( ^ω^)ブーンが高校バスケで日本一を目指すようです  第二部



第31章 チキン野郎








(=゚ω゚)ノ「(デラベッピンだヨウwwwwwwww)」

イヨウはギャル系やらお姉系やら、派手めな女性が嫌いだった。
どちらかといえば清楚な感じで、お嬢様…とまではいかなくても、しっかりした感じの
する女性がタイプであった。

川 ゚ -゚)

(=゚ω゚)ノ「(うはwwwww勃起してきたヨウwwwww)」

イヨウは妄想に必死でクーのプレーになど目が行っていなかった。
もちろん、コート上のおかしな光景にも。

現在コート上にはクーがボールを持ってトップ付近で一人、ドリブルをしている。
それにディフェンスについているのが2人、更にゴール下には3人の選手が居る。







イヨウのストリートボーラー仲間の5人は高い気温のせいもあって汗だく。
対するクーはブラックスーツのまま。ジャケットも脱がず、靴もロングノーズの
レザーシューズでプレーしている。非常に動きにくそうであるが全く苦にならない様子で
ほとんど汗をかいていない。もはや彼の汗腺の構造を調べるしかないのでは、そう思わせるほどだった。

そして勝負は一瞬でついた。
自らのディフェンスについていた2人の間を割ってワンドリブルで抜き去る。
ディフェンスの二人が抜かれた事に気付きクーが進んだ方向へ振り向いた頃には、
クーは既にゴール下へと向かっていた。
ゴール下の3人のうちの一人もレッグスルーでの方向転換でたやすく抜き去る。
残るは2人。クーは2人がディフェンスに出てくる前にジャンプし、レイアップの
シュート体勢に入った。
ゴール下の2人は慌ててシュートコースを塞ぐために2人同時にジャンプしてブロックへ入る。
クーはあまり身長が高くないようで、ゴール下での身長差は圧倒的だった。

しかし次の瞬間野次馬達はスーパープレーを目撃した。
クーはレイアップ体勢からボールを降ろして体の脇へと移動させる。
そしてゴール下のディフェンス2人の体と体の隙間に自らの体を回転させながら滑り込ませるようにして
相手をかわす。そのまま空中で1回転してシュートを放ち、静かに沈めたのだ。




スリーシックスティ。

空中で1回転――360°回転――しながら相手をかわしてシュートを放つ技だ。
NBAでもそうそう簡単には目にする事は出来ないプレー。
しかし野次馬達にはほんの一瞬の出来事であったクーのスーパープレーは理解できていなかった。
…動きが早すぎて何をしていたのかよくわからなかった、というのが正しいだろうか。

クーは見事な5人抜きを達成した。
妄想でぼんやりとしていたイヨウも、今のワンプレーを妄想のさなかに視界の端に補足し、
そして震撼した。

(=゚ω゚)ノ「(…今のは夢かヨウ…?あんなに可愛い子が…)」

それにしてもこのイヨウ、まだ勘違いしておいでである。

川 ゚ -゚)「…やめだ。つまらん」
「な…なに!?」
「なめてんのか、てめぇ!」
川 ゚ -゚)「なめてどうする、汚らしい。」
「こいつ…喧嘩売ってんのか!!」
川 ゚ -゚)「負けたら負けたですぐそれか…レベルの低い」
「てめぇ……!!」
川 ゚ -゚)「勝つならバスケットで勝って見せろ」
「うぐ…うるせっ……」

イヨウのストリートボール仲間の5人のうち、もっとも血気盛んそうな一人が
クーの冷静でかつ挑発じみた言葉に我慢できなくなったらしく、クーに飛び掛っていった。
周りの制止が届く前に、飛び掛っていった男はクーの後ろ回し蹴りで側頭部を蹴り抜かれた。
レザーシューズの木製のヒールが直撃したらしく、小気味よい音が響いた。
その少し後に、クーに飛び掛っていった男は失神して倒れた。




「お…おい、大丈夫か!!」
「どど…どうすんだよ…」

クーは自らがケリを放った相手には目もくれず、すたすたと広場の外へと歩いて行こうとした。
しかし広場からあと一歩で外にでる、というところでクーは立ち止まる。
その場でしゃがみこんで、そこにつながれているマイルドスター一号と遊び始めた。

「おい」

犬とじゃれるクーの背後から鋭い声。クーは怪訝そうに振り向いた。

(=゚ω゚)ノ「そいつはうちの犬だヨウ。勝手に触ってんじゃねぇヨウ」
川 ゚ -゚)「む、すまない」
(=゚ω゚)ノ「…やけに素直じゃねーかヨウ」
川 ゚ -゚)「勝手に犬を触ったこちらに非があるわけだからな」

美しく、スポーツも出来て格闘センスあり、極めつけに動物を愛する心まで…
イヨウはクーにだんだんと惹かれて行っていた。

川 ゚ -゚)「ところで君は誰だ?」
(=゚ω゚)ノ「お…俺はイヨウってんだヨウ。ここの広場は俺がシメさせてもらってんだヨウ。
     あんまり勝手な真似ばかりしてると…」
川 ゚ -゚)「私は素直クールだ。よろしく頼む」

イヨウが長い台詞を言い終える前にクーはすっと立ち上がってイヨウに握手を求めた。
身長は170cm少し位か…。いや、カカトのある靴をはいているから実質167cm前後…
スタイルもいい!!最高だ……




恋は盲目、とよく言ったものだ。この場面でのイヨウのために用意されていた言葉だと
言っても過言では無い。

川 ゚ -゚)「君もバスケットをするのか?」
(=゚ω゚)ノ「……まぁ…人並みには…」

答えに、困った。
部活もやめて半引きこもり状態、この広場にも長い間来ていなかった自分が
「はい、バスケットをやっています」というのは何となく気が引けたからだ。
もちろん、嘘をついてしまえばよかったのかもしれないが、クーの真っ直ぐな瞳を
向けられたイヨウは嘘をつく気にすらならなかった。

川 ゚ -゚)「……そうか」

クーは少し残念そうに立ち上がり「縁があればまた会おう」と言い残して歩き去っていった。

(=゚ω゚)ノ「…あ」

(=゚ω゚)ノ「ケーバン聞いときゃよかったヨウ」

がっかりしつつ、イヨウは広場の中へと戻っていった。
失神していたストリート仲間を広場の隅で休ませ、久し振りに会う仲間達と
コート内で束の間の再会を楽しんだ。

随分と長い間遊んでいたようで知らぬ間に日が暮れていた。
数日振りに体を動かした事もあって体に疲労を感じたイヨウは仲間達に別れを告げて、
マイルドスター1号を連れて帰路に着いた。




イヨウが去った後の広場にはさまざまな会話が繰り広げられていた。

「なぁ…」
「ん?」
「イヨウのやつ…前よりヘタになってないか?」
「まぁ多少はな…しばらくひきこもってた、って言ってたじゃねぇか」
「運動不足なだけじゃね?」
「うーん…そういうことじゃなくて…なんか違和感があったんだよな…」
「あんまストリートっぽくなくなってきてるよな」
「そうそう、そんな感じだ!!なんか違うと思ってたんだよ!」
「あいつももう部活バスケに染まっちゃったんじゃないのか?」
「けどやめたって言ってたしまたすぐ元に戻るだろ」
「だな――……」


―今北産業大学附属今北高校―

空がオレンジ色に染まり始めた頃、今北産業大学附属今北高校の前に一台のタクシーが到着した。
タクシーから出てきたのはクーだ。
運転手に礼を言い、門をくぐる。

川 ゚ -゚)「(なかなかいい設備の学校じゃないか)」

クーは広い敷地内を、体育館を探しながら歩き回る。
途中見かけた幾つかの部活動はすべて活気に満ちており、充実した設備のもと、
練習に励んでいた。スポーツが盛んとは聞いていたが…




真っ白な壁をした大きな建物の前にたどり着いた。
壁の上のほうにはこの学校の校章らしき物が描かれている。
その中からは聞きなれた音が聞こえる。

体育館だった。
まだ正式に入部したわけでは無いクーは外からこっそり中の様子を窺う。

体育館は2階に観客席が設けられ、コートは2面ある。8つあるボードは全てアクリル製の
クリアボードで、どうやら空調もあるようだ。
床にはバスケット以外のスポーツのラインは引かれていない。
どうやらこの体育館はバスケ部専用体育館のようだった。

たくさんの部員が声を張り上げて練習に参加している。
今行っている練習は…ハーフコートの5対5だろうか。
セットオフェンス等の確認をしているのだろう。
興味があるのでしばらくの間クーはそれを眺めていた。

川 ゚ -゚)「…………」

これが…全国大会へ行くチームなのか…?

クーは正直期待していた。

「おそらく、われわれとも充分張れる実力を持っているだろう」

『向こう』の監督からは、そう言われていたからだった。
しかし現実には……見るに値しない、とまではいかなくとも
期待していたほどのチームではなかった。




考え事をしていたクーの背後から声がかけられた。

(■_■)「帰ってきていたのか。どうだ?こっちのバスケも良い物だろう?」
川 ゚ -゚)「……うむ、なかなかいいチームだと思う」
(■_■)「そうだろう?さぁ、疲れただろう。寮に案内しよう」

今北産業大学附属今北高校の寮は校舎から5分ほど歩いた所にあった。
田守はどこからか大きな段ボールを一つ持ってきて、それを抱えて歩いていた。

広大な敷地にまるで小さな団地のような建物が建っていた。
部活動の盛んなこの学校は朝も早ければ夜も遅い。自宅から通おうとしたら
相当近い場所に住んでいなければ難しいため、部活動に加入している生徒は
ほとんどが寮生活なようだ。
正直異質だ、とクーは思った。

川 ゚ -゚)「(ここまで一生懸命になっているのにあれっぽっちのレベルなのか…)」

クーにあてがわれた部屋はワンルームマンション程度の広さの一人部屋だった。
ベッドが一つあるだけの生活感の無い部屋。
しばらくすると田守は持ってきた段ボールを開け始めた。
その中からは高そうな液晶テレビが出てきた。

(■_■)「私からのプレゼント…だ。お前には期待しているからな。何も無い部屋だが
    せめてもの娯楽に、と思ってな」
川 ゚ -゚)「む、感謝する」

部員には明日正式に紹介するから、と言って田守はクーの部屋を後にした。
する事のなくなったクーはとりあえずテレビでも見よう、とテレビをつけた。

川 ゚ -゚)「おぉ、アニメがやっているぞ。見よう」




一人きりの部屋には今日もキーボードを叩く音が響いていた。

(=゚ω゚)ノ「…………」

楽しかったはずなんだ。
勝ち負けなんかにこだわらず、自分の好きなようにプレーできるストリートボール。
仲間もたくさんいる。
そして自分はその輪の中心にいるべき人物だった……はずだった。

なぜか彼らとの間に以前よりも距離を感じた。
なぜかはわからない。
ただ――ブーン達と部室やこの部屋で大騒ぎした時の記憶がなぜか鮮明に蘇った。

このもやもやはなんだろう。
どうすればすっきりするんだろう―――



―VIP高校校門―

('A`)「はぁ…いたか?」
( ^ω^)「いなかったお…」
( ´∀`)「蒸し暑いモナ…こんな日に外に出てたのかなモナ…?」
( ゚∀゚)「そうじゃなかったとしても俺らは探すしかねーじゃんか」
ξ゚听)ξ「もう時間も遅いし…今日はここまでね」
(*゚ー゚)「そうだね…夏休みだし警察もたくさんいるだろうから…そろそろ帰らなくちゃ」
(´・ω・`)「明日も探すかい?」
一同「もちろん!!」
(´・ω・`)「オーケー。2年生は自主練、ってことにしておくから」




次の日もブーン達はイヨウ探索に一日を充てる事にした。

彼らが違和感に気付くのも時間の問題だろうが…混乱は避けたかった。
ブーン達は手分けして、一日中イヨウを探したが結局見つけることは出来なかった。
本日は一旦解散となり、それぞれ帰路に着いた。

そして翌日。


―今北産業大学附属今北高校―


(■_■)「この時期にアレだが…新入部員を紹介しよう。帰国子女のクー君だ。ちなみに2年生だ」
川 ゚ -゚)「よろしく」
(■_■)「彼の加入によってうちは最強となる。これはぁー…間違いないさぁ」
( ,,゚Д゚)「(この監督…酔ってねぇか?ww)」
<ヽ`∀´>「(女みたいな奴ニダwww)」

今北C「…ってことはインターハイにもこの子を…?」

(■_■)「あー…なんか色々と手続きが必要みたいでさ。インターハイは多分出れないな。
    それに俺は個人をそこまで特別扱いするつもりは無いさ」
今北D「……というと?」




(■_■)「チーム内で等しく競争して結果を出さなきゃ使わない、ってことだよ。不公平だろそんなの」
川 ゚ -゚)「もっともな意見だ。私もそれがいいと思う」
今北C「それじゃあ早速今日から練習に参加してもらおうか」
川 ゚ -゚)「いや、雑用からで構わない」
( ,,゚Д゚)「(これまた変わった奴が入ってきたなゴルァ……)」



同時刻、イヨウは昨日と同じ広場を訪れようとしていた。
昨日と同じ、黄色い折りたたみ自転車をゆっくりこぎながら広場へと向かう。
マイルドスター1号は今日は留守番だ。

(=゚ω゚)ノ「(クーに…会いたいヨウ…)」

クーに会いたい。
その思いだけでイヨウは昨日と同じ広場へと向かっていた。
同じ場所へ行けばあるいは――
そんな期待を抱いていたからだ。
イヨウは自宅から広場までの道のりの半分ほどのところで噴水のある少し大きな公園で
自転車を止めて休憩をとった。数日の間動かしていなかった体は昨日頑張りすぎたおかげで
節々が痛む。今日は体を休めようか、とも考えたがもしも今日クーが広場に来ていた時の
事を考えると、その足は自然と広場へ向かっていた。






「イヨウ!!!!」

(=゚ω゚)ノ「…………?(誰だ…?)」

後ろから自分を呼び止める声。聞き慣れた、少し懐かしい感じの声のするほうへ
振り向くと…

(;^ω^)「さ…探し……た…お…ぜぇぜぇ…」
(=゚ω゚)ノ「………ブーン……」
(;^ω^)「い…一体…どういう…つもりなんだお…」
(=゚ω゚)ノ「…なんのことだヨウ」
( ^ω^)「部活の事だお!!!どうして……」
(=゚ω゚)ノ「もうとっくに気付いてると思ったけどヨウ?」
( ^ω^)「それは……」
(=゚ω゚)ノ「いつもいつも肝心な所で負けてばっかのチームでやってくことがめんどくさく
     なった。それだけだヨウ」
( ^ω^)「そんな……」
(=゚ω゚)ノ「本当はお前もそう思ってんだろう?どれだけやっても報われないことの
    無意味さをヨウ」
( ^ω^)「違うお!!!僕は…僕たちは……」
(=゚ω゚)ノ「ほれ見ろ、言葉に詰まってんじゃねぇかヨウ」
(#^ω^)「……の……ぅ」
(=゚ω゚)ノ「…あ?」
(#^ω^)「このチキン野郎!!!!!」
(=゚ω゚)ノ「――――ッ!!!」

突如イヨウへ向かって走り出したブーン。
数歩でイヨウの懐へ入り込み、思い切り右腕を振りかぶった。狙いは顔面…。




(;゚ω゚)「ぶふっ…」
  
イヨウは全く臆することなくブーンのノーガードの腹に左手でジャブのような軽いパンチを
放つ。反撃を予想していなかったブーンの腹はその衝撃をもろに受る。ブーンの動きが
一瞬止まり、ブーンは腹を抱えるように、立ったままうずくまるように背中を丸める。
自然とブーンの目線は下になる。その瞬間にはイヨウの渾身の右アッパーがブーンの
顎を撃ち抜いた。

(;゚ω゚)「――ッ」

がちり、と歯と歯のぶつかり合う音が聞こえ、ブーンの体がわずかに浮き上がる。
そのままブーンは背中から地面に落ちた。
急に背中を打ち、肺の空気が一気に漏れ、しばしの間地獄のような苦しみが訪れる。

(;゚ω゚)「はっ……はっ……」

必死に空気を吸い込もうとするブーンに向かってイヨウは吐き捨てるように言った。
「喧嘩もしたことないくせに調子乗んじゃねぇヨウ」…と。
そしてさらに搾り出すかのようにこうも言った。

(=゚ω゚)ノ「お前に……何がわかる」





踵を返し、自分の折りたたみ自転車の方へ徒歩を進めるイヨウの背後から途切れ途切れの
弱々しい―それでいて強い声が響いた。

(#゚ω゚)「そんなもんわかるわけないお」

必死に呼吸を整えながらブーンは続ける。

(#゚ω゚)「お前みたいな負け犬の考えなんてわかりたくも無いお!!!!!」

この一言でイヨウにもスイッチが入った。
瞬間的にブーンのほうを振り向き、右腕を振りかぶりながらブーンへと走っていく。
右腕が振り下ろされようとしたとき、ブーンはそのパンチが到達するであろう自らの顔面を
両手を挙げてガードする。しかし、その瞬間、腹部に衝撃が走る。

(;゚ω゚)「ごぷっ……」

イヨウの右腕はフェイクで、本命は左腕を使った、2度目の腹へのジャブ気味のパンチ。
先刻と同じように無防備な腹を叩かれ、上半身を丸めるブーン。
その瞬間顔面に比喩のしがたい衝撃が走り、少し遅れて痛みが走る。
視線を下に向けられた顔面にイヨウの右ヒザが見事に決まり、ブーンは再び背中から
地面に落ちた。
今回の痛みは先ほどとは比較にならない。思わず顔を覆ったブーンはその手に何か違和感を覚える。
ふと手のひらを見ると、赤い液体。自らの血液を見たことでより痛みが激しくなったかの
ような錯覚に陥る。




( ;ω;)「(痛いお…痛いお……)」

横たわるブーンに向かって、イヨウはぽつりぽつりと言葉を浴びせていく。
一言喋るごとに腹部へ蹴りが入る。痛みに耐える事――肉体的にも精神的にも――に
精一杯ではっきりとは聞き取れなかったが、要約すると恐らくこうだ。


もううんざりだ。
いつかは報われる、そう信じてやってきた。
目先のみの仮初めの勝利に喜び、大舞台で恥をかく。
そんなばかげた事にはもう耐えられない。
もう先が見えた。
このチームの先には道が無い。
だから――見捨てた。

(#);ω;)「そんなの…おかしいお…」

うめくようにブーンは言う。
その直後、全ての力を振り絞るようにブーンは勢い良く立ち上がる。
突然の出来事に驚いたのとブーンの正体不明の気迫のようなものにたじろいでイヨウは
思わず距離をとった。




(#);ω;)「…道なんて、先が見えているわけが無いお」

(#);ω;)「道も、未来も…自分達で作りながら歩いていくものなんだお」

(#);ω;)「それを自分で勝手に決め付けてたら…その人間はもう進歩しないお」

沈黙。一息ついてブーンは続ける。

(#);ω;)「イヨウには…先すら見えずにもがき続ける人間の気持がわかるのかお…?」

(#);ω;)「自分よりも高い所にいて…追いつこうと必死で…頑張って頑張ってやっと追いついたと思ったら
     気付いた頃にはもっと高い所へ行かれている…。そんな意味の無い努力を続ける人間
     の気持ちが…」

ちくり、とイヨウの胸に何かが刺さったような気がした。
今、ブーンが言ったこと…自分には思い当たる節がある。

バスケ部の関係をそのまま表しているのだ。

入部当初からそうだった。ドクオやイヨウ、モナー。強豪中学での経験から培われた
技術は入学時で既にそれなりのものとなっていた。入学時にはその3人とブーン、ジョルジュの
間には絶対的な差があっただろう。
ジョルジュは持ち前の超人的な身体能力や飲み込みの速さが幸いし、1年足らずで県上位でも
通用するようなプレーヤーとなった。では、ブーンは?




毎日朝早くから体育館へ訪れて練習をしているのは全員が知っていた。
事実、ブーンが1年生の頃の上達には目覚しいものがあった。しかし、他のメンバーと
同じように練習を積めば積んだだけ上手くなって言ったかといえば、そうではなかった。
閾値に達した、とも言うべきだろうか。飽和、と置き換えても差し支えないだろう。
ある一定のレベルから、ブーンの実力は停滞気味になっていたのだ。
そんなブーンとは裏腹に他のメンバーは次々と力をつけていく。
ブーンはそれでも毎日のように努力を続ける――
先の見えない、実感の沸かない努力に価値があるのだろうか?
同じように、そんな努力を続ける事に意味があるのだろうか?
否、ブーンにとってはおそらくそんなことを考える事すら意味など無いのだ……

(=゚ω゚)ノ「――っ!!ぐぅ……!?」

考え事をしていたイヨウの脇腹にブーンの蹴りがもろに入る。とっさに腕を下げて
ガードするも、衝撃を殺しきれない。
鍛え抜かれた、そして常人離れした脚力を持ったブーンの渾身の蹴りは、格闘マンガの
戦闘シーンのようにイヨウを数m飛ばした。

(=゚ω゚)ノ「……ってぇ…」

脇腹を押さえながらふらふらと立ち上がり、ブーンを睨みつけるイヨウと、
止まらない鼻血を手でぬぐいながらイヨウを睨みつけるブーン。
互いの目には、かつての仲間の姿など映ってはいなかった。




( ゚∀゚)「ひぃ…ひぃ…あっちぃなぁ……この辺であってたか…?」

ジョルジュは携帯電話を開いて、15分ほど前にブーンから受信したメールを再確認する。
場所は恐らくここであっているだろう。注目すべきはその内容だった。

『線路沿いの噴水公園のベンチに座ってるイヨウを発見したお!!大至急応援求ム、だお!!!』

( ゚∀゚)「10分以上経っちまってるしな…さすがにもういないかな…?」


その目に飛び込んできたのは――

(#)#) ω )

(=゚ω゚)ノ

血だらけの真っ赤な顔をして仰向けに倒れているブーンと、衣服のところどころに
ブーンのものであろう血液を飛び散らせたイヨウの姿だった。


第31章 完



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