('A`)ドクオと飛竜と時々オトモのようです1―2
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20 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:26:42 ID:spErNWocO
一番重要なのは武器を鍛える事ではない。 真に必要なのは心を鍛える事。
それは狩人だけでなく、人間の終着点であり原点でもあるのだ。 鍛冶職人も例外ではない。
―――伝説の鍛冶職人 竜人キバリオン―――
21 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:28:52 ID:spErNWocO
AM11:30
複雑に入り組んだ渓流を、オトモは的確な道運びでドクオを案内した。
出来るだけ目立たず、出来るだけ短距離で。 ギルドからの依頼を受け幾年もこの渓流を歩き続けたオトモにとって、それは簡単な事だった。
現在目下の問題となっている青熊獣【アオアシラ】は、繁殖期に入っている。
繁殖期というのは、どのモンスターも凶暴になる傾向がある。
その理由に挙げられるに、まず一つ目は巣、及び卵の死守である。
野生のモンスター達は、日々生存競争の中で生きている。 しかし、こと繁殖期においては一日とて身が休まる日がないのだ。
卵の破壊、子孫の死亡は即種の存亡に関わってくる問題なのだから。
22 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:29:59 ID:spErNWocO
アオアシラは、二足歩行する生き物であるが
知識は持たない。
だが本能が、それを覚えているのだ。
飛竜等、圧倒的存在がいるこの世界で未だに淘汰されずに生き残ってきたモンスター達には
子孫を残す事こそが、生きる理由と言っても過言ではない。
そしてもう一つの理由として挙げられるのが、食料の確保だ。
子供達の分まで、食料を揃えるのは幾ら青熊獣【アオアシラ】と言えども容易い事ではない。
だからこそ、別の種と縄張りを争ってでも彼らは、食べ物を採りに行く。
その事を、このアイルーは誰よりも熟知していた。
だからこそ出来る限りハチの巣が出来やすいエリアを避けているのだ。
(*゚∀゚)「順調だニャ。やっとギルド規定の範囲内に入ったニャ。 ほれ、地図だニャ!」
('A`)「今は、この最北エリアか。この調子だと夜には支部のキャンプに入れそうだな」
(*゚∀゚)「ニャ!しかしここからがちと難解だニャ!アオアシラの巣がありそうなエリアがこの近くに二つあるニャ。 特に地図中央に示されたこのエリア。 ここが一番厄介だニャ」
('A`)「……なるほど。巣、か」
23 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:31:00 ID:spErNWocO
オトモが示す地図。そのど真ん中にある“5”と割り振られたエリア。
ここがアオアシラの巣。
(*゚∀゚)「ここからは慎重に行くニャ。少しでも逸れて進めば大変な事になるニャ」
('A`)「あいよ、分かった」
草影に身を隠し、ゆっくりと進む。
本来狩人の移動は、このようにコソコソしたものではない。
彼らは常に準備が出来ている。
どこから飛竜が現われようとも、迎え撃つ心構えがあるのだ。
それが一流。
しかし、戦闘経験の無い人間ならば話は違う。
草食獣ならば、避けて通れば襲われる事はまずない。 しかし、それ以外の――例を挙げるならばランポス等
小型のモンスターの一撃でも、生命の危機に陥るのだ。
それ程までに非力、それ程までに脆弱。
いかな知恵を付けた人間とて、残酷すぎるほどに矮小な存在なのだ。
24 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:32:31 ID:spErNWocO
それに先に気が付いたのは、ドクオだった。
('A`)「なぁ、アレが見えるか?」
(*゚∀゚)「なんにゃ?何にも見えないニャ」
('A`)「何匹かいるな。恐らく形からして小型の鳥竜種だろう。 まだこちらには気付いてないな、日光浴でもしてるのか?」
(;*゚∀゚)「ニャ!?それはきっとジャギィだニャ!!何匹いるニャ!?」
('A`)「もう少し近づいてみないと正確さに欠けるが恐らく6匹だな。形状の違う、若干大きな奴も混じってる」
(*゚∀゚)「それはジャギノスだニャ。その群れを統率している大型はいないかにゃ?」
('A`)「居ないな。小物ばかりだ」
群れのボスであるドスジャギィは居ない、という事実にまずオトモは安堵した。
そして考える。どうすればいい、この旅人をユクモ村に安全に届ける為には。
今は戦える。昔の、ご主人について甘えていた頃の自分ではない。
やるしかない。
了解だニャ、と呟いてオトモは背中に据え付けた秘密のポーチから一振りの剣斧と一対の防具を取り出した。
25 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:33:18 ID:spErNWocO
('A`)「その秘密のポーチは、相変わらず出鱈目だな」
(*゚∀゚)「アイルー達の秘密が詰まってるニャ」
('A`)「それにその剣斧……ただの旗に見せ掛けた物ではないんだろ? その兜や胴具だって、一目で分かる」
(*゚∀゚)「昔オトモをしていたご主人から賜わった物ニャ。 オレっちの唯一の戟であり、唯一の盾だニャ」
ドンドルマ地方では見た事のない形状のオトモ装備だ。
しかしこれほど迄に無骨に、それでいて洗練されたオトモ装備をドクオは見たことが無かった。
(*゚∀゚)「あんた様は、ここで待ってるニャ。 オレっちがジャギィの群れを撹乱させるから、その間にこのエリアを抜けるニャ。 道は真っ直ぐニャ。絶対に間違えないでニャ」
ドクオは『お前だけで大丈夫か?』 と聞こうとした。これは、ドクオがオトモの能力を疑っているから出た言葉ではない。
しかし、小型とはいえ鳥竜種の群れ。
そこに一匹で突っ込むなど、無謀の極みだと感じてしまう。
しかし、件のオトモの目を見て漠然と感じてしまった。
この言葉を吐くのは野暮だ、と。
だからこそ彼は飲み込んだ。
26 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:33:52 ID:spErNWocO
(*゚∀゚)「大丈夫ニャ。トカゲ如きにやられるようなオレっちではないニャ。 あんた様はあんた様の事だけを考えていれば良いのニャ」
('A`)「……そうか。済まないな」
(*゚∀゚)「これも仕事のうちだニャ」
それだけ言うと、オトモは凄まじいスピードで飛び出していく。
ドクオは、それを見送りまた草影に隠れて機を待った。
27 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:36:12 ID:spErNWocO
ジャギィ達は休んでいた。なにせアオアシラが、繁殖期に入ってから自分達の住みかは荒れ放題。食料であるはずの草食獣は、アオアシラを恐がってなかなか姿を見せなくなっていた。
しかし、今日は良い獲物が手に入った。
少しばかりの余裕も出来たし、草食獣を探さなくても住む。
身体を丸め、陽の光を浴びる。
久しぶりの休息だった。
そんな彼らの心に“油断”が無い訳がなかった。
まずソレの接近に気が付いたのは、一匹のジャギノスだった。
さざめく草に混じって、何かが近づいてくる。
そう思った途端に、身体は宙に浮いていた。
何が起きたのかを確認する前に、そのジャギノスは喉元に突き立てられた旗によって絶命する。
そこにいたのは一匹のアイルー。
突如現れた乱入者に、周りにいたジャギィ達は嘶き声をあげる。
『なんだお前は』と。
しかしオトモは止まらない。ジャギィ達の間を縫う様にして撹乱する。
敏捷性に優れた小型鳥竜種といえども、自分達の視界を瞬きの間に過ぎていくオトモを捉えるのは至難の技だった。
28 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:37:28 ID:spErNWocO スピードというのは、狩りにおいて重要なファクターとなる。
そして、このジャギィ達はそれをいつも自分達が掌握してきた。
飛竜と相対した時だって、奴らの様に鋭い爪も、ブレスを吐く器官も備わっては居なかったが
スピードにおいては、負ける事はなかった。
しかしそれが今回では致命的。
彼らは知らなかったのだ。自分達よりも一回り身体が小さく、何倍も素早く動く存在を。
彼らはこの戦いにおいて弱者だった。
そして、生存競争の中で“弱者”というのは余りに罪深い事なのだ。
29 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:38:10 ID:spErNWocO
最初は6匹いたジャギィの群れも気が付けば2匹のジャギノスを残すばかりとなった。
オトモは静かに間合いを取る。
峯山竜の貴重な端材を使い作られた、この【旗本】ネコ合戦旗は絶大な威力を誇る。
一度掲げれば、竜ですら屈服するという逸話がある程に。
しかし、ジャギノス達は退かない。
この場で彼等を動かしているのは本能なのだ。
『アイルーなどという、自分より下等な生物に負けてはならない』という。
だからジャギノスは吠えた。
飛竜種の叫びと比べれば、まるで大した事のない雄叫びだが、それには重さがあった。
だからこそ、オトモも応えたのだ。
(*゚∀゚)「この兜は忠義の証!! 命を賭して主人を護る、その証!!! 」
己が仕える主人の為に、命を賭して奮闘する“忠義の証”。
不動の心と忠義の元、敵を払う“オトモの誇り”。
30 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:39:50 ID:spErNWocO
ジャギノスが鋭く尾を振ってきた。
地面を回転してこれを回避するオトモ。
これは長年見てきた色々な狩人から培った動きである。
即座にもう一方のジャギノスがオトモの右半身に鋭く爪を差し向けてきた。
オトモは、それを持っていた旗でいなす。
大きな音が鳴った。
ジャギノスが尻尾を、再び鋭く見舞ったのと同時だった。
オトモはそれでも焦らない。
隙だらけになっている左半身に目がけての尻尾攻撃を、地面に潜ることで回避した。
地面から顔を出すと、二匹のジャギノスは顔を合わせていた。
『勝てない、このままでは勝てない』
そう悟ったのだ。
31 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:40:42 ID:spErNWocO
バックステップで、一度距離を取ったジャギノス。
様子を伺いながら、油断なく剣斧を構えるオトモ。
ハァハァ、と乱れる息を整える。
元々、アイルーは戦う事に特化した種族ではないのだ。
また長期戦になる時は、度々地面に潜り休息を取る。
つまり体力の面では圧倒的に不利なのだ。
いくら身体を鍛えても、全力で振るえなければ意味が無い。
オトモはしまった、と思った。
気付かれてしまったか、自分の弱点に。
ジャギノスは動かない、不気味にこちらを観察し機を待っていた。
32 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:42:11 ID:spErNWocO
(;*゚∀゚)(……こうなったらやるしなにゃいニャ。長期戦に持ち込まれればこちらが不利ニャ!)
だからこそ猪突猛進にオトモは突っ込んだ。
何かがある事など、百も承知。 それでも活路がそこにしかないのならば往かねばならぬ。
(#*゚∀゚)「ニャアアアァァァアアアアア!!!!!!!!!!」
身体を出来る限り捻り、遠心力を加えて繰り出したこの凪ぎ払い。
耐えられるものならば耐えてみろ、と。
(#*゚∀゚)「捉えたニャ!!!!」
手応えがあった。目の前のジャギノスの首元に、合戦旗が突き刺さった。
流石にプロのハンターのように、首を捻斬る事は出来ないが
確かにジャギノスを捉えた。
(;*゚∀゚)「ニャッ!?」
しかしジャギノスは嗤っていた。
首に剣を突き立てられ、絶命寸前の身体で嗤っていた。
『“オレ達”の勝ちだ』と。
33 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:43:29 ID:spErNWocO
頭で認識するより前に、身体が反応していた。
もう一匹のジャギノスの鋭すぎる一撃が自分に迫っている事を。
これは躱せない。
頼みの綱の合戦旗も、ジャギノスの太い首に刺さったまま簡単には抜けそうにない。
もう終わりか、そうオトモは思った。
『残念、最後に勝つのは俺達だ』
(;*゚∀゚)「ニャッ!?」
34 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:47:22 ID:spErNWocO
それはなんて事のない、ただの体当たりだった。
しかし、オトモに向けて勝利を確信した一撃を繰り出そうとしているジャギノスにとって
それは痛恨の一撃と言える。
それだけでジャギノスの身体はよろけさせられた。
不意討ち中の不意討ちだった。
オトモが素早く突き刺さっていた合戦旗を引き抜いてジャギノスに突き立てた。
35 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:48:52 ID:spErNWocO
('A`)「ふぅー、危ない所だったな」
(#*゚∀゚)「危ないのはどっちだニャ!一般人が装備も無しにジャギノスに突っ込むだなんて正気の沙汰とは思えないニャ!!! それにオレっちは装備もしてるし一発殴られた所でどうにもならなかったニャ!!!!」
結果的にオトモは大変ご立腹だった。
確かに、この男に助けられはしたがやはり生身の人間がモンスターに突っ込むなんで頭がおかしい。
それに絶妙なタイミングで、ジャギノスの死角となる角度から。
一歩間違えれば死に繋がる危険な行動だったが
結果を見れば最良の判断だった。
それはオトモ自身も解っている。
だが、何故か釈然としない。
心がムズムズするのを感じていた。
('A`)「まぁいいさ。とりあえず俺達は無事だったんだから。 もうすぐこのエリアも出られる。説教はその時にでも聞くよ」
そう事もなげに言うドクオに対し、やはりオトモは心中穏やかではなかった。
36 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:50:05 ID:spErNWocO 自分の力だけで勝ちたかった。
いや、あの一撃を食らっていたとしても勝てたと思う。
(*゚∀゚)「にゃー、まぁ良いニャ。ユクモ村についたら温泉に入りながら説教だニャ」
場の空気が弛緩した。 一応オトモも納得したらしい。
余りに早すぎる緩み、二人は気付いていない。
ずっと二人を見つめていた青い影に。
それが今、自分達に迫っている事に。
大型モンスターの存在に気付くのは簡単だ。
彼らには隠そうとしても隠せない、圧倒的な威圧感があるのだから。
しかし、彼らにとって気配を気取られる事は、さして大きな問題ではない。
悟られたところで、そんな物は踏み潰せば良い。
それだけの力が、彼らにはあるのだから。
だから今、一人と一匹は気が付いた。
自分達に向けて飛び掛かってくる青い影。
青熊獣【アオアシラ】の存在に。
37 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:50:40 ID:spErNWocO
嘶き声が、渓流に響き渡る。
アオアシラが、ただ吠えたのだ。
低く野太い声だった。
(;*゚∀゚)「さっ、さいあくだニャ……」
呆然としているオトモを抱き抱え、迅速に行動を取ったのはドクオだった。
腰に提げていたポーチから先日採集していたハチミツのビンを蓋を上げて、あらぬ方向に放った。
アオアシラが、そのハチミツに気を取られた間にドクオはオトモを抱え走った。
38 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:51:23 ID:spErNWocO
半時間ほど走った所で、先程の
エリアを抜けると、小さな掘っ建て小屋があり、そこで一息付いた。
('A`)「なるほどね、あれがアオアシラか」
(*゚∀゚)「弱ったニャ。もう少しでベースキャンブに着くのに」
('A`)「ベースキャンブまで走ったらどうだ?」
(*゚∀゚)「それは無理だニャ。アオアシラが走れば時速60km。人間のおまえ様ではどうしても追い付かれてしまうのニャ。 それにオレっちだってスピードには自信があるけど、体力はからっきしなのニャ」
アオアシラとの邂逅を避ける事は絶望的だった。
何故ならアオアシラは知ってしまったからだ。
あの人間はハチミツを持っていると。
まだ隠し持っているかもしれない。
だから奴は追い掛けてくるのだ。
(*゚∀゚)「……やっぱりオレっちが奴を引き付けるしかないのニャ」
提案したのはオトモだった。
39 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:52:14 ID:spErNWocO
('A`)「俺は別に良いが、勝算はあるのか?」
(*゚∀゚)「にゃに、別に勝たなくても良いニャー。足止めをして、そこから逃げられれば良いのニャ」
('A`)「なるほど。俺はその間に逃げればいいって事か」
(*゚∀゚)「ニャ!出来るだけ時間を稼ぐニャ」
('A`)「……分かった。でも無理はしないで良い」
(*゚―゚)「……当たり前だニャ」
('A`)「………」
アオアシラとは、牙獣種に分類される別名【青熊獣】。鋭い爪と強靭な手足を持ち四足でも二足でも歩くことが出来る。
また前足に付いている椀甲は堅く、鋭い。
この前足がアオアシラにとっての武器であり、ハンターにとっての脅威でもある。
村人達にとって、アオアシラは馴染み深いモンスターでもあり、時々人里に現われては好物であるハチミツを取りにくる。
村人達がハチミツを採集する際には、音爆弾などを使いアオアシラと遭遇しないようにしている。
体長は大きい物では5m近く 昔、腹を空かせたアオアシラがある村に紛れ込み子供、妊婦を含む6人を食い殺すという悲惨な事件があった。
40 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:52:52 ID:spErNWocO
(*゚∀゚)「……ニャ。昔はご主人について飛竜を狩りに行ってたのにニャ」
今では、アオアシラですら脅威に感じる。
オトモは溜め息を一つ吐いた。
(*゚∀゚)「足を引っ張るのは……ごめんだニャ」
目の前には大きな、自分の三倍以上の大きさがある、ヤツがいた。
(*゚∀゚)「とりあえず、ゆっくり温泉に浸かるためにもこんなところではやられないニャ」
手始めにブーメランを投げつける。
10m先にいたアオアシラに、それは弧を描いて命中するが、ただそれだけだった。
(;*゚∀゚)「ニャー、やっぱり打撃でやり合うしかないニャ」
そうと決まれば走り回る。自分の特性を存分に生かして。
戦いに勝つ為には二つのやり方がある。
一つは、今行っている様に自分の強みを全面に押し出して勝つ方法。
もう一つは、相手の良さを徹底的に潰して競り勝つ方法。
前者は短期戦向き、後者は長期戦向き。
自分は体力的にも前者を選ばざろうを得ない。
41 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:55:38 ID:spErNWocO
自分のすぐ横を、アオアシラの腕甲が掠める。
やはりジャギノスとは違う。
慣れているのだ、自分より素早い物との戦闘に。
しかしスピードで勝っているのは純然たる事実。
そしてもう一つ。
自分がヤツより勝っている点がある。
それこそが切り札。
オトモ特有の隠し玉だ。
勝負はアオアシラが疲れるまで。
自分が動けなくなるのが先か、アオアシラが動けなくなるのが先か。
それが自分の作戦の成否の分かれ目だった。
42 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:56:03 ID:spErNWocO
ドクオは自分の荷物を抱えぽつぽつと歩いていた。
('A`)「………」
やはり気になるのは、あのオトモ。
ギルド所属とはいえ、あそこまで人間に尽くす事が出来る気概。
それが不思議だった。
それにあの身のこなし。
確かに素早い。“あの程度”のモンスターから逃げる事は容易いだろう。
しかし、あの別れ際の表情。とてつもなく不安気なあの表情を思い出してしまうと。
('A`)「はぁ……めんどくせ」
ドクオは鞄にしまっていた一対の剣を取り出した。
そして、そうこれは比喩ではなく、疾風のスピードで元来た道を駆け戻って行った。
43 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:56:42 ID:spErNWocO
(;*ー∀ー)「ぜぇ……ぜぇ……」
(;*゚∀゚)(息を吐くのが苦しい、息を吸うのはもっと苦しいニャ。
でも諦めるわけにはいかにゃいニャ。苦しいのは自分だけじゃないはずニャ。
奴だって苦しいんだニャ)
自分を叱咤し続ける。
気持ちが折れたら終わりだ。それが最悪だと、このオトモは本能で悟っていた。
(*゚∀゚)「!!」
オトモが目を見開いた。
アオアシラの口から汚らしく垂れ下がった舌。
そこから溢れ出る涎。
千載一遇のチャンスだった。
(#*゚∀゚)「ニャアアアァァァアアアアア!!!!!!!!!!」
渾身の一撃を咆哮の元に繰り出す。
ここで決める、ここで決めなきゃもう打つ手はなかった。
一瞬だけ、アオアシラが怯んだ。本当に一瞬だったが、オトモにとっては充分だった。
それがある場所へと急ぐ。
44 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:57:25 ID:spErNWocO
アオアシラは、突然戦意を失い背を向け逃げ出したオトモに驚いた様子だったがすぐに本能のまま追撃を開始した。
それこそが切り札の発動条件。
ジリ貧の状況を打開し得る、アオアシラに優るオトモの能力。
悲鳴が上がる。オトモの物ではなく、間違いなくアオアシラの物だった。
―――シビレ罠
数百匹の雷光虫を使って作られた、モンスター用の拘束具。
設置に時間が掛かるため、待ち伏せにしか使えないが、効果は絶大だった。
(;*゚∀゚)「ニャー、やったのかニャ?」
アオアシラは、全身が痺れ痙攣して動かない。
(*゚∀゚)「ニャ!やったのニャー!!!!」
これこそがオトモ特有のスキル。
知能の高いアイルーのみが使える武器。
オトモは心底安堵していた。自分でも誰かを護る事が出来るという事に、心の底から喜びを爆発させた。
45 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:58:07 ID:spErNWocO
(*゚∀゚)「ん、今にゃにか聞こえなかったかにゃ?」
例えるなら小タル爆弾が破ぜたような音だ。
(;*゚∀゚)「にゃにゃにゃ、にゃんで!?」
ダメージの蓄積が少なすぎたのか、それでもこれは早すぎる。
自分の予想では、疲れたアオアシラがシビレ罠から抜け出すのには30秒以上かかると見ていた。
その間に自分は地面に潜り身を潜めるつもりだったのに。
目の前には怒りに満ちた青熊獣の前足が迫っていた。
重すぎる一撃、これを食らえばアイルーのような小型種は上半身を原形留めず、グチャグチャにされてしまうであろう。
最後にオトモの頭を過ったのは思い出。
優しかった主人との思い出。
(*;∀;)「やだ、ツーはまだ……たすけて……」
46 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:59:05 ID:spErNWocO
炎が。恐ろしい一撃から、ツーの身を包み込む、堅牢な火が上がった。
何時まで経っても、衝撃が来ず恐る恐るツーは目を開けた。
('A`)「よぉ、危ないところだったな」
そこには、先程まで一緒に居た旅人が居た。
ツーを護るように、アオアシラとツーの間に割って入り、アオアシラの一撃を左手一本で防いでいた。
(*ノ∀;)「どっ、どうして戻ってきたのにゃ?」
('A`)「……ん」
ドクオは、バツが悪そうに頬を掻く。どうやら特に理由は考えてなかったらしい。
('A`)「お前の名前を聞き忘れてたのを思い出してな。折角助けてもらった恩人に失礼な事をしたと思って」
(*ノ∀;)「にゃ……」
('A`)「俺はドクオって言うんだ。ドンドルマでハンターをしていた。
お前の名は?忠義者のオトモさん」
(*゚∀゚)「!!」
47 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 00:59:59 ID:spErNWocO ドクオは、抑えていたアオアシラの前腕を少しずつ力を加える事で横に逸らしていった。
そしてドクオの力点とアオアシラの作用点が入れ替わる瞬間に
(;*゚∀゚)「!!」
ツーは目を見張った。
あのアオアシラに、純粋な力勝負を挑み、押し返した驚くべき事実に。 しかしそれだけではない。 押す側、押し返す側が互いに入れ替わる瞬間に、ドクオはアオアシラの尖爪を一枚剥いだのだ。
これには堪らずアオアシラも悲鳴を上げる。
爪を剥がれた位ならば大丈夫、また生え変わる。
何枚剥がれたところで、何日かすれば新しい物が生えてくるのだから。
しかし、それだけでは無かった。
アオアシラは、自分の肌と爪の間に焼けるような痛みを感じたのだ。
あの小さな刀だ、とアオアシラは気付いた。
あのまばゆい程に輝く、金と銀の剣。
そしてあの人間は脅威。自分を脅かす存在。
さっきのアイルーなどとは次元が違う何かがある。
一度離れよう、距離を取って機を待つ。
なに、たかだか人間一人。自分のこの牙で、爪で、一撫ででもしれやれば呆気なく倒れるはずだ。
48 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 01:00:59 ID:spErNWocO
しかし、その発想が間違い。墓穴。野性に生きる怪物が絶対にしてはいけない思考。
('A`)「………」
一方ドクオは、ここに来ても冷静だった。 アオアシラが三歩下がるのを見て、自分も一歩下がった。
(*゚∀゚)「……あんた様、ハンターだったんだニャー」
('A`)「まぁな。でも今は旅人だ。ドンドルマのギルドは抜けたからな」
それ以上ツーは何も尋ねなかった。ハンターがギルドを抜けるにはそれ相応の覚悟と血が必要だと知っていたからだ。
('A`)「……すまなかったな」
(;*゚∀゚)「ニャッ!? にゃにを謝る事があるのニャッ!?」
ドクオは言いづらそうに頬を掻く。
('A`)「……お前の心意気を無駄にしてしまった。 お前の職務の全うを邪魔した。済まないと思っている」
(*゚∀゚)「………」
49 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 01:01:44 ID:spErNWocO
ツーは驚いていた。
オトモとは、主人の為に生き、主人の為に死ぬもの。 これは残酷な事ではなく、オトモにとってそれが唯一無二の幸せなのだ。
だからこそ、ハンターはオトモに謝らない。
しかし、このハンターはツーに謝ったのだ。
('A`)「その代わり、コイツは任せろ」
そう言うと、ドクオはツーの頭を一撫でして地面に降ろした。
('A`)「……この青熊に教えてやるよ。どっちが“狩られる”側かをな」
少し離れた場所から、様子を窺っていたアオアシラが、大きく体を広げる。
腕を左右に目一杯延ばし、鋭く尖った牙を剥き出しにする。
アオアシラの精一杯の威嚇だった。
50 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 01:02:27 ID:spErNWocO
(;*゚∀゚)「まっ、待つのニャッ!!あんた様は防具も着ないで平気なのかニャッ!?」
('A`)「へーきだよ。 当たらなければ、どうという事はないからな。 それに“もう覚えた”からな」
ドクオは軽くステップを踏む。前のめりに一歩、大きな歩幅でアオアシラに近付いた。
アオアシラも威嚇の体勢から、そのまま両腕を振り下ろす。
ドクオの武器は双剣。決して大きな武器ではない。
しかし双剣は、その圧倒的な手数と、小ささ故の軽さを生かした身のこなしが特長の武器。
だからこそドクオは前に進む。
斜めに跳んで軽くそれを回避。透かさず自分の得物の距離まで詰め寄る。
しかし、アオアシラも負けてはいない。
その巨体からは想像出来ぬ反応を見せ、返す左腕でドクオを狙う。
そして接触。
鍔迫り合いとなる両者。
火花が散る一人と一匹の接触点。
(*゚∀゚)(……さっきの攻防と全く同じだニャ)
51 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 01:03:20 ID:spErNWocO
そして、ぶつかった者同士の実力が変わらないのなら。
Gyaaaaaaaaaaaaa!!!!!!
また悲鳴が上がる。
('A`)「二つ目だ」
そう言って、ドクオは空中に弾け飛んだアオアシラの尖爪を掴みツーの方に投げる。
(;*゚∀゚)(……さっきのアレは狙ってやってたとでも言うのかニャ!?)
驚くべき事だ。普通狩人は獲物から素材を剥ぎ取る時、必ずとどめを刺してから行う。
それには、貴重な素材に傷を付けてはいけないという理由もあるのだが
それ以上に、生きているモンスターから剥ぎ取るというのは至難の技なのだ。
それが正常だ。
しかし、ドクオは
('A`)「はい、四つ目」
それを平然と行っている。 普段のあの覇気の無い目で、淡々と。
52 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 01:04:08 ID:spErNWocO
五つ目の爪が剥がれた所で、アオアシラは気付いた。
このままでは自分は、人間如きに倒される、という事実に。
だから変化を付けた。
奴は油断しているはずだ。そこを突く。
六度目の衝突、アオアシラの右腕は難なくドクオに抑えられる。
ここからが勝負。
今度は返す腕でヤツを狙うのではなく、そのまま掴みにいった。
('A`)「!?」
(;*゚∀゚)「あぶにゃいニャッ!!!!!」
取った、これは逃げられない。
アオアシラの口角が釣り上がった。
よくも人間如きが、ここまで自分を痛め付けてくれた、と。
―――しかし、これで終わりだ
53 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 01:04:45 ID:spErNWocO
アオアシラは大きく口を開けドクオに迫る。
アオアシラの咬噛力を以てすれば、人間の身体など容易く裂ける。
オトモは目を瞑った。
自分の恩人がアオアシラに噛み殺される所なんて、見たく無かった。
「なんだ、牙もくれるのか?」
54 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 01:05:23 ID:spErNWocO
(*゚∀゚)「!!」
突っ伏し、余りの激痛に手足をばたつかせるアオアシラ。
('A`)「こっちは初めてだったな」
そういって顔色を全く変えずに、ドクオは何かをまた投げてきた。
それはアオアシラの尖牙だった。
('A`)「………」
(*゚∀゚)「……すごいのニャ」
あの細身の腕で、アオアシラの一撃を受け止め 剰えその爪と牙を剥ぎ取る実力。
この男は一体何者なんだろう。
一方アオアシラにそんな余裕は無かった。
繰り出した渾身の一撃は、全て軽く往なされ 爪を五枚、牙を一本持っていかれた。
勝てない。自分では、この人間に勝てない。
負ける。それは等しく“死”なのだ。
55 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 01:05:55 ID:spErNWocO
途端にアオアシラの本能が命令した。
逃げろ、と。
もう満身創痍のアオアシラにとって、あの人間から逃げるのは困難だ。
しかし、なによりも優先されるのが本能。
アオアシラは遂に逃げ出した。
人間如きに。アオアシラは後ろから迫ってくるであろう恐怖に、度々振り返りながら、全力で逃げ出した。
恐怖は、いつまでもやって来なかった。
56 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 01:07:05 ID:spErNWocO
(*゚∀゚)「もうすぐユクモ村だニャッ!!急ぐんだニャッ!!」
('A`)「どうした?いきなり元気になって」
(*゚∀゚)「あんた様がハンターと分かった以上、怖がる必要はないニャ。それにアオアシラが逃げて行ったから、もうこの渓流に脅威はいないニャ」
そうか、と少し笑ってドクオは頬を掻いた。
それにしても
(*ー∀ー)ノホホン
('A`)「なんでお前は、俺の頭の上に乗ってるんだ?」
(*ー∀ー)ノ「疲れたのニャ」
('A`) 「……まぁ良いけど」
ドクオの頭に『我ここに居場所を見たり』と、居座るツー。
('A`)「お」
暫く歩くと、灯りが見えた。
57 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 01:07:50 ID:spErNWocO
(*゚∀゚)「着いたのニャ、あれがユクモ村だニャ」
('A`)「へー、あれが」
今のユクモ村は祭りの真っ最中。
雷光虫と草食獣の骨で作られた提灯が並べられ、光の道が出来ている。
(*゚∀゚)「あんた様、村に着いたらどうするのかニャ?」
('A`)「まずここのギルドマスターに挨拶だな。 そこからは暫くユクモに世話になるつもりだから、宿も探さないと」
ツーに尋ねられて応えたものの、ツーは不服そうな目をドクオに向けた。
('A`)「……どうした?」
(*゚―゚)「……湯浴みニャ」
あぁ、とドクオは得心いった。
('A`)「俺の事は良い、村に入ればギルドの場所くらい探せるさ。酔っ払った屈強な男が集まってる所を探せば良いだけだ。
お前は先に湯浴みに行けば良いさ」
返ってきたのは、鋭い爪だった。
58 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 01:08:25 ID:spErNWocO
(;メA`)「いってえぇぇええ!!!」
(#*゚∀゚)「ふん、自業自得だニャ。 オレっちがギルドマスターの所に案内してやるから、その後、一緒に入りに行くニャ」
('A`)「ん、ああ。別にそれで構わない」
(*゚∀゚)「にゃははー♪」
その後は、賑やかな祭り囃子に誘われてツーと一緒にこの祭を見物するのも悪く無い。
ドクオはそう思った。
To be Continue……
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