恋愛って何ですか。
美味しいですか? あれっ、食べ物ではないのですか。じゃあきっと、便利なんでしょうね。
ははぁ、道具でもない。それならば、楽しかったり面白かったりするのでしょう。
えっ、辛いことも悲しいこともある? まあでも、お金持ちになれるのだから、それは仕方のないことですよ。
うん、商売ではない? なるほど、それでも健康になれるなら、我慢をしなくっちゃあいけません。
……なんですって、身も心もぼろぼろになったりする? 夜も眠れなくなったことがある? 
うへぇ、それならいったい全体、その恋愛ってやつには何の価値があるんですか。

ξ゚听)ξ……くっだらね。

昨今、というかもうかなり長い間、右を向いても左を向いても恋愛恋愛また恋愛である。
一部の脳内にお花畑を造園しているような連中を除いて、いい加減、大多数の人間がそのことに関して食傷気味になっていると思う。
もううんざりだ。恋愛恋愛恋愛恋愛、ゲシュタルト崩壊するっちゅうねん。イチゴタルトが食べたい。


別段、恋愛そのものを否定するつもりはこれっぽちもない。
確かに私は、こと異性関係においてはまったく後ろ向きであるし、正直言ってしまえば興味もない。本当だよ。
思い返すも腹立たしいものがあるが、かつて私がうら若きハイスクールスチューデントだった時分、
クラスメイトとの日常会話のちょっとした行き違いの果てに、ふと

 「津出さんって、人を好きになっちゃいけないタイプだよね笑 何でも一人で出来そう笑」

なぞと言われたことがある。
それはおそらく私の、負けん気の強い意地っ張りな性格を評したつもりになっての、なんでもない一言だったのだろうと思う。
だが私は確かにその言葉の裏に、彼女の無意識の侮蔑の感情を読み取った。

 『そんなんだから、今時彼氏の一人も出来ねーんだよ。プークスクス』

被害妄想じゃないよだってあいつあのときなにやら勝ち誇った顔してたし
なんかこれ見よがしにすぐに隣の男子になれなれしく話しかけてたしゲラゲラ大口開けて下品に笑いやがって
うるせぇな恋愛してたらそんなに偉いのかよそれが出来なきゃ欠陥人間かよ
ああそうだよわたしゃこの年になっても彼氏どころか気になる男の一人もいねーよ
だけどお前の500倍くらい人間的に完成されてるし
2ちゃんにだって結婚する相手は異性経験が少ないほうがいい出来れば処女がいいって書いてあったし
お前みたいな糞ビッチ中古女とはもう根本的に生きてる次元が違うんだからお前と同じレベルで私を評価すんなこんの豚女が!!!!!!!!


話が随分長くなってしまったが、まあ要するに何が言いたかったのかというと
もうそろそろそろ上記のような不毛な恋愛至上主義は抜け出して、
よりインテリジェンスでハイセンスな対人関係を模索する時期に、時代はなってきているのではないか、ということなのだ。
勘違いしないでほしい。別に私がなにやら私怨をはらんだ感情論をぶちまけているわけでは決してないのである。
その証拠に、脱恋愛至上主義はもう、ハイソサエティなパースンオブカルチャーの共通したコモンセンスになりつつあるのだ。ソースはブルドック中濃。
そう、むしろ私は時代の最先端をいくトレンディッシュな人間なのである。頭痛が痛いのである。

ちなみに例の精子脳糞ビッチ中古女は、最近ふとしたきっかけで顔を合わせたのだが、激ぶとりしていてリアルに豚になっていた。
伝え聞いた情報によると、どうやら直近の失恋の経験によるストレスで、食べ物に逃げたらしい。
うっひゃあああああざまあああああああああああ!!!!! ばんざああああああああ!!!!
バンザイっ、ばんじゃいっばんじゃい゙っ ぱゃんに゙ゃんじゃんじゃいぃぃっ!! 欠陥人間きもちいすぎてバンザイしちゃうぅっ



……ふぅ。










  ξ゚听)ξ壁殴り代行始めました 案件3:素直クール様






ξ゚听)ξ……。

オカマの下で働き始めて今日で五日目、一昨日は二つの案件があり、昨日はゼロだった。
一昨日の仕事はそれぞれ、バーコード禿げ48歳と死にかけ婆82歳が依頼人で、
アルバイト三日目にして早くもテンプレ乙といいたくなるような、特筆すべきもない平凡なものだった。
その時点でもうすでに、膨れ上がったオカマの上腕二頭筋にも何の感慨も抱かなくなっている自分が居て、
人間の適応能力というものは凄いものだなと思ったりもした。良い悪いは別として。

昨日は仕事の依頼がなかったらしく、いちおう事務所には居たのだが、
オカマと一緒にのんびりTVを見たりオセロに興じたり携帯をいじったり雑誌を読んだりラジパンダリしているうちに終業時間を迎えた。
お昼ごはんはやっぱりデリバリーで、おすしを食べた。代金オカマ持ちで。
人の金で食べるすしは美味しいですしおすし。


そして私は今事務所で一人、ぼんやりとTVのワイドショーを眺めている。
頭の軽そうな金髪の、モデル出身の女性タレントが、
したり顔でバレンタインデーなるものの重要性について熱弁を振るっているのを見て、イラッとしたりしている。
カカオかよ、ココアだよ。

オーナーであるはずのオカマは、なにやら用事があるとかで不在である。
三時ごろに一件、仕事の予約が入っているという話だったので、そのうち帰ってくることだろう。
頼まれていた帳簿の記帳、といえば聞こえはいいが、実際は会計帳(ハートとマジックででかでかと書かれた大学ノートに、
レシートやらなにやらの伝票やらをノリで貼り付けるだけの簡単なお仕事ですを早々に済ませてしまった私は、これでもかというくらいに暇を持て余していた。
ふと思いついてこころみに淹れてみた紅茶は、例の閉経52歳と、オカマの淹れたものとの中間ぐらいの味と香りだった。
まずまずである。

ξ--)ξ~゜……。

南に面した小窓から、暖かい木漏れ日が優しく射し込んでいてその光がリノリウム製の床の上でゆらゆらと踊っているように見える。
昼食には出勤時に購入してきたオムハヤシ丼495円を食べて、
お腹もいっぱいだし暖かいしこんな楽なのに時給発生しててオカマはいいと言っていてくれたけどさすがに居眠りは大人としてまずいだろうと思うのだけれど
お腹もいっぱいだしぽかぽかしているし何が言いたいかっていうとすごくらくでねむくてねむいのである……。


ハッ買フ-p-)ξ~゜

その乙女のうららかな午後のひと時を妨げたのは、おんぼろ事務所のドアを叩くぶしつけなノックの音だった。

ξ゚p゚)ξ~゜……はーい。

一瞬オカマが帰ってきたのかとも思ったのだが、わざわざ自分の事務所に帰ってくるのにノックするのもおかしな話である。
鍵持ってるはずだしね。
あのオカマならアクション映画ばりに部屋の窓をぶち破って転がり込んでくるとかそういうことならありそうだが、
どうやら外の気配は普通すぎるのでドアの外に居る人間はおそらく仕事の依頼人であろうと思われた。
電話予約が主の商売ではあるだろうが、こうして事務所を設けている以上、直接尋ねてくる依頼人が居たとしても別段おかしくはない。

だが、私の予想に反して押し開いたドアの向こうに待ち構えていたのは

ミ,,゚Д゚彡……あー、こんちわ。今、ちょっといいか?

ξ゚p゚)ξ……はい?

私が胸中密かに恐れていた、最悪の事態だった。


ミ,,゚Д゚彡……おねーちゃん、ここの人?

ξ゚p゚)ξ……はぁ、そうですけど。

糞眠いのにわざわざ応対に出てやった私のつま先から頭のてっぺんまでじろじろとぶしつけに眺め回して、
男がようやくそう言った。いかつい顔に鋭い目つき、なんかテッカテカしている安そうなスーツ姿に
ネクタイは締めておらずこの寒々しい季節に開襟の黒シャツを合わせている。
そしてこの尊大な態度。どう見てもかたぎの人間ではない。

ξ゚p゚)ξ……なんか御用ですか。

自然に言葉尻が硬くなる。当然であろう。
風貌から察するに、目の前の男はやくざか、さもなければチンピラとかその類の人間である。
出来ればぜひとも関ることをお断りしたいタイプである。お琴割りである。
そもそも仕事じゃなければ私みたいな清らで高貴な乙女に相手をしてもらえるような筋合いの人間ではないのだ。
光速の異名を持ち重力を自在に操る高貴なる乙女なのだ。下がり居ろう! 下郎めが!

ミ,,゚Д゚彡あのさ、よだれたれてるけど。

くっそ、一生の不覚。あわてて口元をぬぐう。


ξ゚听)ξ……何の御用ですか。

もちろんのこと心中穏やかではなかったが、それでも涼しい顔で毅然とした態度を崩さない私。
ふん、こんな野郎になめられてたまるかってんだ。何を隠そう小学校のころ『たまつぶしのツン』の異名をとった私である。
いざとなればどこを蹴り上げれば相手がひるむかくらいは心得ているのだ。一撃加えて颯爽と逃げ去るくらいはお茶の子である。

ミ,,゚Д゚彡ショボンさん、だっけ。いる?

ξ゚听)ξ申し訳ありませんが垂眉はただいま席をはずしております。
    失礼ですがお客様、お名前は?

(キリッ!! かけてないけど(眼鏡クイッ!! である。
ふふん、これが出来る女の切り返しである。

だが、次の瞬間男の口から漏れた驚愕の事実に、私の心は一瞬にして凍りついた。

ミ,,゚Д゚彡あー、わりぃわりぃ。俺、刑事なんだけど。

ξ゚听)ξ

なんですと。


それを聞いて0.5秒でまず事態を理解した。
そう、なぜなら薄々自分でも思ってはいたのである。
この商売は、もしや色々後ろ暗いところのある、いわゆるかなりグレーな商いなのではないだろうかと。
説明するまでもない。如何に依頼されているとはいえ、マッチョな筋肉にものを言わせての破壊活動。
さらにその後、修繕を任されるのはこちらの息のかかった業者である。
見る人が見れば、というか普通に考えて詐欺まがいである。

だからこのタイミングで丸暴警官42歳が事務所を訪れたということが何を意味するかなど
MMRの面々を導入するまでもなく明白なのだった。なっ(AAry

次の0.5秒は脳内作戦会議であった。
すなわち、如何にこの場を切り抜けるか。
自分はただのアルバイトであるから、この事務所の事業内容について口をはさむ権限は毛頭ないのだ、という主張はどうだろうか。
うーむ、厳しい。グレー商売だと知っていて手を貸していた弱みがある。
では、脅されていて仕方なく、というのはどうだろうか。これもきついか、下手な嘘はすぐばれるのだ。
泣き落としはどうだろうか。お金がなくて食べるものに困り、むしゃくしゃしてやった今は反省している。これではただの言い訳か。

……仕方あるまい。ここはすっとぼけるの一手だ。


ξ゚听)ξお、おまわりさんですか? 
このあたり平和で別に危ないこととかないんで間に合ってますご苦労様ですそれじゃ!

そうまくし立ててすばやくドアノブを引く。が、しまらない。
いつの間にか扉の内側にねじ込まれた丸暴42歳の左足がしっかりと、ドアがしまるのを妨げている。 

ミ,,゚Д゚彡はっは。待ちなよ、別にとって食おうってんじゃねーから。

やっべえええええええ警察マジこえええええ!!
サスペンスドラマで見たとおりである。超怖い。アタイ、こんなん初めて!!

ミ,,゚Д゚彡勘違いしてるみたいだけど、なんもしないって。
     ただちょっとお宅んところの所長さんに話したいことがあって寄っただけだからさ。

ξ゚听)ξ……で、でも本当に今いないんですけど。

ミ,,゚Д゚彡あー、うん。まいったなぁ、一応連絡いってるはずなんだけど。
     いつ帰るか分かる?

ξ゚听)ξ……多分、もうすぐだと思いますけど。

ミ,,゚Д゚彡そっかー。じゃ、わりぃけど、中で待たせてもらっていいか?

ξ゚听)ξ……はぁ。

どうやらさしあたっての危険はなさそうだと判断した。仕方ない、オカマが戻るまでの辛抱だ。
……本当に、大丈夫か? 国家権力って場合によっては下手なやくざさんよりよっぽど怖いって評判ですよ?


ミ,,゚Д゚彡……ああ、わるいね。気ぃ使わせちまって。

ξ゚听)ξあ、いえ。粗茶ですが。

ソファに沈み込んだ丸暴42歳の前に、そっと紅茶を出した。
なんか結構な量の葉を使ってしまったが、まあ礼儀である。オカマも許してくれるだろう。

ミ,,゚Д゚彡おお、美味いね、これ。

ξ゚听)ξはぁ、どうも。

ミ,,゚Д゚彡でさぁ、俺、直接あったことないんだけど、
ショボンさんって、どういうひと? 怖い?

ξ゚听)ξ……どうって言われても。

何気ない様子でたずねる丸暴42歳、だが目が笑っていない。
やっぱKOEEEEEEEEEE。……なんと答えたものだろうか。

ξ゚听)ξえーと……普通のオカマですけど……。あの、何か揉め事とかですか?

ミ,,゚Д゚彡あー、いやいや別に、なんでもねえけど。
     ただほら、なんていったって噂の壁殴り代行師だろう。どんな人なのかなって。

ξ゚听)ξ……。

噂の? 何の噂だ。
あそこの事務所には変態のオカマが住み着いていて、夜な夜な街を徘徊し、露出狂よろしく公然猥褻な行為に勤しんでいるらしい、
とかそういう感じだろうか。すごくありうる話だ。


ミ,,゚Д゚彡すごいよな、なんせ、国内でたった十三人だっけ? 

ξ゚听)ξ……え?

ミ,,゚Д゚彡ほら、壁殴り代行師だよ、プロの。お宅んところの親分さんも、それだろ。

ξ゚听)ξ……え。

ミ,,゚Д゚彡……? どうした?

どうしたもこうしたも、あんた何言ってるんだ。

ミ,,゚Д゚彡……壁殴り代行師だろ? 垂眉ショボンさん。

いや、それは知ってるけど。十三人ってなんだ。

ミ,,゚Д゚彡何って……。プロの壁殴り代行師の数だろ。現役の。

……なんだそれ。

ミ,,゚Д゚彡何だって言われても……。
国家資格持ってる代行師の、十三人のうちの一人ってことだろ、親分さんが。

……えええええええええええええ!!!!!!!!!

ミ;,,゚Д゚彡え、なに? 何で驚いてんだ?

驚くに決まってんだろっ!!! なんだあのオカマそんな人間国宝レベルの著名人だったのかよっ!!
聞いてない、あたしゃ聞いてないよっ!!! なんでそんな特殊技能持ちのエリート風味がこんなオンボロ事務所で燻ってんだよっ!!


ミ,,゚Д゚彡……なんだおねーちゃん、まじで知らなかったのかよ。

ξ;゚听)ξはぁ。

冷静に考えてみれば確かに思い当たるふしはあるような気がしてきた。
なんせ伸縮自在のびっくり人間である。一昔前なら特報王国に出演して一世を風靡してもおかしくないような能力だ。
エスパー伊藤も裸足で逃げ出すレベルである。

ξ゚听)ξあれ、でもチラシには確か、簡単な仕事だから一緒に働こうみたいに書いてありましたけど……。

ミ,,゚Д゚彡そりゃ壁殴るくらい俺だって出来るよ。でも、正式に代行師になるにはなんか、ほら、色々あるんじゃねーの。
     なんせ十三人しかいないくらいなんだし、簡単な仕事ってーのはちょっと違うんじゃね。

ξ゚听)ξ……。

単に馬鹿馬鹿しくて本職にしようと思うやつがいないだけではないのだろうか。

ミ,,゚Д゚彡ま、広告に偽りありってやつだな。ジャロに相談したらどうジャロ。がははは。

さもうまいことを言ったようなしたり顔で、恥ずかしげもなく豪快に笑う丸暴42歳。
きっと行きつけのキャバクラとかでもこんな感じでうざがられて居るのだろう。中年親父丸出しである。
そのうちオシボリで顔とかぬぐいだしそうである。オシボリ出してないけど。デオキシボリ助さん角さん。


ミ,,゚Д゚彡本当になんも知らないのか。
     あー、じゃ、ちょっと説明しといたほうがいいのかな……。えっと、

俺も詳しく知っているわけじゃないけれど、と前置きして、丸暴42歳が語り始めた。

ミ,,゚Д゚彡まず、壁殴り代行師って資格が正式に、国によって制度されたのが三十年くらい前。

三十年前って……。私が生まれる前の話かよ。

ミ,,゚Д゚彡んで、それが社会的にすんげー重要視されなきゃいけない職業だって騒がれだしたのがそれからすぐの話。
     てか、本当はもっと前から仕事自体の需要はあって、後手に回ってると思われたくなかった当時の行政が、
     うまいこと時流に乗って勝手に制度化しちまったんじゃねーのかってのが俺の考えだけどな。

直接関ってる私が言うのもあれだが、こんな阿呆みたいな仕事のどこに社会的需要があるというのだろうか。

ミ,,゚Д゚彡そりゃ……なんだろうな。珍しさとか……。
     それはほら、アンタの方がくわいしいハズだろ。その代行師の下で仕事してんだから。

ごもっともだがまったく心当たりがないでござるのまき。


ミ,,゚Д゚彡んでまぁ、とりあえず警察庁下で働く特殊公務員って形にして、
組織的にバックアップしていこうってなったのが今からちょうど十一年前だな。
     でも、なんせかわりもんが多いから、全然統制できないで、お偉方はきりきり舞いさせられてるって話だがな。がはは。

それは分かるような気がする。仮に十三人全員があのオカマのようなパーソナリティの持ち主だったとして、
それをまとめてどうこうしようというのは、ちょっと難易度が高すぎすだろう。
……しかし……あいつ、公務員だったのか。なんという税金の無駄遣い。

ミ,,゚Д゚彡いや、俺も確かなことはしらねぇけど、実際に国から給料貰ってる代行師のほうが少ないらしいぞ。
     ほとんど自分の才覚ひとつで切り盛りしてるって聞いてるし。まぁだからこそ好き勝手やってんだろうがな。

好き勝手を通り越して、詐欺まがいの行為で報酬を得ているような気がしてならないのだが、黙っておこう。
藪をつついて蛇を出すようなことはないのだ。オクチチャックマンである。

ミ,,゚Д゚彡いや、しかしまいったね。ちょっと俺も興味あったから息抜きがてらに引き受けたけど、
     肝心の代行師さんがいねーんじゃなぁ……。

おう? そういやあんた、何しに来たんだ?

ミ,,゚Д゚彡ん? わりぃわりぃ。そっちが先だったな。ほら、あんたの親分、色々無茶する人みてぇじゃねえか。
     一応形だけでも公務員なわけだし、ちょっくら釘打って来いって上がうるさくてよぅ。

返す言葉もないのである。


ミ,,゚Д゚彡あぁ、いやいや、実際はくだらねえ面子争いみたいなもんなんだ。
     その、あんたんところの親分は警察庁の預かりでな、うちは警視庁。あー、違い、分かる?

ξ゚听)ξあ、それ知ってます。

水谷豊経由で得た知識である。縄張り争いで仲悪いんだってね。ソースは中濃もといテレビだから安心だよ! ファミ通のry
なんだか話が政治的になってきたな。

ミ,,゚Д゚彡はは……。まぁそんな感じでよ。だからまぁ、つまんねー縄張り意識だと思うが、
     坊主憎けりゃ袈裟までみたいな具合で、軽く鞘当して来いって、上がよう。それが、ま、今日俺が来た理由だわ。
     ガキの使いみてえなもんだな、がははは。

笑いながらそう言って、時間がたって冷めてしまったであろう紅茶をゴクリと飲み干した丸暴42歳。
なるほど、公僕も色々大変なんだな。うむ、ご苦労様である。
話を聞いてみれば思ったほど嫌なやつでもなさそうだ。お茶のもう一杯くらい淹れてあげても良かろう。
そう思って、腰を上げたそのときだった。


ミ;,,゚Д゚彡っ!!! あぶねぇ!! 

丸暴42歳が血相変えて立ち上がり、私の頭を押さえつけた。
一瞬わけが分からず呆然となる。が、次の瞬間




物凄い勢いで何かが窓をぶち破り、室内に飛び込んできた。
何かっていうか件のオカマていうかマジで何やってんだお前。


ミ#,,゚Д゚彡なっ、なんだてめぇコラァッ!!!!!!!!!!

呆気にとられて立ちすくむ私をすばやく後ろ手にかばい、丸暴42歳が腹のそこから搾り出さんばかりの大声で叫んだ。
おお、凄いなこれが刑事か。うむ、中々格好良いぞ。この状況でなければ。

ξ;゚听)ξ ……なにしてんですか、所長……。

(´・ω・`)んっふっふ〜♪ ただいまぁん!!

ミ;,,゚Д゚彡……はぁっ!!? 所長っ!!?

当然の反応である。五日間でこのオカマの奇行にある程度の耐性が出来ていた私をして、意味不明なのだ。
多少なりとも一般常識を持ち合わせた人間が初見で理解できるほど、生易しい相手ではないのだ。

パチッ(´・ω-`)^☆なんか、期待されてる気がしちゃってねん、サービスサービスぅ♪

ほらな、またわけわかんねーこと言い出したよコイツ。

ミ;,,゚Д゚彡あっ、え、ええっ?

(´・ω・`)はじめましてぇん♪ 待たせてごめんなさいねん。私がオーナーの、垂眉ショボンでぇっす♪

ミ;,,゚Д゚彡……。

先ほどの威勢のよさは霧散して、うろたえるばかりの丸暴42歳がそこに居た。
哀れである。がんばれ公僕負けるな公僕。未来はぼくらの手の中。


ミ;,,゚Д゚彡……と、いうわけで伺った次第なのですが……。

(´・ω・`)わざわざごめんなさいねん。ご苦労様でしたぁん。

ミ;,,゚Д゚彡あ、あのくれぐれもその、あまり無茶なことは……。

(´・ω・`)はぁいん。うふふふ。

不思議なものでパニックに陥った他人を見ていると、かえって自分は冷静になる時が往々にしてあるものだ。
二人が話し合っている間、とりあえず私は置いてあったちりとりと箒を使って、割れたガラスの処理をもくもくとしていた。
確かに驚いたことには驚いたのだが、伸縮自在の体を持つびっくり人間がこの世の中に存在することに比べれば、
窓が割れるという現象はまだ物理的に理解ができる。
意味など求めてはいけない、物事は常にあるがままに。ジョルジオアルマーニ。なにやら悟りを開いた心境である。

あれ、でもこの事務所ってビルの二階だし、道路側に面した窓から飛び込んできたようなやめろ考えるな。

ミ;,,゚Д゚彡……では、失礼いたします。

(´・ω・`)はぁいん! おつかれさまぁん♪

ペコリξ゚听)ξ……。

常人の思慮の外に居るオカマの存在に呆気なく気をのまれてしまった様子の丸暴42歳は、
挨拶もそこそこに来訪の目的を早口で説明し、それだけ済ませてしまうとそそくさと帰っていった。
下手に関りあってはまずいと判断したのだろう。彼の、人としての危機管理システムが、良好に作動している証拠である。
そのオカマの下で働いてるんだけどね、私。
あらためて自分のキャパシティの深さに、妙な自負を覚えたのであった。良い悪いは別として。


(´・ω・`)遅くなっちゃって悪かったのん。ちょっと手間取っちゃってねん。

謝るのはそこじゃないだろうが。

(´・ω・`)さっ、お仕事お仕事ん! 私たちも行きましょう、ツンちゃん♪

何事もなかったかのようにそう言い放って、キャットウォークよろしく腰を振りふりドアに向かっていくオカマ。
してみるとどうやら、ドアというものの役割については一応認識しているらしい。
良かった。ぶち破った窓をして、出入り口とか言い出したらどうしようかと思っていたところだ。
後始末どうするんですか、といいたくなる気持ちをぐっとこらえて我慢我慢。考えては駄目だ、感じるんだ。

このオカマと関わるようになってひとつ、思ったことがある。
言葉が通じているうちはとりあえず、慌てるのはやめようということだ。
いちいちオカマの奇行に右往左往するようでは、この先到底やっていくことなどかなわないだろう。
ちょっと辛抱すれば仕事自体はとても楽なのだ。それで良いではないか。

(´・ω・`)……飛び降りたほうが早かったわねん。

外への階段を下りている途中で、オカマがなにやらボソリと呟いたようだったが、聞こえなかったふりをした。
いや、聞こえなかった。


ξ゚听)ξ……あの。

現場への移動の車中で、恒例のオカマオンステージの切れ間を見計らって、
先ほどから微妙に気になっていたことを聞いてみることにした。

ξ゚听)ξさっきの刑事の人が言ってたんですけど、壁殴り代行って難しい仕事だったんですね。

(´・ω・`)うん? そんなことないわよぅ。誰にでも出来る簡単なお仕事よん。

ξ゚听)ξえっ、でもさっきの人、資格がなんとかとか言ってましたけど。
    日本で十三人しか居ないんだって。

(´・ω・`)あらぁん。違うの違うの。やり方さえ知ってれば本当に、誰にでも出来ることなのよん。
    ただちょっと、本格的に働けるようになるまで時間がかかるだけなのん。

ξ゚听)ξ……?

毎度のことながら抽象的で当を得ないオカマの説明である。


(´・ω・`)えっとぅ……。イライラ! とか、ワー!ってなっちゃってる時に、
    誰かが変わってくれたら嬉しいわよねん? 

まぁ、それはそうだ。

(´・ω・`)他の気持ちのこともあるけど、オーソドックスなのはそれねん。
    最初はパーフォマンスなのん。自分は今、怒ってるんだぞぅ! って、相手に見せてあげるところから始まるのん。
    そうしてるうちに今度は段々本当に、自分も怒ってる気持ちになれるようになるのん。

うーむ、共感とかそんな感じか?

(´・ω・`)そうすればいつかねん、相手の気持ちとぴったし重なって、怒れるようになるのん。
    そこまで出来たら一人前ねん。後はそれを肩代わりして、発散させてあげるだけで良いのん。
    ね、簡単でしょう?

だから、さらっと重要なプロセスを飛ばすんじゃないよ。今どうやって肩代わりしたんだよ。
精神論だよそれは。エゴ(ry



2話へ] 戻る [続きへ