('A`)は樹海行きの切符を買うようです
『第八話』
まずルールを説明するわ、とツンは言った。
ξ゚听)ξ「これからあたしたちは殺し合う。
あんたが勝てばあたしは解放されあんたは願いを叶えられ、
あたしが勝てばあんたはただ目覚めることになる。
そしてもう二度と『樹海』に来ることはない」
僕たちの立つ一帯はいつのまにか激しく隆起していて、
穏やかな風の吹く草原はどこにも見当たらなくなっている。
逃げることはできないの、とツンは言う。
ξ゚听)ξ「あんたとあたしは同じ条件で戦う。
同じレベル、同じステータス、同じ装備でね。
それらはあんたが基準になっていて、
それはあたしを見ればわかるわね」
待てよ、と僕は叫んだ。
('A`)「なんなんだよこれ! わけわかんねーよ!
今までのはいったい何だったんだ!」
ξ゚听)ξ「今までのはレシピ作りよ。
あたしもあんたと同じようにレシピを作られたわ。
そしてあたしはそのレシピ通りに今から戦うの」
自殺できないようにね、とツンは言った。
ξ゚听)ξ「レシピといえば料理の手順を連想するでしょうけど、
"recipe"の原義はちょっぴり違う。
『その通りにすれば必ずそうなるもの』みたいな感じかしら。
あんたのレシピはこの戦いの後に完成される。
それが書き換えられるのは、
唯一ここで誰かと戦って勝った場合だけ。
そして破棄されるのは負けた場合だけよ。
勝った場合、あんたは
あんたのレシピを持ってここで待つことになる」
解放されるのをよ、とツンは言う。
ξ゚听)ξ「質問はある?」
僕の口は言葉を発するのを忘れてしまったようだった。
でははじめましょう、とツンは言った。
・1ターン目
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■■ツ■■
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■■ド ■■
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ドクオ ツン
Eバールのようなもの+1 Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1 Eタングステンシールド+1
E1本の木の矢 E1本の木の矢
ミミタブシールド ミミタブシールド
お手当て草 お手当て草
火ー吹き草 火ー吹き草
わかってますの巻物 わかってますの巻物
タッパー(3) タッパー(3)
→大きなうまい棒 →大きなうまい棒
足踏みスイッチ 足踏みスイッチ
僕の耳はツンの言ったことを受け入れ、
僕の脳はツンの言ったことを解読したにもかかわらず、
僕の心には何も伝わってきていなかった。
僕が呆けたようにツンに歩み寄ると、
彼女から放たれた木の矢が僕の腹部に突き立った。
『ツンの攻撃! ドクオに12ポイントのダメージ!』
('A`)「くそ…本気なのか!」
うめくような声を出し、僕は木の矢を無理やり引っこ抜く。
僕の腹部から抜けた木の矢は僕の手の中で消え去った。
ジクジクと12ポイント分の痛みが僕の腹部を這いまわっている。
「本気なのよ」
その痛みは僕にそう伝えていた。
・2ターン目
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■■ツ■■
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■□□□■
■■ド ■■
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ドクオ ツン
Eバールのようなもの+1 Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1 Eタングステンシールド+1
E1本の木の矢
ミミタブシールド ミミタブシールド
お手当て草 お手当て草
火ー吹き草 火ー吹き草
わかってますの巻物 わかってますの巻物
タッパー(3) タッパー(3)
→大きなうまい棒 →大きなうまい棒
足踏みスイッチ 足踏みスイッチ
僕たちが『行動』を終えると、
一歩進んだ僕の背後のスペースが奈落へと崩れ落ちた。
('A`)「後退のネジは外して来いって?」
ξ゚听)ξ「そうよ。来なさい」
僕は渇く喉に唾液を送り、無理やり飲み込んだ。
砂のような味がする。
「知り合いを犠牲にするのは気が引けるもんだけど、
それでもあたしは解放されたら幸せよ」
そんなことを言われたな、と僕は思い出していた。
('A`)「知り合いを犠牲にするのは、僕の方なのか」
僕はそう呟いた。自分の願い事を叶えるために、だ。
そしてツンは誰かに殺されるのを待っている。
('A`)「僕にできるのか?」
僕は自問自答した。
できるわけがない、という答えが返ってくる。
('A`)「じゃあ、誰かにそれをやらせるのか?」
絶対嫌だ、という答えが返ってくる。
いったいどうすれば良いのだろう。
('A`)「どっちにしても、僕は後悔するんだな」
後悔するわよ、とツンに言われたことを思い出した。
確かに後悔するな、と僕は苦笑いを浮かべる。
なんせもう後悔しはじめている。
世の中には、知らない方が幸せなことや
関わらない方が幸せなことなどいくらでもあるのだ。
それではどちらの方がマシなのだろう。
僕はそれを考えた。
ツンはいずれ殺されなければならないし、殺されるのを待っている。
しかし僕はツンを殺したくないし、誰にも殺されて欲しくない。
('A`)「僕はツンに永遠にここにいろと言っているのか?」
そうだ、と僕は思った。
それが僕にとって一番心地よい選択である。
しかし、それではだめなのだ。
('A`)「ツン! お前は解放して欲しいんだな!」
僕は肺に挑むようにありったけの声を出した。
そうよ、とツンから答えが返ってくる。
ξ゚听)ξ「あんたも自分が言ったことに責任持ちなさい!」
心を決め、僕はツンに向かって木の矢を放つ。
ツンは斜め前に移動しそれを回避した。
・3ターン目
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■■■ツ■
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■■ド ■■
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ドクオ ツン
Eバールのようなもの+1 Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1 Eタングステンシールド+1
ミミタブシールド ミミタブシールド
お手当て草 お手当て草
火ー吹き草 火ー吹き草
わかってますの巻物 わかってますの巻物
タッパー(3) タッパー(3)
→大きなうまい棒 →大きなうまい棒
足踏みスイッチ 足踏みスイッチ
('A`)「なッ!」
木の矢が避けられたことに僕は驚いていた。
そして思い当たる。
これはデザインされた通りに動く敵たちとの戦いではなく、
僕と同じように何度も死にながら探検を繰り返し、
やがて『樹海』を突破し前任者を殺したツンとの戦いなのだ。
そして、僕たちと同様『樹海』を突破した者を
彼女は4人連続で殺しているのだ。
('A`)「こんな安直な攻めが通用するわけがなかったんだ!」
僕は奥歯を噛み締める。
改めて考えると、
僕が安易に食らった12ポイントのダメージはいかにも大きかった。
装備が同じで持ち物も同じである以上、
1ポイントのダメージの差は何かしらの方法で
相手を出し抜かない限り埋められない。
つまり、と僕は結論づける。
('A`)「このまま接近して殴り合いになったら僕の負けだ」
僕が軸をあわせようと斜め前に歩を進めると、
ツンの口から火が吐き出されるのが見えた。
『ツンは火ー吹き草を飲んだ! ドクオに25ポイントのダメージ!』
・4ターン目
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■■■ツ■
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■□□□■
■■■ド ■
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ドクオ ツン
Eバールのようなもの+1 Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1 Eタングステンシールド+1
ミミタブシールド ミミタブシールド
お手当て草 お手当て草
火ー吹き草
わかってますの巻物 わかってますの巻物
タッパー(3) タッパー(3)
→大きなうまい棒 →大きなうまい棒
足踏みスイッチ 足踏みスイッチ
('A`)「やられた!」
お前は馬鹿か、と僕は何度も自分を罵倒した。
しかし、僕が自分を呪ったところで状況は何ら変わらない。
僕は状況を確認した。
木の矢と火ー吹き草のダメージのせいで、
僕は37ポイントものビハインドを背負っている。
僕には遠距離攻撃の手段として火ー吹き草があるけれど、
木の矢を避けたときのように斜めに進まれれば
僕の吐く火はツンには当たらない。
遠距離攻撃の手段をなくしたツンは、
ただジグザグと近寄り肉弾戦に持ち込めば良いのだ。
('A`)「絶望的だ」
状況を分析すればするほど僕に勝ち目はないように思われた。
僕にできることはなんとかして確実に火ー吹き草を
ツンに当て、ツンの空振りか僕の会心の一撃を期待し
肉弾戦にもちこむことのみである。
('A`)「どれだけ可能性が小さかろうが、
僕はそれに賭けるしかない」
そう思った。
なんとか最善手を打ちつづけ、あちらの失着を期待するより他にない。
情けないことだけれど、可能性が小さいということは
ゼロではないということでもある。
('A`)「もっとも、
それも僕が勝手に言ってるだけかもしれないけどな」
僕はそう呟いたが、同時にこう考えもした。
僕が無い知恵絞って考えたとして、それで負けるなら
それはそれでしょうがないじゃないか、と。
('A`)「つまり、目の前だけ見てれば良いんだ。
僕は考え得る最善の行動をとる。
その結果までは僕の知ったことではない」
そう思わなければ心が折れてしまいそうだった。
ツンに遠距離攻撃の手段はもはやない。
火を吐くか?
そう考えもしたけれど、僕は今のうちに回復しておくことにした。
『ツンはミミタブシールドを装備した!』
『ドクオはお手当て草を飲んだ! 25ポイント回復した!』
・5ターン目
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■■■ツ■
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■■■ド ■
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ドクオ ツン
Eバールのようなもの+1 Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1 Eミミタブシールド
ミミタブシールド タングステンシールド+1
お手当て草
火ー吹き草
わかってますの巻物 わかってますの巻物
タッパー(3) タッパー(3)
→大きなうまい棒 →大きなうまい棒
足踏みスイッチ 足踏みスイッチ
完全に後手後手に回っているな、と僕はため息をついた。
('A`)「おそらくツンは十分な実験をこなしているに違いない」
つまり、タングステンシールドとミミタブシールドの
守備力の違いによるダメージの差、
そしてミミタブシールドの特殊能力による
火のダメージの軽減を把握しているのだろう。
僕はツンと隣接するまでに火ー吹き草を飲まなければならない。
隣接してからでは遠距離攻撃の意味がないからだ。
それをわかっているからツンはミミタブシールドに装備を替えている。
火ー吹き草は通常25ポイントのダメージを与えられるが、
そのダメージはミミタブシールドによって半減される。
おまけに彼女がどう動くか読み切らなければ、
その半減したダメージさえ与えられない。
('A`)「おそらくツンは斜め前に移動することだろう」
受けるダメージはゼロにするのが望ましいからだ。
つまり、僕も斜め前に移動しツンと『行動』1回分をおいてて対峙し、
次のターンに彼女が前方3方向のいずれに移動するか予測して
そこに火を吐く必要があるというわけだ。
ツンのこれからの行動は手にとるように読めるのに、
僕にはそれに抗う術がないように思われる。
僕は自分の無力さがもどかしかった。
('A`)「この戦いは、1ターン目が勝負だったんだ」
そう思った。
1ターン目に僕が火ー吹き草を飲んでいれば、
僕は逆にアドバンテージをもった形でツンと対峙していたことだろう。
('A`)「しかし、それは現実的ではない」
1ターン目から火ー吹き草を飲むのはギャンブル性が大きすぎる。
相手が斜め前に進んだ場合、
最大の遠距離攻撃の手段を失う結果になるからだ。
つまり、と僕は考える。
('A`)「木の矢を打つくらいが妥当なところだった。
僕は何も考えず、ただそれを食らったわけだ」
ツンは『妥当なところ』を冷静に実行した。
僕にはそれができなかった。
それが勝負を分けるんだ、と僕は呟いた。
詰みの形を作られながらも決して投了しない子供のように、
僕は斜め前に一歩進む。
僕はツンと『行動』1回分の距離を隔てて対峙した。
・6ターン目
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■■ツ■■
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■■ド ■■
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ドクオ ツン
Eバールのようなもの+1 Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1 Eミミタブシールド
ミミタブシールド タングステンシールド+1
お手当て草
火ー吹き草
わかってますの巻物 わかってますの巻物
タッパー(3) タッパー(3)
→大きなうまい棒 →大きなうまい棒
足踏みスイッチ 足踏みスイッチ
何かの拍子に落ちてしまいそうなほどに狭められた足場の上、
吹き上げてくる風がツンの髪を揺らしている。
僕たちはしばらく無言で向き合っていた。
('A`)「もうすぐ終わる」
僕がそう呟くと、ツンは静かに頷いた。
('A`)「ツンの考えでは、
僕がここから逆転することはあり得るのかな」
ξ゚听)ξ「はっきり言って、ないわね。
この戦いは互いの装備が同じである以上、
いかに遠距離の攻防を制するかがキモなのよ」
僕はツンの言葉にどこか引っかかりのようなものを感じていた。
それが何なのかわからず黙りこむ。
あんたはがんばったわ、とツンは僕を慰めた。
ξ゚听)ξ「あたしは『樹海』であらゆる実験を繰り返した。
そして完全な理論を組み立て、対人戦も経験している。
そんなあたしに勝てる筈がないのよ」
奇跡でも起こらない限りね、とツンは言う。
僕は目を瞑り、思考の海に飛び込んだ。
考えろ考えろマクガイバー。
僕は自分にそう言い聞かせ、深く深く進んでいく。
僕は自分の状況、ツンの状況、
そしてこれまでのツンの行動を思い浮かべ、考える。
('A`)「本当にそうか?」
やがて思考の海から引き上げると、
僕はツンの目を見て問いかけた。
('A`)「完全な理論なんてものはこの世には存在しない。
もしツンがそれを完全な理論だと思っているなら、
それはただの思考停止に他ならない」
僕が彼女にそう言うと、ツンは僕を睨みつけた。
ξ゚听)ξ「だったらそれを証明してみせなさい」
('A`)「もちろんだ」
奇跡を起こしてやるよ、と僕は言った。
ツンはあらゆる実験を繰り返したと言っていた。
そしてツンのレシピはその経験に基づいて作られたものである。
つまり、ツンはきちんと期待値計算をできているのだろう。
('A`)「あのときの僕のような判断ミスなどしないのだ」
僕はそう考えた。
まず、3分の1の確率だ。
これに成功すれば僕の勝利は確定する。
しかし、成功しなかったとしても、
これまでのツンの行動と今の状況を考えるに
僕の勝率は5割を下回らないことだろう。
僕の計算ではそうだった。
奇跡の起こる確率にしては高すぎる。
('A`)「僕はツンを殺す。そして解放する」
僕は自分の意志を確認すると、正面に向かって右手を振り払う。
ツンは斜めに進み、攻撃に当たることなく僕と隣接した。
・7ターン目
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■ツ■■■
■■ド ■■
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ドクオ ツン
Eバールのようなもの+1 Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1 Eミミタブシールド
ミミタブシールド タングステンシールド+1
お手当て草
火ー吹き草
わかってますの巻物 わかってますの巻物
タッパー(3) タッパー(3)
→大きなうまい棒 →大きなうまい棒
足踏みスイッチ 足踏みスイッチ
ξ゚听)ξ「残念だったわね。
3割バッターは7割凡退するのよ。
それがあんたの言う奇跡だったのかしら」
('A`)「もちろん違う。
奇跡というより、ツンの理論の穴だな。
この状況においてそれは、
すでに塞がらない大きさになっている」
ξ゚听)ξ「どこに穴があるっていうのよ!」
落ち着けよ、と僕は言った。
自分の理論に対する自信とプライドがそうさせるのだろうが、
ツンは興奮しすぎている。
('A`)「実験は十分に行ったんだよな?」
ξ゚听)ξ「もちろんよ! 期待値計算もすべてできてるわ」
ツンの穴はそれだよ、と僕は言った。
('A`)「条件付き確率と期待値計算だ。
数学なんて大嫌いだ」
僕はラスボスーンとの戦いを振り返る。
僕がタングステンシールドを装備しているとき、
ラスボスーンの攻撃によって受けるダメージは14ポイントだった。
火によるダメージは20ポイントだ。
そしてミミタブシールドを装備しているとき、
攻撃によって受けるダメージは22ポイント、
火によるダメージは10ポイントだった。
つまり、それぞれ2分の1の確率で行われるとすると、
タングステンシールド装備時に受けるダメージの期待値は17ポイント、
ミミタブシールド装備時に受けるダメージの期待値は16ポイントとなり
ミミタブシールドを装備することが賢い選択となる。
今の僕たちの状況を考えると、
火ー吹き草によるダメージは通常25ポイントなので、
盾の守備力によるダメージの差が8ポイントである以上、
同じ理由でミミタブシールドを装備することが賢い選択となる。
('A`)「ツンは僕に遠距離攻撃を2度ともベストな形で成功している。
それに対して僕は1度も成功させられていない。
もはや僕たちは隣接しているのだから、
計算上僕に勝ち目はない」
ξ゚听)ξ「それでもあんたは勝てるって言うの?」
('A`)「"Exactly"」
その通りでございます、と僕は言った。
('A`)「ツンが僕に勝てるとしたら、
それは僕が火ー吹き草を飲むまで接近しないことだった。
あるいはタングステンシールドのままで
突っ込んでくれば良かったんだ。
そうすれば木の矢12ポイントの差は僕には埋められない」
ツンのレシピは完全な勝利を求めすぎている。
勝利条件は相手のHPをゼロにすることであって、
それさえ満たせば他はどうでも良いのだ。
ツンは僕の言葉で気づいたようで、
自分の左手に握られているミミタブシールドを睨みつけた。
('A`)「僕は簡単に心変わりする不安定な人間だ。
僕の行う行動は、同様に確からしいとは限らない」
覚悟はいいか? 俺はできてる。
僕はツンにそう言うと、バールのようなものを握る右手に力を込めた。
『ツンの攻撃! ドクオに15ポイントのダメージ!』
『ドクオの攻撃! ツンに23ポイントのダメージ!』
・8ターン目
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■■■■■
■■■■■
■■■■■
■ツ■■■
■■ド ■■
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ドクオ ツン
Eバールのようなもの+1 Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1 Eミミタブシールド
ミミタブシールド タングステンシールド+1
お手当て草
火ー吹き草
わかってますの巻物 わかってますの巻物
タッパー(3) タッパー(3)
→大きなうまい棒 →大きなうまい棒
足踏みスイッチ 足踏みスイッチ
とめどなく吹き上げてくる風の中、
僕とツンはわずかばかりの足場の上にいる。
女の子たちがブーツを履くような季節になっているにもかかわらず、
僕はツンを解放させられていなかった。
しかし、それももうじき終わる。
僕は大きくひとつ息を吐く。
仮に今のターンでツンが装備を
タングステンシールドに変更するようなことがあったなら、
僕が火ー吹き草をいつ飲むかの駆け引きに突入していた。
ツンがタングステンシールドを装備している間に火を吐ければ
僕の勝ち、僕が火を吐くタイミングでミミタブシールドを装備できれば
ツンの勝ちとなっていた筈だった。
しかし、ツンのレシピの完全さは、そんな駆け引きの余地を許さない。
そしてだからこそ、彼女はそれに縛られるのだ。
ツンはその大きな目を真っ赤にし、そこに涙を浮かべていた。
唇を噛みしめ僕を睨みつけている。
('A`)「悔しいのか?」
僕は彼女にそう訊いた。
ツンは僕の問いかけに答えない。
ξ゚听)ξ「悔しいわ」
ツンはやがて、猫が毛玉を吐き出すようにそう言った。
ξ゚听)ξ「悔しい。すごく悔しい。
あたしが今あんたに対して感謝するべきだっていうことは
誰よりわかってるんだけど、
そんなことはどうでも良いくらいに悔しいわ」
あたしの理論は完全だった筈なのに、とツンは目を閉じ、
そこから涙が溢れるのをこらえている。
('A`)「あるいは完全な理論だったのかもしれない。
ただ、必ずしも最善の行動が最良の結果を生むとは限らないんだ」
科学の悲劇は美しい仮定が
醜い現実によって打ち砕かれるところにある。
僕はそんな言葉を思い出していた。
ツンは優秀な科学者になる素質をもっているに違いない。
僕にはどうやらなさそうだ。
僕はツンに向かって右手を振った。
『ツンの攻撃! ドクオに15ポイントのダメージ!』
『ドクオの攻撃! ツンに23ポイントのダメージ!』
・9ターン目
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■ツ■■■
■■ド ■■
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ドクオ ツン
Eバールのようなもの+1 Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1 Eミミタブシールド
ミミタブシールド タングステンシールド+1
お手当て草
火ー吹き草
わかってますの巻物 わかってますの巻物
タッパー(3) タッパー(3)
→大きなうまい棒 →大きなうまい棒
足踏みスイッチ 足踏みスイッチ
詰みだよ、と僕は言った。
('A`)「これでもう、装備変更を行ったところで駆け引きの要素は
生じなくなった」
おそらくはね、とツンは頷く。
大きくひとつ息を吐くと、だいぶ落ち着いたようだった。
ξ゚听)ξ「あんたはクラックよ」
そして彼女はそう言った。
('A`)「クラック?」
ξ゚听)ξ「"crack"、『叩き割る』。
凍りついた局面を打ち砕いてしまうような名選手のことを、
サッカーにおいてはそう呼ぶの」
('A`)「打ち砕けたのかな」
おそらくはね、とツンは微笑んだ。
ξ゚ー゚)ξ「終わらせてちょうだい」
僕は頷いた。
『ツンはお手当て草を飲んだ! 25ポイント回復した!』
『ドクオの攻撃! ツンに23ポイントのダメージ!』
・10ターン目
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■ツ■■■
■■ド ■■
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ドクオ ツン
Eバールのようなもの+1 Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1 Eミミタブシールド
ミミタブシールド タングステンシールド+1
火ー吹き草
わかってますの巻物 わかってますの巻物
タッパー(3) タッパー(3)
→大きなうまい棒 →大きなうまい棒
足踏みスイッチ 足踏みスイッチ
あたしのレシピは実にデキが良い、とツンは愉快そうに言った。
ξ゚ー゚)ξ「とっても冷静。もう勝ち目はないのにね」
('A`)「そうだね。このまま2回殴ればツンは死ぬ。
僕はわずか1ポイントを残して生き長らえることになる」
相討ちになったらどうなってたのかな、と僕は訊いた。
ξ゚听)ξ「相討ちはあたしの勝ちよ。
引き分けだったらチャンピオンベルトは移動しないでしょ」
('A`)「チャンピオンなんだ?」
ξ゚听)ξ「4回防衛のね」
('A`)「ベテランだな」
ξ゚听)ξ「同じ条件で戦うんだから、
2分の1で負けそうなもんなんだけどね」
あたしのレシピはとってもデキが良かったの。
ツンは誇らしげにそう言った。
『ツンの攻撃! ドクオに15ポイントのダメージ!』
『ドクオの攻撃! ツンに23ポイントのダメージ!』
・11ターン目
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■■ド ■■
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ドクオ ツン
Eバールのようなもの+1 Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1 Eミミタブシールド
ミミタブシールド タングステンシールド+1
火ー吹き草
わかってますの巻物 わかってますの巻物
タッパー(3) タッパー(3)
→大きなうまい棒 →大きなうまい棒
足踏みスイッチ 足踏みスイッチ
ξ゚听)ξ「何か言い残したことはある?」
ツンは僕にそう訊いた。
僕はそれを聞いた瞬間、思わず吹きだしてしまった。
('A`)「そういうのは、普通、殺す側が訊くものだと思うけど」
そうね、とツンは笑った。
ξ゚ー゚)ξ「でも、あらゆるものには例外が存在するじゃない?
完全な理論にも穴はあるんだし」
('A`)「確かにね」
ξ゚听)ξ「で、あるの?」
('A`)「うん。実はある」
訊きたいことと言いたいことが1つずつ残ってる。
僕はツンにそう言った。
('A`)「どっちが先が良い?」
ξ゚听)ξ「じゃ、先に言ってちょうだい。
そのあと訊かれたら答えるわ」
僕は頷き、深呼吸して口を開いた。
('A`)「僕はどうやら、ツンのことが好きみたいだ」
そう、とツンはニヤついた。
ξ゚ー゚)ξ「言っちゃうんだ?」
('A`)「うん。言っちゃうんだ」
ξ゚ー゚)ξ「あたしはブーンの恋人なのに?」
('A`)「そして僕はブーンの友達なのにね」
トラブルを起こしたいわけじゃないんだ、と僕は言った。
('A`)「僕はブーンの友達をやめるつもりはないし、
ツンを奪いたいわけじゃない。
ただツンのことが好きなんだ。それを言っておきたかった。
そうすることによって、
僕はふんぎりのようなものをつけられると思うんだ」
都合の良いことに、ツンの記憶は消されるらしいしね。
僕は彼女にそう言った。
奈落から吹き上げる風が僕たちのことを撫でている。
ツンはなおもニヤついていた。
ξ゚ー゚)ξ「そういうのってさ、ちょっとズルいと思わない?」
あたしはズルいのは嫌いだな、といたずらっぽくツンは笑う。
('A`)「うん。僕はズルいんだ。
ズルいし、自分勝手だ。完全な理論も覆す。
なにしろ僕には納得が必要だからね。文句ある?」
ないわ、とツンは言った。
ξ゚ー゚)ξ「納得はすべてに優先するって
あの人も言ってるらしいしね」
ていうかあの人っていったい誰なのよ。
ツンがそう訊いたので、僕は少しだけ回転使いの話をした。
ξ゚听)ξ「で、訊きたいことは何?」
('A`)「うん。つまらないことかもしれないけど良いかな」
ξ゚听)ξ「何今更遠慮してんのよ。馬鹿じゃないの?」
そうだね、と僕は言った。
僕は馬鹿なのかもしれない。
なんせ、おそらく小学校低学年のときから今の今まで
こんなつまらないことを気にしているのだ。
('A`)「攻撃的なポジションの選手は
ドリブルができないとだめだと思う?」
しばらく時間を置いた後、僕はツンにそう訊いた。
そんなことを訊かれるとは思ってもいなかったのだろう。
虚をつかれたような表情で、ツンはまじまじと僕の顔を見つめている。
やがて僕を眺めることに飽きてしまうと、
あんた馬鹿なんじゃないの、と本当に馬鹿にした様子でツンは言った。
ξ゚听)ξ「そんなわけないじゃない。誰がそんなこと決めたのよ」
ツンの口調には憤りのようなものさえ感じられて、
それがいっそう僕を爽やかな気分にさせてくれる。
だよね、と僕は何度も頷いた。
ξ゚听)ξ「じゃ、そろそろ終わりにしましょ。
あんたは慣れてるかもしれないけどね、
あたしは死にそうなほどの痛みにずっと耐えてんのよ」
そうだね、と僕は言った。
ξ゚听)ξ「じゃ、またね」
また今度。ツンは何でもないことのようにそう言った。
その口調はいかにも軽く、僕は微笑まざるを得なかった。
僕は大きくひとつ息を吐く。
『ツンの攻撃! ドクオに15ポイントのダメージ!』
『ドクオの攻撃! ツンに23ポイントのダメージ!
ツンをやっつけた!』
その場に崩れ落ちたツンの体が光の粒子となって消えていく。
僕はそれに触れようと手を伸ばしたが、
それらはあまりに早く風の中に散ってしまう。
('A`)「…遠いよ」
雲ひとつない青空の下、僕はひとり呟いた。
『ツンを撲殺』エピローグへつづく
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