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ボロボロの旧校舎の一番上の階の端っこ。

調律のされていない古ぼけたピアノがひとつあるだけのちっぽけな音楽室。

そこが僕らの活動場所だ。



( ^ω^)「おいすー……お?」


いつものように音楽室の扉を開ける。

でも僕のあいさつは誰に届くことも無く、無駄に音の響く音楽室にこだました。


( ^ω^)「……そうか、今日からは僕が一番乗りなんだ」


まだ誰もいない朝の音楽室。

それは新鮮だったけど、やっぱりどこか寂しげで。

今日ここにいない彼女は、毎日どんな想いでいたんだろう。

僕は一人、そう思った。


持ってきたケースからヴァイオリンを取り出す。

適当にチューニングして、僕はお気に入りの曲を弾きはじめる。

それはエルガーの「愛の挨拶」。


でも僕の弾くこの曲には旋律が無い。 旋律は彼女のものだから。

今はここにいないけど、僕が伴奏を弾けば自然と耳に聴こえてくる。

彼女の外見や性格とは裏腹な、柔らかくて、やさしい音色。


( ^ω^)「……ヘタクソだお」


今まで毎朝、何十回、何百回とやってきたこの曲を一人で弾き終え、僕はちょっとだけ泣いた。


('A`)「よう。 ……来てたのか」


扉の開く音に振り向くと、そこにはドクオがいた。


( ^ω^)「……おいすー」


僕はとっさに涙をぬぐい、やっぱりいつものようにそう言った。


('A`)「習慣ってこえぇよな。 意味ねぇってわかってんのにここに来ちまった」


( ^ω^)「……まったくもって同感だお」


ドクオは自分のヴィオラを出すわけでもなく、ただ椅子に座って僕の演奏をぼーっと眺めていた。

僕もただぼーっと頭に浮かんでくる曲を弾きつづけていた。


川 ゚ -゚)「やぁ」


しばらくそうしてると、クーさんが顔を出した。

……まったく、この人は遅刻までいつもどおりだ。


川 ゚ -゚)「……私が三番目か」


ともあれ全員が揃った。

ほんとは全員じゃないけど、全員が揃ってしまった。


川 ゚ -゚)「これからのことだが」


揃ってからも皆が合わせることもなく、思い思いに過ごしていた。

だけどそんな時間もクーさんの一言で終わりを告げる。


川 ゚ -゚)「やっぱり解散……なのか?」


( ^ω^)「……」

('A`)「……」


沈黙。

たぶん皆が同じことを考えていたんだろう。

でも言葉にしてみると、一気に現実が重くのしかかってきた。



ツンが───転校する。



川 ゚ -゚)「……すまない。 まだ聞くべきではなかったかな」


( ^ω^)「…いえ」


川 ゚ -゚)「ともあれ私は君達の意向に従うよ」


それだけ言うと、クーさんはカバンとチェロのケースを持って立ち上がる。


川 ゚ -゚)「また明日。 答えを聞かせてくれ」


クーさんは現実を直視できない僕らを置いて、音楽室を出て行った。


('A`)「……俺も帰るわ」


その後を追うようにドクオも出て行く。


音楽室にはまた、僕一人。

二度目の、僕一人。



  ( ^ω^)ブーン達はカルテットなようです



【推奨BGM 愛のあいさつ】









楽器は好きだけど、みんなは嫌いだ。

僕は中学時代、管弦学部に入っていた。

別にいじめられていたわけじゃないけど、僕はその文化部特有の馴れ合いが気持ち悪かった。

だから高校では楽器を辞めた。


暇ができて、友達も増えた。

ゲーセンに行ったり、街をブラブラしたりして、毎日それなりに楽しかった。

でもなぜか胸にぽっかりと穴があいていたんだ。


彼女と出逢ったのはそんな時だった。

誰もいない早朝の校舎。

たまたま早く起きて学校に行った僕は、聞き覚えのあるメロディーを耳にする。

そう、これは確か……


( ^ω^)「エルガーの「愛の挨拶」……」


僕はそのヴァイオリンの音色をたどって探し回った。

でも校舎のどこを探しても見つからない。

音が近づいたり遠ざかったりを繰り返す。


もうあきらめようかと思った時、まだ探していない場所があることに気がついた。

旧校舎だ。

僕は最後の望みに向かって走っていった。



ボロボロの旧校舎の一番上の階の端っこ。

調律のされていない古ぼけたピアノがひとつあるだけのちっぽけな音楽室。

そこに彼女はいた。






僕が扉を開けた音に気付き、彼女は演奏をやめ、こちらを向く。

人形みたいだ。

それが僕の第一印象だった。 まぁその第一印象はすぐに崩れることになったんだけど。

ξ ゚听)ξ「…何かご用?」


ブロンドの巻き髪と美しい白い肌の少女は、想像通りの澄み切った声でそう言った。


( ^ω^)「よろしくおねがいしますお!!」


ξ ゚听)ξ「…………はい?」


僕は困惑の表情を浮かべる少女を尻目に、旧校舎の音楽室を後にした。



退屈な授業を終えた放課後、僕は中学時代にお世話になっていた楽器屋に久しぶりに訪れた。

目当てのものはすぐ見つかり、猛ダッシュで家に帰る。


僕は押入れから埃まみれのヴァイオリンケースを引っ張り出し、中身を取り出す。

古くなっていた弦を新品に張りなおし、買ってきた楽譜を開いてすぐさま練習を始めた。



「愛の挨拶」の2ndヴァイオリンを。



翌日。

僕は再び旧校舎の音楽室を訪れた。

昨日と同じ位置に彼女がヴァイオリンを構えて立っている。


( ^ω^)「おいすー」


ξ ゚听)ξ「? ……昨日の?」


( ^ω^)「僕は内藤ホライゾンと言いますお。 ブーンと呼んでくださいお」


僕は自己紹介もそこそこに、ケースからヴァイオリンを取り出して彼女の隣に立つ。


( ^ω^)「それじゃ始めましょうかお」


ξ ゚听)ξ「は? な、なにをですか?」


( ^ω^)「もちろん、「愛の挨拶」ですお」


後でツンと名乗った彼女はしばらく呆然としていたけれど、僕のお願いを理解できたらしく、
ヴァイオリンを構えてくれた。


あれはどれぐらいの長さだっただろうか。

永遠とも一瞬とも思える静寂の後、彼女が僕を見た。

ワン、トゥーといった合図に呼吸を合わせ、僕らは同時に弓を引く。



だけど僕らの記念すべき最初の「愛の挨拶」は、最初の四分音符で終わった。


ξ ゚听)ξ「ヘタクソ」


それはそれは痛烈な一言と共に。


ξ#゚听)ξ「いきなり1stより2ndのほうが大きな音出すってどういうことよ!!」


何がお気に召さなかったのかまったくわからなかった僕に、容赦なくダメだしする。


(;^ω^)「す、すまんお。 ちょっとブランクがあったもんで……」


ξ#゚听)ξ「ブランク? そんなもん関係ないわよ! 常識よジョウシキ!
       音楽やってなくたってわかるわよそんなの!!」


僕より大分背の低かった彼女は、下から思いっきり睨みつけて激を飛ばす。


ξ#゚听)ξ「もっかい行くわよ!」


ついさっきまでドラマみたいだったのに、と落ち込む僕を無視して、彼女は進めようとする。


(;^ω^)「こ、今度はちゃんとやるお」


再び息を合わせ、演奏を始めたんだけど……





ξ#゚听)ξ「だあぁぁぁぁぁぁ!!!」


僕らの記念すべき2回目の「愛の挨拶」は、一小節ももたなかった。



気がつけば外は赤く染まっていた。

ツンは授業が始まっても気にする様子も無く、何度も同じところを繰り返した。

一曲全部通す頃には授業は全て終わり、生徒の大多数は下校している時間だった。


ξ ゚听)ξ「ブーン、ジュース買ってきて」


(;^ω^)「ちょwwwいきなりパシリかおwww」


ξ ゚听)ξ「あたりまえよ。 授業料よ、じゅーぎょーうーりょーう」


(;^ω^)「……」


僕らはいつの間にかすっかり打ち解けて(打ち解けたって言えるのかはわからないけど)、笑いあった。


( ^ω^)「アンサンブルなんて初めてだったけど、気持ちよかったお」


大の字に寝転びながら僕がそう言うと、彼女も隣に寝転ぶ。


ξ ゚听)ξ「私もひさしぶりに楽しかったわ」


それからしばらく、ツンとの奇妙な関係が続いた。

早朝と放課後、あの音楽室でアンサンブルをする。

いろんな曲をやったけど、最初と最後は必ず「愛の挨拶」。

それが僕らの決まりだった。





('A`)「おい、ブーン」


アンサンブルを終えてツンと帰っている途中、聞きなれた声に呼び止められる。


( ^ω^)「ドクオかお。 おいすー」


僕は右手を上げて答えたけど、ドクオは僕ではなく隣のツンを見ていた。


(;'A`)「お、お前……まさか……!」


( ^ω^)「……すまないおドクオ君。 一足先に大人の階段をぶへぁ!!」


言い切る前に僕の頬に何かがめり込む。 それがツンの拳だと気付くのには数秒を要した。


ξ#゚听)ξ「ふん」


(;'A`)「その様子じゃ違うみたいだな……」


痛みに悶える僕を横目にドクオがそう言う。

すると今度は僕らの持つヴァイオリンケースに目を向けた。


('A`)「……何お前。 管弦楽部にでも入ったんか」


ドクオは不機嫌な顔で聞いてきた。


ドクオは僕の中学の頃からの友達だ。

同じクラスで同じ部活、趣味も同じ。

高校も同じになれば、楽器を辞めたのも同じ。 理由も同じ。

出会ってからたかだか三年とちょっとしか経ってないけど、十分に腐れ縁だった。


だからドクオが不機嫌な顔してる理由もすぐわかった。

( ^ω^)「アンサンブルだお」


その言葉を聞いて、ドクオは不機嫌な顔を呆けた顔に変えた。

僕が事情を説明すると、その顔はさらにもう一転、新しいおもちゃを見つけたような顔になる。


('A`)「俺もまぜろ」


( ^ω^)「おk」

ξ ゚听)ξ「ちょwww」


ツンは僕に抗議の視線を向ける。


( ^ω^)「大丈夫だお。 ドクオは元ヴィオラ奏者だお」


('A`)「元じゃねぇ、現役だ。 お前と違って練習は欠かしてないさ」


ヴァイオリン、チェロといったソロ楽器と比べ、ヴィオラ人口は極端に少ない。

そのヴィオラ奏者が見つかるなら、次の目標はおのずと見えてくる。


( ^ω^)「あとはチェロだお!」


('A`)「まぁヴァイオリンとヴィオラじゃたいしたことできないからな」


ヴァイオリン二梃、ヴィオラ、チェロ各一梃で構成される、弦楽アンサンブルで最も一般的な形、カルテット。

気の知れた仲間だけで作り上げる調和。

それはどれほど素晴らしいことだろうか。


ξ ゚听)ξ「……まったく、勝手なんだから」


ツンも言葉とは裏腹に声が弾んでいる。


( ^ω^)「それじゃあ作るお!」


僕は右手を天に突き出し、高々とこう言った。




( ^ω^)「僕らのカルテットを!」




それから2週間が経った。

朝と放課後のアンサンブルにドクオも加わり、少し活気が出てきた。

でも肝心のチェロ奏者は見つからない。

ドクオはああいったが、そもそも僕らの学校に管弦学部なんて無いわけで。


( ^ω^)「……」


そんなことで頭をいっぱいにしながら、授業も聞かず外を眺める。

外は快晴。 梅雨も終わり、これから夏を迎えようとしていた。

校庭を周回する上級生(主に女子)を見つめていると、視界の端に奇妙な影が映る。


校門をくぐる、黒くて大きな瓢箪。


(;^ω^) (…ドクオ! 起きるお!)


僕は前の席で突っ伏して寝てるドクオを起こす。


('A`) (………んー? なんだよ)


ドクオは目を擦りながら僕の指差す所に目をやる。


('A`)「……………………」


( ^ω^)「……………………」


(  ^ω^) ('A` )




( ゚ω゚ ) ( ゚A゚ )




(`・ω・´)「おいお前達。 授業中だぞ……っておい! どこへいくんだ!」


僕とドクオは先生の制止を無視して、教室を後にする。

僕らが廊下に出ると同時に、隣のクラスからツンが出てくる。


( ^ω^)「ツン!」


ξ ゚听)ξ「わかってる! 行くわよ!!」





( ^ω^) 「
ξ ゚∀゚)ξ      チェロだああぁぁあぁ〜〜〜───っ!!!
('∀`)                                     」


僕らは階段を一気に飛び降りる。

踊り場で派手にころんだドクオを見て、僕とツンは笑いころげる。

ドクオは恥ずかしそうに「早くいこーぜ」って言ったけど、やっぱり笑っていた。


今が授業中だということも忘れて、僕らはとにかくはしゃぎ回る。

靴も履き替えずに昇降口を駆け抜け、全速力で外へ飛び出した。


( ^ω^)「いたお!」


('A`)「び…美人だ……」


大きなチェロケースを背負った女の人。

僕らはその人に駆け寄る。


川 ゚ -゚) 「……ん?」


(*^ω^) 「
ξ*゚听)ξ    僕(わたし)達とカルテットを組んでください!
(*'A`)           そして俺と結婚してください!          」





チェロを背負った女の人は目を真ん丸くした。

それはそうだろう。 初対面の3人からカルテットに誘われ、あげくの果てに求婚されたのだから。


長い沈黙が訪れる。

ダメかな…と思った直後、その女の人はクスッと笑って「いいよ」と言ってくれた。


川 ゚ー゚) 「面白そうだね君達。 私も仲間に入れてもらおうかな」


僕らは顔を見合わせる。





(*^ω^) 「
ξ*゚∀゚)ξ        ぃやったああぁぁあぁ〜〜───!!!
(*'∀`)                                       」




僕らは騒いだ。



ハイタッチしたり、握手したり、ツンに抱きついたり、ツンに殴られたり。
何もかもが可笑しくて、ただ嬉しくて。


川 ゚ー゚) 「……やれやれ。 どうやら詳しいことは明日になりそうだな」


彼女は子供のようにはしゃぐ僕らにそう言った。

同時に校舎のほうから先生の声が聞こえてくる。


ξ ゚听)ξ「……あ”」


( ^ω^)「……そういえば」


('A`)「……授業中だな」


(#`・ω・´)「おぉ まぁ えぇ らぁ〜〜!!!」


ものすごい形相で走ってくる先生に焦る僕達。

そんな僕達を可笑しそうに笑いながら彼女は名前を教えてくれた。


川 ゚ー゚) 「私は2年F組のクーだ。 明日の放課後、呼びに来てくれるのを待ってるよ。」


先生に連行されていく僕らに「それじゃあ」と手を振って、クーさんも去っていく。

その後僕らは授業に戻り、放課後、職員室で再会した。

先生のありがたいお話は3時間も続いたけど、誰一人そんなの聞いちゃいなかった。

だってそうだろう? 明日からとうとう始まるんだ。




───僕らのカルテットが!



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