【第八話】


 小綺麗なアパートの二階。
 201と書かれた扉の前で、フサギコは立ち止まります。

ミ,,゚Д゚彡「どこから入ろう」

 その部屋に、フサギコは入るつもりです。
 フサギコはいつも、その時の気分でプレゼントを届ける家を決めます。
 今年は、アパートの一室。

ミ,,゚Д゚彡「鍵、かかってるかな」

 ドアノブに手をかけた時、中から微かに声が聞こえてきました。





「……ツン、ツン、僕はもう我慢できないお」

「ダメよブーン。この部屋、大学生の私の為に親が借りてくれた光熱費無料家賃6万の小綺麗なワンルーム、その名もレオパレス21は壁が薄いからダメッ! レオネットのAVで我慢してッ!」

「フヒヒッ、聞かせてやればいいんだお。今日はクリスマスだお。みんなやってる事だお。フヒヒッ」

「ああっ! ダメよっ! 光熱費無料家賃6万の小綺麗なワンルーム、レオパレス21は壁が薄いのよッ! 鼻唄だって聞こえちゃうくらい、光熱費無料家賃6万の小綺麗なワンルーム、レオパレス21は壁が薄いのよッ! アンッ! アンッ!」

ミ,,゚Д゚彡「えっなにこれ」

 扉の向こうからアンッ!
 少し離れてもアンッ!

ミ,,゚Д゚彡「えっ嫌だ聞きたくない」

 耳を塞いでもアンッ!
 掌を突き抜けてアンッ!

ミ,,゚Д゚彡「あっやばい狂うこのままじゃ俺って奴は気が狂う」





 階段まで逃げてもアンッ!
 光熱費無料家賃6万角部屋の201からアンッ!

ミ,, Д 彡「ウワァァァァアアアアアアッッッッ!!!!」

 フサギコは、壁に頭を打ち付けます。
 ごんっ! ごんっ!
 だけど合間を縫って、アンッ! アンッ!
 ごんっ! アンッ! ごんっ! アンッ!

ミ,,゚Д゚彡「シュシュ、雪とってきて」

 頭から血を流し、シューにそう頼むフサギコ。

lw´‐ _‐ノv「はい」

 迅速かつ冷静に、雪を拾いに行くシュー。
 右の前足で雪をすくって、ぼとり。
 左の前足で雪をすくって、ぼとり。





lw´‐ _‐ノv「雪持ったら歩けない」

 困ったシューは、頭に生えた角の間に雪を乗せて、フサギコの元へ運びます。
 落とさないよう、よいしょ、よいしょ。
 ゆっくりゆっくり、よいしょ、よいしょ。
 その姿は、とても絵になるそれで。
 それはそれは可愛いシューでした。

ミ,,゚Д゚彡「雪を耳に詰めよう」

 頑張ったシューにお礼も言わないで、フサギコは雪を耳に詰めます。
 頑張ったシューにお礼も言わないで。
 とても可愛いシューなのに、クソムシみたいなフサギコはお礼すら言えません。
 悪い子ですね、フサギコは。





ミ,,゚Д゚彡「あ、ちべたい耳がちべたい」

 耳に雪を詰めたってアンッ!
 雪を貫いてアンッ!
 その声の精密さはマリナーズの鈴木さんが放つレーザービームの如く。
 フサギコの耳の穴ど真ん中へストライク。

lw´‐ _‐ノv「ねぇ」

ミ,,゚Д゚彡「ん? あっダメだシュシュの透き通った可愛い声も普通に聞こえる雪詰めても意味が無い」

lw´‐ _‐ノv「おうち、帰ろう」

 間。
 間があっても、アンッ!

ミ,,゚Д゚彡「……そうだな。帰ろうか」

 その場から立ち去る一人と一匹。
 そこに残るのは、下品な雌豚が辺りに撒き散らす、アンッ! という喘ぎ声だけでしたとさ。

 アンッ! アンッ!









 しゃんしゃん、しゃんしゃん。
 聞き慣れた鈴の音。

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、戦いを終えた耳が癒される」

lw´‐ _‐ノv「ねぇ」

ミ,,゚Д゚彡「ん?」

lw´‐ _‐ノv「なんで、すぐに帰らなかったの? いつもはやる気ないくせに」

ミ,,゚Д゚彡「なぁーんか嫌な奴に会いそうで、な」

lw´‐ _‐ノv「なんなのそれ」

ミ,,゚Д゚彡「んー、嫌な予感というかなんというか」

lw´‐ _‐ノv「嫌な予感がすると、働く気になるの?」





ミ,,゚Д゚彡「そうだなぁ」

lw´‐ _‐ノv「それってなんかおかしいね」

ミ,,゚Д゚彡「そうだなおかしいな」

 話をする二人の背後。
 しゃんしゃん、しゃんしゃん。
 そこから、もう一つの鈴の音。

「相変わらずですか? 落ちこぼれサンタ」

ミ,,゚Д゚彡「あ?」

 空を翔けるシューの横に、現れたのは





(;><)「……」

 ぷるぷると震える四本足で翔ける、大きな体の真っ黒なトナカイ。

 そして、フサギコの横に

( <●><●>)「邪魔です」

 ギョロ目の、サンタ。

ミ,,゚Д゚彡「……テメェは」

 フサギコが言う、嫌な奴。
 嫌な奴だと言う理由は、一つ。

( <●><●>)「小さくなっても頭は悪いままですか? 足の遅いシュー」

lw;‐ _‐ノv「……」

 ギョロ目のサンタがかつて犯した罪を、知っていたから。





( <●><●>)「シュー、本当にアナタは相変わらず頭が悪くて足が遅――」

――おい、ギョロ目のクソムシ。

 遮って、怒気を孕んだ言葉が一つ。

ミ,, Д 彡「降りろ」

 そこに、いつも陽気な落ちこぼれサンタの、落ちこぼれだけど陽気じゃない、その姿がありました。



    【第八話:またまた突然の、シリアス。このタイミングでアレだけど、ギョロ目のサンタは部屋に忍び込んでプレゼントをそっと置くのが上手いから、そこだけは見習えッ! フサギコッ!】





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