挫折。
英語で言うとDefecation, ドイツ語ではRaumung,
フランス語ならEvacuation, イタリア語になるとEvacuazione。
英語以外は嘘である。
何かしら人生頑張った経験のあるものにしか許されない、至高の概念である。
そう、この手の言葉は、本当に努力したものにしか語ることが認められない、
ある意味ステータスな側面も持ち合わせているのだ。
俺、最近ちょっと挫折しちゃって……へへ。 まぁ、××君て努力家なのね! かっこいい!
多分こんな感じ。頑張らない人にはそもそもからして、挫折なぞとのたまうことは出来ないのだ。
ξ゚听)ξ……掃除、しようかな。
のらりくらりと生きてきた私のような人間には、もちろん無縁の言葉でもある。
挫折どころか努力もしたことがない、生まれてこの方何かに一生懸命になった覚えがない、
この世に生れ落ちるときですら、人並に頑張って出てきたのか怪しいものがある私のような人間には、
それこそ迂闊に口にすることなど許されない、神聖かつ不可侵で崇高なものなのだ。
世間一般に見ても、奮闘努力というものは大いに尊重される傾向にある。
一生懸命頑張った結果、成功をおさめた。やったねたえちゃん!
そういう話に、人はおおいにグッとくるものらしい。
聞くも涙、語るも涙の浪花節である。即席めんに鰹節粉入れると美味しいのである。
でもさぁ、私、思うのだけれど。
ξ゚听)ξ……マンドクセ。
頑張ってなくても素敵な人って、いっぱい居るよね。
だからそんなに本気出さなくても、良いんじゃね?
ξ゚听)ξ壁殴り代行始めました 案件4:河内ミルナ様
ξ゚听)ξおっかいもの♪ おっかいもの♪
今、私はお金持ちだ。どれくらい金持ちなのかというと、
財布の中に諭吉先生がちょうど三人いらっしゃるくらいの金持ちだ。
近頃珍しいブルジョワっぷりなのだ。
これほど大金を持っていると、なにやら反道徳的な手段による収入なのでは、なぞと思われそうだが、安心してほしい。
これは正真正銘私の、ここ最近の涙ぐましい労働の対価としての正当な収益なのだ。
初日に二千円、その後五日間続けて10:00〜17:00までの七時間拘束、実労五分。
時給千円で日当七千円、なぜか昼の休憩中も時給計算されているので、
ここ六日間で実に三万七千円という大金を稼ぎ出したことになる。大金持ちである。
そして、働き始めて七日目の今日は初の休日、フリータイムである。
オカマと相談した結果、週六勤務の週払い精算という雇用形態に落ち着いたのだ。
当のオカマは、毎日来てもいいのよん? なぞと嘯いていたし、実際楽すぎるのでそれでもかまわなかったのだが
さすがに一日くらいは休みがあったほうが良かろうと、一週間のうち木曜日だけは、休暇を貰うことにした。
ちなみにオカマは固定電話の転送サービスを使って、
リアルに年中無休の二十四時間営業を続けているらしい。化け物だと思う。
ξ゚听)ξ……ひゅ〜♪
捕らぬ狸の皮算用、という言葉が大好きな私は、早速一月あたりのおよその収入を試算しようと、そろばんを弾いてみた。
とりあえず週払いにしてもらったので、一週間毎に七千×六日=四万二千円、一月大体四週+α計算で十九万近い給金になる。
うっひょおおう! 超金持ち! 群馬県くらいなら買収できそうな勢いじゃね!
家賃とか色々ひっくるめて、十四万あれば結構余裕で暮らせてしまうので、
これはもう左団扇の生活といっても過言ではないだろう。
オカマ様さまである。唯一の懸念は保険に未加入だということだが、まあそれはおいおいで良いや。
アルバイトでも年間百万以上の収入がある場合、別に税金を払わなければならなかった気もするが、
はじめからタイムカードとか押してないし明細ももらってないしで、
かなりいい加減な契約環境にあるので、甘んじて知らなかったフリをすることに決めた。
そもそも雇い主のオカマ自身、帳簿に載せられない収益があるはずで、というかそちらのほうが収入として多いわけで
税務署の人に告げ口したら顔真っ赤にして怒りそうな宇和何をするやめくぁw背drftgtyふじこlp;@:「」
ξ゚听)ξおっかいもの♪ おっかいもの♪
そんなわけで私は今、久々の休日を満喫しつつ、家賃四万八千円の自宅アパートから少々遠方の
家電量販店までやってきたところであった。
ちなみにこのξ゚听)ξおっかいもの♪ おっかいもの♪ は、断るまでもなく心の声だから、
何あの人22歳にもなってはなうた歌いながらスキップしてる怖い……とか思わないでね。
今日の目的はDVDデッキを手に入れることである。
そう、うわさのドゥービデオドゥーデッキである。
巨神兵がドーン!!! おっこと主がブモオオ! の、あれである。
ヴィンちゃんよりジゴロウのほうが好きだったのである。
なぜ今更DVDデッキなのかというと、単純明快、他に欲しいものがなかったからなのだ。
なら貯金しろよ、とか心無いことはいわないで欲しい。これまでさんざっぱら、寂しい財布の中身に涙してきた身なのだ。
日ごろ持ちつけない大金に舞い上がって、なにかしら高いものを買ってみようと思う気になっても、仕方ないじゃないですか奥さん。
価格.comで調べたところ、大体二万出せば余裕で買えるようなので、
まぁ三万持ってきゃ十分だろ、という判断の元での本日のお財布事情だった。
PC持ってんなら別にいらなくね? と思われるかもしれないが、まぁほら、録画とか画質とか色々あるじゃん。
いいじゃん、買わせろよ。ブルーレイは高すぎて手が出ないし。
真新しい三階建てのそのビルは新しいおもちゃ箱を連想させて、なんだか心なしワクワクした。
自動ドアを一歩抜けるとすかさず、顔中に笑顔を張り付けたようなはっぴ姿の店員のお客様チェックが入った。気がした。
さすが百戦錬磨のセールスマン。
こちらが買う客か、買わない客かお見通しだとでもいうような、ある種の余裕すら伺えるような満面の笑みである。
だが見くびってもらっては困る。今日の私は一味違うのだ。
なにせ後ろには三人の諭吉が控えている。ブルジョワジーの異名を持ち諭吉を自在に操る金満なるフリーターである。
下がり居ろう! 下郎めが!
だが敵も然る者、私が物知り顔で、ずらりと並ぶ数々の文明の利器たちに見入っていると、
カカッとバックステッポで気配もなく背後に回り、何かお探しですか? 攻撃をしきりに仕掛けてくる。
ほう、経験が生きたな。私を買う客と感じてしまっているやつは本能的にセールスマンタイプ。
ていうか、あうあうなるからマジで話しかけないで欲しい。コミュ障なめんな。
はぁ……。そうですか……。へぇ……。ふぅん……。あ、ええ……。はい、ええ……。
やめて! ガラスのハートを傷つけないで! 愛想笑いのひとつも出来ない自分に欝になるからぼうやべて、ばぶう。
イケメンにチーズバーガーをぶつけ続けると死ぬ。同じく、コミュ障に会話をぶつけ続けると死ぬ。
応対に来た店員の応対に四苦八苦という謎の状況に私が陥っていた、一瞬の後のことだった。
突然頭の上で、何かの砕けるような鈍い音が響き、次いでフロアの床がグラリと震えるのを感じた。
ξ;゚听)ξ……えっ!!?
身体に響く、地震でも起きたかと錯覚してしまうような振動に、誰かの怒号や悲鳴のような声が入り混じる。
なんだ、なにごとだ?
ξ;゚听)ξ……っ!!?
聞こえてきた音をたどって昇りのエスカレーターを小走りで駆け上がり、
三階のPC機器フロアのドアを抜けた屋内駐車場の一角で、
先ほどの轟音の原因をようやく突き止めることが出来た。
一台の灰色のセダンが、駐車場とその先の何もない空中とをさえぎる壁に、豪快にめり込んでいる。
ξ;゚听)ξっう!! やっば!! 落ちちゃう!!!
壁を思いきり突き破ったセダンの、車体の半分が宙空にせり出し、
あわや、というギリギリのバランスで何とか落下せずに踏みとどまっていた。
私の先を走っていたハッピ姿の店員がそれを見て、うわずった叫び声をあげる。
どこかでロープ! ロープ! と言う声が聞こえる。
何があったのか、という誰かの問いに、中に人が! という怒鳴り声が重なる。
つられて乗用車の運転席に目をやると、確かに私の立っている場所から、運転席の男の後ろ頭らしきが見えた。
車体の後ろ半分をこちら側に残し、半身飛び出したセダンは、かろうじてその位置を保ってはいるが
あと少し前へ出てバランスを失すれば、十メートルほど下の硬い地面に落下、激突してしまうのは目に見えている。
早くなんとかしないと!! でも、どうやって!?
その時だった。
/ ,' 3 ……お前さん、垂眉の匂いがするのう。知り合いかえ?
ξ;゚听)ξ……え?
/ ,' 3 ……ああ、お前さんが件の。……カカカ! なるほどのう。垂眉が気に入るわけじゃわ。
ξ;゚听)ξえ、ちょ、どなたd
/ ,' 3 ……ないちちじゃのう。ぺっちゃんこじゃわ。
ξ゚听)ξ……は?
/ ,' 3 もちっとボインちゃんにならにゃいかんぞい。わしはペチャパイは好かん。
ξ#゚听)ξはああああ? あんた何っ
/#,' 3 ……クカカカカカ! 良いわえ! こりゃ良いわえ!!
ξ;゚听)ξ言って……はえ!?
ズウウウウウウウウ //////#,' 3 )))))) ……んんんっ
ξ゚听)ξ
/#,゚ 3 <んおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!
/#,゚ 3 そおおおおおい!!!
何の前フリもなく突然現れた謎の糞爺は、獣じみた咆哮一閃、膨れ上がった両腕で落下しかけていたセダンの両サイドをがっしりとつかむと、
1tはあろうかと思われるその灰色の車体をずるずると引きずりあげ、ついにその前輪が再び駐車場のコンクリートを踏む。
バシュウウウン////// ,' 3 ))))))……ふう、こんなもんじゃろう。
ξ゚听)ξ
どうしよう、私、また変な人に関っちゃった。
呆然と一連の出来事を見守っていた周囲の人々から口々に、歓声とも呻き声ともつかぬ声が漏れた。
/ ,' 3 んお? 何呆けて居るんじゃ、初めてじゃなかろうに。
なにか分からんが若干セクハラ風味だよねそれ。
うん、そうだけどさ。初めてじゃないけどさ。今はそれをすっごく後悔してるよ。
ほら、回りの人めっさ見てるし、どう考えても私も仲間だと思われてるよね。やめて、見ないで。
違うんです、これには色々わけがあるんです。こっち見んな。コミュ障に視線をぶつけ続けると死ぬ。
ていうかあんた誰だ。オカマの仲間か。国内に十三人のくせにエンカウント率高すぎだろ。
/ ,' 3 わしゃ荒巻じゃ。荒巻スカルチノフ。
ま、挨拶より先に、そっちの男をどうにかするべきじゃな。
そういって糞爺があごでしゃくって見せた先に、バンパーがぺしゃんこにつぶれたセダンが一台。
そして、程なくしてその運転席から、一人の中年の男がゆっくり降りてきた。
( ゚д゚ )……。
この世の終わりみたいな面しやがって。助かったんだからもっと嬉しそうな顔すればよいのに。
男は、魚の死んだような濁った目をしていて、青ざめたその顔にはびっしりと脂汗が浮かんでいた。
よれよれのジャンパーの左胸のあたりに、ラコステもどきのワニの刺繍が見て取れる。どこのメーカーだそれ。
セカンドバックがよく似合いそうな、どこにでも居る普通のおっさんである。
長年勤めた会社をリストラされて再就職先も見つからず、家族には毎日出社と偽って
公園のブランコにすわって弁当を食べる元営業マン47歳。あたらずとも遠からずってとこかな。
……ん? あれ、これって……。
( ゚д゚ )……どうして、死なせてくれないんだ……。
……ああ、やっぱり。このパターンか。
どうやらただの事故ではなかったらしい。
/ ,' 3 ま、見たところまだ若いようじゃの。なにもそれほど死に急ぐこともあるまいて。
結構年行ってると思うぞ。
( ゚д゚ )……。
/ ,' 3……何があったのかは分からんが、これも何かの縁じゃ。良ければこの老いぼれに話してみなさい。
……ていうか私、関係者みたいになってるけど、帰っていいかしら?
こんなん警察に任せるしかなかろうが。なんなら私が知り合い紹介してやってもいいぞ。連絡先知らけど。
( ゚д゚ )……俺……は……。
ああ、うん。話すのね。うん。別にいいけど。ごめんなさい今日はちょっと都合が悪くて。
あなたの相談に乗ってあげたいのは山々なんだけどピアノのお稽古に遅れそうだからごめんなさい今日は失礼いたしますね。
人生色々つらいことあるけどがんばってください。
気配を殺してそっとフェードアウトしようとしたがしかし、いつの間にか私の上着の裾を糞爺がしっかりと捉えていて、
その場から逃げ出すことが出来なかった。oi miss おいやめろ私を巻き込むな。活花教室に遅れちゃうだろHA★NA★SE★
抵抗むなしくその場に付き合わされること三十分。
途切れ途切れにリストラ47歳が語った事情をつなぎ合わせると、どうやら親から譲り受け、
彼が社長を務めていた町工場の経営が悪化、そして倒産。
家族には去られ、愛人には見捨てられ、家財は借金の抵当に押さえられ、
すべてを失った男の手元に唯一残ったのは、あのセダン一台だけ。
人生に絶望した彼は、自殺を試みようと今回のアイキャンフライ with car を決行してみたらしい。
営業じゃなくて社長だったけどまあ良い。愛人居たのかよお前、良い生活してたんじゃねーかこの野郎。
( ゚д゚ )……もう、死ぬしかないんだ……俺は……。
そんなこと言われても、その、なんだ、困る。
とりま自殺とかそういうのは良くないよ? ぐらいの月並みの言葉しか、こちとら持ち合わせては居ないのだ。
おい、何とかしろ糞爺。
それまで黙って聞いていた糞爺が、ようやくその口を開いた。
/ ,' 3 自分を偽ってはいかんの。死にたい、なぞと、そりゃ、気の迷いと言うやつじゃ。
( ゚д゚ )そんなことはない! 俺は、
/ ,' 3 ならどうして後一歩、アクセルを踏み込まなかったのじゃ。
本当に死にたかったのなら、なぜあんな半端な形で止まった?
( ゚д゚ )それは……恐かったから……。
/ ,' 3 そうじゃ。恐かったからじゃな。だが、それは大切なことじゃよ。
死ぬのが恐いと言う気持ちは、すなわち生きていたいという気持ちじゃ。
死にたいと言う気持ちより、生きていたいという気持ちが強かったから、お前さんは踏みとどまることが出来た。違うかえ?
( д )……。
……そりゃあんた、死に損なった人間にそれ言ったら、返す言葉がないだろ。
/ ,' 3 その気持ちがあるうちは大丈夫じゃよ。何べんだってやり直せる。
一時の感情に流されて、自分の本当の気持ちを見失ってはいかんぞい。
自棄になってはいかん。自分の中にわずかでも生きる気力があるうちは、自殺なんぞしてはならんのじゃ。
( д )……。
/ ,' 3 人生は長いんじゃ。なあに、落ちるところまで落ちたと思うなら、後は上がるだけではないか。
気楽なもんじゃ。人間誰しも、やればちょっとは出来るようになっておるわえ。
何だお前水戸黄門気取りか。正論だけどさ、なんかちょっと安すぎやしないかい。
( д )……お、俺は……。
/ ,' 3 ……生まれ変わったつもりでもう一度、一生懸命生きてみなさい。な?
( ;д; )……うう、あああ!
……良いのかよ、それで。なんか、うまいように丸め込まれてないか?
/ ,' 3 カカカ! うむうむ! ではお前さんの新たな門出を祝して、不肖荒巻スカルチノフ、壁殴り代行といこうかの!
なんか……なんか、なあ。いや、別にいいけどさ。
/#,゚ 3……行くぞおおおおいッ!!
/#,゚ 3 きょおおおげええべえええつでええええんんッ!!
ξ゚听)ξ(……で、膨らむわけか……)
/#,゚ 3 いいいちじいいいいふううううせつうううううッ!!
ξ゚听)ξ(……別に、良いけどさ……)
/#,゚ 3 じゃああくめええついいいいらくううううッ!!
( ;д; )あああああっ!!
ξ゚听)ξ(……納得してるみたいだから、良いけど、さ……)
糞爺の振り上げられた拳骨が、勢いよくセダンの屋根に叩きつけられる。
半スクラップ状態だった灰色の車体がその一撃を受けて、バキバキと小気味の良い音を立て、今度こそ完璧に潰された。
せめて壁殴れよ、おい。唯一残された財産じゃなかったのか。
/ ,' 3 カカカ! 良い仕事じゃったわい!
( ;д; )あっ、ありがとうっありがとうございますっ!
リストラ47歳は感涙にむせび泣き、周囲でそれを見守っていた人たちからも、
つられて鼻をすするような気配ややまばらな拍手のような音まで聞こえてくる始末だ。
なんだか……なんだかなぁ……。
/ ,' 3 うむうむ! 挫けてはならんぞ! 地に足をつけて、しっかり歩いてゆくのじゃ! カカカカカカ!
糞爺はそう言って満足そうな笑みを浮かべ、高笑いだけをその場に残して颯爽と去っていった。
あとその前に、ちゃっかり領収書切ってるのが見えた。まさに外道。
はっぴ姿の店員がやさしくリストラ47歳の肩に手を置き、何事かささやきかける。
男はただ小さくうなずいて、ゆっくり歩き始めた。
それを見送る人々がその背に向かって口々に励ましの言葉やらなにやらを投げかけ、
リストラ47歳は何度も何度もありがとうを繰り返しながら、肩を抱かれるようにしてどこかへ連行されていった。
……なんでしょう、この気分。あれ、私がおかしいのか?
ξ゚听)ξ……。
しばらく後、人がはけた駐車場に一人取り残された私は、ただぼんやりとあたりを見渡していた。
リストラ47歳が空けた壁の穴は、応急処置としてビニールテープで×印にふさがれ、
その周りを囲むように赤いカラーコーンが何本か立てられている。
おそらく廃車にされてしまうであろう件のセダンのひしゃげた窓枠が、妙な哀愁を漂わせている。
……やっぱ何にも解決してなくね?
ふと思いついてオカマに電話をかけてみることにした。どうせ暇してるだろうしね。
ツーコール、スリーコール、出た。早いな。
ξ゚听)ξ『あ、もしもし。津出ですけど』
『あらぁん、どうしたのん?』
ξ゚听)ξ『あ、いえ、なんか今妙な黄門様が……』
『……アナル?』
ちげーよ馬鹿。確かにミスリードしたけどいきなりそっちにはいかねーだろ女子高生。
私がいきさつを説明すると、少し間を置いて、暇してるなら帰りがけにでも事務所によると良いと言うオカマの返事だった。
遠回りになるわけでもなし、あの謎の糞爺のこともちょっと聞きたかったのでお言葉に甘えることにした。
妙な気分のままDVDデッキ¥23,980を購入して、トボトボ歩くこと15分足らず、
事務所のドアを開けると既に、オカマが紅茶とチーズケーキを用意して待っていてくれた。
淹れてくれたお茶は冷えた体に暖かくて、美味しかった。
ξ゚听)ξ……そういうことがあって……。
途中で話をさえぎることもなく、オカマはただ黙って私の話を聞いてくれた。
(´・ω・`)……荒巻さんねぇん。あの人、変わってるから。うふふ。
お前が言うなというセリフをようやく飲み込んで、私はその後に続く言葉を待った。
ややあって子供に諭すようなやさしい口調で、オカマがいった。
(´・ω・`)……それで、ツンちゃんはどう思ったのん?
ξ゚听)ξなんていうか、その……自分でも良くわからないんですけど……。
(´・ω・`)……。
ξ゚听)ξ……あれでよかったのかな、って思って。
(´・ω・`)……そうねぇん。
少し考えるような表情を見せて、オカマが語りだした。
(´・ω・`)ちょっと説明が難しいんだけど、結局、私たちにとって、会話は切り口みたいなもんなのよん。
ξ゚听)ξ……どういう意味ですか?
(´・ω・`)つまりねん、相手の気持ちをこちらに向ける手段っていうか、きっかけっていうか……。
最初からこちらを見ててくれればやりやすいんだけどねん。そうじゃないことも多いのよん。
ξ゚听)ξ……。
(´・ω・`)だから、たとえそれが奇麗事だろうとなんだろうと、
相手と向き合うために必要だと思ったらそうするのが、壁殴り代行師なのよん。
……ああ、そうか。私には、糞爺のあのセリフが、ただの奇麗事に聞こえたんだ。だから……。
(´・ω・`)荒巻さんの言ったことは、ツンちゃんにはちょっと腑に落ちなかったのよねん?
もしかしたら、それはその助けられた男の人だって、そうだったのかもしれないのん。
ξ゚听)ξ……。
(´・ω・`)でもちょっとでもその奇麗事が心に響けばね、ちょっとで良いのよ、そうすれば気持ちもそれについてきて、
ちゃんとこちらと向き合ってくれるのん。そうしたら後はなんとでも出来るのよん。
ξ゚听)ξ……。
それが、オカマがよく言っている、壁殴りの仕事、というものなのだろうか。
(´・ω・`)その男の人がこれからどうなるかは、正直言って分からないのん。
私たちは、ただ手を添えてあげることしか出来ないからん……。
でも少なくとも今日のことで、また少し前向きになれたはずよねん?
だから、それで良かったのよん。
……良かった、のかな。
(´・ω・`)本当に恐いのはね、気持ちがなくなっちゃうことなのん。
それは、本当に恐ろしい……でも、そのことはツンちゃんはまだ知らなくて良いわねん。
ともかく、といってオカマは続けた。
(´・ω・`)あなたと荒巻さんが、その男の人を助けたことに変わりはないのよん。
結局、それが大事なことなのん。
ξ゚听)ξ……。
(´・ω・`)だからねん……。
おしまいにそう言って、オカマがトレードマークのウィンクをして見せた。
パチッ(´・ω-`)^☆ 今日は、お疲れ様ん♪
ξ゚ー゚)ξ……はい。
正直に言ってしまえばそのときの私は、オカマの言ったことを全部が全部理解できていたわけではなかった。
でも、いつも腹立たしく思っていたそのしぐさが、その時だけどうしてか、ちょっと嬉しかったのも本当だった。
(´・ω・`)……ところでツンちゃん、DVDデッキ買ったのねん!
ξ゚听)ξあ、これ。結構高くてびっくりでした。
(´・ω・`)うふふ! じゃあ……はぁい! これ、プレゼントなのん♪
ξ゚听)ξえ……なんですか、これ?
(´・ω・`)うふふ! バストアップ体操のDVDよん! ツンちゃん、喜ぶと思ってん♪ うふふふ。
ξ゚听)ξイラッ
てめーオカマだろうが! 何もってんだよ! つーか馬鹿にしてんのかっ!!
領 収 書
河内ミルナ 様
¥ 1, 500 −
但し 明鏡止水
上記金額正に領収致しました
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