ビロードがボールを持ち、腰を少しだけ低くする。
おれもそれに合わせて、腰を下に下げた。

( ><)「……」

('A`) 「……」

このディフェンスの体型になるのも久しぶりだった。
去年の夏、部活を引退して以来だろうか。
いや、その後にひろゆき高校の練習に参加したから、秋以来か。

そんな事が頭によぎる。
自分も随分と集中力がなくなったものだ、と感じた。

( ><)

('A`) 「……!」

ビロードの重心が微妙に左に掛かる。
自分の右足を少し浮かせて、いつでも動ける状態に持ち込んだ。








  ( ^ω^)ばすけっとからバスケットのようです 第三話【ビロードの本気】












──ダムッ!

予想通りだった。
ビロードは左足を軸にして、右へドリブルを突いた。
俺はすぐさま右へスライド移動し、相手の正面に回りこむ。

(;><)「!!」

本人はこれで抜けるつもりだったのだろう。
急なストップにより高くなったドリブル、隙だらけのボール。

──パンッ!

(;><)「あ!」

俺の右手がボールを下にはたいた。
弾かれたボールを俺は両手で掴み取り、それを持ち上げる。

('A`) 「次は俺のオフェンスだな」



(;><)「そ、そんなのわかってるんです!」

ビロードと俺の位置が逆転する。
今度は、俺がゴールの方向を向く番だ。

ビロードが腰を落とした。
なるほど、この前のブーンとは随分違った構えだ。
中学の時に部活をやっていただけあって、その構えはマシなものであった。

('A`) (だけど……)

隙がありすぎる。
片足だけにかけられた重心、これでは俊敏に動けないだろう。

鋭く右にドリブルをついた。
ビロードの手が俺に向かってくる。
だが、あまりに遅い。

奴の手が俺の元いた場所に届くとき、既に俺は奴の横を通り過ぎていた。


完全に抜き去り、目の前にゴールがある。

('A`) (手は肩から上にあげちゃいけないんだったな)

胸の辺りから、放り投げるようにレイアップを放つ。
本来ならばこのような打ち方はしないが、特別ルールのため仕方が無い。

──パスッ

静かな音を立ててネットが揺れた。
バウンドするボールを掴み、それをビロードに投げつける。

('A`) 「次はお前のオフェンスでいいぜ」

(;><)「……」

もう一度構えるビロードと俺。
両足に綺麗に重心をかけ、どちらにも動けるようにしておく。
視線は腰の辺りだ。
こうすることで、相手の素早い動きを把握できる。


一向に動こうとしないビロード。
先ほどのドライブで、簡単に抜けないことは察したらしい。

ボールを上下に動かし、俺を惑わそうとする。
しかし、その動きがあまりに単純すぎて、本来の意味を成していなかった。

しばらく経ち、ついにビロードが動いた。

( ><)「……こーすれば、簡単なんです!」

突然シュートフォームに入るビロード。
位置はちょうどスリーポイントラインだ。

( ><)「ブロックさえなければ、僕だって──」

ビロードが何やら言う間にも、俺は素早くビロードの膝元まで近づく。
ベッタリとつくような形になり、相手の膝の動きを封じた。





(;><)(う、動けないんです……!)

膝が封じられては、ドライブはおろか、シュートさえ不可能になる。
飛ぶことすらできなくなるのだ。

こうなってしまっては、苦し紛れにパスを出すしかない。
しかし、そのパス相手すら、この1オン1では存在しないのだ。

(;><)「は、離れろなんです!」

俺の手からボールを遠ざけようと、暴れている。
だがしかし、それも時間の問題。

ついに、俺の手がボールを弾いた。

(;><)「あっ!」

('A`) 「もーらいっと」

零れ落ちたボール。
それを手にする俺。
もう一度、攻守交替だ。



('A`) 「早くディフェンスしろよ」

俺がボールを持っていても、ビロードは一向にディフェンスの構えをしなかった。
ただ棒立ちのような格好で、俺に背を向けている。

( ><)「最初から、こうすれば良かったんです」

すたすたと音を立てて歩き出す。
向かった場所は、ゴール下。

( ><)「ここでブロックだけを考えていれば、お前にシュートは打てないんです!」

ゴール下に立ち、大きく手を上げるビロード。
身長は小さいといえど、ジャンプすればブロックくらいはできる。
特に、手を肩より上にあげない相手ならば、それは容易いのだ。

('A`) 「……それじゃ、いくぜ」

ディフェンスが目の前にいないため、簡単にドリブルをつく。
スリーを打とうとも考えたが、流石に適当なシュートフォームで入るとは思わなかった。


俺が打てるシュートは、放り投げるレイアップのみ。
だが、ゴール下にはビロードがいる。

( ><)「分かりましたか!身長が小さい奴は、いくら頑張っても無意味って事!
      たとえスリーを打とうとしても、簡単にブロックされてしまうんです!」

状況が少し違う気もするが、それは気にしない。
この馬鹿の考えていることなど、理解しようとも思えないのだ。

('A`) 「……」

やる事は決まった。
俺は勢いよくドリブルを付き、前に進む。
スピードはそこそこ出ている、すぐにゴール下まで距離を縮めた。

( ><)「さぁ、シュートにきやがれなんです!」

ビロードの前まで突進するようにドリブルをつく。
相手が、一歩だけ前に出てくる姿勢を見せた。


──ダンッ!

相手が足を出した瞬間に、ドリブルを左から右に変えた。
基本的な技、フロントチェンジだ。
鋭く、そして低くついたそのドリブルに、ビロードは反応できない。

( ><)「ま、まだなんです!」

中々すばしっこい奴だった。
完璧とは言わないが、俺の横にひっつく感じで、着いて来ている。
これだと、俺の低いレイアップはブロックされてしまう。

だが、ここまでは、予想できたことだった。





──ヒュッ

風を切る音が聞こえた。
相手が俺の横を通る瞬間に、俺はボールを少し浮かせ、そのまま後ろ向きに回転する。
バックロール。

走りすぎていくビロードの後ろを、俺がターンをしながら通り過ぎていく。
完全に相手を置き去りにした。

(;><)「ヤバイ……んです!!」

俺がシュートを打とうと飛んだ瞬間、ビロードも同時に飛んだ。
運が悪いのか、ビロードが上手いのか。
ブロックのタイミングは、ドンピシャになってしまった。


( ><)(これは……ブロックできるんです!!)




空中で、身体を捻る。
横から飛んできたビロードに、背中を見せる。

飛んだときの慣性に従い、ゴールに近づく俺。
そして、俺に近づくビロード。

──ドンッ

俺とビロードの身体が、空中でぶつかった。
ぐらっ、と揺れる視界。

だが、指先だけは、まだずれていない。

('A`) (……入れ!)

指先で弾くようにボールを放つ。
できる限り回転をかけて、真っ直ぐにボールが飛ぶようにした。

ぐんぐんと上に上がっていく、放たれたボール。
もう少し……もう少し上がれ……!



───パスッ



(;^ω^)「入ったお…・・・」

(;><)「バスケットカウント……」

('A`) 「ワンスローだな」

リングに吸い込まれるようにして入ったボール。
加えて、ビロードのディフェンスファウル。

( ><)「……」

('A`) 「今のはちょっと焦ったけどな……。
    まぁ、"俺より高い"ビロード君からワンスローもらえて、ラッキーかな」

( ><)「……なんです……」

('A`) 「あ?」

( ><)「偶然なんです!今のが入るはずがないんです!」




( ><)「おかしいんです……!僕は……僕は今まで……!」

拳を握り締め、ぷるぷると震えだすビロード。
どうやら感情的な人間らしい。

(;><)「背が小さくて……何も……」

今にも泣き出しそうになっている。
ふぅ、と小さく息を吐いて、俺は口を開いた。

('A`) 「相手のシュートを防ぐには、相手の下を封じればいい。
    ドリブルをカットするなり、相手の動きを封じるなりだ」

さっき、俺がしたようにな。と心の中で付け加える。

('A`) 「……オフェンスに関しても、もう分かるはずだ」

(;><)「……!」

('A`) 「小さいことを弱点にするんじゃない。
    小さいからできることを、武器にするんだ」




('A`) 「実際、さっきの最後のオフェンス。
    俺がもう少し背の高い人間だったら、あのゴール下での鋭いドリブルはつけなかった。
    ドリブルが上手い奴だとしても、あそこまで細かい動きをつけるには、身体のキレも必要になるからな」

('A`) 「それと、最後に放ったシュート。
    相手にボールさえ見せなければ、ブロックなんて出来るはずが無い。
    回転を掛ければ、縦横ある程度の距離は補えるしな」

回転をかけたまま、ボードに当てることで、綺麗に入れることも出来る。
上の大会になっては、普通のレイアップを打てることすらなくなってくるのだから、
こう言った"ゴール下での小技"が必要になってくるのだ。

( ><)「……そんなの、理想論なんです」

( ><)「僕みたいな、一般人が……そんな高度な技、できるはずないんです」

ここまで来て、まで言うか。とも思った。
本気でぶん殴りたいとも思う。

だが、それを止めた人物がいた。


( ^ω^)「違うお」

口を挟んできたのは、内藤だった。
先ほどの俺達の1オン1を、横から見ていたのだ。

( ^ω^)「ドクオ君だって、最初からこんなに上手かったんじゃないんだお」

……知ったような口を利かれると少しだけ腹が立つ。
だが、次の言葉で、それも少し解消された。

( ^ω^)「一日五時間だお」

('A`) 「……!」

( ><)「……?」

( ^ω^)「ドクオ君が、中学時代にしていた、練習時間」




( ^ω^)「前、雑誌のインタビューで言ってたんだお」

そういえば、そういうコメントもしたような気がする。
事実、中学時代は、4~5時間は練習をしていたものだ。

( ^ω^)「部活で3時間。自主練習が、2時間だお」

やけに詳しく知っている。
ちょっとだけ、ストーカーのような恐怖感。

( ^ω^)「……誰だって、同じなんだお」

そして、また訪れる静寂。
静かな体育館に、流れる風。


そして、声。


( ><)「……僕も、なれますか……?」



( ><)「僕も……一杯練習して、一杯練習して……」

( ><)「本当に頑張ったら……ドクオ君みたいに、なれますか?」



('A`) 「無理」

(;><)「はい!?」



('A`) 「俺とお前じゃタイプが違うだろ?人それぞれ、得意技とかあるんだし……」

(;><)「あ、ああ……(一瞬焦ったんです……)」




('A`) 「ま、お前じゃ、練習したって上手くなれねーよ」




(#><)「なるんです!」

体育館一杯に響く、ビロードの叫び声。
余韻が残る中、さらにそれは続く。

(#><)「誰よりも練習して、上手くなって、すんごくなって!!」

(#><)「ドクオ君を……いつか必ず、ぶち倒すんです!!!!!」


ビロードが言い放った。
今までのような、腐った目じゃなく、
決意が篭った、真剣な表情。


('A`) 「……それじゃ」

(*^ω^)「3人目の部員……だお!!!」

( ><)「……僕がドクオ君を倒す、その時まで。
       よろしくお願いしますなんです!!」





人が本気になれば、凄い結果が付いてくる。
だけど、人が本気になるなんて、そう滅多にあるもんじゃない。

だけど、この体育館に。
この狭い体育館の中に、「本気になった人間」が、3人もいる。

まだ、どれくらいの本気なのかは分からないけど、
火が灯っている、熱い本気だ。


──部員は、3人集まった。
VIP高校、男子バスケットボール部が、今、誕生しようとしていた。


第三話 終

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