第八話 「風に乗る船」




しばらくの飛行を続けたブーンとツンは、
途中のコンビニエンス島に着陸すると、地図を広げて打ち合わせを始めた。


ξ゚听)ξ「いい?始まりの島『トップページ』はここよ」


そう言って、彼女は五角形に並ぶ巨大な島々の真ん中にある島を指差した。
前にも軽く述べたが、彼らの世界に国家は五つある。
それらは巨大な五角形の頂点にそれぞれ浮かんでおり、
その対角線上の真ん中に始まりの島「トップページ」は浮かんでいる。


ξ;゚听)ξ「ここから、『トップページ』まではおよそ六百km。
     このままのペースで飛ばせば、あと六時間ほどで到着するわ」

(;^ω^)「おkおk」

ξ;゚听)ξ「約束の時間は一七○○。
     それまでおよそ八時間。私達はそのギリギリまで『トップページ』空域の直前で待機。
     時間になったら一気に空域に突入。そのまま一直線に『VIP』へと向かうわよ」

(;^ω^)dビシィ!!「把握したお!」


二人は、これまでにない緊張した顔をしていた。




始まりの島『トップページ』は、この世界ではじめて空に浮かんだ島だとされている。

そこには旧世界の遺物が保管されているらしい。
そして、そこは全部で五つある国家のうち、
メンヘラを除く四つの国家の連合艦隊により堅く守られている。

蛇足ではあるが、読者の皆様には
なぜメンヘラだけが除外されているのかという疑問が浮かびあがるだろう。

それはメンヘラの島々が国家として統一されたのが、
つい最近(と言っても二人が生まれるはるか昔だが)だからだというのが理由だ。
そのため、メンヘラは「トップページ」に眠る旧世界の秘密を知らない。

このことは頭の片隅にでも置いておいてもらいたい。




話がズレたが、「トップページ」を守る連合艦隊は、
その空域に侵入したものを容赦なく打ちのめす。
それは、そこにそれほどの価値あるものが眠っている証拠に他ならないのだが割愛する。

今重要なことは、「空域に侵入したものは容赦なく攻撃の対象になる」ということだ。

その攻撃を最小限にとどめるためには、約束の時刻ギリギリに突入し、
短時間の間に宛先である「VIP」に合流する必要があった。


ξ;゚听)ξ「でも……なんで場所が『トップページ』なのかしら?」

(;^ω^)「……確かにそうだお。この書簡を受け取るだけなら、
     もっと他の安全な場所を受け取り先に指定した方がいいはずだお……」


二人は「うーん」と首を傾げながら考えるが、
考えたところでその答えが浮かんでくるわけでもなく、
結局、早々にあきらめた二人は、水筒の水をがぶ飲みすると飛行機械の座席に飛び乗った。




ξ゚ー゚)ξ「考えてもはじまらないわ。
    あたし達のやるべきことは、最善を尽くす、ただそれだけよ!」


勢いよく乗り込んだツン。
それに習ってブーンも操縦席に飛び乗った。


( ^ω^)「おっおっお!今日のツンはなんだかカッコいいお!」

ξ゚∀゚)ξ「おほほほほwwwww
    これからはあたしのこと、クール&ビューティーとお呼びなさい!」

( ^ω^)「おっおっお!このまま空に落ちて死んでくれおwwwww」


なんだか緊張感に欠けた会話をして、二人は再び空へと飛び上がった。




一方、それから数時間後の「トップページ」近郊の空域。

そこに、雲の中に隠れるようにして浮かぶ一つの巨大な鉄の塊の姿があった。
その中のとある一室で、以下のような会話がなされていた。


「ういっす!飛行機械の整備、完了しましたよ!!
 艦内の駆動機関もオールグリーン!命令しだいでいつでも飛べます!!」

「そうなの?ご苦労さん」


そう言って、男は眠たげに目をこする。


「艦長ー、寝てないんすか?」

「そうなんだよ……昨日、徹夜で小説読んじゃってね」

「そんな面白い本だったんすか?」

「うん。『僕と彼氏のいんぐりもんぐり性日記』って小説。
 最高だったよ。いろいろな意味で眠れなかったね」

「マジっすか!?今度俺にも貸してくださいよ!!」


そんな会話を交わす二人の下へ、一人の女性がやってきた。




「失礼します」

「あ、いらっしゃい」

「定刻一七○○まで十分を切りました。
 命令しだいで、いつでも私は飛べます」

「おk。全速力で『トップページ』空域内へ」


その声が艦内に伝えられると、巨大な鉄の塊の駆動系がいっせいに動き出し、
重低音の飛行音があたりに響き渡る。
ブースターの光りが尾を引くようにして雲を切り裂き、
鉄の塊がジワジワと高度を下げ、その巨体を白日の下に晒した。


「で、どうなの?今回の新人」

「副艦長と整備長の報告によれば、将来有望な少年と少女の飛行機械乗りだそうです。
 現時点での技術も、Aランクを二つ続けてこなせるほどに高いものだそうです」

「へー。それはたいしたものだね」

「それと、印象としては、若い頃の長岡によく似ていると」

「え?マジ!?そいつは楽しみだなぁ!!」


長岡と呼ばれた男の明るい笑い声が、艦内に響き渡った。




その同時刻。

ブーンとツンの二人を乗せた飛行機械は
「トップページ」空域のギリギリ外の雲の中を旋回していた。


(;^ω^)「ツン、掘った芋いじくるな?」

ξ;゚听)ξ「一六五○よ。あと五分したら空域内に突入するわよ!」

(;^ω^)「おkおk!」


そんな会話を交わす二人の表情は、明らかにこわばっていた。

しかし、それも無理のないことで、彼らの目の前の空には、
まだ豆粒ほどの大きさではあるが、無数の艦隊の艦影が浮かんでいるのだ。

雲の中に隠れて相手側からは自分達の姿は見えていないはずではあるが、
それでもあの数の艦隊を目の当たりにして動揺を隠せないのが今の二人の現実だった。




ξ;゚听)ξ「……一六五五!行くわよ!」

(;^ω^)「うはwwwおkwwww把握!!」


半ば投げやりに笑ったブーンは、アクセルを一気に踏みこむと、
最高速で「トップページ」空域へと進入した。

最大出力のエンジンが起こす振動が尻に響き、口を開ければ小刻みに声が漏れる。
口にする言葉は振動で震え、周囲には甲高い風切り音と、
後部座席のツンの声が風にかき消されてかすかに聞こえるくらいである。

そんな彼らのもとに、相手側艦隊から送られてくる発光信号。


(;^ω^)「……一応聞くけど、なんて言っているんだお!?」

ξ;゚听)ξ「『直ちに立ち去れ。さもなくば撃墜する』ですって!!」

(;^ω^)「お……やっぱりかお……」


あらかじめ想定していたこととはいえ、
ほんのちょっぴり何かを期待していたブーンにとって、彼女の言葉は胸にズシリとくるものだった。

結局そのまま艦隊の方へと向かったブーンたちは、
あたりに次々と響き渡る砲撃音に縮み上がることになる。




(;゚ω゚)「ぶおおおおおおおおおおおおおお!!」

\ξ(^O^) ξ/「イヤ―――――!人生オワタ―――――――!!」


無数の艦隊から打ち出される砲撃の中を、二人は意味不明な叫び声をあげながら飛んだ。

時にループし、時にロールして、
二人を乗せた銀色の空の舟は艦隊の間を抜け一直線に「トップページ」を目指した。
しかし、その奥に行けば行くほど、他の艦隊からの連絡があったのであろう、
待ち受ける艦隊の砲撃は厳しいものになっていく。

特にツンが肝を冷やした場所があった。
その空域で二人は両側を艦隊に囲まれたその間を飛行していた。

するとその艦隊の側面から放たれるのは、弾丸ではなくて無数の巨大な鉄の槍。
二人はその槍の雨の中を、ひたすらに飛んでいた。




\ξ(^O^)ξ/「いやあああぁぁぁああぁ!!本当に槍が降ってきたあぁぁぁぁあああ!!
        今日あんたが早く起きたせいよおぉおぉぉおおぉ!!」

( ^ω^)「おっおっお、それはすまんことだお」


半ば発狂しているツンとは対照的に、ブーンはすこぶる落ち着いた様子だった。
両側から降り注ぐ鉄の槍の軌道が、今の彼にははっきりと見えていた。

なぜこんな窮地のさなかに、自分はこうも冷静でいられるのだろうか?

今の彼に、それが一流の飛行機械乗りのみが達することが出来る、
一種のゾーンとも呼ばれる最高の緊張状態の賜物であることに気づく術はなかった。




やがて、二人の目の前に始まりの島「トップページ」の姿が見えてきた。

それはまだ緑色の小さな点ではあるのだけれども、
目標が見えたことによる二人の安堵感は格別なものだった。

しかし、それが災いした。
目標が見えたことによる安堵感が、二人の間にわずかな緊張の緩みを生じさせた。
それにより判断が一瞬遅れる。

その結果、二人は連合艦隊の艦上から離陸した飛行機械の銃撃を受けることになる。


(;゚ω゚)「のわぁぁああぁあ!!」

ξ(´・ω・`)ξ「イヤ―――――!!打たれとるがな――――――!!」


もはや口調まで変わってしまったツン。
幸いにも弾丸は片翼をかすめただけであったが、後方から迫り来る飛行機械の数はどんどん増してゆく。

両側面には艦隊からの槍や砲弾の嵐。
前方にはまだ多くの艦隊。

もはや、彼らの命運もここまでかに見えた。




しかし、その時だった。

二人の後方に突如現れた、赤と青、二つの飛行機械。
それが後方の連合艦隊の飛行機械を次々と撃破していく。

予期しない光景を目の当たりにして、呆然とアクセルを踏み続けるブーン。
瞬間、身を圧迫するように響く轟音。

その音のする方を見ると、連合艦隊の一隻が炎に包まれて真っ黒な煙を上げていた。


(;゚ω゚)「いったい、何が起こっているんだお……」


そう呟いた彼に、後部座席のツンが叫び声を上げた。


ξ;゚听)ξ「……ブーン!上を見て!!」




見上げた彼の視線の先では、雲の隙間から顔を出した巨大な鋼鉄の塊が
目の前の連合艦隊に向かって上空から無数の砲弾を次々と発射している姿があった。


(;゚ω゚)「あれが……『VIP』……」


その鉄の塊は、重厚な外見に不釣合いに華麗に空を舞っていた。

そんな空に浮かぶ鉄の塊の様子を表現するとき、
人はきっと「風に乗る船」という言葉を用いるのであろう。


第八話 おしまい

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  第九話 「FEEL」

突如として上空に出現した鋼鉄の舟は、
連合艦隊も、そしてブーン達二人をも大いに動揺させた。
高空の更に高空から降り注がれる砲弾の雨は、面白いように艦隊を崩していく。

一羽のスズメを相手にしていた最中に、いきなり鷹が現れたのだ。
ほとんどの艦隊はブーン達スズメよりも高空の鷹の方を危険視し、
彼らの砲台が、次々と上空へ向いていく。

現在二人に対して攻撃を繰り広げるのは、わずかな戦艦と後方の飛行機械だけ。

まあこれだけでも十分脅威なんだけれども、
今まで戦艦の海の中を孤立無援で渡ってきた二人にとって見れば、
目の前の相手など脅威であって脅威でなかった。

ブーンはその意気のままにアクセルを踏み込み、風の隙間を駆け抜けていった。




ξ;゚听)ξ「……すごい」


後部座席のツンは、
連合艦隊の船を圧倒的な攻撃力で粉砕していく鉄の戦艦を見上げて呆けた顔をしている。

一方ブーンはというと、確かに上空の戦艦の勇姿にも目がいっていたが、
それよりもバックミラーに映る、
自分達の後方で連合艦隊の飛行機械を次々と撃墜していく
赤と青、二機の単座式飛行機械の動きに心を奪われていた。


(;゚ω゚)「……まるでダンスしているようだお」


赤と青の飛行機械の動きは、「飛ぶ」というより「舞う」と表したほうが正しい。

そんなことを呟きながら二機の飛行機械の動きに見惚れていると、
その更に後方から、連合艦隊のそれでない複座式の飛行機械が発光信号を送ってくるのが見えた。




( ゚ω゚)「ツン!後方!発光信号だお!!」

ξ;゚听)ξ「……えっ!あ、りょ、了解!!」


ブーンの声にツンは上空から後方へと視線を移し、その発光信号を解読した。


ξ;゚听)ξ「『ついてこい』だって!」

( ゚ω゚)「把握した!」


ブーンは発光信号を送る後方の複座式飛行機械に向かい進路を変える。
複座式の飛行機械は空を垂直に駆け上がり、上空の戦艦へと向かっていった。




「VIP」と思われる鋼鉄の塊は、他の戦艦と比べ明らかに異質異様なものだった。

基本構造は他の戦艦と同一。

しかし、普通の戦艦が我々の世界の空母、戦艦ように多少丸みを帯びた流線型であるのに対し、
高空に浮かぶ「風に乗る舟」は、
側面に張り巡らされた分厚い鉛色の鋼鉄板と、
そこから顔を出す無数の大口径の砲台を備え付けており、
それらが「VIP」を、戦艦ではなく空に浮かぶ要塞へと印象を変えさせていた。

その鉄の要塞の最下層、
ブーン達の位置からすると、要塞の真下部分に飛行機械の離着陸用の甲板が備え付けられており、
ブーンとツンの二人は先導する飛行機械に続いてその甲板へと降り立った。



  _
( ゚∀●)「ほ〜!見事な着艦だな!」


下部甲板に着陸した二人に向かい、眼帯と眉毛が印象的な男が話しかけてきた。
無骨な眼帯とは対照的に、彼の口調や表情は柔和だ。

ブーンは前部座席から降りると、後部座席でぐったりしているツンをそこから降ろしてやる。
その間に眼帯の男は先導した複座式の飛行機械のパイロット達となにやら話を始める。

ゴーグルとヘルメットでその顔は確認できなかったが、
どこかで見た彼らのシルエットが、ブーンの目には焼きついていた。




\ξ(^O^)ξ/「……ここは天国ですかそうですか」


その言葉に振り返ると、
甲板に力なく座り込んだツンの目が麻薬中毒者のそれとなっていた。

これはヤバイと瞬時に判断したブーンは、水筒の水をツンにぶちまける。

彼女はしばらく呆然として甲板にへたり込んでいたのだが、
突然正気を取り戻すと、立ち上がり、顔をくしゃくしゃにして少年の胸に飛び込んでくる。


ξ;凵G)ξ「あ――――ん!怖かったよ―――――!!」

(;^ω^)「おー、よしよしだお」


滅多に見せない「デレ」状態の幼馴染を、少年は優しく受け止めた。

しかし、そんな幼馴染の身体を受け止める少年の両足もまた、
先ほどまでの恐怖とそれから解放された安心感とでガクガクと震えていた。



  _
( ゚∀●)「あー、あー、テステスパイパイ。
      こちら下部甲板!こちら下部甲板!
      客人の飛行機械、及び副艦長と整備長の飛行機械収容完了!
      赤と青、その他の飛行機械部隊もまもなく着艦予定!どーぞー!」


しばらく互いの無事を確認しあっていた二人の視線の先では、
眼帯の男が甲板の壁に備え付けられている艦内用の通信機器のようなものに向かい何かしゃべっていた。
その言葉に、甲板の整備班らしき人々があわただしく動き始める。
赤と青、二機の飛行機械とは何者なのだろうか?
ブーンがそんなことを考えていると、眼帯の男が二人の方へと歩み寄ってきた。

  _
( ゚∀●)「いやー、お疲れさん!!俺はジョルジュ長岡!よろしくな!!」

(;^ω^)「あ、どうもですお……」


突然握手を求められたブーンは、一瞬戸惑いつつ、差し出された手を握り返した。

  _
( ゚∀●)「到着したばかりで悪いんだけど、まだ仕事は終わりじゃないんだなぁ、これが!
      そんじゃ、付いてきてもらうよ!!」


そうまくし立てると、
ジョルジュ何某はニコニコと笑いながら上へと続く階段を上り始める。
その後姿を、ブーンとツンは慌てて追いかけた。




階段をひたすら上りに上り、それから狭い通路を何度か曲がったその先に、
艦長室というプレートの張られた扉があった。
その前に眼帯をはめた男がブーン達を引き連れてやってきた。

艦長室とはとても思えない、他の部屋のものと大して変わらない粗末な扉。
彼はその前に立ち止まると、うやうやしく姿勢を正した。

  _
( ゚∀●)「ういーっす!ジョルジュ長岡副整備長でありまーす!!」

「うん。入っていいよ」


中から聞こえてくる間延びした声を合図に扉を開けると、
彼らの目の前にこじんまりとした部屋の様子が広がった。
一つの鉄製のテーブルに、それを挟む様にして備え付けられた二つのソファ。
その片側に座っていた八の字眉毛の背の高い男が、ブーン達二人に対面のソファに腰掛けるように促す。


(;^ω^)「……失礼しますお」

(´・ω・`)「ん」


一声かけてそこに座るブーン。
彼に続いて、ツンもおずおずとその隣に腰掛けた。
眼帯の男、ジョルジュ何某は八の字眉毛の男の後ろに立つ。

そして、会談が始まった。




(´・ω・`)「さて、ここまでよくたどり着いてくれたね」


どうやら艦長らしいその男は、テーブルの上に置かれたお茶をすすりながら言う。


(;^ω^)「それはもう……仕事ですから」


ツンはいつもの仕事口調を保ったつもりだったが、
緊張で少し声が裏返っていることを自覚した。


(;^ω^)「それで……こちらがお届けの書簡ですお」


緊張した面持ちの二人は、テーブルの上に書簡を置いた。
しかし、次に目の前に座った男から発せられた言葉に二人の表情は一変する。


(´・ω・`)「ああ、それね。君達が開けて読んでよ」




(;^ω^)ξ;゚听)ξ「「……」」


その言葉に対し、二人は口をポカンと開ける。

それもそのはず、届け物の書簡の中身を閲覧するなど、
郵便を生業とする二人にとってはタブーもいいところだった。


(;^ω^)「いや……それはさすがに……」


対応に困ったブーンが、何とか言葉を発する。
しかし、そんな彼をものともせず、艦長はただ「いいから」と言うだけである。

仕方なくブーンがテーブルの書簡を手に取りチラリと目線をあげると、
その先では眼帯の男がニヤニヤと笑っていた。

その様子を不審に思いながらも、彼は書簡の封をあけ、手紙を読み始める。
やがて少年の目が、見る見る内に見開かれていく。




ξ;゚听)ξ「……ねぇ、ブーン?なんて書いてあるの?」


少女は、尋常じゃない表情の幼馴染を見て心配そうにささやく。
その返答として、少年は手紙を音読する。


(;゚ω゚)「……『貴君等を、戦艦VIPの乗員として迎え入れる』」

ξ )ξ ゚  ゚ 「あぼーん!!」


手紙を読む顔を静かに上げた少年の前には、
眼球が飛び出した少女と、ニヤニヤと笑みを浮かべる長岡、
そして、なんら表情を変えることのない八の字眉毛の姿があるだけだった。


第九話 おしまい






  第十話 「人が夢を見るといふ事」





(;^ω^)「これは……どういうことですかお?」

(´・ω・`)「どういうことって、そういうこと」


八の字眉毛をピクリともさせず、男は平然と答えた。


ξ゚听)ξ「……私達がVIPに招待される理由がわからないのですが?」


ツンは鋭い目付きで言葉を放つ。


(´・ω・`)「君達の夢、それを目指す動機、そして荒削りではあるがそれ相応の飛行技術。
      それらすべてが我々のそれと合致したからこそ、君達をここに招待させてもらった」




その言葉に、少年と少女はさらに話が見えなくなる。

『海賊狩りのVIP』として悪名高いこの戦艦の野望と
自分達の夢の間のどこに共通点があるというのだろうか?


ξ;゚听)ξ「あの…お話がよくわからないのですが……」

(´・ω・`)「我々『VIP』の目的は、『エデン』到達。
      君達の夢と合致する」

(;゚ω゚)ξ;゚听)ξ「「!?」」

(;゚ω゚)「なぜ僕達の夢をあなたが知っているんですかお!?」

(´・ω・`)「それを聞くのは当然だよね。入っていいよ」


その言葉の直後、部屋の扉がガチャリと開き、
そこから見知った二人の男?が姿を現した。




('∀`)「ぶほほほほwwwwチャオ!お二人さん♪」

( ゚д゚ )「久しぶりだな。……と言っても、昨日会ったか」


入ってきたのはパーツ屋のオカマ店主と職場の受付の男だった。
思いもよらない人物の登場に、少年たちはもはや何も言えなくなっていた。


(´・ω・`)「簡単に説明するとね、彼ら二人は我が『VIP』のスパイさ」

('∀`)「あらヤダ艦長!スパイなんて物騒な言い方止めてよ!
    スカウトと言って頂戴、ス・カ・ウ・ト!!ぶほほほほほwwwwww」

( ゚д゚ )「と言うことだ、スロウライダー。騙していて悪かったな」


態度も口調も対照的な二人。
彼らが眼帯の男の隣、艦長と呼ばれた男の後ろに立つと、八の字眉毛の艦長は続けた。


(´・ω・`)「紹介しよう。
      我が『VIP』の整備長の毒男に、副長のジョルジュ長岡、
      副艦長のミルナに、そして私が艦長のショボンだ」

('∀`)「ぶほほほほwwwwそういうことよ、ブーンちゃん♪」


もはや少年と少女は、何が何だかわからなくなっていた。




( ゚д゚ )「我々『VIP』は、『エデン』を目指すもの達が集まって結集された戦艦だ。
    各人がその夢に向かい、日々努力している」
  _
( ゚∀●)「設備一流!技術超一流!それが俺達『VIP』さ!!」

('∀`)「そのメンバーとしてあんた達が選ばれたのよぅ!」

(´・ω・`)「僕のセリフ無くなっちゃった……」


次々とまくし立てる面々に、

「ちょっと待ったー!!」

と大声を上げると、少女は腕を組んで頭の中を整理し始める。

その隣では、呆然と虚空を眺める少年。
どうやら、ただでさえ容量の少ない脳みそがパンクしてしまったようである。

そんなしばらくの沈黙の後、少女は一つ一つ言葉を並べた。




ξ゚听)ξ「ええっとー、つまりあんた達は『エデン』を目指していて、
     オカマからあたし達のことを聞きつけてメンバーに勧誘した」

(´・ω・`)「ご名答」

ξ゚听)ξ「えっと……それじゃ、なんであたし達をこんな危険な目に合わせたわけ?」

(´・ω・`)「君達の実力を確かめたかったから」

ξ゚听)ξ「ああ、そういうことね。とりあえず死んで。
     ……それじゃあ、なぜ私達を『トップページ』に呼びつけたの?
     実力を測るなら他の方法もあったでしょ?」

(´・ω・`)「ここを守る連合艦隊の戦力状況を把握しておきたかったんだ。
     君達の実力を測ったのはそのついで」

ξ゚听)ξ「あーはん。地獄に落ちろ。
    それじゃあ、『エデン』を目指すあなた達がなぜ海賊狩りなんかしているの?」

(´・ω・`)「うん。それ、誤解なんだよね。
     僕達は売られた喧嘩を買っているだけ。こっちから仕掛けたことなんて一度も無いよ?
     だけど売られた喧嘩とはいえ、海賊を何個も壊滅させちゃえば、
     世間一般の僕達に対する印象はどうしてもそうなっちゃうよね」

ξ゚听)ξ「ああ、そうなの。よーくわかったわ、あんた達のこと」




持ち前のマシンガントークで次々と質問を並べた彼女に対し、よどみなく答えるショボン。
そんな彼に対し、今まで沈黙を守っていたブーンが口を開いた。


( ^ω^)「……僕からも質問がありますお」

(´・ω・`)「なんだい?僕の性癖かい?」

ξ゚听)ξ「……あんた、五回くらい死んでみたら?」

(´・ω・`)「うん、そうだね。ぶち殺すぞ」


もはやどこかへ行ってしまった当初の緊張感。
それが、真剣な眼差しを放つブーンにより呼び戻された。


( ^ω^)「……なぜ、あなた達は『エデン』を目指すのですかお?」




その言葉に目を細めると、ショボンは静かに話を始めた。


(´・ω・`)「……『エデン』、つまり『楽園』。
     この概念がどのようにして生まれるか、君はわかるかい?」

( ^ω^)「……いや、わからないお」

(´・ω・`)「それはね、絶望の中に住む人々たちの間の、希望という名の下に生み出されるんだ。
     ユートピア、桃源郷、アナスタシア。
     名前を変え、時代を変え、その類のものは存在し続けた。幻としてね」

( ^ω^)「……」

(´・ω・`)「しかし、その概念が唯一消え去った時代があった。
     科学の時代と呼ばれた時期がそれだ。
     その中で絶望にあえぐ人たちは、希望を『楽園』ではなく『未来科学』に求めた。
     そして、その『未来科学』の究極が今の時代、空に浮かぶ島々だ」




(´・ω・`)「言っていなかったがね、
     『VIP』の構成員のほとんどが社会的最下層の人間、一般的に言えば絶望の中に生きる者達だ。
     そんな我々が希望を求めるとき、
     その場所は究極に達した『未来科学』に求められるはずも無く、
     旧来の概念である『エデン』に求めるしかなかったんだよ。皮肉な話だよね」

( ^ω^)「……」

(´・ω・`)「しかし、過去の『楽園』と現在の『エデン』とには大きな違いが一つある。
     それはね、『エデン』が実在することなんだよ。我々は集めた資料からその存在を確認した」

( ^ω^)「……理由になっていないですお」

(´・ω・`)「いやいや、話がこんがらがって悪いね。
     つまりだ、最下層の我々が夢見る楽園『エデン』が実在する。
     それでは、それを目指す理由にならんかね?」




( ^ω^)「……よくわかりましたお」


そう言うと、ブーン静かに立ち上がった。


( ^ω^)「しかし、僕達はあなたの申し出には答えられませんお。
     僕はツンと二人でエデンを目指す、そう決めているんですお」

ξ゚ー゚)ξ「ブーン……」


その言葉に、ツンは潤んだ瞳で彼を見つめた。
しかしそれとは対照的に、彼らの目の前の四人は大声で笑いはじめる。


(´・ω・`)「あっはっは!これは参ったね!ミルナと毒男の言うとおりだ!」

( ゚д゚ )「ふふふ。だろう?」

('∀`)「ぶほほほほほwwwwwほーんと、若い頃のジョルジュにそっくりだわ!」
  _
( ゚∀●)「ちょwwwww俺はここまであおくなかったっすよwwwwww」




そんな彼らを、むすりとした表情でにらみつける二人。
その表情に気づいて、ショボンが顔を引き締めた。


(´・ω・`)「いやいや、すまなかった」

( ^ω^)ξ#゚听)ξ「「……」」

(´・ω・`)「君達の主張は若くてすばらしいものだ。
     そういう気概があるからこそ、我々は君達を迎え入れようと言うのだよ」

( ^ω^)「……」

(´・ω・`)「ところで君は、『挑戦』ということがどういうことかわかるかい?」


突然の質問。
ほんの少し戸惑いながらも、ブーンは自分の考えを素直に述べた。


( ^ω^)「……不可能に挑むことだお」




(´・ω・`)「うん。半分正解」

(;^ω^)「?」

(´・ω・`)「いいかい?
     挑戦とはね、不可能な点が可能な領域の境界線上に重なって初めてそこに出現するんだ。
     不可能な点とは決して広がることはなく、常にそこにポツリと存在する。
     しかしね、可能な領域はその者の努力しだいでどこまでも広がっていく」

(;^ω^)「??」

(´・ω・`)「可能な領域を広げていき、
     その領域の境界線上に不可能な点が入ったとき、はじめてそれが挑戦となる。
     そして、その挑戦に成功したとき、不可能な点は可能な領域となるんだ」

(;^ω^)「???」

(´・ω・`)「だがね、可能な領域の境界線上に入らない不可能な点に挑むことを挑戦とは呼ばない。
     人はね、それを蛮勇や無謀なんて言葉で表現するんだよ」




( ゚ω゚)「なにが言いたいんだお!」


クドクドと理屈を並び立てるショボンに、ブーンは思わず怒鳴り声を上げる。
それになんら表情を変えることなく、ショボンは続けた。


(´・ω・`)「つまり、君達二人だけでは可能な領域を広げるのには限界があると言うことさ。
     君達二人の努力だけでは、
     可能な領域の境界線上に『エデン』と言う不可能な点はいつまでたっても入ってこない」

ξ゚听)ξ「つまり、あんた達の仲間になれば、
    あたし達の可能な領域はどんどん広がっていくと言うわけね」


割りと理解した様子のツンがショボンの話に割って入る。


(´・ω・`)「おしいね。90%正解。
     それだけでなく、君達が我々『VIP』に入ることで我々の可能な領域も広がっていくのさ」

ξ゚听)ξ「だから協力してくれ、と言うわけね」

(´・ω・`)「ご名答。悪い話ではないだろう?」

ξ゚听)ξ「……いいわ。協力してあげる」


その問いかけに、彼女は即答で返した。




(;゚ω゚)「ツン!何言っているんだお!!」


まったく予期していなかった彼女の言葉に、ブーンが食って掛かる。


(;゚ω゚)「こんな海賊の力を借りなくったって、僕達だけでも『エデン』に行けるお!」

ξ゚−゚)ξ「……それが子供の考えだって言うのよ」


激昂するブーンとは裏腹に落ち着いた様子のツン。


('A`)「言うじゃない?小娘」


そんな彼女に、対面の毒男が合いの手を入れる。




目の前で繰り広げられるプロレスを尻目に、少女は幼馴染に向かって語りかける。


ξ゚听)ξ「ここの飛行機械の動きを見たでしょう?
     あんな華麗に舞う空の舟でさえ、未だ『エデン』にはたどりつけてないのよ?」

(;゚ω゚)「……」

ξ゚听)ξ「それにさ、あんた、昨日私に言ったじゃない?
     『ファイブA』の仕事で躊躇していたら、『エデン』なんて夢のまた夢だって」

(;゚ω゚)「……」

ξ゚ー゚)ξ「それと同じよ。
     こいつらの申し出を断っていたんじゃ、それこそ『エデン』なんて夢のまた夢よ。
     あたし達はこいつらの仲間になる。そしてこいつらを利用してやるのよ。
     私達の夢のためにね」




大人の女性特有の現実的な、理にかなった意見を述べるツン。
いつもと違う様子の彼女に戸惑うブーン。

そんな二人を見て、ショボンは静かに笑う。


(´・ω・`)「ふふふ。実に肝の据わったお嬢さんだね。ますます気に入ったよ」

( ゚д゚ )「だろう?」


その後ろに立つ副艦長のミルナが、鋭い眼差しに優しい光をまとわせて続けた。


( ゚д゚ )「それが、『人が夢を見る』ということだ。スロウライダー」




その眼差しを受けて、少年は静かに答えた。


( ´ω`)「……ツンがここに残ると言うなら、僕も残りますお」


後々振り返ったとき、
この決断が、まさに彼らの人生の転機だと呼ぶべきものだった。


第十話 おしまい



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