アラマキの屋敷の表玄関で、男達が暴れ回っていた。
人数は段々と増えていき、罵声の飛ばし合いが殴り合いに変わり、暴動の規模は着実に大きくなっていく。
そんな荒れていく場を、物陰からひっそりと眺めているいくつかの影があった。
( ´_ゝ`)「中々良い調子じゃないか」
(´<_` )「戦力の九割をあっちに回してるんだ、上手くいって貰わなければ困る」
( ФωФ)(皆、頑張ってるのであります……)
この騒ぎは、サスガファミリーによって意図的に作られたものである。
人数や、不死の力を持たれているという戦力差を埋める苦肉の策は、所謂、囮作戦。
表玄関側で暴動を起こし、アーラシファミリーを引きつけ、
その隙に裏玄関から少数精鋭が攻め込むという、至ってシンプルな方法だった。
( ФωФ)「……でも、そんな簡単に行くものなんでありますか?」
( ´_ゝ`)「いや、十中八九、思い通りにはいかないだろう」
(;ФωФ)「ええっ!?」
(´<_` )「まぁ思い通りに行く方がつまらん、ゲームは多少難易度があった方がいい」
(;ФωФ)「これはゲームじゃないであります!」
( ´_ゝ`)「人生は極上のゲームだろ……む?」
サスガの一人が、拳銃を取り出し、アーラシの一人に向ける。
へらへらとしながら命乞いをする所を見ると、不死で間違いないだろう。
死への恐怖がまるで感じられない。
胸元には、きっちり赤いネクタイが巻かれていた。
( ´_ゝ`)「『レッド』を出し惜しみする気は毛頭ないようだな」」
(´<_` )「やはり奇襲もバレバレだった訳だ」
そして銃声が鳴り響き、アーラシの男の頭部から血が噴き出す。
糸が切れたかのように倒れる体を見送って、場の全員が更なる興奮に目覚める。
殴り合いは、殺し合いに発展しかけていた。
( ´_ゝ`)「よし手筈通りだ、行くぞ」
(´<_` )「銃声を合図に走り出すなんて、まるで運動会だな」
多人数の殺し合いという、大規模な暴動ならば、警察も鎮圧の準備には手間がかかるだろう。
おまけ、にアーラシファミリーのテリトリーには中々踏みにくいという話もある。
凡その計算で、警察が来るまでは一時間と推測した。
( ´_ゝ`)「ボスを倒して逃げ出すまでが、このクエストの成功条件だ」
(´<_` )「タイムリミット付きとはな、燃えるじゃないか」
(;ФωФ)「うぅ……御二人の考え方には付いていけそうにないのであります……」
また、表玄関の暴動は、あくまで騒ぎを起こす事が第一。
敵側が不死であろうとも、こちらは限りある命なのだ。
無理はせず、銃の無駄撃ちを繰り返すくらいが好ましい。
実際、今現在、規模の大きさの割に合わず、負傷者はほぼいない状態だった。
しかし、いくら表側で騒ごうとも、裏玄関のセキリュティーは厳しいままだろうと兄弟は考える。
アラマキ程の男なら、下っ端の屋敷警備も完璧をもって務めさせている筈だ、と。
詰る所、多少楽になってくれればという程度の囮作戦。
そして命を懸ける意気込みの彼らの気持ちに対して失礼に値するとしても、
家族をあまり危険な目には遭わせたくないという願望から生みされた作戦だった。
( ФωФ)「……あれ?」
予想に反して裏玄関は閑散としていた。
人気も感じられず、無機質な空間が広がるばかりである。
(*ФωФ)「も、もしかして作戦が完璧に嵌ったんじゃないですか?
全員表側の暴動に夢中になって……!!」
ロマネスクは尊敬の眼差しを浮かべ、兄弟に問いかけた。
余計な気苦労であったのだと、心底ほっとする。
しかし、
( ´_ゝ`)「ふっ、面白いじゃないか」
(´<_` )「そうだなぁ、ボスの前には必ず中ボス戦が待っているもんだよな」
兄弟は不気味な笑みを湛えたまま、意味不明の言葉を呟いていた。
理解も出来ず、ロマネスクが兄弟の視線を追うと、そこに奇妙な物体が存在していた。
(;ФωФ)「……あれは?」
巨大な箱が、扉を塞ぐかのように待ち構えていた。
全体は漆黒に染められているが、中央部分に純白の十字架が刻まれている。
場違いなその存在が、静けさに包まれた空間に放つ、嫌な存在感。
ロマネスクは初め、その箱の存在を理解出来なかった。
あまりに場違いであり、異常であり、存在が矛盾している。
それでも、この箱の名前は嫌でも分かる。
黒く巨大な箱、それは『棺桶』と呼ばれる物だった。
( ´_ゝ`)「馬鹿げた噂だと思っていたが」
(´<_` )「まさか本当とは……これだからこのゲームは面白い」
(;ФωФ)「い、一体どういう事でありますか……?」
異常な存在を、あまりに容易く受け止める兄弟。
態度から察するに、これを予期していたのだろうか。
そして、混乱するロマネスクを更なる異次元へと誘う事象。
二メートルを超える棺桶が、ひとりでに浮かび上がったのである。
だが地面から離れていく棺桶の下から、人の足が覗き始める。
その人物が持ち上げているのだという事は間違いないだろうが、だからこそロマネスクはより驚愕した。
二メートルを超えた棺桶を、軽々と持ち上げる人物の腕力。
それを予測した時、ロマネスクは体の芯が震えるのを感じた。
( ´_ゝ`)「オトリス、お前はあれを持てるか?」
(´<_` )「……いや、無理だろうな」
そして棺桶を持ち上げた人物は、場の全員に姿を露わにする。
身の丈は棺桶よりやや低い程度という長身だが、その体はアンバランスに細かった。
棺桶を持てるようにはとても感じられず、目の前の光景の異常さが際立っている。
無表情のままこちらを観察する姿は、不気味と言う他にない。
【+ 】ゞ゚)「ア、ニ、ムル、と、オ、ト、リス?」
ゆっくりと、確かめるように兄弟の名を呼ぶオーサム=レッドフィールド。
裏玄関を任されたのは、アラマキの側近であり、アーラシの幹部である彼一人だった。
( ´_ゝ`)「一人とはな、よっぽど信頼しているのか、こいつを」
(´<_` )「優秀な手駒だと考えているのは確か―――!?」
兄弟が分析を終える前に、オーサムは棺桶を背負って駆け、
そして振り上げた棺桶を、ハンマーのように振り下ろした。
空気が裂け、地面に衝突し、轟音が鳴り響く。
咄嗟に避けることに成功していた全員が、地面が揺れたかのような錯覚に陥った。
だが、あながち間違ってはいないのかもしれない。
棺桶が振り落とされた部分のコンクリートは粉砕され、その威力を物語っていた。
(;´_ゝ`)「おいおいおい、一体どんな馬鹿力だよ、あの野郎は!?」
(;ФωФ)「死ぬかと思った、死ぬかと思った、死ぬかと思ったぁ!!」
(´<_` )「……いや待て、様子がおかしい」
【+ 】ゞ;)「……うっ、ううぅ……うぐぅぅ……!!」
実力を十分過ぎる程に見せつけた筈のオーサムが、地面に崩れ、打ち拉がれていた。
どうやら泣いているらしい。嗚咽すら聞こえる始末である。
【+ 】ゞ;)「避けられた、避けられてしまったよぉ……。
もう駄目だぁ、ユストピー兄弟と僕がやり合える筈が無かったんだ……」
オーサムは大粒の涙を零し、弱音を吐き連ねていた。
ロマネスクは思わず絶句し、兄弟も驚きに行動を奪われてしまっていた。
【+ 】ゞ;)「僕は殺されるんだぁ、だって攻撃しちゃったもん。
首を絞められる? 銃で撃ち抜かれる? 死ぬまで殴られる?
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、死にたくない、死にたくないよぉ……」
(;´_ゝ`)「あー、そのなんだ、お前が素直にどいてくれるっていうなら、普通に見逃すぞ?」
【+ 】ゞ;)「……本当?」
(´<_` )「本当だとも、無駄な殺生は好まない性質でな」
嬉しそうな表情を浮かべるオーサムを見て、案外あっさり通れそうだと兄弟は胸を撫で下ろした。
しかし、
【+ 】ゞ゚)「……でも、それ嘘なんでしょ?」
オーサムは突如として元の冷徹な表情に戻り、問いかける。
不気味な迫力に圧され、兄弟は後ずさってしまった。
【+ 】ゞ )「分かる、分かるんだよ僕には、人はいつだって嘘をつくんだ。
一回安心させておいて騙すなんて、卑劣なことをするじゃないか、酷いじゃないか。
僕は知ってるよ、だって何回も騙されたから、今回もきっとそうなんだ」
(;´_ゝ`)「待て、過去に何があったのかは知らんが、俺達は嘘をつくつもりなどない」
【+ 】ゞ )「そんなに必死になって、よっぽど僕を殺したいの?
僕は嫌だよ、殺されたくないよ、まだまだ人生は長いんだよ?
こんなとこで死ぬなんて絶対に嫌だ、嫌だ嫌だイヤだイヤだいやだいやいやいやいやいやいや……」
オーサムは狂ったように同じ言葉を繰り返しながら、体中を掻き毟る。
血が滲み始めようともその手を止めようとはせず、『べき』という音と共に爪が剥がれ落ちた。
赤の線がその身に刻まれていき、抽象画のような模様が出来あがる。
それでもまだ掻き毟り、呟き、掻き毟り、呟き、掻き毟り……。
【+ 】ゞ゚)「そうだ!」
そうしていく内に、一つの答えを見つけた。
【+ 】ゞ゚)「殺されたくないなら、殺しちゃえば良いんだ!
なぁんだ、そういえばいつもやってる事だったね、簡単簡単!
この棺桶で叩き潰して、ぐちゃぐちゃにして、ちょっとも動かないお肉にしちゃおう!!」
他人を拒絶する最も簡単な方法は、そもそも人がいない場所にいればいい。
でも、この場所には人が訪れる。 邪魔をされる。
ならば、人を消してしまえば良い。
自らの手で、人が人でなくなるまで、叩き潰してしまえば良い。
それがオーサムの自分を守る方法、人と関わらない為の方法。
歪んだ過去は、歪んだ思想を生み、歪んだ人間が形成されていった。
オーサム=レッドフィールド、彼をアラマキが気に入る理由は、その異常な人間性が故だった。
【+ 】ゞ゚)「うううぅぅぅぅ……―――ああああああぁぁぁぁぁぁああ!!」
雄叫びを上げながら、オーサムは兄弟に襲いかかる。
棺桶を持ちながらという事もあり、移動は決して速いとは言えない。
しかし攻撃動作に入ってからの流れるような動きは速さを補い、
棺桶の放つ重厚感は敵対する相手の恐怖を呼び起こさせ、体を自然な状態にはさせてはくれない。
一撃で体を完全に破壊する威力を秘めているのだ。
当たってはいけないという想いが先行するのも当然。
結果、実際以上の速さを感じ、兄弟も避けるのが精一杯だった。
(;´_ゝ`)「くっ、やはりアーラシの所は異常な奴ばっかりだな!」
(´<_` )「以前の俺達も含めて、な!」
軽口を叩くも、砕かれていくコンクリートを見る度、兄弟はぞっとする。
オーサムは手を緩めようともせず、むしろ加速する勢いで棺桶を振り回していた。
(;´_ゝ`)「どうするんだよオトリス!」
(´<_` )「どうするも何も……攻めるしかあるまい?」
(;´_ゝ`)「俺近付きたくねーぞ、絶対に、絶対にだ!」
(´<_` )「そんな情けない決意を熱く語られてもな……」
(;´_ゝ`)「だから、行くならお前が―――ってうおわぁ!」
(´<_`;)「アニムルッ!」
砕かれたコンクリートの破片に足を取られ、アニムルが転倒する。
急いで体勢を整えようとしたが、
【+ 】ゞ゚)「うひひっ、うヒヒヒヒヒひひひひぃぃ……!!」
機を逃さんとばかりに、オーサムはスピードを上げ詰め寄る。
その速度は、体を起こして逃げようとするアニムルを上回っていて、それはつまり―――。
(;´_ゝ`)「あっ」
完璧に狙いを定めた棺桶が、アニムルに振り落とされるということを示唆していた。
―――が、時は訪れない。
棺桶は振り上げられた状態のまま、固定されている。
何事かとアニムルが恐る恐る見上げる。すると。
(;ФωФ)「ぐっ……!!」
【+ 】ゞ;)「離せ離せ離せ離せ離せはなせええぇえええええええ!!
僕に触るなぁぁぁぁああああああああああ!!」
ロマネスクが、オーサムに後ろから掴みかかり、行動を束縛していた。
しかし馬鹿力のオーサムをそう簡単に止められはせず、やや振り回され気味ではある。
それでも決して手を離そうとはしなかった。
(;´_ゝ`)「ロマネスク!」
(;ФωФ)「アニムルさん、早くっ!」
言葉にはっとし、アニムルはその場から離れた。
それを見届けると、ロマネスクは言葉を紡ぐ。
(;ФωФ)「アニムルさん、オトリスさん、今のうちに行ってくださいっ!!」
(;´_ゝ`)「な!?」
(´<_` )「馬鹿な事を言うな、お前一人でどうにかなるような相手では……」
(;ФωФ)「どうにかならなくても、どうにかしなくちゃならないんだっ!!」
ロマネスクは、オーサムの行動を封じながら叫ぶ。
普段のおどおどとした態度からは考えられない、勇ましい姿。
思いの丈を全て吐き出すかのように、力強く。
(;ФωФ)「僕の大きな体が役に立った事なんて無かった、臆病な僕には勿体ないくらい才能だったのに!
だからいつか役に立てなきゃと思っていて、いつか頑張れる時が来ると思っていて、
きっとそれは今なんだ、今僕はやらなきゃいけないんだっ!!」
(;ФωФ)「そしてこの『やらなきゃいけない時』がアニムルさん達にもあるとしたら、
それはここで僕を置いて行き、アラマキを止めることなんだっ!
アニムルさん達は行かなきゃならない、僕の為にも、他の皆のためにもっ!!」
コンプレックスと言うべきものだった。
恵まれた身体に生まれたにも関わらず、ロマネスクは体を動かすのが嫌いだった。
苦手な訳でもなく、ただ才能を蔑しろにしていた。
この業界に入ってからも、それは変わらず、事務的な作業を好んでいた。
周囲から『身体の大きさが羨ましい』と言われても、嫌味にしか感じられなかった。
しかし、最近になって考えを改め直した。
皆が、必死になって、今を生きている。
世界を守るとまで考えている者達に惹かれ、思ったのだ。
眩いくらいの生き方を見せる彼らと違って、自分の不甲斐なさは一体なんだと。
自分も、自分を最大限に生かし、彼らのように全力で今を生きたいと。
(;ФωФ)「それに、あくまで時間稼ぎをするだけであります。
こんな化け物とまともにやり合おうなんて、そこまで無謀ではないのであります」
(;´_ゝ`)「しかし……!!」
(;ФωФ)「決断するなら早く! 僕ももうこれ以上は持ちそうにありません!!」
ロマネスクの覚悟が本気であると兄弟は悟り、場を任せる事にした。
二人見合わせた後、ロマネスクに言葉を送る。
( ´_ゝ`)「無理はするなよ!」
(´<_` )「後でたっぷり飲もう、暴れようとも俺達が止めてやるからな!」
兄弟はアラマキの屋敷の中へと入っていった。
それを見届けたロマネスクがほっとすると同時、オーサムが一層の力で暴れまわり、束縛を解く。
【+ 】ゞ;)「逃げられちゃった……逃げられちゃった……ああぁぁぁあああああ!!」
そして再び棺桶を手に取り、振り上げ、振り下ろす。
今までの鬱憤を晴らすかのように、見境無く、周囲を破壊していく。
ロマネスクはそれを見て一息つき、
(;ФωФ)(やっぱり死ぬかもしれないのであります……)
しかしそれでも、やれるだけはやってやる、とオーサムを見据えた。
第十八話「世界で一番難しい問いかけに答えても祝福の鐘は鳴らされない」
川 ゚ -゚)「お茶はいるか? それともコーヒーがいいか?」
( ^ω^)「…………」
川 ゚ -゚)「厳しい顔をするな、私はコーヒーは頂くよ」
慣れた手付きでコーヒーを注ぎ、味わう。
コーヒーを啜る音だけが沈黙に響き、緊迫した雰囲気を演出する。
じっと見つめてくるばかりのブーンに堪え切れず、マリアンヌが話を切り出した。
川 ゚ -゚)「それで、今日はどういった用件で来たんだ?」
( ^ω^)「何を今更、クーも分かっている筈だお」
川 ゚ -゚)「……何の事かな」
( ^ω^)「口を濁すつもりなら言ってやるお、僕は、ドクオの居場所を聞きに来た」
単刀直入な物言いに、マリアンヌは、やはりなんの反応も示さなかった。
マリアンヌがドクオの事を隠しているのを間違いない。
その上での態度というのなら、手強いポーカーフェイスだとブーンは思った。
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