( ^ω^)ブーンが高校バスケで日本一を目指すようです  第二部

 第26章 合宿





あれから結局どうなったのだろう。
母親に関することはショボンが全て手を回してくれた。
葬儀屋の手配から始まり、葬儀の受付も、葬儀が始まれば後見人として葬儀を仕切る。
喪主はドクオだったが、何もわからないドクオには酷であろうから、とショボンが
全てを引き受けた。ドクオはずっと焦点の合わない目でどこかを見つめている。
ブーン達が声をかけても生返事しかしなかった。

('A`)「……………」

ドクオはこの数日で随分とやつれてしまった。
ショボンが無理にでも食べさせようとしたが、すぐに吐いてしまう。
今のドクオには明るかった頃の面影はなかった。




葬儀はドクオの自宅でひっそりと執り行われた。
近所の人や仕事先の人が訪れていたようだ。
その全員が泣いていた。
「人間の価値は死んだときに悲しんでくれる人の数で決まる」と何かで読んだ気がする。
きっと立派な人だったのだろう。
だけど死んでしまったらそんなものには何も意味がないではないか。

おそらくブーン達の全員がそう思っただろう。
きっと…ドクオも。

葬儀が終わり告別式も終わりが近づく。
ブーンは手が震えて焼香がうまく出来なかった。

そしてとうとう別れの時がやってきた。

出棺。

ドクオがショボンの手を借りながら棺に釘を打っていく。
慕っていた母親を自らの手で永遠に葬る…。
これほど辛いことはないだろう。




釘を打ち終わったらしく、ショボンが手招きをしている。
ブーン達は棺を霊柩車へ運んだ。ドクオは位牌を持ったままそれをただ眺めていた。
ドクオの目には涙のかわりに虚ろな瞳だけがあった。
たくさんの人に見送られて霊柩車が出発する。
ドクオとショボンは黒い車に乗って霊柩車の後をついて行く。
火葬場に向かうのだろう。
ブーンは車を追い掛けようとしたが母親に止められた。
遺族以外は帰らなければいけないそうだ。

( ;ω;)「けどここで僕たちが帰ったらドクオは帰ってきた時に一人になっちゃうお…」
母「一人にしてあげた方がいいかもよ。っていうかたぶんドクオ君も一人になりたいと
  思うわ」
( ;ω;)「おっ…おっ…」

母親に諭され、渋々帰路に着くブーン達。
その頃ドクオとショボンは火葬場に到着していた。
火葬場の係員の支持に従って最後の焼香をする。
棺はかまどの中に入れられた。

案内された。
しばらく沈黙が続いたが、先に口を開いたのはドクオだった。
ショボンはドクオが喋るのを久しぶりに聞いた気がした。




('A`)「…俺が殺したようなもんですよね」
(´・ω・`)「…………」
('A`)「あのバッシュ、昔俺がねだったやつなんですよね」
(´・ω・`)「……そうだったのかい…」
('A`)「それをわざわざあんな日に買いに行って…」
(´・ω・`)「………………」
('A`)「…俺があの時バッシュなんてねだらなければカーチャンは生きてた」
(´・ω・`)「……………」
('A`)「俺がバスケなんてやってなければカーチャンはバッシュなんか
    買いに行かなくてよかったんだ」
('A`)「バスケをやってたせいで最後を看取ることすら出来なかった…親不孝すぎますよ」
(´・ω・`)「…すまないが、少し昔の話をさせてくれないか…」
('A`)「……はぁ…」




呼吸を整えて、ショボンはぽつぽつと語り始めた。

(´・ω・`)「…僕にはね、高校生の頃恋人がいたんだよ」

(´・ω・`)「その人はバスケを見るのが大好きだったらしくてね。
      すぐに意気投合して…とても楽しかった」

(´・ω・`)「僕がバスケをしているところを見たい見たい、っていつも言っててね」

(´・ω・`)「僕は『全国大会まで待ってくれ』って言ったんだ。
      大舞台での活躍を見せたかったんだ」

(´・ω・`)「その人はそれを快諾してくれた。『全国行かなかったらぶっ飛ばす』って
       言われたなぁ」

(´・ω・`)「月日が流れて、僕は全国大会に出ることになった。彼女を招待した」

(´・ω・`)「開催地が地元からかなり遠くてね。その人は飛行機に乗ってくることにした」

(´・ω・`)「『国内線でもいいから死ぬまでに1回は飛行機に乗りたい』って
       言ってたからね。願いが叶って本望だったと思う」




(´・ω・`)「…ドクオ君、VIP-001号墜落事故、知ってる?」

小さい頃ニュースで見た覚えがあった。
確か完成したばかりの小型旅客機のVIP-001号が、国内初フライトで墜落し、
乗客全員が死亡した悲惨な事故…。

ドクオは黙って頷く。

(´・ω・`)「その飛行機にね、……乗り合わせちゃったんだ、その人」

(´・ω・`)「試合が終わってから知った。もう遺体なんてぐちゃぐちゃで顔もわかんなくてさ」

('A`)「……………」

(´・ω・`)「信じたくなかった。乗客リストに書かれた名前は
       たまたま同姓同名の人で……って」

(´・ω・`)「だけどね…その人はさ、僕とおそろいで買った指輪を、体を丸めて
      守るようにして死んでたんだよ」

(´・ω・`)「それでも信じたくなかった。たまたま同じ指輪を持ってただけの
      別の人なんじゃないか、って」




(´・ω・`)「だけどボロボロになった指輪に刻まれた僕の名前を見て思ったんだ」

(´・ω・`)「あぁ、いなくなっちゃったんだな、って。結局一度もちゃんとした試合を
      見せてあげられなかった、って」

(´・ω・`)「おかしいよね、世界で一番大切な人を失ったってのにさ。
      やけに冷静な自分が怖かった」

('A`)「…それはショボン先生には家族がいたから…心の拠り所があったからじゃないですか…」

(´・ω・`)「僕は親の顔を知らないんだ」

('A`)「……!?」

(´・ω・`)「もの心つく頃には施設にいた。唯一の肉親は双子の兄だけだったんだ」

(´・ω・`)「その兄は今も生きているから…僕は、唯一の肉親を失った君の辛さは
      わかってあげることができない。だけど、大切な人を失う辛さは…
      痛いほどわかるんだ」

(´・ω・`)「辛い。苦しい。自分があの時試合に招待なんてしなければ。頼まれた時に
      素直にすぐに試合を見せてあげれば。そもそも僕がバスケットなんて
      していなければ彼女は今も生きていたんじゃないか、ってね」





('A`)「(俺と同じ事を…)」

(´・ω・`)「自殺も考えた。とにかく楽になりたかったからね…これを見てくれるかい?」

ショボンは腕時計の革ベルトを緩め、腕時計を取り去った。
そこにはおそらくリストカットであろう傷跡が幾筋も残っていた。

(´・ω・`)「恥ずかしい話だけどね、さんざん悩んだ挙句、僕にはこうするしか
      現実逃避の道はなかったんだ」

(´・ω・`)「バスケットをやめる事も考えた。だけどね、兄は彼女の遺族がそれを拒否するんだ。
      何て言っていたと思う?」

('A`)「……わからないです」

(´・ω・`)「『彼女の生きた証を失くさないでくれ』…兄や彼女の遺族も同じ事を言ったんだ」

(´・ω・`)「確かに彼女は死んだ。だけど……彼女は僕の心の中で生き続けているんだ、って」

(´・ω・`)「月並みな台詞だろう?だけど…あの時ほどこの言葉が心に染みた時はなかった」

(´・ω・`)「彼女と過ごした記憶は…絶対になくならない。僕は…決めたんだ」




(´・ω・`)「天国の彼女に笑われないように生きてみせる、って」

(´・ω・`)「彼女が大好きだったバスケットに、一生携わって生きていく、って」

(´・ω・`)「僕はとある事情で、もう選手としては活躍できない。だけど…
      どんな形であれバスケットには一生携わっていくつもりだよ」

(´・ω・`)「バスケットには…僕の全てが詰まってるからね。大袈裟かもしれないけど、
      バスケットがあるから僕は生きていけるんだ」

(´・ω・`)「僕は、彼女の分まで生きたい。最後まであがいて生きて、笑って死にたい。
      そして彼女にたくさんの土産話を持っていくのさ」

知らなかった。いつも陽気…いや、能天気なショボンにそんな過去があったなんて。

('A`)「(カーチャン…)」

('A`)「俺は……」

ドクオが何かを言いかけた時、休憩室の扉がノックされた。




「納骨をお願いします」

(´・ω・`)「すぐに結論を出せるほど簡単じゃないことはわかってるさ。
      ゆっくり考えるといい。だけど一つだけ言っておくよ。
      ……君は、一人じゃない。思い詰まった時にはそれを思い出すといいよ」

('A`)「………」

(´・ω・`)「さぁ、行くよ」


長い箸を使って遺骨を骨壺に入れていく。
もはや原形を留めていない母親の姿を見て、ドクオはなぜか冷静さを取り戻し、
だんだんと今後を考えるようになっていった。生活費のことなど問題は山積みだ。

('A`)「カーチャン……」

足の骨から順番に骨壺に入れていく。長い箸はなかなかに扱いづらい。
徐々に上の部位へ移動していく。
全ての骨を拾い終える。最後に一つだけ、喉仏の骨を残して。

(´・ω・`)「これは…君が取り上げるんだ」
('A`)「……はい」

('A`)「(カーチャン…俺はどうすればいいのかな…)」





――ちーんぽーんかーんとーん…


( ^ω^)「(ドクオ…まだ来ないお…)」

忌引期間の7日間を過ぎてもドクオは学校に来なかった。
ドクオがいない間、ブーンがキャプテンを務めることになった部活も、
ショボンと話し合った結果、2年生はしばらくの間自主練習、という形をとることにした。
初めの1、2日は普段どおり練習しようとしたが、2年生の全員が心ここにあらず、
といった状態だったからだ。
ショボンですらずっとうわの空で授業を全て自習にしてしまうほどなのだから相当な
ものだろう。

VIP高バスケ部には、少しずつではあるが確実に決裂の時が近づいていた。
これまで修繕できた小さな亀裂とは比にならないような大きな溝が生まれてしまうような気がした。

( ^ω^)「(ドクオ…)」

ブーンは大きく息を吐き出した。




先生「…そんなに退屈か?内藤」

(;^ω^)「おっ!?」

先生「暇なら宿題を出してやろう。明日までに九九の書き取り100回」

(;^ω^)「…………」




小学生か。


――ちーんぽーんかーんとーん…

( ^ω^)「さて…部活行くかお…」

ブーンは席から立ち上がり、伸びをする。

( ^ω^)「んお―――っ…」

体を右にひねり左にひねり、ぱきっ、ぱきっ、と背骨を鳴らす。
最近は教室でずっと座ってばかりなので少し疲れがたまっているようだ。




下駄箱へ向かうとちょうどイヨウが靴を履いているところだった。

( ^ω^)「イヨウおいすー」
(=゚ω゚)ノ「おう」
( ^ω^)「体育館一緒に行くお。ってか今日はやけに荷物少ないおね」

イヨウの持ち物は教科書が数冊入るくらいの大きさのプラスチックバッグだけだった。

(=゚ω゚)ノ「悪いヨウ、なかなか疲れが抜けなくてヨウ…今日は帰るヨウ」
( ^ω^)「そうかお…色々あったし仕方ないお。しっかりストレッチしてゆっくり休むといいお」
(=゚ω゚)ノ「サンキュウだヨウ。んじゃなぁ」
( ^ω^)ノシ「ばいぶー」

( ^ω^)「(最近みんな休みがちになってきたお…ドクオがいない間のバスケ部の代表は
     僕なんだお。頑張らなくちゃいけないお)」

( ^ω^)「よし、今日も頑張るお!」

ブーンは自分に言い聞かせるようにわざと大きな声を出した。
立ち込める暗雲に気付かないフリをするかのように。

第26章 完



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