に強くヒッキーの手を握り締めたとき、彼らの姿は白色に包まれた。
竜巻に巻き込まれた樹木のように、二人の身体は軽々しく投げ出された。
地面に衝突し、転がる。同時に、DATドライブが小さな爆発音をたてて破裂、四散した。
二人はしばらく、身を横たえたまま動く事ができなかった。
やがてヒッキーが、上手く力の入らない腕をなんとか地面にたてて立ち上がる。
(;-_-)「渡辺さん、大丈夫ですか!?」
从'ー'从「う、うん……けほっ、けほっ」
彼女も咳き込みながらなんとか身体を起こす。
そして、周囲を取り巻く環境を見渡して目を見開いた。
从;'ー'从「な、なに……ここ」
(-_-)「どうやら……ここが、最後の世界みたいです」
ヒッキーが最後の世界と断じたのには理由があった。
彼らを包んでいる世界、それは全て白色で創られているのだ。
特別なオブジェといったものは見あたらない。
それどころか、空や地平線の有無、踏みしめているはずの床の存在さえ曖昧なのである。
どこまでものっぺりした白色が、滑らかに、或いは凹凸を成してどこまでも続いている。
距離感、遠近感、平衡感覚、あらゆる視覚的情報が欠落している。
ここが、本来存在しえない仮初めの世界である事は明白であった。
つまり、ここまでで二人は全てのジェネレーターを破壊する事に成功したのだ。
だが、達成感に浸るにはまだ時期尚早に過ぎる。
从'ー'从「ここに、お父さんがいるのかな」
(-_-)「そういうことになりますね。もしそうではないとしても」
ヒッキーは粉々になって散らばったDATドライブの残骸を見下ろした。
(-_-)「移動装置が壊れてしまっては、もうどうしようもありません」
从'ー'从「そうだね……まずはお父さん、探さないと」
虚勢を張るように、渡辺は少し声を大きくした。
そして歩き出そうとし……すぐに立ち止まってしまう。
从'ー'从「ええと、どっちに行けばいいのかな」
道標などというものがあるはずもなかった。
どちらを向いても白色。狂いそうなほど雪の色。サンタクロースの狂騒的ホワイトプレゼント。
何にせよ彼らに為す術はなかった。そこはまるで牢獄のように、閉ざされた空間なのだから。
从;-;从「ふぇ……」
身体を震わせ、渡辺が呻くような声を漏らす。
从;-;从「おとおさん、いるんなら、でてきてよぉ……」
渡辺の感極まる思いを一体誰が共有できようか。
彼女にとって、今回の冒険の第一目的はDATの破壊などではない。
全ては父親探し、そのためにここまでやってきたのだ。
幾多の苦難を乗り越え、ようやく辿り着いたと思われる最終地点。
だがそこに父の姿は未だ無い。
从;-;从「おとぉさん……おとぉさん!」
あらん限りの力を使って叫ぶ。
その声は響く事もなく白色の向かい側へ吸い込まれ――
そして、答えが返ってきた。
『呼ばれている、呼ばれている。私の名前が呼ばれている』
二人の眼前に、唐突として眼球が出現した。
それを眼球以外に如何なる表現をすればいいのだろう。
つまりそれは眼窩や目蓋、睫毛などあらゆる付属物を排除した、円形の目玉なのである。
ただ大きさが尋常でない、空中に、わけもなく浮遊しているそれは、
少なくとも渡辺二人分の身長ほどの直径を持っている。
普段それほど観察する事のない虹彩や瞳孔が、やたらとグロテスクに映り、二人の恐怖心を煽る。
<◎>『呼ばれている、呼ばれている、私の名前が呼ばれている』
渡辺が金切り声をあげた。ヒッキーも声にならぬ叫び声を迸らせる。
<◎>『呼ばれている、呼ばれている。システムメンテナンス、システムメンテナンス、効率低下効率低下低下』
从;-;从「な、な、なに、なになんなの、なんなの……!」
(;-_-)「落ち着いてください、渡辺さん!」
かといってヒッキーが冷静であるはずもないのだが、
少なくとも狂躁の連続にすっかり混乱してしまった渡辺をなだめるだけの余力はあった。
<◎>『呼ばれている、呼ばれている。なぜ呼ばれている、なぜ呼ばれている』
その巨大な眼球は発現以後意味不明な合成音声を垂れ流し続けている。
無論眼球に発声機能は無いだろうから、別の場所から響かせているのだろう。
(;-_-)「お、お前、何者なんだ」
泣き止まない渡辺を支えながら、やけくそ気味にヒッキーが叫ぶ。
それに反応して、眼球はぐるりぐるりと宙を回転させてから、黒眼で渡辺たちを捉えた。
<◎>『マザー、マザーDAT、DATマザー。効率低下中。ジェネレーター異常』
(;-_-)「マザー……こいつが……?」
流石に驚きを隠せない。
研究所で見たDATマザーは、少なくとも機械的な体型を維持していた。
だがこれは……。
(;-_-)「ロボット……いや、生命体……?」
眼球は忙しなく膨張したり収縮したりしながら空中を飛び回っている。
<◎>『ジェネレーター異常、ジェネレーター異常、理論値のおよそ89%』
从 - 从「お父さんは!?」
不意に渡辺さんが怒号を飛ばした。
眼球は停滞し、文字通り目を細めて渡辺を見つめる。
从 - 从「マザーがここにいるなら、お父さんもここにいるはずなの!
どこなの!? 一体どこにいるの!?」
<◎>『言語不明瞭言語不明瞭。此処に人物存在しない、存在しない」
从;-;从「そんなはずないもん!」
マザーに向かって走り出そうとする渡辺を、ヒッキーが慌てて引き止める。
そして彼は一歩前に出て、マザーに尋ねた。
(-_-)「お前はマザー……だったら、何故まだ稼働しているんだ。
全てのジェネレーターを破壊したはず、だからこそここに辿り着いて……」
<◎>『システム修復完了、システム修復完了、理論値通り、エネルギー回復』
(-_-)「!」
ヒッキーが矛盾に気付くまで、さほど時間はかからなかった。
(-_-)「渡辺さん、なんで僕たちは、ここに来る事ができたんでしょうか」
从;-;从「ふぇ……そ、それは、マザーの波長に……」
(-_-)「おかしくないですか?
いや、そもそもマザーが未だに動き続けている事自体、間違っているんだ」
从;-;从「……!」
仮にも探偵。渡辺もようやく目の前に在る問題を発見する。
(-_-)「ジェネレーターが全て破壊された時点で、マザーはエロエナジーを請け負う事ができない。
その時点で、マザーは機能停止しなければおかしいんだ。
そうすれば当然、マザーの波長に感応して起動するドライブも使えない。
でも、僕たちはここにきた」
从;-;从「ってことは……?」
(-_-)「ジェネレーターが、まだ稼働している」
从 - 从「そ、そんなこと……」
有り得ない。有り得ないはずだった。
自分たちは今までに、全てのジェネレーターを、確実に、完全に壊してきたはずなのだから。
だがマザーは稼働している、相変わらず不明瞭な言語を発しつつ稼働している。
从 - 从「マザー……なんであなたは動いているの?
私たちは、確かに……」
<◎>『自己修復完了自己修復完了。全ジェネレーターは正常に起動している正常に正常に』
(;-_-)「自己……修復……」
<◎>『証明する証明する。証明、証明証明』
言うなり、マザーは眼球を消失させ、代わりにスクリーンを空間に登場させた。
それは白色に映写されているかのようで、光量が多く、ノイズ混じりのあまり鮮明とは言えない映像だ。
だがそこに映っている人物を見て、二人は息を飲んだ。
おぞましく蠢く触手に対峙する二人の少女。
かの学園で出会った少女たちだ。長身の少女が刀を持ち、迫り来る触手の群を払いのけようとしている。
だがそれは叶わなかった。
触手はいとも容易く少女から刀を奪い取り、そして別の触手で彼女の胴体を締め付け、持ち上げる。
地上でもう一方の小柄な少女が叫んでいる。
泣き腫らした目でなんとか逃れようともがく少女を見つめ、声を枯らして叫んでいる。
だがそのうちに、小柄な方の少女も触手の餌食となり、生け贄のようにして空高く掲げられた。
从;'ー'从「あ、あいつは……!」
一度は退かせたはず、いや倒したはずの淫魔が復活している。
それも、前とは比べものにならないほどの力を伴って。
<◎>『ジェネレーター強化、ジェネレーター強化。修復と共にアップデート』
マザーの無情な音声が響く。
渡辺たちには映像だけが届くのみで、音声を聞く事はできない。
だが、それでも二人には、いまスクリーンに映し出されている少女たちが、
互いの名前を必死に呼んでいるのが見て取れた。
そのうち、長身の少女にもう一つの触手が迫る。
彼女の表情に恐怖の色が滲んだ。迫る未来から必死に逃れようと足掻いている。
だが無意味だった。触手は一旦停止してから、勢いをつけて彼女へと襲いかかった。
瞬間、凄惨な映像に渡辺が思わず顔を背けた。
触手が少女の陰部を突き刺した。それは挿入と呼べるほど生易しいものではない。
彼女は身体を反り返して激しく痙攣した。
だが触手はなおも彼女の身体の奥深くへと突き進んでいく。
ゴリ、ゴリという骨を砕くような幻聴が渡辺たちの鼓膜を震わせる。
遂に少女は動きを失い、だらりと手足を垂らした。
同時に、彼女の後頭部から触手が突き出る。大量の赤黒い血液が、空中に散った。
<◎>『この通り順調順調。万事順調に進んでいる。
次の世界を表示する』
从;-;从「もういいよ……もう、いいよぉ……」
渡辺の泣き声もむなしく、スクリーンは次の世界を映し出した。
そうして次々と映し出される映像は、どれも惨い光景ばかりを映していた。
直前の世界で出会ったポニーテールの少女が、同じように触手に串刺しにされて死んでいる。
最初の世界で出会った女達が、壊れて目を剥き、口から涎を垂らして必死に腰を動かしている。
次の世界の少女達が――その次の世界の――
そこには幸福も日常も存在していなかった。
全てのジェネレーターが復活している。
そして相変わらず、事件は勃発してい。それも、より過剰な事件が。
从;-;从「じゃあ、じゃあ……私たちの、旅は、無意味だったの……?」
徒労、無駄。いやむしろ事態は悪い方向に転じている。
渡辺たちがジェネレーターを破壊する事によってマザーが自己修復機能を発動。
それによって復活したジェネレーター群は二度と破壊されることがないよう、
機能を強化して同じ世界に居座っているのだ。そうして今も、エロエナジーを吸収し続けている。
(;-_-)「最悪じゃないか」
ヒッキーが憔悴したように呟く。
同時に渡辺が身体を崩し、白色の床に膝をついた。
(;-_-)「でも、でも、そんなのおかしい! おかしいよ!」
ヒッキーが必死に頭を巡らせる。
叩きつけられた現実から逃れるように、状態の好転を図る。
(;-_-)「だったら、だったらなぜ博士はここに僕たちをつれてきたんだ……?
自己修復機能があると知っていながら。
いや、そもそもDATドライブの構成から考えて……。
博士は、このことを最初から知っていたのか!?」
从;-;从「なんで博士がそんな大事な事を隠す必要があるの?」
(;-_-)「わかりません、わかりませんが、一つ確かなことがあります。
博士は……最初から僕たちを騙していた」
全て仕組まれていた。
渡辺とヒッキーがここに辿り着くという最終目的のために仕組まれていた。
だがそうだとして、一体なぜそんなことをする必要があるのだろう。
そのときだった、白色空間に、けたたましいサイレンの音が鳴り響いた。
<◎>『通信、通信、転送先世界から通信、通信』
マザーが狂ったように「通信」と繰り返す。
やがて、聞き覚えのありすぎる嗄れた声が響いた。
博士「やぁ、もうついたのかね。予想以上のスピードだ」
歓喜に満ちた音声。それは間違いなく、研究所で別れた博士の声だった。
博士「まぁ最後にドライブが壊れてしまったのはいささか誤算だが……ね。
しかしアレも、また作り直せば済む話」
(;-_-)「博士、これは、これは一体どういうことですか!?」
博士「どうしたもこうしたもない。君たちは、『私たちの望む』結果にまで辿り着いてくれた。
……ふむ、それとも」
一旦言葉が途切れる。そしておどけた口調に変貌した博士の声が空間を劈く。
博士「まさか、本当にDATを破壊するという目的のため、
私が君たちを遣ったとでも思っているのかね?」
ざわめくような笑い声が博士の後ろ側で波打っている。
おそらくは研究員達のそれであろう。
从;-;从「どういうことなの、博士」
博士「考えてもみたまえよ。
もしもDATを破壊するとなれば、それは国家的、いや世界的な重要事項だ。
それを年端もいかぬ餓鬼二人に任せると思うかね。ここは虚構世界ではないのだよ」
从;-;从「でもでも、ドライブは私にしか使えないって……!」
博士「ああ、それは間違っていないね。
だが、DATほどのものが作れる我々が、
わざわざ波長の一致した人物にしか使えないがらくたしか作れないわけがないだろう」
(;-_-)「DATをつくった……? どういうことです。
作ったのは渡辺さんの父親のはず。そして、その人はDAT諸共世界を移動したんじゃないのですか?」
博士「嘘だよ」
(;-_-)「……え」
博士「そんなものは全て虚言、戯れ言だと言っている。
DATを完成させたのは私だ。確かに基礎理論をつくったのはあの男だがね。
そこに今存在しているマザーも、私の手によるものだ」
酔い痴れた口調で博士は言葉をつなげる。
達成感に溢れて、嬉しそうに。
一方で渡辺たちは未だ状況を上手く飲み込む事が出来ない。
从 - 从「じゃあ、それじゃ……お父さんはどこにいるの!?」
もはや涙も枯れてしまった渡辺が最後の望みを紡ごうとする。
だが博士はそれを嘲笑し、断ち切る。
博士「まことに残念だがねえ、渡辺君」
少しも残念でなさそうに博士は言う。
博士「キミの父親、八年前にすでに死んでいるんだよ」
そのとき、渡辺は遠くを見つめるようにして目を細めた。
口をぼんやり開けたままで、台詞を理解する事に必死だった。
数秒後、完全に理解したとき、彼女は獣的に叫んだ。血反吐を吐くが如く。世界を壊すが如く。
博士「あぁ、五月蠅いな。私はただ事実を述べただけだよ」
(#-_-)「そんなはずがない! だって、渡辺さんは、だって……!」
博士「記憶と違う……そう言いたいのかね」
(-_-)「!」
博士「ああ……確かこんな内容だったな。
『母親が幼い頃に死んだ。物心ついた頃から父親一人に育てられた。
ある日、その父親もいなくなってしまった。そこで彼女は某探偵事務所の扉を叩く……』」
博士が朗々と渡辺の過去を説明した。
それはヒッキーが二番目の世界で耳にしたものと同一であったし、
途中からはヒッキーも共有している記憶だった。だが。
(;-_-)「なぜそれを……博士が、そんなに詳しく知っているんです?
それらは全部、渡辺さんの父親が話していたのですか」
博士「なかなか飲み込みが遅いねえ、キミも」
呆れ果てた、とでも言いたげな博士の口調。
博士「百聞は一見にしかず……か。マザー、画像ファイルを転送する。其方で展開してくれ」
<◎>「画像転送画像転送転送完了完了表示」
映像を垂れ流していたスクリーンが、今度は画像を表示した。
やがて鮮明化したそれを見て、ヒッキーは顔をしかめる。
一人の、手と足を鎖で拘束された全裸の少女が、白濁液に塗れた虚ろな表情をカメラに向けている。
それを取り囲むのは陰茎まろびだした男共。確認できるだけでも五名。
上半身が白衣に包まれているところから察するに、研究員だろう。
少女とはいえ、年の程は十歳に届くか届かないか、その程度である。
そんな少女が肉奴隷的な洗礼を受けているのだ。
正気の沙汰とは思えぬ画像。
博士「そんなに目を背けていると、真実が見えなくなってしまうよ。
ほら、もっとよく見るんだ」
(;-_-)「こ、こんなもの見て、一体何になるっていうんだ!」
博士「わからないかね。ここに映っている少女の名前が」
少女の、名前。まさか。
ヒッキーはその少女を凝視する。そして気付いた。
その表情に、渡辺の面影があるということを。
博士「気付いたかね。これは、そう、渡辺君、キミだよ」
从 - 从「わた……し?」
それまで俯き、画像を見ようともしなかった渡辺が顔をあげる。
そしてその画像の、自分の幼少期の姿を見て、「ぁあぁああぁああああああ」と電波的な声を漏らした。
博士「自分の過去の姿ぐらいはわかるだろうね」
(#-_-)「そんな……ひ、酷すぎる」
博士「とはいえ、ねえ。これは私の意向ではない、渡辺君、君のお父さんのご意向なんだよ。
記憶改竄装置……この名称を記憶しているかね」
出発前、確かに博士がそんな名前を口走っていた。
博士「理論的に成功したとはいえ、実際に使えなければ意味がない。
記憶改竄にしてもそうだ。しかし、人間を使用する事は人道に反する」
博士は「人道」という単語にやや皮肉めいたニュアンスを込めた。
それは、彼自身何とも思っていない証拠。研究のためならば犠牲を厭わぬ姿勢の証。
博士「そこで、そのシステムの開発者はこんなことを進言した。
『私にはまだ幼い娘がいる。それを使って実験しよう。
その際、いくら残酷な記憶でも消えるのかという検証をするため、
出来るだけ酷い仕打ちを与えるべきだ』と」
(;-_-)「それが……渡辺さん、だと?」
博士「違いないね」
从;-;从「そんなはずないもん!」
从;-;从「私のお父さんは、お父さんはすっごく優しくて、
それでそれで、頭が良くて、すごくかっこよくて、だからだから、
そんなことするはずないもん!」
渡辺が必死に、虚空に向かって訴える。
だがそれすらも、博士にとっては笑いのタネでしかないようだった。
博士「聞いたか、みんな。やはり実験は成功していたようだ」
その声に、ドッと歓声が湧き上がっている。
(-_-)「渡辺さん……」
从 - 从「ひっきぃ、ねぇ、ひっきぃ。
ぜんぶ、うそなの? 私のなかにある、おとーさんの記憶は、ぜんぶ、うそなの?」
博士「まったく、素晴らしいよ。キミのお父さんは!」
そういって博士は狂い笑っている。
博士「娘のことを人間とも思っていないくせに、
記憶を改竄して娘を、父親に尊敬の念を抱く人物に仕立て上げるとはな!」
何もかもが嘘。
あの時、別世界で語った過去も。
父親という人物像も。
この旅の始まりも、終わりも。
何もかも、全て。
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