('A`)ドクオと飛竜と時々オトモのようです2−2− 前のページへ] 戻る [3話へ
106 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:47:25 ID:spErNWocO

【間幕】


『マスター、彼は予定通り【毒怪竜】の討伐依頼を受注したようです』

/ ,' 3「ふぉほほ、それは何よりじゃ」

『しかしマスターも、お人が悪い。あれはギコが先に受注していたはずです。わざわざ揉めるように仕向けたとしか……』

老荘の男は、静かに片目を瞑った。

まるで、悪戯した子供が内緒にして欲しい、と合図するかの様に。

『……はぁ、やはりマスターの思惑でしたか』

/ ,' 3「はて?なんの事かのぉー」

『しかし、ギコと引き分けた事で、彼も村人や他の狩人達からある程度認められたようです』

ふぉほほ、それは重畳とアラマキは言う。

『では、私も依頼を受けたクエストがあるので失礼します』

そう言って従者は、静かに退出していった。

/ ,' 3「……引き分け、のぉ」


107 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:47:58 ID:spErNWocO
ハンターにとって“G”という称号は特別な意味を持つものである。  類い稀な才能と血の滲むような努力。それを以てして辿り着けない領域。

それが“G”を持つ意味である。


―――伝説の英雄 ロマネスク=フェイト―――


108 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:48:38 ID:spErNWocO

【毒怪竜】ギギネブラ

凍土に生息する飛竜種。目が退化しており、視覚ではなく温度で敵を追跡する。   形状はドンドルマ地方のフルフルの似通っているが、フルフルより少し扁平になっている。

骨格はティがレックスのように四足歩行。飛竜としては珍しく繁殖期が存在しない。

ギギネブラの生殖器官については、未だにはっきりとした事は分かっていない。。

頭部、腹部、尾に毒線を持っており腹の中にその毒を溜めておく袋を持っている。   その毒は、非常に強く、大型のモンスターでも一時間も待たずに意識混濁に陥る。

また怒りだすと変色し、肉質を変える。


凍土。何人の侵入を許さない極寒の土地。起伏に富んだ地面に、複雑に入り組んだ氷壁。

また、凍土にしか存在出来ない種も多く   ユクモギルドが管理する【渓流】【孤島】【水没林】等の比較的気候の安定した場所と比較すると

特殊な生態系を保っている。


109 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:49:33 ID:spErNWocO
AM7:30 Quest Start


(*゚∀゚)「ドクオー!ドクオー!ホットドリンクは飲んだかニャ??」

('A`)「あぁ」

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさん!解毒薬はお持ちですか?」

('A`)「……あぁ」

凍土を歩く三つの影。  黒い忍装束のような防具を着た男と、オレンジ色のカボチャのようなファンシーな装備を身に付けた女性。

二人ともその上から、ケルビの皮で作られたギルド公認のコートを着ていた。

その二人の後ろから、一匹のオトモが付いていく。

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさんの装備って、もしかしてナルガグルガの装備ですか?」

('A`)「あぁ、そうだが」

ζ(゚、゚*ζ「すごーい。やっぱりドクオさんって腕の良いハンターなんですね。  迅竜の装備なんて、並のハンターが身に付けられる物じゃないですよ」

【迅竜】ナルガクルガの貴重な素材を大量に使ったドクオの装備。

手鋼、腕鋼、胴当てなどの金属部は、身体を守るのに必要な最低限の部位にしか使用されていない。  迅竜という飛竜の特性を極限までに高める為に、削られた装甲。

そこから生み出される、疾風迅雷のスピードこそが、この防具の強みだ。


110 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:50:36 ID:spErNWocO

ζ(゚ー゚*ζ「でも、私の知っているナルガクルガの防具とは、少し違いますね。ドンドルマでは、そのような形状が一般的なんですか?」

('A`)「いや、俺のが少し違うだけだ」

正確に言うと、ドクオが身につけているのはナルガX。ナルガクルガの中でも“特異種”と呼ばれた存在。“疾風迅雷”の素材を用いて作られたG級とう称号を持った狩人にしか身に付けられない逸品である。

ζ(゚ー゚*ζ「へー」

しかし、デレは気が付かない。それは何もおかしい事ではない。

ユクモ地方には、未だ“G級”に分類されるモンスターが確認されていないからだ。

(*゚∀゚)「見えたニャ!あの洞窟だニャ!!」

オトモであるツーが、指指した先には洞窟があった。

('A`)「洞窟、か。また厄介な所にいるんだな。ギギネブラって奴は」

洞窟を住みかにするモンスターは少なくない。  しかし、如何に経験豊富な狩人であろうと、それは常に危険を孕む場所であるのだ。


111 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:51:08 ID:spErNWocO

まず問題となるのが視覚。洞窟の中では昼でも夜でも関係ない。

ただ暗闇があるだけなのだ。だから狩人は洞窟で狩りをしたがらない。

それはモンスター達にとっても同じである。しかし、それでも奴らは同じ土俵に立たない。

人間より遥かに優れた触覚と、聴力を持ってすれば、暗闇で動く人間など、手に取るように分かるのだ。


('A`)「ツー、準備をしといとくれ。俺達も出来る限り入り口付近に誘き寄せて戦うが、万が一という事態もあるからな」

(*゚∀゚)「ニャ!お任せニャ!!」

ドクオは、ツーに何かを頼むとツーは地面に潜り二人から離れていった。

('A`)「さて、俺達はこれからキャンプを張るぞ。出来るだけ高い場所で、歩いて辿り着けない場所が良いんだが……その辺りは君の方が詳しいだろ。  俺は、少しギギネブラという奴を見てこようと思う」

ζ(゚ー゚*ζ「了解でーす、テントの設営は任せてください!   それと、これ私のギルドカードです。色々と書いてあるので目を通しておいて下さい」

('A`)「分かった。では三時間後にここでな」

ζ(゚ー゚*ζ「はい!」


112 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:51:38 ID:spErNWocO
【間幕】

『姫さま、困ります!ギルドに内緒で凍土に赴いただけでも私の首が飛ぶ程の蛮行だというのに……』

o川*゚ー゚)o「別に付いてきて欲しいとは言ってませんわ」

凍土の一番奥、秘境と呼ばれる場所に二つの人影があった。

二人の関係は主従。  勝手に飛び出していった自分の主を追い掛けた従者。

その時は、こんな事になるとは思いもしなかった。

確かに彼女は、束縛されていた。何をするにも、そこに彼女自身の意志は介在しない。

だからこの行動は理解できる。だが納得出来ない。

モンスターが数多く存在する凍土に、狩人の護衛も付けずに、全く戦闘に対して素人の女二人で行くなんて。

この御方の従者になってから、何度腹を括った事か。しかし、それでも付いていこうと思える何かが彼女にはあるのだ。

o川*゚ー゚)o「ごめんね、まさか本当にここまで付いてきてくれるとは思わなかったの」

『……まったく、お転婆な姫様です。もうすぐ食料も尽きます。そろそろ引き返しますからね』

o川*゚ー゚)o「……うん」


113 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:52:48 ID:spErNWocO

洞窟の中を進んでいくと、何かを引きずるような音が聞こえた。

('A`)「……近いな」

飛竜種独特の気配を感じる。空気が一気に重たくなっていた。

視界が効かない洞窟の中で氷壁を左手で伝い、右手にもった木の棒で地盤を確かめながら奥へと進んでいく。

('A`)「!!」

ドクオは音源から60mのところで足を止めた。

それは絶妙なポジションだった。 実際それより数メートル進めば、この先にいた敵は鋭く侵入者の気配を感じ取り、襲い掛かって来ただろう。

ドクオは背後に納めていた銀の剣を抜き、手にしていた木の棒に軽く擦りつけた。

それだけで燃え上がる木。

これは、以前フルフルと戦った時に試した方法だった。

視覚が衰えた飛竜種は、総じて『温度』と『動き』に敏感だった。

最初から火を付けて歩けば、敏感な飛竜に気付かれる恐れがある。

だからこそ、ぎりぎりのポジションで火を付ける必要があった。

火を点けた瞬間に【毒怪竜】ギギネブラが、こちらを見た。  しかしドクオは焦らず、松明を動かす事なくじっとギギネブラを観察する。


114 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:53:16 ID:spErNWocO

('A`)(……なんてこった、フルフルの親戚か?)

それ程までに酷似していた。
骨格を感じさせない、軟体の身体。 退化して目。そして何より形。

出来れば鳴き声も聞いてみたいが、流石にそこまで欲張るのも良くない。

ドクオは、静かに松明を地面に置き靴で何度か踏んだ。

それだけで、炎は簡単に消えてしまう。





('A`)「……また来るぜ」


115 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:53:44 ID:spErNWocO

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさん。ギギネブラはどうでしたか?」

デレがキャンプを設営した場所は、ドクオの出した条件に当て嵌まる、氷壁に出来た割れ目を抜けた先にある小さなスペースだった。


確かにここなら大型モンスターは入って来れない。
狩人の基本に則った、場所だ。

('A`)「動きは見れなかったが体付きを見れば大体想像は付いた」

ζ(゚ー゚*ζ「そうですか。狩りは明日になりそうですか?」

狩人の狩猟は、幾日に渡って行われる。ターゲットの行動を見極め、機を待ち、準備をする。

だからこそキャンプの設営というのは、狩人に取って一番基本のスキルであり、一番重要なスキルである。

('A`)「ツーの仕事の出来によるな。アイツが準備出来ているのなら、明日にでも仕掛けてみよう」

ζ(゚ー゚*ζ「……分かりました。私もこの子の準備をしておきますね」

デレが手にしていた『弓』を撫でながら言う。


116 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:54:20 ID:spErNWocO

('A`)「それは……見たことない形状の弓だな。どのモンスターの素材を用いた弓なんだ?」

ζ(゚、゚*ζ「……これですかー?」

デレの雰囲気が変わったのをドクオは見逃さなかった。

ζ(゚、゚*ζ「これはフロギィリボルバーと言います。フロギィというのはジャギィによく似た鳥竜種で、毒を撒き散らすモンスターです」

('A`)「……ほぉ」


『そして、私の大好きなお祖母ちゃんを殺したモンスターでもあります』

凍土に風が吹いた。
もう身体は寒風に慣れたと思っていたが、何故か身体は少し震えた。

('A`)「ハンターを志したのは私怨か?」

ドクオの問いに、デレは首を振る。

ζ(゚、゚*ζ「いいえ、お祖母ちゃんが死んだのは私がハンターになった後ですから」

('A`)「少し話してくれないか。君が良ければで良いんだが」

ζ(゚ー゚*ζ「……良いですよ。どこにでもある、つまらない話ですけどね」


117 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:55:02 ID:spErNWocO

ユクモの源泉に程近い、村の外れ。そこに私の家はあります。

父はユクモ村で鍛冶職人をしていて、母は村一番の食堂を営んでいました。

両親は、初めての子供という事もあり私の事を大変可愛がってくれて  私は、お姫さまの様に育ちました。

そして私が三歳の時、妹が出来ました。いつも泣いてばっかりの困った子で、よく隣の家に住んでいた同い年の男の子に泣かされていました。

そんな妹を、甘やかしたがりな両親は放っておく訳もなく

次第に両親の愛情は、私から妹に移っていきました。  いえ、私に一心に注がれていた愛情が、妹と私に平等に分け与えられるようになったのです。

私は嫉妬しました。

私の様に愛される妹に、我慢が出来ませんでした。

お祖母ちゃんの家に1人で通いだしたのは、その頃からでした。

お祖母ちゃんは、優しかった。本当に優しかったんです。

私が行く日には、必ず大好きなオッタマケーキを作ってくれていて

朝から晩まで、いつも私と一緒に居てくれました。

練る前には、私を膝に抱き子守唄を歌ってくれて  私は、その唄を聞きながらお祖母ちゃんの膝の上で眠るのが大好きでした。

私がハンターになった事を報告しに行った時の、不安と喜びが入り交じったお祖母ちゃんの瞳を、私は今でもそれを忘れる事が出来ません。


118 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:55:52 ID:spErNWocO
('A`)「………」

ζ(゚ー゚*ζ「……あれは数十年に一度のアプトノス大移動の年でした。  その日、お祖母ちゃんは、孤島まで特産キノコを採りに行ったそうです」

勿論ギルドが侵入を制限しているエリアには入らずですよ、とデレは付け加えた。

ζ(゚、゚*ζ「だから事故だったんです。仕方なかったんです。アプトノスを追っていたフロギィの群れにお祖母ちゃんが出会ってしまったのも」

('A`)「………」

ζ(゚、゚*ζ「お祖母ちゃんが死んだ、という話を聞かされた私は、お祖母ちゃんの亡骸を見に行くより先に孤島に向かいました。

フロギィの毒に犯され、緑色に変色してしまったお祖母ちゃんを見るのも

啄まれてグチャグチャになった、優しいお祖母ちゃんの顔を見るのも   なにより―――」


『お祖母ちゃんを殺したフロギィが、生きているという事実が許せなかった』


119 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:56:27 ID:spErNWocO
('A`)「……なるほどな」

ζ(゚、゚*ζ「これは、そのフロギィとドスフロギィの素材を使った弓なんですよ。  この弓が折れるまで、私の復讐は終わらないのです」


だから私は死ねない。今は、まだ死ねないのだ。


モンスターと生死を賭けて戦う狩人達にとって、因縁というのは常に付き纏う。

仲間や、愛する人を失った者も少なくない。  そして大なり小なり、そういった者は、その想いをモンスターにぶつける。


('A`)「……そうか」

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさん、何も言わないんですか?」

('A`)「俺は、そういうハンターを見てきたからな。その心境を乗り越えた者もいれば、そこで腐っちまった奴もいる」


120 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:56:56 ID:spErNWocO

デレはドクオの言葉に耳を傾けた。  ドクオは、あの狩人の聖地、ドンドルマのハンターだ。

だからこそ、その言葉には重みがある。そして確かな暖かさがあるのだ。

('A`)「お前が、この先どっちに転ぶのかは俺には分からないがな」

俺には、一つ心に決めた事があるんだ。

('A`)「『全ての事には意味がある』  お前が生まれた事には意味があり、狩人になった事にも意味がある。
そしてそれはお前の祖母にも言える事なんだ」

それだけ言うと、ドクオは恥ずかしそうに頬を掻いて横になった。

('A`)「何も保証する物はないが、まだまだお前には時間がある。悩む時間も、戦う時間も。それだけは俺が保証してやる」

背を向けて、寝袋に包まるドクオ。

その姿を見たデレは、同じように横になった。


121 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:57:31 ID:spErNWocO

(*゚∀゚)「大体二百くらいは集まったニャー!」

次の日、ツーが成果を報告する。

('A`)「一日でそれだけ集めたか。流石だな」

(*゚∀゚)「ニャー、もっと褒めて良いニャ!頭撫でても良いニャ!!」

('A`)「準備は出来たな。デレ、そっちも良いか?」

自らの得物を確認しながら、後ろで調合を行っていたデレに声を掛ける。

ζ(゚ー゚*ζ「はい、私も大丈夫です」

息を大きく吐いて、昂ぶる心を落ち着けた。

飛竜と相対する時は、いつもこうだ。いつまでも慣れない。

慣れてはいけないのだと、狩人の血が教えてくれている。


('A`)「……行くぞ」


122 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:58:13 ID:spErNWocO

事前の確認を済ませていたため、道順は完璧だった。それに加えて今回は最初から松明を持っている。

急ぎ足で昨日通った道を、駆ける。

('A`)「!!」

ζ(゚ー゚*;ζ「!!」

ドクオとデレの視界の端に捉えた灰色の影。  【毒怪竜】ギギネブラがそこにいた。

洞窟に入ってから結構な距離を走った。陽の光が入る場所で戦うのは厳しい、とドクオは一瞬で判断した。


('A`)「デレ、俺はこのまま突っ込んでいく。   お前はここからサポートを頼む。ツーは戦闘に参加するな。この松明を持って出来る限り走り回るんだ」

ζ(゚ー゚*;ζ「でっ、でもっ!それじゃドクオさんが孤立しちゃいます!!」

余りにドクオ頼みの作戦に、デレは抗議する。


123 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 18:58:53 ID:spErNWocO

('A`)「俺とお前の武器を勘案した結果の作戦だ。それにツーの持っている松明。あれは俺達の命を繋ぐ綱だ。お前は俺とツーのサポートを同時に行わなければならない」

ζ(゚ー゚*;ζ「でもっ」

(*゚∀゚)「よすのニャー、デレ。それが最適なのニャー」

ζ(゚ー゚*ζ「ツー様……」


ドクオは、デレを安心させるように微笑んだ。

―――大丈夫だ、と

それに

('A`)「……その弓、飾りじゃないんだろ?」

ζ(゚、゚*ζ「………!」


背に携えた双剣を引き抜き、爆発的な加速と共に、ドクオは駆け出す。先程までの駆け足とは比べ物にならないスピード。

遅れてツーも駆け出した。命の綱を口にくわえて。


124 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 19:00:00 ID:spErNWocO
ギギネブラも、勿論その動きを察知している。

飛竜は、まず吠える。その圧倒的存在感を示す為に。そして、その叫びは人間の許容範囲を大幅に越えている。

人間は、飛竜の声だけで動けなくなるのだ。

狩人と飛竜の戦い、最初に主導権を握るのは飛竜である。これは絶対的な自然の摂理だ。


だが飛竜が狩人の姿を確認し、脊椎から『叫べ』と命令するのに0.5秒。実行するのに2秒。計2.5秒。

それは、飛竜が先に吠えることが出来るという前提の上に成り立っている。

だから

その間に、一撃を加えられれば―――

Gyaaaaaaaaaaaaa

('A`)「よぉ、昨日ぶりだな」

単純な一撃、振り上げて振り下ろす、という単純な動作。
しかし、その一撃は余りにも重い。

口から出かけた、叫びは痛みと共に消えた。


125 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 19:02:27 ID:spErNWocO
ζ(゚ー゚*;ζ「……早い!!  なに、今の……」

ツーも少し遅れてドクオに追い付いた。

(*゚∀゚)「まったく、少しくらいこっちのペースに合わせてくれても良いのにニャー」

ギギネブラも不意の一撃から立ち直り、透かさず自分の感覚を最大限に研ぎ澄まして乱入者の数を確認する。

熱源は二つ。

そう判断したギギネブラは、自分の首を振った。ただそれだけ。

広範囲に及ぶ尻尾の凪ぎ払い。感触はなかった。

('A`)(やはりな。この攻撃は予測済みだ)

ドクオが、昨日確認していたのはギギネブラの身体の構造だ。

余りにフルフルと似通ったその身体から、伸縮性のある首や尾を生かした攻撃は予測の範疇だった。

まず、ドクオは尻尾を狙った。
理由は二つ。まず一つ目は「尻尾は飛竜の死角になる」から。

太刀や大剣、斬撃を繰り出す武器を持つ狩人はまず尻尾を狙う。

しかし、これは視覚の退化したギギネブラには通用しない。

そして二つ目の理由は『一番堅そう』だから。
ギギネブラの最硬の肉質を確認するためだ。


126 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 19:03:15 ID:spErNWocO

『キーン』と甲高い音が響く。

('A`)(やはり弾かれるか……)

一度バックステップをして、距離を取る。奇襲が通用するのはここまでだ、と悟ったからだ。

ギギネブラには、目も無ければ耳もない。しかし、確かに嗤った。

『飛竜である我々に人間風情が生意気だ』と。

ドクオは、周囲を確認する。ギギネブラの注意がドクオに向いている今、ツーの危険度はそこまで高くないだろう。

後ろにいるデレは見えないが、機を伺っているに違いない。

もう一度凪ぎ払われた首を、ドクオは身体を回転させて躱した。

瞬間、紫の靄が飛んできた。これが聞いていたギギネブラの猛毒か。

ドクオは落ち着いて、前方に回避行動をする事で、また躱した。


127 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 19:04:26 ID:spErNWocO

ζ(゚、゚*;ζ「……凄い、これが伝説に聞くGの実力」

ドクオは止まらない。常に位置を代えて立ち回っていた。

ギギネブラの前方にいたと思えば後方にいる。  左方にいると思えば右方にいた。

そんな蝿の様に動き回るドクオに対して、ギギネブラは全身を使って潰しにいく。

頭を、首を、尾を、毒を使って全力を持って潰しにいく。

飛竜と狩人との戦いは、長い。古来から続く狩る、狩られるの関係。

ギギネブラを構成する遺伝子の一つ一つが、命令するのだ。

『狩人は全力で潰せ』と。

('A`)「のろま、そんな遅い攻撃で俺を捉えられると思うな」

その攻撃を全て躱す狩人に、ギギネブラは苛立つ。

『何故当たらない』『お前より何倍もの大きさを持つ、私の攻撃が』


128 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 19:05:41 ID:spErNWocO

だから、ギギネブラは突っ込んだ。その身体を生かし、突っ込んだ。

それこそが、飛竜、牙獣、全ての種、共通の広範囲攻撃だ。

初めて見る行動パターンを、ドクオは注意深く観察する。

('A`)(脇下は……無理だな)

そう判断すると、ドクオは双剣を納刀し、大人しく走った。

飛竜の突進は、その巨体故に絶大な威力を誇るが  その重量故に途中で方向を変える事が出来ない。

ギギネブラの思惑は、ドクオの前に又空振りで終わる。

('A`)「さて、そろそろ良いか。もう覚えた」

この一言が合図。狩人から飛竜に対する宣戦布告。

まず、ドクオは一番厄介なギギネブラの声帯を潰そうと決める。

重要なのはタイミング。


129 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 19:07:38 ID:spErNWocO
ドクオはギギネブラの左後方に立つ。あえて攻撃はしない。ここに立った時、必ずギギネブラは尾を振り回して攻撃してくるからだ。

そして、それは狙い通りやってきた。  それに加えてもう一つ。ギギネブラは首、または尻尾を凪ぎ払う時、必ず左右両方に二回振るうのだ。

そこがポイント。

左から右に切り替わるタイミング。そこで、ドクオは金の剣を突き出した。

遠心力の付いていない左右の切り返しのタイミング。そこを狙う。

('A`)「その堅い皮膚、裏側まで堅いのかな?」

そしてその思惑は見事に的中する。
金色の剣で、尾を抑えられたギギネブラは歯噛みする。

ギギネブラの裏側が均等に柔らかいと気が付いたドクオは、そのまま腹裏に潜り込む。

尾から頭へ。するするとギギネブラの巨大な体躯を伝うように。

目指すはただ一点。全ての飛竜が持つ生体武器。喉だ。

激痛。

ギギネブラ自身、視認する事は出来ないが自分の喉に何かが突き刺されたというのは直ぐに分かった。

これで、咆哮は潰された。


130 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 19:08:42 ID:spErNWocO
(;*゚∀゚)「なんというめちゃくちゃな戦い方だニャー。たった一撃で、あの厄介な咆哮を潰しちゃったニャー」

すぐさま、ステップを踏み前進するドクオ。狙いは脚部。

先程までの戦闘で、一番の安地がそこにあると見抜いたのだ。

凄まじい勢いで振り回される金銀の双剣。
着実にダメージを蓄積させていく。

('A`)「腹も柔らかいんだな」

切り払い、切り返し、突き、袈裟切り、様々な振りを組み合わせて繰り出されるドクオの斬撃。

傍から見れば、ただただ踊っているように見える。

これに息を呑んだのは、後ろで戦闘を見ていたデレだった。

ζ(゚、゚*;ζ「なんなの……あの動き。普通じゃないよ」

ギギネブラは、余りの痛みに堪らず飛び上がる。

飛ぶ、という能力がもたらす優位性は計り知れない。飛べる、というのは自分のタイミングで戦闘を仕掛ける事が出来るという事だ。   そして、自分のタイミングで戦闘を切り上げる事が出来る。

制空権は、飛竜にある。

ギギネブラは、その事実に安堵した。

―――しかし


131 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 19:09:38 ID:spErNWocO

('A`)「デレ、今だっ!!」

次の瞬間降り注いだ雨。それは、痛みを伴ってギギネブラに降り注いだ。

ζ(゚ー゚*ζ「空は任せて下さいっ!」

なんという事だ、もう1つ自分に脅威が迫っていたのか。

ギギネブラは、突き刺さった矢を身体を捻る事によって抜き出した。

そしてそのまま

('A`)「危ないぞっ!」

ζ(゚ー゚*;ζ「くっ……」

緊急回避で、辛うじて躱したデレ。

急に目の前に現れた飛竜。デレは息を呑む。何度か飛竜を狩りに行ったことはある。しかし、いきなり目の前に現れるというのは初めての経験だった。

思考がまとまらない。離れるか、反撃するか、迷ってしまった。

一瞬の間。自分の前を死神が通り過ぎたような気がした。

ギギネブラの毒線が怪しく光る。放出されるギギネブラの毒ガスに目の前が暗くなる。


132 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 19:10:13 ID:spErNWocO

(#*゚∀゚)「ニャアアアァァアアア!!!!!」

ζ(゚、゚*;ζ「!!」

身体が動いた。ツーに頭を小突かれて、反射的に動いたのだ。

ζ(゚ー゚*;ζ「ハァ……ハァ……。ありがとうございます、ツー様」

(*゚∀゚)「ニャー」

油断していた。ドクオの圧倒的な力量を見て、完全に気を抜いていた。

深呼吸して息を整える。追撃してこようとしたギギネブラは、ドクオによって抑えられていた。

出来る、やれる、私は勝てる、負けない、負けちゃいけない。

ζ(゚、゚*ζ「………」

毒ビンから用意していた毒矢を一気に十本取り出す。矢を地面に叩きつけ、もう一度息を吸う。全開まで吸ったところで、それを体内に留めた。

矢をつがえて、放つ。この間0.5秒。それを繰り返す。

的確に弱点の腹裏にそれを射る。


133 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 19:10:47 ID:spErNWocO
('A`)(……へー)

自分の脇を通して飛んでいく矢を見て、ドクオは唸った。

誤射を恐れぬ度胸と、正確性、そしてその連射速度。目を見張るものがある。

十本を射ち切ったところで、ギギネブラに変化が現れる。

('A`)「色が変わった」

そして変化は肉質にも現れる。  今まで平然と斬れていた頭が、堅くなった。

ドクオは、また距離を取る。色だけでなく肉質も変わるとなれば、もう一度様子をみた方が無難だろう。

それに呼応するように、ギギネブラも氷壁に張りついた。

('A`)(……なにかヤバいのが来るな)

ギギネブラは、氷壁に張りついたまま毒ガスを吐いてきた。

一度ではなく、三度。

('A`)「避けろ!」

だが、数は増えようと速度は速くない。   二人と一匹は難なくそれを躱す。
しかし、ギギネブラの狙いはそこに非ず。

(;*゚∀゚)「ニャー!?」

狙いは一番反応の小さいツー。奇しくも、飛竜の本能が、ドクオ達の一番のウィークポイントを突く形となった。


134 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 19:11:09 ID:spErNWocO







直後、明かりが消えた。

命の綱が掻き消えたのだ。


135 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 19:11:38 ID:spErNWocO
【間幕】

o川*゚ー゚)o「あれは……モンスター」

『なっ、なんですって!?姫様、お下がりください。危険です!』

o川*゚ー゚)o「いえ、どうやら狩人様と戦っているようです」

『……本当ですね』

辺りが一瞬暗くなった。どうしたのかは分からなかったか、それがハンターにとって良い事ではないとは、分かった。

『……姫様、どうするおつもりですか?』

姫様、と呼ばれた少女は首を振る。

o川*゚ー゚)o「……私はただ、歌うだけです」


136 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 19:12:36 ID:spErNWocO

松明が消えた。真っ暗になった洞窟の中で、デレの心に不安が過る。   闇に紛れ姿を消したギギネブラ。

非常に不味い状況だった。ギギネブラの本質は、暗闇でこそ発揮される。

ギギネブラも相当弱っている様だが、退くしかない。悔しいが、仕方がない。

('A`)「ツー、“あれ”の出番だぞ!」

(*゚∀゚)「ニャー!」

ツーは、自分の秘密のポーチをひっくり返し、中に入っているそれを排出する。

瞬間、洞窟は柔らかな光に包まれた。

ζ(゚、゚*ζ「これは……雷光虫」

ドクオがツーに準備させていたのは、これだった。

温かく発光する雷光虫の灯りで、ギギネブラの姿は丸見えとなる。

('A`)「そろそろ終わらせるぞ、デレ!」

ζ(゚ー゚*ζ「はいっ!」


137 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 19:13:18 ID:spErNWocO

ドクオが切り込む、腹部を重点的に万遍なく斬る。ドクオは先程までの戦闘では弱点である腹部を狙う事は極力しなかった。

弱点を的確に狙うデレの邪魔になってはいけないと思ったからだ。

だが、デレの力量を知った今、その遠慮は不要だった。 ただひたすらに斬り結ぶ。

後ろから飛来する矢は、ドクオの身体の隙間を縫ってギギネブラに突き刺さる。

そして、今まで戦闘に参加せず歯痒い想いをしていたツーも全力で剣斧を振るう事が出来るようになったのだ。

ドクオの背中を後ろから見ていたデレは、自分の胸の高鳴りを聞いた。

自分の実力以上の力が出せる。

あの背中に追い付きたい、そう思った。

不意に、お祖母ちゃんが歌ってくれた子守唄が聞こえてきた。


『生命は生まれ、生命は尽きる』

『生命は芽生え、生命は枯れる』

懐かしい歌。お祖母ちゃんが歌ってくれた【英雄の詩】。


138 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 19:13:55 ID:spErNWocO
『陽は昇り、陽は沈む』

『潮は満ち、潮は引く』

ζ(゚、゚*ζ「生きるという事が、死ぬという事   死ぬという事が、生きるという事」

弓を上に構え、そして放つ。数十本の矢を同時に空中に射出し、その全てが大きな放物線を描き吸い込まれる。

『曲射』   抜群の空間把握能力と、充分な筋力を持つ弓使いにしか扱えぬ技。


ζ(゚、゚*ζ「死の意味を知り、生の意味を知る」

『喰うモノ、喰われるモノ』

『火と水、空と大地』

(*゚∀゚)「世界の広がりは、己の意志の中に   全てに意味があり、全てに意味はない」


139 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 19:14:36 ID:spErNWocO




再びドクオを包む赤い発光。ドクオの目が輝きだす。これが双剣使いの本質。己の命を消費し繰り出す必殺の技。

('A`)「世界は巡り、世界に還る」

それは舞。乱れ舞う、一陣の風。

―――鬼人乱舞


140 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 19:14:56 ID:spErNWocO

【間幕】

o川*ーーー)o『―――全てに宿る、大いなる意志へ』

一人の少女が歌っていた。雷光虫の光が優しく照らす銀盤のステージで、少女はただ歌っていた。


141 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 19:15:41 ID:spErNWocO

('A`)「ふう、剥ぎ取りっつーのは、どのモンスターでも面倒だな」

(*゚∀゚)「ニャー、オレっちも少し持って帰るニャー!」

狩り終えたギギネブラからある程度自分に必要な分の素材を剥ぎ取る。

残りの素材は、ギルドに連絡して荷台にて持ちかえる手筈だ。

('A`)「ほら、君の分だ」

ドクオの手に握られていたのは、プロの解体屋も真っ青な程丁寧に剥ぎ取られたギギネブラの皮と毒袋だった。

('A`)「これで新しい弓を作るのも良い。そのまま売って金にするのも良いだろう。   これは、君の報酬だ。受け取ってくれ」

ζ(゚ー゚*ζ「でも、私……」

('A`)「大丈夫、保証するよ。君は腕利きの弓使いだ。誇りを持っていい。   だから強い心を持て。君が今、ここにいる事には“意味”があるんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「……はい」


洞窟には、未だに暖かな光りを放つ雷光虫がフワフワと浮かんでいた。


142 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 19:17:37 ID:spErNWocO

('A`)「!!」

ピリピリと頬を刺激する風が横切った。

('A`)「……今のは」

それを見上げると、東の方に大きな積乱雲見える。

('A`)「嵐が来るな……」

先ほどまで、たゆたゆと浮かんでいた雷光虫は消えていた。

今の風に、巻き込まれたのだと分かった。


143 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 19:18:27 ID:spErNWocO


『アイツが……アイツが現れたんでさぁ!!!』

/ ,' 3「なんじゃい、騒がしいのぉ」

『奴が……【雷狼竜】の野郎が現れやした!!!!』

/ ,' 3「!!」



Quest:2 毒怪竜を追え

Quest Clear


To be Continue……

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