('A`)ドクオが夢を紡ぐようです3話




「じゃあ、5おく100まんの星をどうするの?」
「5おく162まん2731。ちゃんとしてるんだ、わたしは。こまかいんだ。」
「それで、星をどうするの?」
「どうするかって?」
「うん。」
「なにも。じぶんのものにする。」

                   『あのときの王子くん』より


僕の部屋には至高のスタッカートが響いていた。
深緑の海をところ狭しと踊る白い数式。
試しに声に出してそれを読み上げてみると
それはまるで美しい童話を読む時のように
甘く空気を揺らした。

ζ(゚ー゚*ζ「うわ、すごーい!」

(-_-)「え?」

振り返ると真新しいセーラー服をまとった幼馴染が
興味深げにこちらを覗き込んでいる。
いつの間に部屋に入ってきたのか、
新しい玩具に夢中で全く気が付かなかった。




ζ(゚ー゚*ζ「ね?ね?どうしたのこの黒板?
      なんで部屋に黒板があるの?」

(-_-)「買って貰った…。高校の入学祝い」

ζ(゚ー゚*ζ「そうなんだ。黒板なんか売ってるんだねー」

(-_-)「欲しい人がいるんだから、
    売ってくれる人だっているよ」

ζ(゚ー゚*ζ「えー。学校しか買えないんじゃないの?
      どうやって買ったの?」

(-_-)「お金で」

ζ(゚、゚*ζ「むぅ…」

幼馴染は口をとがらせて恨めしげに僕を見る。

(;-_-)「な、何だよ…」

ζ(゚、゚*ζ「デレはね。黒板が夢やおはじきで買えると思ってるほど、
      子どもじゃないんですよ?」




(-_-)「でも江戸末期にはおはじきが貨幣代わりに流通してた事もあったから、
    もしかしたら買えたかもしれないね」

ζ(゚ー゚*ζ「え!?何それ!」

(-_-)「当時はガラスの事をギヤマンって呼んでてね。希少品だったから、
    銀不足とも重なってお金として使ってた事もあったみたい」

ζ(゚ー゚*ζ「ほんとー!?じゃあ、おはじき持って江戸末期行ったら、
      デレはお金持ちかな?」

(-_-)「嘘だけど」

ζ(゚、゚*ζ「…むぅ」

(;-_-)「…ごめん」




ζ(゚、゚*ζ「ヒッキーは嘘吐きですね」

(;-_-)「つい、ね。デレが何でも信じるから…」

ζ(゚、゚*ζ「信じる者は救われるのですよ?」

(-_-)「信じる者と書いて儲かるだよ」

ζ(゚、゚*ζ「ヒッキーは屁理屈が多いです」

(-_-)「屁理屈でも理屈だよ」

ζ(゚ー゚*ζ「ヒッキーはクマバチを飛ばせてあげない人間ですか?」

(-_-)「クマバチは飛べるよ。レイノルズ数を知らない人間が見た幻想で彼らは飛んでるわけじゃない」




ζ(゚ー゚#ζ「…こうしてやるー!!!」

デレは真新しい黒板消しを手に取ると、
正直なイコールで結ばれた数字たちを無造作に消し始めた。

(-_-)「あー…」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふん。わからずやのヒッキーなんてこうですよー」

(-_-)「折角制服新しいのに…汚れるよ?」

ζ(゚−゚*ζ「あ…」

(;-_-)「ごめん…」



そんな夢を見た。
幼馴染とはもう4年以上会っていない。
実家の部屋には2年以上帰っていなかった。

(-_-)「なんで今更あんな夢…」

夢とは言え、
人と久しぶりに会話を交わした。
人の笑うところを久しぶりに見た。




(-_-)「どうせだったら…外出してる夢が良かった」

今の僕の部屋の窓はあの黒板で塞いでしまったので
もう随分まともに青空を見ていなかった。

枕元に置いてあるノートパソコンの電源を点ける。
僕の世界はこの狭いディスプレイに集約されていて、
僕の心はこの狭い部屋と同化を果たしていた。

軽い起動音と共にディスプレイにほの暗い光が宿る。
真っ青なディスプレイ。無駄なものは何もない。
僕はいくつかソフトを立ち上げる。

さぁ、今日も数字と踊ろう。






ζ(゚ー゚*ζ「なんかね。数学の先生がヒッキーのこと凄い褒めてたよ。
      ヒッキーには数学のセンスがあるって。
      数学の得意なやつはザラにいるけど
      数学のセンスがあるやつは中々いないって」

(-_-)「え…数学の先生って…?」

ζ(゚ー゚*ζ「ほら。あのやたらにカピバラっぽい先生いるじゃん!
      入学式の日に2%は確実に学校を辞めますって言い放った」

そこはまた実家の僕の部屋だった。
デレは黒板を背にして嬉々として語っている。
彼女の制服のスカートの丈は既に膝上15センチまで上昇を果たしていた。
髪の毛もうっすらと茶色がかって見える。この暗い部屋で茶色く見えるのだから、
明るい日の光の中ではもっと色が透けるのだろう。

(-_-)「いつ…したの?そんな話」

ζ(゚ー゚*ζ「南階段の掃除の時。あそこの掃除の担当あの先生だから。
      あ、ねぇねぇ、ヒッキーもっと学校来ないの?
      このままだと単位危ないって先生方も言ってるよ?」

(-_-)「週に3回は行ってるからいいだろ…別に」




ζ(゚ー゚*ζ「それって週休4日じゃん。なんでヒッキーだけそんなにゆとり教育の恩恵を受けてるの?
      ゆとり教育の神様に愛されてるの?ゆとり教の救世主になっちゃうの?」

(-_-)「なんだよゆとり教って…」

ζ(゚ー゚*ζ「ゆとり教はゆとり教だよ。
      活動内容は一日一回自分がゆとり教の信者である事を思い出すこと」

(-_-)「何その開き直った哲学者みたいな活動内容」

ζ(゚ー゚*ζ「それでね。この前のテストあったでしょ?中学の復習のやつ。
      あれのね。最後の問題の正解率がうちのクラスで2.5%だったんだって」

(-_-)「あれ。僕だけだったんだ正解したの」

ζ(゚ー゚*ζ「え!?なんで!?2.5%だよ!?あと1.5人は正解した人いるはずだもん!」




(-_-)「デレ。母数が100じゃないんだから…」

ζ(゚ー゚*ζ「ぼすー…?」

(-_-)「母なる数と書いて母数だよ」

ζ(゚ー゚*ζ「お母さんなの!?」

(-_-)「…そうだよ。お母さんだよ」

ζ(゚ー゚*ζ「そっかぁ…お母さんかぁ…じゃあ、仕方ないね」

(-_-)「うん。そうだね仕方ないね…」

ζ(゚ー゚*ζ「うーん…。うん!借りるよー」

デレは満足げにうなづくと、くるりと振り返り
鉄と亜鉛の混合物の線膨張率と
体積膨張率で3分の1ほど埋められた黒板の、
残り3分の2に女の子らしい可愛らしい字で落書きを始めた。




『母の裾の内には
 2.5人の子が潜む
 そのうちの1.5人は
 雑紙を好んだ数字の
 その猥雑さの中に
 そっと隠れてしまった』
 
(-_-)「何それ…」

ζ(゚ー゚*ζ「消えた1.5人と母数の謎を詩にしたためてみたよ」

(-_-)「デレ。母数は中学でも習うと思うんだけど…」

ζ(゚ー゚*ζ「…えへー」

(-_-)「誤魔化すなよ。ほら、数学と物理の教科書とノート出して。
    今日も授業で進んだ分まで教えてあげるから」




ζ(゚−゚*ζ「ぅー…。学校で教えてよぅ。
      ヒッキーの部屋でまで勉強したくないよぅ」

(-_-)「週3日は学校で教えてるだろう?」

ζ(゚ー゚*ζ「週5日で!」

僕はデレの言葉を聞かなかったことにして、
受け取ったノートをパラパラとめくる。

(-_-)「ふぅん、一日で随分進んだね。
    あ、ここ間違ってるよ。
    こう言う時は両辺に同じ数をかけるって前にも…」

ζ(゚、゚*ζ「………」

(;-_-)「……なんだよ」

ζ(゚ー゚*ζ「問題を出してあげます」

(-_-)「今は数学の時間…」

ζ(゚ー゚*ζ「あるところに父親と息子の少年がいましたー」

(-_-)「いや、だから数学…」




ζ(゚ー゚*ζ「親子は上野動物園へ向かう途中に事故にあってしまいました。
      そこで悲しくも父親は死んで、少年は意識不明の重態です。
      ついでにパンダも死にました」

(-_-)「デーレー…」

ζ(゚ー゚*ζ「急いで少年は病院に運ばれ手術されることになりました。
      手術するのはベテランのお医者様です。
      手術服を着て手術室に現れたお医者様は、
      少年を見るなり真っ青な顔になり、言いました。
      『手術は無理です。これは私の息子です』」

(-_-)「それが?」

ζ(゚−゚*ζ「え!? それがって!? 不思議じゃないの!?」

(-_-)「なにが?」

ζ(゚、゚*ζ「…デレ、帰る」

(-_-)「あっ。ちょっと!デレ!!」




デレは僕が持っていた自分のノートと教科書をひったくると
逃げるように僕の部屋から出て行った。

僕の周りには僕の身体ごと吸い尽くされるような静寂と、
懐かしいような甘い匂いが残った。


('A`)「可愛いよな…」

(-_-)「え…?何?君、誰…?」

先ほどまでデレがはしゃいでいた黒板の前に、
今度は陰気な顔をした若い男が座っていた。

('A`)「幼馴染属性とかそれ何てerg?
    何?何で俺には内気でツインテールの許婚とか
    ちょっと生意気で笑顔が可愛い俺のことが大好きな義理の妹とか
    色白で黒髪で細身の俺の事が大好きな巫女とか
    眼鏡で巨乳で天然で俺のこと大好きなクラスメイトとかいないの?
    馬鹿なの?ねぇ神様は馬鹿なの?俺の事嫌いなの?」

(;-_-)「なんだよ…知らないよそんなこと…
     それにこれは夢だろう?
     人の夢を羨んでも仕方ないじゃないか…」




('A`)「…これがただの夢だと思うなよ?」

(-_-)「え?」

('A`)「もしもこれがただの夢だったら、
    彼女の隣に座ってるのは俺に決まってる」

(;-_-)「えっと…?」

('A`)「忠告だけしといてやる。
    この夢はいつ終わるかもわからん。
    後悔はするなよ」

(-_-)「は? そんなの当たり前じゃないか…」

('A`)「…ん。そうだな。おやすみ」



そうして夢は閉じた。
万年床の上でゆるゆると体を起こすと
喉の奥に甘い匂いがした。
ああ、しまったな…。
これは胃液が絡み付いている匂いだ。




(-_-)「やっぱり、日光に当たらないと駄目かもしれない…」

試しに声を出してみると、
ぴりぴりと喉に痛みが張り付いた。

こんな生活をしていると
本当に声の出し方を忘れてしまうので
出来るだけ独り言をするように心がけているのだが、
今日は暖めた牛乳でもちびちび飲みながら
黙っているのがいいのかもしれない。

そんな事を思いながら立ち上がり、
うがいでもしようと思った時に、
けたたましい音で部屋に備え付けてある電話が鳴った。

(;-_-)「わぅ…」

引きこもりなんぞしていると、
本当に些細な刺激に弱くなる。

特に電話とトイレを流す音では
何度死にそうになったかわからない。




(;-_-)「今日は黙ってようと思ったのに…」

コードレスの受話器を耳に当てる。
僕に電話をかけてくる相手は一人しかいない。

(-_-)「もしもし…。うん。元気だよ。母さん」

受話器越しに、弱弱しい母親の声が聞こえた。

(-_-)「うん…うん…。わかった。大丈夫。
    仕送り…いくらでも大丈夫だから…。
    うん。僕お金使う事あんまりないから…大丈夫。
    わかった。はいはい。食べてる。食べてるから…。
    うん。ちゃんとしてるよ。いや、うん。外には出てないけど…。
    わかった。じゃあ切るね。ちょっと喉痛くて…。
    いや違う!風邪じゃないから大丈夫。心配しないで。
    うん…うん。じゃあね…」




母親が電話を切るのを待ってから、僕は受話器を置く。
そして訪れる静寂と張り付いた喉の痛み。
胃液のほのかな甘い匂い。

(-_-)「疲れた…」

早く、牛乳を暖めなければ…。



('A`)「よう。また会ったな」

横並びの三つの扉の前に、以前にも遭遇した陰気な男が立っていた。
喉の痛みは消えている。体もどことなく軽い。
ああ、ここは夢の中なのだ。

(-_-)「それ、僕の部屋のドアだ…」

('A`)「ご名答。さぁ、どのドアを開ける?」

(-_-)「んー…」

僕は少し考えた後、右のドアを選んだ。
ノブに手をかけると、男に声をかけられる。

('A`)「ちょっと待てよ。そのドアでいいのか?今ならまだチャンスをやるぞ?」

(-_-)「チャンス?」




('A`)「ああ、たとえばこの真ん中の扉」

そう言いながら男は真ん中の扉を開ける。
その扉の中には、無数のCDケースが、
カチャカチャと音を立てて羽ばたいていた。

(;-_-)「うわ…」

('A`)「この通り、ここの扉は外れだ。お前が望んでいる扉じゃない」

男は扉を閉めて僕の方に向き直ると、言った。

('A`)「それでは、ここでチャンスだ。
    今ならお前が選んだ右の扉を、
    残った左の扉を取り替える事が出来る。
    さぁ、どうする?」

(-_-)「なら、左の扉に取り替えるよ」

('A`)「即決だな…いいのか?」

(-_-)「うん。君はモンティだね?」

('A`)「は?」

(-_-)「なんだ。知らないでやってたのか。じゃあ、僕は行くよ」




僕は左のドアを開ける。
するとそこは見慣れた、だけども懐かしい実家の自室で、
その奥では、いくらかが数字で埋まった黒板に
デレが楽しそうに詩を書いている。

『安らぎの海の丁度真ん中に
 狭い狭い君の部屋がある
 いつだって消えてもいい気持ちで
 柔らかな数字を見つめている
 緑色の窓を開くと
 たくさんの白い蝶々が飛び立った
 数えて欲しそうに
 しばらくは蛍光灯の周りを羽ばたいていたが
 やがて黙って冬の形になると
 僕らに、はらはらと降り注いだ
 手のひらに解けた蝶々のために
 押入れから毛布を出して、二人して包まった
 窓の向こうでは
 夏がもう、足踏みをして待っていた』

(-_-)「何してるの…?」

ζ(゚ー゚*ζ「へへー」




デレはくるりとこちらに向き直り笑った。
セーラー服の袖口がうっすらとチョークの粉で汚れている。

(-_-)「ああ、もう…」

ζ(゚ー゚*ζ「デレは吟遊詩人になります」

(-_-)「ああ、そう…」

ζ(゚−゚*ζ「ついでに宇宙にもなります」

(-_-)「頑張って…」

ζ(゚、゚*ζ「黄金色の麦の穂にもなります!」

(-_-)「美味しく実るといいね…」

ζ(゚、゚*ζ「………ヒッキーの馬鹿」

(-_-)「ごめん…」




ζ(゚ー゚*ζ「ふふ…」

(-_-)「ん?」

ζ(゚ー゚*ζ「楽しいね?」

(-_-)「え?」

ζ(゚ー゚*ζ「こんなに楽しいから、学校に来てくれないの?」

瞬間。
デレが、どろりと融けた。

(;-_-)「う、うわぁあああああああ!!!」

フローリングの床には溶けたデレの残骸がべたりと張り付いている。
セーラー服の襟口から零れ落ちる毛髪の欠片。
袖からはみ出した白いデレの残骸。
スカートの綺麗なヒダがデレに塗れて立体感を失っている。
そして女の子特有の、あの甘い匂いが立ち込める。

(;-_-)「デレ! デレ! デレ! デレ!」




僕は叫ぶ。
デレをどうにかしなくては。
元のデレに戻してやらなくては。
そう考えながら、叫ぶ。

ならばしかし、
どうして、デレに手を伸ばさない?

どうして、デレに触れてやらない?

だって、それは
それは…
こんなにもドロドロに壊れたデレが、
これ以上に崩れてしまったらどうする?

(;-_-)「デレ…デレぇ…」

ほら、そう思っている間にもデレはドロドロと広がっていく。

僕の部屋に、デレが広がっていく。




('A`)「可哀想に」

背後からの声に振り返る。
男が酷く気だるげな様子で立っていた。

ああ、そうか。
僕は納得する。

こ の 男 が 元 凶 だ。

(;-_-)「お前ぇ!!デレを!デレを戻せ!デレを!お前がやったんだろぉ!お前が!」

('A`)「俺の所為にするなよ」

いかにも面倒くさそうに男は吐き捨てる。

('A`)「それよりも彼女を助けてやらなくていいのか?」

(-_-)「ぅぅううるさい!お前がやったんだろ!お前がデレをぉ!デレを!」

('A`)「ああ、それとも」

男は、続ける。
やめろ!
言うな。
言うな。言うな。言うな!

('A`)「そ ん な 汚 い も の に 触 り た く な い か ?」







目が覚めた時には、汗でじっとりと寝巻きが肌に張り付いているのにも関わらず、
僕の体は小刻みにカタカタと震えていた。

(;-_-)「はぁ…はぁ…はぁ…デレ…デレ…」

僕は布団を跳ね除け電話を手に取った。
デレの無事を確認しなくては。

(;-_-)「ぅ…」

何を。
しているんだ僕は。

(;-_-)「夢じゃないか…」

体中の力が抜ける。
僕はがくりと膝をついた。

(;-_-)「はは、は、ははははは…」

(;-_-)「何、してるんだ僕は…」




デレは、溶けたりなんかしない。
デレは、吟遊詩人になんかならない。
デレは、宇宙になんかならない。
デレは、黄金色に輝く麦の穂になんかならない。

デレは、汚くなんか、ない。

デレは、僕の部屋で楽しそうに、詩なんか、書かない。

(;-_-)「夢、だよ…」

どうして、デレの夢ばかり見るんだろう。
僕と彼女はもう何の関係もないと言うのに。

そしてあの男。
僕にモンティ・ホール問題を吹っかけたあの男。

(;-_-)「なんなんだよ…いったい…」

まず初めに学校から逃げた。
次に親から逃げた。
そうして、数字だけを恋人に生きて行こうと思ったのに。

(;-_-)「なんで、放っておいてくれないんだよ…」




僕は布団に戻り、枕もとのパソコンの電源を入れる。
軽い起動音。野暮ったいOSのロゴ。
遅い…。
遅い遅い遅い遅い遅い!遅すぎる!
どうしてこんなに起動が遅いんだ!

(-_-)「早く早く早く早く早く…」

早く僕の恋人に会わせてくれ!
早く僕の恋人と躍らせてくれ!

僕にはそれしかないんだ!
僕は数字からだけは逃げたくはないんだ!




('A`)「また、会ったな…」

('A`)「人は、睡眠からは逃げられない…」

(-_-)「………」




そこには僕の部屋の扉が、10を数えるだけ並んでいた。

('A`)「ほら、選べよ」

(-_-)「選ばないと言う選択肢は?」

('A`)「幼馴染に会いたくないのか?」

(-_-)「………」

僕は無造作に目の前にあった扉に手をかける。

('A`)「チャンスをやろう」

ドクオが指を鳴らすと、
僕が選んだ扉とその右隣の扉以外の扉が一斉に開いた。

開いた扉の中ではミカンの皮がふよふよと漂っていたり、
色とりどりの携帯電話が床中を這いずり回っていたり、
片一方の黄色いスリッパがぱたぱたと走っていたりしたが、
僕は驚かなかった。

('A`)「さぁ、変えるか?」

僕は答えない。
黙って、選んだ扉の右隣の部屋を開ける。

(;'A`)「おい!!無視かよ!!」



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