ξ゚听)ξ壁殴り代行始めました  6-2


案内された地味子26歳の生活空間は、the correct girl といった風情で、
部屋に入るなりピザデブが何かそわそわしだした。キメェ、落ち着けよdt。

ベッドの上の寝具はうすピンク色のものに統一されていて、枕元には垂れパンダのぬいぐるみ。
部屋の中央に置かれた小さな四脚テーブルの上に、ほらあった、AneCanが投げ出されている。
隅の本棚にはへぇ、あんたもナナっていうんだが全巻そろっており、後どうでもいいけどお前、安野モヨコとか好きそうだよな。
中高生のときのクラスに一人か二人は居たタイプの人間である。なんというか、どこまでも教科書どおりの女といった印象。

(´・ω・`)それで、今日はどうしましょうかしらぁん?

('、`*川 えーっとぉ、私、友達に紹介してもらって……初めてなんでよく分からないんですけど、お任せしてもいいですか?

ξ゚听)ξ……。

知り合いに紹介されたくらいで良くこんな怪しい輩を家に呼んでみる気になるもんだ。
なんか流されやすそうな感じだもんなー。飲み会とかでいい様に酔わされて、コロッとお持ち帰りされちゃうみたいな。
宗教とかはまるタイプだよ、あんた。そうかそうか。

(´・ω・`)あらぁん、分かりましたぁん。じゃ、ブーンちゃん、お願いねぇん。


( ^ω^)ははは、はいっ! 任せてください!

ピザデブが鼻息を荒くして答える。あるえー、なんでオカマがやらんのん?

( ^ω^)それじゃあ、よろしくお願いします!

('、`*川 あ、はぁい。お願いします。

(´・ω・`)……。

一歩身を引いて、穏やかに成り行きを見守る体のオカマ。あぁ、そうか。これ、新人研修みたいなもんか。ピザデブの目的はそれなのね。
つーか壁殴るだけだろ、そんな修行みたいなことしなきゃいけないほど、大変なもんかなぁ?


( ^ω^)それじゃあ、まずは怒るところからはじめましょう。

ま、お手並み拝見といこうか。

('、`*川 え、怒る、ですか?

( ^ω^)はい! 壁殴り代行は、言ってみればストレスやフラストレーション発散の代行なんです。
      つまり、まずお客様の中のイライラのヴィジョンをしっかりと意識していただいてしかる後、
      その発散を代行させていただく、というのが一連の手順になります。

('、`;川 でも……いきなり怒れって、言われても……。

( ^ω^)何でもいいんですよ。ほら、例えば、昼ごはんが気に入らなかった、とか色々あるじゃないですか。

昼ごはんが気に入らないってお前……。
世の人がみな、年がら年中食いもんのことばっか考えてると思うなよ。
ていうか、イヤミか貴様ッッ!! 豚丼、あれだけがっついといて気に入らなかったのかよ。やっぱ共食いは嫌だったのか。

('、`;川 えっ、うーん……それじゃあ、なんとかやってみます。

( ^ω^)はい! がんばってください!

ξ゚听)ξ……。

それにしてもオカマとは随分スタイルが違うんだな。
なんというかいかにも業務的というか。
うーむ、これが年季の違いというやつか。なるほど、どうでもいい。


両こぶしを握り締め、中腰でいきむような仕草をとる地味子26歳に、
正面から向かい合って熱心にそれを見つめるピザデブ。

('、`;川 むむむ〜。

( ^ω^)……。

('、`;川 うぅ〜。

( ^ω^)……。

('、`;川 ……。

( ^ω^)……。

ξ゚听)ξ……。

何やってんだこいつら。


('、`;川 ……あの。

( ^ω^)どうしました? 続けてください

('、`;川 えっと、これで精一杯なんですけど……。

(;^ω^)えっ、それは……。その、もうちょっと強く憤っていただかないと、
      代行できるほどのエネルギーにならないのですが……。

('、`;川 でも、そんな、急に怒れなんて……。

(;^ω^)えー、あー、えっと……。

ξ゚听)ξ……。

そりゃそうなるだろ。いきなり怒れなんて言われてもな。
ふーむ、そうかそうか。
いつも何気なくこなしてたから気づかなかったけど、オカマ、結構高度なことやってたんだな。どうでもいいけど。

(´・ω・`)……まず、問題点を見つけなくちゃねぇん。

一連の流れを黙って見守っていたオカマが見かねたように、口をひらいた。
ほら、出番だぞ。格の違いを見せ付けてやれ。


( ^ω^)問題点、ですか?

(´・ω・`)そうよぉん。ね、貴方は、どうして壁殴り代行を頼んでみようと思ったのかしらぁん?
    良かったら、聞かせてちょうだいん?

('、`*川 え、ええと、なんだか最近、気持ちが落ち込んじゃうことが多くて……。
     友達に、スッキリするのに凄くいい方法があるっていわれて……。

始めは遊びのつもりだったんですけどぉ、だんだん止められなくなっちゃってぇ。
今では私がジャンキー。静脈にぶち込むのはもちろん高純度のヘロイン。
なぜなら、今日もまた、特別な禁断症状に苛まれているからです。

覚醒剤。ダメ、絶対。

(´・ω・`)そうなのぉん。どうして落ち込んじゃうのかしらねぇん。
     なにか思い当たることはあるかしらぁん?

('、`*川 それは……。

(´・ω・`)……。

ああ、なんか背中がかゆい。


('、`*川 ……なんて言えばいいんだろう。
     なんだか、私……このままでいいのかなって思っちゃって……。

(´・ω・`)というとぉん?

('、`*川 えっと……なんか私、いてもいなくても一緒なんじゃないかって思っちゃったりして……。

うわぁ…地味子26歳…すごく…面倒くさそうなりぃ……。

(´・ω・`)あらぁん、そんなことないわよぅ。世の中に必要ない人なんて、いないんだからぁん。

('、`*川 でも……。なにか凄く出来ることがあるわけじゃないし、お仕事だって、嫌いじゃないけど、そんなに偉いこともしてないし……。

でた、自分探し笑。 
良かったじゃん、無属性からスイーツ笑に進化できたじゃん。あれ、退化か?

(´・ω・`)……。


('、`*川 我慢できなくなるほど嫌なことはないけど、これってほど自信持てるものも何にもないし……。
     このままずーっとこうなのかなって思っちゃって……。

(´・ω・`)……。

へぇ、海外留学でもしてみればいいんじゃね。
それでホンキィどもにアンアン言わされて国際結婚笑とかしちゃえばいいんじゃね。
そういうの、似合ってると思うよ、地味子。

('、`*川 ……知り合いに、翻訳のお仕事やってる子が居るんですけど……彼女が字幕つけた映画、見たんです。
     エンドクレジットにその子の名前が載ってて……そういうのって、凄いですよね。私には、そういうの、ないから。

(´・ω・`)……。

('、`*川 ……私、何にも出来ないから。

テテテテッテテ〜♪ ハイ、チラシの裏ぁ♪


(´・ω・`)そんなふうに思っちゃだめよぅ。

('、`*川 でも……私……。

(´・ω・`)出来る、出来ないは人それぞれよぅ。それで悩んでも、しょうがないじゃない。
    私だって、出来ることなら聖子ちゃんみたいなアイドルに生まれてきたかったわよぅ。

天地がひっくり返ってもそれは無理だな、たしかしたかし。

('、`*川 ……。

(´・ω・`)でもねぇん、だからといって、今の自分を嫌いになったりしないわよぅ。
    だって、私、毎日ちゃんとがんばってるもの。

('、`*川 頑張る……。

頑張る笑


(´・ω・`)能力っていうのは人それぞれだけど、その中で精一杯頑張ってるっていうのは、みんな一緒なはずでしょう?
     結果っていうのは分かりやすいから、どうしてもそこに目が行きがちだけど、
     だからといって頑張ることに意味がないなんて、誰にも言わせないわよう。

('、`*川 ……。

ξ゚听)ξ……。

言っちゃ悪いけど、それは甘いと思うよ。
頑張りだけで世の中渡っていけるほど、世間って優しくありません。

(´・ω・`)貴方が怒るべきはねぇん、自分の中の、いわれのない劣等感だと思うわよぅ。

別に謂れが無いわけではないだろう。駄目な奴は何やったってダメだよ。無駄な頑張りって奴。
クズはクズなの。そういうのは最初っから決まってるの。産まれたときから決まってる。
悲しいけどこれって、現実なのよね。


('、`*川 ……劣等感、ですか。

(´・ω・`)そうよぅ、うふふ。負い目を感じることなんてないのよぅ、出来ることだけ、頑張れば、ちゃんとうまくいくんだからぁん。

('、`*川……。

( ^ω^)なるほど……。さすが……。

ξ゚听)ξ……。

何言ってんだこいつら。モブキャラが主役になろうつったって、無理なもんは無理だよ。
結局、そういう風に出来てるじゃん。生まれたときから消化試合なんだ
                                    よ。
くだらない。   い。
本当にくだらな


('、`*川……そっかぁ、劣等感かぁ。……うふふ、なんだ。そんなことだったんだ。


……馬鹿じゃないの           。 こい
良くそんなぺらっぺらな奇麗事でごまかされるね。つ。
ああ、ま、この面子じゃお花畑ばっかりだもんな。しょうが
ないか、    ま      私くらい
          ともなのって、
                      だし。

(´・ω・`)うふふ、イメージがわいたみたいねぇん。さっ、ブーンちゃん! 後は大丈夫ぅ?

(* ^ω^)ばっちりです、ショボンさん! いつでもいけますっ!!

ξ゚听)ξ……。

馬鹿、ば       し。
      っか

……ま、好きに
         すれば。
         別にどうで
       も       良い
                  し。


(´・ω・`)……ツンちゃん、大丈夫?

ξ゚听)ξ……えっ、あ、はい。

……ああ、いかんいかん。あんまり馬鹿馬鹿しいんで、魂が離脱してしまった。
心で思ってても態度に出しちゃ、駄目だよね。お仕事だし。それが出来る大人のたしなみだよね。メンゴメンゴ♪ 

……最近、こういうの多いな。気をつけないと。

(´・ω・`)……じゃ、ブーンちゃん。おねがいねぇん♪

(#^ω^)はいっ! やりますっ!!!

はい、どうぞー。好きにやっちゃってください。


⊂(# ゚ω゚ )⊃システムオールグリーンッ!! O.K.!!

ξ゚听)ξ(何言ってんだこいつ……どこの宇宙占館だよ)

⊂二二(# ゚ω゚ )⊃エネルギーチャージ120%ッ!!!! スタンバイ・コンプリートッ!!

('、`*川 わぁ……。

ξ゚听)ξ(……あれ、でも……この体勢、どこかで見たことあるな……これって……)

⊂二二二(# ゚ω゚ )二⊃レディイイイイイッ!!!!!!! 

('、`*川 すごいなぁ……。。

ξ*゚听)ξ(……まさか、あれかっ!!? あれなのかっ!!? 
      光る風を追い越しちゃうのか!? 時間のはてまでいっちゃうのか!?)






('、`*川


ああ、お前昔っからそうだったよな。ここぞという時にわざとかってくらい、本当に空気が読めない。
何で普通に殴ってんだよ、アイデンティティの喪失だよそれ。
例えるなら、ちょんまげを失ったコロスケみたいなもんだよ。愛と勇気がなくなったアンパンマンみたいなもんだよ。
うわぁ…バイキンマンの中…すごく…エアヒッツェンなりぃ……。ショクパンマンは絶対誘い受けだよ。
まとめると、残念過ぎるってこと。

拳を固め、JOJOバリのラッシュを壁に打ち込むピザデブ。鈍い連打音が、何度も何度も部屋中に響く。
前々から思ってたけど、近隣の住民の方々にいい迷惑だよね、これ。

バシュウン((((( ^ω^)))))……よし。ミッションコンプリートッ!

ξ゚听)ξ……。

(´・ω・`)……んふふ。上出来ねぇん。

('、`*川 凄い迫力ありますねぇ!

それを見て、地味子26歳がはしゃいだ声を出す。
いやいや、私に言わせればまだまだ。インパクト的には三流の次の次くらいだね。
それなりに技術はあるようだが、やはりオカマや糞爺の殴りっぷりとは比べるまでも無い。
壁も壊れてないし、体の膨らみ加減だって微妙だしね。本物はもっと凄いよ、化け物だもん。うん。


('、`*川 なんだか、モヤモヤが吹き飛んだみたい……。ありがとうございました。

ふん、単純な女だな。

(´・ω・`)はぁいん♪ じゃ、ブーンちゃん、お会計は……。

( ^ω^)あ、それはショボンさんにお任せします、はい。

(´・ω・`)そうねぇん……。じゃあ、基本料金でいいわねぇん。お会計1200円になりまぁっす♪

(; ^ω^)え”っ……。あ、いや、はい。お願いします。

('、`*川 ……えっと……1000……200円、っと。ハイ。

(´・ω・`)ちょうどお預かりいたしまぁっす♪ ツンちゃん、領収書頼むわねぇん!

ξ゚听)ξ……はーい。

領収書は任せろー ビリビリ


( ^ω^)……あああ、あのこれ僕の連絡先なんですけどよかふぐうyj

シュピッ(´・ω・`)

ピザデブがどさくさにまぎれて小さなメモ用紙の切れ端を地味子26歳に渡そうとして、
それを見たオカマの右腕が高速でひらめき、ピザデブのノドボトケのあたりを捕らる。
たまらずに、豚のような悲鳴をもらす豚。ざまぁwwwwwwwwwww
お前こういうタイプが好みかよ。DT必死だな。

('、`*川……あの。

(´・ω・`)いえいえ、なんでもないのよぉん! じゃぁ、またよろしくねぇん♪

ペコリ('、`*川 はぁい! ありがとうございました。

(; ^ω^)あり”がどうございまじた。

ペコリξ゚听)ξ……。

さって、けぇるかね。


結局、レゾンデートル白谷の前でピザデブとは別れることになった。
いわく、周辺の地理に明るいらしく、この場所からであれば歩いて駅に向かったほうが早いらしい。

( ^ω^)今日はありがとうございました。凄くいい経験になりました!

(´・ω・`)いいのよぉん♪ はい、これ、ブーンちゃんのよぅ。

オカマが先ほどの代行料1200円也をピザデブに差し出す。
何だよ、あんたの取り分全くないじゃん。ボランティアかよ。

( ^ω^)あっ、ありがとうございます。
      でもショボンさん……いつもこんな値段でやってるんですか?

手中の金に視線を落としながら、ピザデブが遠慮がちにそうたずねる。
あー、やっぱ安いんだ? そんな気はしてたけど。

(´・ω・`)そうよぅ。あんまり、高くしちゃってもねぇん。それより、ヒッキー君って子のこと、くれぐれも気をつけてねぇん。
     何かあったらすぐに連絡するのよぅ?

( ^ω^)はい、そうさせていただきます!

(´・ω・`)うふふ、がんばってねぇん。それじゃあ、またねぇん♪ お疲れさまぁん!

( ^ω^)お疲れ様でした! ツンちゃんも、さよなら!

ξ゚听)ξ……。

はい、さようなら。二度と会うこともあるまいて。


なるべく後ろを振り返らないようにしながら、路肩に止めてあったマーチに乗り込む。
が、ふと目をやってしまったバックミラーの中でピザデブが、片手をこちらに向けて、熱心に振り回していた。
恥ずかしいやつだ。ちょっとは人目を気にしろ。

運転席でガサゴソとキーを探し回っていたオカマが、
ようやく見つけ出したそれを鍵穴に差し入れて回し、エンジンがかかって車体が小刻みに震える。
オカマがハンドルを握ってゆっくりアクセルを踏み、するすると車が滑りだす。
時刻は午後三時五分前。早く事務所帰ってお茶飲もうぜ、なんか疲れたし。

(´・ω・`)あっ、そういえばねぇん、ツンちゃん。

そんなことを考えていると、オカマが、何の前触れもなくまるで雑談でもするかのような軽い口調で、切り出した。

(´・ω・`)急な話であれなんだけど、アルバイト、やめてもらわなくちゃならなくなったのん。

ξ゚听)ξ……えっ?

……えっ?


(´・ω・`)本当にごめんなさいねぇん。私、仕事の都合で北海道のほう行かなくちゃいけなくなっちゃって。
     事務所、空になっちゃうのよぅ。

ξ゚听)ξえっ……ちょ……。

なんだそれ。

(´・ω・`)なんかあっち、今、人手が足りなくててんてこ舞いらしいのよぅ。
     だから、ちょっとお手伝いしてこようと思うのん。

ξ゚听)ξ……。

……なんだ、それ。いくらなんでも、急すぎるだろ……。


(´・ω・`)あっ、でもね今月いっぱいはこっちに居るから、あと十日くらいは、一緒に働いてねぇん。

ξ )ξ……。

……。

(´・ω・`)本当_ごめ__さ__ぇん。__でも______から_______。

ξ )ξ……。

……ああ、なんだ。

(´・ω・`)___で___、____ね______。考__________?

ξ )ξ……。

ちょっと私、調子乗ってたのかな、最
   はしゃいでたのかもしれない。    近。

(´・ω・`)__ちゃん?

ξ )ξ……。
                結局、ちょっとうまくいってると
         いつもこうだった
       そんなことも忘れてる      じゃん。
                 なんて。


(´・ω・`)……ツンちゃん?

ξ )ξ……。

どうで      い
     も良    や。

(´・ω・`)ねぇツンちゃん、聞いてる?

ξ゚听)ξあっ、はい。

本当にど
     う 
         でも 
             良 
                  い。

(´・ω・`)……大丈夫かしらぁん?

ξ゚听)ξはい。なんでもないです。

    一人 馬鹿み     た
      で           いだ
                ね。

(´・ω・`)……だからねぇん、そのこと、覚えといてねぇん。

ξ゚听)ξはい。分かりました。



     馬         み
       鹿                         
                た         
                     い
                          。





        領   収   書

                   伊藤ペニサス 様

      ¥         1,200
     但し       グラヴィテーション・レッドシフト

       上記金額正に領収致しました


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