花火4(,,゚Д゚)アイスキャンディを食べるようです



い草の匂いがする。


線香の匂いがする。


少し遠くから母達の笑い声がして。


僕は暇を持て余して縁側で絵本を開く。


蝉の声。


誰かの足音。


日焼けした手と水色のアイスキャンディ。


その女の子は僕より少しだけ大人で。


僕はその笑顔を一つで全ての退屈を忘れていた。



胸を満たしたその感情の名前を僕は未だ知らない。



  (,,゚Д゚)アイスキャンディを食べるようです







ラジオの天気予報。今夜は晴れ、風は弱いが放射冷却で比較的涼しい夜なるそうだ。
花火大会には適した天気。神様も年に一度の夜空の花を楽しみにしているらしい。


('、`*川 よかったねーフサ、つーちゃん。今日雨降らないって


(*゚∀゚) てるてる坊主いっぱい作ったもんね!


ミ,,゚Д゚彡 いっぱい作った!



妻の言葉に息子と従姪が興奮した顔を見せる。彼らは今朝会ったばかりだがすっかり意気投合したらしい。

二人で遊びまわった印に二人の服は薄っすら汚れている。大方大人達の話に飽きて裏山を駆け回って来たのだろう。




(*゚ー゚) あらあらすっかり仲良くなっちゃって


('、`*川 本当に。流石は親戚パワーだわ


(*^ー^) つーは近場に年の近い子ざ少ないから、フサくんに来てもらえてうれしいみたい



妻のペニサスと従姉のしぃが子供達を見ながら言葉を交わす。

彼女達もすっかり仲が良くなった。

初顔合わせは7年前だったがフサが産まれてからは今年が始めて。

元々面識が薄い上に五年ぶりのはずなのだがまるで旧知の仲のように息が合っている。

どちらも人当たりがいいので別段驚くことではないのかもしれないが。


やはり、彼女達は似ているのだろうか。

喉の奥で何かが動いた気がした。

僕は気付かないふりをして時計に目を遣る。



(,,゚Д゚) 時間的にそろそろかな



僕が呟くと同時に細く小さな花火が空を昇る。

花火大会の始まりの合図だった。




花火が上がり始めてからの子供達は一転静かになった。

しいの用意した夕飯にも手を付けず縁側に座り口を開けて空を見ている。


大人達はそんな子供を時々注意しながらささやかな晩酌を楽しんだ。


蚊取り線香の臭いに花火の香りがそっと混ざり始める頃、僕は夜空に遠い昔の事を思い浮かべていた。


____________




僕が初めてこの家を訪れたのは今のフサと同じ年、五歳の時だった。


そこで僕に笑顔でアイスキャンディが差し出して来たのがしいだ。


しいとは急速的に仲良くなった。

カブトムシやオニヤンマを捕まえるため野山を駆け回り泥だらけになってよく親にに怒られ。

夜には近隣の花火大会を縁側で見て、それが終わると手持ちの花火で遊ぶ。

風呂も一緒だった。今思い出すと少々恥ずかしい。


それから毎年、夏の花火大会に合わせてこの家を尋ねるようになった。

親が仕事の時に一人で電車とバスを乗り継いで来たこともある。

年に一度、しいと一緒に花火を見るのが楽しみで仕方なかった。


今思えば、初恋と呼ぶべきものだったのかもしれない。

ただ、僕は心のどこかでそれが恋ではないと思っていた。

しいに会うのは年に一度。それ以上の頻度で会ったことは一度も無い。

僕は多分、年に一度のしいの笑顔に愛や恋とは違う日常に収まらない何かを求めていたのかもしれない。


そして、多分、今も。


____________




ぼんやりとしている内に花火大会の終わりの合図が空に昇った。

手に持った缶ビールはすっかり温くなっている。



('、`*川 はいはい花火も終わったしお片付け手伝ってね


(*゚ー゚) 手伝ってくれたいい子にはこの花火セットをあげるよ


ミ*,゚Д゚彡 はいはい!!手伝う!!


(*゚∀゚) つーも!つーも手伝う!!



脳みそが浮いて居るようだった。

冷静に思い返せば長距離を運転したり墓参りに回ったり身体は疲れて居るのかもしれない。



('、`*川 洗い物私やりますよ


(*゚ー゚) あら。じゃあお願いしようかしら



ペニサスが台所に向かい水の音が聞こえ始める。

子供達は与えられた花火を持って庭先に出て行った。


すぐそこの庭に子供達がいるが座敷に残ったのはしいと僕の二人。

僕の喉の奥でまた何かが蠢いた。




(*゚ー゚) 久しぶりだね。こうしてギコくんと二人でいるの


(,,゚Д゚) もう子供じゃないからね


(*゚ー゚) ふふ、寂しいこと言うなぁ



しいが新しい缶ビールを開けて口を付けた。


顔を盗み見る。


子供達を見守る横顔は優しさが滲み出る母親の顔で。


アルコールで少し紅潮した肌はどうしようもなく女を匂わせていた。


ああ。脳みそが身体を離れていく。




(,,゚Д゚) しい姉


(*゚ー゚) うん?


(,,゚Д゚) しあわせ?


(*゚ー゚) …ギコくんは?


(,,゚Д゚) ………俺はしい姉のことが



空気を切り裂くような音が僕の言葉に重なり、それに続いて破裂音。

庭でワイワイと喜ぶ子供達が見えた。


僕の言葉はロケットに乗って空に消えた。



(,,゚Д゚) …俺は幸せだよ


(*゚ー゚) ……私も


(*゚ー゚) 旦那はたまにしか帰ってこないけど、それでもちゃんと私達を大事にしてくれるし


(*゚ー゚) つーもどんどん女の子らしくなって……


(*^ー^) ふふ、フサくんとつー、まるであの頃の私たちみたい


(,,゚Д゚) …そうだね




僕としいの間に沈黙が流れた。

しいの顔はいつも通りの笑顔に見えて、なんだか少しだけ違うような気がした。



(*゚ー゚) ……ギコくん


(,,゚Д゚) ん?


(*゚ー゚) ペニサスさんとフサくんと幸せになってね


(*゚ー゚) 私も旦那とつーと精一杯幸せになるから


(,,゚Д゚) …



しいと目と目が合う。

少し潤んだ大きな目。吸い込まれそうな綺麗な瞳。

あの日初めて見た少女のままだ。

僕は彼女から目をそらすことが出来なかった。



(*゚ー゚) 私もギコくんのこと好きだから



しいの顔が近づく。

しいの目が閉じる。


喉の奥に居た何かが背骨を駆け上り脳を突き抜けていく。


しいの唇は、夢見た以上に柔らかかった。




どれほどの時間そうしていただろうか。

子供達は花火に夢中だ。ちゃんと見ていないと危ない。

ペニサスは洗い物が早い。すぐにでも戻ってくるかもしれない。


ゆっくりとしいの顔が遠ざかる。



(*゚ー゚) だから、君も私も、私たちの大切な人も、みんな幸せになるように頑張ろう



力強い言葉だった。

昔から変わらない。

僕の気持ちなんか関係ない。

僕はこの人に逆らうことは出来ないのだ。



(,,゚Д゚) …うん



僕の返事の情けなさをロケット花火がまた切り裂く。

しいを見ると困ったように苦笑いを浮かべ一言だけ呟いた。


「ロケット花火がもう少し煩かったら、こんなに困らずに済んだのになぁ」


____________




しいの家から帰って二日。夏休暇最後の日。


フサはペニサスの携帯電話を使いつーと電話ばかりしている。

僕は時々フサをからかいながら横になり本を抱えてその様子をみていた。

ペニサスは先程済ませた昼食の片付けをしている。


いつも通りなんの変哲もない毎日だ。


しいとのキスだけが、僕の中にこびり付くように残っている。

迷いとも言える複雑な感情の塊として。




いや、僕がすべきことは家族を幸せにすること。

そして毎年あの家であの花火大会をみんなでみること。

それだけだ。


クーラーの当たる位置に座り直し本を開く。

蝉の声が窓を閉めていても聞こえてくる。

フサの笑い声。いつか彼も、つ僕と同じような感情を持つのだろうか。

ペニサスの足音。聞き慣れた、少し慌ただしい歩みで近づいてくる。


目の前に突然水色の物体が現れた。

クーラーよりもひんやりとした空気を放つそれを反射的に手に取る。


('、`*川 アイスキャンディ、食べるでしょ?


(,,゚Д゚) ……ペニサス


('、`*川 ん?


(,,゚Д゚) 愛してるぞ


('、`*川 え?



僕はアイスキャンディの袋をやぶった。

少しだけ赤くなったペニサスが戸惑いの視線を向けて来るのを横目にアイスキャンディに齧りつく。


冷たく甘い懐かしい感覚は静かに溶けて喉の奥へ消えていった。



(,,゚Д゚)アイスキャンディを食べるようです

おわり

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