彼が欲していたのは新たな敵の出没。
言うなれば、甘美なる食卓にもう一品の追加を願っていたのである。

そして、その時与えられた感情は歓喜とは程遠く、むしろ失望に近いものだった。


( ^ω^)「…………」

( <●><●>)「んだ、てめぇかよ、いや任務的には喜ぶべきだろうけどよ」


予想通り、であるからつまらない。

ツン=デレイド=クヴァニルの体を陶器のごとく大事に抱えていた人物。
他ならぬ、ブーン=マストレイその人。

マスとしては、ここで更に一戦強敵と交えておきたいところである。
しかし、そこに来たのはつい先日、たったの一撃で昏睡させた男。
おまけに、任務の最終目的ともなる相手であり、久々の大仕事の終焉は明らか。
退屈ではあるが、仕事を第一に為すべきだとも理解している。
その生真面目さはこの世界で大成した理由でもあった。




( <●><●>)「生意気に睨みつけちゃって〜、なになに、俺とやろうっての?」

( ^ω^)「…………」

( <●><●>)「だんまり決め込むなよ、寂しいだろ?
       それともびびってる? それとも俺に断末魔を上げさせてほしい?
       それともそれとも、怒りのあまり声も出せない? 超サ●ヤ人にでも変身する?」

挑発に対する返事は、無かった。

それどころか、ブーンが行う挙動が一切ない。
唯真っ直ぐにマスを見つめ、その瞳は感情が籠らず冷たい。
何らかの策略を張り巡らせているのか、それとも―――


( <●><●>)「―――ッ!!」

マスがブーンの真意を測り損ねていると、期を見計らったかのような殺意。
その殺意は形になって表れ、実体を伴い―――既にマスの間近にまで迫っていた。




視覚に捉えた訳ではない。
今まで生きてきた経験が、勘が、本能が、そこに『危険』があるのだと警報を鳴らしている。

上半身を後ろに反らす。
直後、寸前まで顔のあった地点を通り過ぎる危険―――人の右腕。
屈強な拳から齎される右ストレートが、マスの頭部を狙っていたのだ。

その主の顔も見ぬまま、それを敵だと判断し、伸びきった腕を折ろうと瞬時に考える。
しかし、思考を奪い取ったのは、またしても警報である。

今度は足元、体勢は著しく悪い。
崩れた姿勢からそれを避ける為に導き出された方法として、マスは思い切り跳ぶ。
丁度、バク転の形で回避し、その最中に繰り出されていた足払いを見た。
当たれば暫くの間、歩行すら困難になっていたかもしれない。そんな危惧すら覚えさせられる一撃。

敵は二人いた。 
右ストレートを放ったのも、足払いを放ったのも、どちらも一見するだけで只者ではないと分かる。

そう、だからこそ、マスは、ようやく歓喜した。





(´<_` )「ふむ、流石はマス=ワカッテといったところか」

( ´_ゝ`)「我々兄弟の不意打ちを避けたのは……お前で何人目だろうか」

(´<_` )「実際結構いるけどな、アニムルがタイミング間違うせいで」

( ´_ゝ`)「失礼な、あれは油断を突こうという巧妙な……!」


ユストピー兄弟。
事実上、アーラシファミリーの参加であるマスには敵対は不可能だった。

しかし、マスはこの二人と手を合わせてみたいと強く願っていた。
そして今、アーラシファミリーでなくなった二人。
更に、与えられた任務を邪魔しようとしている事実。

これらの条件を踏まえ、マスはすぐさまこの二人を敵であると判断した。


(*<●><●>)「いやっふぉぉおおおおおおおおお!!」

あるいは、それよりも早く行動を始めていたかもしれない。
手に持ったククリは、マスの歓喜に呼応するかのように鈍く光った。






(´<_` )「アニムル」

( ´_ゝ`)「分かってる」

兄弟は二手に分かれてマスを取り囲む陣形を作る。
マスから向って右手にアニムル、左手にはオトリスが構える形。
彼らは肉弾戦闘を行う際、必ずこの形をとり、無敗の戦績を残していた。


( ´_ゝ`)「死ねやオラァッ!!」

(´<_` )「そう言って死んでくれるやつはいないと思うぞ」


オトリスは足技を中心に、相手の体勢を崩す事を得意とする。
その崩れかけた所に、乱暴に繰り出されるアニムルの拳。それが彼らの必勝パターンである。

今現在も、その方法に則り、オトリスが鋭い蹴りを放つ。
アニムルは……それが当たるまで怒号が如く応援だけをしている。

結果、マスは一人を相手にするだけでよく、また、凶器を所持する分、圧倒的優位だった。




( <●><●>)(作戦か? それとも『あんたばかぁ?』ってやつ?)


その理不尽な行動に、マスは混乱していた。
アニムルの言動から、唯の馬鹿かもしれないというのは十分納得がいく。
だがしかし、アーラシファミリーを実力だけでのし上がった二人が、そこまでの無能ではないという考えもある。

事実、オトリスの攻撃もややおかしい。
ククリを警戒しているにしても、まるで当てる気がないのではないかという蹴りが見られる。

隙も多いが、深く狙ってこない為、反撃にも移れない。
ただ時間と体力が浪費していくのみで、両者共に無傷の状態が暫く続く。
未だに均衡は崩れない。 空を過ぎる蹴りと、その軌道をなぞるかのようにククリが舞う光景が繰り返される。

( <●><●>)(……ん?)

そして、ようやくマスが察知した異変。

ちらと見た視界の端には、ツンの体を支えていたブーンの姿が無かった。




と同時、今まで感じなかった小さな違和感がマスの背中に突き刺さる。
オトリスは休む間もなく蹴りを放っているが、それすら後ろの何かを隠す為に思える。

( <●><●>)「やるなぁ……お前」

(´<_` )「マス=ワカッテに褒めてもらえるとはな、一生の誇りになりそうだ」

( <●><●>)「今すぐ終わる一生だけどな」

(´<_` )「これでも俺の生命線は長いんだぞ?」

声を掛け、一瞬の緩みを作り出す。

すると見た。
オトリスの視線が動き、マスの後ろの何かを確認しているのを。

口元が緩む。
それを封じ込めるように体全体に力をこめ、横薙ぎの軌道を放った。
当然、その大振りの一撃がオトリスの身に触れることはない。




しかし、マスはそのまま回転した。
描かれた軌道は180度を超え、そのまま一周し、540度になるまで勢いが収まることはない。
その最中、マスは確かな手応えを感じた。

そして、ククリは赤く彩られる。
ユストピー兄弟の顔は、相反して青ざめた。

水の滴る音が背後から聞こえた。
確認するまでもない。 その液体は鮮やかな赤を備えていることだろう。
その惨劇を愉しむのもいいが、ソレよりも兄弟の絶望に満ちた顔が、マスには心地よかった。

ユストピー兄弟の瞳には、ソレがずっと映し出されている。
とある男が提案した作戦は、マスが兄弟に気を取られている内に男が襲いかかるという、陳腐なものだった。

そして今、とある男――ブーン=マストレイの首筋には、紅の一線が刻まれた。

一線は広がり、胸元すら紅く染め変え、遂には全身に色鮮やかな血化粧が施された。




(;´_ゝ`)「……っ!」

(´<_`;)「……っ!」

絶句、あるいは感嘆。
作戦の失敗を嘆くよりも、マスの反応の素早さに敬意を表す思い。
アニムルが直接手を下すことは無かったとはいえ、ユストピー兄弟の二人を相手にし、
更なる不意打ちにまで完璧に対処したことに、不覚にも感動を覚えざるを得なかった。


( <●><●>)「……雑魚が群がって、精一杯頑張ればどうにかなると思ったの?
       馬鹿なの? 死ぬの? いや死ねば? ていうか死ねよ? つか殺すけど?」

ユストピー兄弟は立ち竦む。
生ける伝説、マス=ワカッテというものを舐めていたのかもしれない。

ククリがマスの動きに合わせて揺らめく。
恐怖がその映像を塗り替える。 ククリが、その持ち主の姿が、より残酷なものに映し出される。

まるで、それは鎌を携えた死神の様に。




しかし、だ。

( ´_ゝ`)「ビビってるかい、オトリス」

(´<_` )「まさか、さ、アニムル」

それでもユストピー兄弟の瞳から戦意が抜けることはない。
むしろ、より熱く、恐怖を吹き飛ばしていく


( ´_ゝ`)「そうさ、俺達はユストピー兄弟」

(´<_` )「二人揃えば出来ない事はない」

( ´_ゝ`)「流石だろ? 俺ら」

(´<_` )「流石だろ? 俺ら」


( <●><●>)「はっ、抜かせよホモ兄弟」


この街に蔓延る最悪達は、互いの存在を否定すべく戦うことを決意した。




(´・_ゝ・`)「―――分かりました、ではその様に」

/ ,' 3「頼んだぞ、万が一に備え、そこの二人を連れていくと良い」

アラマキがデミタスにそう告げると、部屋の入口に構える二人が恭しく礼をした。
身の丈が2mを超えた二人が縮こまる様子は滑稽でもあり、アラマキの尊厳を誇示してもいた。


(´・_ゝ・`)(…………)

今回の仕事は、ユストピー兄弟に影響を与えることはない。
むしろ間接的に、彼らにとって得になるかもしれなかった。

だが、その仕事の内容自体に疑問がある。
更には自身がこなせる範囲を超えているのではないかという不安がある。

表情には出さない程度に、心中で弱音を連ねていた。




/ ,' 3「どうした、不安が残るか?」

(´・_ゝ・`)「……いえ、そんなことは」

しかしあっさりとアラマキに見透かされる。
妙な気恥かしさを感じたのは、デミタスはポーカーフェイスが自慢だったからだ。

/ ,' 3「確かにその気持ちは分からないでもない……が、問題はない」

(´・_ゝ・`)「というと?」

/ ,' 3「マス=ワカッテが敗北するなどということは、有り得ないからだ」

(´・_ゝ・`)「有り得ない……ですか」

果たして、そうなのだろうかとデミタスは考える。

マスの強さや異常さは、身をもって知っている。
それを踏まえても、何故だか心のどこかでマスが負ける可能性を考えている。

ひょっとしたら願っているのかもしれない。
マス=ワカッテの勝利が絶対ではないように、
アーラシファミリーから抜け出せないというのが絶対ではないのだと、重ねて見てしまっているのかもしれなかった。




/ ,' 3「もしも、だ」

(´・_ゝ・`)「はい」


/ ,' 3「もしもマスが負けるなどということがあるのならば。
    その相手はきっと、人間ではなく―――」


次の言葉を、アラマキはすんなりと続けることが出来なかった。
口に出すのを戸惑っているのか、デミタスに背を向け、窓際に佇む。

頭の中では、その言葉が馬鹿馬鹿しいものだと分かっている。
しかし、恐らく例え得るなら、最も適した表現であるには違いないのだ。

だからこそ、一呼吸置いてから、ゆっくりと言葉を紡いだ。




―――時が、止まる。

今度は本気で戦いに挑もうとするアニムル。
先以上の力を発揮しようと意気込んでいたオトリス。
不利な状況に物怖じもせず、殺戮を楽しもうとしていたマス。

全員の挙動が、一斉に無くなった。

空気さえ凍りつき、静寂が続いた。

均衡を破ったのは、金属音。
マスの手から落ちたククリは、けたたましい音を鳴らしながら、コンクリートに体を打ちつける。
その響きを鐘に見立てるように、時が動き出す。

まず初めに動いたのはマスだった。
束縛から抜けだした彼が一番に取った行動は、膝をつくこと。

それは、最強の殺し屋を名乗るには、あまりにも無様な姿だった。




そして、アニムルとオトリスが動き出す。
彼等は互いを見合わせ、夢でも見ているのだろうと頬を抓った。
予想通りの痛みが訪れたが、それでもこれが現実だと理解するには難しい。

(;´_ゝ`)「……どういうことだ?」

(´<_`;)「分からん、分からんが……夢でも幻でもないのは確かだ」

目の前の光景に、未だ納得のいく答えが見つからない。
無理矢理にでも答えをつけなくてはならないなら、見たままを言うしかないのだ。

血を垂れ流すマス=ワカッテ。

腹部に突き刺さったナイフ。

恨めしそうに、不可解だと言わんばかりの瞳を携えている。

視線の先にいる男は悠然とマスを見下ろしている。
その存在はあまりに不自然にも関わらず、堂々とした雰囲気を放っていて―――

人間ではないという錯覚が生まれた。





首を掻き切られ死んだはずの男。

平然とマスの腹部にナイフを突き刺し、その場に佇む様子を見て―――

奇しくも、その場にいる人間は、アラマキと同じ言葉を呟いたのだ。





『化け物』、と。





男―――ブーン=マストレイは、その言葉を聞いてにっこりと微笑んだ。












  第十三話「人外の者達は多種多様な笑みを浮かべる」














(;<●><●>)「んだよ、おいっ……これなんだよ……っざけんなよっ……!!」

マスが認められないのはブーンが生きていた事ではない。
自身が怪我を負い、血を垂れ流しているのが信じられないのだ。

人生の半数を殺し屋として生き、暫くを最強として生きている。
その血を失うのは、彼にとってプライドを破壊されるのも道義だった。


(;<●><●>)「血だと、俺が? うぜぇ、畜生、なんだこれいてぇじゃねぇか。
       ていうか何でお前が生きてんだよ、くそ……絶対ぶっ殺してやる……!!」

言葉とは裏腹に、ダメージは相当なものだと直感で分かる。
ここまでの傷を負った覚えはないが、致命傷に近い所までは来ている。
ユストピー兄弟、そして得体の知れない不死身の男を相手に、立ち回る余裕はない。

(;<●><●>)「次会った時は……かっ、捨て台詞なんて情けねぇ……」

壁に手を付けながら、やっとの思いで歩きだす。
マスの歩く道には血の道筋が描かれ、その歪な線が消えかけている命を表しているかのようだった。




( ´_ゝ`)「……いいのか、止めを刺さなくて」

( ^ω^)「放っとけば勝手に死ぬお、僕らが直接手を下す必要はないお」

(´<_` )「いや待て、その前に何故生きている?
       俺達は確かにお前の首がかっ切られて血が噴き出す所を見たぞ」

( ^ω^)「あー、なんていうかまぁ、僕は不死身だから」

不死身であるというのを前提に聞いてほしかったのだが、案の定理解してもらえる様子はなかった。
疑問の表情を浮かべている兄弟に対し、とりあえず説明は続ける。


( ^ω^)「僕の体は口付けを受けてから『完全に傷が治るまで回復し続ける』。
       だから僕は、『口の中にカミソリを入れておいた』。
   
       治りきるのよりも早く新たな傷が発生すれば、回復は続き、半永久的に体の再生は続くんだお。
       欠点としてはとんでもなく痛いってことなんだけど……うまくいったから良しということで」
   
説明を終えても尚、理解不能といった反応が繰り返される。
当然だとは思うので、後で説明を付け加えるとその場を収めた。





何よりも優先したいのはツン=デレイド=クヴァニルだった。
事情は知らないが、どうやらマスと一対一で戦っていたらしい。
体中の傷跡は、激戦の様子と、彼女の敗北を物語っていた。

( ^ω^)「ツン……」

ξ )ξ「…………」

当然返事はない。
命に別状は無さそうだが、血の量から見ても一刻も早く病院に連れ込んだ方がいいだろう。

もしも誰かがこの惨状の責任を負わなければならないとしたら。
それは間違いなく自分なのだ。
元々、マスはマフィアの刺客であり、ツンが関わる必要性はない。
何か因縁めいたものが二人にあったようではあったが、それもやはり自分がいなければ意味をなさなかっただろう。

そう考えたブーンは、眠り続けるツンに対して謝罪した。

彼女の手を、強く、握りながら。





おぼつかない足取り、霞んでいく視界。
呼吸は乱れ、血液を流し過ぎたせいか、痛みが先より和らいでいる。
鼻先を掠めるかのような死の気配を感じる頃。

ようやく辿り着いたのはアーラシファミリーの本拠地がある区画。
ここまで来たのなら、もう一踏ん張りといった所だ。

街の裏通りであるこの辺りは、滅多に人の通らない寂れた場所。
申し訳程度にいくつかの酒場があるだけで、後はホームレスが寝転がっているか、マフィアの通り道になるか。
つまらない場所だとマスは思い続けていたが、今だけは感謝したかった。

ここまで誰にも会わなかったのは好都合だった。
見つかったら叫ばれるか、医者を呼ばれるか、何にせよ厄介な目にあうには違いない。

マスに残されている選択肢は、アラマキの元へと戻り、手当を受けることだけだった。




もう二、三の角を曲がれば着くという時。
背後で、砂利を踏みしめる音が鳴る。

一人ではない。 少なくとも三人以上。
ユストピー兄弟等が追って来たのかと思い、振り返ると、そこには思いがけない顔があった。

(;<●><●>)「……この街は訳がわかんねぇよ」

(´・_ゝ・`)「どうしてです?」

(;<●><●>)「殺したと思った奴が生きてるんだ……どうだ、笑えるだろ?」

(´・_ゝ・`)「そうですね、実にユニークな話です」

名前は分からない。
が、アラマキの部屋で殺したはずの男だ。

それが、今生きて、自分の目の前で話をしている。
しかし、度重ねる異常も命よりは軽いのか、大した想いは浮かばなかった。

むしろ気になるのは、何故このような場所にいるのかということ。
アラマキの側近二人も付いてきている。
どこか酒でもひっかけに、という雰囲気でもなかった。





(;<●><●>)「まぁいい……おい、ちょっち死にそうなんだ、助けろ」

(´・_ゝ・`)「見れば分かりますよ、死にそうだって」

(;<●><●>)「……ふざけてるのか? 俺が誰だか分かってそんな事を――」


(´・_ゝ・`)「―――分かってますよ、任務を失敗し、瀕死で逃げ帰って来た無様な男……でしょう?」

(;<●><●>)「……あ?」


その時、デミタスの瞳が、長く見慣れてきたものだということに気付いた。
人を殺そうがどうとも思わない、冷徹で残酷な瞳。
言うなれば、自分とまったく同じような、殺人鬼のものだった。

そして、デミタスが殺気を放っているのも肌で感じる。
ピリピリと張り詰める空気。 側近の二人も同じように殺気を纏っていた。




(´・_ゝ・`)「非常に残念だ、と言わざるを得ないな。
        任務に失敗し、かつブーン=マストレイの秘密を知ってしまった……そうなれば生かしておくわけにはいかない。
        例え、お前のように使える道具であってもな」

(;<●><●>)「何の事だか分らんが……道具ってのは酷いねぇ、まぁお前だって道具なんだろうけど?」

(´・_ゝ・`)「そうさ、俺達は道具……そして使えないものから廃棄していく、当然のことだ」


側近の二人が構えたのは軽機関銃。

弾を発射させるのを今か今かと待ちわびている。

これらの重火器に対し、マスの手元には小さなナイフが一本だけ。
ククリはブーンに刺された時に落とし、回収は行っていない。
まさに絶体絶命というには相応しく、後はデミタス達が引き金を引くのを待つのみだった。

そんな状況下、不意に、マスの口元が歪む。
浮かべた表情は、笑顔であった。




( <●><●>)「ひ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」

(´・_ゝ・`)「…………」

( <●><●>)「殺すか、殺すのか? お前が? 俺を? 
       ざけんな、俺は死なねぇ、殺されても死なねぇ、死んでも生きてやる」


(´・_ゝ・`)「殺せ」


デミタスの合図と共に、軽機関銃が火を噴いた。

弾丸は雨嵐のように吐き出され、マスを貫いていく。
体は、その勢い滑稽にも踊るかのようだった。

血が霧状に散布され、辺りに火薬と生臭い臭いが立ち込める。
側近の二人に銃を撃つのを止めるよう指示したデミタスはとある異変に気が付いた。

マスは、あれだけの弾丸を撃ち込まれながら、立っていた。




( <●><●>)「ひ……ひひひ……ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ…」

(;´・_ゝ・`)「ば、ばかな……」


( <●><●>)「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」


(;´・_ゝ・`)「撃て、撃て、撃てぇええええええッッ!!」


マスは狂気に笑いながらデミタスの元へと駆け寄ってくる。
食い留めようと軽機関銃が放たれるも、動きを止める様子はない。

その姿は化け物にしか見えなかった。
むしろ不死身の体を持つ自分の方が資格を有しているというのに、違うのだ。
根本的に、マス=ワカッテというヒトは、ヒトに在らざるのだ。

デミタスは、有り得ないことと分かっていながら、死を覚悟した。




しかし、それが訪れることはなかった。


( <●><●>)「……ひ…ひひひ、ひ…………」

(;´・_ゝ・`)「くっ……」


首筋から一滴の血が、つーと流れる。
マスが切り裂くのに成功したのは、デミタスの首の皮一枚程度だった。

そのまま、どさりと崩れ落ちた体が起きあがる事は二度とない。
最強最悪の殺人鬼は、意外にもあっさりとその一生を終えた。

死体には死を認めたくないと言わんばかりの苦悶の表情が貼り付けられていた。





(´・_ゝ・`)「流石マス=ワカッテといったところか……しかし、死には逆らえん」


冷や汗をかかせられたが、これで終わりであるには変わりない。
結果的には想定通りに任務を終えたデミタスは、そうしていつものポーカフェイスに戻った。
マスの死体を汚らわしいと蹴る様子は、常人からすれば彼も化け物であるに違いなかった。


死体を処理するのを別動隊に任す為、デミタスはアラマキの屋敷へと戻ることにした。
その時、妙な視線を感じたような気もしたが、気のせいだろうと再び歩を進める。
   
やや日が傾き始め、建物が犇めく裏通りは太陽光を阻んでいる。
後に残されたマスの死体は、街に溶け込むかのように暗く、影に沈んでいった。





死ぬのか?

俺が? こんな所で? 無様にも?

……嫌だ、死にたくねぇ、ふざけるなよ、まだまだやりてぇことはあるんだよ。


殺し足りねぇんだ。

全世界の人間を殺して、最後に自分を殺す。

それが、俺の人生だろ? 


大体、死ぬっていったい何なんだよ?

真っ暗じゃねぇか、暗い、電気をつけろよ、おい……。


死にたくない、死にたくない、死にたくない……。






―――死にたくないのか?

……当然だ。


―――あれだけの人を殺したお前が、死にたくないと言うのか?

そうさ、人を殺していいのは俺だけだ。

その俺が誰かに殺されるなんてあっちゃいけねぇんだ。

俺を殺すのは、俺だけだ、俺以外の人間が命を扱うなんて許せねぇ。

……おかしいと思うか?


―――当然だ。

皮肉な返しをするじゃねぇか、ヒヒハハハ。

まぁ俺も自分がおかしいと思ってるけどな。






―――だが、面白い。

……あ?


―――人を殺せるのはお前だけ? 

―――いや、そうじゃない。

―――お前に許されるのは、人を殺すことだけなんだ。

―――お前が他者に存在を認めてもらえるのは人を殺した時だけ。

―――それ以外に存在価値はない。


……言うじゃねぇか。

もっとも、それで合ってるのかも知れねぇな。

俺から人を殺すことを抜いたら、何にも残りゃしねぇんだろうよ。






―――なら、殺せ。

殺すさ。


―――そして二度と負けるな。

二度と負けねぇ。

ブーン=マストレイも絶対に殺す。


―――なら契約しろ、私と、殺戮者として蘇ると誓え。

……誓う。

殺させろ、俺に、人を切り刻む権利を与えろ。



例え、化け物に成り果ててでも、俺は生きたい……!!






川 ゚ -゚)「―――さぁ、蘇った命で思うがままに生きるがいい」


( <●><●>)「思うがままか、なら俺がやることは決まっている」






( <●><●>)「……人を、全てを殺し尽くしてやる」





マリアンヌ=クークルゥは、その言葉を聞き終えると、優しく微笑んだ。



―――The story might continue






ブーン=マストレイは着実に化け物へと成り果てていく。
オーサムレッドフィールドとクックル=ロッキンダムだってびびってた。
マリアンヌ=クークルゥは天使のように笑い、悪魔のように語る。


お疲れ様です。
ありがとうございます。
ごめんなさい。
今日は終わりです。
それでは。
また





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