2レース目 後半

デレの前を通過したブーンだったが、必死の形相で自分に気付いてくれなかった。
同じ会社の人と並んでの勝負となっており、その目はコースの先だけを見ていた。

応援もしたが、こんなに近くから応援したが……届かないほどに集中していた。

ξ*゚ー゚)ξ「……あーあ、やっぱり妬いちゃうな」

そう思った目の前をまた選手が通り過ぎていく。
見た事のある人なんてそうそういない、百人以上の参加者があるのに覚えてもいられない。
すぐにも次の種目であるランの応援場所に移ろうとした。

ξ*゚ー゚)ξ「……ん?」

ここでデレは少し考える。

ξ*゚ー゚)ξ「さっき通過した人って……あれ? もしかして……」


(;'A`)「ハヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!!」

(;^ω^)(ドクオ……!?)

(;゚∀゚)(コイツ、バイクで来るか……!?)

ブーンとジョルジュの争いに絡んできたもう一人の選手、それはドクオだった。
スイムでかなりの差をつけられたにも拘らず、彼はここまで登ってきたのだ。

精神的なアドバンテージがあった。

(;'A`)(絶対に……抜く、ここまで来たら二人とも抜く!!)

(;゚∀゚)(ち、コイツ……速い、ペースが崩される……)

ジョルジュは太ももに力を入れてペースを上げるが、それも長くは続かない。
ブーンを振り切るもすぐにドクオに飲まれた。


(;'ω`)(ダメだお、とてもじゃないけど……もう足はカラカラなんだお……)

ブーンのスピードメーターは再び30km/hを割った。
そして二人から次第に離れていった……。


ブーンをまいてからもまだ二人の争いは終わらない。

ジョルジュは緩急をつけてドクオのペースの破綻を誘うが、ドクオはまったくのってこない。
失敗したという精神的なダメージ、そして緩急をつけるのにはかなりの体力を消耗する。

ジョルジュはとうとうドクオに前を譲った。
それでも喰らいついていく。

(;゚∀゚)(残りは4km……ちょっと辛いか!?)

(;'A`)(このままのペースで、このままのペースで行けば絶対にジョルジュさんは落ちる!
    このままのペースでいけ、根性と忍耐は負けないだろうドクオ!)

自分で自分に活を入れてドクオはペースを守った。


そして読み通り……ジョルジュとの距離は次第に広がった。


(;゚∀゚)(ドクオ……くそっ!)


デレはトランジションエリアで、後に来るだろうブーンが良く見える場所に移動していた。
ブーンの番号は077番、その番号が記されたバイクの台。
ここがブーンが次の種目に向かって準備する場所なんだ。

次々に来る選手、まだかまだかとデレはブーンを待った。

ξ*゚ー゚)ξ(……あれ、もしかして……)

ブーンと似た番号の選手がやってくると、そのままデレの前でバイクを置いて靴を履き替えだした。
78番の選手、すぐにプログラムで確認した。

ξ*゚ー゚)ξ(……ドクオさん?)

やっぱり同じ会社の人だった。
その男は靴を履き替えるとその場で止まった。
走り始めないのか、そう思っているとまた一人やってくる。

ξ*゚ー゚)ξ(76番……ジョルジュさん、さっきブーンが競っていた人ね)

ジョルジュが来たと同時に、ドクオはすぐにドスドスと滅茶苦茶に走り出した。
上半身はグラングランとぶれている、見ているデレでさえ心配になった。

ξ;゚ー゚)ξ(大丈夫かしら……)


ドクオは首に力も入らない、そんなグラグラした走りでランのスタートラインを跨いだ。

(;'A`)(やった、勝った、ジョルジュさんとブーンに、勝った……)

ラインを超えたと同時、すぐに膝に両手をついた。
その場で肩で息をした。

走れない。

膝を折り曲げて座り込んだ。

(;'A`)(勝った……くそ、勝ったのに……)

その後何とか立ち上がると、力無い足を、安定しないままに前へと出していった。
とても走れていない、今にも倒れそうだった。


ドクオ:
スイム 28'40"(40位)
バイク 1:07'58"(9位)
スプリット 1:36'38"(18位)


ジョルジュがトランジットに行くと、ドクオは今にも倒れそうにその場に立ちすくんでいた。
それでも彼と目が合うと、それに反応して逃げるかのように走り出した。

(;゚∀゚)(ドクオ、確かに良くやったが……頑張りすぎだ。
    せいぜい熱射病で倒れるなよ?)

荒れる息を落ち着けながら、かつ慎重に靴を履き替える。
一度大きく息をした。

(;゚∀゚)(うし、行くか!)

そしてジョルジュも走り出し、勢い良くランのスタートラインを超えた。


ジョルジュ:
スイム 25'22"(21位)
バイク 1:11'25"(19位)
スプリット 1:36'47"(19位)


ドクオが倒れそうになりながらも走ろうと足を動かした直後、背中をポンと叩かれる。

(;゚∀゚)「ファイト!」

(;'A`)(……ジョルジュさん)

そのまま言葉を発する前にジョルジュは走り去った。

どこにそんな足があるというのか、どうやって追いつけというのか。
足を前に出すのすら出来ない、ガクガクで、体の疲労が激しくて、今にも倒れそうで。

精神的に一気に追い詰められて本当に倒れそうになった。
それでも……何とか頑張ろうとドクオは足を進めた。

(;'A`)(走らなきゃ……ランニング、走らなきゃ……)

とぼとぼと、歩くようなスピードだったが決して歩いていなかった。
彼は必死の形相で、今にも折れ曲がりそうな足を動かして走った。

(;'A`)(くそ、いつもの練習ならもっと速く……くそ、くそッ!!)


先行した二人に少し遅れてようやくブーンがトランジットエリアに到着した。
それを見てデレも安心する。
事故でもあったのじゃないかと少なからず心配になっていたのだ。

そしてデレの前で準備を始めた。

ξ*^ー^)ξ「ブーン、頑張って!」

そんなデレをチラと見て、軽く笑って見せた。
ただそれ以上の反応は無く、歓声の中ランニングへと移って行った。

ξ*゚ー゚)ξ「……あーあ、やっぱり悔しいな」


ブーン:
スイム 19'09"(2位)
バイク 1:19'04"(60位)
スプリット 1:38'13"(22位)


今回のランニングは、片道5kmのコースの往復だ。
前や後ろとの距離が折り返しの時に確認が出来る。

しかし距離感の無いボロボロの足で一度に5kmというのは精神的にきついものだ。
前回のように2往復なら2.5kmを4回と区切れたが、今回は1往復で5kmを2回としか区切れない。
5kmを走るだけの集中力、闘争心、それらを最低限維持しなくてはならない。

(;゚∀゚)(5km折り返しか……それまでブーンたちとの距離が分からないのは辛いな。
    追いつかれることは無いだろうが、正直自分もかなり辛いからな……)

膝がガクガクとする。
モモは上がらず地面を蹴っても全然前に進まない。
足を前に出すのですら一苦労だ。

そう、いつも通りのトライアスロンのランだった。
そんなボロボロの極限状態で最後の順位を競う、貪欲な争いだった。

(;゚∀゚)(くっそ、足の裏が痛ぇ……腕も全然振れんな、今回はやばいかもしれないな……)

ジョルジュはペースを落としながら、一歩一歩といった調子で走って行った。


ブーンが走り出すと、すぐにも体は限界を示した。
ぐっと地面を踏みしめるたびに筋肉が悲鳴を上げる。

(;^ω^)(相変わらずバイクの後は地面に慣れないお……)

腰が低くなって地面との接地が分からない。
力の入れ方が分からない、走り方が分からない。

そう思いながらもブーンは何とか足を前に出していった。

そう、ずっと見えているドクオを目標として。
歩いているほどのスピードしか出せていない、そんな彼に向かって進んで行った。

(;^ω^)(ドクオ、流石に負けれないお……!)

そしてブーンはドクオを抜き去った。


(;^ω^)「ほら、最後だお!」

ブーンがこう声をかけてドクオの隣を過ぎていく。

(;'A`)(ブーンに……抜かれた……)

そしてドクオはその足が一気に重くなるのを感じた。

今までこんなに足が重くなった事なんて無い。
あんなに頑張った練習はどうしたんだ。
負けないほど、どんな状態でも走れるほど練習をしたのに……。

(;'A`)「ハヒュ、ハヒュゥッ!」

呼吸音が自分の思考を遮る。


ダメなんだ、もう限界なんだ。


とうとうドクオはその足を止めてしまった。
走る事を止め、歩き出した。


暑い。

なのに汗をかかない体、そんな事をブーンが言っていたのを思い出した。

トライスーツについた多量の塩分。

動かす気にもならない腕。

(;'A`)(もう……無理だ、無理なんだ俺には……)

否定的な言葉ばかりが思いついた。

ノロノロと、項垂れた体を前へと動かしていく。
歩く事がもどかしかったが、走る事など到底考えられなかった。

(;'A`)(無駄な努力だったんだな……ああ、バカみてぇ……)

虚ろな目でその先に長く続くコースを見て、またネガティブに浸った。


(;゚∀゚)(くそ、そろそろ5km地点だろ? とっくにそれくらい走っただろ?)

ジョルジュはそう思いながら、息を切らして走り続けていた。

想像以上の疲労があった。
相手の事を考える余裕が無い、自分がどのように完走するかばかり考えていた。

(;゚∀゚)(次のカーブで折り返しあるだろ、無かったら完走できないぜ?)

そう思いながらカーブすると、その先に折り返しなど見えない。
軽く文句を口にしながら走って、カーブになるとまた同じように考えながら曲がった。

それの繰り返し、ただ繰り返しというのは精神的には意外に楽だったりもする。

その内にようやく折り返し地点がジョルジュの前に見えた。
やっとかとそこに用意されたコーンを曲がる。

(;゚∀゚)(来た道を帰るのか……あー骨が折れる、できるかねぇ?)

そんなふざけた事を考えながら、少しづつゴールへの残り距離を縮めていった。


普段応援者が近く、沢山いるトライアスロンにおいて、
ラン種目で片道5kmもの距離を走るのは孤立を意味する。
流石に応援者もそこまで離れた場所へは向かわないし、ゴールを見ようと構えているものだ。

1kmも走れば誰もいなくなる、給水に辛うじてスタッフがいるだけだろう。
一気に応援が無くなり、周りは選手だらけになる。

誰も見ていないという隙、そういったところからも簡単に気力は散っていく。

ドクオも例外ではなかった。

(;'A`)(今止まっても、誰にも気付かれないよな……。
    っていうかもういいじゃん、良くやったよ自分、もうリタイアすればいいよ……)

当然リタイアする気など無い。
ただ何か考える事が欲しいんだ、そうすると大抵そんなことばかり考えてしまうんだ。

(;'A`)(ちくしょう、バッカみてぇ……)

ドクオは走る気などまったく見せずに、ひたすらに悪態をつきながら歩いた。
もう何人に抜かれたかなんて知らないしどうでも良かった。


(;^ω^)「ハァッ……はぁ!」

応援のなくなった地帯をブーンは必死に走った。

喉が痛い、体が重い。
動かない。

(;^ω^)(もう少しだお、もう少し……)

(;゚∀゚)「ブーン!」

折り返しを曲がったジョルジュさんとすれ違う。

(;^ω^)「おっふぉっ! ファイトだっおッ!」

(;゚∀゚)「おう!」

ジョルジュさんとすれ違ったという事はもうすぐ折り返しだろうか。
そう思っても所詮は折り返しだ、まだまだ先は長い。

ただ、ジョルジュさんと軽く声を交わしたことで幾分元気にはなった気がする。

(;^ω^)(頑張るお、頑張るお……!)

最後だ、そう思いながらひたすらに前に進んだ。


(;'A`)(痛い……もう無理だ、くそ!)

足が痛い、腰も臀部も痛い。
歩いていても呼吸は短く苦しい。
地面に足が着くたびなんとも言えない筋肉の悲鳴があった。

(;'A`)(……くあっ!)

突然足が攣りそうになり、その場でアキレス腱を伸ばした。
一度攣りそうになった足はその後ずっとドクオを苦しめ続けた。
同じ場所だけが何度と攣りそうになり、少し進んではストレッチ……といった様子だった。

(;'A`)(……あんなに頑張ったのにな)

練習ではもっと速くもっと楽に走れたはずだ。
バイク練習の後に走る練習だってした。

誰にも頼らずに、一人で必死に頑張ったんだ。


なのに……この仕打ちか。


(;゚∀゚)「ドクオッ!!」

短い叫び声、向くと復路のジョルジュさんがいた。
辛そうな顔、くちゃくちゃになった顔でそれでも叫んだ。

(;゚∀゚)「おいっ、頑張れ、走れッ!」

大きく叫ぶと、息を乱して減速した。
それでも叫ぶのをやめない。

(;゚∀゚)「走れ、もう最後だぞ!」

(;'A`)「……あ、はいッ!!」

そうだ、何を甘い事をしているんだ自分は。
皆が辛いに決まっているんだ、皆が歩きたくて皆が止めたいなんて雑念と戦っているんだ。

何のための練習だ、走りきる為だろう。
速い遅いじゃない、走りきる為だろう。

(;'A`)「はいッ!」

多分ジョルジュさんにはもう聞こえていないだろう、大きく一度声を出して足を進めた。
やはり遅いスピードだった、とてもこれ以上はペースアップできない。

それでも構わない、ドクオは攣りそうな足を気遣いながら、ゆっくりと走った。


(;'ω`)(もう限界だお、いい加減にして欲しいお……)

ブーンは折り返しを曲がったが、それでも精神的に楽になることはなかった。
むしろまた残り5km何も目印が無いのかと思うと、うんざりしてネガティブになっていった。

(;'ω`)(歩きたいお、きっと歩いたってドクオには負けないお……)

そんなブーンを、ラン重視の選手は軽く抜き去っていく。
呼吸は短いも、安定したフォームで到底抗えない。

それはまたブーンを追い詰めた。

(;'ω`)(僕は泳ぎたいんだお、だから別にランは歩いたって構わないんだお)

ラン自体は、前大会に比べればよっぽど楽でいいペースだった。
それでも……だから頑張れるかというとそうではない。

前回の記録は抜きたい、だからと言って自分をこれ以上追い込みたいとは思わない。
既に限界には達しているんだ、それ以上追い込むことなんて容易では無い。

アゴが上がる。
顔をしかめる。

そんなブーンは、ようやくドクオとすれ違った。


ドクオはバテバテだった。

見ていて大丈夫かと言いたいくらい。
足もフォームもばらばらで、目に力は無い。
体など今にも転びそうなほど揺れていた。

それでも彼は走っていた。

折り返しもまだ曲がっていない。
そんなまだまだ先だろうゴールへ向けて、一歩一歩を踏みしめていた。

(;'A`)「ブーン、ファイトッ!!」

(;^ω^)(……ドクオ、彼よりは全然マシだお、頑張れ僕!)

(;^ω^)「おっおっ、ファイトッ!」

ペースアップは容易に出来ない、それでもこのままのペースを頑張ってキープした。
足が熱い、激しい熱を持っている。

それでも……ブーンは頑張って走った。
残りは少しだ、そう思って走った。


ゴールまでおおよそ100m、そこまで来てようやくジョルジュの表情にも笑顔が出た。
これで最後だ、最後の力を振り絞って走った。

(;゚∀゚)(あとと、これは……ちょっとスパート早すぎたな、調子乗った……!)

笑顔を再び潰しながらも、もう少しだと走った。

足はもうこれ以上上がらないというくらいまで上げた。
腕もこれでもかというくらい振った。

(;゚∀゚)「それ見ろぉッ!」

ガッツポーズでゴールテープを切った。
季節的なものもあるが前回よりも辛いレースだった。
それだけにゴール後の達成感はまた格別だ。


そのまま一段落したかったがそうもいかない。
給水をして体を休めたら、すぐにも来るであろうブーンのためにドリンクや補助の準備をしなくてはいけない。

レース慣れしている、仕事としてもアスリートとしても先輩であるジョルジュの気遣いだった。

(;゚∀゚)「あー……ふぅ、とりあえず飲み物もらってくるか……ふぅ」

ξ*゚ー゚)ξ「ジョルジュさん?」

そんなジョルジュに、車椅子に乗った女性が声をかけた。
そしてドリンクを手渡ししてくれる。

ξ*^ー^)ξ「お疲れ様です」

(;゚∀゚)「あー……ああ、どうも」

とりあえず渡されたドリンクを一気に飲み干した。

(;゚∀゚)「それで、どちらさま?」

ξ*^ー^)ξ「はじめまして、ブーンの恋人のデレです。
     改めてお疲れ様でした」

(;゚∀゚)「ブーンのね、はいはい」


ジョルジュはうんうんと一人で頷いた。

(;゚∀゚)「ブーンならもう少し後になりますよ」

ξ*^ー^)ξ「はい、親切にありがとうございます」

デレもそれくらい知っていたのだろうが、笑顔でお礼を返した。
いい人だ、ジョルジュはすぐにもそれを感じた。

二人でドリンクのサービス場所へ行くと、ジョルジュはこれでもかと飲み物を体に注ぎ込んだ。
デレはブーンの分とカップを一つずつ両手に持って、また二人でゴール地点へと移動した。

( ゚∀゚)「そこまで遅れてなかったから、もうじきに来るんじゃないかな?」

ξ*^ー^)ξ「すみません、色々と。それにレースが終わったばかりなのに……」

( ゚∀゚)「全然いいよ、大会に出る仲間が増えて俺自身も嬉しいんだ」

( ゚∀゚)(ブーンのヤロウ、いい人見つけてんじゃねぇか……今度おちょくってやるか)


しばらく待っていると、ようやくブーンが現れた。
残りは100m、しかし彼も相当バテバテなのだろう、ラストスパートをする事無く走ってくる。

ξ*^ー^)ξ「ブーン、がんばれー!」

( ゚∀゚)「ほらラストだぞ頑張れッ!」

二人の方を見てふっと笑うと、そのままペースを上げずに走ってきて力無い腕を上げてゴールテープを切った。

そのままアスファルトにごろんと倒れる。

(;^ω^)「ハヒュ、ヒューッ! ……ヒューッ!」

前回よりもいいタイムで走れただろうが、前回よりももっと頑張った。
足全体がカクカクと笑っている。


そんなブーンの元に二人は駆け寄った。


ξ*^ー^)ξ「ブーン、お疲れ様。はい、飲み物」

(;^ω^)「ありがとう、だお……」

飲み物を受け取ると、一気に口から流し込んだ。
汗腺からぷつぷつと汗がにじみ出てきた。

( ゚∀゚)「お疲れ」

(;^ω^)「はい、……ですお」

口端を引き攣らせて、苦笑いした。

( ゚∀゚)「ドクオはもっと後だよな?」

(;^ω^)「結構後ろだったお、もうちょっと……かかると思います、お」

話をしながら、次々にブーンはドリンクを飲み干した。


地面に足が着くたびに、体全体が崩れそうだった。
傾く体、自分でもどうしてこれほど上半身が横になっているのかと疑問に思うほどだ。

ゴールが近付くとポツリポツリと応援者が出てくる。

   「頑張れ、もうちょっとだー!」

自分に向かって見ず知らずの人が応援してくれる。

笑いを返す余裕すらなかった。
ゴールという言葉にもまったく反応できなかった。

(;'A`)(何やってんだろ……もう、終わりたいよ……もう何でもいいよ……)


それでもドクオは歩かなかった。
絶対に走り続けようと足を動かした。


前に歩いている選手がいる。
自分は走っているのにまったく距離が近付かない。

悔しかったが、それでもやはりドクオは歩かなかった。

(;'A`)(くそ……あちぃ)

太陽はギラギラと照りつける。
アスファルトからの熱気が体を追い詰める。

脹脛やモモは異常なほどの熱を持っていた。
体全体がこれほどまで熱くなった事などなかっただろう。

(;'A`)(はぁ、ゴール……見えているのに……)

もうゴールゲートは見えていた。
見えていたが……距離が全然近付かない。


遠かった。


ξ*゚ー゚)ξ「大丈夫?」

(;^ω^)「大丈夫だお、ドクオには走ってて力をもらったから応援したいんだお」

( ゚∀゚)「あー、そういう中腰体勢を見ていると膝カックンしたくなるな」

(;^ω^)「勘弁して下さいお……」

ブーンはしばらく休んでいて体の疲れをとると、立ち上がって二人と一緒にゴールゲートに移動した。
そしてドクオのゴールをまだかと待ち望んだ。


そしてしばらくすると、小柄な体形をした男がこちらに走ってきた。

(;^ω^)(ドクオ……)

最後まであきらめずに、体を傾けながらひたすら走るドクオにブーンは感銘を受けた。

頑張れ。

心の底からそう思った。


( ゚∀゚)「ドクオー! ほらもう少しだ踏ん張れ!」

( ^ω^)「ドクオ、ラストもうちょっとだお頑張るお!」

ξ*^ー^)ξ「ドクオ君、最後よ頑張って!」

三人はまだ遠いドクオへ向かって大きく声を出したが、その声すら薄れるほど沢山の声がドクオを応援していた。


見知らぬおばさんが。


子供が。


老夫婦が。


その声に合わせるように、ドクオの足は止まる事無くゴールに動いた。
ゴールはすぐそこだ、ラストスパートをかけようという気にはならなかった。

ただ……もっとこの声援の中で走っていたいとは思った。


ドクオはゴールテープを切った。


ゴールテープを切ると二、三歩歩いてドクオはその場に座り込んだ。

(;'A`)(終わった、ようやく……)

喜びとかそういう感情に浸る余裕は無かった。
むしろ悔しさばかりが湧き出た。

(;'A`)(くそ……情けねぇ、くそ……)

そんなドクオの元に駆け寄る3人がいるのを発見すると、思わず笑みが出てその場にごろんと寝転がった。

( ^ω^) ゚∀゚)*^ー^)ξ「お疲れ様!」

そう言ってドクオに水をかけるブーンにジョルジュ。
デレはドクオにドリンクを渡した。
そのドリンクを飲み干して一息つくと、ドクオは叫ぶ。

(;'A`)「あー、えれぇッ!! もうぜってートライアスロンなんて出ねぇえええッ!!」

( ゚∀゚)「はじめは皆そう言うんだよ」

倒れるドクオの横で、皆は笑って見せた。












トライアスロン選手権大会 in ニューソク


ショートの部:51.5km(スイム1.5km、バイク40km、ラン10km)
     参加者  142人


ジョルジュ:
スイム 25'22"(21位)
バイク 1:11'25"(19位)
スプリット 1:36'47"(19位)
ラン 47'00"(29位)
総合 2:23'47"(25位)

ブーン:
スイム 19'09"(2位)
バイク 1:19'04"(60位)
スプリット 1:38'13"(22位)
ラン 53'24"(60位)
総合 2:31'37"(46位)

ドクオ:
スイム 28'40"(40位)
バイク 1:07'58"(9位)
スプリット 1:36'38"(18位)
ラン 1:14"07(138位)
総合 2:50'45"(96位)

前のページへ] 戻る [次のページへ