ミセ*゚ー゚)リ「んじゃ、帰ろっか?」
(゚、゚トソン「……まだいらしたんですね」
ミセ;゚ー゚)リ「ひでえ……」
早めに帰るとは言っていたが、走って帰らなければならないほど急いではないらしい。
私達は昨日と同じように朝と変わらぬ初夏の晴れ空の下を一緒に並んで歩き出す。
委員長の用事は詳しくは教えてもらえなかったが、どうやら家の用事のようだ。
ミセ*゚ー゚)リ「委員長の家もこっちなの?」
(゚、゚トソン「はい、途中までは同じ道ですね」
委員長の家が全然違う方向でなくて良かったと思う。
ものすごく遠回りをしてまで私の家に朝っぱらから寄ってもらってるなら流石に申し訳なく思うし。
(゚、゚トソン「それだと少しお受けするのを考えたでしょうね」
ミセ*゚ー゚)リ「委員長だとしても?」
(゚、゚トソン「委員長だとしてもですね」
ミセ*-ー-)リ「まあ、何でもかんでも引き受ける必要はないと思うよ?」
少し申し訳なさそうな表情を浮かべる委員長に、そこまでする必要はないとフォローする。
所詮は学校内での役職だ。
そこまでする義務もなければ、さして親しくもなかった私に対する義理もないだろう。
(゚、゚トソン「あなたが引きこもっていなければそもそも私が伺う必要もなかったんですけどね」
ミセ;゚ー゚)リ「うん、手間取らせてる本人が言うなって話ですよね……」
遠慮なくずけずけと物を言う委員長。
少しは私がほんの昨日まで引きこもっていたって事を考慮しているのか疑いたくなるが、思えば最初からこんな感じだったので
こちらもだいぶ慣れたものだ。
それに、どちらかといえばはっきりと言ってくれる相手の方が私としては付き合いやすいタイプだ。
(゚、゚トソン「どうして引きこもっておられたのですか?」
そんな事を考えている矢先にまたも遠慮のない質問が飛んでくる。
そういう話は私が更生した後にでも聞いたりするものではないかと思うが、よく考えたらもう学校に行っているので私は
引きこもりから卒業したのかもしれない。
ミセ*゚ー゚)リ「お昼にペニサス達に聞かなかったの?」
(゚、゚トソン「聞こうかとも思いましたが、そういう話を広めるのも失礼かと思いまして」
ペニサス達が詳しく知らなかった場合、余計な詮索をさせて私の引きこもりについてのおかしな話が流布するのを危惧したとの事。
あの2人は一応の理由は知ってるからそんな事にはならなかったと思うけど、そういう所に気を配って頂けるのは素直にありがたい
とは思う。
両親がいない一人暮らしという私の家庭環境を考慮してか、話したくなければ話さなくていいと言う委員長だが、それなら聞かなきゃ
いいじゃんと思うのは流石にひどいだろうか。
ミセ*-ー-)リ「うーん、大した理由じゃないんだよね」
私は頬を掻き、引きこもった理由を並び立てる。
ペニサス達に話してある同質のそれを。
ミセ*゚ー゚)リ「私はさ、いわゆる大金持ちってやつなんだよね。これから先、ずっと働かなくても遊びまくれるぐらい」
(゚、゚トソン「それはご両親が?」
ミセ*゚−゚)リ「……まあ、そんなとこ」
何もしなくて生きていけるなら、別に学校に行く必要もない。
誰にも迷惑かけるわけじゃないし、好き勝手に生きたいと思ったからそうしたんだと私は委員長に説明する。
高校は義務教育でもないのだ。
(゚、゚トソン「……」
ミセ*-ー-)リ「ね、大した理由じゃないでしょ?」
ホントにどうでもいい、適当な理由だ。
でも、間違ってもいないと思う。
自分の置かれた環境を生かして、取れる選択肢の内から1つを選んだだけなのだ。
(゚、゚トソン「では、ご迷惑でしたね」
ミセ*゚ー゚)リ「何が?」
(゚、゚トソン「私があなたを引っ張り出した事です」
明確な意思を持ってそうしていたのならば、私がした事は余計なお節介だったと委員長は言う。
ミセ;゚ー゚)リ「いや、まあ、そうなんだけど、何かちょっと意外だな……」
(゚、゚トソン「意外?」
ミセ;゚ー゚)リ「うん、委員長って、そういうのも更生しそうなタイプだからさ」
そんなバカな考えしてないでちゃんと学校に来いとでも怒られるかと思ってたら、意外にも委員長は私の考えを認めてくれるようだった。
てっきり学校は勉強だけじゃなく、友達を作ったり部活動をしたりと人との接し方を学んだり、将来において勉強以上に必要になる事を
身に着ける場でもあり、それに何より楽しい場だという様な諭し方をされるのかと身構えていたのに。
私がそんな風に予想していた事を委員長に話すと、委員長は肩をすくめる。
(゚、゚トソン「そこまでわかった上で引きこもる事を選択したのならば、尚、言う事はありませんね」
それらがなくても構わない生き方を選択するのでしょうからと委員長は言葉を結ぶ。
ミセ*゚ー゚)リ「……うん、色々想定外です」
勿論、私が予想していた委員長の答えは私の勝手なイメージなのだ。
委員長はいわゆる委員長タイプに見えるけど、その実だいぶ変わっていると私は改めて理解した。
正論だけど何か極端にも感じる。
何というか、歯に衣を着せないじゃないけど、相手の状況は考慮するけど心情は考慮しないみたいな、考えててよくわからなくなったが
とにかく容赦がないというか少し突き放したように聞こえる。
単に遊び心が不足しているだけなのかもしれない。
でも、よくよく考えたら親しくもない私にそんな色々配慮する必要もないよね。
義務的に相手してればいいんだし。
それを冷たいと受け取るのは筋違いだろう。
相手に敬意を持って真面目に接してくれているのはわかるしね。
(゚、゚トソン「私はこっちですね」
ミセ*゚ー゚)リ「え?」
不意に委員長が立ち止まり、私の家とは違う方の道を指差す。
それが委員長の家に向かう道だと気付くのにはさして時間はいらなかった。
ミセ*゚ー゚)リ「ああ、そっか。委員長の家はあっちなんだね」
(゚、゚トソン「三丁目の方です。ここからさほどかかりませんので」
距離的には私の家から約1kmもないぐらいだろう。
学校には委員長の家からの方が近い。
あまり離れてはいないとはいえ、わざわざうちに寄ってもらってるのはやはり悪い気がする。
(゚、゚トソン「明日はどうされますか?」
ミセ*゚ー゚)リ「明日?」
今しがた考えてた事を向こうから先に聞かれ、返答に詰まってしまった。
朝、うちに起こしに寄るかどうかという話だろう。
(゚、゚トソン「明日からまた引きこもられますか?
ミセ*゚ー゚)リ「あ……」
納得した上での引きこもりなら、そもそも起こす必要がないという事になる。
私の頭の中には、起されて起きるか自分で起きるかの2択しかなかった。
この時点で私の答えは出ていたようなものだが、そのまま続けられる委員長の言葉に私は何も言えずにいる。
(゚、゚トソン「個人的な考えを述べさせてもらえば、そのつもりならばいくらお金持ちとはいえ、高校お止めになって学費分は節約した方が
良いと思われますが」
必要なら手続きの手伝いぐらいはすると言う委員長。
勿論、親切心から言っているのはわかるが、目的が目的だけに何とも複雑な気分だ。
別に委員長は私を学校から追い出したいわけじゃない。
それはわかっているのだけど。
ミセ*゚−゚)リ
引きこもったのは私なのだ。
その道を選んだのは私なのだ。
引きこもり、人との関わり合いを避け、1人でいる事を選んだのは私なのだ。
……例えそれが、私が本心から願ったものではないとしても。
「──リ?」
選んだのは、私──
(゚、゚トソン「ミセリ?」
ミセ;゚д゚)リ「うおっと!? だから近いってば!」
(゚、゚;トソン「あなたがぼうっとしてるからですよ」
気付けば朝同様に間近に委員長の顔がある。
考え事に気を取られすぎて、委員長の声が全く聞こえてなかったようだ。
私はそのままの位置で、私よりほんの少しだけ高い位置ある委員長の目を覗いてみた。
眼鏡越しのその目に浮かぶのは心配の色だろうか。
正直なところ、目を見たところでよくわからない。
早々都合よく読めるわけでもないのだ。
それでも、委員長が私の事を心配した目をしていると思えるのは、委員長の人柄による事なのだろうか。
付き合いの浅い私が言ったところで説得力はないのだけど。
付き合いの浅い私がそう言えるくらいはいい人なのかもしれない。
(゚、゚;トソン「またぼうっとしてるみたいですけど大丈夫ですか?」
ミセ;゚ー゚)リ「え、あ、うん、大丈夫、全然ダイジョブよ?」
私視線を外し、一歩下がる。
道端で見詰め合う女子2人という何ともアレな光景を作り出していた事に気付いたが、幸いそう人通りの多くもない道だ。
おかしな噂がたつような事もないだろう。
(゚、゚トソン「何だかお疲れのようですね。久しぶりに学校に通い始めたのだから無理はないのかもしれませんが」
ミセ*゚ー゚)リ「うん、まあ、そうかもね」
帰って寝ると言って、私は委員長に手を振って別れの挨拶を述べる。
そのまま歩き去ろうと思ったが、先ほどの委員長の問いに答えてなかったのを思い出した。
(゚、゚トソン「明日も迎えに行きますので」
再び振り向こうとしたが、それよりも先に委員長の方から先にその件の回答を示されてしまった。
私が出そうとした答えとは別の答え。
(゚、゚トソン「決めるのは急がなくてもよいと思いますよ?」
本当の答えを先延ばしにしただけの一時凌ぎでも、今の私にはありがたい答えだったかもしれない。
でも──
ミセ*゚ー゚)リ「いや、明日はいいよ。わざわざ悪いしね」
私はウソと本当が混じった、けれど建前の理由で本当になる答えを返す。
口の端には笑顔を浮かべ、完璧な装飾を施して。
(゚、゚トソン「……わかりました。それでは、さようなら」
少しの沈黙の後、委員長は一礼をして歩き出した。
途中で振り返る事もなく、委員長の姿は程なくして見えなくなってしまった。
私はただそれを目で追っていた。
身じろぎ1つせず、飾り立てた笑顔のままで。
ミセ*゚−゚)リ「……さようなら」
呟くように搾り出した別れの言葉。
既にいない人に向けても届く事はない。
そんな事はわかっているけれども、私は呟いていた。
ただ風に消えるだけの言葉を。
・・・・
・・・
カチカチと、秒針の音だけが暗い室内に響く。
前々から音がしないタイプに替えようと思ってはいたのだが、いつも忘れてしまう。
以前より音がうるさくなった気もする。
どこか故障でもしているのだろうか。
でも、朝見た限りでは時間はあっていたようだ。
それともリビングが綺麗になったから、音が届きやすくなったのだろうか。
あれからどのくらいの時間がたったのだろう。
外は既に真っ暗だから、少なくとも4時間ぐらいは過ぎたのだろうか。
ひょっとしたら、もっとかもしれない。
もう真夜中かもしれない。
それとも1日経ったか、はたまた1週間か。
ミセ*゚−゚)リ「流石にそんなには経ってないか……」
いつもの様に誰もいない部屋で1人呟く。
1人暮らしが長いと独り言が増えるというのは本当だ。
ミセ*゚−゚)リ「……」
私は暗いままの室内を見渡す。
目は既に暗闇に慣れているので、何となくどこに何があるかはわかる。
それでなくても自分が普段生活している場所なのでわかるし、それ以前に何もない部屋だ。
生活に必要なものは一通り揃ってはいるが、何もない部屋なのだ。
ミセ*゚−゚)リ「……お腹空かないな」
お昼に食べ過ぎたせいもあるが、多分原因はもっと別な所にある。
簡単に言えば凹んでいるのだ。
ミセ*゚−゚)リ「自分で決めたのにね……」
上げて落とされた、そんな感じなのかもしれない。
正しくは勝手に舞い上がって自分で掘った穴にはまった感じだろう。
全部自分のせい。
誰のせいでもないのだ。
ミセ*゚−゚)リ「誰にも話してないしね」
話していない理由は簡単だ。
話す相手がいなかった。
それに、話すといっても何を話せばいいのだろうか。
正直言えば、何でこんなに悩んでいるのかよくわからない。
本当は悩むような事じゃないのかもしれない。
こんな事で悩むなんてバカらしいって笑い飛ばして気にしなければそれで済む話なのかもしれない。
ミセ*゚−゚)リ「それでも私は……」
「んー? 何で真っ暗なんだ?」
不意に人の声がした。
それとほぼ同時に部屋の電気が点く。
眩しさに目をつぶるが、確認するまでもなく声の主はわかっている。
( ^Д^)「うおっと、何だ、いたのか」
ミセ*゚−゚)リ「お兄ちゃん……」
寝てたのだと電気を点けてなかった訳を説明して、私はソファーに座り直す。
お兄ちゃんは私に土産だと紙箱の入ったビニール袋を手渡し、向かいに座った。
( ^Д^)「どうだ、最近?」
ミセ*゚−゚)リ「うん、特には……」
途切れがちで弾む事のない会話という名の近況報告。
私の方は大して話す事はない。
日々何もない生き方をしていたのだから。
いや、この2日は一応の変化はあったのだ。
3ヶ月ぶりに学校に行ったのだし。
けれど、お兄ちゃんがそれに気付く事はない。
帰った時のまま、制服姿のままの私を見ても不審に思わなかっただろう。
お兄ちゃんは私が引きこもってた事を知らないのだから。
( ^Д^)「そうか、それなら良かった」
ミセ*゚ー゚)リ「うん、変わりないよ」
私は笑顔の装飾をし、いつも通りの答えを返す。
何もない。
何でもないことなのだ。
( ^Д^)「そっか、そっか……。それでだな……」
無駄な会話が終わり、ようやくお兄ちゃんが本題を切り出そうとする。
聞かなくてもわかっている事。
別居しているお兄ちゃんがここに来た目的。
ミセ*゚ー゚)リ「うん……わかってる……」
私は立ち上がり、キッチンに向かう。
お兄ちゃんはそれを見るとホッとした表情でノートパソコンを取り出していた。
ミセ*゚−゚)リ「あれ? ……あ、そっか」
空っぽの冷蔵庫。
そういえばあれは昨日飲んでしまったんだった。
仕方なく手ぶらで戻ってくると、お兄ちゃんは鞄の中から1本の缶ジュースを取り出した。
用意のいいことだ。
あの鞄の中にはもう2、3本は入っているのだろう。
再びキッチンに向かい、コップを1つ手に取る。
そしてもう片方の手を伸ばし、その脇に転がっていたビー玉を1つ摘み上げた。
ミセ*゚−゚)リ「神様か……」
何の変哲もないビー玉。
覗いて見ても向こう側が透けて見えるだけのただのガラス玉。
でも、それは私の神様なのだ。
私は、リビングに戻りテーブルに置いたコップにサイダーを注ぐ。
透明なコップの中で弾ける炭酸の泡はいつ見ても綺麗だと思う。
子供の頃からずっとそう思っていた。
今も本当にそう思っているのだろうか?
ミセ*゚−゚)リ「……」
ぽちゃんという音を立て、サイダーの中にビー玉が沈む。
泡だらけの神様の先に、ブルーバックの画面が広がる。
それが私のほうに向けられたノートパソコンの画面だというのはわかっている。
見慣れない名前が並んでいたはずのそれだったが、今では少し覚えてしまった。
名前は所詮名前だけど、その名前の価値を上げるため、多くの人が日々汗水たらして働いているのだ。
ミセ*゚−゚)リ
私は神様に意識を集中させる。
いくつもの点が線になり、やがて流れるようなイメージが浮かぶ。
( ^Д^)「どうだ?」
ミセ*゚−゚)リ「……」
遠くで誰かの声がしたが、私には聞き取れなかった。
でも、私が何を求められているのかは理解している。
ミセ*゚−゚)リ「……荒巻コーポレーション……鈴木商事……あと、は瀬川堂かな」
( ^Д^)「おお……」
それからいくつかの名前を羅列した。
その都度、遠くで声がしたが私にはよくわからない。
しばらくの後、目を閉じ、神様から意識を離す。
外界の音が戻ると、そこには熱心に何かを書き込むお兄ちゃんのペンの音しか聞こえてこなかった。
( ^Д^)「ありがとな、助かったよ」
挨拶もそぞろに、お兄ちゃんはそそくさと帰り支度を始める。
いつもの事なので、私はただ無言で飾り立てた笑顔を返す。
再び秒針の音だけになった部屋は、先ほど以上にだだっ広く感じられた。
変わったものは目の前に置かれたサイダーと、お兄ちゃんが持ってきたお土産だけ。
ミセ*゚−゚)リ「ケーキかな……」
中身はやはりロマネスク亭の新作ケーキ。
お兄ちゃんは女性が何を好むか熟知しているのだろう。
仕事柄もあるが、元々そういう点は抜け目がない人だったから。
なんだか無性に叩き潰したい衝動に駆られたが、ケーキに罪はない。
作った人に申し訳ないし、食べ物を粗末にするのは大嫌いだ。
ミセ*゚ー゚)リ「甘いな……」
ケーキはとても甘く、とても美味しかった。
こんな時でも美味しいと思える自分の食い意地に少し笑えたが、美味しいものはどんな時に食べても
美味しいものなのだろう。
けれど、これは何の対価なのだろうか。
私の行動の対価?
それとも、神様へのお供え物か。
ミセ*゚ー゚)リ「甘い……」
泣きたくなるくらい甘いケーキ。
私はサイダーでそれを流し込んだ。
神様がコップの中で音も無く転がる。
ミセ*゚ー゚)リ「これも私が選んだんだ。だから……」
だから私はこれでいい。
私はこうして生きていく。
生きていけるのだから。
ミセ*゚ー゚)リ「それでいいんだよね?」
泡まみれの神様は何も答えてくれない。
本当に知りたい事は何も教えてくれないのだ。
ミセ*-ー-)リ「……おやすみ」
私はソファーに転がり、そのまま目を閉じた。
眠れば色んなことが忘れられる。
この気持ちもきっと、明日には忘れてしまえるだろう。
〜 中編 終わり 〜
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