ξ゚听)ξ「あの事件の時は、時限式爆弾を多数、時間差で仕掛けておいたんです。
      ここを爆発させたら、こう逃げるだろうからそこに爆弾を設置……みたいに」

(*゚ー゚)「ふんふん、それでそれで?」

僕の右手側には女性陣二人。
シール=リアは、どうやら書類に載っていない生の情報に夢中になっている様子だ。
ツンも熱心に聞いてくれることに快くなったのか、得意げに語っている。


( ´_ゝ`)「お前やるなぁ、どうだい一緒にマフィアやらねぇか?」   

(,,゚Д゚)「ひっひっひっ、それはそれで面白そうだなぁ」

左手側には、物騒な話を続けるアニムルとギリシア。
一通り殴り合い、誤解が溶けたと思えば、次の瞬間には意気投合していた。
また、この二人は酒のペースが異常だ。
テーブルには、空になったジョッキが10近く置かれている。

ちなみに、オトリスはカウンター席でマスターと静かに飲んでいるようだった。





(;ФωФ)「…………」

テーブルを挟んで僕の体面に座っているのは、ロマネスクという男。
先ほどから一言も声を発さず、居心地の悪い顔をしてちびちびと酒を口に運んでいる。
巨大な体躯からは予想も出来ない事だが、どうやらこいつが一番の常識人であろう。

先ほどから、続いているこの時間。
酒を飲み、語り合い、笑い合い、また酒を飲んで……。

楽しいことは楽しいのだが。


( ^ω^)「あのー、そろそろ本題に入りませんかお」

(,,゚Д゚)「んっ? なんだ、お前はせっかちな奴だな」

( ´_ゝ`)「明日の朝まで飲む気満々だったんだが……」


お前らが酔いつぶれない内に話を進めたかったってことを理解してほしい。






その後、オトリスも輪に加わり、話が始まった。
一番初めに話題を出したのは、シール=リア。

(*゚ー゚)「まず初めにいいかな、えーっと、ブーンだっけ?
     私が得た情報だと貴方は死んでるはずなんだけど……?」

( ^ω^)「信じるかどうかは分からないけど、僕は不死だお。
       ナイフで刺されようと銃で撃たれようと……ええと、爆殺されようと死なない」

最後の言葉の時には、案の定ツンが嬉しそうな反応を見せていた。


(,,゚Д゚)「ふぅん……じゃあ今殺したとして、お前は死なないのか?」

( ^ω^)「まぁ、そうだお」

瞬間、ぶつとテレビの電源が切れる時のような音が聞こえた。

ξ゚听)ξ「こんな感じにですね」

(;,,゚Д゚)「……わ、わざわざどーも」

(;*゚ー゚)「今まで色んなものを見てきたけど、ぶっちぎりでショッキングだったよ……」






( ^ω^)「……待て、お前今、僕の事を殺して生き返らせたのかお?」

ξ゚听)ξ「気のせいじゃないですか?」

( ^ω^)「その後ろ手に持った血塗れのナイフはなんだお、右側頭部辺りの違和感はなんだお」

ξ゚听)ξ「いやぁその、一番これが手っとり早いかなと思いまして」

(#^ω^)「お前はどうしていつもいつも唐突にとんでもな行動をするんだお!!
       関係のある人以外に見られたらどうするつもりなんだお!!」

ξ;゚听)ξ「だって、だって、シールと昔の事を話してたらムズムズしちゃったんですもん!!」


(´<_` )「おいロマネスク大丈夫か、顔真っ青だぞ」

(;ФωФ)「だ、大丈夫……じゃないかもしれないです、血が、血が、どばーって!!」

( ´_ゝ`)「ファンキーな奴らだな」






( ^ω^)「……ええと、取り乱してすまんかったお」

( ´_ゝ`)「いや別に」

(´<_` )「苦労してるんだなぁとしか思わんよ」

どこか尊敬な眼差しを向けられているような気がした。
それは恐らく、よくもまぁそんな女と付き合えるな、といった意味合いが込められてるのだろう。


( ^ω^)「で、まぁ僕が不死だという大前提を分かってもらえたとして……。
       ちょっと僕の昔話を聞いてもらってもいいかお?」

(,,゚Д゚)「昔話?」

( ^ω^)「うん、多分、最終的には君たちにも関わることだと思うお。
       それに一番初めに言った方が、情報の取引もしやすいし」

( ´_ゝ`)「不死になった訳、というやつか、面白い」






馬鹿騒ぎを続けていたこのテーブルの客がしんと黙ると、
古びたレコードから奏でられるジャズの音だけが流れ、この店本来の落ち着きを取り戻す。

僕たち以外の客は既にその数を極少数にまで減らしており、残る人も酔いつぶれて机に突っ伏しているのが殆ど。
カウンターにいる店主も、特に何を気にする様子もなく、グラスを拭いていた。


僕に捧げられている食い入るような視線。

その重圧に、確かな感慨を持って応えるように。
子に、本を読み聞かせる親のように。


( ^ω^)「まず、僕が子供の頃の話だお……」


僕は、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
















  第十六話「キース・ジャレットの音色がセピア色の記憶を描き出す」














目に映るもの全てが真黒に染まりきっている。

道端に咲き誇る花々にも、その彩りを感じられない。
風もなく、温かさも寒さもなく、ただ胸にぽっかりと開いたような喪失感だけが存在している。
日中は太陽が俺だけを照らしていない風にすら思える。

世界は、明らかに俺を拒絶していた。


('A`)「……ここはどこだ」


それに、今は一体いつなんだ。
ヒートが死んだ時からだろうか、その時から明確な記憶が無い。
ズキズキと痛む頭で無理やり振り返ると、腐った日々を繰り返していたような気がする。

何度もそこらのごろつきに喧嘩を吹っ掛け、殴り飛ばされた。
酒に酔いつぶれ、気がつくと店外のゴミ置き場に投げ飛ばされていた。

きっと、この先もこんな風に……地獄のような日々が続くんだろう。






それで良いと思っていた。
ヒートという心の支えであり、世界の全てを失った俺に、生きる意味なんてなかった。

かといって、すぐに死ぬと決断出来るような心も持ち合わせていない。
ならばこのまま堕落し続け、自然な最期を迎えるのを待つことにした。

('A`)「人間、なかなか死ねないもんだ……」

飯もろくに食わず、酒ばかり飲んでいても、この体はぴんぴんしている。
丈夫に生まれたことに、いささかの悲しみを覚えた。


( A )「そうさ、なら、この命の半分でもヒートにあげられたのなら――」


と、その時、右肩に衝撃が走った。
物思いに耽っていたせいか、擦れ違い様に男とぶつかってしまったらしい。

男は、罵倒を浴びせながら俺の胸倉を掴む。
殴るなら殴れば良い。 痛みを感じている間だけは、この胸の苦しみから解放される。





( ´_ゝ`)「ん、あれ、お前は……」

(´<_` )「いつぞやの気持ち悪いカップルの片割れか?」

どうやら相手は俺に見覚えがあるようだった。
掴んでいた手を放し、まじまじと俺の顔を覗きこんでくる。

( ´_ゝ`)「いや、違うか……? 少なくとも、俺達が見たのは……」

(´<_` )「こんな、淀んだ目をしているような奴じゃあなかったな」

淀んだ目。
そうまで言われる、今の俺はどんな姿をしているのだろう。
ヒートといた頃からは変わり果てているというのだけは間違いなかった。


( ´_ゝ`)「とりあえず」

(´<_` )「飲みに行くか」

男は、訳も分からないままの俺の手を引っ張っていった。





( ´_ゝ`)「何があったのかは聞かんが……」

(´<_` )「嫌な事は酒を飲んで忘れろ、特に失恋とかはな」

気付けば、俺は男達に挟まれ、どこかの酒場のカウンター席で酒を飲んでいた。
どうにもお節介な奴らなようで、俺がヒートに振られて失意の最中にいると思っているらしい。
あまりに無神経な話だが、見知らぬ人にまで親切にするその気持ちは不快ではなかった。


('A`)「あんたらは、大事なものってあるか?」

唐突に尋ねたことに、男達はやや吃驚といった様子だった。
しかし純粋に聞きたい質問だった為、無理にでも聞き出すつもりだった。

( ´_ゝ`)「大事なもの……ねぇ」

(´<_` )「そりゃあ、誰にも一つはあるもんじゃないか?」

('A`)「それで?」





(´<_` )「俺はこの街が何よりも大切だ。世界と言い換えても良い。
       俺という人物を形成してくれたことに多大なる感謝の念がある」

( ´_ゝ`)「俺は家族だな。  
       たった一人の肉親であるオトリスは勿論のこと、組の奴らもだ。
       まだまだ不完全である俺を支えてくれる存在であり、愛すべき存在だ」

('A`)「じゃあ、その大事なものを失った時、どうする?」

その質問には、流石に即答で返ってくることはなかった。
それでも、やや言葉を詰まらせながら、男たちは口を開く。


(´<_` )「そうだな……失う前に対処し、何がなんでもこの手に留める」

( ´_ゝ`)「もしも失ってしまったのならば、神にすがってでも取り戻すさ。
       醜い生き様だろうが、俺にとってはそれくらい大事なものだからな」

(´<_` )「……おい、なんかちょっと恥ずかしいぞ」

( ´_ゝ`)「うるせぇ、良い事言ってるつもりなんだから黙ってろ」





('A`)「神にすがってでも取り戻す……か」

もしも神がいるとするならば、ヒートを奪った時点で俺はそんな神が大嫌いだ。
しかし、万が一にも可能性があるのならば、意見を全面的に取り換えても良い。
……なんて、非現実的か。


(´<_` )「まぁ、さっきは忘れろなんて言ったが、どうしてもって言うなら諦めることはない」

( ´_ゝ`)「そうだな、男は好きな女を無理やり手に入れるくらいで丁度いいさ」

('A`)「……どうも」


(´<_` )「それに、こんな噂もあるくらいだからな。
      『純粋な気持ちを持ち続けている者の願いは叶えられる』」

( ´_ゝ`)「失恋くらいでそこまで落ち込めるなら、お前にもチャンスはあるんじゃないか?」

('A`)「そうだな……そうなるといいな」





( ´_ゝ`)「じゃあな、あんまり夜道をふらつくんじゃねぇぞ!」

(´<_` )「お前みたいなのは絡まれやすいからな、さっさと家に帰れ」

('A`)「はいはい、さっさと帰りますよ」

男たちは別れを告げると、そのまま夜の街に消えていった。
何でもこのまま他の店を梯子するらしい。
つくづくだとは思ったが、何だかんだで悪い奴らではない、そんな気がした。


('A`)「……はぁ」

夜空に溜息が吸い込まれる。
満点の星空の賑やかさと、俺の孤独は皮肉にも対比されているようだった。
隣にあいつがいないだけで、こうも世界は変わるものなんだろうか。

……やはり、一人になると気持ちは滅入る。

ネガティブな妄想が次々と溢れ出てくるばかりで、夜の闇が心細かった。






酔いに足を取られてふらついてしまう。
その先で、びたと壁に張り付くような形になってしまった。

('A`)「あ……」

壁だと思ったそれはガラス。
僅かな月光に反射し、俺自身の姿が映し出される。
こけた頬に薄汚れた風体、ボサボサの頭に、薄汚く髭が茂っている。
よくもまぁこんな奴と酒が飲めたものだと、先ほどの男たちに苦笑した。

ガラスの中の俺に語りかける。

('A`)「なぁ、俺は一体どうすればいいんだ……?」

当然ながら、返事はない。
絶望に満ちた表情で見つめ返されるばかり。

次第に目頭が熱くなっていくのを感じる。
このまま泣き叫べば、ほんの少しくらいはスッキリするのだろうか。






異変が起きたのは、そんな時だった。


(;'A`)「……!?」


壁の中の俺が、にやにやと浮ついた笑みを見せた。
当然、俺自身にはそんな余裕はなく、腰を抜かしそうになっている程。

これは悲しみに浸る心の見せる妄想なのか。
それとも、こうまで俺は酔ってしまったのだろうか。

様々な可能性を模索している俺を、更なる異常が迎える。


('∀`)「落ち着け、私は君に危害を与えるつもりはない」

(;'A`)「な、なんだ……!?」

ガラスの中の俺は、俺にそう告げた。
声帯もなにもない無機物から、確かな声が発せられたのだ。





('∀`)「君が願ったんじゃないか、だから私は現れた。
    だというのに、そんなにも拒絶されるのとは心外だね」

(;'A`)「馬鹿な……何で俺がお前を……」

('∀`)「私は私だよ、あるいは神と言っても良い」

(;'A`)「神……だと!?」

('∀`)「ふむ、どうやらこの恰好がまずいのかもしれんね」

そう言った自称神は、ガラスから抜けだし、肉体を持って俺の前に現れた。
更には一度手で顔を覆うと、その下には先ほどまでとは違った顔が存在していた。


( ・∀・)「これで信じるかな、私は神と呼んでも差し支えないと」

さも事無げに言う男の言葉に、俺は飲み込まれていたのかもしれない。
その時点で、既にこいつは自分の常識を超えていると理解していた。






( ・∀・)「そう、私は常識から外れた存在、この世界の全て、であるから神と呼んでも良い。
      世界の全てであるという事は君でもあり、つまりは考えも読み取れるということだ」

(;'A`)「…………」

( ・∀・)「ほう、話が早いね『なら何故俺の前に現れたのか?』だって?
      噂で聞いただろう、『純粋な気持ちを持ち続けている者の願いは叶えられる』と」

('A`)「なら、お前は俺の願いを……?」

( ・∀・)「聞いても良い、だが、私は天の邪鬼なもので完全には叶えないよ」

俺がどういうことかと聞き返そうとすると、
それすらも見透かされているのか、神はそのまま言葉を紡いでいった。


( ・∀・)「例えば、昔、全てを切れる大剣豪になりたいと願っていた男がいた。
      私はその男に何でも切れる刀を与え、同時に人を殺し続けなければならない宿命を与えた。
      それは今や呪いとなり、彼の子孫すら苦しみの連鎖に巻き込まれている」

('A`)「不幸にする、とでも言いたいのか?」

神は、今度は答えなかった。





( ・∀・)「君の知っている人で言うなら、世界平和を願うとある女がいた。
      私はその女に近辺の者たちを幸福にする力を与え、悪意を感じる心を奪った。
      きっと、彼女は凶悪犯罪者に甚振られようと、笑顔で居続けるんだろうね」
  
('A`)「だから、何が言いたい」

( ・∀・)「つまりはだね、必ずしも幸せになるとは限らないという事だ。
      もちろん、願いが叶うかもしれないという可能性は与えるがね」

('A`)「…………」

唐突に理解したのは、こいつは人の願いを叶えるつもりはないということ。
それによって齎される結果を、悠々と眺めて愉しむつもりなんだろう。

つまり、憐れなピエロとして扱われるということだ。
これは、神なんて名ばかり、悪魔の契約と言う方が適している。

ただ、それでも。






('A`)「叶えろ、俺の願いを。  
   どんな形でも良い、可能性がある限り縋りついてやる」

( ・∀・)「……ふふふ、君は最初からそう言うって分かっていたよ。
      だって君は『あまりにも愛に対して純粋過ぎる』」


('A`)「それでいい、ヒートともう一度話せるなら、俺は、それで!!」


( ・∀・)「ははは! 僕はそういう人間を見るのが大好きでしょうがないんだ!!
      いいだろう、ドクオ=サンライズ!! 君に願いを叶える可能性を与えてやる!!」


神が指を俺に突き立てると、体中をとてつもない衝撃が駆け巡った。

巨大なダンプカーに跳ね飛ばされ、火だるまになり、体中をナイフで刺され、
恋人の腕に包まれ、春の快い風に靡かれ、羊水の中で浸かっているような、言い表せない感覚の波。
ありとあらゆるものを一度に体験し、人類の歴史をその一瞬で見たような気もする。

脳髄が焼けるような熱さを得たのを最後に、現実に帰ってきた。






('A`)「俺は……俺は……」

( ・∀・)「これで君は普通の人間ではなくなった、まぁ言わなくても分かっているだろうけどね」

その言葉の通り、俺は不思議と理解していた。
自分が『不死になった』ということを。

( ・∀・)「そうそう、さっきの質問にまだ答えてなかったね?
      確か、不幸になるかどうかという話だったか」

一瞬の瞬きを終えると、そこには既に神の姿はなかった。
唯、それでも、嘲笑うかのような声だけが聞こえてくる。


『君が不幸になるかは分からない。
 だが、間違いなく君の存在が、他人を不幸にする』


そんな不吉な言葉を最後に、いつも通りの静かな夜が再び戻ってきた。
以降、神に出会う事はなかった。






不死になり、永久の時間が与えられた。
しかし、それは単なる切っ掛けに過ぎず、この力の応用でヒートを生き返らすことは出来ない。

願いは、神といった類に叶えてもらうものではない。
このドクオ=サンライズ自身の力で、死者を甦生する方法を造り出す。

きっと、これが唯一残された、ヒートともう一度出会う方法なのだから。


その為なら、俺は何を犠牲に捧げたって構わない。
例えあの言葉の通り、他人を不幸にしようとも、俺の意志を曲げる理由にはならない。
全てはヒートにもう一度、もう一度―――。


やることは決まっていた。

どのような方法をとるのか、その答えは出ていたのだ。






('A`)「そうだよ、ブーン=マストレイ、俺のやることはあの時既に決まっていたんだ」

ここは故郷の俺の家の地下。
誰もいないはずの空間に、俺と、そして懐かしき友人の姿。
更に異常を挙げるとするならば、友人の身は拘束され、台に寝かされているということだった。


(;^ω^)「ドクオ……どうして君はこんな事を」

('A`)「俺はな、永遠の時をどうすればいいのかを考えたんだ。
    死者を甦生する為の方法……その為には何を学ぶべきか」

('A`)「そして考え付いたのは、まず人間の体を知るべきなんだ。
    生身の人間を解剖なんて、そうは出来ない。
    それに、今お前は不死の状態にある……新鮮な状態で何度でも何度でも切り刻める」


ブーンの顔が青冷めていくのが分かった。
その表情に胸が少し痛むのを感じ、まだ俺は人の道にいることを知った。






(;^ω^)「止めるんだおドクオ、人を生き返らせるなんて出来はしない。
       こんなことしたって、ヒートちゃんも悲しむだけだお」

('A`)「何を言ってるんだ?」

(;^ω^)「……お?」

('A`)「俺達は二人で一生を過ごすと決めたんだ。
    なのにヒートは先に逝ってしまった。俺が生きてるのに。これはおかしい。
    だったら、その間違いを俺が正そうとするのは当然のことだろ?」

(;^ω^)「そ、そんな……」

('A`)「ヒートが生きているというのが本来あるべき世界の姿なんだ。
    今は誰もそれに気付いてないみたいなんだけど、俺がちゃんと戻してあげるんだ。
    そしたら、皆幸せだよな、そうだよな?」

その言葉は、半分無意識の内に紡がれていた。
どうやら、少しずつ俺は壊れ始めているらしい。

ならば、最後の最後、友に言葉を残していくとするか。






('A`)「ブーン、俺はお前とゲームをしたいと思う」

( ^ω^)「……えっ?」 

('A`)「俺はこれから多くの人を不幸にする。
    だから、それをお前が止める、たったそれだけだ」

( ^ω^)「どういうことだお?」

('A`)「人体実験や研究には、それ相応のリスクと金が掛かるからな」


世の中には、不死を望む人は腐るほどいる。
そいつらに不死の力を譲り、代償に金を得ることなど容易い。

しかし一方でその方法による犠牲者も現れることだろう。
人体実験の被験者はもちろんのこと、不死の力による犯罪や、政治の革命すら起こるかもしれない。
世界の理を覆すのだから、それくらいのことが起きる可能性は大いにある。

('A`)「不死の解除の方法を知っているのも俺だけだ。
   ブーンが俺を探し当てる事が出来た時、それを教えてやる」







そして、俺はそれ以外の不死についてのルールを教えてやった。
この奇怪な方法でしか能力の受け渡しや、体の再生が出来ないのは、きっと趣味の悪い皮肉だ。

('A`)「小さな頃に遊んだ記憶、ヒートの事を除けば一番大事な思い出だ。
    だからこそ、俺はお前を一番初めに手にかけなければならない」

(;^ω^)「何を……!?」

('A`)「覚悟だ、ヒートの為には何もかもを捨てるという覚悟を示すんだ。
    大事な友人であろうとも、躊躇せず残酷に切り刻む心が必要なんだ」

(;^ω^)「……!!」

いくつもの凶器や鈍器、人を傷つける為の道具は思いつく限り揃えておいた。
その全てを試し、反応を見ることで、俺は人とはなんたるものかを知ることが出来るはず。

人を造り出すのなら、壊し方を知らなければならない。
麻酔等も無いこの実験は、拷問と呼び変えても良いだろう。






('A`)「ありがとう、そしてごめんな、ブーン。
   俺にはヒートがいないと……あいつがいないとダメなんだ」

(;^ω^)「ま、待って……!!」

抑止の声を無視し、腹部にナイフを突き刺した。
悲鳴が地下室中に響き渡り、勢いよく飛び出した血液が俺の体を赤く染め変える。
突きさしたナイフを上下左右に動かし、腹をぱっくりと開くよう裂いた。
そして、反応がなくなるまでブーンの体内を調べ尽くした。

完全に事切れると、蘇生を行う。
その度に悲痛な叫びを聞かされる羽目になるが、不死の力の強さを実感出来た。
人体の再生過程は実に参考になるもので、それを部分部分で繰り返し見る為に、想定以上の破壊と再生を行った。

途中からはブーンも全てを放棄したのか、天井を見つめたままぴくりとも動かなくなった。
それでも主の意志を反して活動を続ける人体の神秘は、この先の道が過酷であることを示していたのかもしれない。

この実験は丸一日以上かかり、終えた時には俺の体自身も相当に疲弊していた。

だが、精神面では何の異常もきたさなかった。
実験の最中に薄々感じていたのだが、どうやら間違いない。













俺の心は、もう壊れてしまったのだ。














僕がまともな思考回路を取り戻した時、周りに人の気配はなかった。
拘束具も解かれていて、自由に動き回ることが出来る。

台から降りると、血まみれの部屋に違和感を放つものがあった。
しわくちゃになったそれは、ドクオの手帳と思われるものだった。

内容は、村を出てからのヒートとの生活を書いたもの、所謂日記である。
なんていう事はない日常の幸せと、それが突如崩されたことの絶望がひしひしと伝わってくる。
ヒートが死んでしまった日以来のページはくしゃくしゃで、文字も非常に乱雑だった。
恐らく、涙を流しながら、それでも生きていこうと必死の思いで書いていたのだ。

この悲しみから解放させるためにも、僕はドクオを追わなければならない。
きっと、彼も分かっているのだ、自分の進む道が間違っていると。
ゲームなんていう形をとったことや、この手帳という手掛かりをのこしたのはそのせいだろう。

とりあえず、ここに記されているワタリカ=ナーベインという人に会いに行こう。
彼女もまた、悪魔との契約を結んでしまった人なのだから。

地下室から出ると、太陽の光が僕を迎える。
暗く薄汚れた世界から、晴れ渡る、真っ白でどこまでも続くかの様な世界に移った。
いつの日か、ドクオが物置から抜けだした時も、このような感動を得たのだろうか。






彼の行く道は、血に塗れた呪われた世界。





だから、ドクオをこの美しい世界へと呼び戻さなければならない。





それが僕、ブーン=マストレイがやらなければならないことなのだ。






―――The story might continue







ロマネスク=ローレールは正直話についていけない。
アニムル=ジャイ=ユストピーの言葉にオトリス=ジャイ=ユストピーはちょっぴり上機嫌
ドクオ=サンライズはそれでも歩みを止めようとはしない


お疲れ様です。
ありがとうございます。
急ぎぎみだったんでミス多いかもしれないです。
あと、キース・ジャレットは他作品で見ただけでよく知りません。
今日は終わりです。
それでは。
また





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