第六話 「Boys on the run」




食材を抱えた毒男の後に続いて、
ブーンとツンの二人も、台所と作業場のある地下への階段を下る。
階段を下り終えるとブーンは作業場の方へと向かい、
ツンは毒男に調理具置き場の説明を簡単にすると、幼馴染の背中を追って作業場へと消えた。

それから一時間ほどの間、
ブーンとツンは作業場にてエンジンやブースターのスペックを確認したり、
実際にそれらを起動させて、動作の特徴や癖などのチェックを行ったりした。
しかし、台所のほうから香ばしいにおいが漂ってくる頃になると、
集中力が切れたのか、二人の作業はまったくと言っていいほどに進まなくなる。

やがてツンの腹の虫が豪快な音を鳴らしたのを契機に二人は作業を止め、
作業場に散らばった工具やパーツなどを片付けると、台所へと向かった。




( ^ω^)「うはwwwwテラウマソスwwwwwww」

ξ゚听)ξ「……」


台所の食卓には、香ばしい香りを放つ具沢山のビーフシチュー、
きれいに盛り付けられた山盛りのサラダ、そして数々の副菜が所狭しと並べられていた。


('∀`)「ぶほほほほwwwwww
    あたしの愛情たっぷりの料理、腹いっぱい食べんさい!お残しは許しまへんでー!!」


食卓に座った二人は、毒男のその言葉をきっかけに食事を開始する。

ブーンはものの数分でシチューを平らげると、
毒男に向かい空になった皿を差し出して「おかわり!」と叫んだ。
その皿をうれしそうに受け取って二杯目のシチューを注ぐオカマ。
彼から手渡された追加のシチューをむさぼりはじめるブーンの隣では、
複雑な顔をしたツンがシチューをそそりながら


ξ゚听)ξ「悔しいけど……おいしいわ」


とつぶやいていた。

やがて食卓に置かれた皿の上に何も無くなり、
ブーンとツンがパンパンに膨れたお腹をさすりだした頃になって、やっと会話が始まった。




('∀`)「どうだった?あたしの手料理は?」

( ^ω^)「最高だお!こんなおいしい料理はじめて食べたお!!」

ξ゚−゚)ξ「ごめんなさいねぇ……あたしの料理、おいしく無くて……」


ブーンの隣では、そっぽを向いて拗ねるツンの姿があった。


(;^ω^)「あうあう……ツンの料理はもちろんおいしいお!
      毒男さんの料理が異常にうますぎるだけなんだお!!」

ξ゚听)ξ「あははー……あたしの料理はオカマに負けてしまったのね……」


遠い目をして呟く彼女に向かい、少年は慌てて弁解を繰り広げる。

しばらくの間、そんな二人の様子を微笑みながら眺めていた毒男。
やがて彼は食卓の上の皿を片付け始める。

それに気づいた二人が慌てて手伝おうとするのだが、
毒男はそれを制止すると、台所で一人、皿を洗い始めた。




ξ゚听)ξ「悪いわよ、料理作ってもらったうえに洗い物までさせちゃうなんて……」

('A`)「いいのよいいのよ。
   あんたたち、親のいない二人暮しで大変なんでしょ?
   たまには食事の後くらいゆっくりなさいよ」

( ^ω^)ξ゚−゚)ξ 「「……」」


その言葉に二人は黙ってうつむき、毒男は手を休ませずに話を続ける。


('A`)「朝早くから起きて、自分達で食事を作って空へ飛び立つ。
   一日中あちこちを飛び回って、帰ってくるのは日が沈み始めた頃。
   それから飛行機械の整備をしたり、家事をしたりしているうちにもう眠る時間。
   あんた達二人にそういうことさせて、ホント、神様ってのは不公平なもんよね。
   あんた達くらいの年頃じゃ、遊ぶことが仕事だっていうのにね」

ξ゚−゚)ξ「……あたしたちはもう……子供じゃないわ」


ツンは真剣な顔をして洗い物をする毒男の背中に向かって言う。
オカマはその言葉を聞いて振り返ると、ニヤニヤした顔でツンを指差し、言った。


('∀`)9m「ぶほほほほほwwwwwwwww
     あそこの毛も生えそろっていない小娘がよく言うわwwwwww」




  /'           !   ━━┓┃┃
-‐'―ニ二二二二ニ>ヽ、    ┃   ━━━━━━━━
ァ   /,,ィ=-;;,,, , ,,_ ト-、 )    ┃               ┃┃┃
'   Y  ー==j 〈,,二,゙ !  )    。                  ┛
ゝ.  {、  - ,. ヾ "^ }  } ゚ 。
   )  ,. ‘-,,'   ≦ 三
ゞ, ∧ヾ  ゝ'゚       ≦ 三 ゚。 ゚
'=-/ ヽ゚ 。≧         三 ==-
/ |ヽ  \-ァ,          ≧=- 。
  ! \  イレ,、         >三  。゚ ・ ゚
  |   >≦`Vヾ        ヾ ≧
  〉 ,く 。゚ /。・イハ 、、     `ミ 。 ゚ 。 ・


毒男のその言葉に、ツンは飲んでいたココアを勢いよく噴出した。


ξ;゚听)ξ「なななな!なんですって―――――!?」

('∀`)「あらあら、慌てちゃってぇ。ツンもまだまだ子供よねぇ?」

ξ#゚听)ξ「失礼ね!あそこの毛くらい、もう生えているわよ!!」




そう言って立ち上がる彼女を、
キョトンとした顔をして見上げるブーン。


(;゚ω゚)「ツン、すごいお……もうあそこに毛が生えちゃったのかお!?」

ξ゚听)ξ「………」

ξ///)ξ「………」


ブーンの言葉を聞いたツンの顔が、見る見る内に真っ赤に染まる。
そんな彼女をニヤニヤといやらしい顔で見つめる毒男が、トドメの一言を放った。


('∀`)「ぶほほほほほほほwwwwwwww
    生理が始まったならあたしに言いなさいよ!いろいろ教えてあげるわ!」




ξ;凵G)ξ「イヤ――――!!
     あたしもうお嫁に行けない――――――――――!!」


そう叫ぶやいなや、ツンは台所のドアをぶち破ってどこかへ消えた。
そんな幼馴染の後姿を不思議そうな表情で見送ったブーンは、毒男に尋ねる。


( ^ω^)「……生理ってなんだお?」

('A`)「大人の女に起こる現象よ。
   すっごくつらいらしいわ。
   あたしにはまだ来ていないけど……」

( ^ω^)「おっおっお。なら、毒男さんもまだ子供だお!!」

('∀`)「ぶほほほほほほwwww
    そうよ!あたしはまだ子供、永遠の少女なーのよぅ!!
    ところでブーンちゃん、あそこに毛は生えた?」


その言葉を聞いた少年は、ズボンのチャックを下げて確認する。
しばらくチャックの中身とにらめっこした彼は、残念そうな顔をして言った。


( ´ω`)「まだうぶ毛しか生えてないお……」




('∀`)「ぶほほほほほwwwwwブーンちゃん最高よ!!」


地下の台所には、毒男の笑い声だけが響いた。

自分の毛の無さに少し落ち込んでいたブーンだが、
チャックを閉めると、満面の笑みで毒男の顔を見上げて言う。


( ^ω^)「だけど気にしないお!毛なんかもうすぐ生えてくるお!
     そしたら僕は、ツンと一緒に『エデン』を目指すんだお!」


『エデン』


その単語に、笑顔を崩さない毒男の太く濃い眉がピクリと動いた。




('A`)「……なんでブーンちゃんは『エデン』を目指すの?」

( ^ω^)「そこに父ちゃんがいるからだお!
     僕の父ちゃんとツンの父ちゃんは、四年前に『エデン』を目指して飛んでいったお!
     だから僕は、ツンと『エデン』を目指すんだお!」

('A`)「ふーん……」


洗い物を終えたらしい毒男は、
ブーンの正面に腰掛けると、頬杖をついてブーンの顔を見つめた。


('A`)「それだけ、なの?」

( ^ω^)「お?」

('A`)「ブーンちゃんが『エデン』を目指すのは、あなたのお父様に会いたいからだけなの?」




毒男の問いかけに、ブーンは迷いのない笑顔で答えた。


( ^ω^)「そうだお!
     『エデン』で父ちゃんに会って、一人前の飛行機械乗りになった僕を見せてやるんだお!
     そして、父ちゃんと一緒に『エデン』の空を飛び回るんだお!!」


楽しそうに、そして少し哀しげに宣言したブーンの瞳の奥を、毒男はジッと見つめた。
そんなオカマの見透かしてくるような目に、少年は首をかしげる。


(;^ω^)「お?僕の顔になんか付いているのかお?」


いつものようなふざけた様子のないオカマの真剣な瞳は、
少年の頭に大人が持つ特有の真面目さを感じさせた。


('A`)「……いいえ」


オカマは食卓に身を乗り出し、少年の瞳を至近距離から見つめて、言った。


('∀`)「ブーンちゃんの瞳って、キラキラ輝いているわね!すっごく素敵よ!!」




(;^ω^)「お……それは……どうもだお」


オカマのキモい顔と言葉に鳥肌を立てながらも、ブーンは何とかそれに答えた。
毒男はそのまま立ち上がると、ブーンに向かって


('∀`)「チャオ!あそこに毛が生えたら教えてね!
   ぶほほほほほほwwwwwwwwwwww」


と残し、そのまま台所を後にした。




('A`)「あら小娘。こんなところにいたの?」


ブーン宅から出た毒男は、その玄関の脇でしゃがみこんでいるツンを見つけた。
彼女は体操座りのまま、顔をうつむかせて何も答えない。


('A`)「悪かったわね、恥ずかしいこと言わせて」


彼女の方を見ないでそう言うと、
毒男はポケットからタバコを取り出し、それに火をつける。

彼が吐いた煙は、夜の町へとゆらゆら流れていく。
毒男がその様子を眺めていると、足元の少女が顔をうつむけたまま、小さな声で言う。


ξ゚−゚)ξ「ブーンから聞いたんでしょ?『エデン』のこと」

('A`)「……ええ、聞いたわ。よくわかったわね?」

ξ゚ー゚)ξ「……あんな馬鹿でかい声でしゃべっていれば、イヤでも聞こえるわよ」


そう言って、「ふふふ」と小さな笑い声を上げる少女。
毒男はその言葉を、空に流れていく煙の行方を見つめながら聞いていた。




ξ゚−゚)ξ「あれ、嘘だから」

('A`)「え?」


予想外のツンの発言に、毒男は思わず足元にしゃがみこむ彼女の姿を見た。


('A`)「何が嘘なのよ?」


オカマは、今まで見せたことの無いような険しい表情で言う。
しばらくの沈黙の後、少女はうつむかせた顔を上げて、悲しそうな表情を見せた。


ξ゚−゚)ξ「パパに会いたいからっていうの、嘘なの。
    あいつね、まだ毛も生え揃っていないようなガキだけど……わかっているはずだわ。
    私たちのパパが……もう生きていないってこと……」

('A`)「……」


毒男は再び顔を上げると、短くなったタバコの煙を一気に肺の中に入れた。
ツンはしゃがみこんだまま、前を見つめたままで言葉をつむぐ。


ξ゚−゚)ξ「だってそうでしょう?『エデン』に飛び立ってもう四年よ?
      その間、パパ達は一度も帰ってきていない。
      ……それなら、答えは決まっているも同然よ」




ξ゚−゚)ξ「……ただ認めたくないだけなのよ、きっと。
    それを口に出したら、自分がそれを認めたことになっちゃう。
    解き放たれた思いは、空気を伝って耳に入って、自分の心に重くのしかかる。
    ………だからね、あいつは絶対にそれを口にしないの」


吸い込んだ煙を、毒男は一気に吐き出した。
大量の煙は空へと昇って、そのまま漆黒の闇へと溶けていく。


ξ;ー;)ξ「……笑っちゃうでしょ?
     認めたほうが楽なのに、絶対に認めないのよ、あいつ。
     あたしが何度そう言っても、『父ちゃんは生きているお!』って繰り返すだけ。
     本当に……バカなのよ」


ツンの言葉が、涙でかすれ始める。
やがて、少女の目からこぼれ落ちた一滴の涙が、彼女の頬に一筋の線を描いた。
こぼれ落ちた雫は、すらりとした顎の先から流れ落ち、
乾いた地面に小さな丸いしみを作る。




二人は、空を見上げた。

その視線の先では、先ほどまで雲に隠れていた月が顔を出していた。
仰ぐ月明かりが、優しく目に入り込む感覚が気持ちいい。

夜の空は静寂。
そこにあるのは月と星と雲だけ……。

見上げた二人のはるか上空を、低い音を立てて一機の飛行機械が進んでいく。

夜空を駆けていく、銀色の空の舟。

それは、見上げて伸ばしたツンの指先をすり抜けて、小さく消えた。


ξ炎刮)ξ「だからこそ、私たちは『エデン』に行くの!
      行って、パパ達の無念を晴らすのよ!!
      そして私たちは、パパ達を超える飛行機械乗りになるの!!」


消えていく舟を見届けたツンは、涙を拭いながら立ち上がり、
先ほどとは一転して、巨人の星も真っ青なほどに目に炎を浮かべる。

そんな彼女を見て、毒男は大声で笑った。




('∀`)「ぶほほほほほほwwwwwwwww
   前々からあんた達に目を付けていた私の瞳に狂いは無かったわ!
   いいわ!あんた達、最高よ!!」


毒男はツンの瞳を見つめて言い放った。
そんな毒男に対して、唖然とした表情を浮かべるツン。

オカマは彼女を尻目に、玄関前に停めていた自分のトラックへと向けて歩き出す。
運転席の扉を開けそれに乗ると、窓を開け、そこから顔を出した。


('∀`)b「Hey !! Boys do it !!
    ブーンちゃんのあそこに毛が生えたら、真っ先にあたしに知らせるのよ〜!
    ぶほほほほほほほほほwwwwwwwwwwwwwwww」


エンジンの音よりもでかい笑い声を上げて、毒男はツンのもとから去っていった。
騒がしく過ぎ去っていくオカマのトラックを、少女は訳が分からないという表情で見送った。


第六話 おしまい

  第七話 「VISTA」





それから半年の間、ブーンとツンの生活の中に特に変わった事は無かった。

その間に彼らの飛行機械はめでたくビルドアップを果たし、
その性能は前に比べて格段に上がった。
しかし肝心の仕事のほとんどがCランク止まりで、
数回来たBランクの仕事も別の飛行機械乗り達に取られてしまっていた。

そんな、自分達の飛行機械の性能を持て余すような日々の中で
唯一変わったことといえば、
風呂上りにすっぽんぽんでツンの部屋へ飛び込んできたブーンが、おにんにんを指差しながら、


(*^ω^)「ツン!僕のあそこに毛が生えたお!!」


と叫んで、彼女に波平さんの頭に生えた毛のようなものを見せ付けたことくらいだった。
もちろんその直後、ブーンは顔を真っ赤にしたツンからマイサンに強烈な一撃を食らっている。

ちなみにそれから数日後、町で偶然であった毒男に対してブーンが
「僕のあそこに毛が生えたんだお!」と言って公衆の面前でパオーンを露出した際にも
彼はツンからゾウさんに強烈な蹴りをいただいている。

そんな平凡な、同じことの繰り返しの毎日を過ごしていた少年達のもとに、
風は突然に訪れた。




えてして、人生の転機とはそれと遭遇している時には気づかないものである。
それがそうであると気づくのは、かなりの時の流れの後で、
ふと、今までの人生を振り返ってみた時だけである。

彼らに訪れた転機も、まさにその類のものであった。


その日、いつものように「飛行機械郵便業協会」へと向かった二人は、
受付の男からとんでもないことを言われた。


( ゚д゚ )「お前たち二人を指名した任務が来ている」


その言葉に、嬉々とした表情を浮かべた二人であったが、
男が放った次の言葉に、二人の表情は一瞬にして凍りつくことになる。


( ゚д゚ )「仕事のランクは『ファイブA』だ」




( ^ω^)ξ゚听)ξ「「……」」

(;^ω^)ξ;゚听)ξ「「……」」


( ゚ω゚ ) ξ( ゚д゚ )ξ「「……」」


( ゚д゚ )「こっち見んな」

( ;ω;)ξ;凵G)ξ「「嘘だと言ってよバーニー!!」」

( ゚д゚ )「残念だが、事実だ」


冷淡にそう言って、彼は書簡を投げてよこす。
それを受け取った二人に対し、彼は間髪いれずに仕事の内容を話しだす。




( ゚д゚ )「宛先は、始まりの島『トップページ』を飛行中のマザーシップ『VIP』。
     時間は明日の一七○○だ」


それを聞いた二人の顔から、血の気が一気に引いていく。


(;^ω^)「場所は『トップページ』……」

ξ;゚听)ξ「しかも宛先は『VIP』……」


そう呟く二人の顔は、面白いを通り越してもはや気の毒なものだった。




ξ#゚听)ξ「絶対断るからね!!」


自宅の食卓に座るツンが、家が壊れんばかりの大声を発する。


ξ#゚听)ξ「大体あんた、何考えてんのよ!?
     『ファイブA』の仕事なんてその場で断るものでしょうが!?
     それを、『ちょっと考えさせてくれお』って格好付けて保留して……」


あれから二人は、というかブーンは受付の男に一時の猶予をもらっていた。
その場で断る気満々だったツンはブーンに何度も抗議したのだが、
彼は頑として幼馴染の言葉に耳を傾けなかった。


ξ#゚听)ξ「いい?『ファイブA』よ?Aが五個で『ファイブA』!!
     しかも、宛先は泣く子もアナル『海賊狩りのVIP』よ!?」

(;゚ω゚)「わかっているお!!」


今までツンの抗議を甘んじて受けているだけのブーンであったが、
ついに頭にきたのか、食卓を「バン!」と叩き付けて立ち上がった。
しかし、彼の口はなかなか言葉をつむがない……。
それは彼自身、この仕事の危険性を理解している証拠であった。

そんな幼馴染に一瞬ひるんだ様子を見せたツンであったが、
それでもなお、彼女の抗議は終わらない。




ξ#゚听)ξ「わかっちゃいないわよ!!
     いい!?この前のAランクの仕事だけでも何回死にかけたと思っているの?
     『ファイブA』の仕事なんか請けた日には、あたし達、十回は死ぬわよ!!」


聞き慣れた幼馴染のヒステリックな声が、この日だけはうっとおしい。


(;゚ω゚)「僕達はAランクの仕事をしても死んでないお!
    だから、『ファイブA』の仕事をしたって死にはしないお!
    0に5をかけても答えは0だお!!」

ξ#゚听)ξ「そんな屁理屈、通るわけがないでしょうが!!
     おまけに、相手は『海賊狩りのVIP』よ!?
     あたし達なんか、骨の髄までちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱチュパカブラよ!!」


二人は食卓を挟んで、身を乗り出してにらみ合う。
ツンは、間近に迫った幼馴染の顔をにらみつけたまま抗議を続ける。




ξ#゚听)ξ「『ファイブA』の仕事を受けた人は、この十年間で二人いるわ。
     『蒼風』と『桃色の乳首』の二つ名で呼ばれていた二人よ。
     二人とも、この町『ツダンニ』で数々の伝説を残す名パイロットだった。
     だけどね、この二人でさえ『ファイブA』の仕事を達成することはできなかったの!
     彼らは『ファイブA』遂行のために飛び立ち、そのまま戻ってくることはなかった……」


ツンは自分の言葉に恐怖したのか、体を大げさにガタガタと震わせる。
しかし、それでもなお、彼女のマシンガントークはとどまることを知らない。


ξ#゚听)ξ「そんな二人でさえ出来なかったことを私達が出来るわけ無いでしょうが!
     明日の朝一番で協会に断りに行くからそのつもりでね!!」


そう吐き捨てて立ち上がると、彼女は肩を怒らせて自分の部屋へと向かおうとする。
そんな彼女の背中に、今まで聞いたことの無いほどの怒声が浴びせられた。


( ゚ω゚)「もう一回言ってみろだお!
    その言葉を父ちゃん達に置き換えて、もう一回言ってみろだお!!」




ξ;゚听)ξ「ななな、何言ってんのよ!?」


振り返ったツンは、明らかに動揺していた。
ブーンは、これまでに見せたことの無い真剣な表情で続ける。


( ゚ω゚)「『父ちゃん達に出来なかったことを、僕達に出来るわけがない!』
     ツンが言っていることはそういうことだお!!」

ξ;゚听)ξ「だ……誰もそんなこと言っていないじゃない!!」

( ゚ω゚)「言っているお!!
     父ちゃん達は『蒼風』にも『桃色の乳首』にも引けをとらないすごいパイロットだお!
     そんな二人に出来なかったことが僕達に出来ないって言うことは、
     父ちゃん達に出来なかったことが僕達に出来ないって言っているようなもんだお!!」


図星だった。

彼女は何処かで自分達に歯止めを掛けていた。
遥か彼方へ消えていった両親が行き着いた先を想像し、恐怖する。
それは自分の体を取り巻き、今こうやって、行きたくない理由を正当化させている。




そんな彼女が話題を変えるためには、
彼にとって一番の急所を突くしかなかった。


ξ゚−゚)ξ「ブーン……やっぱりあんた、わかってたのね」

(;゚ω゚)「……とにかく、僕は一人でもこの仕事を受けるお。
     こんなことで躊躇していたら、『エデン』なんて夢のまた夢だお……」


うつむいてそう呟くと、ブーンはツンの横を通って自室へと戻った。
少年が自室の扉を閉めた音を聞くと、少女もまた、黙って自室へと戻っていった。




その深夜。

月明かりの差し込む部屋のベッドの上で、彼女は一人、
自室の壁に貼り付けられた数々の写真を眺めていた。


ξ;−;)ξ「……」


彼女が見つめる壁面には、今は亡きツンの母親とブーンの母親の写真、
どこかの遺跡の写真、よくわからない地図を写した写真、
そして幼いブーンとツンを抱く二人の父親達と、彼らの飛行機械の写真が貼り付けられている。


ξ;凵G)ξ「……パパ…ママ……やっぱりブーンは……わかっていたよ」


写真に向かって呟く彼女の瞳からは、とどまることなく流れ落ちる大粒の涙。
それは、月明かりを受けてキラリと光を放った。




翌日の早朝。

彼女が目覚めた頃には、ブーンは飛行服に着替えて飛行機械をいじっていた。


ξ゚−゚)ξ「……珍しいわね、あんたがあたしよりも早く起きているなんて」

( ´ω`)「……」


ブーンは、ツンの方を見向きもしないで作業を続ける。

奇妙な沈黙。
今まで二人が経験したこともない苦痛の時間。

彼女はコチラを見向きもしない幼馴染に苛立ちをつのらせたが、


ξ゚听)ξ「今日は雨が降るわね。……いや、槍が降るわね」


と一言残すと、台所の奥へと消えた。




しばらくして台所から出てきた彼女の手には、巨大なサンドイッチが握られていた。
少女は少年に一声かけると、振り向いた彼に向かってそれを放り投げた。


ξ゚听)ξ「……食べなさいよ」

( ´ω`)「……いらないお」

ξ゚听)ξ「食べなきゃ『ファイブA』なんて仕事、とても遂行できないわよ?」


彼女のその言葉に、
投げられて中身がボロボロのサンドイッチをうつむいて見つめていた少年が顔を上げる。


(;゚ω゚)「ツン……」

ξ////)ξ「べべべ、別にあんたのためじゃないんだからね!
     あああ、あたしの夢のためなのよ!
     『エデン』に行こうとするあたしが、『ファイブA』の仕事でビビっていられるもんですか!」


顔を耳まで真っ赤に染めて、彼女は言う。




そんな彼女に対し、ブーンは最高の笑顔で笑いかけた。


( ^ω^)「……おっおっおwwwww」

ξ#゚听)ξ「笑ってんじゃないわよ!!」


少女の投げたスパナが、少年の額を直撃する。
しかし彼は、額から緑の血を噴出しながらも笑い続けている。


( ^ω^)「おっおっおwwwwww」

ξ#゚听)ξ「ああもう……ほら!準備はいいの!?
     予備燃料に水、それと工具に発光信号機は積み込んだの!?
     各種メーター、ブースター及びエンジンのチェックはした!?」

( ^ω^)「おっおっおwwww今から取り掛かるお!!」


いつもの調子に戻った二人は、テキパキとその作業に移っていく。
やがて、それらの作業をすべて終えた二人は天井のシャッターを開けた。

そこから見えるのは、雲ひとつ無い真っ青な空。
どこまでも広がる空に向けて、二人を乗せた銀色の空の舟は飛び立っていく。

青く輝くこの空は、今日も騒がしくなりそうだ。




飛び立った銀色の飛行機械を地上から見上げる二人の男がいた。


「……行ったな」

「ぶほほほほほwwwwwwwあたしの目に狂いは無かったでしょ?」

「……そのようだ」


そう呟くと、男はポケットからタバコの箱を取り出した。
しかしその中身は空だったようで、男は少し残念そうな表情を浮かべた。
そんな彼に向かって、隣にいたオカマが自分のタバコを差し出す。


「……すまんな」


そう呟くと、彼は受け取ったタバコに火をつけた。

うまそうにそれを一口吸うと、
彼は空の彼方へと消えていく銀色の空の舟に向かって煙を吐き出す。




「『何度も日々を潜り抜けたそのハートは、きっと答えを知っている』」

「ぶほほほほwwww何よそれwwwwwwww」

「気にするな。俺の好きな詞の一節だ。
 さて、俺達も急がなきゃな。飛行機械の準備はできているのか?」

「ぶほほほほほほwwwwwwwぬーかりはないわよぅ、副艦長!!」


その言葉の後、二人はどこかへと歩き出し、町の雑踏の中へとその姿を消した。


第七話 おしまい




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