花火6爪'ー`)y-「今のは誉め言葉じゃねーぞ」
「…遠くで花火の音がする」
妹の話をしようか。
俺とよく似た双子の妹の話だ。
その子はずば抜けて頭が良いわけでも息を飲むほど美しいわけでもなかった。
町を歩けば人の波に溶け込んでしまうような、どこにでもいそうな普通の16歳の人間。
ただひたすらに、優しい女の子だった。
从'ー'从
妹の名前を…仮に「渡辺」としよう。
渡辺は夏を好んだ。花火の音が好きだったからだ。
夜空に咲いた七色の火花ではなく、爆発音のようなあの音が。
銃声のようなあの音に堪らなく惹かれるのだと。
思い起こせばそれは俺のせいかもしれない。
遠い昔の事、夜中に目を覚ました俺は妹と共同のベッドを抜け出して、寝ぼけ眼でトイレへと向かった。
帰りがけ両親の寝室から声がする事に気付いた。
あれ、と俺は首を傾げた。パパは仕事で明後日まで戻らないはずだ。
なのに何故、まっくらな部屋からは男と女の声がする。
何故、いつもは鳴る事のないベッドの軋む音が聞こえる。
全てを理解した脳から眠気が一気に吹き飛んだ。
新しいイタズラを思い付いた子供のような軽い足取りで、
パパの書斎の引き出しに隠してあった銃を持ち出して、
ママになりすましてる怪物と、怪物に覆い被さって腰を振ってる名も知らぬ男に向けて6発。
何も感じなかった。
『………』
从 从『―――ちゃん?』
暗闇を照らす扉から漏れる四角い光を人の形をした影が遮る。
それが誰なのかは振り向かなくても分かる。
『…渡辺』
从 从『いま、花火の音がきこえたみたい』
『………』
从 从『………』
『………』
从 从『まっかな花火、きれいだねぇ』
『………』
抑揚のない声からでは渡辺の表情が見えない。
一体妹はどんな顔をしてその言葉を言ったのだろう。
いつものように柔らかい笑みを浮かべてるのだろうか。
ごとり。
手から滑り落ちた銃の音がやけに遠く感じた。
その日の朝に二人で食べたブルーベリージャムを塗ったパンの味は今でも忘れられない。
まるで砂を食べてるようだった。
三枚を平らげると大切な物だけを持って、家から飛び出した。
从 从『―――ちゃん。ひっぱったらいたいよぉ、どこにいくのぉ?』
『』
なんて答えたかは覚えてない。
でもこの時確かに俺は笑ってた。
渡辺が花火を好きだと言い出したのはそれからだ。
何を意図してそこに行き着いたのかは分からないが、
ショックのあまり記憶が改ざんされたという仮説が一番有力だと思う。
…どこかで一度は耳にしたようなありがちな悲劇だろう?
あれから数年が経った。
渡辺は夏を好んだ。花火の音が好きだったからだ。
夜空に咲いた七色の火花ではなく、爆発音のようなあの音が。
銃声のようなあの音に堪らなく惹かれるのだと。
妹が真に聞き惚れてるのは花火ではなく、銃声そのもの。
俺がママを撃った時の、あの。
从 从『―――ちゃん』
『ん?』
从 从『夏が終わっちゃうよぉ』
『そうだな』
从 从『また花火の音が聞けなくなっちゃうんだねぇ』
从 从『寂しい…寂しい…』
『………』
視線は渡辺から外さない。
俺は妹とつないでない方の手で、路地裏で寝てた浮浪者を撃った。
あの時と同じ6発の銃声と、咲いた一輪の赤い花。
从 从
从^ー^从「まっかな花火、きれいだねぇ。ハインちゃん」
从 ゚∀从
从 ゚∀从(…ああ)
从 ー从(やっぱり、笑ってた)
久し振りに俺も、笑えた気がした。
俺が適当な場所で適当に人を撃ち殺す。
後ろで見てた妹がお決まりの台詞で微笑む。
从 ゚∀从「あとはもう、ただそれだけ」
从 ゚∀从
从 ゚∀从「あーついでに生活に困ってる時は金目のもんを奪う」
爪'ー`)y-「そっちがついでかよ」
从 ゚∀从「姉妹二人で生活していけるだけの金があればいい」
爪'ー`)y-「ははぁ」
爪'ー`)y-「だからこんな殺人現場にこの子を連れて来てるってわけか」
从'ー'从
爪'ー`)y-「人形みたいな綺麗な顔してやがる」
从 ゚∀从「妹に手を出すな」
爪'ー`)y-「今のは誉め言葉じゃねーぞ」
爪'ー`)y-「興味ねーよ。実の娘になんざ」
从 ゚∀从「娘?」
爪'ー`)y-「ああ。アヤカは俺の子供だ」
爪'ー`)y-「数年前に誘拐された俺の一人娘だ」
从 ゚∀从
爪'ー`)y-「お前誰だ?」
从 ゚∀从「お前こそ、誰だ」
爪'ー`)y-
从 ゚∀从
爪'ー`)y= スチャ!
从 ゚∀从y= スチャ!
―ドォン!!
从 ー 从
その夜響いた銃声はひとつだけだった。
いつもより5つ足りない。
おかあさんが死んだ時より、足りない。
从 ∀从
爪'ー`)y-
从 ー 从「…遠くで花火の音がする」
爪'ー`)y-
从^ー^从「まっかなハインちゃん、きれいだねぇ」
爪'ー`)y-
爪'ー`)y-「…壊れてやがる」
爪'ー`)y-「………」
爪 ー )y-
爪'ー`)y-「…ほら、口を開けな」
从'ー'从
黙ったままの私に痺れを切らしたおとうさんが口に太い指を突っ込み、半ば乱暴に唇と歯をこじ開けた。
硬い何かが放り込まれる。
私のおとうさんがくれた初めてのキャンディー。
それはヴェルタースオリジナルで、私は16才でした。
それは甘くてクリーミーでこんな素晴らしいキャンディーをもらえる私はきっと特別な存在なのだと感じました。
今では私がおかあさん。
子供にあげるのはもちろんヴェルタースオリジナル。
なぜなら、彼もまた、特別な存在だからです。
おしまい
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