(;*゚ー゚)「もしかして、本当に操縦できないの。」

さっき言ったのはドクオに対する挑発だったのだろう。
ただ、ドクオの顔には不安と迷いの表情が深く表れていた。
しぃはそれを見て、まさかという目つきでドクオを見る。

 (;'A`)「俺が作ったんだぜ。できるに決まってんじゃん。
     いいよ、乗せてやるよ。ちょっと待ってろ。準備するから。」

自分が作ったものなのに、自分では使えない。
それでは一体何のために作ったんだろう。
少しばかりの見栄と、大きな疑問が浮かんだ。
そして表に現れたのは見栄の方だった。

操縦ができるかわからないまま、川へのシャッターを開けて川に浮かべる
そしてエンジンをかけて、操縦席へと戻る。



辺りに弾性のある音が響く。

 (;'A`)「よし、じゃあいくぞ。ベルトはしたか。」

 (*゚ー゚)「いいよー。」

 (;'A`)(大丈夫、落ち着いてやればできる。)

機首を、川の流れに合わせてスロットルを押しあげる。
プロペラが回転速度を増した。

徐々に加速していき、川の波がまるで地面の凹凸のように感じる。
操縦桿が震えだし、押さえつけるために全身の力を込めた。

離水速度に到達するも、失速が不安で操縦桿を引けない。
もう十分な筈だった。飛べる速度だ。

 (*゚ー゚)「まだとばないのー?」

しぃが声をかけるが、轟音にかき消されるまでもなく、ドクオには聞こえなかった。
握る力を少し緩めるだけで、操縦桿が手から飛び出してしまうように思えた。




 (;'A`)(飛んだ途端に失速しないよな……)

あと少しだけ速度を出そう。そう考えて、スロットルをさらに押し上げる。

 (;*゚ー゚)「ちょっ、ちょっと。もうすぐ川の合流地点よ。」

後百メートルぐらいで、船が交差しあう場所に出る。
当然、そこにはいつも何隻かの船が川に浮かんでいる。
しぃの目にはすでに三隻の船が見えていた。
瞬きするほど船は大きくなっていく。
このままの速度でぶつかったらと想像をする。助からない。そう感じた。



 (;*゚ー゚)「とばないの?ねぇ?どうしたの?」

後50メートル。

 (;'A`)(大丈夫だ。ギリギリまで……)

後40メートル。

 (;*゚ー゚)「冗談だよね?ここで一気に飛ぶんだよね?びっくりさせるんだよね?」

後30メートル。

 (;'A`)(速度はもう離水速度なんだ。後はこれを思いっきり引くだけだ。)

後20メートル。

 (;*゚ー゚)「ねぇ、さっきのこと怒ってるの?ごめん。謝るからもうやめてぇ!」

後10メートル。

 (;*∩∩)「ぃやぁああああああああああああああああああああああああ!」

後5メートル。

 (;'A`)「ぅおりゃあああああああああああああああああああああああああ!」




全体重をかけて操縦間を引いた。
機首は一気に持ち上がり空を向く。
一気に上昇し、体にGが目一杯かかる。

 (;'A`)「飛んだ飛んだ飛んだぞー!」

ほとんど地面と垂直になっている。
勢いが重力で殺されて、徐々に速度が落ちる。
今度はゆっくりと操縦桿を押す。
水平飛行に入った。

 (;'A`)「はぁ、なんとかなったな。」

 (*;ー;)「ふぇ、えっぐ……」

しぃは恐怖で泣いてしまった。
その声を聞いてドクオの心に罪悪感が芽生えた。
自分のせいで不安な思いをさせた。




どうしようもないかも知れないが、一応声をかけてみる。

 (;'A`)「あー大丈夫?」

 (*;ー;)「大丈夫なわけないじゃない!殺す気?!ばっかじゃないの、ちょっと挑発されたぐらいでこんなことするなんて。」

 (;'A`)「いや、ごめん。本当は俺……ぅお!」

謝ろうとしたそのとき、鳥が真横からドクオの顔を襲った。
突然のことに、操縦桿を倒してしまうドクオ。
機体は右にロールしつつ、高度を下げていく。

 (*;ー;)「いやぁああああ!」

しぃの叫びが空に伝わる。
操縦桿を左に倒し、機体が水平になったところで、今度は高度を取るために引く。

 (*;ー;)「もういい加減にしてよ!下ろしてよ!」

 (;'A`)「わ、わかった。ちょっとまって……ぅお。ぬおおおおおおおお!」

さっき顔に当たった鳥が、座席の中にいる。
鳥は、そこから抜け出そうと狭い座席の中で暴れまわった。
もう一度、機体がロールしつつ飛んでいった。

 (*;ー;)「いやぁああああああああああああ!」




その頃学校では。

 ( ゚д゚ )「つまりだな、蒸気機関の発明以降……」

( ^ω^)(あ〜あ。退屈だお。早く飛びたいお。)

ブーンは窓際の席で、ミルナ先生の言葉を右の耳から左の窓へと飛ばすことに専念していた。
ミルナ先生の目を盗んで時折、空へと視線を向ける。
ゆっくりとため息を吐こうと視線を落としたとき、ブーンの目に青い飛行艇が映った。
川の上を猛スピードで走っている。

 ( ゚д゚ )「おい、ブーン聞いてるのか。お前留年してもいいのか。」

(;^ω^)「まずいお、もう飛んでもいいお。」

 ( ゚д゚ )「そうだまずいな。しかし、こっち見て喋らんか。第一なにが飛んでるんだ。」

(;^ω^)「はっはい。失礼済ましたお」

(;^ω^)(ドクオが飛ばしてるのかお。あいつ操縦したこと無いのに。)




 ( ゚д゚ )「それでだなあ、蒸気機関は産業に大いに恩恵をもたらしたわけだ。」

(;^ω^)「だぁ、急上昇しすぎだお。」

 ( ゚д゚ )「そうだ、急激に成長しすぎたために、経済のバランスが崩れてしまった…」

(;^ω^)「だぁあぁ、きりもみになってるお!!」

 ( ゚д゚ )「そう、まさにきりもみ状態だったわけだ。よく聞いてるのは嬉しいがいちいち叫ぶな。」


 ( ゚д゚ )「そうしてだな、政府のとった政策により何とか立て直したわけだ。」

(;^ω^)「ああ、よかったお。」

 ( ゚д゚ )「うむ。まさにそのおかげで、安定した社会が育ったわけだからな。しかし、今度は内燃機関の……」

(;^ω^)「あああぁ、ループしてるお。」

 ( ゚д゚ )「そのとおり。歴史は繰り返すってやつだな。何か革命的なものができれば急速に成長していく。これは昔からずっと変わらない。」




やっとのことで、鳥を座席から追い払い着水した。
あれから何度か曲芸まがいのことをし続け、しぃはずいぶん前に気絶してしまった。
飛行艇をガレージに入れてから、震える足で地面へと降り立った。

 (;'A`)(上手く歩けねぇ……)

しぃが座席で気絶している。抱きかかえて下ろすことは、膝が笑っているドクオには無理だった。
とにかく、気を落ち着けようとポケットから煙草を取り出してそれを咥える。
マッチを擦る。
震える手のおかげで、いつもより火が大きいように見えた。
煙を大きく吸い込み、肺に刺激を与える。
鼻腔を通して煙を吐く。戻ってきたんだなと、渦を巻く煙を見ながら、そう実感した。




少したち、ガレージ内に薄い雲が形成された頃にしぃが目を覚ました。
ドクオは、翼に震えの収まった足をかけ、しぃの顔を覗き込む。
寝起きの少しぼやけた、現実と夢の狭間にいる虚ろな顔をしていや。

 ('A`)「だいじょう…」

声をかけようとしたドクオにしぃが抱きついた。
よほど怖かったのか、生きている喜びか、大きな声で泣きドクオの胸に顔を押し付けた。

 (*'A`*)「……」

柔らかい肉、異性の異性を惹きつける香り、肌をくすぐる髪。
それらが織り成してつくる、至福の感情を味わっていたドクオは、黙って抱き付かれていたが、突然しぃの束縛が無くなり体が軽くなった。
一瞬だけ見えた。般若のような顔が。
ドクオの視界が右に90度ずれた。

 (♯*;ー;)「この馬鹿!死ぬかと思ったじゃない。」

 (♯)'A`*)「ごめんなさい」




 (♯*;ー;)「だいたいねぇ、できないならできない……ん」

 (♯)'A`)「えっ」

 (*;□;)「オボェエェェェェエ」

抱きつき、平手打ち、嘔吐。
女性と何年間か付き合ってから見れるすべてを、ドクオは30秒で済ませた。

 (*つー;)「着替え持ってきなさいよ。汚れちゃったじゃない。」

 (♯)'A`)「はい。」

翼から降り、急いでガレージの中にあった着替えを持ってくる。
それを、しぃへと渡した。

 (*゚ー゚)「……見ないでよ。」

 ('A`)「見ねぇよ。」

しぃに背を向けて、また煙草を取り出し火をつける。
衣擦れの音がする。
普段なら異性のその音で興奮するところだが、今はそんなことなかった。




よいしょという掛け声のあとに、タタンと歯切れのいい音が響いた。
しぃは粗末なテーブルと、すえた匂いのする椅子をガレージの隅から持ってきた。

 (*゚ー゚)「服洗うから乾くまで居させてよね。」

 ('A`)「ああいいよ。」

叩かれて、怒鳴られて、吐瀉物を吐きかけられて、崩れた泣き顔を見せられて、命令されて。
つくづく女とはよくわからん生き物だと感じた。
そしてほんの十数秒、いや、多分数秒の沈黙。その沈黙の間にしぃの目が変わっていた。

 (*゚ー゚)「これ、ありがとね。それと叩いたりしてごめん。」

薄汚れた作業着を抓まんで、伏目がちに感謝の言葉を口にする。
自分の行為に許しを乞うニュアンスではなく、自分を恥じているような言い方だった。
つい先程までの激しい感情の起伏は、一時的なものだったのだろうか。
とにかくドクオは、悪い気はしなかった。

 ('A`)「いや、気にしてないよ。」

そしてまた沈黙。




ドクオは1秒、2秒、3秒と、沈黙の時間を数えてみる。

 (*゚ー゚)「ドクオ君てさ、本当は操縦できないんでしょ。」

 ('A`)「うん。」

 (*゚ー゚)「見え張ったの?」

 ('A`)「そう。俺もごめん。くだらない見栄で危ない目にあわせた。ごめん。」

 (*゚ー゚)「うん、ほんと怖かった。」

 (;'A`)「ごめん。」

 (*゚ー゚)「なんで、男の子ってそういう見栄張るの?」

 ('A`)「さあ、なんでだろうな。じゃあ何で女の子は化粧するの?」

 (*゚ー゚)「ん〜、やっぱかわいく見られたいからかな。」

 ('A`)「男もそうじゃないかな。格好よく見られたいから見栄張るんじゃないかな。」

 (*゚ー゚)「ふ〜ん。まあ似たようなもんかな。でも迷惑かけないだけ女の子の方がましね。」

唇のふちを心持ち上げてドクオを流し目で見つめる。
そのままの口ならフルートが綺麗に吹けるんじゃないかなとドクオは思った。




ドクオから視線を外したしぃは、自分の服へと向かった。
服は日光に当たる所に干してある。それを触り感触を確かめる。
まだ湿っぽいのか、日光に当てる方向を変え、またドクオの方へ戻ってきた。

 (*゚ー゚)「もう少し居させてね。」

ドクオの返事を待たず、椅子をわずかだけ引いて座った。
そんな一連の仕草が、急に女性らしさを取り戻したかのようで、ドクオは少し見とれた。


 (*゚ー゚)「ブーン君遅いね。」

 ('A`)「んっ、ああそうだね。」

 (*゚ー゚)「ねぇ、何でブーン君が出るの。ドクオ君はVIPカップに出たくないの?」

 ('A`)「俺か、俺は別にいいんだ。あいつを飛ばしてやりたいんだよ。」

 (*゚ー゚)「何で?」

 ('A`)「あいつさ、親がパイロットで小さい頃乗せてもらうのが好きだったんだって。
    でも、ブーンが小さい内に死んじまったんだ。その所為か知んないけど
    あいつ、空を見るときすげえ遠くを見るんだ。いっつも、へらへらしてっけどさ。」

 (*゚ー゚)「遠く?」

 ('A`)「そ、遠く。焦点が定まってるけど、他人からはどこを見てるのかわからない感じ。
    だから、そこに連れてってやりたいなって思ってさ。まっ、叔父さんの影響かな。」




そのとき話しているドクオも、自分では気付かずに、今言ったような遠くを見ていた。
曖昧なようで、それでもどこか、視線が一本の張り詰めた糸の先を見る目。
糸の先は見えないが、それでもその先を見つめようとする目。

そんなドクオを見ながら、しぃは言った。

 (*゚ー゚)「それは見栄?」

 ('A`)「なんのこと?」

視線を糸の先からしぃへと移し変えて、ぼんやりとした目で見る。
その変化にしぃは気付いたようだった。

 (*゚ー゚)「ふ〜ん。そういうのカッコいいね。」

 ('A`)「へ?」

突然の言葉に声が出せず変わりに、吐く息がすっとぼけた音を出した。

 (*゚ー゚)「だから、そういうのカッコいいねって。」

 (;'A`)「ななな、何が?」

 (*゚ー゚)「あはははは、なにびっくりしてるのよ。」




ドクオはしぃの言葉の意味が理解できなかった。
容姿について言われたのだと思ったが、自分では中の下だと考えていた。
だから、しぃの言葉にそんなわけあるか、と、戸惑いどう返事を返せばいいのかに困った。

 (;'A`)「そ、そういうしぃだって可愛いじゃん。」

多分、褒められたのだからお返しにと思いしぃの容姿を褒めた。
特に、意味は無い。挨拶をされたから挨拶を返したようなもの。

 (*゚ー゚)「!」

しぃにとって、ドクオの言葉は予期しないものだった。
ドクオの場合とは逆に、ストレートにその意味を取った。

 (;*゚ー゚)「な、なに言ってるのよ急に。」

 (;'A`)「いやいや、本当本当。かわいいと思うよ。うんかわいいよ。」

とにかく場を取り繕うと必死でしぃの容姿を褒める。
しぃが恥ずかしげに俯いた。
ドクオはしぃの動きを怒りの表れだと解釈し、その感情を逸らそうとまた口を開く。

 (;'A`)「クラスのみんなも言ってるしさ。かわいいと思うよ。
     髪型もよく似合ってるし、女の子らしいし顔も整ってるし。
     正直今日声かけてもらったのっだって嬉しかったし。それにそれに……」




まだ続けようとするが言葉が中々でてこない。
ドクオは次の文句を言おうと口をもごもごさせていた。

 (*゚ー゚)「……本当?」

頭だけをドクオの方に向け、俯いた顔を少し上げ上目遣いで尋ねる。
怖がっているような、それでも確かめたいような。目にうっすらと水分がコーティングされていた。

ドクオはその顔を見て、今言ったことが、しぃについて自分が考えていたことだと思った。
そして、しぃの方に顔を向けて、目を見ながら言った。

 (;'A`)「うん、本当。」

さっきとは違う種類の沈黙が流れる。
お互いに視線から相手の顔をはずす。




ガレージ内に肌を震わせる音が充満した。
床をこすりながら、しぃの椅子がドクオの椅子に近づいたからだ。

しぃの体温や息遣い、心臓の鼓動が聞こえてくる。そんな気がした。

どちらも口を開かない。
一秒、二秒。また時間を数えてみる。

三秒、四秒。しぃの顔を見てみる。
それに気付きしぃもドクオの顔を見る。

五秒、六秒。お互いに目を見つめあう。

七秒、八秒。しぃが目を閉じた。

九秒、十秒。ドクオもゆっくりと閉じる。

十一秒。二人の距離が縮まる。

十二秒。お互いの目標到達まで二十センチ。

十三秒。しぃの息がかかった。次の瞬間には目標到達。

十四秒。ガレージに外の風が入った。

二人は同時に同じ方向を向いた。


























( ^ω^)「おいすー。遅れてスマンお!!」




閉じていた目を、今度はこれ以上ないくらいに大きく開いた。そこにはブーンの姿が。
何回も挑戦し完成することのなかったトランプタワーが、完成間近で壊されたような気分だった。

 ('A`)「はぁ……」

止めていた息を一気に吐き、新しい空気を吸い込んで言った。

 ('A`)「お前死ね。」





            ( ^ω^) の最高速度は215キロのようです      第一話終わり


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