前編 : 整備長、深夜の徘徊日記


(#'A`)「あ〜……あったま痛いわ〜……」

頭の奥の奥からズンと響いてくる鈍痛で、あたしは目覚めた。

手近に転がっていたボトルの水を口に含むと、
歪んだ世界が徐々に戻り、ピントのあった視界に風景が宿る。

(#'A`)「あ〜……確か宴会を開いたんだったわね〜……」

見渡した大広間には転がる酒瓶や皿の上から散乱したつまみの数々、
そしてオイルや埃にまみれた作業服に身を包み床に突っ伏す、男、男、男。

平時のあたしなら、男くさいこの部屋に充満したフェロモンにムラムラと来るところだが、
流石に飲みすぎた後の目覚めでは性欲も失せていた。




時間が気になり広間の壁に掛けてある時計を見る。
針は深夜の二時を指していた。

昨日『鈍色の星』のドックにて製作中だった『機械の耳』が完成し、取り付け作業が終わった。
明日、というより今日、朝一番に『鈍色の星』を発つ予定だ。

('A`)「もう一眠りしようかしら……」

続けて、『んがー!』と豪快なあくびをしてしまった自分を
『乙女がそんなあくびをしちゃダメよ、ド・ク・オ♪』
と心の中で叱り飛ばすと、抱き枕にするために可愛いあの子の姿を探す。

('∀`)「ブーンちゅわぁぁぁん! どこぉぉぉぉぉ〜!?」

「は〜い……」

だけど、あたしのキュートな呼び声に答えたのはブーンちゃんの愛らしい声じゃなくて、
地獄の底から助けを求めるかのような低くくぐもった声だった。




(#´∀`)「毒男〜……水をくれモナ〜……」

足元から響く不細工な声に視線を下ろすと、
そこには床にうつぶせに寝転んでピクピクと手をあげるモナーがいた。
酔いつぶれて二日酔いの苦しみに襲われている最中らしい。

('A`)「あんたなんか呼んじゃいないわよ」

(#´∀`)「う〜ん……水をくれモナ〜……」

声を上げるのは、ふくよかなで若々しい張りの頬を持つブーンちゃんじゃなくて、
無精ひげと剃り残しが青々と茂るこけた頬を持ったモナー。彼はすっかり地面と仲良しだ。

二日酔いの苛立ちも手伝ってか、あたしは手にしたボトルをさかさまにして、
中身の水をうつぶせのモナーの後頭部にびちゃびちゃとぶちまける。

( ´∀`)「ペロペロ……う〜ん、水がうまいモナ〜……」

床に零れ落ちた水をペロペロと舐めては心底幸せそうな声を上げるVIP飛行機械部隊の隊長。

('A`)「レッドバロンも地に堕ちたものね……」

そうつぶやくと、あたしはひとり扉を開けて、酒臭い大広間を後にした。




                   *

居住エリアに続く、補助電球の頼りない明かりだけが照らす薄暗い廊下を歩く。

はじめは酒の抜け切らないせいかふらふらの千鳥足だったけれど、
廊下に一発吐けば一気にすっきりとした。体力と性欲が完璧に戻る。

それから、スキップをしながらブーンちゅわんの部屋を目指していると、
その道半ば、半開きの扉から漏れる光を見た。

('A`)「副艦長の部屋じゃない」

そう言えば昨日、エデンへの海図を描くとか言っていたようないなかったような。

別に副艦長には異性としての興味は無かったけど、
普段クールな彼が部屋ではどのように振舞っているのか気になり、
悪いとは思いつつも、つい覗き見てしまった。




('∀`)(これで072でもしてたら面白いんだけどねえ……)

ほのかな期待を胸に覗き見たあたしだったけど、それはもろくも崩れ去った。
部屋の中に見えるのは、いつものスーツを着込んで机の上に突っ伏している副艦長の姿。

しかし、全く同じ色と形のスーツが何着も壁に掛けられている部屋を見て、
あたしは思わず噴出してしまった。

('∀`)(しっかりしてるようでどこかおかしいのよねぇ、この人……)

女って、完璧な男よりちょっと抜けている男に惚れちゃうのよね。
あたしはオカマだけど。ぶほほほほほwwwwwwwwwwwwww

でも、あたしにはブーンちゅわわんがいるの! 浮気はダメ、絶対!

机の上で眠る副艦長の背後へと近づきながら、あたしは必死で自分に言い聞かせていた。
部屋の隅のベッドから毛布を取り出し、副艦長にかけてやる。

そのとき、副艦長の肩がピクリと動いた。

( ゚д゚ )「……んぁ」

('A`)「副艦長、机の上で寝てたら風邪引くわよ?」

(;゚д゚ )「……ああ、これはすまんな。 って、うあああああああああああああああああああああああああああああ!!」




あたしへと振り返った副艦長は、突如大声を上げると椅子から転げ落ちた。
そのまま後頭部を机の端で強打し、床に転がって悶絶する。

('A`;)「ちょっと、大丈夫?」

(;゚д゚ )「っ痛ぅー……。毒男、勘弁してくれ。俺にはそんな趣味はない」

('A`;)「はぁ!? そんな趣味ってどんな趣味よ!?」

( ゚д゚ )「こんな趣味だよ」

そういうと、副艦長は後頭部をさすりつつ本棚から一冊の本を取り出す。

('A`;)「何々……『同性愛のすすぬ』!? なんで副艦長こんな本持ってるのよ!?」

( ゚д゚ )「艦長やオカマがVIPにいるからだ。人間の価値観は人それぞれだからな。
    副艦長たるもの、艦長とオカマの部下の性癖も少しは理解せんといかん」

('∀`)「……んもう! 副艦長最高!!」

(;゚д゚ )「ぐああああああああああああああああああああああああああああ!!」




副艦長の心遣いが嬉しくて、あたしはつい全力で抱きしめてしまった。

('∀`)「あらー、ごめんなさいね。大丈夫?」

( ゚д゚ )「っく……背骨が……。いや……大丈夫だ」

副艦長は背骨をさすりながら、気丈にも立ち上がって見せた。

んもう、無理しちゃって! でもそんなところに女は惚れちゃうのよね!
だけど、ダメよドクオ! あたしのお目当てはブーンちょわんだけ! 

人間止めますか? 浮気止めますか?

( ゚д゚ )「……で、お前はこんな時間に何をしている?」

部屋の時計を目にして、副艦長はいぶかしげな表情で尋ねてくる。

('A`)「ブーンちゃんの部屋に夜這いに行く途中でたまたま通りかかってね。
  ちょっと覗いたら副艦長が机に突っ伏して寝てたんで、毛布をかけてやろうと思ったわけよ」

( ゚д゚ )「それはありがたいが、今後は止めてくれ。目覚めにお前の顔を見るのは心臓に悪い」

('∀`)「ぶほほほほwwwwwww 何それ? 今はやりのツンデレってやつ!?
   遠慮しなくていーのよぅ! それより副艦長、いろんな本読んでるのねえ」

( ゚д゚ )「いいから帰れ。さっさと夜這いに行ってこい」




('∀`)「あら、なにかしらこの本?」

ハードカバーの学術書ばかり並ぶ副艦長の本棚を物色していると、
ブックカバーのつけられた場違いな文庫本を見つけ、あたしはそれをぺらぺらとめくる。

とたん、いつもポーカーフェイスを崩さない副艦長があせり始める。

(;゚д゚ )「ば、ばか! それは見るな!」

('∀`)「ミルナはあんたでしょ? 
   何々〜、『ゼロの使い魔』? へぇ〜、副艦長もこんな本読むんだ〜」

( ゚д゚ )「息抜きのために買った本だ。気にするな」

副艦長は平静を装ったのか、元の口調に戻ると、
あたしから本をひったくって、代わりにコンドームを投げてよこす。

( ゚д゚ )「さっさと夜這いに行ってこい」

('∀`)ノシ「ぶほほほwwwww そんじゃ、行ってきまーす!」

( ゚д゚ )「明日は早いんだから、ほどほどにしとけよ」

どこか的のはずれた注意を受けて、あたしは副艦長の部屋を後にした。




                          *

ブーンちゃわんの部屋に向かう途中、
突然小便……もとい、もよおしちゃったあたしは、手近に見つけたお便所に足を運ぶ。

入るのは残念ながら男子お便所。
本当は女子お便所に入りたいんだけど、クーが入隊したての頃に彼女と女子お便所で鉢合わせた際、
彼女に本気で発砲されたため、それ以後身の安全のために男子お便所を使うようにしている。

ちなみに、そのときの弾痕は今も女子お便所に残ってるらしい。(ツンが見つけてクーに聞いたそうな)

あたしは作業着であるツナギのホックを下げながら男子お便所に入る。
そこで、思いもよらぬ人物と鉢合わせた。

(´・ω・`)「なんだ、毒男じゃないか」

('A`;)「……艦長、何してるの?」

男子お便所は入り口から
鏡付きの洗面台、三個の小便器、その背後に一個の個室の大便器という配置になっている。

その個室の大便器に、扉も閉めないで座っている艦長の姿があった。




      人
     (__)
    (__)
    (´・ω・`)  「何してるのって、見ての通りだが?」
   /   つ
   (_(__⌒))). |^lヽ、
  ┌─(_)─┘.| )


('A`;)「いや、そういうことじゃなくて……」

艦長はパジャマ(ご丁寧に三角帽子付き)のズボンをずり下げ、便座の上で排泄モードに入っている。

昨夜の宴会ではグデングデンに酔ってたのに、
ちゃんとパジャマに着替えているあたり、しっかりしているというかなんというか……。

いや、改めてまじまじと見てみると、艦長はただの排泄モードなわけじゃない。

膝の角度が直角で、太ももが小刻みに震えていることから、
彼は空気椅子をしているのだろうと推測できた。




(´・ω・`)「毒男。空で生きる者は瞬時に周囲の状況を把握しなければならん。
     さあ、俺の今の状況を瞬時に判断してみろ」

('A`;)「えーっと、個室の扉を開けたまま、空気椅子をしながらお通じ中……かしら?」

(´・ω・`)「うむ。見事だ。流石はVIPの整備長だな」

とりあえず、あたしが整備長であることと今の状況を見抜けたことには
何の関係もないと思いつつも、妙に冷静なあたしは艦長に更なる疑問を連ねる。

('A`)「えーっと、いくつか質問があるんだけど、いいかしら?」

(´・ω・`)「ん? 俺はかまわんぞ。
     俺はお前らに隠し事をする気はまったくない。さあ、何なりと聞いてくれ」




('A`)「一つ目。どうして個室のドアを閉めないの?」

(´・ω・`)b「ドアを開けていた方がさわやかじゃないか」

('A`)「ああ……なるほどね。それじゃあ二つ目。何で空気椅子してるの?」

(´・ω・`)「うむ。実にいい質問だ。実はな、これは太ももの筋肉を鍛えているのだ」

('A`;)ノシ「いや、見ればわかるから。なんでお通じしながら太ももを鍛えているのかを聞いているのよ」

(´・ω・`)「踏ん張ることで腹筋を鍛えつつ、同時に空気椅子で太ももも鍛える。
     どうだ? 太もももだ。太もももだぞ?」

('A`;)「太ももも太ももも連呼しないでよ。すももももももみたいで紛らわしいわよ。
   で、なんで腹筋と太もももも……ああもう! なんで太ももも鍛えてるの!?」

(´・ω・`)b「艦長たるもの、常に精進を怠ってはならん。それがたとえ排泄行為の最中であってもな。
      それが乗組員たるお前たちを守る俺の使命でもあるんだ。
      安心しろ。お前たちの命は、何が起きても必ず俺が守る」

('A`)「……ありがとうございます」




どんな感動的な言葉も、この状況では何の感慨ももたらさない。

良くわからない艦長の理論に疲れ、
お便所を後にしようとしたあたしの背中に、艦長の声が突き刺さる。

(´・ω・`)「なんだ? 小便はいいのか?」

(#'A`)「おかげさまで引っ込みました!」

疲れた声を出してお便所を出たあたし。

背後から聞こえてきた「変なヤツだなぁ」という艦長の呟きが、あたしをさらに疲れさせた。




                    *

お便所を後にし、改めてブーンちょわわわーんの部屋を目指していたあたし。
薄暗い廊下をしばらく歩くと、暗闇の向こう側から静かな足音が聞こえてきた。

('A`)「なんだ、クーじゃない」

川;゚ -゚)「うお! ……なんだ、毒男か」

('A`)「何で驚いてんのよ。毎日嫌と言うほど顔をつき合わせているでしょうが」

川 ゚ -゚)「それはそうなんだがな。正直、深夜にお前の顔を見るのは心臓に悪い」

(#'A`)「どういう意味よ!」

川 ゚ -゚)ノ「まあ落ち着け。こんな深夜にどこへ行くのだ?」

('A`)「……レディにそれを聞くの?」

川 ゚ -゚)「お前はレディじゃない。オカマだ」




暗がりの向こうから現れたのはクーだった。

昨夜の宴会の後、いつのまにか自室へ戻っていたらしい彼女。
頼りない補助電球の明かりに照らされたその顔は、同性のあたしから見てもドキッとするものだった。

これであたしみたいに口調が穏やかで物腰が優雅で柔らかければ
三十路を過ぎて独身っていうことにもならなかったのにねぇ。

それにしてもこの子、とても三十路に見えないわね。
二十台前半でも通じるわ。まったく憎らしい。

('A`)「で、あんた、どこ行くの?」

川 ゚ -゚)「便所だ」

('A`)「あんたねぇ……まがりなりにも女なんだから、少しは恥じらいを持ちなさいよ」

川 ゚ -゚)「うるさいな。ほっとけ。お前たちのような男に囲まれれば嫌でもこうなる」

(#'A`)「あたしはオカマよ!」

川 ゚ -゚)「そうだ」




('A`;)「え? ……ち、違う! あたしはレディよ!!」

川 ゚ -゚)「女に竿はついていない」

(#'A`)「エデンに着いたら取るわよ! 全く、ああ言えばこう言うわね……
   だいたいあんた、ここに来たときからそんな口調じゃない!」

川 ゚ -゚)「そんな昔のことは忘れた」

('∀`)「ぶほほほほwwwww あんたも年ねぇwwwwwwww」

川 ゚ -゚)「ふむ、年か…… そう言えば、私は今何歳だ?」

('A`)「知らないわよ、そんなこと」




川 ゚ -゚)「それより飛行機械のことなんだが、ラダーの反応が悪い。調整しておいてくれ」

('A`)「ここで言われても何も出来ないわよ。
  大体、あんたやモナークラスのパイロットになるとミリ単位で注文つけてくるでしょうが。
  その癖、勝手にいじったらギャーギャー文句言うからたまったもんじゃないわ。特にあんたはね!」

川 ゚ -゚)「ギャーギャーは言わないぞ」

(#'A`)「うるさいわね! ものの例えよ! 今度あんたも交えてじっくりやらせてもらいます!」

川 ゚ -゚)「それは助かる。ついでにエンジンの空気圧を少し変えてみてほしいんだ」

('A`)「ああ、エデン近郊はココとは微妙に酸素比率が異なっているかもしれないからね。
  了解したわ。そのためには何度かテスト飛行してもらうことになるけど大丈夫?」

川 ゚ー゚)「望むところさ。それとブーンのことだが、
    あいつの旋回は少し癖が強い。フラップの動きを調整してやってくれ」

('A`)「はいはい。その他もろもろぜーんぶ含んで、明日やらせてもらうわよ。
  さっさと便所行きなさい。漏らすわよ」

川 ゚ -゚)「うむ。確かに。では失礼する」




膀胱の張り具合を確かめたのだろうか? 下腹部を押さえながらつぶやいたクー。
長年の付き合いだけど、この子は本当によくわからないわ。

クーはあたしの横を通り過ぎると、挨拶代わりに片手をひらひらとさせた。
やることなすこと様になる女だわ。本当にムカつく。可愛さあまってジェラスィー百倍。

そんなあたしの頭に妙案が浮かぶ。クーの背中に話しかける。

('A`)「ちょっとー!」

川 ゚ -゚)「なんだ?」

('A`)「男子お便所に、あんたに見せようと思ってた飛行機械の資料忘れてきちゃったのー。
   回収して目を通しておいてくれなーい?」

川 ゚ -゚)「男子便所のどこだ?」

('A`)「洗面台のところよー」

川 ゚ -゚)b「それならおkだ。把握した」

勇ましい肯定の声を残し、クーの姿は廊下の暗がりへと消えた。
大成功! 『ぶほほw』と笑いをかみ殺しながら、あたしはお便所の反対方向へと廊下を進む。

そして案の定、しばらくしてトイレの方から連続した銃声が聞こえてきた。




(;´・ω・`)「おい! クー! 止めろ! とりあえず落ち着いてほしい! 
     テキーラやるから! 銃はシャレにならん!! うわ! 俺を便器に突っ込むな! 
     レバーを引くな!流される!! うあああああああああああああああああああ!!」

川#゚ -゚)「汚物は流す! それが便所のルールです!」


    |             |
    |         ゴボゴポポポ・・・
    |             |
__ノ              |    _
| |                    |  /\__ヽ
ヽ二二 ヽ -―- 、        | /  /(◎)
_____/ /" ̄ヽヽ_   /  /
   /  /         /⊃ /
  |  | (;´・ω・`) //
  |  |/     /        \
   .\ヽ  ____/\゚ 。       \
     .\\::::::::::::::::: \\.    |\   \   ______
       .\\::::::::::::::::: \\ /   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
       \\::::::::::::::::: \ | 畜生!エデンを見ずに流されてたまるか!
         \\_:::::::::::_)\____________
             ヽ-二二-―'





川#゚ -゚)「毒男オオォォオオォォォオオ! 図ったなああああああぁぁぁあああ!?」


(;´・ω・`)「おい、クー! 助けろ! 流れる! これは流石にまずいって!!
      あっぷ! 水が!! うわー暖かいなり〜。って流されちゃううううううううううううううう!!」


ぶほほほほwwww 大成功!!

心の中でガッツポーズしながら、あたしは一刻も早くお便所から距離を取るために走り出した。




                   *

恐々とした怒鳴り声とともに後を追ってくるクーから逃亡し続けること小一時間。
艦内の壁面にあまたの弾痕を残したのと引き換えに、なんとかあたしはクーを巻いた。

そのせいか、性欲はすっかり消え失せていた。
激しい運動をすると性欲が減退するという説はどうやら本当らしい。

ブーンちゃんの部屋に行く気を無くしたあたしは、
なんとなく通りかかった下部甲板に降り立った。

('A`)「あら、明かりがついているわね。誰かいるのかしら?」

タラップを下り、下部甲板の床に脚をつける。あたしの着地する音がゴーンと鳴り響く。

予想以上の大きな音にダイエットの必要性をひしひしと感じていると、
銀色の飛行機械の傍らに、横たわる人影を発見した。




('A`)「小娘! こんなところで寝てたら風邪引くわよ!」

ブーンちゃんを誘惑する憎たらしい小娘、ツンの即頭部を右足でコツンとつつく。

すると小娘は上半身だけ起き上がり、釣り目がちの目を狐のように細め、
喧嘩を売っているかのようなまなざしであたしをにらみつけてきた。

ξ‐听)ξ「ん……」

('A`)「あんた、こんなド深夜に何やってるの?」

ξ;゚听)ξ「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

('A`;)「あべし!」

寝ぼけ眼の小娘を覗き見ていると、叫び声を上げたこいつはあたしを突き飛ばしやがりましたわ。
油断していたあたしは盛大にひっくり返り、後頭部を床へとしたたかに打ち付けてしまった。

小娘の叫び声に負けない激突音が甲板に響き渡り、再びあたしはダイエットの必要性を痛感する。




ξ#゚听)ξ「ちょっとオカマ! 何すんのよ!?」

(#'A`)「何すんのよって、起こしただけじゃない! 
   そんなことより、あたしの美しい後頭部にたんこぶが出来たわよ! どう責任取ってくれるのよさ!?」

ξ#゚听)ξ「そんなもん、つばでもつけときゃ直るわよ!
    それより、あんたの顔を寝起きに見て受けたあたしの精神的苦痛の責任を取りなさい!」

(#'A`)「精神的苦痛ですって!? あたしの美しい顔に嫉妬してんじゃないわよ!!
   それに、後頭部につばつけたら毎日ビダルサスーンシャンプー&コンディショナーで洗っている
   あたしのさらさら黒髪ヘアーがベタベタになるじゃないのよ! 馬鹿じゃないのあんた!?」

ξ#゚听)ξ「うるさい! 大体あんた、オカマのくせにあたしより髪がきれいだなんてムカつくのよ!
    今度髪の手入れの仕方教えなさいよ!!」

('A`)「あ、それなら喜んで教えるわよ。鈍色の星の市場でいいシャンプー見つけたのよー。
   ニュー速の上層から湧き出る一番水を使ったすっごいいいシャンプーなの!」

ξ゚听)ξ「えー、嘘!? 今度貸して!!」

('∀`)「いいわよ〜。ついでに化粧水も貸してあげるわ。すっごく肌が潤うのよ」

ξ*゚听)ξ「ホントに!? ありがとう!! お礼に香水貸してあげる!!」

('∀`)「えー、マジ!? あのいい匂いする奴でしょ!? 貸して貸して!!」




それから十分ほど、あたしたちはそんな話題で盛り上がった。

('A`;)「えっと……あたしたち、何の話してたんだっけ?」

ξ;゚听)ξ「……さあ?」




(#'A`)「思い出したわ! あんた、せっかく起こしてあげたあたしを突き飛ばしたでしょ!?
   後頭部にたんこぶ出来たわよ! どうしてくれんのよさ!?」

ξ#゚听)ξ「あんたが悪いんでしょ! 寝起きにあんたの顔みたら誰だって叫び声上げるわよ!
    妖怪みたいな顔してんじゃないわよ!!」

(#'A`)「ムキーッ! あんた、美的感覚狂ってるんじゃないの!? 
   誰もがうらやむあたしの美貌をぬらりひょんみたいだなんて、それはいったいどういう了見よ!!」

ξ#゚听)ξ「誰もそんなこと言ってないわよ! 少なくともぬらりひょんよりはマシよ!」

('A`)「それならいいわ。で、あんた、こんなところで何をしてたの?」

ξ゚听)ξ「え? ……ああ、飛行機械の整備よ」

そう言うと小娘は、床に散らばらせていた工具を拾い上げ、いそいそと工具箱にしまい始めた。




('A`)「整備ならあたしたちがやるわよ。少なくとも、あんたよりはいい整備が出来るわ」

ξ゚听)ξ「……そのくらいわかってるわよ」

散乱する工具を一つ一つ拾い集めながら、小娘は続ける。

ξ゚听)ξ「だけど、あんたたちがいつもあたしとブーンの傍にいるとは限らないでしょ?
   急なトラブルでどこかの島に不時着したとき、ナビのあたしが整備くらい出来ないと困るじゃない。
   基本的な整備くらいならあたしとブーンも出来るけど、
   ナビのあたしにはそれ以上の技術がいると思うの。だからもっと腕を磨かなくちゃいけないわ」

('∀`)「……ふーん。なかなか殊勝なこと言うじゃない」

近くにあった工具を拾い上げ、それを小娘に投げてよこす。

('∀`)「だけど、整備の基本は工具の整理からよ。こんなに散らかしているようじゃまだまだねぇ……」

ξ゚听)ξ「……それ、ジョルジュにも言われたわ」

あたしの投げた工具を受け取ると、それですべてを集め終えたのか、小娘は工具箱をバタンと閉じる。




('∀`)「ふーん。ジョルジュもなかなか言うじゃない。流石はあたしの一番弟子ね」

ξ゚听)ξ「……くやしいけど、あんたたちの整備の腕は認めるわ。
    さっきジョルジュに整備の深いところをちょろっと教えてもらったんだけど、
    やっぱりあいつ凄いわね。ただのお調子者でスケベでスカポンタンなサイテー野郎じゃないみたいね」

('A`)「あら? ジョルジュが来てたの? あいつ、あたしと一緒に酔いつぶれていたはずだけど?」

ξ゚听)ξ「そうなの? 全然酔った様子してなかったわよ。
    むしろいつもより真面目な顔してて、逆に気味が悪かったくらいよ?」

ふーん……あいつ、いったい何をやってるのかしら。ちょっと気になるわねえ。

ξ゚听)ξ「それにしても、この艦の男どもにはホントに参っちゃうわ。
    黙って真剣な顔してりゃそれなりにかっこいいのにさ。普段の振る舞いを見てたら萎えるわよねぇ」

('∀`)「あら? それはブーンちゃんのこと?」

ξ;゚听)ξ「ち、違うわよ! あいつはただの幼馴染なだけよ! 
     あいつをかっこいいだなんて思ったことは一度も無いわ!!」

('∀`)「そうよねぇ。ブーンちゃんって、年より若く見えるって言うか幼いって言うか……。
   顔もまだまだ丸っこくて童顔だし、可愛くてもかっこよくは無いわよねぇ……」




うそぶきながら小娘の方をチラリと見やると、
案の定、彼女は表情に少しの不機嫌な色を見せた。

あたしは調子に乗って口からでまかせを続ける。

('∀`)「表情も緩んでいて、いっつもヘラヘラしてるだけだし、
   ジョルジュと一緒に毎日馬鹿やってるだけだもんねぇ。はっきり言って、恋愛対象には見れないわよねぇ」

ξ;゚听)ξ「そ、それはそうなんだけど!」

小娘の大声が甲板に響く。来た来た。これはヒットの予感ね。

ξ;゚听)ξ「あいつは馬鹿で子供でヘラヘラしててなよなよしてるけど、た、たまにはかっこいいのよ!
    飛行機械のバックミラーに映るあいつの顔は……」

('∀`)「あいつの顔は?」

ξ;゚听)ξ「あ、あいつの顔は……」

ξ////)ξ「……」


ξ////)ξ「さ、坂口元厚生労働大臣に似てるのよ!!」


小娘の大声が響いた後、甲板はしばらくの間、気まずい沈黙に包まれた。

※ http://www.kantei.go.jp/jp/m-magazine/backnumber/2004/images/07sakaguti.jpg




('A`;)「ねえ、坂口元厚生労働大臣って……誰?」

ξ////)ξ「し、知らないわよ! なぜか口からその名前が出てきたのよ! あ、あたし、もう帰る!!」

顔を赤らめながら甲板の出口へと向かう小娘。
肝心なことは聞き出せなかったけど、それなりのことを察したあたしは顔のにやけが止まらない。

最後に、遠ざかる彼女の背中に話しかけた。

('∀`)「小娘、これをあげるわ!」

ξ゚听)ξ「え?」

あたしが投げたそれを小娘は見事にキャッチする。
手にしたそれをまじまじと見つめ、不審気な顔で聞いてくる。

ξ ゚‐゚)ξ「……これ、何?」

('∀`)「うふふwwww コ・ン・ドーム♪ 避妊はしっかりしなさいよ!!」

ξ////)ξ「ば、馬鹿じゃないの!? 死ね!!」




小娘は近藤さんを床に叩きつけると、
片手に持っていた工具箱からスパナを取り出し、あたしに向かって思いっきり投げつけてきた。

顔面にめがけて飛んできたそれを、あたしは首をかしげてひょいと避ける。
後方で、スパナが床を打つ音が響く。

('∀`)「ダメよぅ、小娘。工具は大事に使わないと」

ξ////)ξ「うるさい! このエロオカマ!!」

捨て台詞を残すと、小娘の姿は出口の奥に消えていった。

('A`)「……それにしてもジョルジュの奴、夜遅くに何をしていたのかしら?」

小娘はジョルジュの顔が不気味なほどに真面目だったと言っていた。
普段ヘラヘラしているあいつが真面目な顔になるのは、きっと何かそれ相応の理由があるはずだ。

そんなことを考えながら、小娘が消えた居住区方面の出口に向かったそのときだった。




川 ゚ -゚)「おい、ツン。オカマを見なかったか?」

ξ゚听)ξ「え? この先の下部甲板にいますけど? 銃なんか持っちゃってどうかしたんですか?」

川#゚ -゚)「あいつのせいで……私は世にも気色悪い光景を見る羽目になったんだ。
    それはもう脳裏に焼きつくほどのな。あいつは私の手で……必ず殺す!」

ξ゚听)ξ「ぜひ殺してあげてください。世界の平和のためにも」

('A`;)「うお! やっべ!」

一歩を踏み入れようとした出口。その奥から響くのは般若の声。

あたしは全速力で反対方向の出口へと駆け出した。

ちなみにその数時間後、あたしが再び下部甲板を訪れたとき、
床に投げ捨てられたはずのコンドームは影も形も見当たらなかった。




                    *

('A`)「あー、まいったわー」

さらに般若のクーから逃げ続けること三十分。
何度か後頭部を銃弾がかすめた気がしたけど気にしないわ。

気が付くとあたしはブリッジの近くにいた。

そういえば昨日『機械の耳』をつけたんだったわね。
どうせ眠れそうも無いし、ちょっくら動作チェックでもしようかしら。

そう思いブリッジへと向かい、その扉を開ける。
普段は艦長や副艦長、その他クルーがいて絶え間なく騒がしいここだけど、
深夜のブリッジはひっそりとしていた。

確かに、ひっそりとしていた。




('A`)「……あら?」
  _
( ゚∀●)「……」

ブリッジの奥、『機械の耳』の設置してある席にはジョルジュが座っていた。

両耳に『機械の耳』直通のヘッドフォンを付け、
ボーっとブリッジの窓から停泊中のドックのデコボコな壁面を眺めている。

('∀`)(……ぶほほww 気づいていないわね?)

あたしはそーっとジョルジュの背後に近寄る。
眉毛はヘッドフォンをつけているせいか、まったく気づいていない様子。

('∀`)(……まったく、なんで深夜にたそがれてるのかしら? 
   厨二病かしらね? こいつはいっちょ驚かせてやるわ!)

そろりそろりと足をしのばせ、眉毛の座る椅子の背後まで来た。
そして、彼の目の前にあたしの美しい顔をバッと出した。


('∀`)「ちゃお! ジョールジュ♪」

  _
( ゚∀●)「……」







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あたしの顔を見たジョルジュは、この世の終わりのような顔をして泡を吹いて倒れた。
予想外の出来事に、あたしは慌ててジョルジュを揺さぶり起こす。

('A`;)「ちょっと! しっかりしなさい!」
  _
( ;∀●)「ば……化け物……空の化け物……」

('A`;)「しっかりしなさい!あたしよ!毒男よ!!化け物なんていないのよ!!」
  _
( ;∀●)「……毒男?」

泣きながらあたしの顔を見つめてくるジョルジュ。
その瞳はまるで救いを求める小動物のよう。

んもう! なかなか可愛いところあるじゃない! 

母性本能をくすぐられたあたしは眉毛をやさしくなだめてあげる。

('∀`)「そうよ? 怖いものなんてないのよ? だから安心しなさい? ね?」
  _
( ゚∀●)「……」
  _
(# ゚∀●)「オカマ……驚かすんじゃねぇよ!!」

意識を取り戻した眉毛はヘッドフォンをかなぐり捨てると、あたしに向かって殴りかかってきた。




('A`#)「ああん? なんだ小僧? 誰に向かってそんな口聞いてんだおら!?」
  _
(# ゚∀●)「うるせえ! 頼むからいきなり顔見せんな! あんたの顔は心臓に悪いんだよ!」

('A`#)「なんですって!? あたしの美しい顔にケチをつける気!?」
  _
( ゚∀●)「美しいだ? 笑わしてくれるぜ!
     化け物みたいな顔しやがってwwwwwwwwwwwww」

('A`#)「むっきー! ぶっ殺す!」
  _
( ゚∀●)三つ三つ「望むところよ!!」

それからしばらくの間、か弱いあたしはジョルジュにボコボコにされてしまった。



  _
(メメ#)∀●)「なんかもう本当にいろいろとごめんなさい」

('∀`)「わかればよろしい!」

あたしをボコボコにしたジョルジュは罪の意識にさいなまれたのか、
あたしの前に土下座して先ほどの非礼をわびた。

心優しいあたしは笑ってそれを許す。

('A`)「で、あんたこんな深夜にブリッジで何してたのよ?」
  _
( ゚∀●)「ん?ああ、ちょっと機械の耳を拝借していた」

そう言ってジョルジュは床に転がっていたヘッドフォンを手に取る。
それをしばらく悲しげに眺めたあと、ぽつりと一言つぶやいた。

  _
( ゚∀●)「……これを使えば、あいつの言っていた『空の声』が聞こえるかもしれないって思ってさ」




('A`)「……『空の声』か。懐かしいわね」
  _
( ゚∀●)「ああ。そうだな。だけど無理だったわ。
     『機械の耳』を使っても、俺はあいつみたいに『空の声』は聞こえなかった。
     結局俺には、あいつの感じていたものを共有することはできないってこった」

('A`)「……」

『空の声』

かつてあの子が空の下で耳にしていた、
誰にも聞こえることの無い、彼女だけに聞こえていた声。

ジョルジュは寂しげに笑うと、
ヘッドフォンを所定の位置に置き、ブリッジの出口へと向かう。

その小さな背中に、あたしは思わず話しかけていた。

('A`)「……ジョルジュ」
  _
( ゚∀●)「……なんだ?」

立ち止まり、振り返らずに彼は答える。




('A`)「あの子は死んだの。ワタナベは死んだのよ。
   だからもう、あの子のあとを追うのは止めなさい」
  _
( ゚∀●)「……」

私の言葉に、後姿のジョルジュはそっと眼帯に手を当てた。

彼は何を思っているのだろう? 
失われた片目を押さえても、二度と彼女は戻ってこないのに。

彼にはそのことをわかってほしかった。忘れろとは言わない。
だけど、諦めてほしかった。

('A`)「あたしだってあの子のことは忘れられない。だからあんたにとってはなおさらでしょう。
   ずっとナビとパイロットとしてコンビを組んでいたんだもんね。
   だけど、あとを追うのだけは止めなさい。記憶の奥底に留めておきなさい。
   そうしないと……あんた、いずれ潰れるわよ?」

ジョルジュが扉に手をかけた。
『キィィ』と鉄と鉄のこすれあう乾いた不協和音が響く。

  _
( ゚∀●)「それができれば……苦労はしないわな」




悲しげな捨て台詞だけを残し、
ジョルジュの姿は閉ざされた扉の向こうに消えた。

一人残されたあたし。『機械の耳』のヘッドフォンを耳に当て、つぶやく。


('A`)「……空の声、か」


ただ風の音だけが聞こえるヘッドフォン。
暗く深い闇に包まれる夜空には、何の声もしない。

それからしばらくの間、ヘッドフォンをつけてブリッジにたたずんでいたあたし。

ワタナベだけに聞こえていた『空の声』は、いつまでたっても聞くことは出来なかった。

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