第二十六話 「自由への招待」
眼を開ければ、そこは医務室のベッドの上だった。
うっすらと眼を開けたブーンは、むくりと上半身を起こす。
隣では、ツンがすやすやと寝息を立てている。
彼女の寝顔をボーっと眺めていると、「ガチャリ」と医務室の扉が開く音がした。
(´・ω・`)ノ「やあ」
入ってきたのは、いつもとなんら変わりない表情のショボン艦長。
彼はブーンのベッドの側に椅子を持ってくると、そこに腰を掛ける。
少年は、チラリと彼の顔を見た。
ショボンの頬には、彼ら二人の確執の痕、先日ブーンが殴った痕が青々と付いて、
ブーンはそんな彼の顔をまともに見られず、黙って眼をそむけた。
(´・ω・`)「調子は良いようだね。
泣き疲れて眠った君達をここに寝かせたのは間違いなかったようだ。
彼女の方はまだ眼を覚まさないようだがね」
ショボンは視線をブーンの隣、ツンの眠るベッドへと移す。
彼の視線の移動に、少年の視線も同じ方向へと移る。
無意識だった。
ギコとの戦闘。
そのときについてしまった癖。
誰かが視線を動かすと、つい警戒して、その先へと自分の視線も移ってしまう。
そんな自分の悲しい習い性に辟易していると、医務室の扉が再び開く。
そこから姿を現したのは、スーツ姿のミルナ副艦長。
( ゚д゚ )「調子は良さそうだな」
彼はショボンの傍らに立つ。
(´・ω・`)「怪我人が座るべきだよ」
そう言って、彼に席を譲るショボン。
ミルナは「すまない」と一声かけると、ショボンの座っていた席へと腰掛ける。
( ゚д゚ )「彼女には悪いことをした」
席に着くや否や、ミルナは話を始める。
( ゚д゚ )「アバラが三本折れていた。防弾加工のスーツとは言え、
至近距離からの弾丸の衝撃は抑え切れんものらしい」
アバラをさすりながら浮かべるのは、悔しそうな笑み。
( ゚д゚ )「だから、格納庫への通路で偶然出会ったツンに狙撃を任せた。
しかし、彼女には……本当に悪いことをしたと思っている」
視線を移し、眠れる少女に向かって頭を垂れるミルナ。
彼は垂れた頭を上げると、ブーンの姿を見据えた。
( ゚д゚ )「お前も彼女も、俺を……艦長を恨んでいるだろう。
だが、俺達に後悔は無い。俺達が取った行動は最善のものだった」
その表情、真っ直ぐな視線に、ブーンは何も言えずに眼をそらした。
(´・ω・`)「僕は、僕の『家族』を守るためならどんなことでもする。
たとえそれが人殺しであっても、『家族』の一員にうらまれることであってもね」
ミルナの隣に立ち宣言したショボンは、ポケットに手を突っ込み、
そこから何かを取り出してブーンの胸元に投げた。
( ´ω`)「……これは?」
(´・ω・`)「飛行機械のキーだ。君にはこれから、索敵の任務についてもらいたい。
外は嵐。飛行には最悪の条件。しかし、これに乗じて敵が襲ってくるかもしれん」
……何を馬鹿なことを。
万に一つしかありえない可能性に向かって、少年は嘲笑の声を上げた。
しかし、そんな少年の嘲りなど気にもしていない様子でショボンは続ける。
(´・ω・`)「何より、今君に一番必要なことは空を飛ぶことだと僕は思う。
こんな嵐の空でもね。君は、君の愛する飛行機械の座席の上で、
じっくり自分の考えを整理したほうが良い。無論、選択は君に任せるがね」
相変わらず腹の底が読めない表情をして少年を見つめるショボン。
彼の視線から瞳をそらし、ブーンは掛けられた布団をジッと見つめた。
……操縦技術には自身がある。
辛気臭い『VIP』艦内をぼんやりうろつくより、
嵐の空でも飛んでいた方が幾分かマシかもしれない。
そう思い、少年はコクリと肯定のうなずきを返した。
それから数十分後。
ブーンは格納庫にある自分の飛行機械の座席の上にいた。
メーター、操縦桿。
銀色の機体。
父により機首に取り付けられた機銃。
眼を閉じてもはっきりと浮かんでくる程に、いつでも自分の側にあった数々のもの。
唯一違うのは、機体後方にくくりつけられたワイヤーと、誰もいない後部座席。
('A`;)「ワイヤーの長さは三千。
なるべく最大限まで張らせないようにしてね!
限界以上の負担がかかったら、下手したらワイヤーが切れるわよ!
そうなったら最後、あんたはこの嵐の中を命綱無しで飛行することになるのよ!!
わかったわね!?」
オカマの言葉に、ブーンの頭がカクンと垂れる。
オカマは、それを肯定の合図だと受け取った。
しかし、それは間違いだった。
少年は様々な思いが駆け巡る頭の中の苦痛から逃れるため、
いっさいの思考を排除し、その際に首をガクリと垂れただけ。
整備班とパイロットとの間に、意思の疎通などまったく存在していなかった。
それは嵐の空とあいまって、少年に最悪の飛行を経験させることになる。
そんな未来など露知らず、着々と準備を整えた整備班は格納庫の扉を開放。
嵐が吹き込む進路の前に立ち、毒男は発進合図のフラッグを振る。
ボーっとした頭でそれを知覚したブーンは、
いつもの習い性、言い換えればただの惰性でアクセルを踏み、嵐の空へと飛び出した。
('A`;)「本当に……これでよかったの?」
嵐に一瞬流されてすぐに体勢を立て直した銀色の機体を見つめ、毒男は扉を閉めた。
彼の声は反響し、格納庫に長い間響き渡る。
( ゚д゚ )「わからん」
響く声が消えると、代わりにミルナの声が反響する。
( ゚д゚ )「しかし、アイツは自分で気づかなければならない。
綺麗事だけでは、先には進めない。人生も……空も、な。
人一人の手で守れるものなど、片手に余る程だと言う事に、アイツは気づかなければいけないんだ」
飛行機械と『VIP』をつなぐワイヤーがキュルキュルと音を立てて伸びていく。
(´・ω・`)「自由に、思いのままに飛べる空など、この世にはほとんど存在しない。
人生もまた然り。少年は、いつまでも子供のままじゃいられないんだ。
……この嵐の空で、彼は何を掴むんだろうね」
呟いたショボンの視線の先では、
ワイヤーが音を立ててただひたすらに伸びていくだけだった。
格納庫から飛び出した瞬間、横から吹き付けてきた暴風で機体が流された。
ブーンは慌ててかけ忘れていたゴーグルを下ろすと、
体勢を立て直し、『VIP』の遥か前方へと飛行機械を進めた。
昔の自分だったら、今の暴風で雲海の遥か底へと堕ちていただろう。
まったく、モナー達に叩き込まれた飛行技術とはたいしたものだ。
一人座席でそう呟いて、少年は笑みを浮かべる。
その笑みは、卑屈。
ブーンは後方を振り返った。
視線の先には、空に浮かぶ鋼鉄、まるで要塞のような鈍い迫力をもつ戦艦『VIP』。
しぃを殺し、ツンの心に大きな傷を残したこの『VIP』を、ブーンは恨んでいた。
しかし、その『VIP』で得た技術が、今、彼を救った。
結局、自分は自分の力では何も出来ず、ただ流されるだけ。
この嵐の中を、与えられた任務で飛んでいる今の自分がまさにその事実を体現していた。
それならば……それが自分のありのままの姿なら、僕はただ流されよう。
この嵐の中を、吹きすさぶ風に揺られながら、この命を空にゆだねよう。
少年は静かに眼を閉じた。
任務なんて、もう、どうでもよかった。
空は嵐。
時折響く雷鳴が、少年の鼓膜を震わせる。
……珍しいな。
全身から伝わってくる感覚に少年が思うことは、ただそれだけ。
これほどの嵐を、彼は経験したことは無い。
雨が振ることさえ珍しいこの世界で、嵐にあう機会など皆無に近い。
本当に、自分には知らないことだらけだ。
敵機に機銃を向けトリガーを引くことも、
人が目の前で死ぬことも、今まで経験したことが無かった。
死の間際に笑える人間がいるなんてこと、考えもしなかった。
僕はきっと、成長している。
この嵐を舞っている今だって、新たな成長への一つの経験だ。
そんな経験を日々重ね、自分の想いなど関係なく、今日も僕の世界は広がっていく。
だけど、それは本当に必要なことなのだろうか?
見たくもないものを見て、経験したくもないことを経験する。
それが、大人になるということなのだろうか?
それならば……僕は大人になんかなりたくない。
少年の心を持ったまま、この嵐の空で沈んだ方がマシだ。
もっとも、死ぬなんて怖くてまっぴら御免だけど。
矛盾する自分の考えに苦笑して、少年は再び空に身をゆだねた。
突如脳裏をよぎった嫌な感覚に、少女は眼を覚ました。
起き上がったそこは、消毒液のにおいが漂う殺風景な医務室のベッド。
ξ゚−゚)ξ「……ブーン?」
乱雑に跳ね除けられた隣のベッドの中に、彼女は幼馴染の残り香を嗅ぎ取った。
その香りがどこか遠くへと遠ざかっていく感覚を、少女はなぜだか知覚した。
ξ;゚听)ξ「ブーンが……いってしまう!!」
どうしてそう思ったのか、後々思い返してもわけが分からない。
女の第六感……シックスセンスとでも呼ぶべき感覚なのだろうか?
わが身に降りかかってくるであろう害悪、大切に思う人の危機を感じ取る能力が、
人間の中には備わっているという迷信。
そんな不確かな、非科学的な感覚。
ばかばかしいと鼻で笑っても、
それでもなお身体の中を駆け巡る正体不明の恐怖に、彼女は耐え切れなかった。
ベッドから飛び起き、医務室の扉を乱暴に開ける。
走って走って、ひたすら走った先で見つけた艦外を見渡せる窓に、彼女はすがりついた。
そこから見えるのは、嵐吹き荒れる灰色の空。
その遥か前方でキリモミしながら流されてゆく銀色の点を、
彼女の鍛えられた『眼』は確かに捉えた。
座席の上で眼を閉じていた少年。
いっさいの思考を解除してぼんやりしていると、
突如、現実へと繋がるワイヤーがピンと張り、少年の身体を前のめりにさせる。
(;゚ω゚)「 こ れ は ま ず い 」
風に流される機体。慌てて眼を見開き、アクセルを緩める少年。
それは『VIP』に備え付けられたワイヤーの起点を中心に円を描く。
円周上のブーンは、何とか体勢を立て直そうとする。
しかし、無駄だった。
すべての行為が後手に回り、少年は強烈な遠心力により振り回された。
やがて、『VIP』と自分をつなぐワイヤー、命の糸は限界を向かえ、
嵐の中でブツリと鈍い音を立てちぎれた。
その音は、吹き荒れる嵐により彼方へと流されて消えた。
そして、叫ぶ少年の声もまた、彼方へと流されていく。
\(^ω^)/「僕の人生オワタ!!」
機体を襲う衝撃。
少年の駆る飛行機械は強烈な遠心力によって押し出され、荒れ狂う地獄の空へと放り出された。
('A`;)「あの子は何を聞いていたのよ!!」
格納庫内に備え付けられた窓。
鈍い衝撃とともに揺れたワイヤーの艦内接続部分。
少年の機体が嵐の空に投げ出されたことを認識した彼らは、なすすべも無く呆然としていた。
( ゚д゚ )「……嘘だろう?アイツはその程度のパイロットだったのか?」
呟くミルナの声だけがあたりに響く。
そこへ、格納庫へとズカズカと入ってきた『蒼風』と『赤い男爵』。
川#゚ -゚)「あの馬鹿は何をやっている!!」
そう叫んで予備の飛行機械に飛び乗ろうとするクーを、
モナーが羽交い絞めにしておさえる。
川#゚ -゚)「モナー!離せ!!」
(;´∀`)「ワイヤーも為しに自殺行為だモナー!!」
飛行機械の前でじたばたと押し問答を続ける二人。
そんな彼らをオカマ達が放心して眺めていると、
モナー達とは別の入り口からすごい勢いで走ってきたツンが、格納庫内の窓に飛びついて呟いた。
ξ;゚听)ξ「ブーンが……堕ちていく……」
その言葉に、格納庫内の全員の視線が一斉に窓のほうへと移る。
彼らの視線の先では、少年を乗せた銀色の飛行機械が機体を斜めに傾かせ、
雲海の底へとまっさかさまに堕ちていく一部始終が繰り広げられていた。
(;´∀`)「もう……だめだモナー……」
クーを羽交い絞めにしたまま、モナーはポツリと呟いた。
格納庫内には一瞬の静寂。
外の嵐の笑い声だけが響く。
突如それは、飛行機械へと走り出したツンの足音により破られた。
('A`;)「小娘!何をする気!?」
ξ#゚听)ξ「決まっているじゃない!ブーンを助けに行くのよ!!」
そう言って、飛行機械の操縦席によじ登ろうするツン。
その足を掴み、ショボンは彼女を床へと引きずり落とした。
そう言って、飛行機械の操縦席によじ登ろうするツン。
その足を掴み、ショボンは彼女を床へと引きずり落とした。
「ガン!」と響く落下音。
その衝撃はかなりのものであったはずだが、
ツンはそれでも起き上がり、ひたすらに座席へとよじ登ろうとする。
そんな彼女を床に組み伏せて、ショボンは言った。
(´゜ω゜`)「馬鹿野朗!!君まで死ぬ気か!?」
ショボンの怒鳴り声が響き、格納庫内には再びの静寂。
誰もがうつむいて歯噛みする中に、やがて、シクシクとすすり泣くツンの声が響いた。
ξ;−;)ξ「あたしは……しぃさんと同じなの……」
少女は艦長に組み伏せられ、顔面を床にへばりつかせながら続ける。
ξ;凵G)ξ「……あたしはただのナビ……
ブーンがいなければ空を飛べない……
ブーンがいなければ何も出来ない……
あたしには……ブーンが必要なの……ブーンが大切なの!!」
ツンの悲痛な叫び声に、ショボンは彼女を組み伏せる手を解いた。
解放された彼女は起き上がろうともせず、ただ床に顔を伏せて泣くだけ。
誰もがその姿に眼をそむける。
そんな中、たった一人だけその少女の姿を真っ直ぐと見据え、近づいていく人物がいた。
堂々と胸を張り、一歩一歩を力強く踏みしめるその足が、格納庫の床を大きく鳴らす。
その人物は、彼女の側まで歩み寄ると、
何事かと涙でくしゃくしゃの顔を上げたツンに手を差し伸べて、優しくささやいた。
川 ゚ー゚)「……行こう、彼を助けに」
突然差し出された手と、意外なその持ち主の顔を床に倒れながら交互に見上げるツン。
彼女にニッコリと笑いかけると、クーはもう一方の手を自分の懐へと伸ばし、銃を取り出す。
川 ゚ -゚)「何人たりとも私達の道を塞がせはせん。扉を開けろ」
銃を片手に周囲を鋭い眼差しで見渡すクー。
そんな彼女の無礼を、眉一つ動かさないで眺めるショボン。
何も言わない艦長の代わりに、彼の副官であるミルナが叫ぶ。
( ゚д゚ )「馬鹿を言うな!ワイヤーはもう無いんだぞ!!
それに、雲海に沈んだスロウライダーをどうやって見つけるんだ!?」
川 ゚ -゚)b「気合だ」
平然と述べるクー。
そんな彼女を、ミルナをはじめ、オカマ、モナーは呆然と見つめた。
唖然とする彼らを尻目にクーはツンを引っ張り起こすと、
彼女を引き連れて予備の副座敷飛行機械へと向かう。
途端、我に返ったモナーが二人の進路に回りこみ、両手を横に広げてその進路を塞ぐ。
(;´∀`)「絶対に行かせないモナー」
こちらを真っ直ぐに捕らえるモナーの視線。
それにひるむことなく、クーは彼に銃口を向けた。
川 ゚ -゚)「いくら立ち塞がるのがお前であろうと、私はツンとともにこの空を行く」
そのクーの視線に、モナーは戦慄を覚えた。
いつだったか、海賊との戦闘の際、油断して背後を取られた自分。
その刹那、敵機の更に後ろから現れたクーは、モナーの機体のバックミラー越しに
今とまったく同じ眼をして、自分の背後に付いた敵機を落とした。
彼女は……引き金を引くだろう。
しかしそれでも自分は……
クーを、この女性を嵐の空へ向かわせるわけには行かない。
モナーは覚悟を決めた。
クーの眼の中、漆黒の瞳に映る自分の姿が、モナーにははっきりと見えていた。
(´・ω・`)「十分だ。それ以上の飛行は許可しない」
対峙する二人の後ろから、ショボンの声が聞こえてくる。
モナーはクーの肩越しに、クーは振り返って彼の姿を見る。
(´・ω・`)「それでも見つからなかったらあきらめろ。毒男、あれを」
('A`;)「わ、わかったわ!」
艦長の突然の言葉に、オカマは格納庫の倉庫へと駆け出した。
そこから何かを取り出すと、それをツンに手渡す。
ξ;゚听)ξ「……これは?」
('A`)「『エデン』……下の世界に降りるために用意したキットよ。
酸の濃度の測定器、そしてそれから機体を守るためにカバー、
その他もろもろが詰まっているわ。
雲海に入るなら必ず役に立つはずよ」
渡された荷物の重みに、受け取ったツンの両腕がガクンと落ちる。
( ゚д゚ )「パイロットはクー、ナビはツン。機体は副座式を使え」
遠く離れた位置に立つミルナが、頭をポリポリと掻きながら仕方なさそうに言葉を発する。
(;´∀`)「そんな……無茶だモナー!!」
唯一否定の声を上げるのはモナー。
自分の眼前に立ち、未だに両手を広げて進路を塞ぐ彼に、クーは静かに微笑みかけた。
川 ゚ー゚)「私はかつて、空の郵便屋だった。
戦闘の空ではお前には勝てんが、配達の空ではお前には負けんよ、モナー」
(;´∀`)「クー……」
クーは傍らに立つツンの頭に手をのせて、言った。
川 ゚ー゚)b「宛先はブーン、届け物はツンだ。
久々の配達の仕事、腕が鳴るよ」
そう言って、クーはツンに笑いかけた。
はじめてみせるクーの満面の笑みに、
ツンは驚きつつも、同じく満面の笑みで返した。
そして、少女は気づいた。
長い長い回り道をして、ようやく一番大切なことに気がついた。
それは自分の原点であり、かつての自分が最もよくわかっていたこと。
あたしの仕事は空戦じゃない。
あたしの仕事は……『空の郵便屋さん』だ!!
エンジンの鼓動が聞こえてくる。
機体の振動が伝わってくる。
あたしの居場所はここ。
この後部座席で、配達先を見つけることがあたしの仕事。
胸にオカマから手渡されたキットを抱え、少女はゴーグルを下ろした。
目の前にいるのはブーンじゃない。
だけど、彼と同じくらいに頼りになる人。
バックミラー越しにツンが親指を立てると、クーも笑ってそれを返した。
身体が宙に浮く。
格納庫の扉が開かれる。
今日の天候は嵐。
仕事のランクはファイブA以上。
宛先は雲海の中、あたしの大切な人。
そして、お届け物は、あ・た・し♪
目の前に広がる嵐の空を、ツンは笑みを浮かべて見据えた。
その瞳に映る、フラッグを振るオカマの姿。
('A`#)「あんた達!ブーンちゃんを見つけてこなかったら、今日の夕食は抜きよ!!」
フラッグを振りながら怒鳴るオカマ。
飛行機械はゆっくりと彼の横を通り過ぎる。
そんな彼に向かってツンが「いってきます!」と声をかけると、飛行機械は一気に加速。
……嵐の、
……灰色の、
……絶望の、
そして……ツン本来の空へと、
飛行機械は飛び立った。
第二十六話 おしまい
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