ブーンがシリアルキラーになったようです。
3、胡蝶之夢
もう喰っちまったよ。
―――アンドレイ・チカチーロ
子供ばかり、56人も殺した連続殺人犯。
上の台詞は、公判中に被害者の母親の「息子を返せ」という叫びに対して。
それから、その日の学校ではこれといって特筆すべき事が起きたわけではない。
教室に戻ると、ツンは何時もの顔に戻っていたし、屋上で僕が喋った事を誰かに言ったわけでも無いようだった。
午後の授業は何事も無く終わった。
放課後、僕は学校の部活動を覗いて回った。
何か打ち込めることを見つければ、あのわけのわからない衝動も無くなるだろうと思っていたのだが、
そう考えた次の瞬間に人を刺してしまった事を考えると、そういう問題でも無いようだ。
どうやら、事は「ストレスの発散」だとか「打ち込めることを見つけて誤魔化す」とか、そういう段階はすでに超えているらしい。
面倒だが、父の言うとおり、どこの部活動にも所属していないというのは、体裁があまりよろしくない。
内申にも響くかもしれない。面倒だ。
だから僕はできるだけ運動部を避け、文科系の幽霊部員でも許されそうな、できるだけまともな活動の指定無い部活を探した。
まだ一年の僕等が部活動の見学をするのは珍しい事ではなかったので、大抵の部活は快く見学させてくれた。
途中でそれぞれの部活に所属している知り合いから話を聞きながら、僕は条件を満たした部活を探した。
丁度いい部活はすぐに見つかった。
部室棟の最上階である三階、その一番隅の教室にひっそりと存在する部活。
扉の前には「文芸部」の張り紙。
この学校には文学系の部活が二つある。
文学部と文芸部だ。
前者は創作活動を主にしているが、後者はただ読書するだけ。
創作活動どころか書評なども書かない、ただ本を読むだけの部活。
自然、真面目な部員は少なく、部員の殆どが幽霊部員だという。
僕は軽く扉をノックすると、部屋の中に入る。
部室の奥には夕日が映る窓と少し古いデスクトップパソコン。そしてそれ以外、扉と窓以外の部屋の壁を並べられた本棚が隠している。
四方を本棚に囲まれた八畳程の部室の中心には大きな机と、それを囲むように椅子が八つ。
しかし、八つの椅子の中で塞がれているのは一つだけ。
その一つに座った少女―――1年の間では見たことが無いから先輩だろう―――が読んでいた本から顔を上げて僕を見た。
腰まで伸びた長い髪と、透き通るように白い肌の彼女がやけに落ち着いた声で話しかけてきた。
「ん・・・、新しく入った一年の子?」
彼女は僕の方を見ると、そう問うてきた。
「違いますお。入部希望なんですが・・・」
「ああ、入部希望ね。すまないね。入部してから未だに一回も着てない子も居るから、まだ一年生の顔は覚えていなかったんだ。」
「はあ・・・。」
「はい、これ、入部届け。とりあえず、うちの顧問は水沢先生だから、君の担任と彼にサインを貰って提出するように。」
「あ、ありがとうございますお。」
僕は入部届けを受け取る。
本来は職員室においてあるものだが、この次期は部活を決めあぐねていた一年生が遅れて入部する、ということもあるので、大抵の部活がその場で新入生に入部届けを渡せるように、部長のサインの入ったものをあらかじめ数枚持っている。
僕はその場で自分の名前を書き込む。
「内藤ホライゾン?変わった名前だね。」
「よく言われますお。」
「気を悪くしたかな?だとしたらすまないね。私は部長の佐伯美鈴。これからよろしく。」
「いえ、こちらこそよろしくですお。」
軽く挨拶してくる佐伯部長に、僕は会釈を返す。
「どうする?今日から部活に参加することもできるけど?」
と言っても本を読む事ぐらいしかする事が無いけどね、と言って部長は笑った。
大人びた雰囲気をもっているのに、どこか子供っぽい笑い方。
「じゃあ、少し読んでいきますお。」
僕は周囲の本棚を見回した。
洋書や日本文学、その中でも推理小説や子供向けの童話、学術書に翻訳されていない英語の洋書等、脈絡無く本が並べられていた。
百冊や二百冊ではきかない数の本がびっしりと本棚を埋め尽くしている。
その中で明らかに異質な本棚を見つけた。
僕の視線がその本棚でとまる。
「ああ、それかい。それは私の愛読書達をあつめた棚だよ。読みたければ好きにしなよ。」
大抵その棚を見た人は君みたいな反応を返すね、と部長は言った。
その本には「完全自殺マニュアル」やら「徹底自殺者」だの「人を殺す百の方法」だの、やけに暗いタイトルの本が並べられている。
別の本棚から本を選んでも良かったが、「どの本を選ぶのかな?」とでも言いたげな、期待に満ちたまなざしを向けてくる部長を見ると、とてもじゃないが別の本棚の前へ移動する事などできなかった。
「じゃあこれを・・・。」
僕は仕方なく、本棚のなかから一番無難そうな本、「人間の臓器」というタイトルの分厚い本を取り出す。
医学書っぽいので手にり、適当なページを開いてみたのだが・・・・・・・・・。
「内藤君、君、お目が高いね。それは人間の臓器の事ならあちこちの国での”相場”から素手での臓器の傷つけ方まで―――」
それを聞いて僕はなんだか目の前が少し暗くなったような気がした。
”相場”とは何の事だろうか。少し聞きたいような気もしたが、だいたい想像がついたのでやめた。
軽く本に目を落とす。適当に開いたページには「三年殺しは実在するのか!!?」という大きな文字と共に、「臓器や骨を損傷させ、即座にではなく、三年後に殺す事は可能なのか」などという論議が延々と続けられていた。
手にとってしまった手前、本棚に戻す事もできず、嬉しそうに僕の読書する様を眺める部長の視線をうけつつもゆっくりと読んでいった。
案の定、部活終了時刻を告げる鐘の音と共に、部長に感想を聞かされた。
なんと言ったかはよく覚えていない。
先輩があの大人っぽい雰囲気に似合わない、子供のような笑顔を絶やさなかったところを見ると、僕はちゃんと返事をする事ができたようだ。
その日の夜。
僕は夜のあの道を歩いていた。
彼女の首をかき切ったあの道。
毎晩夢で見るあの道。
「・・・・・・・・・・・・。」
彼女の夢を見るようになって二週間が過ぎた。
僕はもう夢の中で14回彼女を殺している。
夢の中でのことは全て鮮明に覚えている。
だが、僕がどうしても思い出せない夢があった。
彼女を殺す前の日に見た、男を殺す妙な夢だ。
夢の中で男を殺したのは覚えている。
だが、その男の容姿が、霧がかかったようにぼんやりとしていて思い出せない。
何故だか僕にはそのことがやけに気にかかった。
それにしても、あの夢のせいかだんだんと現実と夢の区別がつかなくなってきた。
僕は彼女しか殺して無いはずだ。
オッサンのときもやばかったとは言え、殺しては居ない。
なのに、僕の頭はもう15人殺したと認識している。
彼女と、夢の中で殺した14人の彼女。
あの夢は僕の殺人への忌避感や常識を麻痺させるために僕自身の欲求が見せたものなのだろうか。
だとしたら、ヤバイ。
夢のせいで、僕は毎晩ふらふらと歩き回っている。
そのうち、夢の中での事を実際にやりかねない。
そんなことを考えていると、突然横合いから手が伸びてきて、僕を路地裏へと引きずり込んだ。
夜のこの道は人通りが少なく、僕が路地裏に倒れこむところを見ている人間は居ない。
おそらくこの手の持ち主もそれを計算して、僕を引っ張ったのだろう。
しばらく路地裏の奥へと引きずられて、何事かと顔を上げたところで殴られた。
右の頬を殴られたと思ったら、背中にも衝撃。つま先が僕の背中にめり込んでいた。
だが僕は抵抗しない。
これが夢なのか現実なのか、区別がつかなくなっていた。
この痛みすらも夢の中の事のように思える。
「なにコイツ、全然テーコーしねえジャン。」
「なんかヤバいビョーキなンじゃね?」
「病気だろうとなンだろうとかまわねェよ。」
「なー、もう帰ろォぜ。『ホーリーランド』始まっちゃうって。」
薬でもやってるのだろうか、聞こえてくる声の抑揚はおかしい。
肩を蹴り上げられて、僕が仰向けになると、僕の視界に四つの人影が入った。
全員が体のどこかに白い色の衣服やキャップ、バンダナを纏っている。
カラーギャング気取りか。アホか。何年前の人間だお前等は。
彼らの中には鉄パイプやらナイフやらを持っているのも居たが、特に恐怖はわかなかった。
僕が最初に感じたのは「ああ、チーマーって地方以外にもまだ現存してたんだ」という事だけだった。
時代の流れに迎合しない、絶滅危惧種な彼らに乾杯。
「なあ、もォいいだろ?今日二人目ジャン。」
「ア?全然足りねーよ。コイツもぶっ殺してやる。」
「お前、パチスロで五万負けたからってカリカリすンなよ。」
「つーかお前バカじゃん?なンで五万もスっちゃうの?」
「オレ等もォ帰るぜ。」
「勝手に帰ってろ。オレぁ一人でもコイツ殺すぜ。」
「はいはい。」
そう言って四人のうち三人が路地裏から出て行った。
とりあえず、彼らの会話からピンと来た事がある。
コイツ等はきっと、最近ここら辺で騒がれてる、集団暴行グループだろう。
鈍器や刃物で対象を痛めつけてから金目の物を奪う、「集団リンチ強盗」とかなんとか呼ばれて騒がれてる連中だ。
被害者はわかってるだけで15人。そのうち死者が3人。
その時、僕の顔を影が覆った。
残った一人が手にした鉄パイプを高く掲げて、倒れている僕に近づいてきたのだ。
「恨むンならこンな時間にここをウロついてた自分自身を恨めよ。」
ああ、これは夢だ。
だって、今時カラーギャングなんて都民に居るわけ無いし。
そうだ、夢だったんだ。
夢なら―――
―――何したって構わないはずだ。
やってしまった。
僕の腕は、想像していた通りに動いた。
彼女を殺したときと同様に。
気づいた時には、僕の手には血に塗れたメスが握られ、足元には首元を押さえた男が倒れている。
首の動脈から噴水のように噴き出る血をなんとか止めようと、手で押さえていたのだろう。
結局、数分間転げまわって失血死した。
陸揚げされた魚や、鉄板の上で踊る海老みたいで面白くて、ひとしきり笑ったのをかすかに覚えている。
ランナーズハイならぬ、マーダーズハイとでも言ったところか。興奮していて自分が何をしたのかあまり覚えていない。
そのマーダーズハイの余韻だけが残り、体全体が火照っているような、奇妙な感覚があった。
今ならなんだってできる。今自分は世界の中心にいるのではないか。
そんな錯覚さえあった。
しかし、そんな心地よい錯覚はあっけなく崩されてしまった。
「なあ、あんた。そいつ喰わねえんならオレにくれねえか?」
肩越しに声をかけられて初めて我に帰った。
少し甲高い感じのする、しかしやたらと暗い印象のみを与える声だった。
まるで、周囲の暗闇をそのまま声にしたかのような・・・。
「・・・・・・・・・・・・ッ!」
僕は慌てて振り返る。
「なあって。聞いてんだろ?そいつの喰わねえんなら、オレにくれよ。」
振り返った先に居たのは、やたらと昏い瞳をした、やや猫背気味の少年だった。
いや、少年などではない。ガキにこの男のような、まるで此の世の絶望の全てを詰め込んだかのような瞳はできない。
やや小柄なのと童顔が相まって中学生くらいに見えるが、おそらく年の頃は僕よりも年上、18か19と言ったところだろう。
男は少々痩せている感のある体躯の両腕、肘から先を血で朱に染めている。
そして、左手には鉈を握っている。2,3サイズは大きいブカブカのフードつきトレーナーと動きやすそうなチノパンを穿いているが、鉈も服も血まみれだ。
男の顔の上で、地の底まで続く穴が開いたかのように昏い、闇で塗りつぶしたような色の瞳が圧倒的な存在感を放っている。
まるでその黒い瞳孔から闇が溢れ出しているのかと思えるほどの威圧感が僕を襲う。
それに抗うように男の瞳を睨むと、その視線と男の視線が交錯した。
僕の体が金縛りにあったように動かなくなる。
―――こいつは、”異質”だ。
そう思った瞬間、僕は咄嗟に視線を男の目からそらした。
心中で、先ほど感じていた錯覚の矮小さ、愚かさに恥じ入る。
目の前の男はあまりにも”はずれ”すぎていた。あらゆる物から。
「おい、聞こえてるか?」
「・・・・・・・・・・・・。」
男がゆっくりとした動作で近づいてくる。
その右手に何か赤い物を握っているのに気づき、それを注視する。
それは見知った形状の物体だった。
見知ったと言っても、実際に見たことは無い。
本に載っている図解で見たことのあるだけだった。
僕の部屋にある、医学書で。
僕の目が大きく見開かれて、それを凝視した。
男の右手に握られた、心臓を。
「―――――ッ!!!」
もはや先ほどのマーダーズハイなど吹き飛んでいた。
全身に嫌な汗が流れる。
頭のどこかで、冷静な部分がこの男に関する情報を整理していた。
心臓狩り。殺した相手の死体から心臓だけを持ち去るという、連続異常殺人鬼。
意図も目的も不明。目下警察が躍起になって捜索しているシリアルキラー。
現時点での被害者は21名。いや、目の前で手の中に握られている心臓の持ち主も含めれば22名。
「オレはドクオってんだ、よろしくな。」
ドクオと名乗った男は、固まった僕に構わずに、どんどんと近づいてくる。
―――ヤバイ、こいつはヤバイ。
ドクオの行動からは敵意など見られないが、僕にはドクオの視線が、嗅覚が、その"食指"が、どこに向いているのか痛いほどわかった。
僕の傍らに倒れている男と、僕の左胸。
「よろしくな」などとは言ったが、目の前のドクオという男は僕とよろしくするつもりなど毛頭無い。
僕の直感が告げる。脳内危険信号はあっという間に限界地を突破。
―――ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ・・・・・・・・・。
やがて、無造作に近づいてくる男の足が、メスを持った僕の間合いに入った。
「うわあああああああああああああああああああああぁぁぁあぁあぁぁぁッ!!!!!!!!」
瞬間、金縛りが解けたように僕は反転して、その場から逃げ出した。
なりふり構わずにでたらめに走る。
男が追ってくる気配は無い。
どうやら、僕の残してきた死体の方を、僕よりも優先したらしい。
その事に多少の安堵を感じつつも、僕の足は止まらない。
恐怖に目を見開いて必死に駆ける僕に、すれ違った人々が訝しげな視線を向けるが、そんなものに構っている余裕は無い。
僕は感じていた。
ドクオと名乗った男に殺される恐怖を、ではない。
もちろん恐怖も感じている。呼吸がうまくできなくて苦しいし、先ほどから上下の歯が震えてうまくかみ合わず、カチカチと音を立てている。
だが、それ以上に僕はひとつの予感を感じていたのだ。
そう、僕はどうしようもないほどにその予感を感じていた。
これ以上あの男と接していると、僕も”はずれ”てしまう。
その確信があった。
家に帰るなり、僕はドタドタと音を立てて階段を上がり、自室へと向かった。
部屋に入るなり、そのまま本棚にもたれる様に座り込み、自らの膝を抱きかかえる。
両膝を一周するようにまわされた僕の両手は未だに震えていた。
部屋の中に、僕の上下の歯がぶつかり合う音だけが響く。
カチカチカチカチ。
玄関には父の靴があったから、父はもう帰ってきているのだろう。
家に向かって走っている時、父の部屋の電気が消えていた事は確認してある。
おそらく、もう眠っている。
助かった。
まず僕が考えたのはそれだった。
部屋に入ってから気づいたが、僕の体には返り血がついている。
あの四人組のうちの一人の首を切ったときについた血だ。
父親が起きていてこの姿を見られたら大騒ぎになっていたところだ。
何人かに返り血を被ったまま走っている姿を見られてしまったが、あの暗闇の中だ。
僕だとはわかるまい。
カチカチカチカチ。
上下の歯がぶつかり合う。
震えが止まらない。
自分の歯がぶつかり合う音さえ僕の恐怖心を煽っていく。
ゆっくりと自分が別のものになっていく感覚。
自分自身が自分の全く知らない、未知の存在に変わっていく感覚。
なんでこんな事になったのか。
なんで、なんで、なんで、なんで――――
「動画・・・。」
その時、僕は確かに今の自分の源(ルーツ)にたどり着いた。
恐怖に追い詰められた極限状態の中で、僕は奇跡的にそれにたどり着いた。
思い至ると同時に、デスクの上のPCにかじり付くように近づくと、電源を入れる。
ウインドウズが立ち上がると同時にIEのアイコンをクリック。IEを開く。
やはりホームはヤフー。あのわけの分からないURLには繋がらない。
僕は履歴を漁るが、一週間以上前の履歴は消すように設定してあるため、見つからない。
クッキーも漁ってみるが、同じだった。
「糞・・・・・・ッ!!!!」
苛立ちを感じつつも、検索エンジン、Googleを開く。
そしてキーボードに素早くタイプ。「ウイルス ホーム 書き換え」で検索する。
Googleの検索で表示されたウェブサイトを、順番に開いていく。
その中で「2ちゃんねる」というページを発見。
躊躇する事無くそのページを開く。
「これだお・・・。」
我知らず、僕の声が震える。
そのページには、「2ちゃんねる」と呼ばれるウイルスの詳細が記載されていた。
ワーム機能を持つウイルスで、メールを介して感染。
ファイルの破損等の実害は無く、ただウェブブラウザのホームページのURLを書き換えるだけ。
ウインドウズ、マッキントッシュ等のOS、ウェブブラウザの種類に関係なく感染。
一度書き換えたらそれ以降は何をするでもなく潜伏。どこかに情報を送り続けるだけのスパイウェアと化す。
書き換えられた後のURLはブラクラだったり、ウイルスのDLページだったりと一定ではない。
2004年末から日本で流行し、未だに世界的に流行し続けている。
初期には、書き換えられた後のURLは一定で、何らかの動画ファイルを再生するだけらしい。
その動画を見たら一週間後に死ぬ、等の色々な噂が流れたが、真偽の程は定かではない。
命名者、名前の由来等は不明だが、「チャンネルを切り替えるようにホームのURLが変わるから」という説が有力。
「・・・・・・・・・・・・。」
ゆっくりとウェブサイトに記載された情報を読んでいくが、僕の知りたい情報は詳しくは書かれていない。
その書き換えられた後のURLで再生される動画とやらについて詳しく知りたいというのに・・・。
僕は再びGoogleのトップページへ移動し、検索ワードを「2ちゃんねる 動画」に変更。再び検索。
すると、ウェブ上のあらゆる噂について話合っている掲示板を発見。
それを開く。
「【トロイたん】ウイルス擬人化スレ【テラモエスww】」「結局最強のウイルスはマクロ感染型なんだろ?」「僕のインターネットが壊れました><」
等、様々なタイトルのスレッドが並んでいる。
キーボードの「Ctrl」と「F」キーを押して、「2ちゃんねる」を検索。
すると「2ちゃんねる総合 Part27」というスレッドを発見する。
落ち着いてそれをクリックし、スレッドを開く。
対処法、駆除法に関する書き込みが殆どだが、中には「それに感染して再生された動画を見た友達が一週間後に死にました」というような眉唾物の書き込みまである。
その中で「オレはこのウイルスのぉヵゲで、人生変ゎったネ(ぁ」という書き込みを発見する。
僕の息が荒くなる。
流行る心を抑えてキーボードをタイプし、書き込み。
「このウイルスに感染して、変な動画を見せられたのですが、どうしたらいいのでしょう?」
自分の質問が掲示板に書き込まれたのを確認すると、他の人が僕に向けて書き込みをするのを大人しく待つ。
五分程待ってブラウザを更新すると、僕の書き込みに対してレスがついたのを確認。
「ここでも読んどけ^^;」という発言と共に、URLが書き込まれている。
僕は急いでそのURLをクリックして―――
「な・・・・・・ッ!!!!」
―――開かれたブラウザ一杯に頭の爆ぜ割れた男の顔写真。
さらに、次々とウェブブラウザが開かれて、同じページが表示されていく。
ブラクラだ。
気が動転した僕は思わずPCの電源スイッチを抑え、強制終了。
電源が落ちて、モニターの電源ランプだけが点滅する。
「やられたお・・・。」
その思いと共に、僕の中にふつふつと湧き上がってくるものがあった。
怒りだ。
「・・・・・・人が真剣に質問してるのに、なんてヤツだお。」
再びPCの電源を入れ、IEを起動。
履歴から先ほどの掲示板を開く。
「>>344さん、人が真剣に質問してるのになんでそういう嫌がらせするんですか。変な画像がいっぱい出てきたんですが。」
と書き込む。
二分ほど待って更新すると、さっそくレスがついている。
「>>346 マジであんなURL開いたの^^;URLの最後の拡張子が.exになってるのに気づかなかったの?^^;真性?^^;」
(#^ω^)「・・・・・・・・・・・・こいつ・・・・・・。」
最初は焚き火程度だった僕の怒りの炎は、一気に大火災へと発展。
怒りの衝動のままに再び書き込みをする。
「人が一生懸命頼んでいるんだから、教えてくれてもいいじゃないですか。それにブラクラのURLを貼っておいて、悪びれた様子も無くそんな書き込みをするなんて、信じられません。」
すると、今度は一分ほどでレスが帰ってくる。
「あのね、何でも人に聞けば答えが返ってくると思わないで^^;少しは過去ログ読んだり、自分で探す努力をしろよ^^;初心者は半年間ROMってろ^^;」
(#゚ω゚)「・・・・・・・・・ッッッッッ!!!!!!!!!!!!!」
僕の頭の中で何かが切れる音が響いた。
「ふざけんな。20以上もある前スレなんていちいち読んでられるわけねーだろ!!!何様のつもりだ!!!!」
「やれやれ^^;それ、人に物頼む態度じゃないんじゃないかな^^;礼儀も知らんのか、このゆとりが^^;」
「僕がゆとり教育世代だとしても、あなたがブラクラを貼ったという悪事が許されるわけでは無いでしょう!!話を逸らさないでください!!」
「ゆとりなの?^^;だから馬鹿とガキにはネット環境を与えるなとあれほど(ry^^;どうせウイルスガードにも入って無いんでしょ^^;だからあんなブラクラに引っかかるんだよ^^;」
「ウイルスガード?あと俺はゆとりじゃねーけどな。」
「ブラクラを未然に防いだり、個人情報漏れを防ぐ事ができるシステムだよ^^;名前欄に『Fusiana』って入れて書きめば登録できる^^;常識じゃん^^;それくらい知っとけよ、ゆとり^^;」
(;^ω^)「ウイルスガード?なんだかよくわからないけど入っておいた方が良さげだお。」
とりあえず、これ以上ブラクラを見せられたりしたらたまらない。
まずは相手と同じ土俵に立たねば、と思い、僕は名前欄にFusianaと打ち込み、書き込みをする。
これで登録ができたはずだ。
しかし・・・・・・、
「うわ^^;今時Fusianaに引っかかるやつなんてまだ居たんだ^^;しかもお前都民じゃん^^;」
(;^ω^)「な・・・ッ!!住所がバレてるお!!!!」
ただ、リモートホストからプロバイダー、接続元の大まかな地域を調べられて、都民だと言う事を特定されただけなのだが、初心者の僕にそんなことが分かるはずも無い。
「もしかして同じ○○高校の方ですか?」
「お前、頭沸いてんのか^^;Fusiana=自分のIPを晒す、偽防止のためのシステム^^;ブラクラだけじゃなくてこんなのに引っかかるなんて・・・・・・^^;つーか○○高校って・・・^^;」
(;^ω^)「騙されたお・・・・・・。」
その事を理解した瞬間、さらに僕の中の怒りの炎は勢いを増して言った。
既に僕の理性は全焼。それでもなお燃え続けている。
(#`ω´)「この野郎・・・・・・。」
僕はまるでキーボードが仇であるかのように、大きな力を込めて文章をタイプしていく。
「ふざけんな!!!どうせPCばっかりやってるオタクなんだろ!!!そんなの知ってるのはオタクだけだ!!!自慢になんねーよ!!!!」
「やれやれ^^;自分の知らない知識を持ってる人間は全員オタク扱いかい^^;学校の先生もオタク、専門技師もオタク、周りの大人もみんなオタク^^;おや、君以外の人間はみんなオタクになってしまうね^^;」
「ふっざけるんな!!!!!お前、どうしようもなく性根の腐ったヤツだな!!!いいから早く俺の質問に答えろよ!!!あの動画見たらどうなるんだよ!!!!それに答えて汚名挽回してみろオタク!!!」
「『ふっざけるんな』←落ち着け^^; あと、汚名は返上するものであって挽回するものではない^^;汚名挽回してどうすんの^^;さすがゆとり^^;」
(#゚ω゚)「コイツ・・・・・なんてヤツだお・・・・・ッ!!!!!!!!!!!」
だんだんと当初の目的から外れてきたが、モニターの向こうでほくそえんでいるであろうコイツだけは許せなかった。
怒りに任せてさらに書き込みを続ける。
どういうわけか、僕が書き込みを始めてから、他の書き込みが増えてきた。
「香ばしい厨が居ると聞いてやってきました」
「VIPから来ますた。VIPから来ますた。VIPから来ますた。VIPから来ますた。ザッザッザッザッ」
「これはいいゆとりですね。」
「テライタスwwwwwwwww」
「汚名挽回ワロスwwwwwww」
「VIPから汚名挽回しに来ました。」
「汚名挽回に来ますた。汚名挽回に来ますた。汚名挽回に来ますた。汚名挽回に来ますた。ザッザッザッザッ」
最初は妙な顔文字を使うヤツ一人を相手にしていたはずが、いつの間にか僕にレスをしてくる相手の数は十人以上になっていた。
僕が一人にレスを返してるうちに、その十倍、二十倍ものレスがついてくる。
「お前等みたいなオタクはすべからく馬鹿ばっか(笑 そうやって初心者に嫌がらせして悦に浸ってて、マジキモイんだけど(バクショ オタク知識が大きいくらいで何偉そうな事言ってんの?あと俺はゆとりじゃねー。」
「『知識が大きい』って表現は初めて聞いたなwww」
「どうでもいいけど『すべからく』ってのは『すべて』って意味じゃねえぞwww」
「『お前等みたいなオタクはすべからく馬鹿ばっか』←??????『おまえらみたいなオタクは馬鹿ばかりで当然であるべきだ』って事?????」
「流石ゆとりwwwwwwwwwwwwwwww」
「何?コイツ○○高生なんだろ?名門校でもバカって居るんだな。」
「所詮ゆとり。高校生なわけねーじゃん。よくて厨房。」
「どうした?だんだんとレスが遅くなってるぞ?www」
「誰か王子呼んで来い。革命王子とこのゆとりとの対決が見てみたい。」
「お前等落ち着け^^;どうせ釣り・・・、なわけねーか^^;コイツ、マジでゆとりだわ^^;」
あっという間にスレが1000まで埋まり、次のスレッドが立てられる。
次のスレッドを開くと、そこにはあの不快な顔文字を使う、諸悪の根源ともいえるヤツの書き込みがあった。
「どうした?^^;もうゆとりはお寝んねの時間か?^^;」
(#^ω^)「・・・・・・・・・・・・。」
―――いいだろう。そこまで言うのならとことん付き合ってやろうじゃないか。
僕は時間が過ぎるのも忘れ、PCのモニターを睨み、指を動かし続けた。
四面楚歌の、僕の孤独な戦いが始まった。
第三話・完
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