('A`)セックスリバーサルのようです川 ゚ -゚)2
45 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 22:18:47.70 ID:XCd6z13x0
開け放された窓からは風が吹き込み、カーテンが揺れていた。
俺はカーチャンの目を見た。無言で続きを促した。
J( 'ー`)し「例えばね、ンーとか」
川 ゚ -゚)「え?」
J( 'ー`)し「ンーとか、ンーもそうだよね」
川 ゚ -゚)「…………え?」
俺の聞き間違いでなければ、カーチャンは「ンー」と連呼した。
そんな曖昧模糊とした幸福なんか、俺には理解出来ないですよ、カーチャン。
J( 'ー`)し「だけどね、本当に女にしか分からない幸せっていうのはあるんだよ」
さっきのはカーチャンのちょっとしたお茶目だったのだろう、今度は真面目に言った。
J( 'ー`)し「カーチャンはドクオを産めたことが一番の幸せだよ」
俺はその言葉を聞いたとき、心の中がじんわりと温かくなった。
46 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 22:22:30.20 ID:XCd6z13x0
川 ゚ -゚)「でもそれは、トーチャンにだって言えることじゃない?」
子供が出来る喜びというのは、父親にだってあるじゃないか、と俺は疑問に思った。
J( 'ー`)し「違うのよ、それは子を産む喜びとは違うわ。私のお腹の中で育って、
私が産んだの。その喜びは、父さんにはないのよ」
川 ゚ -゚)「そっか」
子供を産むこと、か。今の俺には想像出来ないし、興味もない。
俺にはそんなことよりも、もっと些細な、日常で感じられる小さな幸せを聞きたかった。
川 ゚ -゚)「ありがとう」
質問の返答に対する礼と、もう一つの意味を込めて俺は言った。
J( 'ー`)し「ふふふ」
カーチャンは柔らかな笑みを浮かべた。
テレビの映すニュース番組は、出生率の問題を取り上げていた。毎年出生率が低下し、
去年、過去最低になった。年金制度や医療制度の見直しが必要だ、という内容だった。
50 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 22:26:27.31 ID:XCd6z13x0
七時になった。今日は親父が早く帰ってきたので、久しぶりに家族三人の夕食となった。
テーブルの上には、良い香りのするカレーと、サラダが並べられている。
暑いときには熱い料理は食べたくないと思うが、カレーならいつだって食べられるのだ。
川 ゚ -゚)「いただきます」
スプーンでカレーライスを口に運んだ、今日は甘口だった。
ある程度食べ終わったところで、学校でショボンから聞いたことを伝えようと思った。
川 ゚ -゚)「カーチャン、親父」
J( 'ー`)し「なんだい?」
(`・ω・´)「親父って言うな! おとーさんって言え!」
親父は、俺が女になった日から「おとーさんと呼ぶんだ」とうるさかった。
なんでも娘からはそう呼ばれたいらしい。俺にはよく分からなかったし、言い替えるのも面倒だった。
川 ゚ -゚)「実はさ、法律で性転換に関する保障があるらしくて」
男に戻るか、戸籍の性別を変えるか、俺は今悩んでいることを伝えた。
川 ゚ -゚)「だから、お金の心配はいらないらしいんだ」
51 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 22:28:50.08 ID:XCd6z13x0
J( 'ー`)し「全然知らなかったねぇ……」
(`・ω・´)「……それは、ドクオの決めることだ。よく考えて、判断しなさい」
川 ゚ -゚)「うん。裁判所に行くのは間違いないから、覚えといて」
伝えるべき事は伝えた。後は俺の問題だ。
残りのカレーを頬張り、咀嚼した。
川 ゚ -゚)「ごちそうさま」
そう言って、俺は自分の部屋へと戻った。
やることもないので、期末テストに向けて復習をしていると、ついつい真剣になってしまった。
やはり数学は苦手だ、微分がよく解らない。こんなもん、生きていく上でまったく役に立たないと思う。
数学なんて数学者に任せておけばいいのだ。
時計を見ると、22時と表示されていた。そろそろ風呂に入るとしよう。
階段を下り、浴室に向かうと、廊下で親父と鉢合わせた。親父は全裸だった。
風呂上がりで、身体から朦々と湯気が立ち上っている。
川 ゚ -゚)「親父、仮にも年頃の娘がいるんだから、タオルぐらい巻けよ……」
(`・ω・´)「家の中で裸になって何が悪い!」
まったくもって悪びれた様子もなく親父は言った。
別に気にしないからいいんだけどさ、開放しすぎだ。
52 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 22:34:31.24 ID:XCd6z13x0
洗面所で服を脱ぐ、着ているのは今でも男物の服だが、ブラジャーだけは違う。
女物の下着を買うときは顔が真っ赤になったが、外見は女なのだから、店員はさぞかし訝しがっただろう。
下はボクサーブリーフを穿いている。ショーツを購入しようかと思ったが、以外と何とかなった。
全て脱ぎ終え、鏡に映っている自分を見た。艶のある黒髪が、雪のように白い肌に映えている。
おっぱいは信じられないくらい形が良く、おまけに大きい。身長は以前の俺より高く、
痩せ形で、腰のくびれは目立つ。完璧な身体だ。
川*゚ -゚)「……」
いくら自分の身体とはいえ、綺麗なものは綺麗で、赤面してしまう。
やっぱり、風呂の時は慣れないな、と思った。
ボディーソープを馴染ませたスポンジで、ごしごしと身体を擦る。
スポンジは、すべすべの肌の上をなめらかに滑る。自分の身体なのに、気が昂ぶる。
なんで俺は女になったんだ、弱ったものだ。
この髪の長さだから、シャンプーの消費量が凄い。それに洗うのが手間だ。
それ故に風呂の時間が長くなった、女はこういうところで面倒なんだな。
化粧とか、服とか、下着にまで金と時間をかける精神が俺には理解出来ない。
だから俺はそういった面倒な事はしない、男だからしない。
それでも俺が美人なのは、反則だ。世の女達は俺を妬むことだろう。
54 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 22:37:34.83 ID:XCd6z13x0
とぷん、と湯船に浸かった。熱いので水でぬるめた。
脚を伸ばして、浴槽に頭を凭れかけた。
高い天井を見上げながら、今後の事について考え始めた。
俺は男だった、それは間違いない。だけど二週間前、何の前触れもなく女になった、理解出来ない。
昔から何件も観測されている現象だ、とショボンは言った。そんな馬鹿な。
過去何人も俺のように、思い悩んだ人間がいるというのか。俄には信じがたい事だ。
その人達はどんな決断を下したのだろう、性転換手術を受けたのか、現状を享受したのか。
どちらかを選んで後悔したのだろうか、それとも「あの時の選択は正しかった」と満足したのだろうか。
俺は今、絶対に男に戻りたい、とは思っていない。だけど、絶対に女でいたい、とも思っていない。
以前の俺を取り戻すか、女として新たな人生を歩むか。なんて二者択一だ。
なあ、神様よ。なんでアンタは俺を女にしたんだ? 教えてくれよ。
俺は、どっちを選んだらいいんだ──信じてもいない存在に、俺は問いかけた。
分からない、今の俺には答えなんて出せない。
長く湯船に浸かっていたので、逆上せてきた。
もう風呂を出よう、結論は保留した。
55 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 22:41:50.13 ID:XCd6z13x0
三日後の日曜日、ツンからメールがあった。テスト勉強を一緒にしよう、という内容のものだった。
もう期末テストは八日後に迫っていたので、俺はツンの家へと向かうことにした。
俺たちの住んでいる地区は、閑静な住宅街だ。すぐ隣のツンの家は、なかなか立派な二階建ての一軒家だ。
厳かに佇む門の前で、俺はインターホンを押した。
程なくして、ツンは玄関から出てきて、俺を家の中へと招き入れた。
ξ゚听)ξ「今日は家族がいないのよ」
階段を上り、二階の廊下を歩いていると、ツンが言った。
川 ゚ -゚)「ふぅん、出かけてるのか」
ξ゚听)ξ「うん。お父さんは仕事、お母さんはピアノのコンサートを見に行くって」
と、ドアに手をかけながらツンは言った。
部屋の中は女の子独特の甘い香りが少しして、ベッドのシーツは赤と白の水玉模様、
ベッドの上には二本脚で立つ熊のぬいぐるみがあり、なかなかにファンシーだ。
もう何度も見てきたこの部屋、入ることに躊躇いはない。
ξ゚听)ξ「飲み物持ってくるから、座って待ってて」
川 ゚ -゚)「サンキュ」
部屋の中央に、洒落たガラス張りの机があり、その周りに置いてあるふかふかのクッションの上に腰を落とした。
56 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 22:44:17.36 ID:XCd6z13x0
ξ゚听)ξ「はい」
部屋に戻ってきたツンが、氷と麦茶の入ったコップを渡してきた。
俺は礼を言ってコップを受け取り、少しだけ口に含んだ。
川 ゚ -゚)「やっぱり夏は麦茶だよな」
ξ゚听)ξ「ウチのは煮出してるから美味しいでしょ」
なるほど、道理で芳ばしくて深みのある味だと思った。今度から我が家でもそうしよう。
ξ゚听)ξ「それじゃ、勉強始めましょうか」
そう言って、ツンはクーラーの電源を入れた。
この蒸し暑さでは勉強なんてはかどらないだろうから、大いに助かる。
そよそよと心地よい冷風を身に受けながら、俺たちは勉強を始めた。
室内にはクーラーの音と、シャーペンをノートの上に走らせる音しか聞こえない。
俺が英語の問題を解いていると、何やら視線を感じた。
顔を上げてツンを見ると、目が合った。
ツンは慌てた様子で視線を下ろし、何事も無かったように教科書のページを捲った。
58 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 22:46:39.63 ID:XCd6z13x0
その後、黙々と勉強を続けたのだが、やはりツンはちらちらと俺を見ていた。
その度に俺は、何事かと怪訝な表情を浮かべた。
ξ゚听)ξ「よっし、できたっ!」
唐突に、威勢良くツンが言った。勉強を始めて二時間ほど経っていた。
丁度キリの良いところで、俺も英語の復習を終えたところだった。
ξ゚听)ξ「休憩にしましょう」
川 ゚ -゚)「そうだな、ちょっと疲れた」
ξ゚听)ξ「もう三時か、おやつでも持ってくるわね」
川 ゚ -゚)「アイスくれ、アイス。ハーゲンダッツで頼む」
ξ゚听)ξ「無いわよ、バカ」
軽口を叩きながら、ツンは部屋を出て行った。
手持ち無沙汰になった俺は、部屋の中を見回した。
整理された勉強机の上に、額に入った写真を見つけた。
それは、もう何年前か、俺たちが幼かった頃に撮られた写真だった。
俺はワンピースを着ていて、ツンが後ろから抱きついて顎を俺の肩の上に乗せている。
ツンは満面の笑みを浮かべ、俺は嫌そうな顔をしている。
ああ、この時から既にツンは百合気のある奴だったんだな、と俺は改めて思った。
59 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 22:49:10.55 ID:XCd6z13x0
皿に盛られたクッキーと、気品のあるカップに注がれた紅茶、という上品なおやつをツンは持ってきた。
ξ゚听)ξ「はい、どうぞ」
川 ゚ -゚)「サンキュ」
俺はクッキーをばくばくと口に放り込んだ。美味い。
ξ゚听)ξ「ちょっと、レディーたる者もうちょっとお淑やかに食べなさいよ」
川 ゚ -゚)「レディーじゃないっての、服だって男物だし」
と言って、俺はさっき見た写真のことを思い出した。
川 ゚ -゚)「そう言えばさ、机の上の写真、アレっていつのだっけ?」
ξ゚听)ξ「確か……七歳か八歳の時じゃないかしら。アタシが無理矢理ワンピース着せたのよね」
忌まわしい記憶が蘇ってきた。約十年前、「ドクオ、これ着なさい!」とか言って服を剥がれたのだ。
ツンはおばさんに頼み、写真を撮ってもらった。俺が拗ねた様子でいると、
おばさんは「可愛らしくて似合ってるわよ」なんて言った。そんなことがあるものか、と俺は憤った。
今にして思うと、親子揃って百合好きなのではないか。というか、おばさんの百合好きがツンに遺伝したのか?
川 ゚ -゚)「まったく、こんなもん飾っとくなよ」
60 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 22:51:34.25 ID:XCd6z13x0
ξ*゚听)ξ「……そうだ、アタシがアンタをコーディネートしてあげるわ!」
川 ゚ -゚)「は?」
ξ*゚听)ξ「ほらほら、せっかく美人なんだから服装も合わせないと」
川;゚ -゚)「げ……」
藪蛇だった。写真のことなんか訊くんじゃなかった、と俺は後悔した。
このままでは、ツンによる目眩く俺の着せ替えショーが始まってしまう。
コイツ……最近大人しいと思っていたが、ここに来て再燃しやがった。
ξ*゚听)ξ「早く脱ぎなさい! いや、アタシが脱がすわ!」
嬉嬉とした表情で近づいてくる、恐ろしい。
俺は後退りし、ベッドに脚を引っかけて、そのまま後ろに倒れてしまった。
ξ*゚听)ξ「観念しなさい!」
川;゚ -゚)「バカ、やめろ!」
ベッドの上で、俺はツンに馬乗りにされてしまった。
ツンがTシャツに手をかけて脱がしにかかったので、俺は必至に抵抗した。
しかし、部活で鍛えられた筋力の所為か、ツンの力は思った以上に強い。
抵抗の甲斐も空しくシャツは捲り上げられていく。
64 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 22:54:56.58 ID:XCd6z13x0
ξ*゚听)ξ「ハァハァ……綺麗……」
俺は胸の上までシャツを捲られ、露出した身体を見たツンは興奮しだした。
川;゚ -゚)「おいこら、やめろ……」
ξ*゚听)ξ「もう、ダメ」
ツンは手を伸ばし、俺のおっぱいをブラジャーの上から揉んできた。
川;゚ -゚)「おい! 目的が変わってるだろ! 何してんだよ!」
ξ*゚听)ξ「ドクオ……」
俺のおっぱいを揉みながら、ツンが顔を近づけてきた。
熱を帯びた吐息が顔に触れた。と思ったら、俺の唇がツンに奪われた。
川;゚ -゚)「ん……」
ξ*--)ξ「んん……」
物心ついたときから、ずっと傍にいた幼馴染みにキスをされた。
俺は、全く動くことが出来ず、固まっていた。
67 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 22:58:34.79 ID:XCd6z13x0
俺が呆然としているのをいい事に、ツンは俺のブラジャーを外した。
ξ*゚听)ξ「すごい……大きいし、形もいい……」
そう言うと、ツンは服を脱ぎだした。やがてピンクのキャミソールと、
フリルの付いた水色のスカートを床に放り投げた。ツンは下着姿になった。
俺はただ、一連の動作を眺めているだけだった。
今まで、ツンに対して恋愛感情なんか無かった、と思う。
だけど今、キスをされて、ツンの素肌を見て、女を意識してしまった。
いや、正直、ツンの身体に見惚れている。目が離せない。
ツンのしなやかな肢体、ほっそりとしていて無駄な肉が一切無い。
日中、日の下で部活動に勤しんでいるだろうに、肌は白い。
綺麗だ、と俺は思った。
またツンが俺のおっぱいを揉んできた。
川;゚ -゚)「や、やめ……」
ξ*゚听)ξ「アタシね」
俺の耳元で、ツンが囁いた。
ξ*゚听)ξ「ずっと、ドクオが女の子だったら良いな、って思ってたの」
70 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 23:02:09.67 ID:XCd6z13x0
ξ*゚听)ξ「ドクオのことは嫌いじゃなかったの、だからずっと一緒にいたのよ。
でもドクオは男で、恋人にはなれないじゃない」
川 - )「どうしてお前は……」
そんなことを言うんだ。普通は逆だろ、男女が付き合うのが普通なんだ。
どうして俺が男なら恋人になれないんだ。
ξ*゚听)ξ「ところがある日、ドクオが女の子になって、アタシは本当に嬉しかったわ。
神様がアタシの願いを叶えてくれたのかな、なんて思ったりもした」
川 - )「ハハ……」
そんな馬鹿なことがあってたまるか、とんだ迷惑だ。
ξ*゚听)ξ「ねぇドクオ……好き」
もう、何が何だか分からなかった。
俺はただ、流されるまま身を預けた。
73 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 23:05:55.35 ID:XCd6z13x0
その後、俺が如何なる仕打ちを受けたのかは記さないことにする。
あまりにも恥ずかしすぎて、思い返すだけで顔が紅くなる。
ξ*゚ー゚)ξ「えへへ……」
川 ゚ -゚)「ああ……」
ベッドの上に全裸で寝転がっている俺とツン。
全身にはひどい脱力感がある。
横で寝そべるツンを見ながら、「こいつ、可愛いな」と思った。
ξ*^ー^)ξ「ずっと一緒にいようね、ドクオ」
心の底から幸せに満ちているような笑顔で、ツンが言った。
この可愛らしい幼馴染みといるのも良いかな、と俺は思った。
室内には、クーラーが冷風を送り出す音しか聞こえなかった。
76 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 23:09:56.55 ID:XCd6z13x0
八日後から始まった期末テストは手応えがあった、結果は数学以外、全て九十点以上となかなかだった。
俺は要領が良いのだ。やれば出来る子で、俺はやる子だった。ツンはと言うと、俺より少し低い合計点数だった。
いつも部活やってるくせに、侮れない奴だ。俺が「お前って、頭良いよな」と言うと、
ξ#゚听)ξ「別にアンタに負けたからって悔しくないんだからねっ!」
と、ツンデレなのか何なのか分からない返事をした。
まったく、素直じゃない奴だ。
あっという間に時間は過ぎ、今日は終業式。
蒸し暑い体育館で、誰もが校長の無駄に長い話が早く終わらないかと苛々していた、と思う。
俺も、もうすぐそこまで迫っている夏休みに思いを馳せながら、校長うぜぇ、と思っていた。
( ´∀`)「え〜〜〜、では、礼節を重んじ、礼儀を忘れず、節度を守って夏休みを過ごして下さいモナ」
若干呆け気味だと思われる校長の、冗長すぎる話がやっと終わった。
体育館は大勢の生徒達の雑談でガヤガヤと騒がしくなった。
俺は人の群に流されるまま、出口へと向かった。
77 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 23:13:19.69 ID:XCd6z13x0
一学期最後のホームルーム。俺はこの時間が割と好きだったりする。
夏休みが目と鼻の先にあり、焦れったいこの時間が。
今年はどうやって夏を過ごそう、誰と何をして遊ぼう、とわくわくするのだ。
これは何年経っても変わらない事だと思う、小学生のときからずっと。
俺は心ここにあらず、といった感じで担任からの諸注意を聞き流していた。
クラスメートだってそうだろう。教室を見渡せば、机の上に鞄を置いて
「帰るぞー」という雰囲気を発している生徒ばかりだった。
長いようで短かった担任の話も終わり、ようやく勉学から解放されることになった。
_
(*゚∀゚)「ドクオー! 海行こうぜ! おっぱい見せてくれ!」
川 ゚ -゚)「だからしn」
ξ#゚听)ξ「ドクオはアタシといる約束してるんだからダメよ!」
_
(#゚∀゚)「なんだと! このおっぱいを独り占めするなんて許さない!
俺にはおっぱいを揉む権利がある!」
川 ゚ -゚)「ツンは勝手に約束の捏造をするな。ジョルジュ、そんな権利なんか無い。
でもまあ、海に行くのはいいかもしれないな」
_
( ゚∀゚)「やった! おっぱい見せてくれるんだな!」
川 ゚ -゚)「だから見せないっての」
79 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 23:16:59.75 ID:XCd6z13x0
ξ#゚听)ξ「な、何アタシ抜きで勝手に決めようとしてるのよ! 許さないわよ!」
ツンは完全に、俺を自分のものと思い込んでいるらしい、横暴だ。
从'ー'从「なになに〜、私も混ぜて〜」
(´・ω・`)「じゃあ僕も!」
( ^ω^)「もちろん僕も!」
皆、通知表のことなんか忘れた様子で、楽しげな雰囲気に誘われるように集まってきた。
誰も彼もが浮かれているのだろう、この先にある心惹かれる出来事を思って。
これだから、俺は終業式の日が好きなのだ。
川 ゚ -゚)「よし、じゃあ夏休みは目一杯遊ぶぞ!」
俺たちは、胸を躍らせて計画を話し合った。
今年の夏は楽しくなりそうだ。
俺が「鬱田ドクオ」として過ごす最後の夏、後悔は無いようにしよう。
81 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 23:19:59.96 ID:XCd6z13x0
俺たちはすっかり話し込んでしまい、時刻は正午を回ろうとしていた。
太陽の日差しが強い炎天下、灼けたアスファルトの上を歩く。
ξ#゚−゚)ξ「ちゃんとアタシとの時間も作ってよね」
俺の隣を歩くツンが、ふくれっ面をしながら言った。
よほど二人の時間が欲しいらしい。
川 ゚ -゚)「はいはい、分かりましたよ」
俺はぶっきらぼうに答える。俺と居たいというツンの想いは、素直に嬉しいと思った。
だけど、その感情を口に出して言うのは気恥ずかしかった。
ξ゚听)ξ「絶対だからね!」
川 ゚ -゚)「ああ」
通い慣れた通学路を、とことこと歩く。
右手側に公園があり、木立から降り注ぐ蝉時雨が喧しかった。
川 ゚ -゚)「なあ、ツン」
ξ゚听)ξ「なに、ドクオ」
82 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 23:23:16.23 ID:XCd6z13x0
川 ゚ -゚)「俺さ、女でいることにしたよ」
悩んで悩んで、悩み抜いた末の結論だった。
この決断は、ツンに因るところが大きい。
ξ*゚听)ξ「ふ、ふーん……何か理由でもあるの?」
ツンが目を輝かせて訊いてきた。
川 ゚ -゚)「……前にも言ったけどさ、男でも女でも大差ないんじゃないかな、と思って。
あと、性転換の手術がちょっと恐かったり。それと、確かめたいことがあってな」
正直に答えるのが恥ずかしかったので、一番の理由だけは言わなかった。
ξ゚听)ξ「そう……。確かめたいことって、何?」
ツンは気落ちしたように見えた。分かりやすい奴だ。
川 ゚ -゚)「女にしか分からない幸せを見つけたい」
これは、少し気になっている程度だ。カーチャンのはぐらかした、小さな幸せを確認したい。
だから、あまり重要ではないこと。今、俺がツンに対して抱いている想いを隠すための言い訳だ。
85 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 23:26:55.88 ID:XCd6z13x0
ξ゚听)ξ「女でいて良いことなんて少ないと思うわよ。生理はあるし、男より力が弱いし、
男尊女卑の残ってる社会では立場が弱いし、アタシは男って良いなあと思う」
川 ゚ -゚)「ああ、生理は辛いな……」
生理は身をもって体験しているため解るが、男の力が強いことを羨んでいるとは知らなかった。
世界は男女平等社会を謳っているが、根強く残る風習はなかなか消えないようだ。
まあ、色々と大変なんだな。それでも俺は、何とかやっていこうと思う。
ξ;゚听)ξ「あっ、女だって悪いことばっかりじゃないわよ! 例えば……」
取り繕うように、ツンが何か言おうとした。
川 ゚ -゚)「待った! 俺は自分で見つけたいんだ、だから続きは言わないでくれ」
ξ゚听)ξ「む……そう、良かったわ」
せっかく女として生きるのだから、日常の中で見つけていこうと考えていた。
川 ゚ -゚)「あ、そうだ。俺、名前も変えるつもりなんだ」
ξ゚听)ξ「えっ、あ、そっか、女だもんね」
川 ゚ -゚)「そうそう」
86 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 23:29:30.60 ID:XCd6z13x0
川 ゚ -゚)「それで、どんな名前がいいかなって。参考までにツンに訊いておきたいんだ」
ξ゚听)ξ「そうねぇ……アンタってさ、昔からニヒルな奴だったじゃない」
川 ゚ -゚)「俺としては意識してないから分からんが……というか、『ニヒル』にでもしろと言うのか」
ξ゚听)ξ「違うわよ。男だった時は、根暗で冷めてて、顔も良くなかったから微妙だったんだけど」
酷い言われようだ。まあ俺も、イケメンじゃなかったことは断言できる。
性格に関しては、育ってきた環境に因るものだから、今更どうしようもない。
ξ゚听)ξ「今のドクオ、すっごい美人じゃない。その性格、その外見に似合ってると思うわけよ。
何て言うか、格好良いし、凛々しいし、落ち着いて見えるし」
川 ゚ -゚)「ふむ」
ξ゚听)ξ「だからさ──」
この時ツンの言った名が、俺の名になることとなった。
89 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 23:32:54.87 ID:XCd6z13x0
その夜、俺は親父とカーチャンに胸中を打ち明けた。
話を聞き終えた二人は、
(`;ω;´)「俺はこんな綺麗な娘を持てて幸せだ!」
J( 'ー`)し「色々大変なこともあるだろうけど、頑張るのよ」
それぞれ、こんな反応をしてくれた。
裁判所への申立、詳しい手続きをどうすればいいのか、メールでショボンに尋ねた。
ショボンの世話になり、四苦八苦しながら書類に必要事項を書き込んでいった。
翌日、カーチャンと共に近くにある家庭裁判所へ、申立書を提出に行った。
一週間後、裁判所から連絡があった。電話で審判の日時を打ち合わせた。
その翌日、予定日が記載された封書が届いた。
やがて審判の日が訪れ、俺はカーチャンと裁判所へ赴いた。
判事と面談を行った。名前を変える理由、戸籍の性別を変える理由を質問された。
俺は正直に、「朝起きたら女になっていて、このままでは生活出来ないことになるから」という旨を話した。
裏付けが必要だから、特別観察官が毎日家庭を訪問する、と判事に言われた。
俺もカーチャンも了承した。
90 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 23:36:11.43 ID:XCd6z13x0
特別観察官の名はモララーといった。毎日、夜の七時過ぎから二時間ほど家にいた。
親父とカーチャンの前では礼儀正しい大人なのだが、俺と二人の時は砕けた調子になって、
まるで子どものようだった。俺の部屋に始めて入ったとき、
(;・∀・)「何だこれ! 普通に男の部屋じゃねーか!」
と彼は言った。
川 ゚ -゚)「男だったんだから、それは当然でしょう」
( ・∀・)「未だに信じられんなあ……。まあ、それを信じるのが俺の仕事なんだけどな」
川 ゚ -゚)「そういえば、この件で特別観察官なんて初めて知りましたけど、珍しいですよね」
( ・∀・)「珍しいなんてもんじゃない。観察官は何百人もいるが、特別観察官は国内に五人もいないんだぞ」
川 ゚ -゚)「すっごいレアですね」
( ・∀・)「レアだろう」
まるで自慢するかのように、モララーさんは言った。
彼には大人特有の汚さというか、腹黒さが感じられなかった。
92 名前: ◆K.UbLhmOUU :2009/08/21(金) 23:38:36.11 ID:XCd6z13x0
モララーさんは俺の部屋をよく見て回った。アルバムを開いて「これは、いつどこで撮ったものだ」とか、
ギターを手にとって「どんな曲を弾くんだ」とか、ベッドの下をのぞき込んで「エロ本はどこにあるんだ」
とか訊いてきた。この時の俺には、ただ純粋に質問しているだけだと思えたが、後になって真意が分かった。
( ・∀・)「将来の夢、金持ちになりたい、か。随分と抽象的だな」
モララーさんが、俺の小学校の卒業文集を読み上げた。
川 ゚ -゚)「純粋でいいでしょう」
俺はゲームをしながら答えた。
( ・∀・)「まあ分かりやすいわな……。おい、俺にもやらせろ」
川 ゚ -゚)「俺は強いですよ。というか、ゲームなんてしていいんですか」
( ・∀・)「これも仕事の一環だ」
本当なのか、と疑いたくなるような仕事だった。晩飯を共にして団らんに加わった後、
俺の部屋で雑談をしているだけ。なんて楽な仕事なんだ、と俺は羨ましく思った。
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