( ^ω^)ブーンが高校バスケで日本一を目指すようです 第二部
第30章 イヨウのこと
県予選の試合会場はなんとも異常なふいんきであった。
全国レベルと大いに盛り上げられ、もてはやされてきたVIP高校が
全くの無名校に惨敗。
「なんか勝っちゃった」といった感じで、わけのわからぬまま戸惑いながらも喜ぶ対戦相手。
ため息を漏らす他校の選手や記者達。
彼らはダークホースや超新星、などと話題になっていたチームを観に来たらどうでもいいような
試合を大差で落としていた。
これほど落胆を感じる事は無いだろう。
( ・∀・)「しかしVIP高校には一体何があったんだ…?」
( ><)「わかんないんです!!!!」
( ・∀・)「今回ばかりは君に同意するよ…」
会場に訪れた記者の中で、おそらく最も長い間VIP高校を見てきたこの二人にも原因は
全くわからないようだ。
恐らく6番のアウトサイドプレーヤー、得点源のイヨウの不在が最大の原因であることは
確かなのだが、如何せんその原因がわからない。
イヨウ一人が抜けただけでここまで弱体化するようなチームでもないはずなのだ。
( ・∀・)「チーム内で何らかのToLOVEるがあったと考えるのが妥当だろうね…」
( ><)「ToLOVEる…ですか……ケンカでもしちゃったんですかね?」
( ・∀・)「それも考えられるね。まだ彼らは高校生なんだし衝突する事は何度もあるはずだ」
イヨウが突然バスケ部を辞めた理由。
それはVIP高校のメンバーにすらはっきりとはわからなかった。
―――――――――――――――
夏休み、県内公立高校大会で優勝を果たした翌日の職員室にイヨウの退部届けが
イヨウ自身の手によって届けられていた。
ショボンは迷った。
すぐにブーン達にこの事を伝えて対策を考えるべきか、まずは自分ひとりでやれる事を
やるか。ショボンは考える間もなく、気付いた時には学校を飛び出していた。
まずは話をしなければ何も始まらない。
そう思ったのだろう。
イヨウ邸に到着したショボンはインターホンを鳴らす。ノッカーも何度も鳴らす。
木製の大きな扉がゆっくりと開き、その中からは以前世話になったアンガールズ似の
執事だった。
(´・ω・`)「山根さんっ!!あの…お尋ねしたいことが……」
執事「坊ちゃまからの伝言でございます。『もう関わらないで欲しい』
……申し訳ありませんがお引き取りください」
(´・ω・`)「そんな……待ってください!!話だけでも……」
扉は静かに閉められた。
▼・ェ・▼「わふーーん……」
毛並みの良い、育ちの良さそうな犬が、豪華な犬小屋の中からこちらを見つめ、
弱々しく鳴いた。犬はそれっきり、ずっと玄関の扉の方を見ている。
まるで誰かを待っているようだった。
誰かが扉から出てきて、自分と遊んでくれるのを心から待っているような…
そんな感じがした。
▼・ェ・▼「くぅーーーーん……」
ショボンはイヨウ邸を後にした。
退部届けには退部する理由を書く欄がある。
そこにはただ「一身上の都合」と書かれていた。
他人のプライベートにずかずかと踏み込んでいく事はあまり好ましい事ではないが、
ショボンは確かめられずにはいられなかった。
しかしイヨウとの直接的なコンタクトをとる道は閉ざされた。
今は夏休み。しかも始まったばかりである。
授業があるわけでもないため、学校で話を聞くことも出来ない。
(´・ω・`)「(八方塞り……か…)」
ショボンは携帯電話を取り出して番号をプッシュし始めた。
―部室―
ショボンの連絡を受けて、とりあえずは2年生の全員が部室に集合した。
皆急いできたようで、汗だくだった。
ショボンは彼らに首振りの扇風機を向けてから一部始終を説明した。
最後に一言……「原因はわからないんだけど」と付け加えて。
ショボンは仮説を立てていた。
仮説ゆえにブーン達にはおいそれとは話せない内容であったが。
ショボンの仮説とは、こうだ。
――彼はおそらく小さな頃から何の不自由もなく育ってきたはずだ。
学校では家の話をあまりしないため、家族とはあまり仲がいいようには
思えなかったが、それでも充分に裕福な暮らしをしてきたはずだ。
中学に入ってすぐにバスケ部でレギュラーの座を勝ち取ったことについても、
おそらく小さな頃からバスケットをしっかりと練習できる環境におかれていたからに
相違ないはず。
そして彼の過去の汚点である、彼に嫉妬した上級生に対する暴力事件…。
それは彼のややナルシスティックな性格も起因していたと見てよいだろう。
裕福な家で育った子供は、無意識のうちに周りの平凡な家庭の同年代の子供を
見下して接する傾向がある。それは個人によってまちまちで、現在の彼には
そういった態度は全く見られないが、恐らく中学入学当初にはそういった感情が
あったのだろう。
「凡人の癖にこの俺に僻みやがって」
そういった感情が彼を激昂させる原因になったのではないだろうか。
そして年を重ねるにつれて落ち着き始めていたそれも、彼の深層心理の中で
蠢き続けていたのではないだろうか。
自分の思い通りにならないもどかしさ、焦燥感。
例えば、VIP高校バスケ部初黒星となったニー速工業戦。
最終クォーター、あと少し体力が持っていたらひょっとすると逆転していたかもしれない。
ラウンジ学園との初対戦。
初めて出会ったディフェンスのスペシャリスト池上に完全に得点を封じ込められたこと。
これまで絶対的な自信を持っていた自らのプレーが何一つ通用しなかったという現実。
自分が池上からちゃんと得点できていればあんな結果にはならなかったかもしれない。
そして先日のインターハイ県予選決勝リーグ、今北産業大学付属今北高校戦。
誰の過失でも無いが、最後に逆転できたかもしれなかったスリーポイントを外したのは
彼だった。あれが決まっていればインターハイへ行けたかもしれないのに。
そう思わせるには十分なものであっただろう。
要所要所での度重なる敗戦が彼の精神に限界をもたらしたのではないか――
しかし、ショボンはこの仮説を誰にも話す必要が無いと思った。
部室に集まったブーン達も、なんとなくではあるがショボンの立てた仮説と
同じような事を考えていたように思えたからだ。
( ;ω;)「(イヨウは……大事な所で負けてばっかいる僕達に愛想尽かしちゃったのかお…?)」
('A`)「(チームメイトを支えてやる事すらできず…異変にも気付けなかったなんて…)」
( ´∀`)「(イヨウ君……あんなに楽しそうだったのにどうしちゃったモナ…?)」
( ゚∀゚)「(どういうつもりだよ、イヨウ……!!!)」
どうすれば良いのかわからなかった。
自宅を訪ねてもほぼ門前払い、携帯など間違いなく繋がらないだろう。
出歩けるような居る所をしらみつぶしに探して見つけるしか無いだろう。
ブーン達は手分けして近辺を廻り歩く事にした。
同時刻、VIP国際空港――
ここVIP国際空港は完成してからまで3年もたっていない比較的新しい空港である。
売店だけでなく多くの飲食店が並び、リラクゼーション施設としてスーパー銭湯や
岩盤浴やマッサージなどもある。展望台もあり、一時期はちょっとしたレジャー施設として
その名を馳せた。完成当初は飛行機に乗るわけでもなく、物珍しさから空港を訪れる地元民が
後を絶たず、大混雑となった様はニュースでも報道されたほどだ。
わざわざ都市部から外れた場所に建設したのは空港の建設に伴う近辺の市町村の活性化などによる
経済効果も狙った…とも言われている。
そんなVIP国際空港に大きな嵐が到着しようとしていた…。
(■_■)「そろそろ……か」
ゲートの側のソファに腰掛けて新聞を読んでいるのは今北産業大学附属今北高校の監督である。
インターハイ出場を間近に控えたこの時期に、空港なぞでのんびり新聞を読んでいていいものなのか。
飛行機が到着したらしく、大量の乗客がこちらのゲートに向かってくる。
『向こう』からは、その男の特徴は肩にまでかかるほどの黒髪に凛とした整った顔立ち、
とにかく一目見ればわかるはずだ、と言われている。
(■_■)「抽象的過ぎるんだよバーロー…」
大きな荷物を持って歩いてくる人の波の中に田守は目を凝らす。
顔写真は送ってもらったが彼は極度の写真嫌いらしく、2年ほど前のものしか
残っていなかったという。この年代の男子は2年あれば別人になるからな…。
田守はそう考えながら必死にきょろきょろと辺りを見渡す。
そのとき田守の背後から透き通った声がした。
「あなたが田守氏か?」
広く、静かな部屋に、かちゃかちゃとキーボードを叩く無機質な音が響いていた。
イヨウは一人部屋に閉じこもってパソコンデスクの前に居た。
部活を辞めてからほとんどこんな感じで毎日を過ごしている。
適当な時間に起きて適当に食事を摂って家の中で一人で適当に遊び、適当な時間に寝る…。
それの繰り返しだった。
世間的にはひきこもりやニートといったように軽蔑されるような行為ではあるが、
今のイヨウには世間体などどうでも良かった。
大事な所でいつも白星を逃していた部活に嫌気が差した。
だから辞めた。
どちらか言えばイヨウらしからぬ短絡的な思考だったが、それは周囲から客観的に
見た場合である。ショボンの立てた仮説は的中しており、イヨウのナルシスティックで
かつ繊細な内面は、大観衆の前で何度も醜態をさらすことに耐えられなくなったのだ。
しかしいざ辞めてみたら何もする事が無い。
学校の友達とは遊ぶ気にもなれず、ほぼ一日中パソコンと向かい合っているだけ。
早くも飽きが来た。
(=゚ω゚)ノ「(そうだ…久し振りにあそこに行ってみるヨウ…)」
パソコンの電源を落とし、部屋を出る。
そのまま玄関へと向かいスリッパからスニーカーへと履き替える。
玄関に置いてあった、小さな黄色の折りたたみ自転車を取り出して
イヨウは数日振りに家の外に出た。
▼・ェ・▼「わふっ!わふわふーん!!!!」
数日振りの主人との再会にはしゃぐ犬を連れてイヨウはきこきこと
折りたたみ自転車をのんびりこぎながらどこかへ出発していった。
(■_■)「ん……?」
田守は背後からの声に体をそちらへと向ける。果たして、目当ての人物がそこに居た。
川 ゚ -゚)「はじめまして」
夏にも拘らず細身の黒のジャケットスーツに白いワイシャツ。ネクタイをしていないあたり
クールビズスタイル…この国の流行り…に乗っているつもりなのか?
肩ほどまであるさらさらの黒髪、凛とした顔立ち、透き通った声…
これは…この柔らかなふいんきは(ry…
(■_■)「一瞬女性かと思ってしまったよ……」
川 ゚ -゚)「私の前ではそれは禁句だと思っておいていただきたい。気にしているのでな」
(■_■)「そうか、すまない。…待っていたよ。久し振りの日本はどうだ?クー」
川 ゚ -゚)「なんだか随分とあわただしい国になってしまったようだな」
(■_■)「世界のトップに立ちたくて仕方が無いのさ、この国は」
川 ゚ -゚)「だろうな。だからこの国の……」
(■_■)「ん?」
なんでもない、とクーは言った。
(■_■)「これからどうする?このまま学校へ向かうか?寮の部屋は既に用意してあるが」
川 ゚ -゚)「少しこの辺りを散策させてもらっていいか?この辺は空気が旨そうだ」
(■_■)「そうか。それなら荷物は先に持っていっておこう」
川 ゚ -゚)「よろしく頼む」
(■_■)「帰りのタクシー代と学校の住所も渡しておく。寮の門限は22時だからそれまでには
帰ってくるようにしてくれ」
川 ゚ -゚)「了解した」
イヨウがマイルドスター1号とともに向かった場所は自宅から自転車で30分ほどの
距離の場所だった。
少し郊外に位置するそこは、まだあまり開発が進んでおらず、空き地や
テナント募集の看板がちらほらと目立つ。しかし数年前になって大きな空港ができたことから
このあたりにも多くのマンションが建つようになってきた。
ローカル線の線路沿いに、この地域のストリートボーラー達が集まる広場があった。
広さのものが一つあり他にはスケボーの木製ジャンプ台など、若者の溜まり場のような場所だった。
中学時代、穴場的存在のVIP公園を知らなかったイヨウはよくここへ訪れていた。
休日に自転車で遠出をしていたらたまたま見つけ、そこでさまざまなスタイルで気ままにバスケットを
するプレーヤーに憧れたのがきっかけだった。
その日は暗くなるまで少し離れた場所から広場の中を覗き続け、その帰り道にイヨウは
ビデオショップに寄ってストリートボールのDVDを大量に購入し、学校を休んでまでDVDを
見ることに没頭した。
DVDで観たトリックを自宅の庭で何度も何度も練習し、少し自信がついたところで再びあの広場に
向かったのだった。もともと人懐っこい性格のイヨウはすぐに広場の仲間達に溶け込み、そして
猛烈なスピードでさまざまなスキルを習得し、いつのまにかここら一帯での
ナンバーワンストリートボーラーとまで称されるようになっていた。
ここはイヨウにとっては居心地の良い場所だった。
ここでは自分はナンバーワンで、いつでも皆が寄ってきてくれる。
イヨウは広場の入り口のフェンスにマイルドスター1号を繋ぎ、そんなことを考えながら
広場へ足を踏み入れた。
(=゚ω゚)ノ「うーす、久し振りだヨウ」
男1「イヨウじゃないか!!久し振りだな、元気してたか?」
男2「まったく…急に顔見世なくなったから心配してたんだぜ?」
女1「今日もカッコイイよ、イヨウ君!はやくイヨウ君のプレーが見たいなぁ」
女2「今日はワンちゃんも一緒なんだ、可愛いね」
(=゚ω゚)ノ「ところで…なにかあったのかヨウ?なんだヨウ、あの人だかり…」
見ると、ハーフコートほどの広さのコートの周りに大きな人だかりが出来ていた。
広場の周りのフェンスによじ登ってまでコート内を眺めるものも居るほどで、イヨウは
何が起こっているのかが気になった。
男1「道場破り、みたいな感じだな。もろ散歩の途中、みたいなかんじでふらりと入ってきてさ」
男2「この国のレベルを確かめたい、とか訳わかんねぇこと言っててさ、もろ日本人顔のくせによ」
女1「でもめっちゃ上手くない、あの人!?イヨウ君とどっちが上手いかなぁ…?」
女2「イヨウ君に決まってんじゃん!!」
(=゚ω゚)ノ「ちょっと、見てくるヨウ」
人ごみを強引にかきわけてイヨウはなんとかコート内が見える場所まで移動した。
そこにいたのは…
川 ゚ -゚)
長い黒髪が印象的な…美しい女性だった。
第30章 完
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