【第十八話】
世界のどこかに、大きな大きな森がありました。
季節は、夏。
咲き乱れる花が風に揺れて、木漏れ日が降り注ぐ広場に、フサギコとシューの姿。
ミ,,゚Д゚彡「暑いなぁ」
赤い帽子に、赤い服。
蒸し暑い中、これでもかといわんばかりの、厚着。
フサギコは広場の端に立つ大きな木の根元にもたれて座り足を伸ばし、澄み渡る青空を見上げて、暑いと、愚痴ります。
lw´‐ _‐ノv「……うん」
フサギコの隣に力無く座って、しかし頭だけはフサギコの肩に預ける、シューがいます。
角は、フサギコの頬をつつきません。
あの日からずっと、シューは座ったままです。
数日経って意識を取り戻した時、シューは、歩けなくなっていました。
春が過ぎて、夏になった大きな大きな森の中、シューはずっと、フサギコの隣に、座ったまま。
ミ,,゚Д゚彡「木の実、食べるか?」
フサギコがそう聞いても
lw´‐ _‐ノv「……いらない」
うん、という回数は徐々に減って。
ミ,,゚Д゚彡「そっか……眠たくないか?」
lw´‐ _‐ノv「眠い。でも……今日は……起きてる」
その言葉が、頭の悪い落ちこぼれサンタがいつしか言った、山ほどある時間が、もう残り少ない事を伝えていて。
ミ,,゚Д゚彡「……そっか」
本当に頭の悪い落ちこぼれサンタは、そう言う事しかできなくて。
ミ,,゚Д゚彡「なぁシュシュ?」
lw´‐ _‐ノv「ん?」
フサギコの隣、元より眠そうなその目は、いつもより更に細く。
ミ,,゚Д゚彡「やたら甘えてきてたのは、なんとなくわかっていたから?」
lw´‐ _‐ノv「うん?」
ミ,,゚Д゚彡「なぁシュシュ?」
lw´‐ _‐ノv「ん?」
ミ,,゚Д゚彡「明日も一緒に、木の実食べような? お昼寝しような? 夜には空を散歩しような? しゃんしゃんて鈴を鳴らして、流れ星と競争しような? お月様、かじりに行こうな?」
言える内に、言えるだけ――
早口で喋るフサギコの顔。
シューは少しだけ首を動かして
lw´‐ _‐ノv「……うん」
そのフサギコの目を見てそう、言いました。
ミ,,゚Д゚彡「絶対だぞ?」
lw´‐ _‐ノv「うん」
それが果たされない約束である事は、本当に本当に頭の悪い落ちこぼれサンタにも、わかっていました。
ミ,,゚Д゚彡「シュシュ、なんか欲しいものある?」
袋に手を入れて、聞きます。
lw*‐ _‐ノv「……落ちこぼれサンタ」
ミ,,゚Д゚彡「俺はここにいるよ」
シューの頭を撫でるフサギコ。
lw*‐ _‐ノv「……じゃあ、この森いっぱいの……ヒマワリ」
ミ,,゚Д゚彡「……まだヤキモチ焼いてんの?」
lw´‐ _‐ノv「まだ……足りないくらい、だってもう――」
――わたしには、見れないから。
ミ,,゚Д゚彡「ッ! このやろういつものお返しだっ! このめんどくさいトナカイめっ!」
声を聞かないフリをして、フサギコはシューの頬を指でつつきます。
つんつん、つんつん、つんつん。
lw*‐ _‐ノv「……いたい」
言うも、シューは照れ顔で。
ミ,,゚Д゚彡「よし、じゃあ沢山のヒマワリを――」
ごそごそと袋をあさって喋るフサギコの言葉を止めて
lw´‐ _‐ノv「ねぇ」
ミ,,゚Д゚彡「ん?」
シューは、消えそうなほどに小さな声で
lw´‐ _‐ノv「わたしの……願いは」
lw´‐ _‐ノv「ずっとずっと……落ちこぼれサンタの……傍に……」
lw´‐ _‐ノv「……ねぇ?」
ミ,,゚Д゚彡「ん?」
lw´‐ _‐ノv「わたしは……わたしは――」
フサギコが、だいす――
フッと、フサギコの肩に乗せられたシューの頭が軽くなった気がして、しかしそれでもフサギコは、澄み渡る青空を見上げたまま、ヒマワリを出して。
ミ,,゚Д゚彡「ほら、ヒマワリだぜ? 綺麗だろ? シュシュ」
言って手はまた、袋の中。
ミ,,゚Д゚彡「……なんも出ねぇや」
呟いて。
ミ,,゚Д゚彡「最後の最後で、初めて俺の名前を呼びやがって」
ミ,,゚Д゚彡「最後ぐらい、ちゃんと言い切れよ」
ミ,,゚Д゚彡「なぁシュシュ?」
ミ,,゚Д゚彡「お前は、どうなるんだ?」
ミ,,゚Д゚彡「溶けるのか? 腐るのか?」
ミ,,゚Д゚彡「なぁシュシュ?」
ミ,,゚Д゚彡「お前の最後の願い、なんも出ないんだ」
ミ,,゚Д゚彡「俺は、ずっとお前の傍にはいれないみたいだ」
ミ,,゚Д゚彡「なぁシュシュ?」
ミ,, Д 彡「俺は、本当にどうしようもない落ちこぼれサンタだから」
ミ,, Д 彡「肝心なところで、お前の願いを聞けなかった」
ミ,, Д 彡「落ちこぼれの嘘つきサンタって、怒るだろ? ヤキモチ妬きのお前なら、怒るんだろ?」
ミ,, Д 彡「怒れよ、ほら。なぁッ!」
自分の頬を、もう軽くなったシューの角に押し付けて。
ぐりぐり、ぐりぐり、押し付けて。
ミ,,;Д;彡「怒れって。なぁシュシュ? なぁ、なぁ――」
フサギコの涙を見る者は誰もいなくて、そこにはただ、咲き乱れる花を揺らす風だけが吹いていまして。
――なぁ、なぁ。シュシュ。シュシュ。
本当に本当に本当に頭の悪い、落ちこぼれサンタのその声を、まるで空へと運ぶように――
【第十八話:優しい顔で眠るキミの角が軽くてボクは泣いた】
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