('A`)ドクオと飛竜と時々オトモのようです2−1 1話最初へ] 戻る [次のページへ
76 :再開します:2011/03/17(木) 17:59:43 ID:spErNWocO
【ハンター】

●('A`) ドクオ=ウェイツー
人間
26歳 【称号:???】
所属猟団:無所属
使用武器:???(双剣)
防具:???
現在地:ユクモ村


【オトモ】

●(*゚∀゚) ツー
獣人族(アイルー)
?歳 【称号:???】
使用武器:【旗本】ネコ合戦旗(剣斧)
兜:旗本ネコ【陣笠】覇
鎧:旗本ネコ【胴当て】覇現在地:ユクモ村


77 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:01:16 ID:spErNWocO

伝説というのは、その地域の特色を推し量る上で、このうえない物差しとなる。

その地域に根付いた文化、信仰によって形成された伝説。

例えば、ドンドルマにはこの様な伝説がある。

曰く、海を渡る山。

曰く、全てを呑む山。

最古龍と呼ばれる竜の記述。この記述は、実に的確に最古龍を表した言葉である。
古龍観測所に残されていた記録は、これだけだった。この事実から、如何に最古龍が謎に包まれているのかが、推察出来るだろう。


そして、この地【ユクモ】にもこのような伝説が存在する。


78 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:02:07 ID:spErNWocO

狩人達よ、喜ぼう
この出会いに歓喜しよう
稲光が辺りを照らし
例えその身が焼け落ちようとも
偉大な瞬間に立ち会えた
           それこそが最上の喜びである

―――とある狩人の手記 作者不明―――


79 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:04:08 ID:spErNWocO

賑やかな祭り囃子に、誰もが心躍らせる。辺りを見渡すと、アイルーやメラルーのお面を被った子供達がはしゃぎ回っている。

('A`)「どこでも、子供達は変わらないな」

ドンドルマにも祭りはあった。

【狩人ノ宴】と言われるその祭りをドクオは思い出していた。

子供達は、ここぞとばかりに走り回り
大人達は、それを暖かい目で見守っている。

急に、鼻を刺激するような独特な匂いを感じ取った。    それは、温泉地であるユクモ特有の硫黄臭だった。


80 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:04:51 ID:spErNWocO
(*゚∀゚)「あんた様、あっちにユクモ自慢の温泉群があるニャー」

ツーは、短い尻尾を振って興奮した様子でドクオに話しかける。

('A`)「温泉はギルドマスターに挨拶してからだぞ。もう少し我慢してくれ」

(*゚∀゚)「……ニャー、わかってるニャ。ユクモギルドはすぐそこだニャ!」

駆け出すツーにドクオは溜め息を吐く。

('A`)「……まったく」


ユクモ村のギルドは、変わった佇まいをしていた。 傍から見れば、銭湯にしか見えない。

ドンドルマのギルドと比べると、大きさだけでもかなりの違いがある。

(*゚∀゚)「ニャー!帰ったニャー!!」

元気一杯のツーの挨拶に祭りの進行で、てんてこ舞いしていたハンターやオトモ達が、手を止めて『おかえりニャー』や『遅かったのね』等と挨拶を返した。


81 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:05:20 ID:spErNWocO
('A`)「………」

ドクオは、想像以上に騒がしいギルドに目も向けず
ギルドの端の、とある場所に向かって歩いた。

その周辺には大量の酒ビンが転がっており、足の踏み場もない。

そしてその中心で寝転がる一人の竜人族。

('A`)「もし……」

/ ,' 3「うぃー、なんじゃいなー」

('A`)「ユクモのギルドマスターとお見受けしましたが、相違ありませんか?」

竜人族とは、人間より遥かに高い知識と寿命を持ち、アイルー達とはまた違った進化をした獣人族である。

ふぅむ、と竜人族の老人は顎髭を撫でながら男を観察する。

覇気のない目、細い手足、一見すれば、誰もこの男を狩人だとは思わないであろう。

しかし、竜人の目は誤魔化せない。

最低限まで絞られた身体。必要な箇所にしか付けられていない筋肉。

なるほど、と呟いた。


82 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:05:57 ID:spErNWocO
/ ,' 3「うぃー、よう来たのぉ、ドンドルマの英雄様よぉー」

('A`)「………」

気が付けば、あれだけ騒がしかったギルドは静まり返っていた。

見たことの無い風貌の男。一目でこの辺りの人間ではないと分かる。

そんな男が、自分達の主であるマスターと話している。
自然と二人の会話に、耳を傾けていた。


83 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:07:15 ID:spErNWocO
('A`)「……失礼ですが、俺は英雄などではありません」

/ ,' 3「ふぉほほ、そう謙遜召させるなー。ドンドルマのマスターとは義兄弟での。   チミの噂は耳にタコが出来るほど聞かされておるからのぉー」

('A`)「……あのクソじじいか」

ドクオは、眉間を押さえて呻く。しかし、その顔に嫌悪感はない。

『さて』、その一言で周囲を含む空気が一変した。

/ ,' 3「ドンドルマの英雄様が、こんなちっぽけなギルドになんの様かいな」

これが竜人の威圧感。

何百、何千という悠久の時を生きる竜人にしか醸し出せぬ空気。

しかし、それをドクオは軽く受け流す。

('A`)「まぁ、少し野暮用がありましてね。    しかし旅の途中で用意していた路銭も底をついて、今では明日の陽を見るのもままならぬ状況」

/ ,' 3「うぃー、そうそう回りくどい言い方をしなさんな。言えば良いじゃないか。『狩人』として雇ってほしい、となぁー」

やはり竜人の知能は、ヒトの及ぶところでは無かった。

全て、何もかも見通されている事に驚きを感じながらも、ドクオは平静を装って返す。

('A`)「奇遇ですね。ちょうど俺もそう言おうと思っていたんです」


84 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:07:56 ID:spErNWocO
ふぉほほ、と奇妙な笑い声をあげる竜人は

/ ,' 3「良いじゃろう。実力は折り紙付き、断る理由もなかろう。    優先的に上位の依頼を回す、それでも良いかの?」

と言った。

('A`)「是非もない」

/ ,' 3「ふぉほほ、ユクモ村へようこそ。英雄様」

それをお互いの了承と受け取り、ドクオは背を向けようとした。

空気が緩んだ、その瞬間だった。

('A`)「!!」

背中に当てられた瓢箪。これ以上緊縛する事の無いと思われた雰囲気が、まだ上昇した。


85 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:08:32 ID:spErNWocO
「ふぉほほ。そうそう、一つ聞き忘れておったわ」

「先程、数匹のジャギィとジャギノス。そして繁殖期に入ったアオアシラが、狩人らしき人物と交戦していたという連絡がギルドに入った。    なんというかのぉ、ギルド直轄地でギルドに所属していないハンターがモンスターを狩れば、それは“密猟”なんじゃよ」

('A`)「………」

ドクオは答えない。

それはドクオも重々承知していた、古来から続く狩人のしきたりだからだ。

見れば、今まで静観を決めていたギルドナイト達が各々の武器を構え、ドクオに向けて突き出していた。

('A`)「……なるほど」

/ ,' 3「余り手荒な事はしたくなかったんじゃがのぉー。しかし、その密猟を行ったのがお主だったら……」








/ ,' 3「儂はのぉ、英雄様。チミを拘束せねばならんのじゃ」


86 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:09:15 ID:spErNWocO
これを見ていたギルドのオトモ、ツーは堪らず飛び出した。

(;*゚∀゚)「じじい!!どうしてこんな真似をするのニャー!?」

/ ,' 3「ツー、これは護らねばならぬしきたりなんじゃ。これには如何に優れた者であろうと、如何に権力を持った者であろうとも逆らってはならぬ」

ギルドには、唯一絶対の掟がある。

『ギルドの依頼外で狩猟をしてはならない』

これは単独で、無謀な狩りを行おうとする馬鹿者を守る為の物でもあり

また同時に、ハンターによる乱獲からモンスターを守る為の物でもある。

('A`)「……良い、ツー。下がっていてくれ」

(;*゚∀゚)「ニャッ!?でも……」

大丈夫だから、とドクオは安心させるようにツーの頭を撫でた。

('A`)「マスター」

/ ,' 3「………」

('A`)「その目撃者が見た男は、間違いなく俺だ。それに対して言い訳するつもりは無い」

静寂の中、ドクオの声が淡々と紡がれる。


87 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:09:55 ID:spErNWocO
('A`)「しかし、ジャギィ達を討伐したのはこのオトモだ。俺じゃない」

/ ,' 3「……ほぉ。間違いないのか、ツー」

(*゚∀゚)「そうだニャー!オレっちが狩ったのニャー!!!」

('A`)「それに、アオアシラだったか?あれと戦ったのは確かに俺だが、討伐してはいない。
撃退しただけだ」

『嘘だッ!!!繁殖期に入ったアオアシラを討伐しないで退けるなんて!!』

大剣を構えていた青年が、叫んだ。
ギルドマスターはそれを目だけで制す。

しかし、この青年が言うのも最もだった。繁殖期に入ったモンスターは退く事をしない。したがらない。   もしそのままハンターに後を付けられ、巣にまで来られてしまえば、種の全滅すらあり得るからだ。

/ ,' 3「ツー、本当かのぉ?」

(*゚∀゚)「……確かに討伐してないニャー。ドクオと暫く戦ってから、足を引きずりながら北に逃げて行ったニャー」

ふぉほほ、とまたギルドマスターは笑った。

/ ,' 3「相分かった!戟を収めよ、子供達よ!!」

その言葉に、ツーは溜め息を吐いた。


88 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:10:47 ID:spErNWocO
/ ,' 3「……済まなかったのぉ、チミ。儂の勘違いだったようだのぉ」

('A`)「いや、こちらこそ申し訳ない。これは一番最初に俺から伝えるべき事でした」

大剣や太刀を向けられても、この男は全く顔色を変えなかった。

/ ,' 3(……やはり、この小僧。思った以上に図太い)

('A`)「じゃあ今度こそ失礼させて頂く。ツーとユクモの湯に浸かる約束もあるので」

何が嬉しかったのか、ドクオには分からなかったが。マスターは、それを聞くと盛大に笑いだした。

/ ,' 3「ふぉほほ、ツーとか?それはそれは、なんと喜ばしい事かな」

('A`)「……?」

ひとしきり笑った後、一度咳払いをして場を取り直した。

/ ,' 3「失礼したのぉー、少し嬉しかったのでのぉー」

('A`)「……はぁ」

/ ,' 3「チミは気にする必要の無いことじゃ。一人に案内をさせるから、チミは先に温泉で待ってるといいぞい。   ツー、ちゃんと報告していきなさい。ドクオくんとの湯浴みはそれからじゃ」

ニャー、と膨れっ面をするツー。


89 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:12:05 ID:spErNWocO
(*゚∀゚)「ニャー、仕方ないニャー。ドクオ、先に行ってて欲しいニャー。後で追いかけるニャッ!」

分かった、とだけ呟いてドクオはギルドを退出しようとする。

/ ,' 3「そうじゃ、チミ。もう一つ言い忘れておったわい」

その言葉にドクオは再び足を止める。

/ ,' 3「儂の名は、スカルチノフ。スカルチノフ=アラマキじゃ。ユクモの地を司る、ギルドマスター」

ドクオは、身体を返して真っ直ぐギルドマスター、スカルチノフを見た。

/ ,' 3「良い狩りを……」


('A`)「有り難く」

ドクオが歩く度に道が出来る。扉の手前にさしかかった時、今度はドクオがスカルチノフに言った、

('A`)「そうそう、ただの威嚇にしても弾は込めておいた方が良いと思いますよ。
大人しく引き下がる奴ばかりでは無いですからね」


/ ,' 3「………」


今度こそ、ドクオは背を向けギルドを出た。


90 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:13:29 ID:spErNWocO
『良いのですか?あの人を狩人として雇って』

/ ,' 3「ふぉほほ、良いに決まっとるじゃろうがぁ。チミには分からんだろうがなぁー」

『確かに。私には、あの男が優れた狩人に見えないです』

/ ,' 3「そういう次元にいる人間じゃないのじゃー。チミも覚えておくと良いのぉー」

『はい、マスター』

あの青年は、自分の瓢箪に弾が込められていないのを一瞬で見抜いた。

いや、恐らくあれは嗅ぎ取ったのだろう。
ボウガンを構えれば、微かに漂うはずの火薬の匂い。その有無を一瞬で見抜き
そして、その判断に絶対の自信を持っていた。





/ ,' 3「……“G級”は伊達ではない、という事かの」


91 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:14:22 ID:spErNWocO
/ ,' 3「彼には、とりあえずこの地方に住む竜を当てごうてやれ」

そうじゃ、と思い出したようにスカルチノフは従者である狩人に尋ねた。

/ ,' 3「それと、あの娘の様子はどうかのぉ?」

『はっ、あの娘というのはツー様の事ですか?  それとも監視にやったデレの方ですか?』

ふぉほほ、とまた愉快そうに笑って言う。

/ ,' 3「デレの方じゃー、あの娘はあの娘で難儀な性格をしとるからのぉー。  彼がどのように対応するのか楽しみじゃてー」

『……私には考えの及ぶ範疇ではありません』

アラマキは、そういって顔を顰める従者を見て人懐っこそうな笑顔を見せる。

/ ,' 3「狩りは、単純な物ではない。強者=勝者にはならんのじゃ。
如何に聡明な狩人であろうと、一人で出来る事には限界がある。   さぁ、どう立ち回る、英雄様よぉ」

それだけ言うと、また笑って手にしていた盃を一気に傾けた。


92 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:15:27 ID:spErNWocO

ドクオは困惑していた。
確かに、アラマキは案内を付けると言った。
しかし、自分の三歩後ろからついてくる影。

ζ(゚ー゚*ζ「………」

あれはもう案内ではなく尾行、もしくはそれに準ずる何か、ではないだろうか。

しかし、特に何も言う様子がないのでドクオも何も言わない。
温泉の場所は、ツーに教えてもらっていたので、特に迷う事もない。

道順を覚えるのも、狩猟生活で培われる技能の一つだ。

何も喋らない案内人は黙って自分の後ろを付いてくる。

('A`)(いつまで付いてくるんだろうか)

不意に頭に衝撃が走る。

(*゚∀゚)「どっくおー!!!!!」

発生源はオトモアイルー、ツーだった。

そしてさも当然のように、ドクオの頭に乗っかる。  ツーのゆったりとリラックスした顔を見るに、お気に入りの場所になったのだろう。

(*ー∀ー)ノホホーン


93 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:16:22 ID:spErNWocO

しかし、この行動に周辺にいた村人が驚きの声をあげる。

『おい!あのツー様が人に懐いているぞ!』

『なんと!?しかし、見たことの無い顔じゃな』

周囲の喧騒に、驚くドクオ。
この様子のどこが珍しいのだろうか、と首を傾げる。しかし、当のツーは

(*ー∀ー)「気にしなくていい良いニャー」と、周囲の反応もどこ吹く風と、ドクオの髪を弄って遊んでいる。

ユクモの温泉には不思議な力がある。 これは、ドンドルマ地方特有の『ネコ飯』と似ている部分がある。  狩人にもたらす、不思議な効能。

入った後は身体が軽く感じ、いつもより長く、そして早く、狩場を走る事が出来る。

この温泉の湯こそが、ユクモにギルドが作られた由縁であり、始まりと言える。


94 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:17:20 ID:spErNWocO

次の日、一夜を銭湯に併設されていた宿場で過ごしたドクオは、ギルドに向かった。

朝一番で、依頼したいクエストがあるとの連絡を受けたのだ。

('A`)「昨日、ギルドに所属願いを出していたドクオなんだが」

ミセ*゚ー゚)リ「はい、連絡を貰っていますよ。ギルドカードをお渡しするので少々お待ち下さいねっ!」

クセっ気のある髪をした、ハキハキとした女性が応対してくれた。

ミセ;*゚ー゚)リ「あれ?なんで?どうして……」

しかし、何かトラブルがあったようだ。
ギルドカードに何かしらの不具合があったのだろうか。

ミセ;*゚ー゚)リ「すいません!手違いで、ドクオさんのHRが6になっているんですよ!」

HRというのは、ギルドに所属するハンターの力量を表す、一つの物差しだ。

1〜6までの段階があり、小型モンスターや採集などのクエストを扱うHR1、HR2。

大量の小型モンスター、中型モンスターを相手にするHR3。

中型モンスター、時には飛竜種の狩猟の依頼を受けるHR4。

一般的にHRを一つ上げるには三年程掛かる、と言われている。 それに加え、ある程度の数のクエストをこなした実績。そしてギルドから依頼される緊急クエストを成功させて初めて昇級出来るのである。


95 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:18:03 ID:spErNWocO
それがHR6になっているのだ。

初めてギルドカードを作った新米ハンターがHR6という事は有り得ない。

普通は。

('A`)「……竜人ってのは皆こうなのか」

思い浮べるのは二人の竜人。

('A`)「……良い、多分それであっていると思う。ありがとう」

ミセ;*゚ー゚)リ「えっ、あっ、本当ですか!?
じゃあ、これを……」

そのままギルドからの依頼が、貼られている掲示板に向かう。

ハチミツの採集や、特産キノコの納品など、多種多様な依頼が貼られている。

('A`)「お、こいつか」

HR2以上〜、と書かれた依頼票を引きちぎる。 そこには

『腕利きの狩人を募集。【毒怪竜】ギギネブラの狩猟』

と書かれていた。

('A`)「……なるほど。もうこれはマスターからの嫌がらせとしか思えないな」

いきなりの飛竜種。それも一度も目にしたことが無い名前だ。 ギギネブラ、狩人大全で調べないとな、とドクオは次の行動の指針を立てる。


96 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:18:44 ID:spErNWocO

『おい、テメェ!!その依頼はオレ達が先に受けたもんだぞ!ゴルァ』

('A`)「ん?」

(,,゚Д゚)「……テメェは、昨日うちのじじいとやりあってた野郎だな」

依頼被りか、とドクオは溜め息を吐く。 人の手によって依頼の受注が行われるギルドでは、依頼被りは珍しい事ではない。

しかし、難しいのはそれの解決。

狩人とは誇り高くあらねばならない。
村民を護る盾として、常に高みを目指す生き物だ。

だから退けなくなる。

お互いが譲らず、限りなく殺し合いに近い喧嘩になる事も多々あるのだ。


(,,゚Д゚)「勝負だゴルァ!!」


だから、その為にギルドは一つのルールを設けた。

【腕相撲】

腕相撲とは、ただ単純に腕力を競うだけの物にあらず。
筋力、関節の力、そしてお互いの駆け引きを競う物である。

('A`)「……良いだろう」


97 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:19:27 ID:spErNWocO
まだ祭りの興奮醒めやらぬのか、ギルドを出て広場に行くと沢山の人が集まっていた。

ユクモの祭りというのは、何日も通して行われる。その間は昼も夜も関係ない。真っ昼間から酒を飲み、踊りだすような人もいる。

祭りの祭壇の前に置かれた、一脚の机。

(,,゚Д゚)「公衆の面前で、恥を晒す覚悟は出来ているのか?」

捲られた袖から見える男の腕は、いかにも狩人らしい屈強な物だ。

('A`)「ほぉ、なかなか良い鍛え方をしているな。   服の上からでも良く分かる」

周囲が騒めきだした。

『なんだ!なんだ!!腕相撲かっ!?』

『新米ハンターと【荒鷲団】のギコ様がやり合うらしいぞ!』

('A`)「……ふぅ」

(,,゚Д゚)「何してるんだ、さっさと腕を出せ。それとも何か?   テメェ、怖じけづいたのか?」

いや、と小さくドクオは笑った。

('A`)「お前、大剣使いだな」

(,,゚Д゚)「!!」


98 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:20:15 ID:spErNWocO
大剣、人間の身の丈以上の大きさを持つ剣。
大剣で特筆されるのは、剣特有の切れ味ではなく、その重さ。

如何な狩人であろうとも、身体全体を使い力を込めねば振り回せない。

大剣は『断ち斬る』ではなく『捻斬る』。大剣の、その重さ故の威力。

ただ、常人がそれを振り回そうと思えば、逆に大剣に振り回される事になる。

いや、振り回す事すら出来ない。持ち上げる事も叶わないだろう。

それ程までに、『重い』のだ。

故に、均等に鍛え上げられたその腕の筋肉こそが【大剣使いである証】。

('A`)「さて、じゃあ始めようか」

ドクオの腕を見て、周りから失笑が漏れる。 対面に座るあの男、そいつの腕と比較すれば差は一目瞭然だった。

『あんな牛蒡のような腕で、ギコ様に勝てるものか』

『やっちまえー!ギコ様!!!』

(,,゚Д゚)「……」

無言で構える男。目はギラ付いていて、隆々とした筋肉は何時でも全力を発揮出来るように、筋が浮く程に力が込められている。


99 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:21:40 ID:spErNWocO

('A`)「ふぅ、周りも喧しいしさっさと終わらせよう。ほら、手首を出しな」

(,,゚Д゚)「!!!」

それはハンデだった。

(,,゚Д゚)「……ふざけやがって」

ドクオは手首を取ろうとしたのだが、男は迷わずドクオの手を払い掌を握ってきた。

('A`)「はぁ……。まぁ良い、じゃあ始めようか。   せめてお前から仕掛けて来い」

ドクオは周囲に聞こえぬ様に、呟く。

(,,゚Д゚)「テメェ……オレに気を遣ってるつもりか?」

もう言葉はいらなかった。お互いの顔が接触する程に近くで睨み合う。

(,,゚Д゚)「ぐぉ……!」

('A`)「……!」

ギコは力押しで、ドクオの腕を倒そうとする。  倒す、というよりも腕をへし折ろうとしている。

それをドクオは器用に肘の位置を変える事で受け流す。


100 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:23:06 ID:spErNWocO
(,,゚Д゚)「……テメェ、力を入れなきゃ勝てねぇぞ!」

('A`)「いや、どれ程の筋力があるのか興味があってな」

男の顔は真っ赤だった。一方ドクオの表情に変化は無い。

『嘘だろ!?腕相撲で負け無しのギコ様が押し切れてないぞ!』

('A`)「……なる程な。道理で腕っぷしに自信がある訳だ」

(#,,゚Д゚)「おう!オレの誇りだぞゴルァ!!」

('A`)「そうか、言うだけの事はあるな」

ギコの腕がミシミシと音を立てる。骨と骨を繋ぐ関節が軋む音。

('A`)「……俺も腕相撲に一家言あってな。お前ほど大したものじゃないが。    俺は『全戦勝敗つかず』なんだ」

(#,,゚Д゚)「!!   野郎、狙って引き分けにするつもりか!!」

ギコは、もう一度腕に全身の力を込める。  もう出し惜しみはしない。ドクオが勝敗を付けたがらないのなら、自分はただの一回に全力を込めれば良い。

(#,,゚Д゚)「グオォォォオオ!!!!」

(;'A`)「!?」

ドクオは、ここにきて初めて表情を引きつらせる。
やはり、今までのは全力ではなかった。

アオアシラと対面しても、一切表情を変えなかった男が、焦ったのだ。


101 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:23:42 ID:spErNWocO

('A`)「……!!」

一瞬、ドクオの身体が赤く光った。

(;,,゚Д゚)「……!?」

男の頭の中に大量に浮かぶ疑問符。
この赤く鈍い発光。
まさか、この男、全く本気を出していなかったのか。  自分の全身全霊を練り込んだ力に、ようやく本気を出す気になったというのか。

なんという規格外だ。

それで一気に気が抜けた。腕に力が入らなくなった。  ドクオも、それに気が付いたのか腕から少しずつ力を抜いていく。


('A`)「ふぅ」

(,, Д )「ハァ……ハァ……」

二人の腕は、どちらに傾く事もなく机の中心の定位置から少しも動いていなかった。


102 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:24:37 ID:spErNWocO

(;,,゚Д゚)「お前、まさか『うおぉぉおお!!!!!!!!』ん、なんだ?」

男の言葉に割り込んで歓声が上がった。

『なんて奴だ!アイツ、あのギコ様に引き分けやがったぞぉ!!!』

(,,゚Д゚)「……ったく、なんだってんだ。こいつら」

('A`)「ギルドがある村は大抵こんなもんだ。お祭り好きで、騒がしい、気持ちの良い人ばかりだ」

(,,゚Д゚)「……」

もう一度落ち着いて、ドクオの事を観察する。
見慣れぬ風貌、一目で、ユクモの出身でないと分かる。

活力のない目、こんな細い身体で自分を圧倒したというのか。

('A`)「……ドクオだ、これから宜しく頼む」

(,,゚Д゚)「ギコだ。ユクモギルド所属の猟団【荒鷲団】の首領を務めている。  お前は、この辺りの出身ではないのか?」

('A`)「あぁ、元々ドンドルマという地でハンターをしていたが   故あって昨日からこのユクモギルドに身を置かせて頂く事となった」

(,,゚Д゚)「そうか。ドンドルマから。  道理で見知った格好ではない訳だ」

気持ち良い男、だとドクオは思った。


103 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:25:36 ID:spErNWocO
先程のやりとり。自分にも礼を逸した所があった。

(,,゚Д゚)「このギルドの所属となったのなら、また共に狩りに出る事もあるだろう。  よろしく頼む」

手を差し出された。腕相撲の時とは違い、力よりも歓迎の暖かみを感じさせる。

('A`)「あぁ、良い狩りをしよう」

握手を交わした。

歓声が再び巻き起こる。

その歓声に掻き消されて、その後の二人のやりとりは誰にも聞き取れなかっただろう。

『さっきのはオレの負けだったぞゴルァ』

『……いや、俺も勝っちゃいないさ。あれは引き分けだったさ』

『……すまねぇ』

そして、周囲の人混みに紛れて見ていた二人。いや、一人と一匹がいた。


104 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:26:13 ID:spErNWocO

(;*゚∀゚)「相変わらずの無茶苦茶っぷりだニャー」

ζ(゚、゚*ζ「……凄い、あのギコさんと互角に渡り合うなんて」

(*゚∀゚)「ニャ、それで感想はどうだったかニャ?デレ」

デレと呼ばれた少女は、唇に手を当て少し間を取った。

ζ(゚、゚*ζ「……確かにあれなら足手まといになる事もないでしょうね」

そして、また別の所では

(;^ω^)「ちょっ、あの人、本当にギコさんと引き分けちゃったお!」

ξ゚听)ξ「全く、アイツ油断しすぎなのよ。最初から全力を出せば分からなかったと思うわ。   あんな細腕、私でもなんとかなったわ」

少し小太りで、柔和な表情をした青年と巻き毛で勝気そうな釣り目をした少女がいた。

(;^ω^)「マジかお?あのドクオって人に本気で勝てると思ってるのかお?」

ξ゚ー゚)ξ「ふんっ、勝てるに決まってるじゃない!!    ……私の代わりにブーンが」

( ^ω^)「完全に他人任せじゃねーか」



('A`)ドクオと飛竜と時々オトモのようです

  二話 五里霧中――凍土に蠢く白き闇――





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