第二十五話 「My last fight」








『エデン』近郊における空戦が一段落ついた翌々日。
『VIP』は『エデン』近郊の空域を奪取。

中空に、その堂々たる艦影を浮かばせていた。

『ラウンジ艦隊』の被害は相当なモノだった。
飛行機械部隊は壊滅的な被害を受け、ジュウシマツも僚艦も損傷。
撤退を余儀なくされる。
一方、『VIP』の被害は、クーの青い機体とジョルジュ機のみ。

空戦は、『VIP』の大勝であった。




『VIP』の上部甲板。
そこに整列した総員。

彼らの表情に、空戦に勝利した喜びはまったく見られない。
皆一様に暗い顔をしており、中には人目をはばからずに号泣している者もいる。

彼らの眼前には、この空戦唯一の戦死者であるジョルジュ長岡の遺影。

総員はジョルジュの遺影に向かって敬礼をすると、彼の遺品を空に向けて放り始めた。

自分生きた証は、生きてきた空に解き放って欲しい。
それが彼の遺言。

ショボンはそれを尊重し、使い古した工具、お気に入りのエロ本、
その他、彼のすべてを放り投げた。

投げられた遺品の数々は蒼の中で緩やかな弧を描き、
『桃色の乳首』の生きた証は、雲海の底へと沈んでいった。




一昨日の晩。
日が沈んでしまったあと。

空戦が終わり、甲板に着艦したブーンとツン。
ツンはただ大声で泣きじゃくり、ブーンは甲板の床に頭を叩きつけて泣き叫んでいた。


( ;ω;)「僕が……僕が悪いんですお!!」


ただひたすらに自分を痛めつけ続けるだけの少年。

総員は何も言えずに見つめるだけで、慰めの言葉が見つからない事に歯噛みしていた。




葬式が終わり、閑散とする上部甲板で、少年はただ空を眺めていた。


('A`)「…………」


そんな少年に毒男が無言で近寄ってくる。
まだ十代というのに哀愁を漂わせる背中の隣に立ち、黙って空を見上げる。

蒼い空は視界一杯に広がるだけで、二人の気持ちとは裏腹に雲一つない。

ただ、風だけが静かに渡ってゆく。
その風に誘われて、オカマの長髪がなびく。




(  ω )「長岡さん……笑っていましたお」


そよぐ髪を片手で押さえると、傍らの少年が空を見つめたままに、静かに言葉を発する。


('A`)「……そう」


少年の方を振り向かず、ただ空を見続けながら、毒男は呟く。
彼の隣で、少年は毒男と同じ空を見つめ、言う。


(  ω )「……なんで長岡さんは笑っていたんだお?
     もうすぐ死んでしまうというのに……
     目の前に、長岡さんを殺した僕がいたのに……」




ブーンの言葉を聞くや否や、オカマは少年の頬を平手ではたいた。
少年は黙ってうつむくと、はたかれた頬を片手で押さえる。


('A`#)「馬鹿言ってんじゃないの!!
    ジョルジュがあんたのために死んだなんてね、うぬぼれもいいところよ!!」


オカマの怒声に、少年は驚いた表情の顔を上げた。


('A`)「……あいつはね、死に場所を探していたのよ。
   空から堕ちたあの日、幼馴染を失ったあの日から……ずっとね。
   そして一昨日、あいつは最高の死に場所を見つけた。
   あんたを守り、宿敵である『黄豹』に一矢報える空をね」


オカマのその言葉に、少年はボロボロと涙をこぼす。
そんな彼を胸に抱きよせ、オカマは続けた。


('A`)「『黄豹』は倒せなかったけど、あいつはあんたと小娘を守れた。
   そして、大好きな空の上で死ねた。
   ……あいつはきっと、幸せだったはすよ」


オカマは少年の身体を自分の胸から引き離すと、
だらりと力なく垂れている彼の左手を取って、その手のひらに何かを握らせた。




( ;ω;)「……これは?」

('A`)「あいつが出撃の前に残していった眼帯よ。
   今は……あんたが持っていなさい。その方が、ジョルジュも幸せなはずよ」


オカマの優しい言葉に、少年は泣き声を上げながら再びオカマの胸に飛び込んだ。


( ;ω;)「長岡さんは……長岡さんは本当に……幸せだったのかお?」

('∀`)「ジョルジュは最期に笑っていたんでしょ?それが何よりの証拠よ。
    だからね、もう自分を責めるのは止めなさい」


あとに響くのはブーンの泣き声だけ。
オカマはそれ以上何も言わずに少年を抱きとめ、空を見上げた。

見上げた空は、めまいを覚えるような深い蒼。

その蒼のあまりのまぶしさに、毒男の目から、一滴の涙が零れ落ちた。




その夜の食卓の雰囲気は寂しいものだった。
響くのは、食事を取る人々が鳴らすアルミの食器とフォークがかち合う音だけ。

無理に明るく振舞う者もいたが、彼らの勢いもすぐにフェードダウンし、
早々に食事を終えた彼らは、足早に自分達の持ち場へと戻っていった。


('A`)「はーい、お疲れ様。自分の仕事が終わった人は自室に戻っていいわよ」


食事の後も格納庫で仕事を続けていた整備班達に向けて
ねぎらいの言葉とともに、オカマの仕事終了の合図が告げられる。

その言葉に皆は片付けをはじめ、十分後には格納庫は人もまばらで閑散となっていた。
そんな格納庫の中で、愛機の傍らでひたすらに作業を続ける二人がいた。




('A`)「あんた達、手伝わせて悪かったわね。
   もう仕事は終わりだから、部屋に戻って休みなさい」

( ^ω^)ξ゚−゚)ξ「「……」」


毒男の言葉に沈黙を返し、二人は黙って作業を続ける。


ξ゚−゚)ξ「……ちょっとトイレ」

( ^ω^)「……おk」


そう呟くと、ツンは格納庫から消えていく。
毒男に見つめられながら、ブーンは一人、黙々と作業を続けた。




空戦という激務を終えたブーンとツンには、数日の休暇が与えられていた。

しかし、かけがえのない男を失った二人にとって、与えられた休暇は苦痛以外の何ものでもなかった。
部屋に引きこもるか、上部甲板に立ちつくし、後悔と罪の意識に苛まれるだけの時間。

……つらかった。

あの時、自分がああしていれば……
自分に、もっと力があったなら……
ジョルジュは、死ぬことは無かったのではないか?

過ぎ去った時間は戻らず、やり直しなどきくはずも無く、
少年は、失われたものの重みにただ押しつぶされていた。

だからこそ、
そんな二人の姿を見かねて整備班の仕事の手伝いを頼んできた毒男の気遣いが、
ブーンには何よりもうれしかった。きっとそれは、ツンも同じだろう。

仕事に追われ、無心にそれをこなしていれば、何も考えずにすむ。

そんな逃避の時間を二人に与えてくれた毒男は、
定時を過ぎても黙々と作業を進めるブーンの姿を少し寂しそうな笑顔で見ると、
「電気はちゃんと消すのよ」と声をかけて、その場を後にしようとした。





( ゚д゚ )『総員、第一級戦闘配備!!』


突如、響き渡ったミルナの艦内放送。
その声に、ブーンとオカマの顔に緊張が走る。


(;゚ω゚)「……どういうことですかお?」

('A`;)「……わからないわ」


唖然としたブーンの問いかけに、オカマは怪訝な表情で返した。
嫌な予感が走ったのだろう、オカマは上部甲板へと走り出す。

空は夜を示す漆黒の闇。

しかし、その暗がりの中にわずかな黄色い飛行機械の姿が見える。


('A`;)「あれは……」




(;゚ω゚)「……ギコさん!?」


オカマの後を追って甲板へと出てきたブーンは、闇の中に浮かぶ黄色いシルエットを見た。
それに向かって、闇を切り裂くように幾筋もの火線が『VIP』から放たれる。

黄色いシルエットは『VIP』から発射される弾丸を受けつつも、
まるでオッコトヌシが率いるイノシシの群れのごとく、
ただひたすらに、こちらに向けて一直線に降下してくる。


('A`;)「このままじゃ激突するわ!何やっているのよ『黄豹』は!!」


オカマの言葉の直後、『VIP』の艦体が大きく斜めに傾いた。

不意を付かれた二人は甲板の上をゴロゴロと転がり、
甲板の端から漆黒の空へと放り出されそうになる。

間一髪、あわやのところで手すりにつかまってピンチを脱すると、
さらにその直後、『VIP』上空を過ぎ去っていった『黄豹』の機体が爆発。

手すりにぶら下がった宙ぶらりんの体勢のまま、二人はその爆風に何とか耐えた。

やがて『VIP』の姿勢が水平に戻ると、二人は上部甲板の床に転がり込んだ。
そのまま立ち上がり、彼らは無言でブリッジを目指し走り出した。




上部甲板からブーンとオカマの姿が消えた直後、
上部甲板後方に向けて滑空する、一機の漆黒のグライダーがあった。

飛行機械の爆発の喧騒に紛れ、静かに着陸したグライダー。


(* ー )「ギコ……その眼でしかと見届けて……私の最後の戦いを!!」


全身黒ずくめの服を着たパイロットは片手に銃を構えると、
『耳』を澄まし、静かに『VIP』艦内へと侵入した。




ブリッジへの階段を駆け上がろうとしたブーンとオカマ。
彼らが足を一歩踏み出したその直後、再びのミルナの艦内放送が響いた。


( ゚д゚ )『何者かが上部甲板後方から艦内に侵入した。
   おそらくは「黄豹」と「ネコ耳」思われる。総員は銃を携帯し、複数名で行動せよ』


(;゚ω゚)「ギコさん達は何を考えているんだお!!」

('A`;)「起死回生を狙って、『VIP』を内部から破壊する気なのかしら……」


呟いた自分の言葉に、オカマは「ハッ」とする。


('A`;)「ブーンちゃん!格納庫よ!!
   飛行機械を爆破されたらそれこそ大損害よ!!」

(;゚ω゚)「把握しましたお!!」


二人はブリッジへの階段から反転し、格納庫を目指そうとする。
直後、背後の階段を駆け下りてくる足音に彼らはゾッとし、銃を構えて階段の上へ照準を向けた。




( ゚д゚ )「止めろ。俺たちだ」

(´・ω・`)「まったく、艦長に銃を向けるなんてぶち殺すぞ」


見慣れた二人の姿に安堵するブーンとオカマ。
そんな二人に、ミルナとショボンは続ける。


( ゚д゚ )「格納庫と動力部。狙われるとしたらまずここだ」

(´・ω・`)「ミルナは動力部の方を頼む。
     僕はブーン君とオカマとともに格納庫に向かうよ」

(;^ω^)('A`;)( ゚д゚ )「「「把握した!」」」


その言葉を合図に、全力疾走でそれぞれの目的地へと向かった。




「把握したお!」


『VIP』艦内のとある通路の影。
そこに身を潜め、耳を済ませる女の姿があった。


(* ー )「うふふ。あの子の声はわかりやすくて楽だわ。
     場所は……格納庫ね」


そう呟いて、再び耳を澄ませる彼女。
ターゲットの声と足音を頼りに、向かう先の位置を確認しているようだ。

そんな彼女の耳に響く、別の大きな足音。


(* ー )「あらあら。私の近くに誰か来たのね……かわいそうな人」




その足音はドンドンと大きくなり、
彼女でなくても楽に聞き分けられるほどの距離にまで近づく。
彼女は銃にサイレンサーを付け、
その足音の主が自分の目の前に現れるのを、通路の陰に隠れてジッと待った。

ドタドタと道を急ぐかのような足音。

やがて、その人物が目の前に現れると、彼に銃を突きつけて言った。


(* ー )「さようなら」


そう呟いて、引き金を引いた彼女。
男はその声に身を翻し弾丸を避けようとしたが、弾丸は男の腹部を直撃。

「ウッ」と断末魔の声を上げると、スーツ姿の男はその場に倒れこんだ。




(´・ω・`)「僕がまず入る。そのあとに君達は続いてくれ」

(;^ω^)('A`;)「把握!」


三人は固く閉ざされた格納庫の扉の両端に、銃を構えて身を潜めていた。
ショボンは扉の取っ手に手を掛け、わずかにその扉を開ける。

その隙間から中を覗き込むと、
今度は蹴破るように扉を開け、全方位に気を配って銃を構えて格納庫内部へと流れ込む。

人の気配は……無い。

ショボンは銃を構えたまま、電気がつけっぱなしの格納庫内を見渡した。
彼の眼前には、数機の飛行機械が存在しているだけ。

飛行機械の陰や別の入り口の陰に隠れている人物がいないことを確認すると、
ショボンは銃を下ろし、オカマとブーンをこちらに呼んだ。




('A`;)「どうやらここは無事のようね」

(;^ω^)「ですねー」


物陰から顔を出した二人。
銃を片手に辺りを見渡すと、警戒の念は弱めずに次の行動を話し合い始める。


(´・ω・`)「これから僕は動力室へと向かう。君たちはここで待機。いいね?」

(;^ω^)('A`;)「「把握した!」」

(´・ω・`)「それとブーン君。自分が侵入してきた経路はちゃんと塞がなきゃダメだよ」


そう呟いて、彼は開けっ放しの扉を指さす。


(;^ω^)「あ……すんまそん」


慌てて扉のもとへと駆け出したブーン。
彼が扉の取っ手に手を掛けたそのとき、格納庫内の空気は急激に冷えていった。




(* ー )「ふふふ。会いたかったわ♪」

(;゚ω゚)「……」


閉めようとした扉。
その隙間から現れた女の手が、ブーンの額に銃を突きつける。
途端に石像のように硬直するブーンの身体。


(* ー )「そうそう、いい子ね。動いちゃダメよ。
     そちらのお二人さんも、銃を格納庫の隅に投げなさい。
     言うこと聞かないと、この子の頭が吹き飛ぶわよ♪」


ブーンの後頭部へと銃口を移した彼女は、扉の隙間から入ってくると、
少年を自分の前に盾のように立たせながら、格納庫の鋼鉄の扉を後ろ手で閉めた。

彼女の前面にはブーン、背面には硬く閉ざされた鋼鉄の扉。
位置取りは、彼女にとって完璧に有利だった。


(´・ω・`)「……君の目的は何だ?」


心の中で舌打ちをし、ショボンは睨むように言った。




(* ー )「いいから、早く銃を投げなさい」


冷静に言い放つ彼女の笑顔。
オカマとショボンの二人は、その表情に寒気を覚えた。

……こいつなら、本気でブーンを撃ちかねん。

そう判断して、二人は銃を格納庫の隅に投げる。


(* ー )「うふふ。みんなイイ子ね♪」


言葉の内容とは裏腹に冷たい声。
自分のすぐ後ろから発せられるその声に、ブーンはただ黙って両手を上げた。


(´・ω・`)「もう一度聞く。君の目的は何だ?」


ショボンはなんら表情を変えずに聞くと、彼女は妖艶な笑みを浮かべて口を開いた。




(* ー )「うふふ。簡単よ。この子を殺すこと♪」


格納庫に響いた彼女の冷たい声に、三人は更に身を硬くした。
まるで狩りを楽しんでいるかのような口調。
ならば自分達は狩られる立場……。

笑えない。

しかし、そんな心情とは裏腹に、彼女は微笑しながら続ける。


(* ー )「もちろん、ただ殺すだけじゃないわ。
     後部座席に乗っていた女の子……ツンとか言ったわね。
     その子の目の前で、私はこの子を殺すの♪」


そこまで言うと、彼女……「ネコ耳のしぃ」は甲高い声で笑った。
乾いたその笑い声は、格納庫内にしばらくの間、響き続けた。




('A`;)「なんでそんなことをするのよ!そんな無意味なことは止めなさい!!」


しぃの笑い声の後、代わりにオカマの大声が格納庫に響く。
彼の声に表情を一変させたしぃは、鬼の形相で一気に続けた。


(#*゚ー゚)「無意味ですって!?そんなわけないじゃない!!
     目の前で大切なあの人を殺された私の絶望を、私は味合わせてやるのよ!!
     あの人を……ギコを死なせた原因となった、彼女とこの子にね!!」


しぃはそうまくし立てると、ブーンの後頭部に銃を「グッ」と押し付けた。
その直後、後ろで銃を突きつけるしぃのすすり泣く声をブーンは自分の耳で確かに聞いた。


(;゚ω゚)「……ギコさんは……死んだのかお?」

(* ー )「……そうよ。私の腕に抱かれながら、
    血の海の中で、もはや眼も見えない状態で苦しみながらね」

(;゚ω゚)「……」

(* ー )「……ギコは最後に言ったわ。
    下部甲板の鋼鉄の天井を、もはや見えていない瞳で見上げながら、
    たった一言、笑顔で……『空へ』……と」


後ろから響く彼女の悲痛な声に、ブーンは場違いに安心した声を上げた。




(;^ω^)「……それはよかったお」


途端、ブーンの背中に衝撃が走る。
おでこから格納庫の床へと倒れこみ、彼は「へびゃ!」と痛みの声を上げた。

急いで身体をよじり仰向けになると、
彼の見上げる視線の先には、怒りで震える手で銃をこちらに向けて硬く握り締め、
ボロボロと涙を流すしぃの顔があった。


(#* ;ー;)「よかったですって?もう一度言って見なさいよ!!
     あんたの頭に詰まった脳みそをこの床にぶちまけてあげるわ!!」


そんな彼女の怒りの声にも、ブーンは動じずに続けた。


( ^ω^)「毒男さんは僕に言ってくれたお。
     死ぬ前に笑顔を浮かべるのは、幸せだった証拠だって。
     長岡さんだってそうだったお。
     もうすぐ爆発する飛行機械の上に立って、長岡さんは笑っていましたお」

(#* ;ー;)「ふざけないでよ!あんな男とギコを一緒にしないで!!
     ギコはね、大好きだった空の中で死ねず、見えない眼で
     下部甲板の鉄の天井を見つめながら、冷たい飛行機械の座席の上で死んだのよ!!」




(#* ;ー;)「最下層の島で、生まれた瞬間に親に捨てられた私は、
     子供の頃から太陽の光も届かない暗い裏社会を生きてきた……。
     そんな私に手を差し伸べ、そこから出してくれたのがギコよ!!

     『二人でいつか自分達の家を持ち、まっとうな仕事をして日々を過ごそう』

     二人でそう誓って、いろいろな海賊の船を渡り歩いて、
     やっと手に入れた『軍』という日のあたる場所!!
     もう少しで夢に手が届くところだった……そんな私たちを、あなたは!!」


しぃは涙でぐちゃぐちゃの顔のまま、ブーンに銃を突きつける。
怒りで震えるその手は、いつ引き金を引いてもおかしくない。

二人を静観するショボンとオカマの顔に緊張が走る中、それでもブーンは笑顔で続ける。




( ^ω^)「しぃさんは勘違いしていますお」

(#* ;ー;)「何がよ!!」


銃を突きつけるしぃの手に力が入る。


( ^ω^)「確かに、夢半ばで死んでしまったギコさんには無念があったはずですお。
      でも、それ以上にギコさんは幸せだったはずですお」

(#* ;ー;)「あなたに何がわかるのよ!!」


響くしぃの怒号。
それでもブーンは、まっすぐとした瞳でしぃの潤んだ眼を見つめ、言った。


( ^ω^)「わかりますお。だって僕も一人の飛行機械乗りだからですお。
     ……飛行機械乗りにとって、『空』は空だけじゃないですお。
     飛行機械の座席から見えるすべてが『空』なんだお」




(* ;ー;)「!!」

( ^ω^)「飛行機械から見える風景、人々の姿。
     バックミラー越しに見えるナビの顔。
     それらすべてが、飛行機械乗りにとっては『空』なんだお。
     しぃさんの言うとおり、ギコさんが見えない瞳で鉄の天上を見つめていたとしても、
     座席の上のギコさんの瞳に映っていたのは、まぎれもない『空』だったはずですお」

(* ;ー;)「……それなら、最後に私の頬に触れたギコの手は、
     ……『空』に触れていたと言っていいの?」

( ^ω^)b「もろちんですお!しぃさんはギコさんにとっての『空』ですお!
      だから、ギコさんは『空』に抱かれて最後を迎えられたんですお!!」


ブーンはできる限りの笑顔を見せた。
開き直った訳ではない。
ジョルジュが……そしてギコが死んだという事実を、自分も背負えると思えたからだ。

そんな少年の力強い肯定の言葉に、しぃの手がわずかに落ちる。


(* ;ー;)「ギコがアタナを気に入ったわけ……今なら……分かる気がするわ」


うつむいて、ただ大粒の涙を流し続けるしぃ。




(* ;ー;)「……あなたは……強いのね」


しぃはうつむいた顔を上げ、眼下からこちらを見上げる少年の瞳の中を覗き込んだ。


真っ黒な、澄んだ瞳。
その中に、空がある。
そこへ、堕ちていけるような。


不思議な感覚に陥り、呆然とするしぃ。

そんな彼女の動向を注視しながら、
投げた銃のところへそろりそろりと近づいていくショボンとオカマ。

もう少しで、銃に手が届く。

その時、しぃがゆっくりと銃をブーンに向けた。


(* ;ー;)「……だけど私は……あなたのように……強くない」




(;´・ω・`)('A`;)(;^ω^)「「「!!」」」


涙を流したまま笑顔を浮かべるしぃ。


(* ;ー;)「私はナビ。パイロットがいなければ、思いのままに空を飛べないの」


しぃはブーンに向けた銃の引き金をカチャリと鳴らす。


(* ;ー;)「私にはもう……『空』は無い。
    だから、あなたを殺して……私も死ぬ」

(;´・ω・`)('A`;)「「止めろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」


ショボンと毒男の叫び声が格納庫に響いた。
直後、そんな彼らの叫び声すらも打ち消すほどに大きな銃声が、格納庫に響き渡った。


(* ー )「……」

(  ω )「……」


叫び声を上げる毒男とショボンの目の前で、鮮血が飛び散った。
鮮血の持ち主の身体が、ゆっくりと、スローモーションで倒れていく。




( ω )「……人生……」















\(^ω^)/「オワテナイ」




両手を天高く掲げながら、のそりと起き上がったブーン。
そんな彼の足元には、腹部から鮮血を垂れ流しながら仰向けに倒れているしぃの姿。


(;゚ω゚)「しぃさん!!」


ブーンがしぃの身体をかかえて抱き起こそうとしたその時、
猛烈な勢いで走ってきたオカマがブーンの身体を突き飛ばし、
その代わりにショボンがしぃの目の前に立ち、彼女を鋭い眼光でにらみつける。


(* ;ー;)「なんで……私は……撃たれた……の?」


途切れ途切れのしぃの言葉に、
ショボンは返答として、格納庫の二階にあるタラップを顎で指した。

見上げたしぃの視線の先には格納庫へ続く別の入り口があり、
その前で銃をこちらに向けてへたり込んでいるツンと、
彼女の傍らに立ち、腹を押さえながら苦痛に顔を歪めているミルナの姿があった。




(* ;ー;)「あいつは……私が確かに……殺した……はず……」

( ゚д゚ )「悪いな……俺のスーツは特別性でな」


彼はスーツをめくると、その裏地にびっしりと敷き詰められた鋼鉄の繊維を見せる。
どうやら、ミルナのスーツは防弾チョッキの代わりにもなっているようだ。

それでもしぃの銃による衝撃を防ぎきれなかったのであろう、
自分の上げた声で腹部に走る激痛に、再び顔を歪ませるミルナ。


(* ;ー;)「あはは……やっぱり私は……ギコ無しじゃあ……何にもできないや……」


力なく笑い声を上げるしぃ。
彼女の声は、涙に混じってかすかに格納庫の中に反響するだけ。




ショボンは彼女の腹部を見た。
ツンの放った弾丸は、しぃの腹部を貫通していないようだ。

貫通していれば、助かる望みはあった。

しかし、貫通していないということは、
弾丸の衝撃が内臓にすべて吸収されているということであり、
そのダメージで内臓はズタズタに引き裂かれているということを意味する。


……しぃは助からない。


そう判断したショボンは、しぃの傍らに転がっていた彼女の銃を手に取り、銃口を向けた。




(;゚ω゚)「ショボンさん!止めてくれお!!」

('A`;)「ブーンちゃん!落ち着きなさい!!」

(;゚ω゚)「ショボンさん!止めろ!!
    止めるんだショボ―――――――ン!!」


吹っ飛ばされた先で、オカマに身体を押さえつけられながらも叫ぶブーン。
彼の怒鳴り声は格納庫内にただ響き渡るだけで、ショボンの行動を抑えるには至らない。


(´・ω・`)「何か言い残すことは?」


冷徹な顔で銃口をしぃに向けたショボン。
彼のその表情を見て、しぃは笑顔で、言った。




(* ;ー;)「……ギコに……会わせて」






(´・ω・`)「……わかった」



静かに彼は引き金を引いた。

心臓へと打ち込まれたその弾丸は、「ネコ耳」の身体を貫通。
その返り血に、ショボンの顔が真っ赤に染まる。


しばらくの間、格納庫には、銃声が鳴らした反響だけが響いていた。




(#゚ω゚)「ショボン!あんた、なんでしぃさんを殺したんだお!!」

(´・ω・`)「……」


息絶えたしぃの傍らに立ち、
返り血に染まった顔を静かにブーンに向けるショボン。

彼は何も言わない。

その代わりに、ブーンを押さえつける毒男が言う。


('A`;)「あの子はもう助からなかった!
   だからせめてもの情けとして、艦長は引き金を引いたのよ!!」




(#゚ω゚)「ふざけるなお!!
     しぃさんを助けようともしないで、何が『せめてもの情け』だお!!」


じたばたと猛烈な勢いで暴れまわるブーン。
彼はオカマの身体を弾き飛ばすと、一直線にショボンへと向かい、彼の顔面を殴った。


( ;ω;)「しぃさんを……しぃさんを生き返らせろだお!!」

(#)ω・`)「……」


ブーンに殴られ、床に転がったショボン。
しかし、彼は何も言わず、涙を流す少年の顔を見つめるだけ。
そんなショボンに馬乗りになり殴りかかろうとしたブーン。

その直後、格納庫に、大声で泣くツンの声が響いた。




ξ;凵G)ξ「あたしが……あたしが殺しちゃった……」


タラップの上にへたり込みながら、泣き声の中で途切れ途切れに呟くツン。
そんな彼女に向かい、腹を押さえながらミルナが言う。


( ゚д゚ )「そんなことはない。アイツを撃てと命令したのは…俺だ。
    そして……トドメを刺したのはショボンだ。お前は……何も悪くない」


それでも彼女は泣き止まない。
いまだに銃を両手で握ったまま、ひたすらに泣き声を上げるツン。


ξ;凵G)ξ「大切な人を失った……あたしと同じナビの人を……
     あたしが……あたしが殺しちゃったああああああああああああ!!」




ショボンに馬乗りになっていたブーンはタラップへと続く梯子を駆け上がると、
地面にへたり込む彼女に向かって走りより、彼女の身体を抱きしめた。


( ;ω;)「ツン!ツンはなんにも悪く無いお!!」

ξ;凵G)ξ「あたしの銃が……あのひとを……」


互いに抱きしめあう二人を、
……ミルナは二人の傍らに立って、
……ショボンは殴られた頬を真っ赤に腫らし、
……毒男はそんなショボンに肩を貸しながら、
ただ何も言わずに眺めるだけ。


一つの命が消えた。
亡骸は、何も言わずに終わりの笑みを浮かべ続けるだけ。


その後に格納庫に響くのは、ツンとブーンの泣き叫ぶ声のみであった。


第二十五話 おしまい




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