ξ゚听)ξ「知ってますか? 小便小僧は爆弾の導火線を消すために尿をかけてるんですよ」

( ^ω^)「へぇ……」

ξ*゚听)ξ「私の爆弾だったら、そんなんじゃ消えませんけどね! あはは!!」

( ^ω^)「ワァ、ソイツァ、タマゲタ」

なんて無邪気な笑顔なんだろうかと、ブーン=マストレイは苦笑した。
物騒な爆弾トリビアは、底を見せることなく語り続けられる。
本当に無駄な知識が身についていくなぁと思わざるを得なかった。


( ^ω^)「にしても、ツンはどうしてそんなに爆弾が好きなんだお?」

ξ゚听)ξ「……さぁ?」

(;^ω^)「さぁって何だお……」

ξ゚听)ξ「芸術は爆発だって言うじゃないですか、それと同じですよ」

(;^ω^)「意味が分らんどころか、聞いたことないお、そんなの……」


ツン=デレイド=クヴァニルと一般人との思考にはズレがある。
理解しろという方が無理な話だった。





( ^ω^)「まぁ、僕もちょっと変わった趣味があるから人のこと言えないかも……」

ξ゚听)ξ「どんな趣味ですか?」

( ^ω^)「下着フェチだお、おぱんちゅ大好き」

ξ;゚听)ξ「うわぁ……ないわぁ、それ……」

( ^ω^)「まじで?」

行く当てもなく、街を散歩し続ける彼らだったが、話題が尽きることはなかった。

ズレがあるからこそ、一方にとっての一方の話は新鮮に感じられるものである。
趣味は合わないが、相性が良いというのはやはり確かだった。



( ^ω^)「いやしかし、女性の下着というのはとても素晴らしいものであって……」


ブーンが熱く語り始めようとしたが、とあるものに目を奪われ、その口を閉ざした。





道端の男――青の渋みかかったジーンズに赤茶のパーカーを着た――がネコの頭を撫でている。

アメリカン・ショートヘアと呼ばれる種類の猫。
ここVIPでは最もメジャーで、ペットとしての需要は高い。
灰色のボディに黒縞の模様が可愛らしく、かつ凛々しい顔立ちは美しい。

動物を一般人が愛でている。
そんな、極有り触れた、日常の光景。


しかし、ブーンの心は奪われた。

何か、直感とも呼べる何かが、彼の心をざわつかせていた。


ツンが心配そうにブーンの顔を覗き込んだ。
それでも瞳は逸らさない、唯真っ直ぐに男の方へと。


そして、その嫌な予感は現実となり―――


男は、

猫の首を、


思い切り締め上げた。





みぎゃあ。言葉にならない悲鳴を上げた猫。
それは断末魔だった。まもなく首がだらんと垂れさがり、ぴくりとも動かなくなった。

それでも男は満足しない。
強く、強く、猫の目玉が飛び出してくるまで締め上げた。
その目玉を掴み、硝子体を手に染み込ませるかのように弄っている。
ぬちゃぬちゃと音を立てる様子に恍惚としていた。

次に、猫の口に両の手の指を突っ込み、左右に引っ張り引き裂く。
上顎の歯茎に手を掛け、頭蓋骨ごと引っぺがす。
見る間もなく無残な姿へと変貌していく猫、それでも男は満足しない。

首元を握り、捻じり、千切った。
頭部と胴体は完全に分断され、大量の血液が溢れ出す。
血液は赤いあぶくとなり、弾け、男の頬を僅かに赤く染め上げる、それでも男は満足しない。

脊椎は赤黒い血肉に囲まれ、骨本体の色を失っていた。
そんなグロテスクな断面。しかし男は物怖じすることなく中身を触り始める。
無理矢理に体内を抉じ開けていくその行為を、宝箱を漁るように楽しんでいた。

いくつかの臓器が体外へ漏れ出した頃、ようやく男は満足した。

――いや、飽きたのだ。

肉塊と化したソレを放り投げ、男は振り返った。





ξ゚听)ξ「酷い、血の臭い」

(;^ω^)「そ、そりゃあ、あんな事してれば……」

ξ゚听)ξ「違うんです、あの男自体からするんです」

(;^ω^)「……え?」


振り返った男の顔を見て、ブーンは軽く強張った。

ギョロついた目、猫よりも大きく、淀んだ黒が見る者を釘付けにする。
口元は笑っている。 しかしそれは決して笑顔ではない。

一言でその形相を現すなら、第一に恐ろしいと言うのが妥当だった。


( <●><●>)「よぉ、マッドボマー、まさか女だったとは思わなんだぜ。
       最初は間違いかなーと思ったんだけどさ、近付いて分かった、俺と同類だ。
       火薬に入り混じった血の臭い、死臭、体中にこびり付いて取れないよな」


臭い、だが嗅覚に頼ったものではない。

異常者だけに分かるもの。 第六感でツンとマス=ワカッテは通じ合った。





マスは立ち上がり、手を頭の後ろで組みながらゆっくりと歩み出す。
ブーンとツンが後退りしたのは、意識したものではなかった。


( <●><●>)「いやさぁ、お前ら見つけて興奮しちゃってさ〜。
       いきなり斬りかかるのも嫌っしょ?? 別に俺は良いんだけどね。
       だからちょっとした興奮冷却材として、そこらにいた猫で遊んでたって訳」

ξ゚听)ξ「……素敵な趣味ですこと」


(*<●><●>)「だろだろ?? 生き物をバッラバラにするの楽しくってしょうがないんだよね。  
       あの生臭さとか感触とか!? 最ッ高の玩具だわ、人間のなら尚更!!
       
       お前なら分かるか? 分かるだろ? 分かるはずだよな? 分かれよぉー!!」


一定しない口調。付き過ぎる抑揚。
異常者であることは火を見るより明らかだった。

対してツンは冷静だった。 

いや、外面だけ装っていた。

マス=ワカッテとツン=デレイド=クヴァニルの本質は似通っている。
心の奥底で、燃え上がるような興奮が芽生え始めていた。





( <●><●>)「俺はよぉー、そこにいるブーン=マストレイの命を貰いに来たんだ。
       でもよ、お前がソレを守ってるんだろ?」

ξ゚听)ξ「そういうことになりますね」


(*<●><●>)「じゃあ、お前もぶっ殺さなけりゃあいけないよな、うん、仕方ない!
       だって殺さないと邪魔だし、ていうか、あれ? むしろブーン=マストレイが邪魔だし。
       
       俺マッドボマー殺せればいいもん。 命令? そんなん知ったこっちゃないって!!
       話に一貫性が無い? 察しろよ、俺という宇宙を感じて真の言葉を見抜けよ、こん畜生!!」


途中からはヘッドバンキングの如く頭を震わせ、マスは叫んでいた。
救いだったのは、ここが薄汚れた裏路地であり、人目を引くことが無い事か。


ξ゚听)ξ「ブーン、あんまり余計な敵を呼ばないでくれませんか?」

(;^ω^)「僕に言われても……」

ξ゚听)ξ「まぁいいです、話は後でゆっくりしましょう……奢りですよ」

(;^ω^)「……ピッツァでもパスタでも、お好きな物を」





(((; <●><●>))))「俺を無視するなよ、うわあああああああああああああ!!」

ξ゚听)ξ「はいはい、今相手してあげますから、ね?」

(;^ω^)(何だこれ……)



( <●><●>)「ともかくだ、俺の名前はマス=ワカッテ、ドゥユーノウ?」

ξ゚听)ξ「分かってますよ、貴方以外にこんな殺気出せる訳無いじゃないですか。
      私の名前はツン=デレイド=クヴァニルです、まぁ所謂マッドボマーってやつですね。
      非常に気に食わない名前ですけど……今は目を瞑ります」


(*<●><●>)「オッケー、ツン=デレイド=クヴァニル、会いたかったぜベイビー。
       にしてもマス=ワカッテを分かってますって、ユーモア溢れてるねぇ、ヒャッフォウ!!

       こんなに興奮したのはいつ以来だろうか……心臓バクバクよ?
       バクバクし過ぎで、自分の体切り開いて、直接見ちゃいたいくらいよ?」


ξ゚听)ξ「私が代わりに開いて上げましょうか」

(*<●><●>)「あらあら、なんてお節介な人!! ……さて、と」


取り出した大型のククリナイフ、手元で二度三度振るった、後。






( <●><●>)「さぁ! 俺と遊ぼうか!!」






弾丸の如く、疾駆





文字通り、遊戯を楽しむ子の様に





彼の『遊び』は始まった

















  第九話「猫の一生は愛によって締め括られた」













ξ゚听)ξ「ブーン、ナイフです!!」

(;^ω^)「えっ、銃があるのに何で……」

訳は、構えて引き金を引くという『二の動作』が必要な銃よりも、
振るうという『一の動作』で良いナイフが近接戦闘には向いていたから。

ξ゚听)ξ「いいから早く貸してくださいっ!!」

(;^ω^)「え、あ!」


ツンはブーンが腰元から抜き出したナイフを奪い取り、構える。


戦闘態勢。
攻め寄るマスに向かってナイフを突き出し、警戒。

ブーン=マストレイのナイフは護身用である。
故にサイズは決して大きくはない。刀身が手の平程、マスのククリの約半分。

戦闘用に作られた諸刃の小刀――所謂ダガー。
柄の部分に巻かれた布は僅かに擦り切れているばかりで、それが多く使用されていないと証明する。
唯、刃はよく研がれている。 緊急時用ならではの状態。
小型と言えど、使い様によっては十分な殺傷力がある事を、銀の輝きが語っていた。

しかし、マスはそれでもたじろぐ様子一つ見せなかった。




( <●><●>)「うらッ!!」

駆けながら振り上げ、射程圏内に入ると共に振り下ろす。
軌跡は綺麗な縦一文字を描き、ツンの前に突き出した腕を襲いかかる。

ξ゚听)ξ「――ッ!!」

咄嗟に腕を引き、バックステップ。
一つの斬撃を見ただけで、マスの実力が本物であると理解し、実力が僅かに劣ることも理解した。


ξ゚听)ξ「……いいナイフ持ってますねぇ」

( <●><●>)「だろ? 俺のお気にってか、相棒って感じ?」


ナイフのサイズだけでなく、互いの身長差も要因だった。
リーチの違いがあり過ぎる。懐に潜り込まなければツンの攻撃が届くことはない。

しかし、そこまで行くのが果てしなく困難な道のり。
重量を感じさせるククリナイフを、マスは手足の様に操る。
その為、中間距離でククリを振るわれると、回避に専念せねばならず、遠距離に追いやられてしまう。





ξ゚听)ξ「……それでも」

(*<●><●>)「かまぁ〜ん」

只管、前へ。

前進しない事には何も始まらない。
ダガーが紙一重で届くギリギリの距離――入った。

ξ゚听)ξ「――はっ!」
上下左右、広範囲に撒かれる刺突。
右足で踏み込み右手で突き出し、敵の体を貫く力を込めて。

( <●><●>)「良い突きだなぁ……でも、だ」

それを上半身の動きだけでいなしていたマスは、体を捻ると共に右足を軸に回転。
ククリの質量に遠心力を足した回転斬り。

ξ;゚听)ξ「わわわ……っと!!」

( <●><●>)「まだまだ足りねぇ、もっともっとハイになろうぜぃ!!」

ξ;゚听)ξ「うっわ、憎らしい」

伏せてかわしたツンを見下し、マスは嘲る。
空気を舐めた舌の動きは、ツンの体を沿って動いていた。

どちらとも言わず距離を置き、互いに睨み合ったまま静止。




( ^ω^)「ツン!」

ξ゚听)ξ「はい!」

( ^ω^)「僕に出来る事は!」

ξ゚听)ξ「ありません!」


(;^ω^)「……そこを何とか!」

ξ゚听)ξ「応援でもどうぞ!」



( <●><●>)「仲ぁ良いんだねぇ、アンタら」

ξ゚听)ξ「でしょう? 世間も羨むなんとやらって奴です」


ふれーふれーという応援歌の下で二人は笑い合い、そして同時に前に出る。




地を這ったククリはロケットが射出されるように飛び出す。
天に舞い上がったククリは獲物を捕る鷹のように急降下する。

大型のククリは大きさと重さ、湾曲した刀身から斧のような扱いが推奨される。

振り上げ、振り下ろし、斜め切り、横一文字。
即ち『突き』よりも『斬り』に特化された戦闘用ナイフだ。

一撃一撃がダガー等のものとは比べ物にならず、マス=ワカッテのレベルになれば、骨ごと肉体を分断する。


( <●><●>)「俺のナイフをここまで避けれる奴ってのは割と珍しいんだぜぇ!?」

ξ゚听)ξ「そうですか、光栄ですね」

(*<●><●>)「決めた、お前を殺したらまずは脚で遊ぼう。
       綺麗なヒラメ筋してるんだろうなぁ……うっわ、早く見てぇええええ!」

ξ゚听)ξ「乙女に向かって、ムキムキみたいに言うの止めてもらえません?」


であるからこそ、ツンは回避に重点を置かなければならなかった。
避け続け、隙が生まれたならば刺突を繰り出す。
しかし、その隙でさえも微々たるものであり、また時の経過と共に少なくなっていく。
マスは未だ成長する。 新たな敵に対応し、更なる加速で翻弄する。




それでも。


(*<●><●>)「あっひはぁ!!」

ξ゚听)ξ「何ですかそれ、グー●ィー? 消されますよ」


鮮やかな横一線を描く斬撃を屈んで避け、手で体を支えて蹴りを放つ。
跳躍によりかわされたとはいえ、当たれば確実にマスは転んでいただろう。
本来ダガーは体勢を崩した相手に止めを与えるのを得意とする。装甲の僅かな合間に刺し込む為に用いられることが多い武具。
であるからこそ打撃から始め、コンビネーションの最後にダガーで決めるというツンの選択は正しい。

そう、それでも勝てると信じていた。

ナイフ同士の質量差は絶対的な不利だったが、それこそが付け入る隙だと判断した。

質量が大きいというのは何も有利に働くことばかりではない。
質量に比例して、振るう動作に必要な力も大きくなる、斬撃が単調になる。
一瞬の速さと威力との引き換えに、連打力の低下、欠ける精密性。

死と隣り合わせの状況は、ツンの集中を高め、段々と見切りを始めている。

一撃を避けさえすれば、攻撃のチャンスは確実に訪れる。




左斜め下からのククリ。それを避けると同時に一歩踏み込む。


――筈だったのだが


( <●><●>)「……イケる……と思っただろ?」

その時足を止めたのは、予測ではなく単なる勘。
背筋に走った悪寒は、ツンの動きを奪い取った。

そして、その生まれ持っての危機感知能力には感謝しなければならない。


ξ゚听)ξ「……てっきり、そう思ったんですけどねぇ……」

頬が切れていた。

ククリは、上空で切り返し、右斜め上から振り落とされていた。


(*<●><●>)「冷静な顔してー! 焦っちゃってること、分かってますよぉ?
       今だって、もうちょいでマジで死んじゃう五秒前だったもんねぇ!」

ξ゚听)ξ「その元ネタって言うんですか? 良い歌ですよねぇマジで」

(*<●><●>)「おおう! 俺も大好きなんだよねマジで!」


(;^ω^)(だから時折入るこれは何だお……)




( <●><●>)「よしよし、それじゃあ秘密を教えてやろう!
       ……お前はさぁ、俺の相棒が重くて大変って思っちゃてるんだろう?」

ξ゚听)ξ「はい」

(*<●><●>)「ところがどっこいー……なんてね、その通り!!
       確かに重いからさー、振るうのにもコツがいるんだよねぇ」

ξ゚听)ξ「へぇ、どんな?」


( <●><●>) 「手首を固定して、肘から先だけを動かさなけりゃいけない。
       ダーツとかみたいな感じ? うっわ、お洒落な例えだわ、カッコイイ。
       おまけに片刃だからさー、お前の思う通り、キツイんだわこれが」

決して簡単とは言えないその動作を、マスは軽く実演してみせる。
俊敏で無駄のない動きは、君の悪いほど滑らかで、美しかった。


( <●><●>) 「でも、ちょっとばっかしサービスだ。
       手首の固定を止めるぜ、最高潮で盛り上げていくぜ。
   
       疲れる? 腱鞘炎? そんなのならねぇ、気にしねぇ。
       何故なら俺は強い、無敵だ、誰にも止められんだ俺様の熱いハートの鼓動はよぉ!!」


より素早く、より鋭く、マス=ワカッテは駆け抜けた。




一瞬。

瞬きをするか否かの時間で、マスとツンとの距離は詰められた。
同時に繰り出される斬撃、長々と言った演説は無駄じゃない。

速さは先程までとの比になっていなかった。
二発目の行動までにかかる溜めの時間は半分近くまで縮められいている。
      

( <●><●>)「実はよぉ、これでも俺は退屈で仕方なかったんだ」

避けきれず衣服が切り裂かれる、皮膚を掠めて赤い線が刻まれる。


( <●><●>)「お前の太刀筋は全然なってねぇ、というより意味が分かんネぇ」

攻撃を返す余裕などない、全神経は回避のみに注がれている。


( <●><●>)「何で俺を殺そうとする? 殺すために戦おうとする?
       違うだろ、殺しで終わりじゃねぇだろ、殺してバラバラにしてやろうってのが俺達みたいな人種だろ。
       肉の一片一片まで切り刻んでぐっちゃぐちゃにしてやろうって気がお前にはねぇ」






( <●><●>)「―――お前には、狂気ってもんが全然足らねぇ」




金属音。


ダガーはツンの手から弾かれ、遠く離れて行った。

コンクリートの上を回りながら、滑るように。







( <●><●>)「なぁ、どうしてだ? 何故本気でやらない?
      俺は楽しみにしてたんだぜ? マッドボマーとなら本気で遊べると思ってたんだぜ?」

ξ; )ξ「……っ」

( <●><●>) ちっ、だんまりかよ、あんまりだぜ、ツン=デレイド=クヴァニル」


無言で俯くツンを尻目に、マスはブーンへと歩み寄る。
その瞳には落胆の色が浮かんでいた。


(;^ω^)「ぼ、僕とやる気かお?」

(*<●><●>)「黙っとけ♪」

(; ゚ω゚)「たわばぁっ!!」


腹部に強烈なボディブロー。
ブーンは体中の酸素を吐き出す感覚と共に、その場へと崩れ落ちた。


( <●><●>) 「何だこいつ、じぃさんもなんでこんな奴を捕まえようと……まぁいいか」


パーカーのフードを被り、ツンを見据えて言った。






( <●><●>) 「また来るぜ、ツン=デレイド=クヴァニル。
       今日はあの日って奴なのかどうか知らんが、どうやら真面目にやってくれねぇみたいだからな。
   
       次は確実に刻むが……お前もちゃんと俺を楽しませる遊びをしてくれよ?」



そんな言葉を吐き捨て、マス=ワカッテは去って行った。



場には立ち尽くすツンと、物言わぬまま気絶するブーンだけが残されている。



唯一つ言える事は、ツンがマスに完敗を喫したということだった。






/ ,' 3 「任務失敗だと?」

(*<●><●>)「そうそう、ミスちゃった、てへ♪
      いやー、中々にマッドボマーが強くて追い返されちゃってさー」

アラマキの部屋の中で、マスはそんな軽口を叩いていた。

当然、真実は語らない。
遊びを楽しむ為だけに逃したとは、流石に言えなかった。


/ ,' 3 「……まぁいい、もう一度行って来い。
    お前が負けるなどという事があり得ないことは分かっている」

( <●><●>)「ありゃりゃ、お咎めは無しなんすねぇ。
       爺さんにしては珍しいというか何というか……あ、ボケた?」

/ ,' 3 「黙れ、三度目は無いと思え」

( <●><●>)「あいよ、まぁ三回目は……多分飽きてるだろうし無いさね」


アラマキもまた、その嘘を完璧にまでとは言わないが見抜いていた。
腕の立つ相手を前にすると、マスが遊びに徹してしまう癖は周知の事だった。




マスは戯れに指先でナイフをくるりくるりと回す。
旋風を起こすかという程の回転数、曲芸なら見惚れてしまうだろう。
大型のククリをこうも気軽に扱えるのは彼ならではの所業。

回転の勢いそのままに、天井擦れ擦れの所まで放り投げた。
上昇を終えて、重力に従って降りてくるククリを、掴み取るようにキャッチする。

拍手を送る者はいない。

それが、芸でなく、仕事の練習の意味を持つと知っていたから。
ナイフに慣れるということは、それ即ち、人を捌くことの上達に繋がっていた。


( <●><●>)「寝るわ、お休み」


マスはそのままアラマキの部屋に寝転び、暫くするといびきを立て始めた。


使用人の一人、オーサム=レッドフィールドは、そんな彼にタオルケットをかけていた。





ぼんやりとしていた視界に差し込まれる光は眩しかった。

起床と共に不快な鈍痛。 体中に駆け巡るかのよう。
死の後は傷なども完治しているので、どうせなら殺してくれれば良かったと思う。


(;^ω^)「あいたたた……だから暴力って最低だと思うお」


死より暴行を嫌う人間なんて、僕ぐらいのものなんじゃないだろうか。
つくづく不死身の肉体というものに嫌悪感が湧く。


(;^ω^)「ツン、まさかお前が負けるなんて、びっくりだお」


しかし、返事は、無かった。

辺りを見渡すも、姿は見えない。
場から離れない程度に探してみても、人のいる気配はない。
声を荒げて叫んでみても、空しく響くだけ。





( ^ω^)「……ツン?」





その日、ツン=デレイド=クヴァニルは






僕の前から、姿を消した。





―――The story might continue





ブーン=マストレイの応援歌は耳障り。
マス=ワカッテはライオンのように熟睡する。
オーサム=レッドフィールドの意外な優しさは誰にも評価されない。


お疲れ様です。
ありがとうございます。
終わった。
書くのに普段の倍はかかった。
今日は終わりです。
それでは。
また。

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