( ^ω^)の涙のようです3

 いや、確かにショボンを人に見られては困るのだが、それはあんまりなので
はないかとブーンは思った。
 _
(#゚∀゚)「おい、お前、何か言ったか?」

 もうすでにブーンの目と鼻の先まで来ていた少年が、声変わりもしていないく
せにやたら人を震え上がらせそうなその声でブーンに聞いた。


(;^ω^)「いや、え、あの」

(´・ω・`)「下手糞って言ったんだよこのエアコンいらず!」

 ショボンが内ポケットの中から少年を罵る。
 _
(#゚∀゚)「ほー、面白い。どうやらあの世でご先祖様に会いたいようだな」

 うまい具合にブーンが悪口を言ったと勘違いしてくれた少年が、ブーンの
襟を掴み自分の眼前へと引き寄せる。やはりバットで殴る気だ。そう思った
らショボンを非難する余裕さえなくなり、ブーンはしどろもどろになった。

(;^ω^)「やめ、やめ……」

(´・ω・`)「やめろ。下手糞に下手糞と言ってしまったことは謝る。ただ、僕の
ほうがよっぽどうまくバットに当てられると思ったんでね」

 そうショボンが挑発すると、少年は手に込められていた力を緩め、ブーンを解放した。
 _
(#゚∀゚)「やってみろ」

 そう一言だけ発言すると、ブーンにバットの柄を差し出す。

 ブーンに“打ってみろ”と言っているようだ。


 _
( ゚∀゚)「打てなかったら殺す」

 静かにそういう少年には、“やるといったらやる”という凄みがあった。

 さぁ、困った。なにしろブーンは野球などやったことがない。いや、あるには
あるのだが、お遊びみたいなもので、仲間内のなぁなぁ野球だったのだ。こん
な勝負がかかったバッティングなどしたことがない。

(´・ω・`)「もう賽は振られたんだぜ。やるしかないだろう」

 勝手なことを言うショボン。お前が余計な煽りを入れるからこうなったんだろ、
と心中で非難するがそんなことをしてもこの状況は変えられない。

 ブーンは震えながらバッターボックスに立つ。するとマウンドに立った不細工
な少年が話しかけてきた。

('A`)「おまえ、ジョルジュにつっかかるなんてやるなぁ」

 どうやらあのチンピラみたいな少年はジョルジュと言うらしい。そんな○得情
報は今は必要ないが。

('A`)「まぁ、俺も手加減はしないぜ。なんたって、“下手糞共”の中には俺も入ってるんだろ?」


 違う、あれはショボンが。言い訳をしたかったが、そういうわけにもいかない。

 不細工な少年が大きく振りかぶり、球を投げる。


 ――速い。


 ブーンは身動き一つとれずにいた。白球がキャッチャーのミットに吸い込まれて
いったかのように思えた。

('A`)「なんだ、びびって動けなくなっちまったのか? ワンストライクだぜ」

 キャッチャーからの返球を受けながら不細工が言う。いや、大したものだ。ブー
ンには野球はよくわからなかったが、素直にそう思った。

 この不細工の投げる球はかなり速い。それはブーンにも分かる。なるほど、この
球を打てないことを揶揄されたら頭に血も上ると言うものだ。

 ブーンも逆の立場だったら罵声を浴びせた世間知らずに言うだろう。“打ってみろ”と。

(´・ω・`)「なんだい。見送りかい。情けないなぁ」

 無責任王ショボンがその名に恥じぬ無責任振りでブーンに話しかける。

(;^ω^)「マジで速いんだお。とても打てないお」

 泣き言を言うブーン。


(´・ω・`)「まぁ、とりあえず振るだけ振ってみなよ。ひょっとしたら当たるかもしれないよ」

 そんなうまくいくか、と言おうとしたブーンをショボンが制す。

(´・ω・`)「来るぞ」

 バッターがバッターボックスに立っている以上、ピッチャーはいつでも投球しても良い。不
細工は既にボールを掴んだ腕を振り下ろすところだった。

 白球がブーンにせまる。ブーンは慌ててバットを振る。

 しかし、バットは空を切るのみでボールにかすりもしない。

 やはり無理だったのだ。恐らくブーンは次の投球が終わるとほぼ同時に、自分が今握って
いるバットで殴られるのだろう。

 ブーンは泣き出したくなった。なんでこんな事に。恨むぞ、ショボン。

('A`)「おいおい、全然かすりもしねぇじゃねぇか。それでよくジョルジュを馬鹿に出来たもん
だぜ」

 不細工は馬鹿にすると言うよりも呆れたように言った。

(´・ω・`)「低い」

 ショボンが口を開く。


(´・ω・`)「君のバットはボールよりかなり低いところを通ってる。今より拳1個
ぶん高く振るんだ。いいかい?」

 突然のショボンのアドバイス。ショボンに野球が分かるかどうかも疑問だが、
今のブーンはそれに従うしかない。

('A`)「じゃあラストだ。可哀相だけど手加減はしないぜ。まぁ、ジョルジュがや
りすぎないようには注意してやるからよ」

 どうやら終わりが近いらしい。

('A`)「いくぜ」

 不細工が大きく振りかぶって――、

(´・ω・`)「タイミングは僕が教える。君はさっきと同じスピードでスイングするん
だ」


 ――投げた。


 ボールが不細工の手元から放たれた。もう数瞬もしない間にキャッチャーの手
中に納まるだろう。ボールがやけにスローモーションに見える。無理だ。打てない。

(´・ω・`)「今だ!」


 叫ぶショボン。その声に体が反応する。不思議とスムーズにバットが振れる。


 キン。


 バットから高く乾いた音が響く。ボールはどこだ? 打てたのか?

 みなが唖然と一点を見つめている。その位置は不細工の後方、遥か空高くだ
った。

 打てた。

 僕が、あんな速い球を打てた。

 恐らく一番びっくりしているのはブーンだったのだろう。自分が打ち取れた喜び、
というよりも面食らったような顔をしていた。



 白球は、冬の高い空をいつまでも進んでいった。


 _
(;゚∀゚)「す……すげぇ」

誰しもが唖然としている中、ようやく口を開いたのはジョルジュと呼ばれていた、
ブーンの胸ぐらを掴んできた少年だった。
 _
(;゚∀゚)「何でドクオの渾身の球が打てるんだ?」

ドクオというらしい不細工も、はっ、と我に返ったように首を振った。

('A`)「お……おぉ、すげぇじゃねぇか! いや、俺の完敗だよ! ジョルジュなん
て目じゃねぇ!」

“目じゃない”と評されたジョルジュは少し不満げに眉をしかめたが、やがて諦
めたような笑みを浮かべた。
 _
( ゚∀゚)「まぁ、確かに俺は空振りばっかだったからな。これなら下手糞って言わ
れてもしょうがねぇ」

(∵)「僕も驚いた。明らかに最初の2振りまでは素人。でも最後はきっちり真芯
に合わせてきた」

キャッチャーをしていた少年が初めて口を開いた。なんだか埴輪みたいな顔
をしている。人間の顔を限界まで簡素化したらこんな造形になるのではないか。

(;^ω^)「あの……」

ブーンもおずおずと口を開く。


(;^ω^)「さっきはごめんだお。変な事言っちゃって」

本当はショボンのせいなのだが、それは言えないのでブーンは素直に
謝った。
_
( ゚∀゚)「あ? あぁ、いいよ。もし口だけの野郎なら殴ってたけど、あそこ
まで気持ち良く実力差を見せ付けられちまったらな」

('A`)「おまえ、野球部かなんかか?」

さて、どう答えたものか。正直言ってドクオの球を打てたのもショボンの
おかげだ。しかし、それもやはり言えない。嘘をついて野球経験者とでも
言ってしまうか。いやいや、やはり正直に未経験だと言ってしまうべきだ。

ブーンは二つの選択肢をしばし天秤にかけていたが、最終的には後者
を選んだ。

( ^ω^)「野球部じゃないし、やったこと自体あんまりないお」
 _
( ゚∀゚)「え?」

再び彼らの表情が固まる。

しまった、下手をうったか。やはり初心者があの球を長打にすれば、訝し
られて当然だった。

ブーンは心中波立った。


 _
(*゚∀゚)「うぉぉー! 初心者!? じゃああのヒットは才能って事!? 半端ねぇ!」

(;‘A`)「マジかよ。俺、素人に打たれたのかよ」

(∵)「それは凄い。普通、あれを打てても初心者では内野ゴロになる」

意外な3人の反応。どうやらブーンの発言をいい意味に捉えてくれたようだ。ブーン
は胸を撫で下ろす。
 _
(*゚∀゚)「なぁなぁ、おまえ、俺たちと一緒に野球やらないか?」

突然のジョルジュの提案。

('A`)「おー、いいじゃねぇか。俺のピッチングの練習相手になってくれよ」

(∵)「賛成」

同意する2人。

ブーンはちらと内ポケットにいるショボンに目を配らせる。

ショボンはいつもと同じように困ったようなハの字の眉をしていた。

 “この3人とならうまくやっていけるよ

なんだかそう後押しされた気がした。

ブーンは顔を上げる。


( ^ω^)「わかったお。僕は本当に初心者だけど、一緒に野球をさせて欲しいお」

転校したてとは違う。今はショボンがいるから。

誰かに拒絶されても、もう一人じゃないから。
 _
( ゚∀゚)「おし、決まりだ!」

('A`)「俺はドクオ。この下手糞がジョルジュ。無機質みたいな奴がビコーズ。よろしくな」

ドクオが握手を求めてくる。

(∵)「君は?」

ドクオの手を握り、ビコーズの質問に答える。

( ^ω^)「内藤ホライゾンだお」
 _
( ゚∀゚)「ホライゾン? 言いにくいな。なんか良い呼び方ないのか? 今まで何て呼ばれて
たんだ?」

( ^ω^)「ブーンだお」
 _
(*゚∀゚)「ブーン? 何でだよ! 意味わかんねぇ!」

そう言ってジョルジュとドクオは一斉に笑いだした。ビコーズは……よくわからなかった。



(;^ω^)「気が付いたらそう呼ばれてたんだお」
_
( ゚∀゚)「わかったわかった。よろしくな、ブーン。俺たちは今から仲間だ」

ジョルジュがガキ大将のようににかっと笑い、ブーンの肩を叩いた。
 _
( ゚∀゚)「じゃあ、新しい仲間の歓迎を兼ねて飯でも食ってくか」

('A`)「あー……モスだな」
 _
(;゚∀゚)「何でまたモス!? モスばっかじゃん! おまえはモス以外の食い物を知らな
いの!?」

(∵)「ドクオはモス信者」

 そんなことを話しながら歩きだす3人。1人出遅れてしまったブーンの方に振り替えると
早く来いよ”と促してくれた。

ブーンは置いていかれないように駆け出す。



斜陽が、4つの長い影法師を作り出していた。



四人はそれぞれの席に腰を下ろした。

ここはモスバーガーVIP支店。もともとそんなに混雑するような店ではないが、
夕刻、夜の手前という時間帯のせいか中々の盛況ぶりだった。

四人はそれぞれ手にトレイを持っている。トレイには注文した品が乗っていた。

ブーンは焼肉ライスバーガーを注文した。

 焼肉ライスバーガー。それは通常のハンバーガーと異なり、パンの代わりに白
米を円形状に固めた物をバンズとして用いり、そのバンズで焼肉風に味付けをし
た牛肉を挟むというなかなか独創性溢れた一品だ。しかしその味はまさに絶品の
一語。もともと米食の民族である私たち日本人にとっては全く抵抗がなく、むしろど
こか望郷の念を思い出させてくれる、今となってはジャパニーズ・ソウルフードと呼
ぶにふさわしい人気メニューだ。

 欠点として、やや食べ辛く感じる部分がある。なにしろ米を固めたものであるから
して、咀嚼しようとするとバンズである白米がぼろぼろと零れ落ちてしまうのである。
故に結果的にはハンバーガーとしての体裁を保ったまま食するのは難しく、またハ
ンバーガーであると言う特性上フォークなどの食器を使用しないため、手が汚れて
しまうと言う弱点も持ち合わせている。

 とはいえ、上記にある欠点などその美味の前では些細なことであり、やはり至高
にして究極のハンバーガーといえるのである。


 その焼肉ライスバーガーをブーンはやはりうまく食べられないでいた。

('A`)「あー、やっぱそれ綺麗に食べるの難しいよな」

ドクオはロースカツバーガーを口に運びながら、ブーンの零した米粒を注視
する。

('A`)「でもやるじゃねぇか。焼肉ライスバーガーを頼むなんて中々の通だぜ。
……おまえとは仲良くなれそうだ」

( ゚∀゚)「なんで焼肉ライスバーガーで仲良くなれるんだよ」

(∵)「変」

ジョルジュとビコーズも注文したチリドッグを頬張りながらドクオにつっこむ。

冗談とはいえ面と向かって仲良くなれそうだなどと言われたブーンはなんだか
気恥ずかしくなり、ぽりぽりと頭を掻く。

( ^ω^)「そういえば、みんな野球部なのかお?」

先ほどのドクオのピッチングは素人とは思えなかったし、その球を正確に捕球
するビコーズも只者とは思えない。

ジョルジュは……空振りしてただけだから何とも言えないが。


 _
( ゚∀゚)「いや」

ブーンの質問にジョルジュが答える。
 _
( ゚∀゚)「野球部じゃねぇよ。3人共、部活には入ってないし」

( ^ω^)「でもドクオのピッチングは凄かったお? ビコーズだってよくあんな球を
捕れるお」
 _
( ゚∀゚)「ドクオは小学生の時、ジュニアに入ってたんだよ。ビコーズは……性格?」

(∵)「ただ球を捕ればいいだけ」

ビコーズは何でもない事かの様に淡々と言う。
 _
(;゚∀゚)「え? ていうか何? 俺は凄くないの?」

ブーンはどう返答していいのか言葉に詰まった。なにしろジョルジュのバッティングは
球にかすりもしていなかったのだ。

(;^ω^)「ジョルジュは……スイングスピードが……」

苦し紛れだったがジョルジュはまんざらでもなさそうだ。


( ^ω^)「でも、あれだけ上手いんだったら野球部に入ればいいのに」

これ以上ジョルジュを誉めろと言われても困るので、ブーンは話題を変えた。

('A`)「野球は今ジョルジュのブームなんだよ」

とドクオ。

( ^ω^)「ブーム?」

 とブーン。

('A`)「あぁ。コイツその時その時でやりたいことが変わるからさ。今は野球なわけ。
その前はサッカーだっけ?」

(∵)「カバディ」

ビコーズが無表情で答える。

('A`)「そうだそうだ。な? 一貫性がないんだよ、コイツ。どうせすぐ飽きるんだから
わざわざ部活に入るまでもないのさ」

そこでドクオがコーラを飲んで喉を潤す。



('A`)「ま、俺も野球は嫌いじゃないから付き合ってるけどさ」

( ^ω^)「なるほどお」

ブーンは得心したように頷いた。そして焼肉ライスバーガーの続きを食べようと
手を伸ばすが、すでに無くなっていた。

いつの間にか食べ切ってしまったのだろうか。

そんな事を考えながらショボンに視線を落とすと、何かをむしゃむしゃと咀嚼して
いる。

……ショボン。食べるのはいいけど、誰かに見られたらどうするんだ。

ブーンはやきもきした。
 _
( ゚∀゚)「そういえば、ブーンって中学生だよ……な?」

ジョルジュが少し躊躇しながら尋ねてくる。そういえば名前以外何も自己紹介して
いなかった。

ジョルジュの語尾に勢いがなかったのは、万が一年上だったらどうしよう、という葛
藤ゆえだろう。

ブーンは大きく頷いた。


( ^ω^)「中学生だお。wktk中学の1−2」

そこまで聞いて、ジョルジュは目を丸くした。
 _
( ゚∀゚)「マジかよ。隣のクラスじゃねぇか」

今度はブーンが驚く。

( ^ω^)「そうなのかお?」
 _
( ゚∀゚)「あぁ。でも俺らブーンの事、見たことないぜ。なぁ?」

ジョルジュはドクオとビコーズに尋ねる。二人もジョルジュに同意する。

( ^ω^)「僕はあんまり学校に来てなかったから」

しまった、と思った。そこまで言ったらその理由まで聞かれるじゃないか。

 “友達がいなかったから”なんて言ったらひかれるぞ。せっかく出来た友達なのに。
 _
( ゚∀゚)「何で学校に来てなかったんだ?」



ほら来た、馬鹿め。余計なことは言わなくていいんだ。知らないぞ、今まで友達
がいなかった奴なんて奇異の目で見られたって仕方ないんだ。

ブーンの中で自分をなじる声が響く。

でも、ちゃんと説明したほうがいいのではないか? 確かにせっかく出来た友達
を失うのは辛い。しかし、友達に隠し事をしたまま付き合うのはもっと辛い。

ブーンは一度大きく息を吸った。

( ^ω^)「僕は友達がいなかったから……あんまり学校に行きたくなかったんだお」
 _
( ゚∀゚)「そうか」

あっけらかんとしたジョルジュの言葉。そして、
 _
( ゚∀゚)「じゃあ明日からは学校に来るのが楽しみじゃん。友達出来たんだから」

そう言葉を継ぐ。

('A`)「おまえみたいな友達が出来ても嬉しくないだろ」

ドクオが憎まれ口を叩き、
 _
(#゚∀゚)「うっさいボケ」

ジョルジュがドクオの頭を叩く。


そんなやり取りを見て、ブーンは自分の中に生まれた疑問をぶつけたくなる。

(;^ω^)「ひ、ひかないのかお?」

よせばいいのに。せっかくジョルジュが軽く流してくれたのに。自分でわざわざ
重い雰囲気になるようなことを言うな。

しかし。
 _
( ゚∀゚)「あ? なんでひくんだよ?」

(;^ω^)「だって、友達がいない奴なんて……気持ち悪くないのかお?」

 ジョルジュは『何言ってんだコイツ』という顔をした。
 _
( ゚∀゚)「あのなぁ、誰だって最初から友達がいるわけじゃねぇだろ。合う・合わない
もあるしな。そんな事で一々ひくか」

ドクオも苦笑いをして、

('A`)「気にしすぎじゃね」

そう言ってくれた。

(∵)「ブーンは繊細」

ビコーズは相変わらず無表情だ。


 _
( ゚∀゚)「それになぁ、気持ち悪いってのはコイツの顔みたいなのを言うんだよ」

(#‘A`)「よし、表出ろ」

ジョルジュに指を差され勢いよく席を立つドクオ。なんだか二人で言い争ってい
るようだが、それはブーンの頭の中には入ってこなかった。

代わりに別のことを考えていたから。


――あぁ、ショボン、わかったよ。友達を作るっていうのは、そう難しくないこと
だったんだ。

僕が悩んでいたことなんて些細な事なのかもしれない。

ショボン、君は凄いな。

僕がずっと抱えていた問題を、君は簡単に解決してしまった。


ありがとう、ショボン。



ブーンは2人が作る喧騒をどこか遠くの事のように感じていた。


 _
( ゚∀゚)「じゃあ、また明日な」

ブーンの自宅前でジョルジュとビコーズが手を振る。

あれから段々本気になってきたジョルジュとドクオをビコーズと2人で止
めたのだ。最終的には“ドクオの不細工を悪く言わない”という謎の協定が
ドクオから持ちかけられ一応の解決を見せた。後に言う不細工協定だ。

不細工協定が締結された後も何でもないことを延々と話していた。

野球の事やクラスの事、学年で一番可愛いのは誰かという事やドクオに
彼女が出来るかなど。

とにかく色々な話をした。

ブーンも昔からの友人と話すかのような饒舌さをみせ、気が付けば日が
とっぷりと暮れていた。

みなまだ中学一年生。夜になれば親元に帰らなければいけない。

誰が言い出すでもなく、自然と帰宅することになった。

ドクオが自宅用にモスを買って帰ると言うので、3人は先に帰ることにした。

幸いにも3人共帰る方向が同じだったので、仲良く帰路に着くことにした。

どうやらブーンの家が一番近いらしい。ここで今日はお別れのようだ。


ブーンも今日出来た友人に手を振り見送る。

( ^ω^)「うん、また明日だお」

誰かに別れの挨拶をするなんてどれくらいぶりだろう。

そう考えると寂しいはずの別れもなんだか嬉しくなってしまうから不思議だ。

2人をしばらく見送った後、ブーンは玄関の戸を開いた。

( ^ω^)「ただいま」

J( ‘-`)し「おかえり」

母が出迎えてくれた。

J( ‘-`)し「今日は随分遅いわね。今ご飯作っちゃうから待ってて」

うっかりしていた。ついさっきみんなとバーガーを食べてきた事を思い出す。胃は満
タンだ。とてもこれ以上食事をとるなんて出来そうもない。

( ^ω^)「ごめん、実はご飯食べてきちゃったんだお」

J( ‘-`)し「そうなの? 誰と?」

( ^ω^)「友達と」

そこで母の顔が明るくなる。


J( ‘-`)し「あらそう。わかったわ。次からはちゃんと言ってね」

注意している割りには顔が綻んでいる。それだけブーンに友人がいなかった事に
心を痛めていたのだろう。

( ^ω^)「うん、わかったお。これからはちゃんと連絡するお」

それだけ告げて、ブーンは自室に向かった。


バタン。


扉が閉まる音がする。つまりこれでこの部屋は隔絶されたのだ。ブーンとショボン以外誰もいない。

(´・ω・`)「やったな」

ショボンが顔を覗かせる。

(*^ω^)「ショボン! ショボン! 凄いお! 友達が出来たお! それも3人も!」

よっぽど嬉しいのだろうか、ブーンが頬を紅潮させる。

(´・ω・`)「見てたよ。凄かったじゃないか」

(*^ω^)「僕に友達が! また明日って言ってくれたお!」

(´・ω・`)「嬉しいだろう。今まで辛かったもんなぁ」


ショボンのその言葉にブーンは黙ってしまう。

(´・ω・`)「偉いぞ」

( ^ω^)「いや……」

(´・ω・`)「偉いよ。よく頑張ったな、ブーン。君は強い奴だったんだなぁ」

ブーンは目頭が熱くなった。

ダメだ、ショボン。そんな事を言わないでくれ。

とても見せられない顔になってしまうから。

ブーンはショボンに背を向けた。

そうしないと、ダムが決壊してしまいそうだったから。

鼻をすすり、俯く。

なんとか震える声を絞りだせた。



( ^ω^)「……ありがとう」

(´・ω・`)「やだなぁ、僕は何もしてないよ。頑張ったのは君じゃないか」


そう言うと思った。

 でも違う。違うんだよ、ショボン。

僕は君がいなかったら、ずっとこの部屋で泣いていただろう。

ずっと教室の片隅で机に突っ伏していただろう。

君がいてくれたから、今日ジョルジュたちと友達になれた。

君がいてくれたから、僕は潰されずに済んだんだ。

君がそばにいてくれたから、僕は勇気を持てた。安心できた。

――だから、ブーンは何度もショボンに言う。

( ^ω^)「……ありがとう」

(´・ω・`)「だから僕は何もしてないってば」

( ^ω^)「ありがとう」

(;´・ω・`)「しつこい奴だな。気持ち悪いぞ」

ショボンはハの字の眉を更に垂れさせて苦笑した。

言葉こそひどかったが、それがショボンの照れ隠しなのだとブーンはわかっていた。

ブーンはやっと、心が自由になった。

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