第三部 五章  ラウンジVS今北(中編の後編)


第2クォーターがラウンジボールで始まる。
ベンチで新たな作戦の開始を決定し、意気込むラウンジ学園は、現在7点を追う展開とされている。
対する今北は、7点のリードがある状況ですら、余裕の表情――油断や慢心の類だ――を浮かべることもせず、
ただ淡々と各々のマッチアップのディフェンスへとつく。今北は第2クォーターもマンツーマンディフェンスで
くるつもりのようだ。

サイドライン外でボールを持つのは弟者だ。そしてその弟者からボールをミートするために動くのがクマー。
自分にマッチアップするのディフェンダーの裏をとるように素早く動き、彼のマッチアップのギコがそれを阻もうとした瞬間に
急激にストップ。踏ん張りから、さらにその裏をかくように動き、Vカットでボールをミートした。


(・(エ)・)「一本!いきます!!」


クマーの一声に、ラウンジ学園のメンバー一同は、おう!と応える。
劣勢と言っても差し支えない今この状況で、チームを活気付け、牽引するその姿は、一年生のものとは思えぬほど。


( ,,゚Д゚)(さて…こっからだな、大事なのは)


そう。大事なのはこれから。
ラウンジ学園を絶望のどん底に突き落とすには、ここからが重要なのだ。


( ´_ゝ`)(よし…ここからだ)


そう、ここからが大切なのだ。
今北へ反撃の狼煙を上げ、インターハイという大舞台への足がかりを得るためには、ここからが大切なのだ。




(・(エ)・)(第2クォーター開始直後で7点のビハインド…軽くはない。けど…)



( ´_ゝ`)(´<_` )



(・(エ)・)(けど…重くもなんともないクマー!)


右手でボールキープドリブルを、そして左手を高く掲げながら、サインを作り、チームメイトへ合図を送る。

…伝わった。

少々強引で、リスキーな気もするがこの際止むを得まい。第2クォーターでの先取点は試合直後の先制点と同様に
重要であるほかに、現時点での7点と言うビハインドを少しでも軽くするためにはなんとしてでも点を取る必要があるのだ。
そしてこのチームで最も確率の高い得点方法とは。


今北G「スクリーンいったぞ!」

川 ゚ -゚)「わかっている!このままスイッチするぞ!」


左45度の位置に立つラウンジH、武藤が逆サイドの弟者へとスクリーンをかける。
それに対応して今北Gとクーはディフェンスをスイッチする。
その瞬間に弟者は体を反転させ、ポストへと向かって走りはじめる。ボールのない状態でのピックアンドロールを展開する。





(・(エ)・)「そこ!」


――ビュッ


フリーの弟者に向けて鋭くパスを出すクマー。しかし。


川 ゚ -゚)(パスが5番の進行方向からずれてる……?)


レシーバーの進行方向へ若干早めのタイミングで出し、レシーバーが動きやすいジャストのタイミングで手元に到達するように
出されるリードパス。しかし、このままでは弟者のリーチを鑑みても、ボールには届かないはずだ。
得点を急き、焦って速いパスを出そうとしたが故のパスミス?
いや――


川 ゚ -゚)(ちっ……4番か!)


ボールの進行方向、弟者のさらにその先。
兄者も弟者の動きに合わせてほぼ平行にパスランをしていた。


( ,,゚Д゚)(5番を使ったピックアンドロールは囮か…!)


/ ゚、。 /(くそっ…!5番と9番のピックアンドロールだと思って対応しようとして…4番を見失っていた…。完全にやられた!)


弟者と武藤のピックアンドロールにより弟者がフリーに。
そして今北のディフェンスが、フリーになった弟者に対応しようとすることを見越した上での、兄者へのパス。

今北のリードは7点。少ないわけではない。
しかし、第2クォーターの入りですぐさま失点してしまうことだけは避けたい。
その焦りからか、今北のディフェンス陣はローポスト付近の兄者を追おうと慌てて対応しようとする。


だが、それこそがラウンジ学園…いや、クマーの狙いであった。


( ´_ゝ`)(いいセンスしてやがるぜほんとによぉ!)


――ばちっ





/ ゚、。 /(なにっ……!?)



――ばしっ
(´<_` )「っしゃ、待ってました!!」


川 ゚ ‐゚)(弟に…弾いただと!?)




( ,,゚Д゚)(ばかな……!このいくら双子だからってこんなタイミングのプレーができるわけ…!)


そう。――初めからわかっていなければ、こんなプレーできるはずがない。

初めから、わかっていなければ。


( ,,゚Д゚)(まさか……)


――パシュッ


(・(エ)・)「ナイッシューですクマー!弟者さん!」


(´<_` )「おうよ!」



( ,,゚Д゚)(13番……!!てめぇかっ!!)



( ´_ゝ`)「さーあ、ディフェンスだ!ハンズアーーップ!!!!」


ラウンジ一同「おおおっ!!!!」


( ^ω^)「このディフェンスは……」


('A`)「1-3-1ゾーンか!」

_
( ゚∀゚)「ちょっと待てよ、こいつらの1-3-1ゾーンは今北に一度破られてるはずだろ!?なんで敢えて…!?」


(=゚ω゚)ノ「中央に位置する兄者への尋常でない負担が原因でこのゾーンは崩されちまってたじゃねーかヨウ!」


( ´∀`)「兄者くんの脚力やスタミナの強化をしてきたのかモナ…?」


<_プー゚)フ「???(話についていけない……)」



ゾーンディフェンスのポジショニングは、トップにLクマー、中段の真ん中にラウンジE、その右側にH武藤、左側にはD弟者。
そして下段にC兄者だ。





( ,,゚Д゚)「へっ、もう一回あのときみたいにヘロッヘロにしてやろうかゴルァ!」


( ´_ゝ`)「やってみろ!俺たちは絶対に負けん!!」


( ,,゚Д゚)(……とは言っても、だ)


一体何を考えている?
あの時と同じ戦法なのか、それとも新しいディフェンスシステムなのか。
以前はゾーンの中央を守っていた兄者が下段にポジションを変えている。
これは、新しいシステムゆえのポジション変更なのか。
それとも、以前と同じシステムだがディフェンス力に秀でる兄者の体力を温存させるためなのか。

どう攻める。

オーソドックスに攻めて様子を見るべきか、前回と同じように攻めてみるべきか。

第2クォーターに入った直後にラウンジ学園に得点を許してしまっているため、ここはさすがに慎重に攻めるべきだ。
迂闊に攻めてターンオーバーとなってしまっては、それこそ流れを持って行かれかねない。

ハーフライン付近でキープドリブルをしながら、ギコは思考を重ねる。


( ,,゚Д゚)(こっちも以前とは状況が違う。アウトサイドにはクーが。インサイドにはダイオードだっている…)


まずは、右45度。スリーポイントライン近辺でミートしてきたクーにパスを出す。




――キュキュッ!


(´<_` )「ボールおk!」


( ,,゚Д゚)(1人しか出てこない…?)


以前のラウンジ学園の1-3-1ゾーンは、ゾーン周辺のプレイヤーに対しては常にダブルチーム、もしくはトリプルチームでひたすら動き回る、というものであった。
5人全員が豊富な運動量でゾーン内を動きまわるディフェンスに、今北は為す術もなかったのが事実だ。
以前の対戦時には、5人の中で群を抜いて動き回り続ける必要があった兄者のガス欠でなんとか破ることができた。
おそらく不可能であるだろうが、あのディフェンスを最後までもたせることができていたならば。
今北はこれでもかというくらいに惨敗していたはずだ。

それなのに。


( ,,゚Д゚)(ボールマンへの守りが以前と比べると甘い…?)


川 ゚ -゚)(いいディフェンスだ。インサイドには意地でも入らせないつもりか。だが…)


――ダムッ!


(´<_`;)「くっ…そっ!」



(=゚ω゚)ノ「うぉっ…!」


('A`;)「はええ!」


ウィークサイドへのドライブで、クーは弟者を抜き去る。


川 ゚ -゚)(1-3-1ゾーンを崩すときのセオリー、それはコーナー付近)


川 ゚ -゚)(実際に攻めてみなくては何もわかるまい。これで奴らのたくらみを探る!)


――キュッ!


右コーナーのスリーポイントライン上でクーはストップ。
そのまま、得意のクイックモーションでのシュート体勢に入る。




1-3-1の基本性質上、コーナーにいるプレイヤーに一番近いのは、ゾーン中段の両翼に位置するプレイヤーだ。


川 ゚ -゚)(つまりそいつさえ抜いてしまえば)


他のプレイヤーがヘルプディフェンスに向かうことができたとしても、それはゾーンの形を大きく崩してしまうことになる。


川 ゚ -゚)(…まあ、このタイミングで抜かれたとして、ヘルプに来れるはずg…!?)



( ´_ゝ`)「うおおおおっ!」



クーは既にシュートモーションに入っていた。
視線はリングへ。だが、視野をコート全体に張り巡らせておくことも怠らない。

その視野の中。
クー自身の正面。
ゾーン下段を守っていたはずの兄者が、クーのシュートへのチェックを試みている。



川 ゚ -゚)(馬鹿な)


クーには決して驕りがあるわけではない。
そもそもクーのスピードに対応できるプレイヤーは多くない。
だから、彼はそれを純粋に事実として認識している。


――ボールはクーの右手の指先にかかる。あとは手首を返すだけだ。


川 ゚ -゚)(なぜだ)


あと少しだけタイミングが違っていたならば。
ブロックとまではいかなくとも、兄者はクーのディフェンスにつくことができていた。

クーは決して驕っていたわけではない。
彼が速いのは紛れもない、純粋な事実。


それなのに、だ。
兄者がこの位置まで詰めてくることができたのはなぜだ。


――クーの指先からボールが離れる。


川 ゚ -゚)(…なんだと?)

(´<_` )「ちぃっ!リバウンドっ!」


クーの視野に、抜き去ったはずの弟者までもが詰めてきているのが映った。

いくらこの兄弟が、ディフェンスの良いプレイヤーであるとはいえ、
このタイミングで自分を止めに来ようとすることができるなど、あり得ないのだ。


放たれたシュートは高く、高く舞い上がる。


――パシュンッ!


そしてほぼ真上から、直角に近い角度でリングを射抜く。


今北産大附今北 26-18 ラウンジ学園


川 ゚ -゚)(この配置は……!)

( ,,゚Д゚)(なるほど…な)



( ´_ゝ`)「くそっ、すまん!」

(´<_` )「あの野郎、速すぎだろjk」

( ´_ゝ`)「タイミングをもっと早く、だな」

(´<_` )「うむ」



ラウンジ学園が何をしようとしているのか。
それは、「それ」を体験しかけたクーが一番よく理解していた。


川 ゚ -゚)(コーナー封じ、か)


シュートを決めた直後、右コーナーにいたクーは四方を囲まれていた。

正面を兄者に、左側を弟者に。
そして、右側と背後をそれぞれベースラインとサイドラインに、である。


(´・ω・`)「うーむ」

('A`)「先生、今のは…?」

(´・ω・`)「最初からコーナーで潰すつもりだったのかもしれないね」
  _
( ゚∀゚)「そもそも1-3-1にすることのメリットってなんなんすか?よくわかんないです」

(´・ω・`)「さまざまなパターンにさまざまな応用を利かせやすいからさ。だが、その分一人一人の運動量、
     そして処理すべき情報量はケタ違いだ」

(´・ω・`)「僕個人の考えだが、1-3-1ゾーンは最も習得が難しいゾーンだと思っているよ」

<_プー゚)フ「でも確かに、相手が1-3-1ゾーン敷いてきたら、コーナー起点に攻めることになるっすよね」

ξ゚听)ξ「コーナーの守りが薄くなりがちなのが1-3-1ゾーンの欠点だものね」

( ´∀`)「ラウンジは、その弱点を消してしまうシステムを新たに組み込んできた、ってことモナか?」

(=゚ω゚)ノ「いやいやそんなもの……」

( ^ω^)「どうしろってんだお……」

(´・ω・`)「今のディフェンスだけではわからない。もしかするとラウンジは、1-3-1ゾーンの弱点であるコーナーを…」

( ^ω^)「?」

(´・ω・`)「いや、憶測でものを話すのはやめよう、すまない」


(・(エ)・)「ドンマイ!気持ち切り替えて一本行きましょうクマー!」


変わって、ラウンジ学園のオフェンス。


/ ゚、。 /(さて、出番も少ないしそろそろエンジンかけるか)


鈴木ダイオード。
一年生にして194cmという恵まれた体を持つ。
全中ではベスト4。
しかしセンターとしての能力だけで見たならば、全中ベスト4の称号は、彼には相応しくないのかもしれない。




――だむっ


(・(エ)・)「一本!いきましょうクマー!」

( ,,゚Д゚)(憎たらしい一年坊だぜ、ほんとによ)

( ,,゚Д゚)(視線をきょろきょろ動かすことがほとんどねえ。たぶんこいつは一つの視野の中でコート内すべての動きを常に見てやがる…)

( ,,゚Д゚)(それでいて俺のディフェンスからもしっかりボールを守ってやがる)

( ,,゚Д゚)(1クォーター目が全てと判断するのは早計…だろうな。いい選手だと思うぜゴルァ)



クマーは中学時代、バスケ部に所属してはいたものの、その実戦経験のほぼ全てはクラブチームやサークル、時には彼の父の勤め先の実業団にまで足を運び続けた末に身につけたものであった。

ゆえに中学での部活にはほとんど参加せず、周りとの衝突も多く、試合に出ることもほとんどなかった。

彼の協調性は皆無といってもいいほどだった。
常にレベルの高い選手たちに囲まれて練習を重ねてきた彼にとって、中学の部員たちのレベルの低さは耐えられるものではなかったのだ。

そして進む高校を決めかねていた頃に、フサギコ率いるラウンジ学園の試合を観たことで、彼はラウンジ学園への進学を決心した。

だが、彼がラウンジ学園バスケ部に入部したときにはフサギコは既に引退、卒業。そしてラウンジ学園大学のバスケ部員となっており、かわりにいたのはどこか頼りないキャプテン、兄者だった。

憧れていたプレイヤーが既におらず、「またつまらない部活なのか」と彼は嘆いた。

だがしかし、入部から一ヶ月経った頃、気づけばクマーはラウンジというチームに尊敬の念を抱いていた。

頼りなくみえるキャプテンも、あのフサギコをひたすら追いかけ、そして越えようとしていた。
キャプテンだけではない。部員の全員がフサギコのようになりたい、フサギコを越えるような人間になりたい、という意識を持っていた。

強豪にカテゴライズされるチームの中で、姿を消してもなお、これほどまでに多大な影響を与え続けているフサギコ。
そんな彼に憧れていた自分はきっと間違っていなかった。そして同志とも呼ぶべき多くの仲間たち。

中学時代にそのような気持ちをもったことのなかったクマーは、歓喜に震えた。
このチームでよかった。
このチームで活躍してみたい。

そして…このチームで勝ちたい――と。



――ビッ


(・(エ)・)「兄者さん!」


( ´_ゝ`)「っし!」


クマーからハイポストの兄者へのパスが出る。


/ ゚、。 /「……フッ!」

(;´_ゝ`)(っ…くそっ、こいつやっぱり猫かぶってやがったな)


背後からの激しいプレッシャー。


( ´_ゝ`)(こいつ、ボールマンに対するディフェンスが上手いだけじゃない!)


兄者がハイポストでポストアップし、パスを受ける直前にファウル寸前のあたりで体をぶつけ、たった一歩ではあるが
彼の仕事場のペイントエリアから押し出す。


( ´_ゝ`)(この野郎…!ほんとに一年かよ!サバ読んでんじゃねえのかくそったれ!)



インサイドプレイヤーにとっての仕事場である、ペイントエリア(コートに描かれている台形のライン内)。
パワーフォワードやセンターのポジションの選手にとっては、そのペイントエリア内での攻防が非常に重要なものとなる。
特に、熟練したインサイドプレイヤーにとっては、ポストアップする時点で勝負はとっくに始まっている。

よりよいポジションでガードからのパスを受け、ゴールまでの、あるいはアシストするに至るまでの概ねのビジョンは
パスを受ける時点であらかた完成していることが多い。

そして、兄者はそのビジョンをあらかた完成させた状態でパスミートを行っていた。
もちろん、相手ディフェンスの妨害等を計算に入れた上で、だ。






(´・ω・`)「ところがどっこい!!!!!!」

(;^ω^)「えっ」

(´・ω・`)「えっ」




ダイオードは、兄者がパスを受け取り、攻めに転じるか否か、そのまさしく瞬間に兄者の体勢を崩させる。
故意なのかそうでないのか――もっとも、故意にそんなプレーができるのならば即刻プロからお呼びがかかるようなプレーなのだが――、
結果として、兄者は自分から攻める機会を失ってしまった。
正確には、兄者にはまだ攻めるチャンスがあったのだが、ダイオードの好プレーにより、一瞬のうちに心が怯んでしまったのだ。


兄者自身から攻めることができないのであれば――



(;´_ゝ`)(弟者……!)



無意識の内に、弟者の動きを求める。




しかし。



兄者の視野には、彼のボールを求めて動く弟者の姿はなかった。





そのかわりに。





ギコにスクリーンをかけ、クマーをフリーにしようと試みる弟者の姿が見えた。




/ ゚、。 /(双子のコンビプレーじゃない……!?)



――みしっ…



(´<_`;)「うぐぉっ……!」


(; ,,゚Д゚)「ぐっ…ってぇ…!」


弟者とギコ、両者の体が激しく接触する。


( ,,゚Д゚)(くそっ……そっちかよっ!!!)



予期しないプレーに対応が遅れる今北。

弟者のスクリーンによって、一瞬であるがノーマークの状況を獲得するクマー。
そして、双子ゆえに弟者の意図を瞬時に理解し、クマーへとパスを送る兄者。


――ばしっ


(・(エ)・)(流石先輩たちが…つないでくれたパスだ!クマー)


( ,,゚Д゚)「スライドオオォォ!」



スクリーンにかけられながらも、それを必死に潜り抜け、クマーを追うギコ。



(#・(エ)・)「おおっ!」



(# ,,゚Д゚)「ゴルァァァァァ!!」


――がしっ!



( ,,゚Д゚)(しまった……!)


(#・(エ)・)「うおおっ!」



――しゅっ



( ,,゚Д゚)(しまった…これで3スローかよっ…)



――ザスッ


( ´_ゝ`)「!!」


(´<_` )「っ!!」


(;,,゚Д゚)「んなっ……!?」



審判「ファウル!紫4番、ハッキング!バスケットカウント、ワンスロー!」



(#・(エ)・)「っしゃあああっっっ!!!!!」



握り拳だけでなく、全身で闘志を剥き出しにするクマー。



――ウオオオオォォォォォッ!!



やや遅れて、会場が熱気に包まれる。




今北産大附今北 26-21 ラウンジ学園



「今北のスリーにすかさずスリーで対抗だ!」

「それだけじゃねえ!ファウルももらって、フリースローのおまけつきだ!」



(;=゚ω゚)ノ「マジかヨウ……」


(;^ω^)「スリーでのバスカン(バスケットカウント、ワンスロー)なんてなかなかお目にかかれるもんじゃないお…」


<_プー゚)フ「イヨウさんですら滅多にないっつーのに…!まぐれだろ、あの野郎!」


('A`;)「おいおいわかんねーぞマジで……!」


('A`)(でも…気のせいか?)


一瞬だけ、ほんの一瞬だけ。

あの13番の選手が、フサギコとダブって見えた。




<;ヽ`∀´>「ギコ……」


/; ゚、。 /「ギコさん……」


川 ゚ -゚)「っち、何をしている。見苦しい」


( ,,゚Д゚)「…………」


川 ゚ -゚)「おい、ギk――」


( ,,゚Д゚)「大丈夫だ、すまん。リバウンド、頼むぞ」


( ,,゚Д゚)(気のせい……か?)



ボーナススローのためにフリースローラインへと向かうクマー。ギコはその姿を見遣る。
彼は一年生だ。そして、背番号は13番だ。
そんなことは、わかっている。



( ,,゚Д゚)(なのに……なんで…ッ!)


クマーの背番号がぼやけて見える。

その背にぼんやりと浮かぶのは、二桁の背番号ではない。一桁の背番号だ。


――4番……?


いや、今のラウンジ学園の4番は兄者のはずだ。幻覚に決まっている。

それなのに、なぜ。


あの13番の姿が、フサギコとダブって見えるのだ?


審判「ワンスロー!」



(・(エ)・)「ふぅ」


――パスッ


今北産大附今北 26-22 ラウンジ学園




――ダムッ…



<ヽ`∀´>「ギコ!気にするなニダ!いつも通り一本とっていくニダよ!」


( ,,゚Д゚)(一体なんだってんだゴルァ…あの13番も…第1クォーターでテンパってたのが嘘みたいじゃねぇか…)



クマーのプレーに動揺し、ギコのボール回しが心ここにあらず、といった具合に雑になる。
その瞬間を、クマーが見逃すはずもなかった。


(・(エ)・)「…!!」


<;ヽ`∀´>「おい、ギk……」


――ばちっ


(;,,゚Д゚)「あっ……!」



川 ゚ -゚)「ちっ!あの阿呆め……!」


(・(エ)・)「速攻!クマー!」


ギコからスティールしたボールをそのままドリブルでワンマン速攻に持ち込むクマー。
はっと我に返った彼がクマーを追おうと振り返ったときには、二人の間には既に数歩分の差があった。

必死に追いかけるギコ。
そのギコを一気に追い抜き、コート上をかけるのは背番号7番、素直クールだった。


(;・(エ)・)「んなっ……!?(4番より遠くにいたのに…!?)」


相変わらず桁違いのスピード。しかしクマーは冷静にレイアップの体勢に移る。




川 ゚ -゚)「ふっ!」



――がきぃっ


(#・(エ)・)「痛っってっ…!」


手刀と見紛うほどに強烈なクーのファウル。




――バムッ


シュートを放とうとしていたクマーの右腕は大きく弾かれ、ボールはリングにも当たらずボードを直撃する。
その直後、審判のホイッスルが鳴り響いた。


審判「ファウル、白7番!ツースロー!」


川 ゚ -゚)「すまない、つい熱くなってしまったようだ。ケガはないか」


(・(エ)・)「…いえ、大丈夫ですクマー」


(・(エ)・)(すかした顔してえげつないことするクマー…)



――ウォオオオォォォォ!!!

ラウンジ学園の応援席が一気に湧き上がる。
第2クォーターの開始数分で一気に点差を縮めてきたのだ、当然だろう。
このツースローを決めることができれば、ワンゴール差だ。




(#,,゚Д゚)(くそっ…くそっ…くそっ……!!!!)


川 ゚ -゚)「おい」


(#,,゚Д゚)「あぁ!?」


川 ゚ -゚)「頭を冷やせ、バカギコ」


(#,,゚Д゚)「んだとっ…!俺は冷静だっつの!!」


川 ゚ -゚)「どこがだ…」


とりあえず、と一旦区切る。


川 ゚ -゚)「今のお前にボール運びを任せようとは思えない」


川 ゚ -゚)「率直に言おう。今、この試合を壊しているのはお前だ、ギコ」




(#,,゚Д゚)「……くっ…(言い返せねぇ…)」


川 ゚ -゚)「だが、お前にはいてもらわなければ困るのも事実だ。悲しいことに我々にはお前の代役はいないのだから」




――ぱしゅっ


クマーが一本目のフリースローを決める。

今北産大附今北 26-23 ラウンジ学園



(´<_` )「ナイスだ、クマー!落ち着いて二本目だ!」

( ´_ゝ`)「リバウンドは任せとけよ!」

(・(エ)・)「はい、クマー」

( ´_ゝ`)(しっかし…本当にすごいやつだな、メンタルにムラこそあるものの…)




――だむっ…


フリースローライン上で両手で軽く数回ドリブルをし、リズムを整える。


(・(エ)・)「ふぅ」


続いて呼吸を整え、まっすぐにリングを見据える。
頭の中で、ボールがノータッチでリングを通過するビジョンを描く。
バックスピンのかかったボールがネットを巻き上げるイメージも完璧だ。


乱れは、ない。



( ,,゚Д゚)「……だったらどうするってんだゴルァ」


川 ゚ -゚)「私がボールを運ぼう。お前は2番(シューティングガード)にまわれ」


( ,,゚Д゚)「…できるのか?急場しのぎのポジション変更がどれだけリスキーなことか、お前くらいのプレーヤーなら十分わかってるはずだろゴルァ」


川 ゚ -゚)「大丈夫だ、問題ない」





――ぱしゅっ


クマーが二本目のフリースローをイメージ通りに沈める。


川 ゚ -゚)「私のもともとのポジションはポイントガードだからな」



(■_■)「えっ、そうだったの?」


今北ベンチ陣「ちょwww監督?wwww」


(■_■)「いや、だってそんなの聞いてないし」


今北ベンチ陣「えっ」


(■_■)「えっ」



――ダムッ…


川 ゚ -゚)「おーし、いっぽーん」




第五章 完

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