── (´・ω・`)僕らは別れを告げるようです ──
   ── 3月23日 ──





(´-ω-`)

(´・ω・`)「……朝か」

朝、いつも通りの時間に目が覚める。
目覚まし時計に頼らなくても、長年に渡り染み付いた慣習がそれを可能にする。

上体を起こし、軽く頭を振る。
幸いと言うべきか、当然と言うべきか、昨夜の酒は残っておらず、体調は万全だ。

(´-ω-`)「とはいえ、ちょっと飲み過ぎたな……」

それほど飲むつもりはなかったのだが、昨日はいつになくドクオのペースが速かった。
そんなに強くもないくせに、大量に酒を買って来て、倒れるんじゃないかと思うくらい飲んでいた。
仕方なく僕もペースを上げ、ドクオに回る分を減らす作業に努めた。

(´・ω・`)「まあ、昨日は仕方ないかな……」

この4年間、僕達にとって一番の友人だったといえるブーンとの別れ。
笑って送り出せたけど、内心は寂しく思う気持ちでいっぱいだった。



 
ドクオは何でもないように振舞っていたけど、小学校以来の付き合いだ。
僕にはそれが虚勢だということは察しが付いていた。

(´・ω・`)「あ、時計……」

起こした上体を再び倒し、うつ伏せで枕元に手を伸ばす。
すぐに少しごてごてした銀の腕時計が僕の指に触れる。
どちらかといえばシンプルな方が好みなのだが、多機能ということなのでこのくらいの装飾は仕方がないか。

僕はそれを手に取り、目の前に持って来る。
針は6時数分前を指していた。

(´・ω・`)「やはり時間通りだね」

時計を確認するという、今までにない行動を習慣付けることに意味はないのかもしれない。
少なくとも、日常生活を送る上では時間の感覚は身体に馴染んでいてわざわざ時計を見る必要はない。

しかし、この時計は特別なものだ。
友人がくれた大切なもの。

だから僕はこれを生活に組み込もうと思う。

僕にしては珍しい考え方のような気もするが、僕はごく自然にそう考えていた。




僕は時計を左腕にはめ、布団から出る。
布団を畳み、押入れに片付け、洗面所へ向かう。

この時計は防水だから、着けたままで大丈夫だろう。

顔洗い、作務衣に着替え外に出る。
暦の上では春とはいえ、まだまだ冬の朝の刺すような冷たい空気だ。

僕は手にいつもの木刀と手ぬぐいを持ち、僕が寝起きしている離れの裏手の方へ回り、日課である素振りを始めた。

(´・ω・`)「1、2──」

もう10年以上も振り続けている木刀は、身体の一部であるかのように手に馴染んでいる。
風を切る音も、腕にかかる重みもいつも通り。

(´・ω・`)「11、12──」

少しだけ左手に違和感は感じるものの、じきに慣れるだろう。
慣れるだけの時間はあるのだ。

時間だけはある。




(;´・ω・`)「──98、99、100」

いつもと同じ回数、同じ時間で素振りを終える。
野菜の添え木に掛けていた手ぬぐいで汗を拭う。

(;´・ω・`)「ふう……」

何の気なしに時計に目を落とすが、そこには見慣れぬ時間が浮かぶ。
いつも通りの時間だとはわかっていても、それが何時何分なのかを意識したことはなかった。

連続した行程の中の一部。
この後も同じ時間に始める別の日課が控えているのだ。

(´・ω・`)「さてと……」

僕は手ぬぐいを首に巻き、木刀を離れの壁に立てかける。
傍らの畑に目を落とし、今日の作業の大体の目星をつけた。

(´・ω・`)「こっちの白菜と、あっちの大根の周りかな」

僕は畑に入り、畝の間にしゃがみこむ。
冬場はあまり雑草も生えないから、作業量も大したことはない。
汗が乾くと流石に身体が冷えるので、早めに終わらせることにしよう。




(´・ω・`)「今日はまだドクオは来ないよね……」

立派に育った大根を眺め呟く。
取れた野菜の一部は、ドクオの店に卸している。

もともとは作り過ぎたものの処分という意味合いでのお裾分けのようなものだったが、流石に八百屋に野菜をお裾分けと
いうのも馬鹿にしてるように取られ兼ねないので自重していたが、それならば買い取るとドクオから申し出があった。

(´・ω・`)「しかし、こんなものが商品になるのかねえ……」

何の変哲のない、どこにでもあるような大根。
作る際には丹精込めて育てはしたから愛着はあるが、どう贔屓目に見ても普通の大根だ。
ドクオからは何も言って来ないが、売れないようなら無理に買わなくていいと伝えるべきだろうか。

(´・ω・`)「うちで食べちゃえばいいだけだからね」

しばらく大根付けになるのは覚悟しなければならないだろうが、幸いなことに、僕は大根が好きだ。
うちの皆も嫌いではないだろうから問題はない。
最悪、沢庵にして漬け込めば日持ちもきく。




(´・ω・`)「さて、この辺にしておくか」

一通り作業を終え、離れに戻る。
浴室に向かいシャワーを浴びる。
ほぼ和式の造りの家ではあるが、風呂やトイレは洋式だ。

それほどこだわりもない上、そちらの方が便利なのでそれはそれで構わないと僕は思う。

(´-ω-`)「トイレはともかく、和式の風呂なんてそうそうはないだろうしね」

風呂に関しては和洋折衷というべきか。
僕はそんなどうでもいいこと考えながら汗を洗い落とした。

(´・ω・`)「ふう……」

シャワーを終え、朝食を取りに母屋に向かう。
この離れは現在僕しか住んでいない。
別に、特別な理由があるわけでもなく単にあるから使っているだけのようなものだ。

家族仲が悪いとか、そういう変な確執があるわけでもない。




朝食はいつも通りの和食。
父母、それに祖母と共に取る。
いつも通りの変わらぬ風景で、いつも通り美味しかった。

朝食の片付けを終え、本堂へ向かいお経を上げる。
僕の左手に光る時計を見た父が、不思議なものを見たような顔をしたが、友人から頂いた大切なものだと告げると、
普段はあまり見せることのない、柔和な笑顔で頷いてくれた。

そこから、午前中の様々な作務をこなし、昼食、午後からもまた作務に従事する。

(´・ω・`)「……」

僕は離れのそばで畑作業に没頭していた。
やるべきことはわかっていて、考え事をしながらでもこなせる作業ではあるが、僕は畑仕事に集中した。

丹精込めて、というわけでもないが、他に考えることも思い付かなかっただけだ。

(´・ω・`)「……本当はあるはずなんだけどね」

僕は作業の手を止め、ため息混じりにつぶやく。

変わらないはずの日常。
しかし、その全てが毎日寸分違わず同じであるわけはないのだ。




(´・ω・`)「昨日のこの時間は、ブーンの引越しの手伝いに行ったんだしね」

それがわかっていながら、僕は僕を日常という枠に押し込める。

僕は左手の時計に目を向ける。
昨日までのいつもに、ほんの少しの変化をもたらしたもの。
けれど、告げられる時間が、僕のいつもに変化をもたらすことはない。

それはただの経過で、身体が認識している感覚を、数字として頭に入れ直しているだけだ。

(´・ω・`)「変わらないんだよね……」

僕の日々は何も変わらない。

それは嘘だ。

毎日毎日、何かしらの些細な変化はあり、時には大きな変化もある。
昨日と今日の朝ご飯の献立が違うというような小さな変化、昨日、ブーンが故郷に帰ったような大きな変化。
一日とて今日と同じ日は来ないのだ。

それはわかっている。




でも……

(´・ω・`)「僕の日々は変わらない未来に向けて進んで行くしかない」

いつからだろう、そんな風に考えるようになったのは。

僕はこの町が好きで、この家が好きだ。
ここで暮らすことに、何の不満もない。

僕は母屋の方に目を向ける。
澄んだ青空の下に佇む古めかしいお堂が見える。

(´・ω・`)「……」

長男で一人っ子である僕が、この寺を継ぐことにも何の疑問も持っていなかった。
幼い頃からずっと、そうするものだと漠然とだが認識していたと思う。

年を経るにつれ、他の選択肢の存在も知ることになり、そういった考えに魅力を感じることもあった。
両親も、無理に継ぐ必要はないと常日頃から言ってくれてはいたが、僕は考えを変えることはなかった。
僕は僕の毎日に何の疑問もなく、そして不満もなかった。

それは今でも変わらないはずだ。




(´・ω・`)「……だのに、どうしてこうも心がざわつくのかな」

僕は作業の手を止め、収穫の終わった畑の上に寝転んだ。
まだ冬の色が残った馬鹿みたいに青い空が目に痛い。

僕は左手を空にかざす。
空色、肌色、銀色、いくつかの色が混ざり合い眩しさに目を閉じた。

(´-ω-`)「ブーンには悪いことしたかな……」

僕は目を閉じたまま左手の時計に右手で触れ、留め金を外した。
身体を反転させ、地面にうつ伏せになり、時計を覗き込む。
そこに刻まれた時間は、普段なら意識せずに通り過ぎる時間だ。

(´・ω・`)「気持ちは嬉しいんだけど、僕には使い道がなあ……」

変わらない日々を送る僕には、必要のないものなのだ。
僕は何の気なしに時計を裏返す。




(´・ω・`)「BN……201……? ああ、型番か」

そういえばブーンがこれを買ったすぐ頃に、何度も名前を聞かされた覚えがある。
初めての1人暮らし、初めてのバイト、初めての高い買い物、あのときのブーンは傍目からも面白いくらい浮き足立って
いたのがわかった。

同時に、とてもいい顔で微笑んでいたことも覚えている。

(´-ω-`)「色々あったな……」

目を閉じれば思い出す、数々の思い出。
4年間という、人生でいえば5分の1にも満たない時間だが、僕の人生の中で一番充実していた時間だったと思う。
あまり活動的ではない僕が、散々引っ張り回されていろんな場所を自転車で走り回った。

狭かった僕の世界が、一気に広がった気がする。

(´・ω・`)「……」

そんな充実した時間も終わり、僕はまたいつもの日々に戻った。
ブーンはいなくなったけど、昔からの付き合いであるドクオはまだいる。
その気になれば、また一緒に自転車で走り回ることも出来るだろうけど、ドクオも家業を継ぎ、僕も家業を継ぐ。




僕らは学生ではなくなり、以前のように時間に余裕は持てなくなる。
僕の場合は作務と授業が入れ替わっただけの、変わらないはずのいつもであるのに不思議な話だ。

(´・ω・`)「……何だかよくわからないな」

僕自身が何を考えているのかよくわからない。
不満がないはずのいつもが、どうしてこうも不安をもたらすのだろう。

(´・ω・`)「僕は──」

(#'A`)「サボってんじゃねええええ!!!」

(´゚ω゚`)「グハァッ!?」

突如として背中に衝撃が走った。
油断しきっていた身体からリバースしそうになる昼食を押し戻し、僕は転がるようにその場から回避する。

('A`)「てめえ、畑荒らすんじゃねーよ」

(;´・ω・`)「随分なご挨拶だね、ドクオ。何の用だい?」

作務衣に付いた土を払い、僕は立ち上がる。
野菜の仕入れは明日だったはずだが、一体どうしたのだろうか。




('A`)「何の用だい? じゃねーよ。昨日話しただろうが?」

(´・ω・`)「昨日? ……何だっけ?」

('A`)「お前……」

ドクオがお世辞にも見栄えが良いとは言えない顔をさらに歪め、睨み付けるような目で僕を見る。
覚えてないのか、と再度問われるも、昨日の泥酔状態のドクオがまともに話なり約束なり出来たとは思えないのだが。

('A`)「言っただろうが。仕入れを増やすって」

(´・ω・`)「ああ……」

そういえばそんな話もしてたな。
てっきり酒の席での話かと思ったら、その前の掃除の時にそんな話をちょっとし掛けて、また後でとなったような。

(´・ω・`)「君が酔っ払ってたから話はまた後日かと思ってたよ」

('A`)「だから後日に来たじゃねーか」

僕は頭を掻き、ドクオに説明を求める。
理由と具体的に僕がやること、それを端的に話してもらった方が話が早い。




('A`)「理由は……売り上げを伸ばすためだ」

少しだけ、間が空いたがドクオははっきりと宣言するように言った。
いつもは回りくどいドクオにしては妙に明快なのが気になるが、そのこと自体はわからない話ではない。
商店街の現状は僕も把握してるし、何かしらてこ入れが必要なのは明らかだ。

それでうちの大根の仕入れを増やす理由がいまいち繋がらないけど、その辺は追々聞いていくとしよう。

(´・ω・`)「うーん……漠然としすぎてるけど、まあいいや。それで、僕はどうすればいいの?」

('A`)「1つは増産だな」

(´・ω・`)「いや、流石にもう遅いでしょ、今からじゃ」

畑を増やせだの無茶を言うドクオだが、取り敢えずは売る分を増やすことで納得してもらった。
しばらくは大根尽くしの食事が食べられると思っていたのだが、どうやらその夢は叶わぬようだ。

('A`)「もう1つは……」

(´・ω・`)「まだあるの?」

('A`)「こっちが本題だ」

(´・ω・`)「お手柔らかにね」




普段より少々どころじゃなくやる気に満ち溢れているのが気になるが、大体においてこういう時はろくなことがない
のを経験的に僕は理解している。

('A`)「新しい仕入れ先を開拓する」

(´・ω・`)「がんばれ」

('A`)「……」

(´・ω・`)「いや、それは僕には関係なくないかな?」

('A`)「手伝えよ」

(´・ω・`)「今日は珍しく直球ばかりだね。 何かあった?」

何もない、普段通りだとと答えるドクオだが、それが嘘なのは僕にはわかる。
大方、ブーンがいなくなって寂しいと思う気持ちを別のことで紛らわせたいのだろう。
昔から、振られる度に奇行に付き合わされた身はそのことをよく理解している。

(´・ω・`)「手伝うのは構わないんだけど、僕は農家の人につてはないよ?」

('A`)「わかってる。お前は顔を貸してくれるだけでいい」




(´・ω・`)「整形するの?」

(#'A`)「ちげーよ、馬鹿。顔っつーか名前だ。一応お前は地元の名士の息子だろうが」

(´・ω・`)「ああ……そういうことか」

名士と言われると御幣があるのだが、お寺の住職ともなれば多少は一目置かれるようだ。
特にお年寄りの方には名が通るので、そういう年代が多い農家の方には話しやすいかもしれない。

(´・ω・`)「じゃあ、訪ねるうちの目星はついてるんだ」

('A`)「……いや、まだだ」

(´・ω・`)「……何度も言うけど、僕にあてもつてもないからね?」

わかっていると言いながらも、その目は僕を当てにしている目だろう。
丸投げするつもりはないだろうし、それも手伝えということか。

(´-ω-`)「……檀家の中に当てになりそうな農家の方はいないか聞いてみるよ」

('A`)「恩に着る」




(´・ω・`)「その代わり、何で急にそんなやる気になったのか聞かせてね」

出来る範囲で協力することにはやぶさかではないが、やはりドクオの心変わりの理由を知りたいと思う。
ドクオはもともとこれほど積極的に動くタイプではない。
正確には、自分のことに対してはという前置きが付くのだが。

('A`)「……別に急じゃねえよ」

(´・ω・`)「前々から考えてたことだと?」

ドクオは視線をそらし気味に頷く。
その中途半端な態度に、僕は頭を掻きながら続ける。

(´・ω・`)「考えてはいたけどやる気はなかった、ってとこかな」

僕の指摘にばつの悪そうな顔を浮かべたドクオ。
恐らくそれが正解なのだろう。

となるとやはり、その心変わりの理由が知りたいところだが、思い付くのは2つほど。

1つはブーンのこと。
そしてもう1つは……




(´・ω・`)「またクーにやり込められた?」

(;'A`)「ち、ちげーよ!」

正解。

まあ、そんなとこだろうとは予想ははしてたけど、こうもわかりやすいと張り合いがない。
終始気難しそうな顔をしてる割には、昔から隠し事が下手だ。

僕は更にからかいたい衝動を抑え、何にせよ、やる気になったのはいいことだとフォローしておく。
あんまりからかうとすぐ拗ねるから性質が悪い。

('A`)「何でお前はそんな上から目線なんだよ」

(´・ω・`)「僕は僕のやるべきことをちゃんとやってるからね」

('A`)「その割には、珍しく浮かない顔してたじゃねーか」

(´・ω・`)「……鋭いね、顔の割には」

僕がドクオのことをわかるように、ドクオも僕のことはわかる。
そのくらい長い付き合いなのだ。
お互い上手く隠せた試しはない。




(´・ω・`)「君と似たような話だよ」

('A`)「俺と……?」

ドクオは言葉を切り、僕の方をじっと見詰める。
僕はドクオが口を開く前に自己申告で答えを告げる。

(´・ω・`)「このままでいいのかなって……結論としてはいいんだけど」

('A`)「何だそりゃ?」

このままでいいなら似てじゃないと言うドクオに僕はそうだねと頷く。
憮然とした顔をするドクオだが、別に馬鹿にしているわけじゃない。
悩む原因、きっかけが同じで、最終的に辿り着く結論が違うだけなのだ。

さして難しい話じゃない。
互い、従事している職業が違うだけなのだ。

(´・ω・`)「お寺で何を変えるのさ?」

('A`)「檀家を増やすとか、そういうのは……」




昔からの繋がりで成り立ち、寺ごとの領分も暗黙の内に決められている。
そんな中で、僕に求められることは現状維持だろう。
僕が望まれることは、僕でなければならないことではない。

(´・ω・`)(……ああ、それか)

変わらないことに不満がないはずの僕の不安。
僕は必要とされて、でも、それは僕自身ではなく、単に僕の位置にいる人であるということ。

それが僕の考えすぎであることはわかっていて、僕が僕としてこの場所にいることに必要性を見出せないだけなのだ。

(´・ω・`)「……」

僕は外したままだった時計に目を落とす。
これは僕を僕として必要とされた数少ない結果の1つなのかもしれない。

('A`)「ちゃんと持ち歩いてるんだな」

大切なもの大事に取っておくタイプだと思っていたとドクオは言う。
僕自身もそう思っていたし、これを生活に組み込もうとした自分が少し珍しく思えた。




(´・ω・`)「ブーンはずっとこれを使ってたからね」

急に使われなくなるのもかわいそうだからと僕は言う。
僕はブーンがくれた変化を、壊れるまで使おうと思う。
壊れたらそこでまた新しい変化になるだろう。

('A`)「まあ、いいや。とにかく手伝えよ」

暇なんだろと言うドクオだが、僕は暇というわけでもない。
決まりきった日常だが、それも必要な日常で、不安はあれど僕はそれが嫌なわけでもない。

(´・ω・`)「めんどくさいなあ……」

やる気のない僕の返事に、露骨に怒りの表情を見せるドクオ。
面倒だとは言ったけど、僕は親友の申し出を受け入れるのだろう。

変化への憧れとまでは言わないが、人生、時にはアクセントも必要だと思う。
穏やかすぎる人生は、それはそれで退屈だろう。

そしてもう1つ、僕にはドクオの申し出を受け入れる理由がある。




(´・ω・`)「それで、増産にしろ仕入先の交渉にしろ具体案は考えてるのかな?」

それはドクオが僕を僕として必要としてくれるから。

僕は腕時計をはめ直し離れの方を指差した。
お茶でも飲みながら話そうとドクオを誘う。

にこやかのはずが残念としか言いようのない笑みを浮かべるドクオに、僕はため息を吐く。
変化のない日常の方が良かったと後悔しそうだ。

まあ、その時はその時でまた考えよう。
この変化もまた日常に組み込まれ、いつしか変わりのない日々になっているだろうしね。

(´・ω・`)「で、僕の大根の売れ行きはそんなにいいの?」

('A`)「……まあまあだ」

僕は親友のわかりやすい反応に、軽く笑ってみせた。



 ── (´・ω・`)は別れを告げるようです 終 ──




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