【第九話】


 気が遠くなるほど、むかしの話。
 ずっとずっと、むかしの話。

ミ,,゚Д゚彡

 世界のどこかにある大きな大きな森の中。
 そこでフサギコは、目を覚まします。

 ずっとむかしから、フサギコはサンタでした。
 いつ、どうやって生まれたのかなんて、覚えていません。
 一番古い記憶を辿っても、体は大きく、白い髭を生やした自分の姿。

 フサギコはいつの間にかサンタで、ずっとずっと、サンタのまま。





ミ,,゚Д゚彡「……あ」

 フサギコの目線の先、暗い夜空を翔ける、トナカイの姿。

ミ,,゚Д゚彡「かっこいいなぁ、トナカイ」

 サンタのおうちは、大きな大きな森です。
 サンタ一人に、森が一つ。
 普通、森の中には首輪のついた沢山のトナカイがいて、サンタはその中から好きに一匹を選んで、ソリを引かせます。

 しかし、フサギコの住む森には、なぜかトナカイが一匹もいませんでした。

ミ,,゚Д゚彡「んー?」

 普通、サンタは一つの鈴を持っています。
 トナカイの首輪に鈴をつける事で、それが自分のトナカイだという証になります。
 重たい重たい、契約の証として。





 ですが、フサギコは鈴を持っていません。
 持っていたとしても、それをつけるトナカイすらいません。
 それが、フサギコが落ちこぼれサンタと呼ばれる原因の一つ。

 そしてもう一つ、大きな大きな問題がありました。

ミ,,゚Д゚彡「……空っぽだな」

 フサギコの持っている大きな白い袋には、何も入っていないのです。
 普通、サンタは中身の詰まった大きな袋を肩に担いで歩きます。
 出したい時に、なんだって出せるその袋。
 フサギコには、それが無かったのです。





 その二つがあって、フサギコは周りから、落ちこぼれサンタと呼ばれ続けていました。

ミ,,゚Д゚彡「……しらねぇよそんなの」

 確かに元からかなり頭の悪いフサギコですが、そればっかりは、フサギコのせいではありません。
 気が付いた時から、そうなのです。
 仕方がないのです。

 聖なる夜に、他のサンタ達が空を翔ける中、フサギコは一人、雪の地面を踏みます。
 のしのしと、のしのしと。

 気が遠くなるほどの時間、フサギコはずっと一人で、生きてきました。
 何年も何年も。
 ずっとずっと。

 そんなフサギコの前に、一人のサンタが現れました。





( <●><●>)「あそこの家なら、歩いて行けますよ」

ミ,,゚Д゚彡「え?」

 聖なる夜、フサギコの前に、ギョロ目のサンタ。
 黄色い鈴をつけた茶色い体のトナカイが、側にいました。

( <●><●>)「トナカイ、いないんでしょう? 鈴が無いんでしょう?」

ミ,,゚Д゚彡「うん」

( <●><●>)「しかも袋は空っぽ」

ミ,,゚Д゚彡「……うん」

 こいつも自分を馬鹿にするのかと、フサギコは少し不機嫌になりました。





 しかし――

( <●><●>)「これを持っていきなさい。あそこの家には一人の少女がいます」

 ギョロ目のサンタが、大きな袋から可愛らしい熊のぬいぐるみを取り出して、フサギコに渡しました。

ミ,,゚Д゚彡「え? なんで?」

( <●><●>)「いいから行きなさい。落ちこぼれサンタだって、やれる事があるのはわかっています」

ミ,,゚Д゚彡「……」

 フサギコの目線の先、遠くに見える小さな家。
 フサギコは足をその家の方向へ向けて歩き出します。
 しかし一度立ち止まって――

ミ,,゚Д゚彡「……ありがとよ」

( <●><●>)「お礼を言ってる暇があるなら、早く行きなさい」





ミ,,゚Д゚彡「お前、名前は?」

( <●><●>)「え?」

ミ,,゚Д゚彡「名前だよ名前、俺はフサギコ」

( <●><●>)「……ワカッテマス」

ミ,,゚Д゚彡「えっなんで俺の名前知ってんの? この人エスパー? 伊藤的なエスパー?」

( <●><●>)「私の名前は、ワカッテマス」

ミ,,゚Д゚彡「お前賢そうに見えるけど、割とアホなんだな。俺だって自分の名前ぐらいわかってます。それを教えろって言ってんだよ」





( <●><●>)

ミ,,゚Д゚彡

( #<●><●>)

ミ,,゚Д゚彡「えっなんで怒るの?」

( #<●><●>)「だから私の名前がッ! ワカッテマスっていうんですッ!」

ミ,,゚Д゚彡「やべぇこいつわかってますわかってますって頭おかしいんじゃねぇの」

( <●><●>)「……いくら言ってもダメなのはわかってます。早く行きなさい。夜が明けてしまいますよ」

ミ,,゚Д゚彡「あ、忘れてた。じゃあ行ってくる。またな、ワカッテマス」

( <●><●>)「挨拶はいいからさっさと行きなさ……え?」





 ふんふんとご機嫌な様子で、雪の地面に足跡を伸ばすフサギコ。

 そして――

( *<●><●>)「……まったく」

 しゃんしゃん、しゃんしゃん。

 茶色い体のトナカイと夜空を翔けるワカッテマスは、どうしてかどうしてか、その頬を朱に染めていましたとさ。






ミ,,゚Д゚彡「よいしょよいしょ」

 少女の家にたどり着いて、煙突をよじ登って。

ミ,,゚Д゚彡「ありゃ足が滑っうわぁぁぁぁぁぁ!!」

 煙突の中に消えて。
 どしんっ! と、暖炉の中に突っ込んで。

「……ん?」

 音で目覚めた少女に、フサギコは出会いました。

ミ,,゚Д゚彡「やぁ俺、フサギコ。サンタだよ」

「……サンタさん?」





ミ,,゚Д゚彡「これあげる」

 ずいっと、少女に熊のぬいぐるみを突き付けるフサギコ。
 その不器用さは頭が悪いからではなく、ただ初めてでわからなかったからこその、それでした。

 元より、サンタは普通、こっそり家に忍び込んで、こっそりプレゼントを置いて、こっそり帰っていく生き物です。
 誰が決めたわけでもないですが、言うなればそれはサンタという生き物の習性で。
 それに従わないフサギコは、普通のサンタにはわからない、一つの感情を覚えます。

「わぁぁっ! くまさんだっ! ありがとうサンタさんッ!」

 はしゃぐ姿の少女を見て、躍る自分の胸。

ミ,*゚Д゚彡「……なにこれ」

 それは他のサンタとは違って、煙突から落ちて子供と出会ってしまう落ちこぼれサンタにしか見つけられない、感情でした。








 【第九話:気が遠くなるほど昔から、フサギコは頭が悪いままなんだってさ】





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