( ^ω^)ブーンが高校バスケで日本一を目指すようです  第二部

第34章 おかえり




―体育館―

(;;=゚ω゚)ノ「ぜぇ…ぜぇ…うぇっぷ…」

日の出前、無人の体育館。
そこには早朝特有の冷え込みにもかかわらず、上下半袖の練習着でシャトルを黙々と
こなすイヨウの姿があった。彼の体からは相当な量の湯気が立ち上っている。
数をカウントするのは自分だ。インチキをしようとすればいくらでもできる。
しかしイヨウのプライドがそれを許さなかった。自らに回数を数えさせているのは
ショボン達がイヨウを信じているからこそ。
もう絶対に彼らを裏切らないと誓ったイヨウの頭の中にはインチキをすることなど
微塵も浮かんでいなかった。






( ^ω^)ノ「おいすー」

(;;=゚ω゚)ノ「……おう」
( ^ω^)「朝早くから感心だお!頑張ってるおね」
(;;=゚ω゚)ノ「…あぁ。…決めたからヨウ…ぜぇぜぇ…」
( ^ω^)「おっと、時間がもったいないおね。頑張ってだお。僕も頑張るお」
(;;=゚ω゚)ノ「……ブーン」
( ^ω^)「お?」
(;;=゚ω゚)ノ「……ありがとうだヨウ」

( ^ω^)b ビシィ

(;;=゚ω゚)ノ「…へっw」

('A`)「うぃーす」
( ´∀`)「おはようモナ」
( ゚∀゚)「うーす」
(-__-)「おはようございます!」
(・▽・)「おはようございます」

ブーンを筆頭に次々と体育館へやってくる部員達。
その全員が、早朝から汗だくに名って黙々と走っているイヨウを見て驚かないはずがなかった。
そして彼らはイヨウのことについてはブーンとドクオの説明によって把握したようだった。




( ´∀`)「僕は良かったと思うモナよ?ブーン君が言ったように全員そろってこそのバスケ部だモナ?」
( ゚∀゚)「(ホントに連れてくるかよ…まぁ話聞く限りじゃちゃんと反省してるみたいだけど……)」

(;;=゚ω゚)ノ「はぁっ……はぁっ……」

 ・
 ・
 ・
('A`)「うーし、そろそろあがるべー。ホームルーム遅れるなよー」
一同「うぃーす」

―教室―

先生「じゃあこの問題を…内藤にやってもらおうか。難しいぞー?」
( ^ω^)「y=2sin(θ-π/3)ですお」
Σ('A`;)「なぬっ……(あってる…)」
先生「むむむ……じゃ、じゃあこれを解いてみろ!!」
( ^ω^)「t=sin^2x-cosxとおいて与式yに代入して方程式を解けばいいですお。楽勝だおwww」
先生「内藤が正解を導き出しただと…!?」
/先生\「ナンテコッタイ」
( ^ω^)「おっおっおっw絶校長だおw」
/('A`)\「ナンテコッタイ」


イヨウが戻ってこられる…。
それがわかってからのブーンはやけに明るかった。
部活でも、勉強でも、すこぶる調子が良かった。





―体育館―

数日後の体育館。
練習が終わり、自主練を行っている部員もいなくなった時間。
完全下校時刻などとっくに過ぎている時間であったが、イヨウは一人、走っていた。
本来ならば職員室からとんでもないクレームが飛んでくることは間違いないことだが、
そこはショボン色に染まった教頭の厚意もあり、苦労はなかった。
現在の本数は1400を少し越えた所。
このペースで行けばなんとか期限内に終わらせる事が出来る。
またバスケ部に戻る事が出来る…。そう思っていた矢先だった。

(;;=゚ω゚)ノ「いってっ!!!!」

誰もいない体育館で転ぶイヨウ。酷使されたその両足が同時につってしまったのだ。

(=゚ω゚)ノ「っ……!!!」

例えようの無い激痛が両足に襲い掛かる。両足の筋肉を無理矢理伸ばし、立ち上がるが
一歩足を踏み出そうとした時点で再びつりそうな感覚に襲われる。
それでも途中でやめるわけにはいかない。
イヨウは部室へ戻り、何重にもテーピングを施した足で再び走り始めた。
イヨウは走りながら、この数ヶ月間の愚かな自分を振り返っていた。




―――――――――――――――

―広場―

(=゚ω゚)ノ「じゃーなぁだヨウ」
男1「おう。またなー」
男2「じゃーなー」
女1「ばいばーい」

すっかり寒くなった空は冬の始まりを告げている。
黄色い折りたたみ自転車をこぐイヨウの身にも冷気は容赦なく襲いかかる。
ニット帽をかぶりダウンベストを着てマフラーを巻くという、少し気が早いかもしれない服装でも
自転車をこいでいる時の向かい風と言うのは実に辛いものだ。

(=゚ω゚)ノ「さっみぃ……」

寒さに身を震わせながら一人、文句を垂れるイヨウ。
しかし、寒いのは体だけではなかった。イヨウ本人はそれに気付いていなかったが。
いや、本当は気付いていたのかもしれない。自分にはあの広場よりもふさわしい、
居心地の良い大切な場所があるということを。しかしイヨウはその居場所を
己の手で捨て去った。自らが閉ざした道の先にこそ自らの求めるものがあるという矛盾を
認めたくなかっただけなのかもしれない。

広場の仲間とはやはりと言うか、相変わらず距離を感じていた。
数ヶ月の間、音沙汰無しだった男が突然戻ってきて当時と同じように我が物顔で振舞っているのだ。
彼らがイヨウに対してよい感情を抱かないはずが無いだろう。
もっとも、イヨウ本人にはそれを知る術はなく、それには気付けないままだったが。
そして気付かないうちに彼らとの距離は少しずつ広がっていく。




空白がイヨウの心の中を支配するようになっていた。何か強烈に印象に残る事があれば
その空白も一時的には埋まったのだろう。しかし実際には何の変哲も無い、
ごく普通のありふれた日常。特別を望もうともそれは叶う事はなかった。
心の中を無が侵食していくかのような感覚。
イヨウは夏休みに部活を辞めてから日々その感情と戦っていた。
そして同時に訪れる不思議な感覚に気付いた当初は必死に抵抗をした。
とにかく楽しい事をして気を紛らわせようとしていた。
しかし、その不思議な感覚は何をしてもなくなることはなかった。


退屈。


自業自得、と言ってしまえばそれまでだが、イヨウの心は退屈に支配されていた。
イヨウは次第にその不思議な感覚と戦うことをやめていた。何をしてもつまらないままなのだ。
不思議な感情に対して無駄な抵抗をするくらいならいっそ何もせずに、退屈な日々を
怠惰に過ごす方がマシだと判断したのだろう。夏休みが終わる頃にはイヨウは引きこもりと
言ってもおかしくない状態だった。不規則な生活を送り、たまに外に出る時は
自転車をこいで広場に向かう。――クーに会うために。
しかしクーの姿は広場のどこを探しても見当たらず、仲間達とただ何となくバスケをする。





イヨウが広場に通う回数は少しずつ減っていった。そして約2週間振りに訪れた広場で……
ギコと二人で歩いていたクーと再会した。
その光景がイヨウに与えた衝撃は計り知れないものだった。その日からイヨウは全てに
対して無気力となっていた。そんな時に思い浮かんでくるのは全てバスケ部で過ごした思い出だった。
夏休み中も、夏休みが終わった後も。虚無感とともに浮かんできていた不思議な感情
次第にその輪郭をはっきりとさせていき、イヨウがバスケ部を辞めてから2ヶ月ほど経った日から、
それがバスケ部の思い出であることをイヨウに確信させた。

ぽわぽわと浮かんでくるバスケ部での思い出。
それだけは何をしてもかき消す事は出来なかった。
何をしていても歯痛のように付き纏う思い出。
そして、気付けばバスケ部でのことを思い返しながら物思いにふける自分にイヨウが気付くのには
さほど時間はかからなかった。
それが何故なのかはわからなかった。何度も何度も肝心な所で勝ちを掴めないことに対して嫌悪感を
抱いたから、イヨウは退部を決心したはずだった。
インターハイ出場を直前で逃したあの時、イヨウの心は既に固まっていた。
県予選が終わってから練習を休みがちだったのもそのためだ。そして特筆すべき相手もいない、夏休みの
県内公立高校大会。その大会で優勝して、最後に華やかな白星をつけて、有終の美を飾って部を去ろう。
そう決心していたのだった。――何の未練も残さなかった。そのはずだった。




「みんなで全国大会に行くんだお!!!」


全国大会?無理に決まっている。ここはただの公立高校。どうあがいたって私立には勝てないんだ。
……そう思い込もうとした。しかしそれは事実と矛盾していた。
VIP高校は確かに敗れた。だが昇りつめた。県の頂点を争う土俵にまで踏み込んだ。
今北やラウンジ学園にも全く引けをとらなかった。
もう一年あるじゃないか。たった一年でここまで上がってくる事が出来た。
ならば翌年にはどうなっているのか想像がつかないのか。
今北やラウンジ学園にも勝つようなチームになるはずではないのか。
目先の結果にばかりこだわっていたのは自分の方ではなかったのだろうか。

――あの場所へ戻りたい

イヨウは次第にそう思うようになっていた。
しかし、それはやはり叶わぬ願いなのではないかと思い知らされた。
校舎内ですれ違うたびに自分を避ける部員達。それはイヨウの心を深く傷つけた。
しかしそれは当然の報いであった。イヨウがブーンに対してとった行動を考えると、
やはり自分には部にもどる資格などないのだと、改めて思い知らされた。




『話したいことがあるお。明日の昼休みに部室に来て欲しいお。
 やっぱりちゃんと話がしたいお( ^ω^)』


ある夜、ブーンから送られてきたメール。
こんな自分とちゃんと話がしたい、と言ってくれている。イヨウの視界は自分でも
気付かないうちに滲んでいた。ずっと待ち望んでいた。誰かが声をかけてくれることを。
だからメールアドレスをずっと変えなかった。しかしこれまで電話はおろか、メールの1通すら
届くことはなかった。だからブーンがこのメールを送ってくれた時、イヨウは心から嬉しく思った。
部に戻れるかもしれない、と。

その翌日、イヨウは昼休みに部室へ向かった。鍵が開いているのを確認し、扉を開けようとした。
その瞬間、中から話し声が聞こえた。ブーンとジョルジュの声だった。

(=゚ω゚)ノ「(ジョルジュ……)」

正直、怖かった。イヨウはジョルジュの言葉を忘れてはいなかったからだ。

『俺は…俺たちは、お前を絶対に許さねぇ。二度と俺たちに関わるな』

拒絶される事を恐れた。自らの本心を打ち明ける前に拒絶される事を恐れた。
イヨウは扉を開けることが出来なかった。そしてイヨウが扉の外から盗み聞きするような形で
部室内の二人の会話は進んでいった。




『……僕は…甘いかお?」』
『……タラタラに甘いと思うぜ』


(=゚ω゚)ノ「(ブーン………)」

『お前がいいって言うなら……それが正しい事のような気がするんだ。この部活にとって必要な事だと思う』
『あんなに怒ってたのにかお……?』
『理屈じゃねぇんだけどさ…うーん……ダメだ、上手く言えねぇやw』
『おw』
『イヨウが反省してて…それでいてお前があいつを許すってんなら俺も…
 まーちょっとだけ許してやっても いいかな、って思うんだ。今になって考えりゃ
 俺も少しやりすぎちまったと思うしさ』
『そうかお……僕は……』

(=゚ω゚)ノ「(ジョルジュも……)」

二人の本心を知ったイヨウ。
自分にはまだ道が残されている事を知った。今、扉を開けて死ぬ気で謝れば…。
殴られてもいい。自分の本当の気持ちを伝えたかった。

――ちーんぽーんかーんとーん……

(=゚ω゚)ノ「(げ…本鈴鳴りやがったヨウ…)」

『やべっ!!!しんみりしたこと言ってたら本鈴なっちまった!5限始まるぞ!!』
『おぉっ!?』

(=゚ω゚)ノ「!!!!」




バタバタと二人分の足音が向かってくるのが聞こえた。イヨウは思わず近くのトイレに駆け込み、隠れた。
そして遠ざかっていく足音。残されたのは静寂。

(=゚ω゚)ノ「……なーにビビってだヨウ俺は……」

自分の小心っぷりに腹がたった。なぜあそこで自分の本心を伝える事が出来なかったのか。
イヨウは夏休みの噴水公園でブーンに「チキン野郎」と言われたことを唐突に思い出した。
――そうだ。俺はチキンで小心者……。自分の思い通りにならなければ拗ねて…。
思えば、入部を決めた時にドクオと寝転びながら夜空を眺めた時。自分よりも技術のある
ドクオに嫉妬していたということに気付いた。

(=゚ω゚)ノ「あの時から何も変わってないじゃねぇかヨウ、俺は……!!」

イヨウはこの時、自分がいかに自分勝手な人間だったのかということを悟った。
同時にこれまでの振る舞いを恥じた。そして一つの決心をした。

もう自分から逃げない、と。


『今……話…いいかヨウ…?』
『おkだお』

―――――――――――――――




 ・
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―体育館―

(;;=゚ω゚)ノ「ぜぇっ…ぜぇっ……」

( ^ω^)「イヨウ、頑張るおー!!」
('A`)「ラスト10だ!楽勝だろ?踏ん張れー!!」
( ´∀`)「あと少しモナ!!頑張るモナー!!」
( ゚∀゚)「が…頑張れなんて言ってやらねぇよ!男…いや、漢を見せろ!!」
ξ゚听)ξ「ファーイトー!!」
(*゚ー゚)「イヨウ君、頑張れ!!」
(-__-)「イヨウ先輩、ファイトです!!」
(・▽・)「あと少しですよ!!頑張ってくださーい!!」
一年その他「ウェイ!!ウェイ!!」




その決心をするまでにはずいぶんと時間がかかってしまった。
多くのものを失ってしまった。ゼロからのスタートに近いだろう。
だからなんだ。自分は確かに間違った道を進んでしまっていた。
だが、間違いは正す事が出来る。人間は過去を振り返り、反省し、それを未来へ
繋げる事が出来る。間違った道を進んでしまったのならば引き返せばいい。
それが取り返しのつく範疇なのかはわからないが、たとえどんな結末になろうとも
もう歩みを止めたりはしない。もう後悔だけはしたくない。
どんなにカッコ悪くても、最後まであがいてあがいて…自分の道を自分らしく突き進んでみせる。
もう絶対に自分から逃げない。そして――絶対に彼らを裏切らない。


( ^ω^)「ラストだお!!頑張るおー!!!」

(;;=゚ω゚)ノ「はぁっ…はぁっ…」

自分の本当の気持に気付いた今、イヨウはどんな時よりも満ち足りた気持ちでいた。
部を離れていた時の空虚な感じとは違う、不思議な感覚。
自分の本当の居場所を見つけた少年は今、一つの大きな試練を乗り越えた。




(=-ω-)ノ「……すぴー…」

( ´∀`)「…終わった瞬間倒れて寝ちゃったモナ…」
( ゚∀゚)「……ふん」

ショボンに与えられた試練を乗り越え、過度の疲労からその場で眠りこけてしまったイヨウを、
ジョルジュが担いだ。あの噴水公園でブーンを支えていた時のように。

(=-ω-)ノ「んー…むにゃむにゃ…」
( ^ω^)「イヨウ……おかえりだお…」

ブーンはそう言って、イヨウの寝顔に落書きをした。

第34章 完

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