【第六話】
( ・∀・)
ミ,,゚Д゚彡
lw´‐ _‐ノv
少し広めの部屋の中、二人と一匹。
( ・∀・)「なに?」
青色のパジャマ姿の、高校生くらいの少年、イケメンです。
イケメンですが、彼には右足の膝から下がありません。
ミ,,゚Д゚彡「サンタですこんばんは」
lw´‐ _‐ノv「トナカイですこんばんは」
礼儀正しいサンタとトナカイは、きちんと挨拶をします。
これは、褒めてあげなくてはいけません。
シュー、良い子。
ほら、皆も一緒に。
シュー、良い子。
フサギ……あ、少年が喋る。
( ・∀・)「サンタなんだ」
ミ,,゚Д゚彡「うん」
( ・∀・)「じゃあ、プレゼントくれるの?」
ミ,,゚Д゚彡「……うん」
フサギコはちらりと、少年の右足を見ます。
ミ,,゚Д゚彡(なにこいつ足が無い)
足をくれ、そう言われたらどうしよう。
フサギコはそう考えます。
ミ,,゚Д゚彡
ぶっちゃけると、足は出せます。
サンタはかなり、凄い生き物です。
すね毛にまみれたあの足も、お姉さんのあの足も。
口癖が、タラちゃんDEATHー、とかいうガキの、走るとピコピコ鳴るあの足も。
なんでも出ます。
フサギコが持つ袋からは、フサギコ以外の誰かが願った物なら、何だって出てきます。
しかし――
ミ,,゚Д゚彡(出せるけど、くっつけらんないよ)
それが問題。
頭の中だけで悩むフサギコの前。
( ・∀・)「あのさ」
少年が、口を開きます。
ミ,,゚Д゚彡「うん」
( ・∀・)「俺、右足が無いんだ。一年前に事故で……さ。もうサッカーできないんだ」
ミ,,゚Д゚彡「うん」
この流れはヤバい。
フサギコはなんとかしようと考えますが、少年は止まりません。
( ・∀・)「サッカーは何とか諦めがついた。でもな、悔しいのはさ」
ミ,,゚Д゚彡「うん」
( ・∀・)「誰にも叱られないんだよ。つまみ食いをしても、女の子のスカートをめくっても、電車の中でお姉さんの胸を揉んでも」
ミ,,゚Д゚彡「うらやま」
lw´‐ _‐ノv「ん?」
ミ,,゚Д゚彡「けしからんワシの頭の中がジュラシックパークだなんたることだこいつはけしからんボーイだぜ。シュシュ、な?」
lw´‐ _‐ノv「うんうん」
( ・∀・)「ほんと悔しいんだ。怒るんじゃなくみんな、苦笑いして逃げていく。それは絶対、俺に足が無いから。だから誰も俺を怒らない。それが、悔しいんだ。だから俺を」
ミ,,゚Д゚彡「待って、足は頑張れば出せるけどくっつけるのは――」
焦るフサギコを無視して、少年は言い切ります。
( ・∀・)「殴って」
ミ,,゚Д゚彡「えっ」
( ・∀・)「あ、そこのトロフィーでいいや。それで殴って」
ミ,,゚Д゚彡「えっちょっと待って」
( ・∀・)「手、わかるでしょ? 指、わかるでしょ? トロフィー、そこにあるでしょ? 手でそれを持って、俺のこめかみ辺りを殴る。わかる?」
ミ,,゚Д゚彡「あっなんかイラッとする」
( ・∀・)「しこたま」
ミ,,゚Д゚彡「しこたま?」
( ・∀・)「しこたま殴って」
ミ,,゚Д゚彡「しこたま殴りたくない」
( ・∀・)「もしもサンタが賢者なら、俺の頭は今頃えげつない形に歪んでる。血とか吹いてる。しかしまだ俺の雅な絶壁は保たれたまま。つまり、君は愚者だ」
ミ,,゚Д゚彡「やべぇ意味わかんない」
lw´‐ _‐ノv「馬鹿にされてるよ」
ミ,,゚Д゚彡「なんだとわかったもう殴る。トロフィーで10発。拳で20発ぐらい殴る」
( *・∀・)「ハァ……倍……ンッハァ……その倍ぐらい殴って……ンフゥ……」
ミ,,゚Д゚彡「やべぇ頬が朱色だコイツ」
( ・∀・)「簡単に言おうか?」
ミ,,゚Д゚彡「えっうん、お願いします」
( ・∀・)「俺、ドM、超がつくドM」
ミ,,゚Д゚彡「あっもうダメだ殴ろう。しこたま殴ろう。シュシュは見てて」
lw´‐ _‐ノv「……眠い」
※
ごすごす、ごすごす。
部屋に響く沢山の音。
ミ#゚゚ρ゚゚ 彡「オ゙ラ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!」
トリップした様に飛んだ目で、絶叫しながら少年をしこたま殴るサンタがいます。
振り上げては、下ろし。
振り上げては、下ろし。
それはもう、しこたま殴っています。
( *※∀※)「ビャア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙! 楽しいなぁァァァアアア゙ア゙ア゙ア゙!! 気持ち良いナ゙ァ゙ァ゙ァ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」
右向いてア゙ア゙ア゙。
左向いてア゙ア゙ア゙。
なかなかお目にかかれない貴重な、頭がいびつに歪んだキチガイがそこにいます。
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッッッッ!!!!
lw´‐ _‐ノv「うとうと」
眠そうな顔でうとうとする可愛いトナカイもそこにいて、彼女の存在が、この荒れ果てた空間を癒す、一服の清涼剤となっていました。
永遠の様に思えた時間も、いつしか終わる時がきて――
※
しゃんしゃん、しゃんしゃん。
ミ,,゚Д゚彡「疲れた」
ほんのり黒が薄くなった夜空を翔ける一人と一匹。
lw´‐ _‐ノv「眠かった」
ありったけの疲れをその身に集めてしまった様に、シューの足は遅く。
ミ,,゚Д゚彡「しかしあれだな」
lw´‐ _‐ノv「ん?」
ミ,,゚Д゚彡「ほんとは諦めれてないんだろ? 殴られて何かを発散したかったんだろ?」
lw´‐ _‐ノv「なんの話?」
ミ,,゚Д゚彡「あの少年さ、足があればまたサッカーを――」
言いかけた言葉を、シューが遮りました。
lw´‐ _‐ノv「それを、卑怯っていうんだよ」
ミ,,゚Д゚彡「なんで?」
lw´‐ _‐ノv「悲しんでいる人みんなに奇跡が起こったら、誰も涙なんて流さない。どんな悲劇も、ハッピーエンドになっちゃうよ」
淡々と言って、少しだけ足を速めたシュー。
ミ,,゚Д゚彡「皆が笑うなら、それがなによりなんじゃねぇの?」
lw´‐ _‐ノv「ううん。奇跡を願うのは、そして願った分だけ奇跡が起こるなんてのは、とても卑怯なこと」
ミ,,゚Д゚彡「そういうもんかな」
――馬鹿だからわかんねぇや。
それを最後に、会話の無くなった一人と一匹。
しゃんしゃん、しゃんしゃん。
その音を聞くのは、薄くなった夜空に浮かぶ星々だけで。
いつの間にか、そのソリはどこかへと消えて――
【第六話:奇跡が起これば頭のおかしな彼もまともになるのにね】
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