【第十五話】
どれだけの沈黙があったでしょう。
音もなく降る雪が、四つの影に舞い降ります。
長い長い、沈黙。
そしてようやく、開かれた口。
( <●><●>)「……夏の日に、外を歩いた事がありますか?」
ミ,,゚Д゚彡「ある。冬と間違えて何回か。あと俺はしょっちゅう人前に出てる」
( <●><●>)「えっ」
ミ,,゚Д゚彡「いや、いい。続けて」
( <●><●>)「……ずっと同じ姿のサンタを、人々はなんと呼ぶか知っていますか?」
ミ,,゚Д゚彡「化け物、だろ?」
( <●><●>)「はい。なぜですか?」
ミ,,゚Д゚彡「えっなにが?」
( <●><●>)「あなたはいつからフサギコですか? その名前は誰がつけましたか? いつからその姿ですか? いつまでサンタをやればいいのですか?」
ミ,,゚Д゚彡「知らん」
( <●><●>)「……何もわからない。死なない。老いない。そんなの、ただの化け物です」
ミ,,゚Д゚彡「……そうだな」
( <●><●>)「なのになぜ、私達には感情があるのですか? 美味しい物を美味しいと、痛い事を痛いと、なぜ言うのですか?」
ミ,,゚Д゚彡(こいつ)
( <●><●>)「人と同じ姿なのに、人からは掛け離れた存在。どうしてですか?」
ミ,,゚Д゚彡(こいつ、そこで悩んだのか)
( <●><●>)「機械じゃダメなのですか? 私はクリスマスだけに現れて、プレゼントを運ぶ機械になりたいと願いました。だけどそれは叶わない。いつも化け物と罵られ、わかってます、それが口癖だった私なのに、何もわからなくなりました」
ここに、気が遠くなるほどの時間を過ごし、気が狂うほどの長い長い時間を生きてきたサンタがいます。
このサンタはその重圧と、罵声という暴力に耐え切れず、本当に気が狂ってしまったのです。
( <●><●>)「私にはわかりません。私がなぜプレゼントを運ぶのかすらも。でも、サンタというと子供達は喜びます。それだけでいいじゃないですか。わざわざ化け物なんて、呼ばなくたって――」
どれだけの間、苦しんできたのでしょう。
悲痛なその叫びは、胸を掻きむしるようで。
( <●><●>)「私は昔、自分の心臓にナイフを突き刺しました。自分の首をギロチンで落とした事もあります」
ミ,,゚Д゚彡「えっ嫌だいきなり話がグロい」
( <●><●>)「ダメなのです。死ねないのです。傷が再生するのはまだしも、首の無い体が、落とした頭を拾って、体にくっつけるのです。そんな時だけは、まるで機械の様に」
ミ,,゚Д゚彡「こわいグロいこわいグロい。ちくびちくびちくび」
( <●><●>)「それから、私の中で何かが壊れました」
ミ,,゚Д゚彡「がらがらーっとね」
( <●><●>)「何も考えないよう、何も感じないよう、アナタを避けて、トナカイを捨てて、自分で自分の心を、切り刻みました」
( <●><●>)「それじゃダメですか? 私は間違っていますか? 生きたいと願うと、まともには生きれない化け物だという現実があります。死にたいと願っても、サンタは死ねません。だったら心を壊さないと……壊さないと」
――そんなの、つらすぎるじゃないですか……。
表情は変えず、声だけを震わせて。
ワカッテマスは言葉を止めました。
ミ,,゚Д゚彡「……」
それを聞いたフサギコは、考えるのです。
ワカッテマスは賢いから、きっとそこで悩むんだ。
馬鹿な自分が陽気なフリをして、ずっとずっと放置してきたその問題に、賢いこいつは正面からぶつかるんだ。
だから悩むんだ。
そう、考えました。
馬鹿な子ほど可愛い。
そんな言葉があります。
フサギコは馬鹿だから、素直なのです。
わからない事はわからない。
苦しい時に苦しい。
フサギコはそう言えます。
しかし、ワカッテマスは違いました。
賢いせいで、とても不器用なのです。
助けてと言えない。
苦しいと言えない。
自分は強いから大丈夫だと、無意識の内に自分の心に言い聞かせて。
ずっと一人、賢い頭で、答えの無い大きな大きな問題を、たった一人で解こうとして。
ワカッテマスは、どんどんどんどん、壊れて行きました。
だからこそ――
ミ,,゚Д゚彡「お前アレだろ? 夜中にこっそりプレゼント置いていくだろ?」
( <●><●>)「え? 当然です」
馬鹿だけど素直なフサギコは――
ミ,,゚Д゚彡「俺もそうなんだ。サンタの習性なのかなんなのか、そうするのが当たり前だって、思ってしまうんだ」
( <●><●>)「それがサンタの在るべき姿です」
飾らずに、ワカッテマスに手を差し延べます。
ミ,,゚Д゚彡「だけど俺は落ちこぼれサンタだから、いつも失敗するんだ」
( <●><●>)「失敗?」
自分を救ってくれたから。
その、恩返しをする様に。
ミ,,゚Д゚彡「煙突から落ちる」
( <●><●>)「えっテンプレートですね」
ミ,,゚Д゚彡「ガラスを割る」
( <●><●>)「えっ破片が大変です」
ミ,,゚Д゚彡「電気をつける」
( <●><●>)「えっぴかってなってバレちゃいます」
lw´‐ _‐ノv「部屋の中に入る」
( <●><●>)「えっ人よりちょっぴり大きいのに」
lw´‐ _‐ノv「角で壁紙を剥がす」
( <●><●>)「えっ立ち退き時に敷金じゃ賄えなくなります。レオパレス21ならえげつない金額になります」
( ><)「こっそり雪食べちゃう」
( <●><●>)「えっそんなことしてたんですか? ていうか元気になったんですか?」
( ><)「実は痙攣はフェイクでした」
( <●><●>)「えっさっきまでの空気台無しじゃないですか。もうやだトナカイ不信になります」
ミ,,゚Д゚彡(あれ?)
lw´‐ _‐ノv(この人)
( ><)(面白いんです)
ミ,,゚Д゚彡「はい戻ろうね、二匹とも」
lw´‐ _‐ノv(ギョロ目こわいこわい隠れよう隠れようでも頭だけ出してビロード励まそう)
(;><)「う……うぅ……ぴくぴく……ぴくぴく」
ミ,,゚Д゚彡「こんな感じだよ、ワカッテマス。っていうか初めて気付いたけどお前ノリ良いな」
( <●><●>)「えっなにがですか?」
ミ,,゚Д゚彡「力を抜けよ。軽いノリで適当に生きればいい。化け物だなんて言葉はいちいち聞いてないで、好きに言わしておけばいいんだ」
( <●><●>)「どうしてそんな風に割り切れるのですか?」
ミ,,゚Д゚彡「シューのおかげかな」
( <●><●>)「シュー?」
lw´‐ _‐ノv「はい」
フサギコの後ろから頭だけを出して、しかしもう怯えてはいないのか、ワカッテマスのギョロ目をしっかりと見つめて、シューは一言、返事をしました。
ミ,,゚Д゚彡「楽しいんだよ。森の中でシューと昼寝して、木の実を食べて、やんややんやと騒ぎながら散歩するんだ」
lw´‐ _‐ノv「わたし凄く愛されてる」
( <●><●>)「羨ましいですね」
ミ,,゚Д゚彡「できるだろ? シューの名前をずっと覚えてる、愛情表現が下手くそなねちっこいお前なら」
一度、口だけでフッと笑って、ねちっこいは余計です、と一言。
( <●><●>)「鈴をつけたトナカイは、離れた場所にいても名前を呼べば現れます。私がトナカイを必要として、トナカイも私を必要とします。それが、壊れたいと願う私の心を掻き乱すのです」
ミ,,゚Д゚彡「好きなんだろ? トナカイが。俺がシューを好きなのと同じ様に、いや、それ以上に」
lw´‐ _‐ノv「えっそれはちょっと聞き捨てならない」
ワカッテマスはそのギョロ目で、ビロードを見ます。
( ><)
( ><)(あ)
(;><)「う……ぴくぴく……うぅ」
必死に演じる優しいビロードの姿。
頭が悪いなんて、とんでもない。
ビロードはずっと、なんとかしてワカッテマスを助けようとしていたのです。
名前をくれた、恩返しとして。
また、ワカッテマスは口だけで笑います。
( <●><●>)「トナカイに嫌われようとして、こんなに可愛いビロードにも。今まで傍にいた沢山のトナカイにも、私は酷い事をしてきました。その罪はあまりに重――」
lw´‐ _‐ノv「願えばいいんじゃない?」
ミ,,゚Д゚彡「あ、そうだな。多分出せるぜ、この奇跡の袋から。溶けたトナカイ達」
( <●><●>)「……」
少し、ワカッテマスは考えます。
( <●><●>)「……結構です。それが卑怯であることは、わかってます」
ミ,,゚Д゚彡「お、久しぶりの口癖。シューと同じ事言ってら。そういうもん?」
( <●><●>)「はい」
ミ,,゚Д゚彡「……そっか。じゃあ後悔しろ、存分に。どうせ俺達死なないんだからさ。気が済むまで悔やめばいい」
( <●><●>)「そうします」
ミ,,゚Д゚彡「また森に遊びに来いよ。ビロードとさ。二人と二匹で昼寝をしよう」
lw;‐ _‐ノv「えっ嫌だ二人きりがい――」
( <●><●>)「それもいいですね。色々学ばせてもらいます」
lw;‐ _‐ノv「来ないで二人の仲を邪魔しない――」
ミ,,゚Д゚彡「おう、お前案外馬鹿だからな」
lw;‐ _‐ノv「あっ誰も聞いてない。わたしだって時々は本気で怒る」
ミ,,゚Д゚彡「……なんでそんなに焦ってんの? 時間は山ほどあるんだから少しくらい」
lw;‐ _‐ノv「だって、だって」
シューの頭を撫でて、不思議そうな顔をフサギコ。
( <●><●>)「では、そろそろ」
そんな二人を、ワカッテマスは見ない振りをして――
ミ,,゚Д゚彡「あぁ、またな。ワカッテマス。ビロード」
( <●><●>)「はい。ではまた」
( ><)「また、なんです!」
ソリに乗って、去って行きました。
ミ,,゚Д゚彡「さ、帰ろうか、シュー」
lw´‐ _‐ノv「シュシュでいいよ。シュシュがいいよ」
ミ,,゚Д゚彡「そうだな。帰ろう、シュシュ」
lw*‐ _‐ノv「うん、おうち、帰ろう」
シューとフサギコも空を翔け、どこかへと消えて行きました。
※
しゃんしゃん、しゃんしゃん。
夜空を翔ける中、星を見るのはワカッテマス。
( <●><●>)「ビロード」
(;><)「……はッ! はいなんです!」
ぷるぷると四本足を震わせて、怯えながら返事をしたビロード。
( <●><●>)「いつまで……いや逆にいつから演技をしているのですか? アナタが賢く、更に強いトナカイだという事はもうわかってます。もう少し、ゆっくりでいいですよ。私は少し、星が見た――」
( ><)「嫌なんです」
( <●><●>)「えっ」
( ><)「本気を出すんです!」
( <●><●>)「えっちょっと待ってなにそれ速――」
おりゃあ! っと声をあげて、しかし楽しそうに、ビロードは足を動かします。
その後ろに――
( *<●><●>)「……まったく、これだから使えないトナカイは」
愚痴るも、頬は朱く。
不器用ながらも胸を踊らせる、ワカッテマスの姿がありましたとさ。
【第十五話:ワカッテマスはほんの少し嬉しくて、これから罪を悔やみます。微かに漂う、不穏な匂いを振り払う様に】
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