内弁慶、という言葉がある。弁慶の中でもトップエリートである。

何を隠そう私自身も幼少のみぎり、そのインサイド弁慶の構成員であったことがある。
三人兄弟の末として生まれた私は、両親に徹底的にスポイルされて育った。
蝶よ花よと煽てられ、その気になった芋虫は、結局蛹のあたたかさに満足して、羽ばたく事を知らなかった。
気がついてみればアフターカーニバルである。仲間達は皆巣立ち南に向って飛び立っていった後だった。

ξ゚听)ξ……ギリギリせえええええっふ!! ぎりぎりせえええええっふ!!!

毎夜のように枕に顔を押し付けては、金切り声でそうシャウトする日々が今も続いている。
大丈夫やねん。うち、ちゃんと気づけたから。もう気づけたから大丈夫です。何の問題もノープロブレムです。
ぎりぎりセーフですから大丈夫ですよね。お母さん、生んでくれてありがとう。

そんな私なので、こと生家においてはぬくぬくと、それはもうやりたい放題をしていた覚えがある。
今冷静に思い返してみると、他方に、自分としっかり向き合ってくれない両親に対する不満の表れとでもいうような
側面があったこともおぼろげながら自覚は出来るが、当時の私は今に輪をかけて愚鈍だったのだ。
ただひたすらにひねた態度をとることでしか、自己表現出来なかった。

だから私はトップエリートだった。もし仮に全日本選抜糞餓鬼選手権といった素敵な大会があれば、
関東地区代表くらいにはなれたんじゃないかと思う。いやマジで。

その私をして、である。

このままだと、こいついつかひどいことになるんじゃね、と思わせるような猛者に、つい最近出会った。

(-@∀@)

大上アサピー君15歳、ピッチピッチの中学三年生である。








  ξ゚听)ξ壁殴り代行始めました 案件2:大上良子様




ξ゚听)ξ……。

時計は九時四十七分を示していて、私は事務所のドアの前に佇んでいた。
別れ際にオカマには、明朝十時に来いといわれていたのだから、約束の時間までまだ少々時間がある。
そう、十分前行動は出来る社会人の基本である。エクセレントな心がけである。
私は正社員ではないけれど、その素養であればそんじょそこらの新卒丸出しフレッシュ達にも引けをとるつもりはない。
正社員ヂカラは十二分に持っていると自負している。あれは好きだった。

昨日一晩考えた結果、とりあえずしばらくはこの事務所でパートタイムに勤しんでみよう、という
物事に対して消極的な私にしてはかなり前向きな結論に達したのだ。何でも試してみるもんだってかの偉人も言ってたし。

そうなのである。ちょっとした不条理に目を瞑れば、簡単な事務だけで時給1000円ももらえるこの仕事は、
存外条件のよいものだと気が付いたのだ。
仮になにか問題があればすぐにやめればいいだけの話である。だって所詮バイトですから。
イラッとしちゃったそこなお侍さん。世知辛いこの現代社会で、賃金で責任感まで買えると思ったら大間違いでござるぞなもし。

ξ゚听)ξ……よし。

私は、そんなわけで帰り道にある公園もといオカマ事務所に今日も足を運んだのである。
ドアノブに手をかけて一度深呼吸。今日から俺は!! 名実ともに壁殴り代行サービス業に従事する一人である。
うにより金髪のほうが好きなのである。
うっし!! 気張っていこうぜおうおうおう!!

ξ゚听)ξ……おはようございまーす。




ξ゚听)ξ……。

……帰ろうかな。

ξ゚听)ξ……おはようございまーす。

ほらもう、斜め上にもほどがあるよ。何膨らんでんだよ。朝立ちかよ。

バシュウウウン(((((((´・ω・`)))))))はぁいん。おっはーん♪

縮んでるよ。自由自在なのかよ。マジで何なんだこのオカマ。

ξ゚听)ξ……あのー、な、なにしてたんですか?

(´・ω・`)ううん? あぁ、昨日のフラが残っちゃってねん、ちょっと発散してたのよん。
     ほら、ためちゃうと、お肌にも良くないでしょう?

なるほど、わからん。

ξ゚听)ξフ、フラですか?

(´・ω・`)いやーん! フラストレィションよぅ! フラストレィション!
    ツンちゃんもこれからプロフェッショナルになるんだから、それくらい知ってなきゃ、駄目よぅ! うふふ!

ξ゚听)ξイラッ

そんな略し方聞いたことねーよ。知りたくもねーよ。

(´・ω・`)……はぁいん、お茶が入ったわよぅ。うふふ!

ξ゚听)ξありがとうございます。あ、おいし……。

働かなくてもお茶はうまい、お茶ウマ! 
すすめられるままに口をつけた紅茶は、良い香りがした。

ξ゚听)ξ……えっと、それで、何すればいいですか?

一息ついて姿勢を正す。
そう、私はここに働きに来ているのだ。如何に雇い主が珍妙なオカマでも、それとこれとは別の話なのだ。
のんびりお茶を飲みに来たわけではないのである。
言われてから動くようでは二流、自分から仕事を探して一流。
出来るワテクシは、違うのである。

(´・ω・`)そうねん、じゃ、一緒にテレビ見ましょう!

お友達かよ。

ξ゚听)ξ……。

(´・ω・`)ふぅ……。村上弘明、男前よねん……。私これ、楽しみにしてるのん……。

画面せましと立回り、涼しげな顔で見得を切る二枚目の俳優に、うっとりした表情で見とれるオカマ。
時代劇は私も好きだけどさ、だけどさ、違うよね、うん。これは仕事じゃない。

ξ゚听)ξ……そう言えば、表のどんぶり、いいんですか?

手持ち無沙汰になり、ついつい妙な話題が口をついて出てくる。
事務所の前に放置してあった、出前のどんぶりのことである。

(´・ω・`)あぁん……。あれはいいのよぅ。うちの、看板なのん。

どんぶりがお守りってなんだ。

(´・ω・`)ええと……長岡屋さんって、しってるのん?

ξ゚听)ξああ、あそこ。塩ラーメン美味しいですよね。

(´・ω・`)私は、どっちかって言うと味噌がすきかしらん……。
    そうそう、それで、ほら、私って、ここに越してきてまだ長くないじゃない?

じゃないと言われても知るわけがないじゃない。
とか思っちゃうところが私がコミュ障たる所以でもある。

(´・ω・`)それでね……。

( ゚∀゚)ちーっス。毎度っ。

(´・ω・`)あらあら、ご苦労様ん。美味しかったのん。

( ゚∀゚)あざーっス。750円頂戴いたしまーっス。

(´・ω・`)はぁいん……えぇと、400円……これで600円……。

( ゚∀゚)……ところで、おたくさん、なんの商売っスか?

(´・ω・`)うぅん……?あぁ、壁殴り代行業よん。まだ、開業したばかりだから閑古鳥だけどねん。うふふ。

( ゚∀゚)ああ、やっぱし。越してきたばっかスよねー。前までここ、空いてたから。
   じゃ、今日は御代、いいっス。親父がそうしろって言ってたんで。

(´・ω・`)あらぁん?

( ゚∀゚)なんか挨拶代わりに、って言ってたんで。どんぶりだけ貰ってきますね。

(´・ω・`)まぁまぁ、それじゃ、悪いわよぅ。

( ゚∀゚)この辺立地も良くないし、商売すんの大変なんスよね。良かったら、これからひいきにして下さい。

(´・ω・`)まぁ……。悪いわねぇ……。それじゃぁ、どんぶり、そのままにして貰えないかしらん?

( ゚∀゚)えっ。

(´・ω・`)うふふ。いつかうちが繁盛するようになったら、その時にあらためて返させてほしいのん。

( ゚∀゚)あー……はは。そっスか、分かりました。

(´・ω・`)ありがとぅねん。お父様によろしく言っといてくださいなん。

( ゚∀゚)ちっース。じゃ、失礼しまっス!

(´・ω・`)……だからあのどんぶりは、看板なのよん。

ξ゚听)ξへぇ……。

語り部のオカマに不似合いな、さわやかな話の内容である。
あそこの親父も、中々粋なはからいをする。今度食べに行ってやろう。
ちなみに私は一人ラーメンとか余裕な性質である。そんじょそこらのスイーツ笑とは違うのだ。
別に友達が居ないわけではないではないから勘違いしないでよね。

(´・ω・`)でも、返すのいつになるかしらねん、うふふ。あんまり、お仕事ないから、うふふふ。

ξ゚听)ξ……。

何故、私を雇ったのか。

(´・ω・`)……さって、じゃあそろそろお仕事するのん。

私が、紙ナプキンをどこまで細かく裂けるかゲームに夢中になっていると、つぶやく様にそう言って、オカマがようやく重い腰を上げた。
ああ、仕事有ったのか。良かった。今日一日紙ナプキンと戯れて過ごすのかと思った。
時刻は午後一時を少し過ぎている。昼食はオカマがデリバリーのピザを頼んでくれた。
あの下町的な人情溢れるどんぶり秘話をしておいて、そしらぬ顔でピザとか頼みだすあたり、中々レベルの高いオカマである。

(´・ω・`)じゃ、行くわよん、ツンちゃん!

ξ゚听)ξえ、

この場合、仕事といえばあの意味不明な壁殴りの儀式のことなはずで、もちろん外回りである。
殴るのはオカマの仕事であるから、そこに私が居る必要はない。
オカマも立派な社会人である。領収書くらいは切れるだろう。そのためだけに私がついていくというのも馬鹿な話である。
だとしたら、私の仕事は留守番とかなにやらの記帳とかそういう方面のものであるはずだ。

(´・ω・`)あらぁん、それはちがうのん。ツンちゃんは、ついてきてくれることが大切なのよん!

昨日の意味深な発言といい、またわけのわからないことをのたまうオカマである。
これはあれだろうか。あちこち引き回されているうちに、段々私もこのオカマのような特異体質になり、
気が付けばマッチョな体を武器にして、壁殴りとかいうわけのわからない職業の
スペシャリストとして活躍するようになり果てている、とかそういうことなんだろうか。
死んでもごめんこうむりたい。

(´・ω・`)さっ! 行くわよん!

ξ゚听)ξ……。

働くって、大変だ。

(´・ω・`)……とうちゃーく♪

ξ゚听)ξ……。

十五分足らずのドライブ、今日の選曲は赤いスイートピーだった。
なかなか話せるオカマである。

(´・ω・`)あらぁん……ブルジョワジー……。住所、あってるわよねん……?

ξ゚听)ξでっか……。

どうやら今日の現場はオカマも初めてらしい。うろたえるのも無理はないだろう。
どうみても金持ち然とした豪邸が、目の前にふんぞり返っている。

(´・ω・`)……ピンポーン♪

<……ハイ

(´・ω・`)こんにちわぁん! 壁殴り代行サービスでぇす♪

<ア、ショウショウオマチクダサイ……

(´・ω・`)はぁいん♪

ξ゚听)ξ……。

さて、どんな悪人面が飛び出すのだろうか。
多分家主は公共事業の裏取引とか犯罪すれすれのグレーな商売でのし上がった人間だと思う。
でっかい家に住んでいる人はすべからく悪いことをしてお金を稼いでるとうちの両親も言っていたからまず間違いないだろう。

川-@∀@)ようこそ……どうぞ、中へお入りになってください。

(´・ω・`)はぁいん。 こんにちわぁん♪ 失礼しまっすぅ♪

ペコリξ゚听)ξ……どうも。

厚化粧の銀ぶち眼鏡が出てきた。甲高い声がとても耳障りだ。
金目当てで好きでもない男と見合い結婚して、半年後にはセックスレス、そのまま閉経を向かえ、現在は更年期障害に悩む52歳。
評するならそんな感じである。

川-@∀@)どうぞ、こちらへ。

(´・ω・`)わぁ♪ 素敵なおたくですわねぇん! 

川-@∀@)おほほ。主人はアンティークが趣味でございまして……。
    あら、失礼。今お茶をお持ちいたしますわ。おほほほ。

(´・ω・`)あらぁん! 気を使っていただいて……ありがとうございますぅ♪

ξ゚听)ξ……。

案内された応接間はお世辞にも趣味がよいとはいえない妙な骨董品の類で飾り立てられていて、
でも多分あの意味不明なブロンズ像だけで私のかりているアパートの家賃三年分の値段がついたりするんだろう。
きいいいいいい! 世の中狂ってんだよ! 狂ってんだよ! 
あんな小学生が図工の時間に作った粘土細工レベルの像が! くっそもげろっ!!

川-@∀@)……お待たせいたしましたわ。

(´・ω・`)あらぁん♪ いい香りねぇん!

川-@∀@)おほほほ! 葉はベノアでございますわ! どうぞ、お茶菓子も遠慮なさらずに。

(´・ω・`)ありがとうございますん♪

ξ゚听)ξ……どうも。

銀縁眼鏡が出してくれた紅茶は、そこはかとなく薬の味がした。
銘柄は同じようだが、今朝オカマが淹れてくれたものとは、香りと味とともに雲泥の差だ。
そうか、お茶って淹れる人間によってこんなに代わるものなのか。やるなオカマ。
そして冴え渡るセールストークにパーフェクトスマイル。
まずいお茶にも顔色ひとつ変えないこの接客精神。なるほど、これがかの有名な社会人か。

(´・ω・`)あぁ、おいしぃ♪ ごちそうさまでしたぁん。
    それで、今日はどういたしましょうかぁん?

川-@∀@)おほほほ! 実は宅の息子のことで……アサピーちゃん! お客様にご挨拶なさい!

<ハイ、ママ

ξ゚听)ξ……ん。

ガチャ(-@∀@)……こんにちは、大上アサピーです。今日はよろしくお願いします。

(´・ω・`)あらあらまぁまぁ! かわいらしぃ息子さんねぇん!

川-@∀@)おほほほほ!

ξ゚听)ξ……。

こいつ、スタンバってたかのようにスムーズに入ってきやがった。

川-@∀@)××中学の、三年生ですのよ。

(´・ω・`)まぁ! あの有名な! すごいのねぇん!

川-@∀@)おほほほほ! そんなことありませんわ! おほほほほほ!

ξ゚听)ξ……。

ババア、嬉しそうだな。まぁ××中学といえばアホな私が知っているくらいだからまぁ確かに名門の進学校なのだろう。
私としたことが分析が少々甘かったようだ。
銀縁眼鏡は、夫に相手にされない寂しさを息子に肩代わりさせる閉経52歳にジョブチェンジだ。
そして手札から新たにマザコン中学生15歳を召喚、
二人組み作っての効果に先生と組むポジションの子を場にセットしてターンエンドだ。

川-@∀@)アサピーちゃんはこの春にお受験を控えていて、毎日夜遅くまでがんばっておりますの。
    いい息抜きを探していたのですけれど、たまたまチラシで御宅のサービスを拝見いたしまして……。

(´・ω・`)まぁ♪ ありがとうございまぁっす! そういうお客様って、多いんですよぅ!
    この前も、以前ご依頼くだすった受験生の方から、××大に無事合格出来た、なんてお礼状を頂きまして。うふふふ。

川-@∀@)まあまあ! あの有名な!

(´・ω・`)うふふ! お任せくださいん♪ アサピーちゃんのイライラは綺麗さっぱり消してしまいますからん♪

川-@∀@)まあ、助かりますわ! さ、アサピーちゃん! 

(-@∀@)よろしくお願いします。

(´・ω・`)はぁいん♪ じゃ、お母様は外で待っていていただいて、

川-@∀@)あら? わたくしは立ち会えませんの?

(´・ω・`)えぇ、壁殴りはなるべく少人数で行うのがコツですのん。

川-@∀@)まぁ……。危ないことはないのかしら?

(´・ω・`)もちろんですわよぅ♪ なんせ××大でございますからん!

川-@∀@)ああ、そうですわね! ××大に受かるくらいですものね! 安心ですわ! おほほほ!

(´・ω・`)はぁいん♪ じゃぁ、終わったらお声をおかけいたしますのん。

川-@∀@)お願いいたします、おほほほ! じゃぁアサピーちゃん、しっかり頑張るのよ!

(-@∀@)はい、ママ。

オカマがちらりと私に目配せをする。私は小さくうなずいて答えた。

ξ゚听)ξ……体よく追い払いましたね。

(´・ω・`)うふふ。仕方ないのよん。

(-@∀@)……?

珍妙なオカマと意見を同じくするのもなにやら癪にさわるが、それほどこの15歳マザコンは、はたから見ていて痛々しいものがあった。
ビン底眼鏡のおくの、小さな両の目が正に、精巧な人形のそれである。生きている人間が見せていい目では、ない。
おそらく、十人が十人まで私たちと同じ印象を、大上母子に抱くに違いないと思う。
気づかないのは当人たちだけである。この親子は、異常だ。

(´・ω・`)ねぇアサピーちゃん。貴方、イライラしてるのん?

(-@∀@)えっ……。ママがしてるっていうから、イライラしてるんだと思います。

(´・ω・`)そうなのん……。じゃ、本当に私に、壁殴り代行してほしいのん?

(-@∀@)え、えぇと……ママが呼んでくれたから、してほしいんだと思います。

(´・ω・`)そうなの……。

ξ゚听)ξ……。

多分、この子はこのまま行くと、遅かれ早かれ壊れてしまう。
私には、それがよく分かった。条件は違えど、結局私もこの子と似たり寄ったりだったからだ。

親という生き物は、時々とても残酷なことをする。
それは、自分とそっくり同じ価値観を子供に強要しようとすることにより、生まれる。
もう一人の自分、理想の自分を作り上げようと躍起になり、そして、こどもの本当の姿を見ようとしなくなる。

ある意味で、それはとても正しいことなのかもしれない。
なぜなら当の本人はその価値観で、決して楽ではなかったはずのそれまでの人生を乗り切ってきたのだから。
親にとっては、その経験と自負こそが、真実なのだ。
だがコピーは所詮、コピーでしかない。劣化はすれど向上することは稀である。

そしていつか、移植された価値観で乗り越えられない壁に出会ったとき、その子供の自己は崩壊する。
そもそも自己なんてものがなかったのだ。それまで自己と錯覚していたものは実は、親という絶対的な信仰の、偶像。
振り返ってみても、そこには何もない。
気づいた時には、もう一歩も動くことはかなわず、ただ、うずくまって頭を抱えるだけである。

(-@∀@)……。

15歳マザコンが、私とオカマの顔を交互に見つめ、不安そうに何度も瞬きをする。

(´・ω・`)そうねん……。じゃぁきっと貴方には、イッショニワクワクコースがいいわねん!

(-@∀@)一緒に、ワクワクコース……?

(´・ω・`)そうなのん。私と一緒に、声を出してほしいのん。

ξ゚听)ξ……。

ほほう。

(-@∀@)でも……危ないことは駄目だってママが言ってたから……。

(´・ω・`)大丈夫よぅ! 楽しいんだからん♪ ちょっとくらいならママも、ゆるしてくれるわよぅ!

(-@∀@)……。

(´・ω・`)……ね?

(-@∀@)……は、い。

ξ゚听)ξ……。

おお、どうするつもりだ。

(´・ω・`)うふふ! じゃ、なにか呪文を考えなくっちゃねん! 

(-@∀@)呪文?

(´・ω・`)そうよぅ! 呪文だから、なるべく楽しい言葉がいいわねん……。何がいいかしらん?

(-@∀@)え、僕が決めていいの?

(´・ω・`)もっちろん! いい呪文を考えて頂戴、うふふ♪

(-@∀@)……。

ξ゚听)ξ……。

(´・ω・`)……。

(-@∀@)……コ、コマンドー、が、いいな。

(´・ω・`)コマンドー?

(-@∀@)だ、だめ? ごめんなさい!

(´・ω・`)うふふ! いいじゃない、ばっちぐーよぅ! コマンドー! うふふ!

(-@∀@)……はは。

(´・ω・`)コマンドー! コマンドー! コマンドー! ほら、一緒に! コマンドー!

(-@∀@)コ、コマンドー。

(´・ω・`)コマンドー! もっと大きな声で! コマンドー!

(-@∀@)コ、コマンドー!

(´・ω・`)うふふふ! さ、ツンちゃんも一緒に! コマンドー!

私もやるのかよ。

ξ゚听)ξ……コ、コマンドー。

(-@∀@)コマンドー! コマンドー!!! コマンドー!!

(#´・ω・`)うふふふふ!! コマンドー!!!……いくわよおおおおうっ!!!

(#´゚ω゚`)らぶりいいいいいいいいッ!!!!

ξ゚听)ξ(……またか……)

(*-@∀@)……あはは!!! コマンドー!!! コマンドー!! 

(#´゚ω゚`)ちゃあみいいいいいいいッ!!!!

ξ゚听)ξ(……まぁ、でも……)

(*-@∀@)あはは!!! コマンドー!!! コマンドー!! あはははは!! 

(#´゚ω゚`)ばあああああいばああああいッ!!!!

(*-@∀@)あはは!!! コマンドー!!! あははは!! コマンドー!!! あははははは!!!!!!!

ξ゚听)ξ(……楽しそうだから、いっか)




振りぬかれた左拳が悪趣味なその部屋の壁をぶち抜き、衝撃で例のブロンズ像が吹き飛んで床に転がる。
はっは。ざまぁ味噌漬け。

(*-@∀@)あははは! すっごい! すっごい!!!

バシュウウウン(((((((´・ω・`)))))))……ふぅ。

(*-@∀@)すっごいね! コマンドー! あははは!

パチッ(´・ω-`)^☆ うふふ、今日も絶好調ねん♪

(*-@∀@)あはははははは!

ξ゚听)ξ……。

ま、いっか。

川;-@∀@)まあまあまあ! アサピーちゃん怪我はない!?

爆音に驚いて飛び込んできた閉経52歳が、部屋の惨状に驚き脅えながらも、
それでもやはり第一声はわが子の安否を気遣う声だった。
うん、きっとこの人はこの人なりに息子を大切に思っているんだ。
生理があがっても羊水が腐っても母親は母親なのだ。胸熱。

(*-@∀@)うん! すっごくすっきりしたよ! ありがとうママ!!

川;-@∀@)え、あ、えぇ。

(´・ω・`)うふふ! ばっちり代行完了ですわん! アサピーちゃん、きっと合格間違いなしですわよぅ!

川;-@∀@)え、そ、そうかしら?

(´・ω・`)もちろんですわよぅ♪ なんせ××大でございますからん!

川-@∀@)あ、ああ、そうですわね! ××大に受かるくらいですものね! 安心ですわ! おほほほ!

この惨状を目前にしてもカバーできるのか。すっげーな××大。
××大の攻略本だから、安心だよ。インド人も真っ青である。

(´・ω・`)じゃぁ本日はイッショニワクワクコースでお会計2800円になりまぁす!

川-@∀@)あらまぁ! お安いのね!

(´・ω・`)はぁいん♪ こちら私の知り合いの修繕の業者さんの連絡先で、
     紹介されたとおっしゃっていただければ、安くなりますのん!

川-@∀@)まぁ! アフターサービスも万全ですわね! 

(´・ω・`)勿論ですわぁん! うふふふ!

騙されてるんだけどね。

(´・ω・`)さ! じゃぁそろそろお暇しましょぅ! ツンちゃん、領収書お願いねん♪

ξ゚听)ξあ、はい。

川-@∀@)おほほほ! ご苦労様でしたわ! おほほほ!

(*-@∀@)ノ~ ブンブン

(´・ω・`)ありがとうございましたぁん! またよろしくねぇん♪

ペコリξ゚听)ξ……ありがとうございました。

そう、閉経52歳が冷静になる前に逃げるのが正解である。

帰路の車上で、私は妙な罪悪感に苛まれていた。
まぶたの裏に映るのは、一人暗闇に取り残されてたたずむ、少年のイメージ。
15歳なんて、冗談じゃない。あれでは乳飲み子もいいところである。
場当たり的なごまかしで、迷子になって泣きじゃくっている彼から背を向けて逃げ出してきたようで、嫌な気分だった。

(´・ω・`)……だいじょぶよぅ。あの子なら、きっと大丈夫。

オカマが、誰に聞かせる風でもないといった口調で、ハンドルを握って前を見据えながら、つぶやくように言った。

ξ゚听)ξ……だと、いいんですけど。

(´・ω・`)大丈夫なのよん。あの年頃の男の子だもの。一回気持ちいいことを覚えたら、後はお猿さんみたいに、
   誰が何言っても聞かないわよん。そういうものなのん。

……オナニーみたいに言うなよ。

(´・ω・`)壁殴り代行っていうお仕事はね、きっかけなのん。ダムみたいなものなのよぅ。
    溢れてどうしようもなくなる前に、ちゃんとしたやり方で、水の逃げ道を作ってあげるのん。

ξ゚听)ξ……。

(´・ω・`)大丈夫よん。これでも私、プロフェッショナルなんだから。だから、あの子はきっと大丈夫。

ξ゚听)ξ……。

だと、いいんだけど。

ξ゚听)ξ……お疲れ様でした。

駅のロータリーでおろしてもらい、背を向けて歩き去ろうとする私に、オカマが優しく声をかけた。

(´・ω・`)……みんな、色々抱えてるのよん。私たちの仕事は、みんなが、その重い荷物に潰されないように助けてあげることなのん。
    それが、壁殴りなのよん。

ξ゚听)ξ……。

その一言は、意地っ張りな私の心にも不思議にしみこんで来るようだった。
だからその瞬間だけは確かに、この馬鹿げた仕事が少しだけ、ほんの少しだけ、意味のあることに思えた。

ξ゚ー゚)ξ…どんぶり、返せるくらいに繁盛するといいですね。

……うん、そうなると、いいな。

(´・ω・`)えっ、やっだぁ! あの話、信じてたのん?

ξ゚听)ξえ、

(´・ω・`)あらやだ、冗談に決まってるわよぅ! 作り話なのよぅ、あれ! うふふふ!

ξ゚听)ξ……。

……こいつ……。
胸中で地味に上昇の兆しを見せていたオカマの株は、その一事で一瞬にして暴落した。

(´・ω・`)うふふ♪ ツンちゃんたら、うぶなんだからん! かぁわいいん♪ うふふふ!
     じゃ、明日もよろしくねん! ばっはぁい♪ 

ξ゚听)ξイラッ

思い違いも甚だしかったようだ。
やはりこのオカマはろくな人間ではない。



        領   収   書

                   大上良子 様

      ¥         2,800 −
     但し イッショニワクワクコース

       上記金額正に領収致しました


1話へ] 戻る [3話へ