( ^ω^)ブーンが高校バスケで日本一を目指すようです 第11章 紡がれる想い
――カリカリカリカリ……
時刻は午後11時。深夜の職員室でショボンはひたすら紙に
何かを書き続けていた。
(´・ω・`)「ん〜…これだとちょっと膝に負担がかかりやすいな…これも却下かな…」
紙をくしゃくしゃとにぎりしめ、拳大に丸めた紙をショボンは
椅子に座ったまま上半身だけでシュートフォームを作り、ごみ箱に向けて放った。
――カサッ…
(´・ω・`)「ナイッシューショボン…っと…ふぅ、なかなか思い通りには作れないな…」
ショボンは明日の練習メニューを考えていた。ブーン達が入学して10日。
通常ではありえない練習の展開。やりすぎた…ショボンは初めそう思った。
ショボンはおもむろにブリーフケースからノートパソコンを取り出し、起動した。
一枚のフロッピーディスクを取り出す。少し黄ばんだラベルには筆ペンを使い、
美しい字で『荒巻流籠球理論』と書かれていた。
フロッピーディスクを挿入し、表示されたファイルを開く。
(´・ω・`)「これはやっぱりやめといたほうがいいだろうなぁ…」
画面に羅列された文字の内容は全て練習メニューで、一番上から
順にこなしていくよう、冒頭に書かれていた。
その最初のメニューにあったのは
『シャトルラン150本、ダッシュ150本を1セットとする。これを3セット、10日間継続して行う。』
だった。ショボンは迷っていた。初めてこれを見た時、ショボンはこのメニューをありえない、と思った。
体にどれくらいの負担がかかるのかをまず自分で試そうと思ったが、
ショボンの身体はそれを許さなかった。ゆえにショボンは『荒巻流籠球理論』のメニューを
スポーツ医学に則り、様々な方向から徹底的に検証した。
すると、一見時代遅れの地獄のスパルタ練習に見えた『荒巻流籠球理論』は論理的にも医学的にも
実に理にかなった練習法だった。これにはショボンも心底驚いたが所詮はデータ、机上の空論だ。
人間というものは皆違う。それぞれが違う考えを持ち、好きなもの、嫌いなものがある。
『荒巻流籠球理論』がどれほどに優れたメニューだったとしても、それに取り組む人間が
精神的にそれを望まなかったり、精神が拒絶反応を起こしたら…そんな精神状態でメニューに
取り組むことは今後バスケットを続けるにあたり、必ずなんらかの支障をきたす。
ショボンはそれを懸念していた。もしもブーン達の精神が望まないような練習を
自分が押しつけているのだとしたら…自分は5つもの芽を潰すことになる。
指導者として、一人の人間として…ショボンは迷っていた。
(´・ω・`)「ふーっ…しかしまさか入学したての高校生がこれをこなせるなんて
思わなかったけどなぁ…これ以上は…」
ショボンが浅くため息をつき伸びをしたとき
――ガラガラガラ…
職員室の扉が開いた。
ショボンが驚いて入り口を見るとそこには用務員が立っていた。
用務員「おや、ショボン先生。こんな時間までご熱心ですねぇ」
(´・ω・`)「いえ、そんなことは…」
用務員「電気消し忘れたかと思って見にきたんですがね、びっくりしましたよ
まだお若いのにこんな時間まで…」
(´・ω・`)「いえ、今日はちょっと部活のことを考えていたので…すみません、
そろそろ帰らなきゃ用務員さんが帰れませんよね」
用務員「いいよいいよ、気にしないでください。私も勤務時間は過ぎてますしね、
神聖なる職場での酒というのもなかなか乙なものですよ」
そう言うと用務員は古ぼけたリュックサックからカップ酒を取り出して一気に飲み干した。
用務員「年をとってくるとね、段々と楽しみが限られてくるんですよ。
私の楽しみは恥ずかしいことにもっぱら酒を飲むことでね」
(´・ω・`)「そんなこというほど歳をとられてはいないじゃありませんか。酒は僕もたしなみますしね」
ショボンは立ち上がり職員室にある冷蔵庫へ向かった。
(´・ω・`)「このバーボンはサービスだから(ry」
用務員「それじゃあ、ありがたくいただこうかな」
――カチンッ
二人は無言での乾杯をした。
用務員「ふむ…やはり人と飲む酒は美味い…ところでショボン君?」
用務員の態度が親しげなものへと変わった。
用務員「なぜ君が『荒巻流籠球理論』のデータを?」
(´・ω・`)「………!?」
用務員「…少し昔の話ををさせて欲しい」
そう言うと用務員は淡々と語りだした。用務員は30年ほど前は
VIP高バスケ部であったこと、当時のメンバーで荒巻という部員がキャプテンを務め、
全国大会を目指していたこと…。
ショボンは驚きのあまりただ呆然と用務員の話を聞いていた。
用務員「君は…荒巻と接点があったのかい?」
この質問ははぐらかすことができない。そう判断したショボンは語り始めた。
(´・ω・`)「高3の時……荒巻先生に日本代表の候補に指名されました」
用務員「…大したものだね…荒巻が直々に指名したのかい?」
(´・ω・`)「そうです」
用務員「…よほどの可能性を見いだされたんだろうね、君は…。
荒巻の人を見る目は確かだったからね。しかし私はこれまで
代表選手となった選手の中で君の名前を一度も聞いたことがない…」
(´・ω・`)「代表の合宿で海外に飛んだとき最終日の締めとなる親善試合の最中に…心臓を患いました」
用務員「……!! それは気の毒だったね…無礼を承知で聞くが…今も重いのかい?」
(´・ω・`)「いえ、発作は急性のものだったようで、一度意識を失い目覚めた時には
全く異常がなかったそうです。医者も原因不明で頭を悩ませていましたね」
用務員「…君は今はバスケは…?」
(´・ω・`)「断念しました。急性でしかも1回こっきりの発作だったけれど
周りの人間の猛反対もありましたし…再発の可能性も全くないとは言い切れませんから」
用務員「そうだったのか…辛い話をさせてしまったね…」
(´・ω・`)「気にしないでください。昔のことですから。それに…僕には夢があるんです」
用務員「それはいい!ぜひ聞かせてくれないか?」
(´・ω・`)「大した夢ではありませんけどね。このチームで荒巻先生の指導するチームと戦いたい……
選手としてはもうバスケットは出来ないけど、違う道でバスケットに携わり、
成長した僕を見てもらいたい…そんな夢を見てるんです。」
用務員「…………」
(´・ω・`)「どうしようもなく途方な夢ですよね。もう連絡も取れずどこにいるのかもわからないし、
指導者を続けているのかもわからない。そんな人と試合会場で会おうなんて…」
用務員「ショボン君…」
(´・ω・`)「?」
用務員の目には悲しみの色が浮かんでいた。
用務員「荒巻はね、3ヶ月前に亡くなったんだ…」
(´・ω・`)「……!!」
用務員「定年を迎える前からガンを患っていたらしくてね。退職後は治療に専念していたんだが
闘病もむなしく…亡くなったんだ…」
(´・ω・`)「そんな…はは…冗談でしょう…?だって…葬儀の知らせも何もありませんでしたよ…?」
用務員「本人の遺言にね…書いてあったそうなんだ…。
『皆に迷惑はかけたくない。自分が死んだら葬儀は家内だけで内密に執り行って欲しい…』
ってね。風の噂で僕の耳に入ってきたのも1ヶ月前だった。遺族に確認して…ようやく知った」
(´・ω・`)「そんな…嘘でしょう…それじゃあ僕は…」
用務員「……『荒巻流籠球理論』はね、荒巻が1年生の時に考えたものでね…」
用務員が何か大切なものを搾り出すように話し始める。
用務員「当時私たちは地区で1勝も出来なかった弱小チームだったんだ。それで負けず嫌いで研究熱心な
荒巻が雑誌やら指導書やら…強豪校や日本代表の様々な種類の練習を片っ端から集めて来てね。
当時の部員でとっておきのメニューを作るためにみんなで色々と試しながら意見を出し合ったんだ。
そして1年をかけて『荒巻流籠球理論』を完成させたんだ。今思えば荒巻は本当に頭が良かったと思う。
『荒巻流籠球理論』はスポーツ医学に忠実に則って作られていてね、現在でもあれを越えるメニューは
存在しない」
(´・ω・`)「…どうしてそんな事言い切れるんです?30年も昔のメニューじゃ…
今はもっと科学的なトレーニングも増えて効率のいい練習法もどんどん
考案されてるじゃないですか。時代遅れも甚だしいのでは?」
用務員「……荒巻がそう言ったからさ」
(´・ω・`)「……?」
用務員「荒巻がここで現役の教師だった頃、よく2人で飲みに行ってたんだ。
酔うたびに荒巻は言ってたよ。『俺達の作ったメニューは最高だ』…ってね。
私は荒巻を信じてる。だから荒巻の言ったことも信るんだ」
用務員「『荒巻流籠球理論』はね、当時の部員ももちろんだが荒巻の気持ちが何よりも強く込められているんだ」
(´・ω・`)「………」
用務員「そして荒巻が言っていたことだが、そのフロッピーのオリジナルはこの世に3枚しかない」
(´・ω・`)「………」
用務員「1枚は荒巻自身が、もう1枚は今年高1の荒巻の孫が、もう1枚は…」
(´・ω・`)「………!!!!!!!」
用務員「荒巻はこんなことも言っていたよ。『このフロッピーは自分がすべてを任せられると思った人間に
いつか渡すんだ』…とね。だからさっきは驚いたよ。荒巻が自分のすべてを託した男が目の前にいたんだから」
(´・ω・`)「僕が…」
用務員「君も…君の部員達も…みんな荒巻と同じ目をしている…。
バスケットへ情熱を全て注ぎ込んでいる。そんなふうに見えるんだ」
(´・ω・`)「………」
用務員「『荒巻流籠球理論』は…確かにこなすのは困難だろう。少しでも精神的に弱ければ
きっと挫折する。……でも彼らは違うだろう?君が一番よく知っているはずだよ」
(´・ω・`)「そうです…でも…僕は彼らに『荒巻流籠球理論』を
押し付けようとしているだけなんじゃないかと…」
用務員「彼らは君を信じて練習をこなしているんだ。君が彼らを信じてやらなくてどうするんだい?」
(´・ω・`)「…『荒巻流籠球理論』その3…指導者と選手との信頼関係が何よりも強い力となる…」
用務員「その通りだ。荒巻の遺志を継げるのは…」
(´・ω・`)「……僕しかいない…」
用務員「うん。君ならきっと頑張れる」
(´・ω・`)「(そうだ…何を迷うことがあるんだ…荒巻先生がいてもいなくても…
僕のやるべきことは一つじゃないか…)」
用務員「うん、いい目だ。若い人はそうでなくちゃ!」
(´・ω・`)「用務員さん…ありがとう」
用務員「これからも応援してるよ。ぜひ全国へ…」
(´・ω・`)「全国で優勝して来てやりますよ」
用務員「はっはっは!それでこそ荒巻の見込んだ男だよ!今夜は酒が美味くなりそうだ」
(´・ω・`)「バーボン持って帰ります?」
用務員「おいおいこんな高そうなもの…」
(´・ω・`)「あなたには大切なことを教えてもらいました。せめてものお礼です」
用務員「授業料…か。こんなのじゃあ足りないよ、せめて全国大会での賞状とトロフィーくらいなくちゃ」
(´・ω・`)「…約束しましょう。いずれ、必ず。バーボンに添えて」
ショボンはVIP高バスケ部には様々な「想い」が込められていることを知った。
荒巻の「想い」、用務員の「想い」、歴代の部員の「想い」…その全てを一つの結果に紡ぐべく、
VIP高バスケ部は新たな試練を迎えることとなる。
第11章 完
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