「では次のニュースです」



「厚生労働局が国の合計特殊出生率が0.63になったことを発表しました」

「近年の出生率の低下は我が国の大きな問題であり」

「人口の減少を長い間危惧されてきています」

「この背景には不景気や子どもを産み、育てる環境の不備」

「また、いわゆる"草食系"の概念が男女ともに広がることによる」

「若者の"結婚離れ"があるとされます」

「この事態に厚労局長は『対策を立てているため発表を待ってほしい』とコメント」

「記者会見では具体的な案は提示されませんでした」

「では次のニュースです」

「美布県で毎年恒例"ふんどし祭り"が昨日、盛大に行われました」



 ※ ※ ※


('A`)「ふむ」

朝のニュースの後の天気予報を眺める。
すっきりとした秋晴れだけど乾燥には注意、
夕方から明日にかけて崩れやすい天気になる、らしい。

ζ(´ー`*ζ「天気がいいとなんだか嬉しいねぇ」

ニコニコしながらもぞもぞコタツに入ってくる。
数日パジャマ代わりにしているYシャツのシワが目立っている。
いくら部屋着、ましてやアンドロイドの服とは言え、
やはり寒い朝でのその姿は倫理的な何かを俺に訴えかけてくる。
……いや、Yシャツ着るように言ったのは俺なんだけど。

今日のバイトは昼ごろから夕方まで。
だからそれまでは暇だ。
このままだらだらと過ごしてみてもいい。
が。

('A`)「デレ」




ζ(´ー`*ζ「はぁい?」

暖かさを感じているような、ぽあっとしたような顔で返事をする。可愛い。

('A`)「昼過ぎまでは暇だし、それまでなんか買い物にでも行こうか」

ζ(゚ー゚*ζ「え!」

勢いよく見開かれた目には不思議と生気が満ちている。

ζ(゚ー゚*ζ「いいの!?」

デレが身を乗り出し、俺に顔を近づける。
きらきらした瞳の中には少しひいている俺がいる。
恐らくデレが犬だったら千切れんばかりに尻尾を振っているのだろう。

(;'A`)「あ、ああ。服も同じのばっかりじゃ飽きるだろ?」

ζ(゚ー゚*ζ「〜〜〜〜〜っっ!!急いで洗い物するね!!」

俊敏な動きで慌ててデレが台所へと向かった。
ここまで喜んでくれると俺も提案したかいがあるというものだ。









('A`)はセクサロイドを愛するようです

  よっかめ「俺と現実」
 











 ※ ※ ※


天気予報通り、外は最近の定番服だと暑いくらいの気候だった。
だからデレの持っている(着ている)唯一の服が街並みに合っている。
むしろ全身黒一色の服を着た俺がそぐわない気がする程だ。
平日の昼間らしく人は少ないが、カップルらしき男女が身を寄せ合って歩いている。
熱いねぇ。

('A`)「さてさて。どうしようか」

ζ(゚ー゚*ζ「うーんと、先に私のお洋服買っちゃうとかさばっちゃうから―――」

('A`)「だからと言って買い物済ませてからだとじっくり服見れないんじゃね?」

ζ(゚- ゚*ζ「むっ!それもそうだね!」

腕を組み、むぅと唇を尖らせている。可愛い。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃ、服見に行こう!ふく!」

俺を急かすような声が前から飛んでくる。


先を行き、しかし後ろ向きで俺と話しながら歩く様はまるで子どものようだ。

('A`)「そんなに服、欲しかったのか?」

ならもっと早く買いに行けば良かったな、と苦笑いした。
やはり女の子が代わり映えのしない服を着るのは飽きてしまうのだろう。
アンドロイドではあるけども。

だがデレはまた子どものようにニヒッと笑い、違うよと答えた。

ζ(^ー^*ζ「どっくんと歩きたかったの!」

そう言って俺に近寄り、ぐいっと腕を引っ張る。
突然の出来事に何も出来ず、歩調が無理矢理合わせられ、
デレが俺を先導する形になった。

(;'A`)「う、うぃ」

アンドロイドではあるけども。
俺は女の子と歩いているんだ。

腕に当たる柔らかい感触にドギマギしながらそんなことを思った。



('A`)「まあ当然ながらこんな店に入るのは初めてなわけですが」

衣料品店の近くで立ち止まり、腕を組んで仁王立ちする。
勝手なイメージだが、俺なんかが入ったら後ろ指を指されそうだ。

ζ(゚ー゚*ζ「んー、私も情報がインプットされてないみたい」

デレが軽く頭を叩いている。
頭の中を探るのに随分原始的なことをなさる。

ふと気になった。

('A`)「じゃあ何の情報ならインプットされてるんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「んぅ?」

デレが目をパチクリする。

('A`)「いやほら、女の子っぽい情報が入ってないなら何が入ってんのかなと」


そこまで言って訊かなければ良かったと後悔した。

彼女はセクサロイドとして俺の元へ送り込まれたのだ。
決して生活を補助してくれるアンドロイドなどではない。
そのためインプットされている情報なんて、性のものばかりに決まっているではないか。

ζ(゚- ゚*ζ「性に関する情報、対象の人間を悦ばせる反応、及び少しの生活情報」

ζ(゚- ゚*ζ「アイデンティティとして個性、学習機能なども加味されている」

わかってはいた。
しかし確固たる現実を突きつけられるのは堪える。
デレの口からそんなことを聞きたくはなかったという、
俺の中の処女信仰のようなモノが音を立てて崩れていった気がした。

俺はデレをセクサロイドとして見たくはない。
だが彼女は確かにセクサロイドなのだ。

('A`)「……そうか」

それだけ答えて、小首を傾げながら顔を覗きこんでくるデレの手を引き、店へ入る。


店内は異世界だった。
誇らしげなメーカーのロゴは見たことがないものばかり。
置かれた服の価値が全く分からない。

ζ(゚ー゚*ζ「あ、これかわいい」

('A`)「……」

('A`)チラッ

( A ) ゚ ゚ ポーン

しかも高い。
俺のバイト代がぽーんと飛んでいく。

ζ(゚ー゚;ζ「ほ、他のにしようか……」

(;゚A`)「い、いや、出せる、出せるぞ!」

妙なところで俺の中の""が存在を誇示する。
女に気を遣わせるなんざ男のすることじゃないと。



ζ(゚ー゚*ζ「どう?」

試着を終えたデレがくるりと一回転する。
そんなに長くいるわけじゃないかもしれないし、と持ってきた服は、
白く、ダボついたセーターと肌を隠す黒地の服、
赤地に細い白や茶色のチェックが入ったミニスカート。
そして黒タイツ。
実にシンプルかつ金色のふわっとした髪と合っていて可愛い。

ζ(゚ー゚*ζ「寒さは感じないし、私の中にある感性とやらに従ってみたよー」

(*'A`)「う、うむ、いいんじゃないだろうか」

どこからどう見ても普通の女の子だ。
しかし。

('A`)「……膝の関節見えてね?」

ζ(゚ー゚;ζ「あ、本当だ」

うっすら独特の部位が見える。
……他人にデレがアンドロイドだとバレたらどうなるんだろうか。
処罰されるってことはないだろうが、良い予感はしない。



ζ(゚、゚*ζ「ぬーん、結構気に入ってたんだけどなぁ」

子どものように口を尖らせ、改めて服を見ている。
黒タイツは確かに可愛いさ三割増しだ。
しかし球体間接が透けてしまうなら仕方がない。

('A`)「スカート長いやつにするとか?」

ζ(゚ー゚*ζ「それだ!」

頭の上に電球でも現れそうな勢いで背筋が伸びた。

ζ(゚ー゚*ζ「んじゃ、探してくるね!」

デレは元が可愛いから何でも似合う気がする。
これは親馬鹿ならぬ保護者馬鹿とでも言うのだろうか。

元の服に着替え、また服の海へデレが消えていく。
選んできた服を見るに、一人で探させても問題ないセンスはあるらしい。
感性も個性なんだろう。



ζ(゚ー゚*ζ「じゃーん、どうだ!」

少し経ってから試着した姿を俺に見せる。
今度はさっきのようなミニスカートではなく、
最初に着ていた服のようなロングスカートだ。
あれは白い色だったが、これはこげ茶っぽい色。

ζ(゚ー゚*ζ「ミニスカートも履いてみたかったけどしょうがないねー」

白いブラウスの上にはスカートに合わせたような、
暖かそうな深い赤色のカーディガンを羽織っている。

(*'A`)「う、うむ、いいんじゃないだろうか」

ζ(゚、゚*ζ「もー、さっきもそう言ってたじゃん。本当にそう思ってるのー?」

(*'A`)「ご、ごめん、本当に似合ってると思う」

ζ(゚ー゚*ζ「そ、そう?ふふ、ありがと!」

互いに照れ合うというわけのわからない状態になった。


店員の事務的な声を背に受け、店を後にする。
ふ、ふふ、失った金は勉強料だ、そういうことにしておこう。

ζ(゚ー゚*ζ「パジャマまで買ってもらっちゃって……」

ζ(^ー^*ζ「ありがとうね、どっくん!」

まるで太陽のような笑顔のデレ。
眩しい、眩しすぎる。

(*'A`)「いいってことよ」

照れくさくて直視できず、思わず目を逸らす。
紙袋を持ってきゃいきゃい動くデレが可愛すぎるのもある。反則だ。

(*'A`)「ふ、袋持つよ」

イケメンなら恐らくこうするという俺の妄想力を最大限活かした行動である。

ζ(゚ー゚*ζ「んーん、いいの」

だがデレは断った。


少しへこんだが、続けてデレが言った。

ζ(゚ー゚*ζ「だってね、せっかくどっくんが私に買ってくれたんだもの」

ζ(゚ー゚*ζ「重くてもね、嬉しいの」

ζ(^ー^*ζ「嬉しさは一人占めなの!」

そうしてデレは言葉通り嬉しそうに両手で紙袋を持ち、微笑んでくる。

そう言われてしまったら俺からは何もすることができない。
だからただ、そうかとだけ答えた。

余計にデレの顔を見れなくなり、赤くなった顔は明後日の方向へ。
歩く足だって覚束ないが、その歩調にデレは合わせてくれる。
時々、恐らく耳まで赤くなっているであろう俺の顔を覗き見ようとして
ちょろちょろと正面に出てくるが、俺は断固として顔を合せなかった。

「ふふっ、かわいい」

少し悪戯っぽい、そんな声が聞こえた。



 ※ ※ ※


夕方。
バイトが終わって見上げた空は天気予報の通り曇り空で、
辺りは静かに暗くなっている。
折りたたみ傘を持ってきて良かったと心底思う。
デレと出かけた午前中の晴れ模様が嘘のようだ。

今日はしぃちゃんは俺の少し後に帰る。
当然と言えば当然だ。
俺がそうなるようにシフトを入れているんだから。

バイトをしているのは体裁を保つため。
正直俺一人が生きていく蓄えは既にある。
一時期趣味がバイトだった時期があったからだ。

さらにしぃちゃんは大学生だが、俺はフリーター。
どこにシフトを入れても大丈夫なのだ。

故に、"日課"を行うのに十分すぎるほど条件が揃っている。


裏口からしぃちゃんが現れた。
いつもの時間より少し遅れている。
手に何も食べ物を持っていないからトイレにでも行っていたのだろうか。
今日の服は灰色のダッフルコートに赤いマフラー、
太股に申し訳程度に伸びたミニスカートに黒いタイツ。
デレが着ていてもおかしくない服だ。
やはりこの二人は似ている。

帰宅ラッシュに入り、人の多い通りを歩く。
俺はしぃちゃんを見失わないよう、そして勘付かれないよう慎重に後ろを歩く。
耳に入る雑踏の声を全てスルーして目の前に集中する。

心なしかしぃちゃんの今日の歩行スピードが速い。
何かあるのだろうか?
それともただ単に寒いから早く帰りたいとか、そういう理由だろうか?

人混みを離れて小道へと入っていく。
ここからはさらに注意しなければならない。
こういう道にこそ変質者というのは現れるもの。
いつ何時しぃちゃんが連れ去られるか分からない。

俺が守らなければ―――



と、辺りが暗くなった頃に気がついた。

しぃちゃんがいつもの帰り道を通っていない。

どこに行く気なのだろうか?
もしかすると、友達の家?恋人?彼氏?
最後の二つは当たってほしくない選択肢だ。

いいや、どんな結末になろうとも俺は受け入れる。
"日課"を始めた時にそう誓ったじゃないか。
俺の代わりにしぃちゃんを守れる男が現れたなら、
役目をそいつに引き渡すと。

いかん、少し視界が歪む。
馬鹿だなぁ俺は。
まだそうと決まったわけじゃないのに早合点しちまってる。

前方を行くしぃちゃんが暗い道を行く。
足取りは軽い。
俺の知っているしぃちゃんが、
俺が知らない、しぃちゃんだけが知っている場所に行ってしまうようで、
少し寂しい思いがした。





更に歩みを進めようとしたその時。



ぽん、と肩を叩かれた。






瞬間、体が熱くなる。

ドクンと心臓が一つ、大きく動いた。

誰かに接触されるのは"日課"を始めて以来、初めてのことだった。

故にこういう時、どういう反応をすればいいかわからなかった。

从 ゚∀从「おい、あんた、何やってんだ?」

低い女の声。

答えようにも動けない。

頭が混乱している。

(;'A`)「え、あ、はい、何って、……」

そこで言葉を失う。

俺は、何をやっている?



心を落ち着かせて振り返る。
俺より背の高い、長身の女が俺を見下ろしている。
その後ろには数人の女がいる。
見たことのある顔だ。

しぃちゃんの友達。

何故彼女らがここにいる?
そして何故俺に接触してきた?

从 ゚∀从「もっかい訊くけど、『何をやっている?』」

顔は笑っている。
目が笑っていない。

(;'A`)「え、何、と言われても、家に、帰ろうとしただけ、で」

大嘘だ。

ミセ*゚ー゚)リ「ふーん、家にねぇ?」

背の低い、言ってしまえばケバい女が侮蔑を含んだ眼差しを俺に向ける。


非常に居心地が悪い。
俺は何も悪いことをしていないのに、
まるで俺が何か悪いことをしたかのような雰囲気。

そう、俺は何も―――

('、`*川「あんたさ、随分動揺してるけど、自分が何してるか自覚してるわよね?」

長髪の女が問いかける。

(;'A`)「何、と言われても、俺はただ」

(゚、゚トソン「シラ切るつもりですね、この人」

涼しげな顔で女が言う。
その言葉を合図とするかのように長身の女が俺の胸倉を掴み、壁に押し付けてくる。

(;'A`)「えぇ!?ちょ、何するん、」

从 ゚∀从「てめぇ、自分がしてること棚に置いて」

从#゚∀从「……『何するんですか』、だとぉ……!?」


目に見えて女が怒りを露わにした。
押しつける力が強くなり、ますます身動きができなくなる。
しかしそれ抜きにしてももがくことを許さないプレッシャーがある。

从#゚∀从「あたしが言ってやるよ、変態野郎!!」

耳元で叫ばれ、耳がおかしくなりそうだ。
いや耳だけじゃない。
何か、大事なものがおかしくなってしまいそうな、そんな嫌な感覚。

从#゚∀从「あのな、お前がやってることはなぁ!!」

('、`*川「"日課ストーカー"って言うんだよ、おにーさん」

从#゚∀从「ストー……あぁ!?」

(゚、゚トソン「ハインちゃんどうどう」

ミセ*゚ー゚)リ「こんなキモい奴殴ってムショ行ってもしょうがないっしょ」

(゚、゚;トソン「ムショって……随分慣れた言い方ですね」

ミセ*゚ー゚)リ「ん?別にあたしは入ったことないよ?」


女達の会話が頭に入らない。
頭に血が回ってない?
違う、思考回路全てにさっきの言葉が突き刺さって思考停止させている。

ストーカー?

 ストーカー。

ストーカー?

 ストーカー。

  ストーカー。

俺がか。
俺がストーカー?

なんで?なんで俺がストーカー?
何かの間違いだ、だって俺はただ、しぃちゃんを守ろうと―――

意識が現実に戻った時、俺は女達に囲まれていた。



从#゚∀从「随分不思議そうな顔してんじゃねーか」

視界が回転し、受け身を取り損なって体が地面に叩きつけられる。
ぶつけた所からじわじわと痛み始めるが、そんなことは問題じゃない。

何とか上半身を起こし、彼女達を見上げる。

(メ;'A`)「お、俺が!?ストーカー!?どういうことです!?」

从#゚∀从「あん?前々からしぃから相談されてたんだよ」

(゚、゚トソン「『最近バイト帰りに誰かに後つけられてて怖い』、と」

('、`*川「そ。で、今日ようやくあんたがそのストーカーなんだってわかったわけ」

ミセ*゚ー゚)リ「げんこー犯だ、キャハッ」

まるで立ちくらみのように目の中で光がじんわりと広がり、
頭の中が圧迫されていくような感覚がした。

俺は思い上がって、とんでもないことをしでかしていたらしい。


長身の女と真面目そうな女の間から、なかなか焦点の合わない目でしぃちゃんの姿を覗く。
両手を胸の前に置き、今にも泣きそうな顔で俺を見ている。
弁明しようと口を開きかけたが、濡れた瞳が怯えと驚きを訴えかけているのに気付き、
何も言うことが出来ずにそのまま閉口した。

 身近にこんな人がいたなんて

 ドクオさんがそんなことをするなんて

今にもしぃちゃんはそう言い出しそうだ。
むしろ言って欲しかった。
これより酷い言葉で罵倒してほしかった。

その方が今みたいに何も言われず、ただ無言でいるよりは気が楽になる。
しぃちゃんと俺の距離は、そのまま心の距離に反映されているかのようだ。

ミセ*゚ー゚)リ「で、こいつ誰なの、しぃ?」

ケバい女に声をかけられたしぃちゃんが震えた声で俺の素性を告げる。
バイト仲間だ、と。



从;゚∀从「マジで?はー、あんたも変な奴に惚れられたねー」

('、`*川「私のバイト先紹介しようか?」

(゚、゚トソン「と、そんなことよりもです。この人どうしますか?」

ミセ*゚ー゚)リ「地面這いつくばってるのがお似合いってカンジだねー」

(゚、゚;トソン「コラ」

(*. - )「あの、ドク、……この人は、根は悪い人じゃないの」

(*.ー )「だから、いいの。これから何もしないって、約束してくれるなら……」

女達が同時に疑問の声を上げた。

しぃちゃんは目を伏せているが、言葉の節々には優しさがにじみ出ている。
誰に対しても、こんな俺に対しても、こんな時でも彼女は優しい。

そんなしぃちゃんに最悪の形で気を遣わせてしまっている。

何をやっているんだ、俺は。



結局彼女達は俺を見逃した。

次はないぞ、と言い残して。


俺を罰するためなのか、それとも気を遣ったのか、雨が降った。

だが涙は流れなかった。

俺に涙を流す権利などないと理解していたからだ。

だから小雨を受けながらただ思っていた。


天気予報は正確だなぁ、と。




 ※ ※ ※


(メ A )「……」

ふらりと部屋へ入る。
何かの料理の匂いがする。
しかし俺の脳はそれが何か識別しようとしない。

頭の中は後悔と反省と謝罪の言葉で埋め尽くされており、
それが涙という形を借りて外へ漏れ出そうとしている。

ζ(゚ー゚*ζ「あ、おかえりー!今日はねぇ、って」

ζ(゚ー゚;ζ「濡れてる!?どうし」

(メ A )「ごめん、今日ちょっと無理、寝るわ、ごめん」

え、と息を呑むデレの横をすり抜けてコタツの布団を被る。

心配そうに声をかけてくるデレの優しさが辛い。
今の俺にはあらゆる優しさが針のように突き刺さってくるのがわかる。

そして何より、デレとしぃちゃんの姿が重なり、心が酷く痛んだ。


よっかめ おわり

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