第二十二話 「冒険者たち」
翌日の早朝。
宴会場には、男衆が所狭しと倒れていた。
そんな彼らもミルナの艦内放送に容赦なく叩き起こされ、
『VIP』の総員は出港準備に追われる羽目になる。
もちろん、ブーンもその慌しさの中でこき使われ、
『VIP』が『鈍色の星』を飛び立つ頃には体がヘトヘトになって床にぶっ倒れていた。
もはや頭の中もフラフラで、唯一彼の印象に残っていることと言えば、
出港のためにあちこちを駆けずり回っている最中、
ドックの欄干でショボン艦長とバーボンハウスのバーテンが
握手を交わしているのがちらりと見えたことくらいだ。
もっとも、すぐにジョルジュにせかされてその一部始終を見ることは叶わなかったが。
しばらくして、ドック内に警笛が鳴り響いた。
その音にブーンがのっそりと起き上がると、ドックの欄干には大勢の人々の姿。
彼らは皆、一様にこちらに向かって敬礼をしている。
荘厳にして厳粛な雰囲気。
それと同時に『VIP』全体がわずかに振動をはじめ、
敬礼をする欄干の人々の姿が後ろへと流れていく。
その光景の迫力に圧倒されていたブーンだが、
周囲の『VIP』乗組員達がドックに向かい敬礼をしているのを見て我に返り、
出来る限り「ビシッ!」と敬礼を決めた。
やがて、数週間親しんだ『鈍色の星』の姿は遥か後方へと流れて行き、
次第に鉛色の小さな点となり、いつしか空の蒼へと溶けていった。
それから数週間のことはよく覚えていない。
というより、覚えておくほどに特筆すべき出来事がブーンの身の回りには存在しなかった。
ちょっとした周囲の詮索のために、飛行機械で出撃したこと。
ばったり出くわしたツンとしどろもどろになりながら会話を交わしたこと。
それぐらいの記憶が薄っすらと頭の片隅に残っているだけ。
そんな日々の中、朗報は突然訪れた。
穏やかな日差しが心地よい晴れの日の午前。
いつものように上部甲板の清掃をやっていたブーンの耳に響いてきたのは、副艦長ミルナの艦内放送。
( ゚д゚ )『総員、直ちに上部甲板へ集合せよ』
その声に珍しく『VIP』の乗組員全員
(と言っても、飛行に必要な最低限の人員は除く)が上部甲板へと招集され、
ブーンが数時間かけて磨き上げた甲板はものの見事に汚されてしまった。
(´・ω・`)「あーあー、あーあー、なる。
やあ、艦長のショボンだよ。みんな元気?」
美しく甲板上に整列した総員の前で、ショボン艦長は相変わらずの調子で言葉を発する。
総員は「元気って言ったほうがいいのかなぁ……」なんて考えながら、
とりあえず何も言わないで、前方に立つわれらが艦長の姿を見つめた。
(´・ω・`)「みんな元気じゃないの?それじゃあ死ね。
今日は副艦長のほうからお話があるから、みんな、よく聞いてね」
その言葉の後、皆の前に出てきたのは目の下にクマーを作ったミルナ副艦長。
とっても不健康そうな体で出てきた彼は、それでも威厳のある態度で話を引き継ぐ。
( ゚д。)「こんな姿ですまん。ここ数日寝ていないものでな。
しかし、その成果はあった。数日前、ラウンジ艦隊がついに動き出した」
副艦長のその言葉に、甲板に整列した全員が歓喜の声を上げる。
( ゚д。)「現在『機械の耳』でその動向を追いながら、俺が『エデン』の海図を製作している。
大まかな進路さえわかればこっちのものだ。
その後はラウンジ艦隊に対し、『機械の耳』の集音範囲である五百kmの距離を保ちながら飛行を続け、
ラウンジ艦隊の動きが止まったところで、やつらに合流して一気にエデンへと降りる」
ミルナがそこまで言い切ると、甲板に整列した全員がかかとを鳴らし敬礼をする。
案の定、ブーンはワンテンポ遅れた。
離れたツンの方をちらりと見ると、彼女もどうやらワンテンポ遅れたらしく、
その場で必死に体裁を取り繕っている彼女の姿を見て、ブーンはくすりと笑った。
_
( ゚∀●)「いやー、とうとう『VIP』の目標が果たされる日が来たんだねぇ!」
( ^ω^)「おっおっお!うれしい限りですお」
上部甲板でのミルナの演説が終わった後、
いつものようにブーンは整備班の休憩室で談笑していた。
所属は飛行機械部隊なのに、
いまやすっかり整備班になじんで彼らの休憩室に入り浸っているブーン。
気心知れた兄貴分であるジョルジュがおり、
そしてなによりツンがあまり顔を出さないここは、ブーンにとって居心地がよかった。
('∀`)「ぶほほほほwwwそれにしても、『エデン』ってどんなところなのかしらねぇ?」
一方で姉御肌の毒男が休憩室にいる全員分のコーヒーを配って回る。
ジョルジュは毒男からコーヒーを受け取ると、神妙な顔をして話を始める。
_
( ゚∀●)「なんでもよ、汚染された地上に残された唯一の陸地が『エデン』らしいぜ?
そこには綺麗な水はおろか、たくさんのうまい食い物が生っているんだってよ!
あー……新鮮な果物を腹いっぱい食いたいなー!!」
突如、妄想の世界に入り、口から涎を垂れ流すジョルジュ。
そんな彼に向かい、オカマが反論する。
('∀`)「あら?あたしが聞いた話だと、どんな夢でも叶う魔法の島らしいわよ?
あたし、『エデン』に着いたら真っ先に女にしてもらうの!」
突如、夢見る少女の瞳になったオカマ。
そんなオカマに、ジョルジュが大笑いしながら話しかける。
_
( ゚∀●)「うひゃひゃひゃwwwwなんだよ、そのメルヘンチックな情報はよ〜!
大体、二mもあるオカマのどこをどうやったら女になるって言うんだよwwwww」
('A`#)「お黙り!この腐れ乳首!!」
怒りの咆哮とともに、オカマはジョルジュにスクリューパイルドライバーを繰り出す。
技の威力よりも、オカマの股間に挟まれたショックでジョルジュは意識を失った。
ジョルジュ長岡。享年二十八歳。
/ ,' 3「なんじゃ?騒がしいのぅ、ここは」
ξ゚听)ξ「ここはいつもそうよ」
ブーンとオカマがジョルジュの墓を作っていると、扉を開けて入ってきたのはツンと荒巻。
とてつもなく珍しいツーショットだ。
('A`)「あら小娘、荒巻のおじい様と何をやっているのよ?」
ξ゚听)ξ「何もしてないわよ。このクソジジイが勝手にあたしに付きまとってくるの!」
/ ,' 3「むひょひょひょwwww若いおなごは見ているだけで目の保養になるからのぅ」
そう言ってツンに抱きつこうとする荒巻だが、簡単にツンにあしらわれてしまう。
エロジジイの扱いにすっかり慣れたツンは、
そのままブーンが座っていた席に着くと、目の前のコーヒーを指さす。
ξ゚听)ξ「これ、誰の?」
(;^ω^)「ど、どうも僕のです」
ξ゚ー゚)ξ「じゃあもーらい!!」
そう言って、ツンはブーンのコーヒーを飲み干した。
間接キッス……
そんな馬鹿なことをブーンが考えていると、
彼の妄想など微塵も気にいていない様子でツンが続ける。
ξ゚听)ξ「で、何話していたの?」
('∀`)「ぶほほほwwww『エデン』ってどんなところかしらね〜、って話していたのよ」
/ ,' 3「ほう!それはわしの出番じゃのう!」
オカマの言葉に眼を輝かせた荒巻は、適当な椅子の上に飛び乗った。
そのまま、ブーン達を自分の目の前に座らせると、教授らしく講義を始める。
/ ,' 3「まずはじめに、なぜこの世界が空中に浮いているかわかるか?」
ξ゚听)ξ「わかんない」
/ ,' 3「このアホ娘が!いいか?
かつて、世界は地上にあった。
しかし、何らかの原因で地上は汚染され、
現在、地上は分厚い雲海に覆われ、酸の雨が年中降り注いでおるのじゃ」
ξ゚听)ξ「なんで地上は汚染されたの?」
/ ,' 3「知らん。世界規模の戦争の結果だとも、大規模災害の結果だとも言われておる」
ξ゚听)ξ「なーんだ。何にもわかってないんじゃない」
/ ,' 3「黙れ小娘!教授が何でも知っていると思うな!!
世の中はわからんことだらけ、仮説だらけで成り立っておるんじゃ!!」
つばを飛ばしながら怒鳴り散らす荒巻。
このじじい、自分の専門分野になるとうるさいようである。
/ ,' 3「そのため人は、生活の場所を空に求めた。
その際に初めて空に浮いた島が『トップページ』で、そこには旧世界の技術が眠っているらしい。
ちなみに、どういう原理で島が浮いているのかは知らん」
ξ゚听)ξ「結局あんた、何にも知らないんじゃない」
/ ,' 3「うるさい小娘!
そんなに知りたかったら『トップページ』にでも行って来い!!」
ξ゚听)ξ「やーだよーだ!」
/ ,' 3「小娘、退場!」
ξ゚听)ξ「だが断る!」
ツンと荒巻の登場で、先ほど以上に騒がしくなる休憩室であった。
( ^ω^)「それで、肝心の『エデン』って何なんですかお?」
/ ,' 3「そう、それ!それがわしの専門分野!!」
ブーンの助け舟に荒巻の表情がパッと明るくなる。
/ ,' 3「そもそも『エデン』とは、
旧世界に存在した『旧約聖書』という書物の中の『創世記』に登場する楽園の名前じゃ。
そこには二人の男女がおり、たくさんの食べ物と動物達と幸せに暮らしておった。
しかし、いろいろあってその楽園を追放されてしまうんじゃ」
ξ゚听)ξ「省略しすぎ」
/ ,' 3「オカマ、この小娘を何とかしてくれ」
('∀`)「ぶほほほwwwお口にチャックよ―――!!」
ξ#゚听)ξ「モガモガ――――!!」
オカマはツンを抱えると、彼女の口を両手でふさぐ。
/ ,' 3「まあ、『エデン』という名前の由来はここから来ておるのじゃな。
それで、実際問題、『エデンとはどういうところなのか』
という疑問が浮かんでくると思うのじゃが、残念ながらはっきりしたことはわかっておらん」
ξ#゚听)ξ「モゴモガモゴモゴ―――!!(引っ込めくそじじい――!!)」
/ ,' 3「何を言っておるのかわからんが、そこはかとなくむかつく小娘じゃのぅ……」
荒巻はテーブルの上に置いてある、誰のものかわからないコーヒーを一口飲む。
/ ,' 3「しかし、『エデン』がどういうところなのか推察する手立てはある。
それは、『エデン』の伝説がいつ頃から流れ始めたのか、という時期区分により推察される」
そう言って、「フフン」と得意気に鼻を鳴らすじじい。
一方で、彼の目の前に座るオカマにツン、ブーンは「訳が分からん」といった表情。
/ ,' 3「たとえば、『エデン』の伝説が旧世界からずっと語り継がれているものならば、
『エデン』とは旧世界の民にとっての楽園ということになる。
逆に、新世界、つまり空の時代から語り継がれ始められたのであれば、
それは我々、新世界の民にとっての楽園ということになるのじゃ」
いまいち「パッ」としない表情のブーン。
そんな彼とは対照的に、オカマと彼に口をふさがれているツンは「ムフムフ」と頷いている。
/ ,' 3「かつては後者、つまり新世界になってから語り継がれ始めたという説が有力じゃった。
そのため、世間にはさっきオカマが言っておったようなメルヘンな『エデン』像が蔓延していたわけじゃな」
('∀`#)「あらやだ、立ち聞きしていたのね?ウンコおじい様」
/ ,' 3「むひょひょひょwww情報収集と言ってほしいのぅ。
しかし、旧世界の遺跡で『エデンの地図』が発見され始めてから、説は一変するのじゃ。
『エデン』とは、旧世界の民が望んだ理想郷。
これがどういうことを意味するかわかるか?」
( ^ω^)ξ゚听)ξ( 'A`) 「「「わかんない」」」
三人はものの見事に、同時に首を左右に振った。
/ ,' 3「旧世界の民が望んだと推察されるのは清浄なる大地。
つまりは、我々の世界に浮いている島のような大地じゃ。
ということは、『エデン』が我々の住む島のようなものであったとしてもおかしくは無いということじゃ」
荒巻のとんでもない発言に、三人は一斉にブーイングする。
( ´ω`)「がっかりだお……」
ξ#゚听)ξ「そうよ!それじゃあ目指す価値なんて無いじゃない!」
(;A;)「あたしの夢はどうなるのよ!?あたしは一生男でいなきゃいけないの!?」
目の前でギャーギャー喚く三人(特にオカマ)を「黙らっしゃい!!」と一喝すると、
鼻息を荒くして荒巻は続ける。
/ ,' 3「あくまで可能性の問題じゃ!
『エデン』が発達した旧世界の文明の島である可能性も十分にある!!」
その声に黙る三人。
荒巻は鎮静剤代わりにコーヒーを口にすると、落ち着いた口調で言った。
/ ,' 3「大切なのは、『エデンがどういうところか』ということではない。
それを探求し、真実へとたどり着く過程こそが真に大切なものなのじゃ。
それこそが人の生きる糧となり、未知なる世界の扉を開く原動力になる。
闇に覆われた真実、見果てぬ対岸の夢こそが人間の進歩の道標であり、
その道を手探りで進んでいく中で得たものこそ、なによりも重い自分を造るのである」
休憩室に静かに響く荒巻の声。
初めて人生の先輩として威厳ある格言を発した彼を、三人は尊敬の眼差しで見つめる。
そのまま「コホン」と咳払いを一つすると、さらに荒巻は言葉をつむぐ。
/ ,' 3「そして、最も深い闇に覆われた真実こそ、若いおなごの身体である。
というわけで小娘、わしにお前の身体を調べさせんか―――――い!!」
椅子の上から自分の下へとダイビングしてきた荒巻を、
ツンはどこから取り出したわからない金属バッドで、空の彼方へと葬った。
ジョルジュが逝き、
荒巻が星になってから一週間弱が経過した。
その間の空の旅は、不気味なほどに何事も無く順調。
『エデン』を目指すラウンジ艦隊と『機械の耳』の集音限界点である五百kmの距離を保ったまま、
静かにひっそりと『VIP』は中空を進む。
そんな穏やかな日々も、ついに終わりを迎えた。
突如『VIP』乗組員全員に招集をかけたショボン。
彼の傍らに立つミルナは壇上に上ると、静かに言った。
( ゚д゚ )「ラウンジ艦隊の動きが止まった。
これはつまり、ラウンジ艦隊が『エデン』近郊に到達したことを意味する。
我々はこのままラウンジ艦隊に合流。
やつらから『エデン』近郊の空域を奪取する」
静かにそう宣言するミルナの表情は、かつて無いほどに厳しいそれであった。
人生の目的を賭けた、一世一代の大勝負。
彼の表情からその思いを肌で感じ取った『VIP』総員は、
続いて壇上に上がってきた艦長の姿を緊張の面持ちで見つめた。
(´・ω・`)「決行は明日の夕方。
黄昏の空に乗じて、ラウンジ艦隊へ向けて一気に奇襲をかけるよ。
総員、尻の穴を締めてかかってね。以上だよ」
直後、総員はかかとを鳴らし敬礼をする。
今回は彼らに遅れることなく、ブーンとツンも美しい敬礼をして見せた。
第二十二話 おしまい
第二十三話 「FLY」
ラウンジ艦隊への奇襲を翌日に控えたその日の夜。
飛行機械部隊の休憩室では奇襲作戦について会議が開かれていた。
隊長のモナー、副官のクーを中心に、ブーンとツンをはじめとした飛行機械部隊の隊員は
長きに渡って作戦の確認作業に追われていた。
川 ゚ -゚)「いいか?『エデン』近郊にいると思われるラウンジ艦隊の総数は三。
ミルナ副艦長からの情報によると、それは
精鋭部隊の母艦である旗艦『ジュウシマツ』、そして二隻の巡洋艦の計三隻だ」
( ´∀`)「巡洋艦一隻は我々の戦力に照らし合わせるとおよそ二分の一の戦力だモナー。
だから、現在のラウンジ艦隊の戦力は単純計算で我々の二倍になるモナー」
つまり、物量的には『VIP』の方が不利ということになる。
しかしいつもどおりのポーカーフェイスで、蒼風は話を続ける。
川 ゚ -゚)「だが、案ずることは無い。
『質』で言えば我々と現在のラウンジ艦隊の戦力はほぼ互角だ。
奇襲といういささか卑怯な作戦を取れば、十分我々に勝機はある」
( ´∀`)「でも、油断は決してしてはいけないモナー。
敵はわずか三隻。おそらくそれは先遣部隊で、
『エデン』を発見しだい、後発の大部隊が来るものと思われるモナー。
こういう時の先遣部隊というのは、
軍の中でも選りすぐりの部隊で編成されていると相場が決まっているモナー。
つまり、『ジュウシマツ』の部隊だけでなく、残りニ隻の巡洋艦にも、
腕の立つ飛行機械乗りがいると思ってまず間違いないモナー」
赤い男爵の言葉に、総員の表情に影が宿る。
しかし、男爵は相変わらずの笑顔のままさらに続ける。
( ´∀`)「しかし、それ以上にお前達は強いモナー。
全員の教習を受け持った僕が言うから間違いないモナー」
そう言って全員の顔を見渡すモナー。
優しい笑顔の中に一家の大黒柱たる威厳を持った彼の表情には、
その言葉を真実と裏付けるだけの説得力があった。
川 ゚ー゚)「そういうことだ。では、作戦内容を説明する」
モナーの言葉にほんの少しだけ笑顔を見せると、
すぐにいつものポーカーフェイスに戻ったクーが、手にしたプリントの内容を読み上げる。
川 ゚ -゚)「我々は三つの部隊にわかれ、各部隊、割り当てられた一隻を確実に落とす」
そう言って、部隊の隊員とその攻撃目標を読み上げていくクー。
しかし、彼女の口からブーンとツンの名前はいつまでたっても出てこない。
やがて、最後の部隊のメンバーが読み上げられていく。
川 ゚ -゚)「そして、最後の部隊の攻撃目標は旗艦『ジュウシマツ』。
メンバーは、モナー、私、そしてブーンとツンだ」
スポポポポポポーン!!!
。 。
。 。 。゚
。 。゚。゜。
/ // /
( ω)ξ)ξ「「のっぴょっぴょーん!!」」
とんでもない大抜擢に、二人の眼球は空高くまで飛び上がった。
それが自分達のもとに戻ってきたのを確認すると、二人は一斉に抗議を始める。
ξ;゚听)ξ「止めらんないよ、超特急!あたし達じゃだめー、普通にだめー」
(;^ω^)「そうですお!僕たちに『ジュウシマツ』なんか落とせるわけ無いですお!
足手まといになるのが落ちですお!」
立ち上がり、自分たちの無力さを力説する二人。
そんな二人に向けて、クーは静かに言った。
川 ゚ -゚)「そう思っているのはお前達だけだ」
途端、室内が静まり返る。
不審に思いブーンが周囲を見渡すと、
飛行機械部隊の全員がブーンとツンを見て頷いている。
川 ゚ -゚)「お前達二人の腕は、並大抵のものではない。
さすがは、幼い頃から飛行機械をいじくっていただけのことはある。
もう少し時が経てば、お前達は私やモナーなどすぐに追い抜いてしまうだろう」
うれしそうに、だけどほんのちょっとだけ悲しそうに呟く蒼風。
二人は『VIP』のメンバーになって初めて、クーに賛辞を受けた気がした。
( ´∀`)「史上最年少飛行機械乗りの称号は伊達じゃなかったのかモナー?」
クーの隣に眼をやれば、優しい顔で微笑むモナーの姿。
なぜか、二人の姿に今は亡き父と母の面影を重ねたブーンとツンは、
周囲の人間が見守る中で、高らかに宣言した。
ξ#゚听)ξノ「やるわよ!やってやろうじゃない!!」
( ^ω^)ノ「史上最年少飛行機械乗りの称号は伊達じゃないんだお!!」
そう言ってピョンピョンと飛び跳ねる二人を、我が子のように見つめるクーとモナー。
周囲の人間は、その様子をほほえましく眺める。
今はまだ、二人は気づかない。
長らく失っていた『家族』、
それに似た絆が、確かにこの場所には存在していたということに。
後に人生を振り返ったときにはじめて、
この日、この場所、この瞬間に、
彼らが望んでやまなかったものが存在していたことに、二人は気づくのだろう。
大切なことはいつも、失ってはじめて気づくのだから悲しい。
しかし、だからこそ限りない程にいとおしい。
時は来た。
空がたそがれに染まり始めた夕暮れ時。
雲中に身を潜めながらたどり着いた先。
『VIP』の目の前には、三隻の巨大な鉄の塊。
愛用の飛行機械の座席の上。
身体が震える。
操縦桿がうまく握れない。
少年は瞳を閉じた。
大きく一つの深呼吸。
これまで経験してきたことのすべてが思い出される。
これまで出会ったすべての人の顔が思い出される。
少年は瞳を開けた。
バックミラーに映るは、幼馴染の姿。
彼女はこちらの視線に気づくと、バックミラー越しにニッコリと笑って親指を立てた。
その姿を見て、少年も笑って親指を立てる。
そして二人は、同時にゴーグルを下ろす。
_
( ゚∀●)b「ブーン、お前ならやれる。
たそがれに染まるこの空を……行ってこい!!」
機体の傍らに立つジョルジュが、こちらを見上げながら言う。
直後に振られる、毒男の発進合図のフラッグ。
ξ゚ー゚)ξ「行こう、ブーン!!」
( ^ω^)「……把握したお!!」
機体のエンジンが振動すると、身体がふわりと宙に浮く。
いつもとなんら変わりないエンジンの鼓動。
太陽の光を受けて銀色に輝く、見慣れた自分の機体。
何千回も知覚してきたこの感覚。
すべては、今、この瞬間に繋がっていたのだ。
( ^ω^)「ブーン、行きますお!!」
たくましく成長した二人を乗せ、
銀色の空の舟は、たそがれの中へと飛び込んでいった。
たそがれに染まる空を眺める男がいた。
鋭い眼光。
『エデン』を目指す飛行を開始して以来、常に獲物を狩るような眼差しを崩さない『黄豹』。
( ,,゚Д゚)「……」
周囲の連中は、もうすぐ目的の『エデン』へ着くのだと、
連日宴会を開いては馬鹿騒ぎを続けている。
そんな彼らを軽蔑の眼差しで見つめていると、
視界に入ってきたのはこちらへと歩み寄ってくるパートナーの姿。
(*゚ー゚)「……不満そうね?」
( ,,゚Д゚)「ああ。精鋭部隊の名が聞いて呆れるぞゴルァ!」
そう吐き捨てて、再び視線を空へと戻す。
( ,,゚Д゚)「物事の終わりが一番危険なのだゴルァ。
そんなこともわからんのか……この連中は!」
(*゚ー゚)「ふふふ。あなたが士官だったら、
ラウンジ艦隊は間違いなく史上最強になっているわね」
( ,,゚Д゚)「ふん!海賊崩れの俺を士官登用するなど、この軍では考えられんだろうな」
『エデン』へと続く空には、自分達以外に存在しない。
その考えがもたらす慢心。
そして、おごりたかぶり。
軍事国家として名を轟かせる『メンヘラ国』の軍も、実情はこんなものらしい。
不機嫌極まりない表情のギコ。
そんな彼の視界に、わずかな雲間に浮かぶ見慣れぬ極小の点が映る。
( ,,゚Д゚)「しぃ……あれは何だゴルァ?」
(*゚ー゚)「え……?」
ギコの言葉に、しぃは視線を移す。
しかし、彼女の目にはたそがれの空以外に何も映らない。
代わりに彼女は自慢の『ネコ耳』を澄ます。
その耳に響いてきたのは、飛行機械のエンジンの音。
(;*゚ー゚)「こんなところに……なぜ飛行機械が!?」
彼女の呟きに自分の視覚の正しさを認識した『黄豹』は、更にそれを研ぎ澄ます。
点は次第に数を増やしていく。
その先頭にいるのは、『赤』と『青』、そして『銀』の飛行機械。
( ,,゚Д゚)「『レッドバロン』に『蒼風』だと!?ふざけるな!!」
振り返るとギコは、宴会で馬鹿騒ぎする連中に向けて大声で叫んだ。
( ,,゚Д゚)「敵襲だ!総員配置に着けゴルァ!!」
そんなギコの言葉をまじめに聞くものなど、彼の配下の部下以外には存在しなかった。
前夜の打ち合わせ通りに展開を始めた『VIP』飛行機械部隊。
接触回線用のワイヤーでつながれた各部隊は、それぞれの目標へと進路を変える。
川 ゚ -゚)「敵飛行機械の発進はまだだ。これはいけるな」
( ´∀`)「注意すべきは『黄豹』一機だけだモナー。だけど決して油断するなモナー!」
スピーカーから響くその声にブーンが「了解」と返すと、
乾いた金属音とともに接触回線用のワイヤーがはずされる。
( ^ω^)「ツン、索敵は頼んだお!」
ξ゚听)ξ「任せて!行くわよ!!」
彼女の言葉に、ブーンは一気に速度を上げた。
小さかった『ジュウシマツ』の機影がドンドンと大きくなっていく。
そこから飛び出してくるのは三機の飛行機械。
他のどの機体よりも早く飛び出してきたこの三機の真ん中に、
たそがれの空と同じ色の、黄色い飛行機械の姿が確かに見えた。
展開してきた敵機三機のうち、二機に向かっていくのは赤い男爵。
そして『黄豹』へと向かっていくのが、
普段は空の青に溶けて識別しづらいクーの蒼い飛行機械。
今回、『黄豹』の黄色い機体はたそがれの空に溶けており、
逆に夕焼けの空に馴染まない色を浮かべる『蒼風』の姿が、
なぜかブーンには頼りなく感じられた。
ξ゚听)ξ「ブーン、『ジュウシマツ』に攻撃を仕掛けるわよ!」
(;^ω^)「お、おk!!」
その言葉に我に帰ったブーンは、
『ジュウシマツ』の上部甲板に向けて一気に機銃を放った。
火線は直撃。
甲板は穴だらけ。
ブーンはそのまま身を翻すと、意気揚々と第二波を放つ準備に入った。
川 ゚ -゚)「さて……どう攻めるか」
『黄豹』へ向けて進路を取ったクー。
敵機との距離はまだある。
『黄豹』の戦闘パターンは頭に叩き込んでいる。
やつが得意とするのは「後の先」、相手の出方を待って自分の行動を決めるというやり方だ。
優秀なナビがおり、状況に応じて最善の行為を選択できる者のみだけがなしえる戦闘法。
対してこちらは単座式、一人で操縦するタイプの飛行機械。
索敵係であるナビと長距離飛行能力を切り捨てる代わりに、
エンジン出力、短時間の飛行能力を最大限に重視した機体。
「後の先」にはまったく向かない。
それならばここは正攻法、自分のもっとも得意とする戦闘方法でいくべきだ。
そう判断したクーは、機首を上げ、出力を最大限にまで上げて上昇していく。
川 ゚ -゚)「ついてこられるかな?」
そう呟いて下方を見ると、案の定、『黄豹』はこちらを追って上昇してきた。
( ,,゚Д゚)「相手は『蒼風』か!不足は無いぞゴルァ!!」
こちらに向かって進路を変えた青い飛行機械。
洗練されたそのフォルムに、ギコは吼えた。
直後、『青』は機首を上げて上昇していく。
( ,,゚Д゚)「……なるほど」
おそらく『蒼風』は上昇し、位置エネルギーを稼いで一気に下降。
猛スピードでこちらへと向かってくるつもりなのだろう。
( ,,゚Д゚)「それならば……」
そう呟いて、ギコも対面上空の『青』に向かって上昇を開始する。
しかし、じわじわと距離が開いていく『青』と『黄』。
( ,,゚Д゚)「性能の差か……しかし、それだけでは空を生き残れんぞゴルァ!!」
すると、上昇の最中に機首を斜めに下げたギコ。
そのまま一気に下降していく。
( ,,゚Д゚)「ほらほら、俺を落とす絶好のチャンスだぞ?ついてこいだゴラァ!!」
(*゚ー゚)「うふふ。釣れたわよ、ギコ♪」
しぃの言葉にギコは振り返る。
彼の瞳には、遥か上空からこちらに向かって急降下してくる『青』が映っていた。
川 ゚ -゚)「妙だな……なぜ降下する?」
位置エネルギー的にはこちらが圧倒的に有利。
このまま急降下すれば、射程内に『黄豹』の後方を確実に捉えられる。
『黄豹』の行動は「落としてください」と言っているようなものだ。
川 ゚ -゚)「……行くしかないだろう」
そう呟くと、クーも機首を斜め下方、下降していく『黄豹』に向けた。
グングンと縮まっていく二機の距離。
このままいけば、相手がループしようがターンしようが確実に後ろを取れる。
川 ゚ -゚)「『黄豹』……この程度の男だったか」
静かに呟いたクーは、自分の勝利を確信した。
後部座席のしぃはさらにその後方を見た。
視線の先では、こちらに向けて下降してきた『蒼風』と自分達の距離がドンドンと縮まっていく。
(*゚ー゚)「ギコ!もうすぐ相手の射程に入るわよ!!」
( ,,゚Д゚)「了解!カウントダウンを頼むぞゴルァ!!」
しぃは眼を細め、視覚、そして聴覚を済まして相手との距離を測る。
一方でその視線の先のクーも、射程距離のカウントダウンを始める。
(*゚ー゚)「…五」
川 ゚ -゚)「…四」
(*゚ー゚)「…三」
川 ゚ -゚)「…ニ」
(*゚ー゚)「…一」
川 ゚ -゚) (*゚ー゚)「「…ゼロ!!」」
『蒼風』の機銃から、火戦が発射された。
しかし、それが『黄豹』に直撃することは無かった。
川;゚ -゚)「……消えた!?」
火線は空を切る。
その線上にいた『黄豹』の姿は突如として消えた。
途端、機体の下方から強烈な風圧。
川;゚ -゚)「下だと?ふざけるな!!」
ギコはクーが機銃を発射すると同時に180度ロール、つまり背面飛行に入り、
下方に鋭角的な弧を描いて進路を反転。
クーの機体の下方スレスレを通り過ぎていったのだ。
すれ違いの際の風圧に、クーの機体のバランスが急激に乱れる。
川;゚ -゚)「あのスピードで『スプリットS』だと!?やつは化け物か!?」
ギコのその秘技的なマニューバを、人は『スプリットS』と呼ぶ。
間髪いれずにギコは『スプリットS』とまったく反対のマニューバ、
『インメルマンターン』を繰り出す。
上方に弧を描いて進路を反転、そのままクーの後ろを取る。
それに気づいて敵射線上から逃れようとするクーだが、
すれ違いの際の風圧で機体コントロールが思うようにいかない。
( ,,゚Д゚)「……チェックメイトだゴルァ!!」
『黄豹』は静かにトリガーを引いた。
放たれた火戦は『青』の飛行機械に直撃。
煙を上げながら高度を下げていく『蒼風』を確認すると、ギコは空域から離脱した。
川 ゚ -゚)「やれやれ……私もここまでか」
機体に響くのは明らかに異常なエンジンの振動。
機銃の直撃した部分から吹き出るのは煙。
自分の負けを悟ったクーは、シートベルトとゴーグルを外すと、空を見上げた。
西の空はオレンジに染まり、東の空は暗い藍色、夜が迫り始めていた。
川 ゚ -゚)「……最後は、青空の中で散りたかったな」
回転数の下がったエンジンを切り、座席の上に立つ。
エンジン音のしない空は、思った以上に静かで……怖かった。
目からこぼれ落ちるのは涙。
一人、迫りくる闇の中で散るのは、彼女にとってあまりにも恐ろしい現実だった。
しかし、にじむ視界のその先に、彼女は一機の飛行機械の姿を見た。
川 ゚ -゚)「……モナー?」
見慣れた真紅の飛行機械からは、明滅する発光信号。
川;゚ -゚)「……飛び降りろ……だと?」
何を馬鹿なことを……大体、任務はどうした?
私をかまっている暇があったら早く『ジュウシマツ』を落として来い!
死の間際まで、律儀にそんな建前を並べるクー。
しかし、最も頼れる男の飛来に、彼女の心には一筋の光がさしていた。
本当は、この空で散ることがどうしても怖かった。
そして、任務を放棄してまでこちらに向かってきてくれるモナーの思いがたまらなくうれしかった。
『レッドバロン』は『蒼風』の機体の下方へと進路を取る。
その地点に向かって、クーは意を決して飛び降りた。
川;゚ -゚)「モナ―――――――!!」
(;´∀`)「ク――――――!!」
飛び降りた先には、座席の上に立ちこちらに手を伸ばすモナーの姿。
彼は器用に足で操縦桿を操って機体のバランスを維持しながら、
堕ちていくクーに向かってゆっくりゆっくり下降してくる。
やがて、真紅の飛行機械の下降速度とクーの落下速度が一致した。
沈み行く西日が、中空を同速度で堕ちていく一人と一機の姿をオレンジに染める。
モナーはクーの手を取ると、そのまま彼女を自分の胸へと抱き寄せた。
(;´∀`)「クー!大丈夫かモナー!?」
川;゚ -゚)「モナー……」
彼女は目からあふれ出る涙を拭おうともせず、モナーの腕に抱かれて泣いた。
川 ; -;)「怖かった……怖かったんだ……」
そんな彼女を優しく抱きとめるモナー。
彼女の言葉は、遠く彼方で響いた蒼い飛行機械の爆発音にまぎれて消えた。
そのまま二人は座席の上へと座る。
操縦桿を手で握り、前を向いたモナー。
その視線の先には、そんな彼らのひと時を狙う、黄色い豹の姿。
( ,,゚Д゚)「……こんな形で決着はつけたくなかったぞゴルァ!!」
夕日に照らされギラリと光る機銃。
しかし、その射線上の二人に、恐怖など微塵も無かった。
( ´∀`)「……あいつらが来てくれたモナー」
川 ゚ー゚)「……ああ」
二人の視線の先、黄色い飛行機械の上空からは、
銀色の機体を夕日にきらめかせ、こちらに向かって下降してくる一機の飛行機械の姿があった。
第二十三話 おしまい
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