('A`)ドクオが夢を紡ぐようです 7話




誰かと誰かの夢を、渡り歩いてきた。
不躾に、誰かと誰かの心の中を土足で踏み荒らしてきた。

友人の大切な思い出も、汚した。
強く生きている人の弱点をねちねちと突いた。
見知らぬ男女の情愛を、無遠慮に暴いた。
好きだと思った人の想いも、最悪な形で辱めた。
兄弟も……あれは別にいいや。
愛するさーたんの夢と恋心……きっと、俺なんかに触れられたくなかっただろう。

ああ、だけどブーン。
お前だけが、この世にいない。
大切な友達なのに。

俺、お前に謝りたかった。
俺、お前に謝らなきゃいけないのに……。

お前だけが、いないんだ。
どうすればいい?
ブーン。




―――待って…待って下さい!

「とにかく、今月中に家賃を振り込んでくれないと、強制退去となりますからね?」

―――だってそれは!店が営業停止くらって給料がいつもより入らなかったからで……。
     事情なら事前に説明も……。

「契約書にも、その旨は明記されているはずです。
 保証人不要の物件なのですからと、納得されてご契約された筈ですが……」

―――とにかく来月の給料日まで待ってもらわないと……。

「ですから…、契約内容に変わりは……」


畜生。




―――無理は承知です。でもお願いします!

「いや、前借りとか言われてもねぇ……。そもそも、今月まともに営業出来てないんだから店も厳しくて……」

―――家賃が払えないと今住んでるとこ追い出されるんです!どうしても今必要で!

「んー。ギコちゃんうちの店長いし、申し訳ないんだけどさぁ。
そんな聞き分けない事言われるとこっちとしても対処に困るって言うか……」

―――お願いしま……

「そんなに金が必要なら、友達にでも借りてよ。
働いた分なら給料日にちゃんと振り込んでるわけだし……」


畜生。




―――いてぇ……。
    腹……。
    もう、仕事の時間なのに……。
    その前に家賃……。
    どうにか……。
    いてぇ……。

(;^ω^)「ギコさん!?ギコさん!?大丈夫ですかお!?」

―――ブーン…?
    なんでここに……。

(;^ω^)「時間になっても仕事に来ないから心配で迎えに来たんですお!
      どこか痛いんですかお!?今救急車呼びますお!!」

―――やめっ!!救急車は駄目だ……。
     俺、保険証ねぇんだよ。

(;^ω^)「そんな事言ってる場合じゃないですお!!
      このまま死んだらどうするんですかお!!」
   
―――うるせ……。
    ねぇんだよ……。
    金が……。
    んな事言うなら……。
    てめーの保険証、貸してくれよ……。
    いってぇ……。




(;^ω^)「保険証なら貸しますから!
      病院行って下さいお!!」


やめろ。
貸すな。
いらねぇから。
俺、
それいらねぇから!!



「200万?仕事は何を?なるほどねぇ……。


 い い で す よ ? 」



やめろぉおおおお!!




―――お前、内藤ホライゾンの保険証を使って金を借りたな?

(;,゚Д゚)「何の事かわからん……」

―――調べはついてる。

(;,゚Д゚)「だったら何だ?俺を殺しにでも来たのか?」

―――いや…。

(;,゚Д゚)「っははは!何だよお前!!さっさと帰れ!!
    俺は内藤なんて知らねーよ!!」


畜生。




―――ええ。お嬢様。明後日には帰れるかと。

「ん。内藤のことに関して調べはついたのか?」

―――はい。やはり心臓発作でした。
     かなりハードに仕事をされていたようですので、その反動かと。

「そうか……。辛かったら、うちに頼れば良かったものを……。あの馬鹿が」

―――ええ。ツン様は?

「うん。相変わらずだ。気丈に振舞ってるよ」


畜生。




―――内藤ホライゾンについてお話をお伺いしたいのですが。

( ・∀・)「ああ彼?僕の友人ですよ?あんな事になってしまって本当に残念です……」

―――友人?

( ・∀・)「ええ。心を許した友人ですが、それが何か?」

―――いえ。何も……。

( ・∀・)「あなたは彼の知り合いですか?宜しければ、ホライゾンのことを聞かせて頂けませんか?」


ふざけるな。

インテリヤクザめ。
お前らが彼を殺した事はわかってるんだ。
組の息のかかった病院に死体を運んで偽装カルテを作った事も、
そうやって、借金の肩に保険金を受け取った事も、
全て、調べはついてるんだ。

ふざけるな。

友人面をするな。
親しげに名を呼ぶな。

お前に彼の。
お前に彼の何がわかる。




(;'A`)「あれは、モララーさん……?」

頭の中に無秩序に流れ込んだ夢の欠片には、俺の知っている顔が紛れ込んでいた。
それは、どうしようもなく横柄であるのにどこか弱さを抱えた、いつか食べ放題ではない焼肉を食べさせてくれた彼だった。
いや、それよりもブーンは殺された?自殺じゃなかったのか?
最後に俺がブーンの夢を紡いだ時、俺にはブーンが気を失う直前に見ていた天井から吊り下げられたロープの輪が見えていた。
だから、自殺だと思った。
だから、馬鹿だと思ったのに。

(;'A`)「どう言う事だよ……」

(,,゚Д゚)「なぁ、そこのお前」

('A`)「え?」

振り向くと、そこにはたった今俺が追体験した記憶の持ち主でもあり、ブーンが死んだ直接の原因でもある奴、ギコがいた。

(,,゚Д゚)「人を探してるんだ。内藤って言うんだが、どこにいるか知らないか?」

('A`)「それは、もしかしてブーンの事か…?」

(,,゚Д゚)「ああ。さっきから、ずーっと探してるんだけが、見つからないんだ」

('A`)「探しているって、ここでか?」




ここ、は線路の上だった。
赤茶けた土の上に敷石がぼろぼろと零されて居て、更にその上に古ぼけた線路が縦横無尽に伸びている。
俺と奴は、そんな寒々しい景色の中でおおよそ3mの隙間を空けて対峙している。

(,,゚Д゚)「ああ、でも、ここが何処かもわからないんだ」

('A`)「ここはどこでもない」

(,,゚Д゚)「そうか。それなら、内藤……ブーンの事は知らないか?」

('A`)「ブーンはどこにもいねぇよ」

(,,゚Д゚)「え?」

('A`)「あいつは死んだんだ。もういねぇよ」

(,,゚Д゚)「ああ、やっぱり死んだのか」

('A`)「やっぱり…?」

(,,゚Д゚)「ああ、俺はあいつをハメたんだ。あいつを騙して借金を押し付けたんだ。
    同じ職場に居たから、あいつの懐具合なんてわかってた。頼る人間が居ない事も知っていた。
    だから、200万もの金を返せない事も知っていた。しかも、性質の悪い場所から借りたから、十中八九死ぬだろう。
    例え死ななくても、五体満足ではいられないだろう。例え五体満足でいられても、これから先まともな人生は送れないだろうと思っていた」

黒く変色した枕木に乗った奴は訥々と、まるで小説の一説のように自分の罪を語ってみせる。
無表情に、無感情に、ブーンを奈落の底に突き落とした事を説明してみせる。



(#'A`)「その、ブーンを探して、どうするつもりだったんだよ!」

(,,゚Д゚)「そんなの、決まってんだろうが。聞くまでもない。そうだろう?」

(#'A`)「あぁ?」

(,,゚Д゚)「ブーンに、礼を言うんだ」

(#'A`)「っざけんなぁ!」

瞬間、そこは薄暗い海の底だった。水底には海草が踊り、そこら中に特徴のない銀色の魚が泳ぎまわる。
奴は長い昆布に絡めとられて、身動きがとれないようだった。口から泡沫を吐き出しながら、苦しげに悶えている。
俺は奴の喉仏を食いちぎってやろうと体をくねらせる。俺は人間の形をやめて、大きな一匹の蛇になっていた。

(;,゚Д゚)「……っ!!」

(#'A`)「死ねぇ!」

思い切り叫んだが、果たしてそれが正しく発音出来ていたのかはわからない。
そんな事を考える暇もなく、ただ、奴の首目掛けて、鋭い牙踊る口を思い切り開いた。

さぁ、殺せ。
敵は、目の前にいる。

( ФωФ)「やめなさいっ!!」

カーテンを開けるように、薄暗い水中に光が差した。
俺は一瞬まぶしさに怯む。
ロマネスクの声は、確かに俺に聞こえていた。




次の瞬間。
そこは、俺の部屋の、湿気た布団の上だった。

('A`)「あ………」

目の前に飛び込んで来るのは、
平凡な、薄汚れた天井。
体中に張り付いた不快感を払拭するために、
俺は、骨ばかり浮き出た体を起こし、精一杯伸ばす。

天井を目指した指先が、俺の心臓の近くに、いくばくか戻ってきた瞬間。
俺の体の底から、不安によく似た色の震えが、湧き出るのがわかった。

(;'A`)「ぅ………」

無闇に、叫びだしたい衝動に駆られる。
夢の中の、いくつかの光景が頭の中に浮かんでは消えた。
生々しい蛇の尾が、足元を掠ってどこかへと去っていく。

あれは誰だった?


俺は何をした?




罪悪感。嫌悪感。恐怖。優越感。不快感。そして、快感。
俺の小さい感情の器に盛り付けられたそれらの匂いが、
強烈な、吐き気を誘った。

(;'A`)「………ぅぇっ!」

慌てて、口元を両手で押さえつけて、
寝汗で濡れたシャツが張り付いた背中を醜く歪ませてトイレへと向かう。

早く。
早く!

(;'A`)「…ぉえっうえぇっ!」

何とか、部屋を汚さずに済んだらしい。
便座に手をついて、ろくに食えてない飯の残骸をトイレにくれてやる。
気持ち悪さと快感の入り混じったその感覚が、波になって俺を押し流そうとしている。
喉に、ひたりと痛みが吸い付いていた。

これよりも、蛇に噛まれた方が、痛いだろうか。




( ・∀・)「やー久しぶりだねー青年。うち専属のティッシュ配りにでもなりたいのかい?それは殊勝な心がけだねー」

('A`)「あー。えっと…その…」

( ・∀・)「いいんだよいいんだよ遠慮は無用さ青年。わざわざ会社経由で俺を呼び出すなんてよっぽどの事なんだろう?どうしたの?
      金なら貸すけど、正直やめた方がいいよ?社会的に死ぬよ?結構な確率で肉体的にも死ぬよ?」

(;'A`)「いや、そうじゃなくて……」

( ・∀・)「ではでは、恋の相談かな?いいねー。初めてを貰ってくれた風俗嬢への甘い想いかー。
      うちの会社のテリトリーだったらどの嬢がどのホストに貢いでるかデータ化してエクセルでまとめてるから特別に見せてあげよう」

(;'A`)「いや、それもいいです……」

俺は限りなくグレーに見せかけている完璧ブラックな金融機関の事務所でモララーと対峙していた。
広くも狭くもない部屋で煙草の匂いのするソファに座り、楽しげな声で話す彼の襟元を見つめる。

何故だが顔は、見れなかった。

いつか自分が配っていたポケットティッシュ。そこに記載された彼の関連会社の電話番号。
その細い糸は意外にもモララーをしっかりと絡め取っているらしく、彼の名前を出すだけであっさりとこの面会が叶った。

モララーはいつか、食べ放題ではない焼肉を奢ってくれた時のように、朗々と喋る。




( ・∀・)「うーん。じゃあ何かなー。遠慮しないで用があるならさっさと言い給えよ。
修学旅行の夜に好きな人を打ち明けあってるんじゃあるまいに、出し惜しみしても仕方ないよ?」

('A`)「あの……内藤、ホライゾンの名前に、聞き覚えは……」

俺の友人の名前を出した時、モララーはあからさまに、眉をひそめるような頭の悪い対応はしなかったのだと思う。
その時俺は、相変わらずモララーの固いネクタイの結び目を見つめていたから、彼がどんな顔をしたのかは分からない。
おそらく、彼の表情は、内藤の名前を出す前と後では、ほんの少しだって変わらなかったのだろう。

だからきっと、顔を見て話していたら、わからなかった。
内藤の名前を出した瞬間、彼の顔も声も、酷くコントロールされたものになった事に。

( ・∀・)「それは、どう言う事かな?」

(;'A`)「質問を質問で返さないで……下さい」

( ・∀・)「いやいや。聞き覚えがあるかないかで言われたら当然僕は聞き覚えがないと答えるよ。だけど、どうして僕に聞き覚えのない名前を聞くのかなって」

('A`)「聞き覚え……ないんですね?」

( ・∀・)「うーん。これでも記憶力は良い方なんだけどね。仕事の事以外は」

('A`)「でもあなたは、杉浦ロマネスクさんに、内藤は友人だと、言いました……よね」

( ・∀・)「あー」

モララーは、リラックスした様子で頭をボリボリとかきながら、細く息を吐き出した。

そして俺の質問を軽やかに聞き流し、慣れた手つきで胸ポケットから携帯電話を取り出し、耳に当てる。




( ・∀・)】「ん?すぐ来て」

('A`)「モララー、さん?」

目に痛いオレンジ色の携帯をパチリと閉じて、彼は悪戯をした生徒を嗜める教師のような、そんな苦笑いを浮かべて、俺を見た。

( ・∀・)「青年。それは、仕事の話なんだよ」

('A`)「それくらい、わかってますよ」

( ・∀・)「守秘義務ってわかるかな?仕事の話は、他の人にしちゃいけないってルールがあるのさ」

乱暴な音と共に、部屋のドアが開いた。
暗い色のスーツで武装した二人の男に、俺は両側から固定され、無理やり立たされる。

(・д・1)「はいお兄ちゃん立とうねー。悪いけど、出てって貰えるかなー」

(・д・2)「モララーさんこいつどーしますか?」

モララーは声を出さずに口の動きだけで男たちの質問に答えた。
それが何を伝えたのか、俺にはわからなかった。




(・д・1)「わかりました。ほらお兄ちゃん、自分で歩け自分で」

(;'A`)「い、いたたたたた」

自分で歩けと言いながら、がっちりと肩のあたりを固定した腕は外れそうもない。
そのまま引き摺られるように、金融機関の入っていたビルから外に放り出される。

(・д・2)「二度と来んなよ童貞」

そう言いながら男は、俺の尻を蹴り上げた。
背骨に衝撃が走り、アスファルトに膝をつく。

(;'A`)「っつぅ…」

そっと膝に触れるとジーンズが少し破れていた。
ああ、ふざけんな。
破れてないジーンズ二本しかねーんだぞ……。

せめてもの抵抗に睨み付けてやろうと振り向いたが、俺のケツを蹴り上げた彼らは既にビルの中に戻った後だった。
通行人の冷たい視線を感じながら立ち上がる。しかし彼らを見回したところで目が合う事は決してない。

俺は惨めな自分を誤魔化すために、わざと派手に舌打ちをして歩き出す。




結局、ブーンの事について何もわからなかった。
ブーンと俺はそう深い付き合いではなかったが、不思議と馬が合ってどちらかの部屋で飲む事が時折あった。
そうやって二人で馬鹿やってる時のブーンは、適度に常識人で、だけどどこか抜けていて、愛嬌のあるいい奴だった。
だから許せなかった。あの可愛い彼女を振り切って東京に出て、あまつさえ全てを捨てて死にに行こうとするブーンが。
借金なんて、知らなかった。殺されたなんて、思いも寄らなかった。

どうして、俺だけ何も知らなかったんだろう。
夢を通じて、過去を暴いて、全て知った気でいたんだろう。

('A`)「……腹減った」

コンビニでおにぎりでも買って帰る事も出来たが、何故だか足はそれとは違う方向に向いていた。
近所のコンビニのおにぎり(つなマヨ)は食い飽きた。からあげくん(レッド)も同様に。
つか、絶対あそこのローソ〇の店員の間であだ名ついてるだろうよ俺。

あんな、ビニールに包まれた調味料の塊みたいな味気しかない食事じゃなくて、
もっと違うものが食いたい。

出来れば、人のいるところで。




(´<_` )「いらっしゃいませ。一名様ですね」

('A`)「うん。一名様だけど……。断定しないでよ」

(´<_` )「こちらへどうぞ」

('A`)「ありがとう」

幸いにして俺の知人は俺が入店すると速やかに現れて、店の奥、窓際の四人がけの席へとエスコートしてくれた。
変な語尾はついてない。サボってやがんなこいつ。

(´<_` )「ご注文は、『チーズハンバーグ肉増し増し』でよろしいですね」

('A`)「え。俺何も言ってな……」

席につくなり、断定系で会話を進める店員。
俺が面食らって抗議の声をあげると、急に体を折り曲げて俺の耳元で囁いた。

(´<_` )「新人がオーダー間違えて余計に作っちまったんだよ。食え」

('A`)「……タダ?」

(´<_` )「他のお客に見られるとあれだから、出る時は会計するふりぐらいしろよ」



俺は無言でコクコクと頷いた。
来てみるもんだな。友人の働くファミレス。

その優しさだか、単なる役得だかわからない扱いに、
不意に涙が零れた。

(;A;)「あぅ……」

(´<_`;)「そんなに腹が減ってたのかお前!?」

( <●><●>)「何お客様泣かせてるんですか弟者君」

(´<_`;)「ワカッテマスさん!聞いてくださいよこいつが急に腹減って泣き出して!」

(;A;)「ち、ちが…だ…弟者が…!」

腹が減って泣いたのではないことを必死に主張しようとするが、上手く声にならない。

(;<●><●>)「何してるんですか弟者君!」

(´<_`;)「俺が聞きたいですよ!!」

(;A;)「うぼぁー」

数分後。どうやら仕事を終え帰りがけだったらしいワカッテマスは何故か俺の向かいに座り、
机に突っ伏して鼻水を垂れ流しながらえぐえぐと泣いている俺の頭を遠慮がちに撫で回していた。

ちなみに弟者は逃げた。




( <●><●>)「どうしたんですか」

(;A;)「すいません……なんか、人に飯貰うの久々で……つい……」

( <●><●>)「ふむ……」

ワカッテマスは無言で、テーブルのボタンを押す。すぐに弟者が現れた。

( <●><●>)「弟者君。食後に『男らしいパフェ』追加で」

(´<_` )「かしこまりました。ドクオはそこのナプキンいくらでも使っていいから鼻水拭け」

(;A;)「うん……」

( <●><●>)「私の奢りです」

(;A;)「そんな……えっと、有難う御座います。そんで……なんで俺の向かいに座ってるんですか?」

( <●><●>)「これはこれは自己紹介もせずに申し訳ありませんでした。私はワカッテマスと申します。気にしないで下さい。ただの接待ですから」

('A`)「接待……?」

( <●><●>)「ええ。弟者君の友人が泣いていると聞きましたら黙っていられません。是非接待をせねばと思いまして」

(;'A`)「………」




俺が何も言えないでいると、ワカッテマスは不意にテーブルを指でこつこつこつ、と三回叩いた。
その動作が自分で可笑しかったのか、喉でくつくつと笑う。
正直、不気味だった。

( <●><●>)「しかし、それにしても急に向かいに座られたら戸惑われると思います。
         自己紹介の意味を込めて少し、身の上話をしてもよろしいでしょうか?」

(;'A`)「どうぞ」

引っ込んだ涙の跡が空気に触れていやに冷たい。
その冷たさが俺の頭をクリアにしていく。
目の前にいる人間が人間の形をした目玉のお化けかもしれないと思い始めてきた。

( <●><●>)「私、実は声優なんですよ」

(;'A`)「はぁ……」

だけど、クリアな頭の中とは裏腹に、気の抜けたような声しか出なかった。

( <●><●>)「おや、驚きませんね」

(;'A`)「い、いえいえいえ!驚いてます。すっごく!」

( <●><●>)「そうは見えませんが。いや、まあいいでしょう。
        幸いにして最近になってやっと、仕事がボツボツと増え始めましたが、
        当然の如く誰も知らない売れない声優ですよ」

(;'A`)「そうなんですか…」




( <●><●>)「ええ。そうなんです。不思議でしょう。こんな私がですよ?
        税金すらまともに払ってないのに人様に声を聞かせようとしてるんですよ」

(;'A`)「いや……俺も税金は払ってませんし……ああ、違う。そう言う事じゃなくて……」

そこで再びワカッテマスは喉だけでくつくつと笑う。
その顔は、どこかイタズラっ子のようだった。

( <●><●>)「でもね。楽しいんですよ」

('A`)「声優の、お仕事がですか?」

( <●><●>)「ええ。糞も金にならない。将来もない。安定もない。出会いもない。人様にも言えない。そんな因果な商売ですがね」

(;'A`)「でも、プロの声優って凄いんじゃ……。倍率がすんげぇ高いって聞きますよ?」

( <●><●>)「倍率が高いのはそれだけ、馬鹿が多いということです。馬鹿の頂点に立ったところで同じ馬鹿には違いありません」

(;'A`)「そんなこき下ろさなくても……」

( <●><●>)「ええ。そうですね。でも、こき下ろさないとやってられないんですよ」

口元をニヤリを歪めてワカッテマスは俺を見る。
この人……笑い方がいちいち不気味だ。




(;'A`)「はぁ」

( <●><●>)「そんな待遇最悪の仕事でも、死ぬ気でしがみ付かずにはいられないほど、楽しいんですからね」

('A`)「仕事が楽しいのは、羨ましいですね」

( <●><●>)「ええ。羨んで下さい。私はね。それを最近、とある夢を見て再確認したのです」

(;'A`)「はぁ……夢、ですか……」

いやな汗が一筋、額を伝う気がする。
目の前の目玉お化けとは、夢を共有した仲ではあるが、きっと彼はただの夢だと思っているだろうし、それが正常だ。
だから、面と向かってその話をされると、正直とてもやり辛い。

( <●><●>)「そんなわけで、今日の午前1:24分からの『女子院生のラマダン』を観る権利をあなたに差し上げましょう」

(;'A`)「ちょ!ワカッテマスさん『女子ラマ』に出てるんですか!?何役ですか!?
    うわ、俺男の声優まではチェックしてなかった……」

( <●><●>)「ふふふ。それは観てからのお楽しみとしましょう」

(´<_` )「お待たせしました。肉とかです」

(;'A`)「サボんな仕事しろよ」

(´<_` )「その台詞は金を払ってから仰って下さい」

( <●><●>)「まぁまぁ」




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