( ^ω^)ブーンがトライアスロンに挑戦するようです 2レース目前半

7月の頭、当然のように激しく照りつける太陽が競技前から体力を奪っていく。

アスファルトは熱く、まるで鉄板の上に立っているようだった。
以前も思ったことだが、トライアスロンというのはなかなか見ている方もあつい。
あついとは暑いであり、熱いでもあるが。


今回泳ぐのは湖、しかし実に汚い。
10cm先が見えないほどの茶緑色、こんな所を本当に泳ぐのだろうか。
無味無臭がさらに気持ち悪かった。


『選手の皆さんは、スイムチェックを終了して……』


いよいよだ。

この上ない緊張が体にのしかかった。
早くスタートしてくれ、早くスタートしてくれ……そればかりだった。


『選手の皆さんは、スタートラインへ……』


今回も前回同様水に浮きながらスタートの合図を待つ、フローティングスタートだ。
これがなかなか難しい。

一度沈む。

ぶくぶくぶく……ぷはっ。

そして2〜3秒浮いているとまた疲れてくるので、再び息を大きく吸って沈む。

ぶくぶくぶく……ぷはっ。

泳ぐ前から腕は疲れるし息は乱れるし……これで本当にこの先競技をやっていけるのだろうか?

(;^ω^)「ドクオ、大丈夫かお?」

(;゚∀゚) 「初めては辛いだろ、俺もそうだった」

(;'A`)「ちょっと辛い……スタートまだか……」

『スタート3分前です』

耳を疑った。


スタートまで残り1分、既にドクオは息をぜぇぜぇ言わせ、苦しさを露にしていた。
ブーンは大外から自分のペースで泳ぐと言って、外側へ一人行ってしまった。

( ゚∀゚)「そろそろだぜ?」

(;'A`)「はひっ」

ドクオはまだ潜って、浮いて、息を吸って、潜って……そんな動作を繰り返していた。
腕の筋肉が、肩がもうだるい。
ダメだ。


プア〜


相変わらずの気の抜けるようなスタート音、しかしドクオはその時潜っていて音を聞き逃した。

水中から顔を出すと泳ぎだしている周り、後ろからぶつかられる。

慌ててドクオも泳ぎ出した。
息を整えている余裕なんて無い、既に疲労を感じている腕を頑張って動かして進んだ。


泳ぎだすとその人数に驚愕する。
後ろからすごいスピードで追い抜く者に、少しでも得をしようと前からスタートして次第に落ちてくる者。

選手の上に乗っかったりもしたし、自分が乗っかられて息継ぎすらままならない時もあった。

まるで格闘だ、前の選手の足に手が当たろうものなら、バタ足を思いっきりされた。
足を引っ張られて思わずその場で泳ぎをやめてしまった。

(;'A`)(誰が……!?)

そう思って見ても、結局犯人は誰なんだか分かりはしない。
既にトップグループはずっと先まで行っていた。

今回のコースは一周500mを3周回のコースだ。
スイムでの一周抜かしだってありえる、ドクオはそうならないようにと頑張って泳いだ。


(;゚∀゚)(やっぱりコースが小さいと面倒だな……)

ジョルジュは良い感じで泳いでいたが、小さいコースでは少しでも短く回ろうと内側に選手が集まる。
その勢いがものすごく、少し大回りをしていたのだがそれでも何度と肩がぶつかったし頭を叩かれた。

トップグループは既に小さくしか見えない、きっとそのどれかがブーンなのだろう。

(;゚∀゚)(遠いな、ちょっとペースアップいくか……)

人波がペースアップをじゃまする。
もう少し行けば若干人の少ない場所がある、何とかそこに行こう……ジョルジュは腕に力を込めて泳ぎ出した。


(;^ω^)(よし、いい位置だお!)

誰ともぶつかり合う事無く、ブーンは早々にトップグループに追いついた。
大外を回ったので当然泳いでいる距離は多いわけだが、精神的な余裕があるのは大きかった。

泳ぎにだけ集中できる。
ブーンは2位の選手と並んで泳いでいた。

今回は前回と違いバタ足も多用していない、腕の力でしっかりと泳げている。

500mを3周で、前回よりも距離感覚がつかめるのも良かった。
水だって前回のような塩水じゃない、汚さなんて気にしなければどうってこと無い。

(;^ω^)(今日はデレが見に来ているお、絶対にいい所見せるんだお!)

精神的にブーンは強く、しっかりと泳いだ。


残り水泳距離、900m。


ジョルジュは一周目が終わる頃には集団から逃げて人の少ない場所にいた。
が、急なペースアップはやはり体に響いた。
次第に元の集団に追いつかれてくる。

(;゚∀゚)(くそ……でもスイムで無理はできない……)

2周目に入るとすぐ、ジョルジュは集団に飲み込まれた。
そしてその集団の一人として、改めて泳ぎ出した。

(;゚∀゚)(これ以上は落ちないようにしないとな……)


残り水泳距離、950m。


(;'A`)「はぁッ! んん……ッぷはぁッ!」

呼吸は早くも限界だ。
息を吸っても吸っても足りない、もっと、もっと……止まってでも一気に息継ぎをしたい。


腕が痛い、水が重い、沢山水を掴もうものならその負担は腕に驚異的な負担をかけた。


息継ぎがしたいんだ、そのためには腕の回転を早くするしかない。
ドクオはわざと水を掴まないようにして腕の負担を減らし、腕を沢山回転させた。


(;'A`)(もっと、空気、もっと……空気がいる、酸素、酸素……ッ!!)

これでまだ1周目なんだ、精神的な負担がさらにドクオを追い詰めた。


残り水泳距離、1000m。


ドクオは運動経験は皆無に等しかった。

小学校こそ野球クラブに所属していたが、必ずどこかの部に入らないといけなかったからであり望んだ事ではない。
実際ほとんど部活には行っていなかった。

高校、大学では人見知りするおどおどした性格のためにろくに友達付き合いもできず、一人だった。
部活やサークルも怖くて入らずに、そのまま今の小さな印刷会社に入った。


(;'A`)(何で俺こんなことしているんだろう?)


そう思いながらも真面目な彼の性格が地道な努力を積み重ねさせた。
他人のいる所で努力できない性格の彼は、常に隠れて一人練習した。


おおよそ8ヶ月、この間にドクオは見る見る成長した。


決して覚えが良かったわけでは無い。

初めは25mを泳ぐのもままなら無いドクオはひたすら会員登録した温水プールで毎日泳いだ。
会社後に30分だけでもと練習を繰り返した。

それでも誰か知っている人に鍛えてもらったのならまだしも、自己流では効率は悪い。
フォーム、水の掴み方……様々にあるがドクオはそれらを無理矢理自分に詰め込んだ。


2ヶ月経って、ようやく500mを泳げるようになった。
毎日泳いでいたのにこんなものだ、運動の才能は無かったのだと挫折しかけた。


しかしそれから絶えず頑張り続けた。
そして前回のブーンの大会を見て自分も出たいと思った。


やる気を出して頑張ったのに……その結果がこれか。
成長を重ねた結果がこんなものなのか。
ほとほと自分の情けなさに呆れるばかりだった。


( ゚∀゚)『初心者が一番つまずくのがスイムだ。
     他はどうにかしようと思えばどうにでもなるが、スイムだけはそうもいかない』

(;'A`)(ちくしょう……!)

辛くて泣きそうだった。
努力でどうにかなる事を信じてドクオは努力をした。
負けるかと頑張った。


そうじゃないのか。


自分はただのピエロなのか。


(;'A`)(くそ、くそ……ッ!!)

無茶苦茶な顔をしていた事だろう。
ドクオは今すぐにでも止めたいと思いながら泳ぎ続けた。


ξ*゚ー゚)ξ「ブーンは泳ぎはトップの方で来るって言っていたけど……」

デレは目を凝らして見たが、やはりどれがブーンか分からない。

選手はナンバーカードのほかにナンバリングと言って肩や足に油性マジックでナンバーを書く。
これで水泳から上がった選手の番号は把握するのだ。

が、泳いでいる時の腕をかく動作ではナンバーを見ることはできない。

ξ*゚ー゚)ξ「あ、あれがなんだかそれっぽいかも……!」

そう思って見た選手は、現在2番手で並んで泳いでいる。
正にそれがブーンだった訳だが、デレは半信半疑といった様子でその選手を追っていた。


それにしても夏は暑い、応援も楽じゃないなとペットボトルのお茶を飲んだ。

そして目を選手に戻すと、2番手を競う二人の選手の内どちらがブーンか分からなくなっていた。


(;^ω^)(ふぅ、ふぅ……呼吸は短いけど、いい感じだお……!)

ラスト1周になるとブーンはまたスピードを上げて、2位に浮上した。
前の1位の選手までは少し離れている程度、追いつけなくも無い。

(;^ω^)(……!!)

どうする、どうする。

一瞬頭に過る恋人の姿。
いいのか、いい所見せたいがばかりにここで無理をしてもいいのか?

実際腕はかなりピキピキと悲鳴を上げている、バタ足だってまったく使っていないわけじゃない。
体への負担は間違いなく大きくなる。

悩みながらもスピードは落とさない、ゆっくりとではあるがブーンは1位の選手へと近付いていった。


(;'A`)「はぁ……はプッ!!」

他の選手によって起こされた波が息継ぎを妨害する。
今は少しでも空気が必要だというのに……慌ててその場で顔を上げて息継ぎをした。

フォームが崩れる、ゆっくりとそれを元に戻したがリズムは戻らない。

一気に腕に負担がのしかかってくる。

(;'A`)(死ぬ……死ぬ……死ぬ……)

一かきする度にそんな言葉が頭を舞った。
筋肉はパンパンで、力を入れることすら出来ない。

ただ回転させて、ただ前に進むだけだ。

(;'A`)「ふばはぁっ!」

息継ぎも大分大袈裟になってきた。


『トップグループがいよいよスイム競技を終えようとしています。
皆さん、拍手で迎えてあげて下さい!』

沸き起こる歓声、疎らな拍手。
ただでさえ熱気こもったこの空間がさらにヒートアップした。

ξ*゚ー゚)ξ(ブーン、頑張って……)

『一位選手と二位選手の差は僅かです。
少し離れて三位の選手が、それ以降はまた少し離れております』

ブーンは一位なのか、二位なのか。
それとも三位なのかそれ以下なのか。

一周抜かしの人達と重なってから、トップがどの選手か見ていても分からなくなってしまった。
どれがトップでどれが二位か、その差はどれだけあるのか。
全ては湖から出てきた時に判明するのだ。

『一位の選手が今、スイムを終えました!』

いよいよ高まる観客のざわめき、熱気。
ツンが心配で見守る中、いよいよ一位の選手が姿を表した。


『スイムを一番で上がったのは、ゼッケンナンバー001番フサギコ選手です!』

歓声が一層強さを増す。
頑張れ、ファイト、様々な言葉が沢山疎らに響き渡った。

ξ*゚ー゚)ξ「あ、頑張れ……」

ついついデレも応援してしまう。
この一帯にそんな雰囲気があったのだ。

『続いてはゼッケンナンバー077番、えー……ブーン選手、ブーン選手です!』

再び巻き起こる声援の数々、デレはそれに驚きを隠せないでいた。

一社会人、きっと誰もブーンのことは知らないだろう。
なのに……誰もがトランジットエリアに走っていくブーンに声をかけていた。

ξ*゚ー゚)ξ(寂しいな)

そんな嫉妬を覚えてしまうほどの空間だった。

ξ*^ー^)ξ「ブーン!!」

ブーンはこちらを見ると、軽く手を振って走って行った。


『フサギコ選手は1週間後に全国2chトライアスロン大会を控えていながらこの大会に参加し……』

実況の人が言葉を続ける内にも早々にフサギコはバイクをついて、乗車ラインからバイクに移っていった。
ブーンも今回は迷わず自分のバイクを見つけると、すぐに準備してバイクを押して走る。
乗車ラインに到着すると、すぐに乗車して行ってしまった。

ξ*^ー^)ξ「頑張れー!!」

その言葉に今度は反応が無い、少し悲しかった。
同時、ブーンのその懸命な姿に心打たれた。
沢山の人から応援されるその姿に。

『4位、5位の選手も続々と……』

気付けば3位の選手ももうバイクの準備をしていた。
デレは慌ててバイクの応援場所へと移動した。


ブーン:
スイム 19'09"(2位)


今回のコースは6.5kmを6周の周回コース。
プラスその周回コースまでの片道500mが2回で計40kmだ。

走り出しはやはり気分がいいし調子も悪くない。
疲労とは裏腹に足の回転は良好、スピードも全然出る。

(;^ω^)(ここで油断してはいけないお……)

分かってもいるが、色々な事がフラッシュバックする。

前回ジョルジュに抜かれて一気に精神的なダメージが来て減速したこと。
前半飛ばしすぎて後半でだれた事。


(;^ω^)(どうすればいいんだお……)


考えながらも動く足は止めようが無い。
そのままブーンは快調なペダリングでバイクを走らせた。


(;゚∀゚)(もうトップグループはバイクに移っている頃だろうな……)

ジョルジュは想像以上に周りとぶつかった影響で、ペースは悪くないにしても疲労していた。
腕も疲れているし、バタ足も威嚇のために何度と使った。

(;゚∀゚)(大丈夫だ、疲労よりも精神的な面の方が大きいからな、トライアスロンは)

そう自分に言い聞かせて泳ぎ続ける。
スイムゴールまではあともう少しだ。

(;゚∀゚)(スパート、行くぞこのヤロウ!!)

無理矢理気合を入れてスピードアップするが、周りも同様にスピードアップをする。
ほぼ同じ速さの者が集まっているのだ、当然といえば当然だろう。

結局ダンゴのまま水泳から上がった。

(;゚∀゚)(ち、トランジット勝負か……!)

なまじ実力がある者達はプライドも高い、我先にと歓声の轟く会場を走った。


同時に4名ほどが岸に上がり、我先にと走り出す。
その闘争は見ている者をより熱くした。

   「負けるなー!」
   「いけー!」

(;゚∀゚)(わーってるよ)

そんな事を思いつつ応援に励まされながら、ジョルジュはすぐにウェットスーツを脱いでバイクの準備をした。
が、既に一人はバイクを押して乗車ラインへ向かっている。

(;゚∀゚)(はぇえええ!! ウエットスーツ着てたよなアイツ?)

そう思いながらジョルジュもそれに続いた。


ジョルジュ:
スイム 25'22"(21位)


トップとはかなり離れているだろう、それでもジョルジュはマイペースを保ってバイクをこいでいく。

(;゚∀゚)(とりあえずはブーンだな、ブーンさえ見つけれれば抜いて精神的に楽になる。
     それまではマイペースでじわじわと追い詰めていくか)

先にバイクをスタートした前の選手に追いつくとそのまま抜き去る。
が、相手も負けじと後ろに付いて来る。

(;゚∀゚)(ったく、ドラフティングは禁止だろ……!)

バイクでは相手の真後ろについて風除けにする『ドラフティング』というテクニックがある。
しかしこれは技術の無い人には危険なため、エリート大会でなければ禁止されている場合が多い。

が、そのルールもあってないようなものだったりする。
ドラフティングをしている人は大会でも事実多い。

そもそもドラフティングの定義が極端であり、狭いコースでは致し方ない場合が多いのだ。

(;゚∀゚)(とりあえずコイツと一緒に前を追いかけるか……)

そしてバイクでは協力が重要である。
これはエリートに限った事ではない、ある一定の速度で走り続けれる仲間を見つける事が重要なのだ。
付いていく相手を誤れば自滅したりタイムが悪いなどざらだ。


(;'A`)「ッパハァッ!」

ドクオもとうとうスイムのラストに差し掛かっていたが、いかんせん人が多い。
まさか最後の最後までこんなに沢山の人間にもまれると思っていなかった。
場所が悪い、そう言ってしまえばそうかもしれない。

隣に一人、前に二人、後ろに三人。
これらが固まってゴールに向かっていた。

(;'A`)(終わりだ、終わりだ……!!)

ラスト数十メートルが長い。
力が入らない。
進まない。

そんな思いを様々に交錯させながら、ようやくドクオはスイムを終わらせた。

陸に到着し、力を込めて一歩を踏みしめる。

(;'A`)「!!」

そのまま地面にぐしゃりと潰れてしまいそうな感覚だった。
足に力が入らない、むしろ足の感覚が無い。
地面に本当に着いているのだろうか、自分の体を支えられているのだろうか。

(;'A`)「く……ッ!」

それでも止まるわけにはいかない、腰を折り曲げて無理矢理ドクオは走り出した。


沢山の声援が聞こえる、しかしそれが全て別世界の事のように感じる。
周りを見渡す余裕なんて無い。

(;'A`)(ブーンも、前回は……こんなだったな……)

そう思いながら途中にある給水で水をもらい、少し口に含んであとは頭からぶっ掛けた。

ウェットスーツを腰まで脱ぐと、そのまま自分のバイクの所まで走る。


走るのが遅い、一緒に上がった集団の中でもっとも遅かった。


(;'A`)(くそ……走れるかよ、こんな足で……!!)


ランニングが3種目めに残っている、それすら忘れてドクオは悪態をついた。

バイクに着くとウェットスーツを脱ぎ捨て、バイクの準備に掛かった。
いざやってみると自分の遅さに苛立つ。
ブーンを見ていた時はもっと早く出来るなどと思っていたのに……甘い考えだった。


それでも何とか準備を終わらせるとすぐにもバイクを押して乗車ラインへ向かう。

トランジションで数人抜かしたようだ、トランジットエリアでのんびりしている人を数人見かける。

(よし、頑張るぞ……)

スイムが終わったんだ、一番のネックだと思っていたスイムが終了したんだ。

後は知らない、ひたすらに突っ走るのみだ。
ブーンやジョルジュとは相当な差がついているだろう、もう知ったこっちゃ無い。


ドクオはバイクにまたがると、一気にスピードを出した。


ドクオ:
スイム 28'40"(40位)


('A`)(……?)

体全体がだるい、疲労は感じる。
ペダルをこぐ足に力は入らない。
しかし不思議とバイクは速く進んだ。

(;'A`)「……これならいけるかも……」

体全体で息をしている状態だ。
それでもバイクは不思議にもぐいぐいと進んだ。
既に選手は2人も抜いている。


そうだ、練習は積み重ねたんだ。
幾度も挫折しそうな中頑張ったんだ。
自分の努力を自分が信じなくてどうする。


(;'A`)「光る風、を追い、越したら、君に、きっと会えるね……」


ドクオは歌を軽く口ずさみながらバイクをこいだ。
フォームなんて知らない、体に染み付いている。


『ただ今、トップが1週目を通過します』

ξ*゚ー゚)ξ「!!」

また歓声が一際大きくなった。
まだ水泳をしている選手も僅かにいる、それでもどんどんと進んでいくんだ。

トップ選手が目の前をすごいスピードで去って行った。

追うように数人がまとめて目の前を通り過ぎる。

ξ*゚ー゚)ξ「……」

その迫力はすごい。
それもそのはず、何の区切りも無い目の前のコースを選手が40km/h近いスピードで去っていくのだから。

車椅子に乗った自分でも簡単にコースに出て妨害できる、そんな事を考えた。

ξ*゚ー゚)ξ「……すごいな、羨ましいな」

だれかれ構わずに贈る熱い声援、そして区切り無い世界に共存する選手と応援者。
一歩間違えれば大怪我だ、そんな信頼の世界で成り立っていた。
トライアスロンにとって応援者と選手の距離は想像を絶するほど近い。


そんな『トライアスロン』という競技に呆然としていたが、すぐにも頭をブーンに戻す。

ξ*゚ー゚)ξ「そういえば、2番目に上がったのに……どうしたのかしら」

中々ブーンが来ないな、そう思った矢先に見た事ある姿がこちらに向かってきた。

ブーンだ、辛そうにしながらもバイクをこいで別の選手に必死に喰らいついている。

ξ*^ー^)ξ「頑張れーッ!」

区切りの無い選手と応援者。
その距離が1mも離れていないことは珍しくない。

ブーンは軽く目線を向けて、すぐに通り去ってしまった。

ξ*゚ー゚)ξ「……すごい……」

ポカンとしてデレはその様子を見ていた。
これが……たった一刹那であるが、応援者と選手が近づくその瞬間。

なんとも言えない、言葉では表せない喜びと興奮。
拳を強く握り締めながら過ぎていく選手を眺めていた。


(;^ω^)「とりあえず1周終了だお……、やっぱり辛いお……」

1周目は調子がいい、そしてまだ足は動かないことは無い。
このままいけるのではと少なからず考えた。
その一方で、このまま行けば前回の大会のようになるような予感がした。

最悪な考えが浮かぶのは人らしい、根拠は無いが自信があった。

このままだと……無理だ。

しかしここでペースを落としても落ちていくばかりだ。
いくしかないのだ。


だったら挑戦してやる、限界まで。
ジョルジュに抜かれるまで、それまで根性でこのままこぎ続けてやる。

(;^ω^)「光る風を、追い越したらー……」


ジョルジュは好調にバイクを進めていた。
リズムがいい、正直にそう思った。

(;゚∀゚)(これなら……いいタイムでバイクを終わらせてランにも繋げられるな)

今回のコースは6周だ、できれば5周目にブーンを捉えたいと考えていた。

ブーンはバイクがかなり苦手だ、スイムの分は十分にここで取り返せるだろうと思っていた。

(;゚∀゚)(スイムで思ったよりも疲れたからな……調子にだけは乗らないようにしないとな)

1周、そして2周と調子よくこいでいった。


(;'A`)「フッ、フッ、ヒュッ、フッ!」

息が早く荒い。
体中に疲労が溜まり切っている。
足なんてガクガクだ、バイクを降りたら立てるかどうかも怪しい。

それでもドクオは頑張ってペースを守り続けた。
力の入らない足を回転させ続けた。

(;'A`)(くそっ、くそがっ、……!!)

そんな良く分からない蟠りをぶつけながらひたすらにこいでいた。

どれだけ抜いたか分からない、どれだけ抜かれたか分からない。
ブーンやジョルジュに追いつけるなんて思ってもいない。
運動経験の無かった自分に、順位やタイムのプライドはない。

それでも……努力と根気だけは負けないと自分で自分を信じていた。

努力しても不甲斐ない自分が嫌で、だから自分に鞭打っていただけかもしれない。

(;'A`)「ヒュッ、ヒュぅ、ヒュッ!」

この上ないMだ。


『トップがいよいよラスト、6周目に入ります』

アナウンスがかかるとすぐにも三人ほどの塊が目の前を過ぎていった。
観客は再び水を得た魚のように歓声を上げた。

ξ;゚ー゚)ξ「ふあー、やっぱりすごいなぁ……」

トップがきた時に歓声が大きくなるのは分かるが、
誰か選手が来るたびに大きな声で応援している人は少なく無い。
自分もそうしていたが、すぐにも疲れて応援が止まってしまった。

ξ;゚ー゚)ξ(皆どこから声出しているんだろう……?)

そんな事を思いながらペラペラと大会のプログラムをめくっていた。
ブーン達が出た種目の参加者は142人。
スタートは年齢で数分程度ずれるそうだが、ほとんど同時スタートに近い。

ξ*^ー^)ξ「そういえば、同じ会社の人も出るって言ってたよね」

ブーンはゼッケンナンバー077番。
その前後を見ると、ジョルジュは076番、そしてドクオが078番。

ξ*゚ー゚)ξ「確かこんな名前の人達だったわよね」

そうこうしていると、時間的にそろそろブーンが通るのではないかという時間になった。
デレはプログラムを閉じると、目を選手たちに向けた。


(;゚∀゚)(捉えたぞ……ブーン!)

予想よりも捉えるのが遅くなり精神的に厳しかったがジョルジュだったが、5周目で何とかブーンを目視できた。
そして5周目も終わろうという時、そのブーンに並びかける。

すぐにもブーンはそれを振り切った。

(;^ω^)(今抜かれたら……精神的に厳しいお、もう少しだけでも、何とか逃げないと……!)

(;゚∀゚)(逃がすか!)

ジョルジュがさらにもう一度畳みかけようとするが、またブーンは逃げる。
そのまま6周目に突入した。

(;^ω^)(残り7キロ……それだけ逃げ切るのは無理だお、だけど出来る限り……!)

(;゚∀゚)(どこまで持つかな?)

正直ブーンはジョルジュに追いつかれる前までは、
前大会と同様30km/hを切るようなペースでしか進めないほど疲労していた。
ジョルジュに反抗して一気に力を込めてスピードを上げるが、限界はもうすぐそこだった。

(;^ω^)(くおっ、おッ!)

争う二人に、さらに他の選手も混ざってくる。
三つ巴での争いとなった。



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