時は遡る。

ツン=デレイド=クヴァニルに返り討ちにあったギリシアは、近場のホテルに滞在していた。
病院でシールの手当てを受けさせるも大した症状ではなかったため、入院するのも面倒くさいと、医者の言う事を無視して飛び出したのだ。
従業員に誘拐犯だと間違われる問題があったりしたが、今は安らかな時を過ごしている。

そうしたいざこざを知る由もなく、シールが目を覚ましたのは丸一日空けた午後の頃だった。


(*゚ー゚)「ん……」

(,,゚Д゚)「起きたか、どうだ具合は」

(*゚ー゚)「悪くはないけど……ここはどこ?」

(,,゚Д゚)「ホテルだ、疲れているならもう少し寝ていろ」

体を起こすと、頭の上から濡れタオルがずり落ちる。
まだ冷たい。 どうやら頻繁に取り換えていたようだ。

ギリシアを見ると、無精ひげがいつもより一段と濃くなっている。
ずっとここで看病をしていたのだろう。 似合わない事をするものだ。

そんな考えを浮かべた後、シールは何故こうなったのかと、記憶を廻った。





(;*゚ー゚)「……そうだ! マッドボマーは!?」

(,,゚Д゚)「寝起きから暴れるもんじゃねぇぞ」

(;*゚ー゚)「そんなのどうだっていい! ちゃんと捕まえたのか!?」

(,,゚Д゚)「あー、そのなんだ、また逃がした、悪い」

言葉を終えると、シールの表情が一転した。
いや、その表現は正しくないのかもしれない。

表情はない。
しかし瞳だけは獲物を射抜くかのような鋭いものに変貌していた。


(* ー )「ふざけるなよ」

(,,゚Д゚)「ふざけてねぇよ、俺は大真面目だ」

(* ー )「言ったよな、何よりも優先するのは犯罪者の確保であり抹消だと。
     あの状況下、丸腰のマッドボマーとお前だけが残されていて、どうしてそれが出来ない?
     ギリシアがそこまでの無能だとは思ってなかったつもりだが?」

(,,゚Д゚)「…………」




(* ー )「もう一度言うぞ、ふざけるな。
     何か納得のいくような理由があるなら、言ってみろよ」

(,,゚Д゚)「理由なんざねぇよ」


(* ー )「なら―――」

(,,゚Д゚)「――ただ、俺も良く分からねぇが……お前を助けたくなっちまった。
     それだけだ、色々言われようが自分でだって説明できない」

(* ー )「……っ!」

思いがけない返答にシールは動揺した。

ギリシアと組んだのは、自分と同じような任務への欲求を持っていたから。
何があろうとも、任務を優先し、どんな手を尽くそうとも確実にやり遂げるという貪欲さがあったからだ。

その男が、人を助けるという行動を優先した。
そして対象は、他でもない自分。
あまりの人間臭さと、それに巻き込まれているという事実が、口を塞いでしまった。




(,,゚Д゚)「……シール=リア、親に捨てられ孤児院で育つも、類稀なる能力を持つことが発覚。
     直ちにFOXで訓練を受けることが決まった。
     その際、孤児院に多額の寄付金が贈られる……要は売られたってことだな」

(;* ー )「なっ……!」

(,,゚Д゚)「FOX内でも瞬間記憶能力は随分と役に立った。
     絵の才覚も加わり、それまでいた情報諜報員のお役を奪う程の活躍。
     その結果、多くの人間から嫉妬を受け、幼い時から随分と苦労してきたらしいな」

(* ー )「…………」

(,,゚Д゚)「友人なんていなかった。周りに同い年くらいの奴なんているはずないしな。
     一人ぼっちでいつも過ごして、任務の時だけ良いように扱われて……。
     自分の存在とは? なんて考えたりでもしたか?」
 
シールは、ただ黙って連ねられる言葉を聞いていた。
思い出したくない過去、捨て去った筈の記憶。
無神経にもほじくり返され、しかし何も返す事が出来ない。

それは、何よりもギリシアには知られたくなかったという気持ちが勝っていたからであった。




(,,゚Д゚)「だから、徹底的に任務に打ち込んだんだろ?
     存在を認めてもらえるならと、開き直って努めるようにしたんだろ?
     友情よりは手に入らなくても、有能であるが故の信頼は得られるもんな」

(* ー )「だったら何だっていうんだよ……」

(,,゚Д゚)「自分が男であるように振る舞ったのも、そういった都合からか?」

(* ー )「そうさ、女でいるだけで舐められるなんて、そんなのあまりに不合理すぎるだろう」

(,,゚Д゚)「成程な、大体予想通りってとこか」


ギリシアは何かに納得したのか、一人頷いた。
急に立ち上がると、シールのベッドへと腰掛ける。

そして突然の奇行に戸惑うシールの頭を、不器用ながらに優しく、撫でた。




(,,゚Д゚)「もういいよ、シール」

(* ー )「……何がさ?」

(,,゚Д゚)「女だとか、有能だとかはどうでもいい。
     俺はお前だからコンビを組んだ。 他の奴じゃあダメなんだよ。
     例え素のままのお前だったとしても、俺はずっと一緒にいてやるよ」

(* ー )「何を――」

(,,゚Д゚)「馬鹿なことをってか?
     確かに俺もそう思う、こんなの俺らしくねぇ。
   
     ならそれはお前が俺を変えたんだ。
     責任持って、ずっと一緒にいることを許可しろ、いいか?」


あまりにもぶっきら棒で、勝手で、非常識な言葉だった。
常に上から目線で、偉ぶる様子が似合ってしまう無礼な男。
普通ならば絶対相手にしたくない、喧嘩と脅し文句だけが得意な変人。

ギリシア=コクーンステイツとはそういう奴だと認識している。




(*;ー;)「卑怯だ……」

(,,゚Д゚)「あん?」

(*;ー;)「ギリシアは僕の上司じゃないか……。
      許可しろだなんて、最初から僕には拒否権がないんだろう……」

(,,゚Д゚)「……そうだな、命令だ、俺とお前はコンビで居続ける、うんそれがいい」


だが、それ以上に熱く、優しい事を知っている。
こんな天の邪鬼な自分だとしても、必要な時には何も言わず抱きしめてくれることを知っている。

だからこそ、今までで初めて心を許せる存在になっていた。
ずっとコンビを組み続けていたいと、心からそう思えるのだ。

ギリシアの胸の中で泣きながら、シールはずっと感謝の言葉を並べていた。




暫くの間泣き続けたシールの瞼は赤く腫れあがった。
寝起きだったせいもあり、酷く乱れ、綺麗な顔はすっかり台無しである。
その様子をギリシアに笑われ、むっとして悪態を突く。


(*゚ー゚)「……大体、マッドボマーを逃がしたのは普通に駄目じゃん。
     何か誤魔化されそうになったけど、これだけは見逃せないよね」

(,,゚Д゚)「知るか、お前を助けたかったんだから仕方ない」

(*゚ー゚)「だからって―――」

(,,゚Д゚)「俺は、警察である前にFOXだ。
     そして、FOXである前に俺は俺だ。
     俺はやりたいようにやって、やりたいように生きる、誰にも文句は言わせねぇ」


堂々と言いはなったギリシアに、ほんの少しだけ見惚れてしまう。
恐らく心の底から迷いなくそう思っているのだろう。常に前だけを見据えている。




(*゚ー゚)「……いや僕らお金貰ってる訳だし、心得くらいは守れよ」

(,,゚Д゚)「ふん、限りある命を思うがままに謳歌しないでどうする」

(*゚ー゚)「大人なんだから、時には我慢も必要なんじゃ?」


(,,゚Д゚)「五月蠅い」

(;*゚ー゚)「あいたっ!」


また、ほんのりと涙が湧いて出たのは、きっと拳骨の痛みのせいだと思う事にした。

今はこの鈍痛すらも愛おしい。

ここが、自分の場所なのだと気付いた瞬間なのだから。




( ´_ゝ`)「不死身だと……まさか本当にそんなものが……」

(´<_` )「有り得ないな、まだ手品の類だと言われた方が信じようがある」

( ^ω^)「まぁそりゃそうだお……僕だって未だに自分がそうだって確信持てないし」

兄弟が世話になっている無免許医師の元へと行くことになった。
一般の病院に行くのでは色々と問題が生じる。そういった意味での結論である。
当然、救急車といった類を使える訳もなく、ブーンがツンを抱えて歩いていた。

その最中、兄弟が気にかけていた様子だったので不死について語る。
しかし幾ら説明しようとも、有り得ない、信じないの、一点張りだった。


( ^ω^)「この体になってから何度も死んだけど、どうにも不死に実感湧かないんだお。
       今存在している僕は、実は誰かが見ている夢なんじゃないかって……時々、不安になるお」

( ´_ゝ`)「確かにな……大体口付けを受けたらって、どんな設定だよ」

(´<_` )「うむ、それだけ妙にロマンチックというか、不死と結びつかない気がする」




( ^ω^)「口付けは……愛の戒めみたいなもんらしいお」

( ´_ゝ`)「愛の?」

(´<_` )「戒め?」

( ^ω^)「うん、これは僕の不死身の原因を作った男の話なんだけど―――」


言いかけた所で、兄弟の視線が進行方向に釘付けになっていることに気付く。
話の最中で失礼なと思ったブーンですら、次の瞬間には同じ様だった。

男が駆けてくる。

涙も鼻水も垂れ流しで、酷く怯えているようだ。
何かから逃げているのか、しきりに後方を確認していた。





そして、その男は―――


(;´_ゝ`)「フッサール?」

(´<_`;)「フッサール?」

(;^ω^)「フッサール?」



ミ,,;Д;彡「うわああああああああああああああああああああ!!」



爆破事件で死んだはずのフッサール=ストーンナビット。

ぐしゃぐしゃに崩れた泣き顔を忘れる事は出来ない。
その相も変わらずの馬鹿面は、どうやら人違いでもなさそうだった。




フッサールは後方に夢中だったため、注意散漫になりブーンに激突する。
もっとも倒れ込んだのはぶつかってきたフッサールだけだった。

ミ;,,゚Д゚彡「いたたた……」

(;^ω^)「……大丈夫かお?」

ミ,,゚Д゚彡「え、ああ、うん、俺は大丈夫なんだけどさ。 
      ……えーと、そのなんだっけ……?」

知るか、と言いかけて言葉を飲み込む。
まともに取り合うだけ神経を浪費する気がした。


ミ;,,゚Д゚彡「そうだ! あっちでククリナイフを振り回してる男がいたんだよ!!
       何人も殺してるみたいで……き、君たちも早く逃げないとあぶな―――」


そして、ようやくフッサールはブーンの顔を瞳に収めた。
すると一挙に顔は青ざめ、こう叫んだ。





ミ,,;Д;彡「お化けだぁあああああああああああああああ!!」




(;^ω^)「いや、そりゃお前もじゃねぇかお……」




そのままフッサールはどこかへと走り去っていった。

まるで嵐だ、とその場に残された三人は全く同じ例えを浮かべていた。






( ´_ゝ`)「しかしだ、何故あいつは生きている?」

(´<_` )「デミタス以外は全滅だとばかり思っていたが……うまく逃れたのか?」

( ^ω^)「それはないお、僕は確かにフッサールを殺したはずだお」

自分という人間爆弾で、とは付け加えなかった。


( ´_ゝ`)「考えられるのは……」

(´<_` )「というより考えたくもないが、今この状況から察するならば、だ」

( ´_ゝ`)「フッサールも、不死?」

(´<_` )「フッサールも、不死?」

兄弟の問いかけに、ブーンは見向きもしなかった。
遠く、路地の向こう、何かを睨むような視線を送り続けている。





( ´_ゝ`)「気にかかることでもあるのか?」

( ^ω^)「うん、僕にはやらなきゃいけないことがあるみたいだお」

(´<_` )「何の事だ?」

( ^ω^)「ククリナイフを振り回している男……もしかしたら、いやきっと多分」

それは直感としか言えない非科学的なもの。
マス=ワカッテに呼ばれている、ふとそんな気がした。


( ´_ゝ`)「馬鹿な、あの傷だぞ、命を取り留めたなら考えられるにしても、動きまわれる余裕はない」

( ^ω^)「フッサールがそうだと仮定するなら、マスも不死だっていう可能性は低くない。
       もしかしたら予想以上に不死は広まっているのかもしれないんだお」

(´<_` )「だからといって、お前が行く必要はないだろう?」

( ^ω^)「不死だけで理由は十分だお、それに……僕はここで戦わないといけないんだお」

決意を秘めた表情。
畳みかけるかのようにブーンは言葉を紡ぐ。





( ^ω^)「ツンが、マスを殺したがってるんだお」

( ´_ゝ`)「……何?」

( ^ω^)「だけど、何度やっても今みたいに返り討ちにあってしまう。
       なら二人がもう一度出会う前に、僕がマスを殺すお」

兄弟は、今度こそ完全に度肝を抜かれた。

ブーン=マストレイは、不死であるという観念を加えても、頼りないと言わざるを得ない。
更に性格は平凡か、むしろ温厚。 この場にいることに違和感すら芽生えてしまう。
そんな男の口から出た乱暴な言葉、
似つかわしくもない筈なのに、妙な迫力に気圧されてしまった。


( ^ω^)「大丈夫、勝算はあるお。
       二人は、ツンを医者の所に連れて行ってほしいお」

( ´_ゝ`)「だが何故ツン=デレイド=クヴァニルの為にそこまでするんだ?」

( ^ω^)「んなもん、僕はツンのものだからに決まってるお」


あっけらかんと言い放った後、すぐさまブーンは路地を駆け出した。






( ´_ゝ`)「…………」

(´<_` )「…………」

取り残された兄弟は呆然とその場に立ちすくみ、走り去るブーンの背中と、眠るツンを何度も見比べた。


( ´_ゝ`)「どういう関係だよ」

(´<_` )「俺が知るか」

( ´_ゝ`)「愛か? 青春か?」

(´<_` )「分からん、が、うん、格好良いじゃないか」


そして、途方もない敗北感に襲われ、がっくりと肩をうなだれた。





( <●><●>)「体の再生を行うには異性の口付けが必要。
       また、完全に治癒するまで再生は続く……ブーン=マストレイはこれを応用した訳か?」

言いながらククリを振りおろし、命乞いをする男の首を刎ねた。
ククリはマリアンヌ=クークルゥに手渡された新品。
手慣れていないので使いにくいと思われたが、どうやら問題はないようだ。


( <●><●>)「死んだばっかだっていうのに体は軽いな。
       あの女に言われた通り、完全復活するのか、なんつーハイスペックだよ、おい」

逃げ遅れていた女を背中から切りつけた。
人を殺す度に湧きたつ断末魔と、周囲からの悲鳴が耳に心地良い。

体の慣らしの為に始めた殺戮だったが、既に唯の愉しみに変わっていた。
鼻歌を歌いながら人を殺し、街を闊歩する。

悠然と歩こうが、恐怖に逃げることもままならない獲物を狩るのは容易い事だった。





そして、目に映ったのは路地の端で震えている少女。
服装や体つきから察するに、まだ十歳かそこらの年頃。

まだ幼いにしても、その顔つきは美しく、恐怖に顔を歪まさなければ人形のようであろう。


(;*゚∀゚) 「……!!」

( <●><●>)「あ、いーねぇ、幼女。
       やーらかくてさぁ、いっちばん切りやすいんだよねぇ」


一歩、また一歩と近付くたびに少女の顔が強張るのがよく分かる。
しかしそれはマスのサディズムな心を満たすばかりだった。

脳内で描くのは、どのようにして少女の体を切り裂くか。
VIPに来てから愉しむためだけに人を殺すのは避けていたので、今この状況が嬉しくて堪らない。
死体と化した体を、更に切り刻んでも良い。

殺しやすく美しい人体は、マスにとって上等のおもちゃであった。




(;*゚∀゚) 「……ぁぅ」

( <●><●>)「俺が怖いか? 怖いよな? そりゃそうだよ、だって俺だぜ?
       世界最強、世界最凶、世界最狂……あ、口で言ったら全部同じ? うひゃひゃひゃ」

少女は、見上げるようにマスを眺める。
どこか非人間じみた表情が張り付いていて、自然と『化け物』と口から漏らしていた。
しかし、それを聞いてマスは、さも嬉しそうに顔を歪める。

( <●><●>)「化け物、か……そうさ、俺は化け物だ、間違いない。
       じゃあ、あいつは何だ? 化け物の俺が化け物と呼んでしまった、あれはいったい何だったんだ?」

当然、その言葉を少女が理解できるはずもない。
それでもマスは無理やり言い聞かせるように言葉を続ける。

( <●><●>)「化け物っていうのは、自分の想像の限界を超えた存在を目にした時に使うもんだ。
       俺はあいつの存在が理解出来なかったのか? 俺のものであるこの世界に、そんなものがあっていいのか?
       そして何故俺はあいつを理解出来なかった? 一体、何が俺にあいつを『恐怖』の対象であると認識させたんだ?」





次々と重ねられる疑問。
更に、頭を振りまわしながら言葉の嵐を吐き出す。

( <●><●>)「そうだ、俺はあいつを恐れた、逃げることしか出来なかった。
       初めて負った重症のせいでも、不利な状況のせいでも、状況から逃げるのが得策だと判断した訳でもねぇ。
       怖かった。だから逃げた。……って、おいおいおいおい雑魚相手に何でそんな風になっちまった?」

ククリナイフが少女の首に宛がわれた。
鉄の冷たさが急所に伝わり、それまでじんわりと滲む程度だった涙が、ぼろぼろと溢れ出す。

( <●><●>)「怖いだろう? そうだよ、本来なら俺に対しての反応がこうであるべきなんだ。
      ……畜生、考えれば考えるだけ分からねぇ、マスちゃんは一体どうしちゃったんろうねぇ、ひひゃひゃ」

(;*゚∀゚) 「う…うう……」

( <●><●>)「大丈夫、死ねば終わりさ、きっと君は天国に行けるよ。
       良かったね、それはきっと、友達よりもずっと早く幸せになれるってことだよ。
       だって、この世界には俺がいるから恐いだろう? 天国には俺がいないからさ、やったね!!」
  
口調は、確かに泣く子供を慰めるものだった。
しかし彼の持論は破綻してるどころか暴論の域に達しており、理解すら不可能である。





( <●><●>)「と、いきたいとこだったんだが……」

少女の首筋からククリが離された。
絶体絶命の状況から解放された少女がマスを見ると、その視線は既に違う獲物を捉えていた。
少女の後方、一人の男は息切れを起こしながらやってくる。

ヒーローとはとても言い難いが、人を救いにくるタイミングとしては完璧な登場だった。


( ^ω^)「……離せお、どうせお前が本当に殺したいのは僕のはずだお」

( <●><●>)「格好良い登場乙だねぇ、しかも何々、俺のこと分かっちゃってるじゃん?
       さっきから殺しても殺しても治まんなくてさぁ……この気持ちってさぁ、ある意味恋だよね?」


ブーンが改めて場を見渡すと、あちこちに死体が横たわっている。
どれもが恐怖に引きつった顔を浮かべていて、無念な死であったことが容易に察せた。
傷口も酷く乱暴なもので、殺戮の風景が図らずも浮かんでくる。





( ^ω^)「む『ごい』……とでも言いたいのかお?」

( <●><●>)「いや、そんなつもりないけど、それは流石にお前馬鹿だわ」

(;^ω^)「…………」


マスが興味を失くした少女は、二人の掛け合いの内に、ブーンの元へと駆け寄る。
お礼でも言いたいのか、ぱくぱくと口をさせてはいるが、どうにも上手く言葉にならない。

( ^ω^)「大丈夫かお? 怪我はないお? 今の内に遠くへ逃げてるといいお」

(*゚∀゚)「……!」

( ^ω^)「心配してくれるのかお? ありがとう、君は良い子だお。 
       ついでに、僕の手の甲に口付けをしてくれると嬉しいお」

(*゚∀゚)「…………」

言われた通りに口付けをすると、そのまま少女は逃げだした。
理解もしないままに従ったのは、救ってもらえた人物に対しての信頼があったのだろう。

一連の流れを見て、マスはにやりと笑った。




( <●><●>)「今、口に何か入れたが……それが口付けを受けずに回復したトリックか」

( ^ω^)「……!」

( <●><●>)「俺は天才だからな、そういうのは簡単に分かっちまう。
       ……なんて、お話出来ない奴を相手にベラベラ喋るだけ無駄か」
  

ブーンは、マスとツンの一度目の戦いを目にしている。
それ故、マスの力量はある程度は把握しているつもりだった。

しかし―――

( <●><●>)「うらッッ!!」

(;^ω^)「……!?」

脳内で思い浮かべていたスピードとは、完全に異なっていた。
一瞬で懐にまで潜り込む脚力、ククリが空気を裂く轟音、流れるように繰り出される斬撃。
自身に向けられた殺意によるフィルターがかけられるだけでこうまで違うのかと驚愕する。




防戦一方、という言葉すら生温い。
回避ではなく後ろへ退避するだけ。
ブーンが腰元から取り出していたナイフも、唯のお飾りに過ぎなかった。

( <●><●>)「やっぱ、弱いよなぁお前……どう考えたても雑魚だよ、うん」

(;^ω^)「ぐっ……」

右耳が切り落とされ、血が勢いよく飛び出す。
しかし不死の力が作用され、すぐさま再生される。


( <●><●>)「なんつうか、もう面白いだけだわ」

(  ω )「ッッ――!!」

それが終わると同時に、もう一度ククリが耳を狙い、切り裂いた。
繰り返される激痛に吐き出しそうになった剃刀をどうにか押し込むも、口から血が零れ出す。

舐められていた。少しの希望もなく、一方的な甚振りだった。




( <●><●>)「どうしてお前に俺は……したのか、分からねぇ」

今度は右手を手首から持っていかれた。
思わず前かがみになった頭に蹴りが加えられ、脳内が揺らされる。
方向感覚も視力も定まらないまま、無情にも痛みだけが繰り返されていた。

( <●><●>)「こんなに強い俺と、こんなにも弱いお前……。
       不死だからってだけで説明がつくのか、いやそうじゃねぇはずだ」

倒れ込んだ体を踏みつけられ、コンクリートに叩きつけられる。
斧のように振り下ろされたククリが、左足首を切断する。

( <●><●>)「なんてな、嘘だよ馬鹿、あの時の俺は不死を知らなかった……ただそれだけのことだったんだ。
       つまりお前は何回でも遊べる玩具、それ以上でも以下でもなかった訳だ」

辺りは、既に血で赤く染まっており、嗅覚が狂いそうになる匂いが立ち込める。
その血の海で芋虫のようにもがくブーンと、尚も残虐な行為を続けるマス。

強者と弱者の差はあまりにも圧倒的だった。
最早、口内の剃刀など必要ではなく、傷の再生は追いついていなかった。




(; ω )「あぐっ……げひっ…ぐぐっ……!!」

( <●><●>)「うは、そうだよなぁ、死ねないんだもんなぁ。  
       永遠に続く断末魔とかさぁ、最高にロマンチックじゃないか」

目玉をくり抜かれ、潰され、そしてくり抜かれ、また潰される。
馬乗りになったマスは、粘土で遊ぶ子どもの様にブーンの体を弄った。

ありとあらゆる箇所に幾度もククリが埋め込まれる。
両手両足の指を一本ずつへし折られ、最後の一本が終わると、また一つ目の指に戻る。
そしてブーンのナイフはここでようやく出番を与えられる。
主人の皮を削ぎ落すという任務の為に。


(*<●><●>)「良いなぁ…良いよぉ……こんなの体験したらさぁ、もう他のじゃ遊べないよ……。
       綺麗だ……血管も、血も、臓器も、筋肉もぉ……そのどれもが愛おしい……」

拷問ではなく、あくまでこれは遊びなのだ。
人間という玩具でしか愉しめない男にとっての、夢のような遊び。

マスの恍惚とした表情は、嫌でもそれを物語っていた。





(  ω )「お、お前は……いつも、こんな風に……?」

( <●><●>)「まだ喋れた……っていうか回復したんだ?
       そうだねぇ、だって俺の存在意義ってこれにしかないらしいぜ?」

(  ω )「もしもこれが終わったら……ツンのことも殺すのかお……?」


(*<●><●>)「あったりまえだろ、お前らに邪魔されて、結構腹に来てるんだぜ?
       それに約束したんだよ、内臓捏ね繰り回しながら犯してやるってさぁ。
       どんな顔して喘ぐだろうなぁ……あ、死んだら喋れないか? 残念だなぁ!」


(  ω )「そう……かお……」






(  ω )「……やっぱり、お前は今ここで僕が殺すお」

( <●><●>)「あ……!?」

異変に気付いた時には、既に手遅れだった。
マスの左手はブーンの腹部に埋め込まれ、指の一本すら動かせない状況にあった。
再生される体に取り込まれ、筋肉によって締められていたのである。


(;<●><●>)「んなもん、ぶった切って……!!」

(  ω )「それも、止めてやるお」

ククリはブーンの左手によって阻まれ、手の甲の半分辺りで食いとめられた。
必死で動かそうとするも、不死の力は、マスの腕力を勝っていた。

ならばとブーンのナイフを腹に突き刺すと、その状態で今度は右手がそれを留めた。
少しの均衡状態が続くと、これも動かなくなる。

武器と左手が使用不能になって、ようやく今が危機であると気付いた。






(;<●><●>)「おいおいおいおい、ふざけんなよ、離れられねぇじゃねぇか!」

(  ω )「そりゃそうだお、僕の目的はそれだけだったんだお」

(;<●><●>)「……あ?」

(  ω )「まともにやって勝ち目がないことなんて、分かりきってる。
       ならお前の性格を利用すればいい、相手の体を弄ぶという習性を。

       それにお前はいつも僕を雑魚だと決めつけて油断している、
       至近距離を保ったままなら……共倒れくらいは狙えるんだお」


(;<●><●>)「そんな方法が―――」

そこまで言って、ふと嫌な予想が頭に過った。
ブーン=マストレイが守ろうとしていた相手、共にいた相手、その女の本業は―――


(;<●><●>)「……てめぇ、まさか!!」

(  ω )「そうだお、この距離で爆発が起きれば、お前も僕もジエンド。
      しかし僕は不死の力が作用し続けている……結果は分かるお?」





(;<●><●>)「ちょっと待てよ、体がバラバラになっても不死の力が作用するかなんて分かるかよ?」

(  ω )「経験済みだお」

(;<●><●>)「今度は違うかもしれねぇ!!」

(  ω )「そしたらツンが僕の肉片を集めて復活させてくれるって信じてるお。
       例え、お前のと僕が混じっても、指の欠片の一片だろうと血の一滴だろうと、僕のものだけを集めてくれる」

(;<●><●>)「意味がわからねぇ、意味がわからねぇ……!!
       どういう信頼だよ、何があればそんな考えが浮かぶ、一体どうして―――!!」

そして、マスは気付いたのだ。

自分が何怖を抱いてしまった理由。
この男の異常な考えは何が原因なのか。
何故、完璧に勝っていた筈の自分が窮地に立たされているのか。

全てに同じ答えが導きだされていた時、マスは、笑った。






( <●><●>)「いや、そうか、そういうことだったのか……」

(  ω )「……何がだお」

( <●><●>)「そうだ、お前は正真正銘の化け物だったんだな……ヒハハ!!
      ヒヒャヒャ!! 狂ってる、狂ってやがるんだ、何よりも! この俺よりも!!
      だから怖いんだ、こええよ、なんだこいつ、頭がいかれてやがるんだよ……ヒャハハハハハハハッッ!!」
  
(  ω )「そうかお」

( <●><●>)「怖いぞ、怖いぞぉぉおおおおお!
      早く俺を殺せよぉおおお!! 見たくねぇ、お前を見たくねぇ!!
      俺より狂ってる奴がいたらさぁぁああああ!! 世界が俺を認めてくれねぇんだよぉおおお!!」


人を殺すという狂気だけで自我を保ってきた男に、この真実はあまりにも過酷だった。
見た目は普通の人間なのに、死を厭わず、死なず、死を自身にもたらす化け物。

ブーン=マストレイという男の存在が、マスにとっての恐怖そのものだったのだ。







ブーンは壊れた男を憐み、救いをもたらすかのように、隠し持っていた爆弾を起動させた。



閃光と轟音が場を貫く。



マスの笑い声は止み、静寂が辺りに齎される。



化け物同士の争いの終焉は、呆気なくもあり、華々しくもあった。







狂っていると言われた時、どこか納得した。
胸の奥でもやもやしていた自分の正体を見つけ出したような気がした。

僕という存在は、いつからかおかしくなっていた。
幼い時の平和に静かに暮らしていくという夢は、どこに行ってしまったのだろう。
遠い過去から見た今の僕は、本当に正しいものなのか。

そんな疑問を誰かが、ひょっとしたら自分自身が問いかけてくる。
そしたら、僕は迷いなくこう答える。

間違ってなんかいない。

傍から見ても狂っているかもしれない僕は、それでも幸せなのだと。

夢を追い続ける必要はない。
だって、思い描いた未来が幸せな人生の限界だとしたら、つまらないじゃないか。
今の日々は、いつか夢見た理想図を超えているのだと、そう思う。

だって、僕には―――





ξ;凵G)ξ「うぅ……えぐっ……ひっく……」

( ^ω^)「なんで……泣いてるんだお?」

ξ;凵G)ξ「だ、だって、起きたらどこか分かんなくて、聞いたらブーンがマスの所に行ったって……!!
       探しに行ったら大きな音が聞こえて、それは私の爆弾の音で、辿り着いたらブーンが倒れてて、それで、それで……!!」

( ^ω^)「心配掛けたお……もう大丈夫だから、泣くなお……」

心地良い膝枕だったけど、上からはツンの涙がぼろぼろと降り注いできた。
久しぶりに見た彼女の顔が、妙に懐かしくて嬉しかった。


ξ;凵G)ξ「私、ごめんなさい、負けちゃったんです。
       ボディーガード失格で、でもブーンと一緒にいたくて……!!」

( ^ω^)「うん……僕も一緒に居たいお……それにマスは倒したから……だから、僕たちは一緒だお……」

酷く疲れていた。
でも、心配はかけたくなかったから、精一杯の微笑みを保っていた。




ξ゚听)ξ「……私、言わないといけないことがあるんです」

( ^ω^)「奇遇だお、僕も言わないといけないことがあったんだお……」

ξ゚听)ξ「私は、ブーンが好き」

( ^ω^)「僕は、ツンが好きだお」

ξ゚听)ξ「こんな気持ちは初めてなんです」

( ^ω^)「僕は君がいるから幸せなんだお、君がいないとダメなんだお」


ξ゚听)ξ「だから―――」

( ^ω^)「だから―――」





僕たちは口付けを交し、ツンは僕にナイフを突き刺した。
全身に伝わる痛みが心地良く、愛情を強く感じることが出来る。


ξ゚听)ξ「車に轢かれて血を流すブーンを見て、私はきっと一目惚れしたんです。 
      殺す度に、爆破する度に、その想いは膨らんでいったんです」

( ^ω^)「ツンに初めて口付けをされた時、僕はきっと一目惚れしたんだお。
       殺される度、口付けをされる度に、その想いは膨らんでいったお」


ねじ込むように奥進むナイフは、愛が僕の心に刻まれていく証。
垂れ流される血がツンの服を汚すのは、彼女は僕のものだと訴える為。

ξ゚听)ξ「ブーンを殺していいのは私だけなんです、ブーンは私のもの」

( ^ω^)「僕を殺していいのはツンだけだお、僕はツンのもの」






ξ゚听)ξ「ああ、私は貴方を―――」

( ^ω^)「ああ、僕は君を―――」


激痛に意識が飛びそうになる。
しかしその愛の重さがたまらなく嬉しい。

抱きしめれば抱きしめるだけナイフが埋め込まれていった。
今、このまま二人で死んでしまいたいくらい僕は幸せだ。
きっと彼女も同じ気持ち。ナイフを突き刺す手に込められる力が強くなっている。

僕は狂っている。

いや、僕たちは狂っているのだ。









「――ー愛してる」


「―――愛してる」



溶け合うような、混じり合うような口付けを交わした。




不死の体は、永遠にこのままでいたいと訴えていたような気がした。
















  第十四話「火薬の香りと血化粧に彩られる街で二人は深く愛し合う」












―――The story might continue










ギリシア=コクーンステイツは誘拐犯と疑われてかなり凹む。
フッサール=ストーンナビットはお化け幽霊宇宙人その他の類が大っ嫌い。
マス=ワカッテの伝説は終わらない。


お疲れ様です。
ありがとうございます。
推敲少なめでした。
おかげか最後の最後でミスった。
今日は終わりです。
それでは。
また




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