僕は夢が広がリングを売却すると、
続けてオワタナイフについて質問した。

<ヽ`∀´>「説明にある通り、人生オワタを一撃必殺するナイフニダ」

('A`)「しかしな、前回森林まで進んだとき、
   僕は人生オワタを普通に倒せたぞ。
   わざわざこんな武器がある理由はあるのか?」

 あるニダ、とニダーは頷いた。
一瞬中国人と韓国人の混血になったのかと思ったが、
どうやらそうではないらしい。

<ヽ`∀´>「人生オワタは1ポイントダメージを与えれば死ぬニダ。
      ただ、あらゆる攻撃が2分の1の確率でしか当たらないニダ」

 お前は幸運だったニダ。
そう言い、ニダーはホルホルと笑った。

 僕は木の矢を10本もっている。
それにより遠隔攻撃ができるので、
人生オワタは脅威にならないんじゃなかろうか。
僕はそう訊いてみた。

<ヽ`∀´>「そんなことは知らんニダ。自分で考えるニダ」

 ニダーは僕にそう言った。


 僕は2000チャンネルでオワタナイフも売ることにした。
木の矢があるからというのと、
前回僕を撲殺したクックルーと戦うにあたって
オワタナイフの攻撃力では心もとないこともあり、
わざわざ装備することはないと思ったからである。

 僕はすっかり潤沢になった資金で
ガチムチ草を2枚買ってその場で胸板を厚くすると、
大きなうまい棒(めんたい味)とわかってますの巻物を荷物に詰め込んだ。

 1000チャンネル払って宿屋に泊まる。

('A`)「感覚としては『樹海』の冒険は夢のようなものなんだけど、
   夢の中で足を伸ばして風呂に入り、
   ぐっすり眠るってのはどうなのかね」

 ふかふかの枕に頭をうずめ、僕はそんなことを考えた。
夢に水系がでてくると寝小便をかくというけれど、
前回宿屋に泊まったときは大丈夫だった。

('A`)「ま、夢精までした今、僕に敵はないけどな」

 でも寝小便は嫌だな、と僕は呟いた。


 森林。僕の右手にはバールのようなもの+1、
左手にはタングステンシールド+1が握られている。

 森林は洞窟内と違って視野が開けているので歩きやすい。
僕は木の矢を持って通路を歩くときは
時々進行方向に向かって矢を放ち、
ソナーのように活用しながら進んでいくのだけれど、
ここでは通路のある程度先まで様子がわかるので
そんな必要はないのである。

('A`)「しかし、レイプされた記憶を呼び起こす地形でもある」

 僕が警戒しながら進んでいくと、
鳥の化け物が歩いてくるのが見て取れた。
クックルーだ。

 僕は先制攻撃の態勢を取ると、クックルーと対峙した。

『ドクオの攻撃! クックルーに26ポイントのダメージ!』
『クックルーの攻撃! ドクオに11ポイントのダメージ!』

『ドクオの攻撃! クックルーに26ポイントのダメージ!
 クックルーをやっつけた!』


 2枚のガチムチ草で胸板を厚くした上
バールのようなものを右手に握っているにもかかわらず、
クックルーを倒すには2度の攻撃を必要とした。

('A`)「やっぱりオワタナイフじゃ埒があかないな」

 僕がそう呟くと、
それに呼応したのか進んだ先の部屋には人生オワタがいた。

('A`)「2分の1の確率なら、
   矢が切れないうちはこの視野の広い森林において
   僕がやつに殴られることはそうそうないな」

 僕は『行動』2回分ほど離れた位置から矢を放つ。

 1発目は外れた。2分の1の確率なら不思議ではない。

 2発目も外れた。4分の1の確率ならそれほど不思議ではない。

 僕は人生オワタと対峙した。
バールのようなものを握る右手に力をこめる。
僕の攻撃は空振った。8分の1。勘弁してくれよ。

 殴られる、と僕は身構える。

『人生オワタはオワタダンスを踊った!
 ドクオのレベルが1下がった!』

('A`)「なにー!」


 相当ムキムキだった僕の体が1回り小さくなったような心地がする。
確かに僕のレベルは1下がっていた。

('A`)「反則だ!」

 だからそれに対応する武器が存在するんだ。
僕はすぐにそう思い至ったが、
そんな理屈で僕の憤りを解消することは不可能だった。

('A`)「だめだドクオ、落ち着け。
   熱くなってはポーカーには勝てない。ポーカーじゃないけど。
   冷静に状況を判断するんだ」

 僕の状況はというと、
人生オワタに近づかれた状態でオワタナイフを持っていない。
つまり2分の1の確率でレベルが下げられる。
次の攻撃まで外れるとなると16分の1の確率となるけれど、
それは計算上そうなるだけであって、
今の僕にとっては2分の1と同じだった。

('A`)「条件つき確率ってやつだ。数学なんて大嫌いだ!」

 僕は立ち並ぶ木々に向かって叫んだ。


 僕は人生オワタに向かってバールのようなものを振り下ろす。

('A`)「悩んだって確率は変わらねぇんだ!
   世の中! 狂ってんだよ! 狂ってんだよ!」

『ドクオの攻撃! 人生オワタに24ポイントのダメージ!
 人生オワタをやっつけた!』

 僕の形相は、もうフツウではなかった。

 人生オワタを倒して得られた経験値的なもので
僕のレベルが1あがり、僕の体はムキムキさを取り戻す。
どこかでファンファーレのようなものが鳴るのが聞こえるが、
そんなものは慰めになりはしない。

 荒く息を吐いていると、背後から声をかけられた。

「やあ、また会ったな」

 この声は、と僕は振り返る。

川 ゚ -゚)「これからわたしといいことしないか?」

 クーだった。


(#'A`)「するわけねぇだろうが!
   僕はお前にレイプされたんだぞ!」

 僕がクーを睨みつけると、クーは不思議そうな表情を浮かべた。

川 ゚ -゚)「おかしいな。同意は取った筈だけどな」

 あれは和姦じゃないのか、とクーは言う。

(#'A`)「違ぇーよ!」

川 ゚ -゚)「どう違うのかな」

(#'A`)「どうもこうもねぇ!
   僕はもうお前とは関わりたくないんだから、
   とっととその便器に向かったケツの穴のような口をつぐんで
   消えやがれ!」

川 ゚ -゚)「わたしは消えないよ」

 それに考えてみろ、とクーは言う。

川 ゚ -゚)「ここまで来られたということは
     君には『樹海』をクリアする素質があるのだろう。
     クリア後の待機時間、君は性生活をどうするつもりなのかな」


 クリア後の性生活。そんなもの、僕はこれまで考えもしなかった。

川 ゚ -゚)「君が知っているかどうかは知らないが、
     願い事を叶えてもらった後
     君はしばらく門番のような役割を果たさなければならない」

('A`)「知ってるさ」

川 ゚ -゚)「じゃあこれも知ってるのかな。
     その間、君は神に次ぐ存在のようなものになるわけだから、
     君が望んだ世界で望んだように生活をして待つことになる」

 やばい、こいつの話は聞いてはならない。
僕の本能は僕にそう訴えているが、
僕は自分の体の動かし方を忘れてしまったように
クーの話に聞き入ってしまう。

 つまり、とクーは微笑んだ。

川 ゚ -゚)「つまり、君が望めないものは存在しない世界で生活するわけだ。
     望むというのはイメージできると言い換えても良い。
     君は、君のイメージできないものは存在しない世界で
     生活することになる」

('A`)「それも知っている」

川 ゚ -゚)「なら良いんだ。君は童貞だと言っていたな。
     セックスを知らないのなら、セックスなしの生活を強いられる。
     自分の望み通りになる世界において、
     それはとても寂しいことだと思わないか?」


('A`)「何故だ。女体をイメージして作り出し、
   そいつとセックスすれば良いじゃないか」

川 ゚ -゚)「ほう。君は経験したことのない女性器の感触を
     イメージできるというのかな」

 あるいは女性器そのものをだ、とクーは言う。
僕は言葉に詰まってしまった。

 クーはその様子を把握すると、僕の耳に言葉を並べる。

川 ゚ -゚)「しかし君は待機時間にフェラチオを楽しむことはできる。
     わたしが先日その快感を君に教えてあげたからだ。
     君はわたしに感謝するべきだ。違うかな」

('A`)「…そうかもしれない」

川 ゚ -゚)「良い子だ。わたしは良い子は好きだよ。
     ただし、君は1通りのフェラチオしか経験していない。
     それではフェラチオをイメージしようにも、
     君は1通りの快感しか得られない」

 そういうのはすぐに飽きてしまうものだよ、とクーは言った。
そうかもしれない、と僕は呟く。

 クーはとても満足そうに微笑んだ。

川 ゚ -゚)「もう一度だけ訊こう。
     これからわたしといいことしないか?」


( A )「確認させてくれ。
   それにイエスと答えれば、お前は
   僕にさらなる快感を教えてくれるのか?」

川 ゚ -゚)「もちろんだ。
     今回はわたしに挿入してもらおうと思っている。
     そうすれば、君は待機時間中に
     女の子たちとも楽しめることだろう」

 ただしアナルセックスだけどな、とクーは言う。

川 ゚ -゚)「フェラチオもたっぷりするよ。
     君はあらゆる方法のフェラチオと共に性生活を送れば良い」

( A )「お前はそれで満足なのか?」

川 ゚ -゚)「わたしの心配をしているのか?
     もしそうなら、そんなものは無用だ。
     気が向いたときにわたしを考えて射精してくれるなら、
     わたしにとってそれ以上の幸せはないよ」

 そうか、と僕は呟いた。

川 ゚ -゚)「それでは意思表明をしてもらおうか」

 僕は頷いた。


('A`)「だが断る。
   このドクオが最も好きなことのひとつは、
   正確にいうと、このドクオが最も好きな漫画のひとつにでてきた
   思想で特に気に入っているのは、
   自分で強いと思ってるやつに『NO』と断ってやることだ…」

 クーはしばらく驚いたような表情をしていたが、
やがてにっこり微笑んだ。

川 ゚ -゚)「なるほど。それなら仕方がないな」

 行くが良い、とクーが指さした先には上り階段があった。

川 ゚ -゚)「地上まで上がればクリアだ」

 僕は大きくひとつ息を吐くと、階段に向かって歩きだす。

川 ゚ -゚)「君の幸せを願っている」

 クーは僕にそう言った。
僕は階段を上る前に一度だけクーに振り向いた。そして訊く。

('A`)「お前は一体何なんだ?」

川 ゚ -゚)「わたしはクーだ。めつぶしのクーと皆は呼ぶ」

 彼女はそう答えた。


 地下4階。僕の右手にはバールのようなもの+1、
僕の左手にはタングステンシールド+1が握られている。

 上った先には盾が落ちていた。
ミミタブシールドだ。
僕はそれを拾い、地下4階の探索を開始した。

('A`)「地上に上がればクリアということは、
   4度階段を上れば良いわけか」

 探索はした方が良いのだろうか、と僕は考えた。
クリア条件が明確である以上、
それさえ満たせば後はどうでも良いわけである。

 下手に探索をして死んでしまっては元も子もないが、
かといって探索を一切やらずに行くのも考えものだ。

('A`)「レベルが足りずに問答無用で撲殺される、
   とか嫌だしな」

 たとえば初対面時のフサギコのような強烈さをもった強さの敵が
僕の前に立ちはだかるかもしれない。

('A`)「ちょうどあのように」

 僕の視線の先にはフサギコがフサフサと立っていた。


 何度目を擦って見ても、そこにいるのはフサギコだった。
近づき、殴ってみる。

『ドクオの攻撃! フサギコに25ポイントのダメージ!』
『フサギコの攻撃! ドクオに6ポイントのダメージ!』

『ドクオの攻撃! フサギコに25ポイントのダメージ!
 フサギコをやっつけた!』

('A`)「フサギコだ」

 確かにフサギコだ、と僕は何度も呟いた。
信じられないような気持ちだったが、
僕はしばらく自分が何を信じられないのかがわからなかった。

 やがて気づく。

('A`)「敵、強くならないんだ」

 帰りは楽勝じゃないか。
僕はそう思ったが、すぐに自分を戒める。

('A`)「油断するなドクオ。
   むやみに警戒を解いてはならない」


 アイテムはあるに越したことはないし、
ムキムキになっておくに越したことはない。
僕はそう考えると、地下4階の探索を開始した。

('A`)「フサギコ、フサギコ、ショボンヌ、フサギコ」

 僕は次々と敵をやっつけながら進んでいく。

('A`)「どうやら本当に強い敵はでてこないらしいな」

 そう呟き、僕は脳内マップを完成させていく。

 おそらく小部屋を1つ残すばかりというところまで
探索を終えたにもかかわらず、
地下4階ではミミタブシールドの他に何も拾えなかった。
既に上り階段は発見している。

('A`)「アイテムはでにくくなっているのかな。
   それにしても、それだけだとやはり楽勝なんじゃないのか?」

 ゲームバランスというものがあるんじゃないか、と
僕は畑違いな感想をもつ。
しかし、実際そうなのだからしょうがない。
そのままを受け入れるしかない。

 そんなことを考えながら最後の小部屋に入ると、
僕は前言を撤回することになった。

 そこには巨大な竜がいた。


('A`)「なんだこれ!」

 僕が思わず後ずさると、竜は口を大きく開け、
そこから火を吐いてきた。

『ラスボスーンは火を吐いた! ドクオに20ポイントのダメージ!』

('A`)「熱い! 痛い! なんだこれ!」

 僕がうめいたところで答えは返ってこない。
とりあえず通路の奥へと逃亡を図ると、
ラスボスーンは火を吐いては来なかった。

 僕はそのまま逃亡し、階段を上ることにした。

('A`)「三十六計逃げるに如かず。
   昔の人は良いことを言うね」

 逃げられるなら逃げてしまえば良い。

('A`)「本当に逃げられるのか?」

 そんな不安には気づかなかったことにして、僕は階段を駆け上がった。


 地下3階。僕の右手にはバールのようなもの+1、
左手にはタングステンシールド+1が握られている。

 上った先には火ー吹き草が落ちていた。

('A`)「これは、そうデザインされているのかもわからんね」

 僕はそう呟いた。
つまり、1フロアには上がった先にアイテムが落ちていて、
僕はそれ以外に帰りは何も手に入れられないのだ。

 だとすると、と考えた。

('A`)「このミミタブシールドはものすごい僥倖かもしれない」

 ミミタブシールドは火のダメージを半減する。
ラスボスーンの吐く火に対して有効なことは間違いない。

('A`)「ちょっと待て、僕はあいつと戦うつもりなのか?」

 逃げられるものなら逃げたいものである。
それでもあの名前も考えると、
何か強制力のようなものを感じずにはいられなかった。


 地下3階にでてくる敵はギコ猫・ちんぽっぽ・ビコーズである。
どれも恐れるには足らない。
僕は彼らをやっつけながら進んでいった。

('A`)「やはり、他にアイテムは落ちていないな」

 僕はそれを確信すると、階段の部屋を探すことに専念した。

 意外なことに、上り階段はすぐに見つかった。

('A`)「え。良いんだ」

 思わずそう呟いた。
上り階段は存在する。
先ほどそうであったように、これを上れば良いのだろう。
しかもラスボスーンからは逃げられないわけではない。

('A`)「ここは確認作業が必要だな」

 僕は脳内マップを完成させることにしたが、
未知の部屋に一歩足を踏み入れるやラスボスーンが居たので
尻尾を巻いて逃げだした。


 地下2階。僕の右手にはバールのようなもの+1、
左手にはタングステンシールド+1が握られている。

 上った先には救急草が落ちていた。
僕はラスボスーンの火にあぶられたダメージをその場で癒すと
階段探しの旅に出る。

 地下2階となるとビコーズさえも出てこなくなり、
愛くるしいギコ猫と卑猥なちんぽっぽを相手にするのみである。
僕は右手に黒光るバールのようなもので彼らの脳天を
1匹1匹かち割っていくと、やがて階段を発見した。

('A`)「階段だ」

 僕はそう呟いた。
これで上がれば地下1階。さらに上がればクリアである。

('A`)「こんなことで良いのか?」

 何か騙されていやしないか?
僕は自問自答したが、
目の前に連なる階段以上の説得力をもつ仮説を
思いつくことはできなかった。


 地下1階。僕の右手にはバールのようなもの+1、
左手にはタングステンシールド+1が握られている。

('A`)「やっぱりな」

 僕はそう呟いている。

 僕は上った先でわかってますの巻物を拾い、
2枚ある上おそらくもう二度とアイテムを手に入れることはなかろうと
いうことで、まだ装備していなかったミミタブシールドに読んでみた。

 ミミタブシールドはプラマイゼロで、呪われてもいなかった。

 僕は階段を求めて地下1階を探索したが、
明らかにラスボスーンの居る小部屋を1つ残して
階段はどこにも見つからなかったわけである。

 腹が減ってきた僕はタッパーから大きなうまい棒(めんたい味)を
食べると防具をミミタブシールドに持ち替え、
最後の小部屋に向かうことにした。


 小部屋にはラスボスーンがいた。
もう逃げられないんだな、と僕は呟く。
それならそれ相応の対処をするのみである。

('A`)「これまでに得た情報を元にして、
   セコセコと勝利第一主義で戦うぜ!」

 僕は何も勇者ではない。
勇者の右手にバールのようなものが握られている筈がない。

('A`)「つまり、僕は勇敢に戦う必要はないのだ」

 僕はラスボスーンが通路から放った矢に当たるような位置にくるように
行動すると、通路に逃げ出した。

('A`)「僕はやつが通路まで追ってこないことを知っている」

 できるだけ奥まで距離をとると、
僕はそこから小部屋に向かって矢を放った。

『ドクオの攻撃! ラスボスーンに12ポイントのダメージ!』

('A`)「よしよし、軸はずれてないな」

 僕は続いて火ー吹き草を飲み込んだ。


『ドクオは火ー吹き草を飲み込んだ! ラスボスーンには効かない!』

('A`)「効かないのか。
   ま、やつも火を吐けるくらいだし、
   それほど不思議なわけじゃないな」

 僕には火ー吹き草の他にも木の矢があと7本残っているし、
目ー潰し草ももっている。

 ダメージをできるだけ負わせた状態で
殴り合いに持ち込むことくらいしか僕にはできないし、
それでだめならしょうがないじゃないかと僕は開き直っていた。

 僕が矢を放つと、矢は通路沿いに飛んでいき、
しばらく経ってラスボスーンへ当たったことが感じられる。

『ドクオの攻撃! ラスボスーンに12ポイントのダメージ!』

 僕は再び矢を放つ。矢は通路沿いに飛んでいき、
しばらく経ってラスボスーンへ当たったことが感じられる。

『ドクオの攻撃! ラスボスーンに12ポイントのダメージ!』

 さっきより少しだけ、待つ時間が短くなってる気がした。


('A`)「ひょっとして、僕の思い違いなのか?」

 僕の背中を冷たい汗が流れる。
僕が矢を放つと、またしばらく経って、
ラスボスーンへ当たったことが感じられた。

『ドクオの攻撃! ラスボスーンに12ポイントのダメージ!』

('A`)「間違いない。
   少しずつだが、やつは僕に近寄って来ている!」

 できるだけの距離を置いたことは正解だった。
だからといって、僕のやるべきことは変わらない。
僕は次々に矢を放つ。

『ドクオの攻撃! ラスボスーンに12ポイントのダメージ!』

『ドクオの攻撃! ラスボスーンに12ポイントのダメージ!』

『ドクオの攻撃! ラスボスーンに12ポイントのダメージ!』

 木の矢が残り1本となったところで、
ついにラスボスーンが僕の前に姿を現した。


('A`)「火ー吹き草を飲まなければちょうど消化できたわけか」

 だがそんなことは関係ない。
僕はバールのようなものをしかと握り締めた。

『ドクオの攻撃! ラスボスーンに23ポイントのダメージ!』
『ラスボスーンの攻撃! ドクオに22ポイントのダメージ!』

('A`)「痛ぇ! ミミタブシールドは守備力が弱すぎる!」

 タングステンシールドに持ち替えるか?
そんな考えが僕に浮かぶ。

 しかし、と僕は考えた。

 この状況でタングステンシールドに持ち替えた場合、
その間に僕は1度ラスボスーンの攻撃を受けるわけである。
それが今のように僕を殴るものなら良いが、
仮に火を吐かれた場合、
むざむざと20ポイントのダメージを負うことになる。

 今の僕のHPは51ポイント。救急草があるとはいえ、
なかなか勇気の要る決断だ。


 結論からいうと、僕は装備変更を行った。
メリットの方がデメリットより大きいと判断したのだ。

『ドクオはタングステンシールド+1を装備した!』
『ラスボスーンの攻撃! ドクオに14ポイントのダメージ!』

 僕の行動は裏目にでた。
ミミタブシールドの特殊性で火のダメージは10ポイント削減されるが、
タングステンシールドの守備力でも殴られたダメージは
8ポイントしか減らないのである。
仮に火を吐く確率が半々であるならば、
僕の受けるダメージは期待値上増えている。

('A`)「その上僕は1発タダで殴られたわけだ。くそ!」

 実験が足りてない、と僕は自分を罵った。
盾の守備力によってどれだけ受けるダメージが変わるのかを
ちゃんとこれまでに調べていれば、
僕はこんなところで判断ミスはしていない筈なのだ。

('A`)「だが、だからといってまだ負けたわけじゃあない!」

 僕は叫び、自分にそう言い聞かせた。
そうしないとこれからする賭けに踏み切れそうにないからだ。


 僕は荷物から目ー潰し草を取り出した。

『ドクオは目ー潰し草を投げた! ラスボスーンは目が見えなくなった!』
『ラスボスーンは火を吐いた!』

 ラスボスーンの吐いた火は見当違いの方向へ飛んでいく。

('A`)「やれやれだぜ。
   こっちの賭けには勝ったようだな」

 僕はバールのようなものを握りしめる。

『ドクオの攻撃! ラスボスーンに23ポイントのダメージ!』

 ラスボスーンは見当違いの方向に爪を突き立てた。

『ドクオの攻撃! ラスボスーンに23ポイントのダメージ!』
『ラスボスーンの攻撃! ドクオに14ポイントのダメージ!』

('A`)「いたた! 当たることもあるわけね」

 僕の残りHPは23ポイント。
余裕のあるうちの回復しておいた方が良いだろう、と僕は判断した。

『ドクオは救急草を飲んだ! 50ポイント回復した!』
『ラスボスーンは火を吐いた!』


 僕はラスボスーンにどれほどのダメージを与えればやっつけられるのか
知らないが、『樹海』の終わりのようなものを確信していた。

('A`)「この状態で殴り勝てないようなデザインなら、
   それはデザインした側に問題があるに違いない」

 僕はそんなことさえ考えていた。

 ラスボスーンの繰り出す爪や吐き出す火は
ときどき僕に当たりはするけれど、
そのほとんどが見当違いな方向へ向かっている。

 僕はこの竜が哀れな存在にさえ見えていた。

('A`)「おそらくこいつらは、
   目を潰されたら8方向にランダムに攻撃するよう
   デザインされているのだろう」

 僕ならそうはしない、と呟いた。
僕なら一度攻撃が当たったらその方向に重点的に攻撃する。
攻撃が空振り移動を知ったら、そのときランダムに殴れば良い。

('A`)「こいつはデザインされたまま動いているだけなんだ」

『ドクオの攻撃! ラスボスーンに23ポイントのダメージ!
 ラスボスーンをやっつけた!』

 ファンファーレは鳴らない。
僕は小部屋に進み、階段を上って地上に出た。


 見渡す限り一面の草原の中、僕はひとり立っていた。
穏やかな風が吹いている。

 360度、草原以外に何もない。
僕が今上ってきた筈の階段さえどこにも見当たらない。

('A`)「はじめてここに来たときも、こうして僕は驚いた。
   僕が乗ってきた筈の電車や線路さえどこにも見当たらなかった」

 そして、と僕は回想する。

 やがて僕の前に女の子が現れた。

 彼女は赤いワンピースに身を包み、
ウェーブのかかった金髪をツインテールにまとめている。

ξ゚听)ξ「お疲れさま。
     ここまで来たのはあんたで5人目よ」

 ツンは僕にそう言った。

('A`)「5人目?」

ξ゚听)ξ「そう、5人目。
     あんたはあたしを解放してくれるのかしら」

('A`)「何だって?」


 気づくとツンは、僕からずいぶん離れたところに移動していた。

('A`)「この距離は…」

 『行動』6回分程度だ、と僕は思った。


 草原。僕の右手にはバールのようなもの+1が、
左手にはタングステンシールド+1が握られている。

 そしてツンの右手にはバールのようなもの+1が、
左手にはタングステンシールド+1が握られていた。

('A`)「ちょっと待て。どういうことなんだ」

 僕の疑問は『行動』6回分の距離を隔てたツンには届かない。
僕はそう思っていたのだが、ツンから答えが返ってきた。

 わかってるくせに、とツンは言う。

ξ゚ー゚)ξ「死ぬより他に『樹海』から出る方法はないのよ」

 あんたはあたしを解放してくれるのかしら。
聞こえる筈のないツンの呟きが、穏やかな風の中僕の耳に伝えられた。

          『生還』第八話へつづく。

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