(;'A`)「ブーン、ジョルジュさんはまだ見えてるぞ頑張れ!」


ドクオの声もブーンには届かなかった。

( ゚∀゚)「さて、それじゃ行くか!」

ここに来てさらにペースアップするジョルジュ。
ブーンは後ろからそれを確認すると、完全に落ちた。
精神的に殺された。

追いつこう、頑張ろうという気力がゼロに等しかった。

早くこの競技から終わりたい。
辛い、もう嫌だ。

(;'ω`)(ジョルジュさんは余裕だったのに、自分は……)

足に力がまったく入らなくなった。
それでも集中しないと、何とか頑張ろうとする。




それでもいっぱいいっぱいで、とうとうブーンは集中力まで切れた。



それ以上は出せなかった。

表現としては足の筋肉がスカスカになったとでも言おうか、力が入らないしペダルをこいでいる感が無い。
ただ足をクルクル回すだけだ。
ペダルに足を乗せるだけ。

どんどんと抜かれた、それでもブーンは頑張る事が出来なかった。

(;'ω`)(チェーンが外れてくれないかお……ここでパンクしたら終われるお……)

そんな事ばかり考えていた。
終わりたい、完走なんてどうでもいい。

目の前の道が揺れて見えるのは陽炎か、視点が合っていないのか、それを確認すら出来なかった。

ジョルジュは最後の1周を快調に飛ばした。
想像以上に飛ばしたのか、予想以上のダメージが足にあったがタイムは悪く無いだろう。

脹脛、モモに力を入れてペダルを引く。
ペダルと靴が一体化しているロードバイクでは押し込むだけではいけない。
引く・押す、これらのバランスが取れることで効率よいペダリングが可能になる。

そのままいいスピードでジョルジュはバイクを終える。
停止ラインで停止すると、バイクを降りて再びトランジットエリアへ入る。

バイクを置いてヘルメットを脱ぎ、バイクシューズからランニングシューズに替える。
軽く水分を補給すると帽子をかぶってすぐに走りだした。


トランジットもいい感じだ、そしてランのスタートラインを越えた。

(;゚∀゚)(先に行くぜ、ブーン)


ジョルジュ:
スイム 25'45"(23位)
バイク 1:10'04"(17位)
スプリット 1:35'49"(18位) ※スイムとバイクを足した通過タイム及び順位のこと

この大会のランのコースは2.5kmのコースを2往復する。
若干の高低差はあるものの、ほぼフラットと考えてもいいのではないだろうか。

ジョルジュは勢い良く走り出すが、さっきまでバイクに乗っていたのだ、腰の位置が安定しない。
地面を蹴るたびに体全体が宙に浮く感覚になった。
その度慌てて腰の位置をキープしようと努める。

(;゚∀゚)(思ったよりも体は大丈夫だな……)

しかし油断してはいけない、疲れは一気に来る。
既に1時間半以上を絶え間なく運動しているのだ。

ジョルジュはゆっくりと走った。
数人に抜かれるが気にしない、出だしで飛ばしても後半で痛い目を見るだけだ。
バイクのせいで上がらないモモに活を入れ、一歩一歩進んでいった。

ブーンは遅れてバイクをこいでやって来た。
ゴールが見えてもスピードを上げる気にならない、
そのままゆっくりと停車ラインまで来るとペダルから靴を外してバイクから降りた。

地面に足が着くと、直後に脹脛に強烈な衝撃が走った。
まるで脹脛が下から持ち上げれるような感覚。

歯を食い縛り、ブーンはバイクを押してトランジットエリアへと入って行った。

バイクを置くとヘルメットを脱ぐ。
呼吸を整えたい、そんな暇は無い、葛藤と戦いながらバイクシューズを脱いだ。

そしてランニングシューズをはこうとしたその瞬間、脹脛が完全に持ち上がった。

攣(つ)ったのた。


(;゚ω゚)「おおおっ!?」

慌ててストレッチをする。
周りがどんどんとランへ移行する中、ブーンは一人アキレス腱を伸ばしていた。

(;゚ω゚)(くそ……くやしいお……)

そう思っても靴すら履けない状態なのだ。
アキレス腱をしながら置いてある飲み物に口をつけた。

喉が渇いているはずだが、不思議とがぶ飲みする気にはならなかった。
むしろ気持ち悪さを感じて少し口にしただけでドリンクを再び地面に置いた。

(;'ω`)(そろそろ……大丈夫かお?)

改めて靴を履こうとすると、やはり脹脛の筋肉が持ち上がろうとする。

(;'ω`)(今はかないと、いつまで経ってもスタートできないお……!)

ゆっくりと、慎重にブーンは靴をはいた。

何とかはき終わると、帽子をかぶって走り出す。

(;゚ω゚)「……おっ!」

が、一度攣りかけた足はブーンの走りを妨害する。
接地するその衝撃ですら脹脛が殴られたかのような衝撃だった。

(;'A`)「ブーン、頑張れー!!」

(;゚ω゚)(……ドクオ! そうだお、ここで頑張らないといけないお……!)

バイクのせいでモモの筋肉は完全に殺された。
足を上げようと思っても上がるわけが無かった。

ゆっくりと引きずるように、それでもブーンは一歩一歩足を前に出した。
歩かないように、せめて走り続けなければ……。


ランのスタートラインをようやく跨いだ。
とうとうラスト、3種目めがスタートした瞬間だった。


ブーン:
スイム 19'51"(3位)
バイク 1:22'46"(76位)
スプリット 1:42'37"(33位)

ジョルジュは出だしで数人に抜かれたが、1kmもしないうちに抜き去った人間達との差は開かなくなった。

ラン重視の人間はここで驚異的なスピードを発揮する。
そういう人間が1人抜いていったが、それは相手にしてはいけない。
自分のペースを守った。

そして2.5kmの折り返しでようやく前を1人捕らえる。
ジョルジュの息は当然乱れているが、相手ほどではない。
相手は肩で息をして一歩一歩が安定していない。

しっかりと抜いた。
そしてターンする。

(;゚∀゚)「うし……っ!」

往復のコースでは後ろの状況や前の選手までの距離が明確になる。
それがプレッシャーとなるか力となるか……ジョルジュはそれも上手くコントロールした。

(;゚∀゚)(もう一つ前のヤツは顔からしてもう限界だった、あと少しだ……少し耐えればきっと落ちてくる……)

ジョルジュの読みどおり、しばらく走ると前の選手はペースダウンした。
それを変わらぬペースで抜き去る。

(;゚∀゚)(悪いね)

相手を抜き去ることで精神的に楽になる、重要な事だ。
ジョルジュはここで改めて気持ちを切り換えてさらに前の選手を見据える。

結構な距離がある、それでも……自分を信じた。

(;゚∀゚)(このペースでずっと走れば抜ける、だから相手よりも先にペースを落としたら負けだぞ……!)

モモの上がらない足は心もとなかった。
ペースだって落ちてないと信じているが、実際は少なからず遅くなっているはずだ。

だからこそ精神的に楽でいないといけない。
ジョルジュは頑張って足を動かした。

(;゚∀゚)(クソ……ッ! なかなか距離が縮まらないな……!)

ブーンはずっと上がらない足や攣りそうな脹脛と戦っていた。

暑い、頭も朦朧とする。
今になってスイムで飲んだ海水が体を蝕む。
吐き気がする。

何より、この暑さだというのに汗が体から出ていないのだ。
途中にある給水にようやくたどり着くとコップ一杯の水を飲んだが、一向に汗は出てこない。

(;゚ω゚)(やばいお……死ぬお、死ぬお……)

脹脛の筋肉が膝を通り越してモモまで持ち上がりそうになる。
モモの筋肉はさらにその上、お尻まで持ち上がりそうだ。

腰の位置も安定しない、下がりすぎて靴底が地面を擦りながら走ったりもした。

コースの途中でジョルジュはブーンを発見した。

(;゚∀゚)「よお、頑張れ!」

しかしブーンは目線を足元に合わせたままピクリとも反応しない。
足を引きずって、肩を揺らしながら、呼吸はヒッヒッと水分が足りない音をしている。

(;゚∀゚)(あちゃー、大分とやられているな……)

だが自分よりも辛い相手を見ると幾分精神的に楽になる。
酷い話だと思うが、これがスポーツの世界だ。

(;゚∀゚)(悪いな、ブーン)

ジョルジュは再び前を見た。
まったく距離の縮まらない相手がそこにはいた。
それでもその選手と一緒に、その更に前にいる選手を喰らっていく。

しかしラン重視の人間も多い、何人も抜いた一方で、何人にも抜かれた。

(;゚∀゚)(順位的には2つくらいアップしたかな……?
     だがまだランも半分以上あるしな、まだまだだ……)

(;'A`)「ジョルジュさん頑張れー!」

ドクオの応援に笑顔で答える。
余裕か……そうドクオは思ったが、当のジョルジュに余裕など無い。

一向に前はペースを落とさない、そしていよいよジョルジュはペースダウンしてしまった。

(;゚∀゚)(クソ……さっさと落ちろよ……やられたぜ)

一気に襲い掛かる疲労、足首の痛み、自分の体重を支えきれない膝。
ジョルジュだって汗が出ていない。

呼吸が乱れた。

(;゚∀゚)「ヒュッ、ヒュォッ!」

腰が落ちてきた。
肩が揺れだした。

(;゚∀゚)(給水は……まだなのか……!?)

早く気持ちを切り換えなければ落ちるばかりだった。

ようやく折り返したブーンだったが、
辛い辛いと思いながら一定ペースで走っていた彼にとって折返しですら障害となった。
乱れるリズム、途切れる集中力。


足が攣りそうな事ばかり意識していて忘れかけていた、純粋な疲労。


顔を大きくしかめた。

歩いている人がいる、自分は絶対に歩かないぞ。
そう思いながらも、歩いたらどれだけ楽だろうと考えてしまう。

そしてよそ事を考えて走っていると突然来る攣りそうな衝撃。

とてもまともに走れなかった。

(;゚ω゚)「フヒッ、ヒュー、……ヒュッ!」

無茶苦茶な呼吸だ。

給水では水の入ったカップを2個もらって、両方とも頭からぶっ掛けた。
しかしちょっと走ればすぐに肌は乾きだす。

死ぬんじゃないのか、そんな事をまじめに考えてしまった。

ジョルジュはようやく3度目になる折り返し、7.5km地点を通過する。
何とかえらいと思わずにここまで走れたが、折り返しで集中力が切れて疲れを改めて認識した。

そういえば足も痛かったな、そう思った途端痛くなるから不思議だ。

否定的な事を考えれば落ちる一方だ。
一周抜かしの選手も混ざって誰を抜いていいのかも分からない中ひたすらに走った。

(;゚∀゚)(そういえばブーンを見かけなかったな……俺も注意力散漫か……。
     いや、逆に走る事に集中できていたと考えるべきだろうな……)

僅かな事でも良い、ポジティブな事を考えるんだ。
何人に抜かれても良い、相手を抜いたことだけを考えるんだ。

残りは4分の1、ジョルジュは無理にペースを上げる事無く走った。

(;゚ω゚)「ハヒュッ、ヒュッ……!」

ブーンはもうボロボロだった。
辛い、酷使し過ぎた体、ここまでの疲労は生まれて初めてだろう。

一歩一歩が筋肉から心肺器官、脳といった全てを刺激する。
既に筋肉は悲鳴を上げている、バイクの筋肉痛が来ているとでもいうのか。

一歩踏みしめるたびに痛み、自分の筋肉の形が手に取るように分かった。

(;゚ω゚)(筋肉は……こんな形、していたんだお……)

そして脹脛にある筋肉という名のボール。
このボールが上がると足が攣るのだ。
つま先立ちなどしたら一発でそうなる事だろう。

(;゚ω゚)(もう、限界だお……)

残り半分、それでこの長かった戦いは終わるのだ。

ここまで来てようやくブーンはゴールが見えた。
しかし頑張ろうという気になれないのはどうしてか。

(;'A`)「お、ジョルジュさんだ!」

ドクオがゴールで待っていると、ようやくジョルジュが帰ってきた。
足に力は無いが、ラストだからだろうか、体を必死に動かして走ってくる。
フォームなんてあったものじゃない、しかしもうこれで終わりなんだ。

低い腰位置で無理矢理体を動かし、大きな一歩でゴールへと向かう。

そしてゴールテープを切った。

(;゚∀゚)「くおりゃぁぁ!」

ゴールしたと同時、力なく歩く。
ドクオは慌ててジョルジュに寄った。

(*'A`)「お疲れ様です、メッチャすごかったです!」

(;゚∀゚)「あー、やっぱきついわ。でもブーンの、おかげでがんばれたな、負けれねーなって」

慎重に体をさすりながら、ジョルジュはその場に座った。
足を伸ばしてふぅと息を吐いた。

(;゚∀゚)「ブーンはどの辺り?
     途中からそれ所じゃ無くなってさ」

('A`)「もうちょっと後だと思います、5kmはもう超えましたが」

(;゚∀゚)「そうか。……あー、しっかし疲れたー!」

ドクオは急いでサービスのドリンクを貰って来るとジョルジュに渡した。
それをジョルジュは一気に飲み終える。

(;゚∀゚)「もっと貰って来てもらえるか?」

(;'A`)「あ、はい!」

急いでドクオがドリンクをもってくると、ジョルジュはまたすぐに飲み乾した。

(;゚∀゚)「あー、やっぱり2L位なら一気に飲めるな、トライアスロンの後は」

決してそれは比喩では無かった。
実際今も2Lを越えてもおかしくないほどの量のドリンクをジョルジュは飲んでいた。
それだけエネルギーを使ったのだ。

遅れたように多量の汗がジョルジュから噴き出した。

( ゚∀゚)「さて、それじゃブーンを待つか」

そう言ってジョルジュは体を持ち上げる。
体育祭の後の帰宅部のようだった、体を持ち上げるのすらスローに、慎重に。

そしてゆっくりと歩きながらゴール地点へと移動する。

ドクオは既に両手にドリンクを持っていた。
ブーンがゴールしたらすぐに渡すためだ。

しかし中々ブーンは来ない。

('A`)「来ませんね……ジョルジュさん、大丈夫ですか? 座っていますか?」

( ゚∀゚)「大丈夫だよ、立ってるだけならへーき。
     それよりもドクオ、トライアスロンを見た感想は……どうだ?
     次はお前も加わるんだぜ?」

(;'A`)「ちょっと恐怖の方が大きくなったっていうのが本音ですね」

そう言うドクオにジョルジュは笑って見せた。

( ゚∀゚)「大丈夫、記録さえ狙わなければもっとまったりと楽しめるよ」

嘘だ。
そう感じながらも、ドクオは笑って返した。

('A`)「でも、次は絶対に二人の中に加わります。
     見ているだけってもどかしかったので」

( ゚∀゚)「そうこなくちゃな」

そして二人で改めてブーンを待った。

軽く話しては止めて、そんな行為を繰り返しているとようやくドクオがそれらしき人影を見つける。

('A`)「あ、アレじゃないですか?」

( ゚∀゚)「どれどれ……マジだ、あれっぽいな」

上半身を左右にぶらしながらこちらに向かって走ってくる影。
その見慣れた影。

必死に叫んだがその影はこちらを向かない、ずっと下だけを見て走ってきた。

('A`)「ブーン!」

( ゚∀゚)「おいブーン、ラストだぞー!」

叫ぶ二人、ようやくブーンが反応したと思うと、応援の二人よりもゴールのゲートに感動したのだろう。
すぐに走りに力が入ったのが分かった。

相変わらず上がらないモモ。
地面スレスレで入れ替わる足。

それでもゆっくりと一歩一歩近付いて行った。

顔は笑っていた。
疲れているのだろうが……それでも笑いを忘れていなかった。


そして……手を広げて……ブーンはゴールテープを抜けた。


数歩歩いてその場にしゃがみこんだ。


(;'A`);゚∀゚)「ブーン!!」

ようやく終わった試合、完走した喜びよりもようやく終わったという安堵感が大きく増していた。

それでもドリンクを飲み、少しづつ汗を噴き出して回復していくと達成感が漲ってきた。

(;'ω`)「僕は……完走したんだお……」

言ったブーンに、二人は大きく頷いた。
そして汗まみれのブーンの体を、バチンと叩いた。

('A`)゚∀゚)「お疲れ様!」

(;^ω^)「おっおっ!」

完走した喜び、それは当然あった。
ただ……漠然としすぎていて、ブーンはただ笑うことだけしか出来なかった……。





ニューソク トライアスロン大会


ショートの部:51.5km(スイム1.5km、バイク40km、ラン10km)
     参加者  101人


ジョルジュ:
スイム 25'45"(23位)
バイク 1:10'04"(17位)
スプリット 1:35'49"(18位)
ラン 46'57"(27位)
総合 2:22'46"(17位)

ブーン:
スイム 19'51"(3位)
バイク 1:22'46"(74位)
スプリット 1:42'37"(33位)
ラン 57'40"(77位)
総合 2:40'17"(47位)


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