…………。

私はあなたを消す為に来たの。

どちらでもよかったの。

……嫌?

……なら、一つ、ゲームをしましょう。

あなたと彼、どちらかが生き残れるゲームを。

…………。





■( ^ω^)は十回死ぬようです。
■三日目の放課後・再開




(  ゚Д゚) 「遺書もねぇ、誰かが侵入した形跡もねぇ、こりゃ、判断に困るな」

「自殺の可能性が濃厚だと思われますが……」

(  ゚Д゚) 「自殺ねぇ……」

論理的でないことはわかっている、だが、納得がいかない。
死んでも尚、あんな顔をしているような娘が、自殺などするだろうか。

「家庭の事情で一人暮らしをしていたらしいですし……、そこら辺に原因があるのかもしれません」

(  ゚Д゚) 「親と連絡は取れたのか?」

「いえ、まだです」


(  ゚Д゚) 「ったく、おいおいおいおい、どうなってんだ今の時代は」

五歩歩いてはターンして、五歩戻る。
ギコが考えこむ時の癖だった。

ちゃっちゃっちゃー、ちゃららちゃららちゃらー

ギコの携帯が鳴り始めた。
その曲は「ライディーン」という最近の子供が知ることも無い数世代前のノリのいい物で、ギコのお気に入りだった。

(  ゚Д゚) 「どうした」

相手を確認することなく電話にでる。
この着信音がなったと言う事は即ち。

『こっちの事件は重要参考人確保だ、ぜ』

…………。


( ゚∀゚)「これから事故だか事件だか調べんだよ、そっちは? 何もわかんねぇ? うっわだっせぇ」

ジョルジュは携帯電話片手にハンドルを操作していた。
道路にはそれなりに車が走っているので、後部座席にいるブーンからすると危ない事この上ない。

( ^ω^)「……あの」

( ゚∀゚)「このジョルジュの最も嫌いな事は電話中に口を挟まれる事だ」

( ^ω^)「失礼しましたお」

ブーン達は車に乗っていた。
警察車両と呼ばれる(パトカーとは違い外装は普通の車だが、内装だけが特殊なつくりになっている)、自分達とはあんまり縁の無い乗り物だと思っていたそれに。
時は数十分前にさかのぼる。

…………。


( ゚∀゚)「拒否権は無しだ、泣こうが喚こうが、ちぃっと顔借りる事になるぜ?」

その男は余裕の混ざった表情をしていた。

( ^ω^)「…………」

(´・ω・`)「…………」

ブーンとショボンは同時に視線を逸らし、そして顔を見合わせて、うなずく。
二人同時に男に視線を移し、首をかしげて、言った。

『ヤクザ屋さん?』


(#゚∀゚)「警察だっつってんだろうがぁぁぁ!!」

思いっきり、革靴のかかとをテーブルに叩き付ける。
食器類が一気に跳ねて、店内の空気が変わった。

( ^ω^)「いや、あの、僕たちちょっと大事な話してるんで邪魔しないで欲しいですお」

( ゚∀゚)「ええいこれ見ろこれ!」

ジョルジュは胸元から、黒い何かを取り出した。

(´・ω・`)「……それは」

警察手帳。
上下に別れているそれには、ジョルジュの顔写真がしっかりと載っていた。

( ^ω^)「…………」

(´・ω・`)「…………」

二人は再び顔を見合わせる。
そして、やはり同時に言った。

『偽造品?』


(#゚∀゚)「本物だぁぁぁぁ!!」

再び、革靴のかかとがテーブルに叩きつけられた。
店内の視線は彼等が独り占めしていた。

(´・ω・`)「……で、その警察が僕たちに何の用ですか?」

ショボンが店内代表であるかのように口を開いた。

( ゚∀゚)「あ? 自分でわかってんだろ?」

( ^ω^)「…………」

(´・ω・`)「…………」

二人は再び再び顔を見合わせる。
そして、やはりやっぱり同時に言った。

『さぁ?』


(#゚∀゚)「ぶちころすぞてめぇらぁぁぁぁぁ!!」

今度はかかと落としではない。
テーブルを下から上へ、そのつま先で蹴り上げて――――

(  ∀)「――――――っ!!」

(´・ω・`)「テーブルは床に固定されてますよ」

(#゚∀゚)「うるせぇぇぇぇ!!」

涙目になったジョルジュは怒りを抑える気配もない、青筋を浮かべこめかみが携帯のバイブレーションの如く激しい振動を繰り返していた。


(#゚∀゚)「わかった、てめぇら公務執行妨害だ、俺が決めた、死刑だ殺す」

(´・ω・`)「いや、落ち着いて聞いて欲しい」

(#゚∀゚)「次舐めた口聞いたらグロックの弾丸がてめぇの脳髄吹き飛ばすっつー前提条件忘れんな糞餓鬼」

日本の警察官の標準装備にグロックは当然含まれて居ない。

(´・ω・`)「とりあえず外で話しましょう」

( ゚∀゚)「つーか署に連行する」

怒りを通りこして笑い始めるジョルジュ。


(´・ω・`)「じゃあこれ宜しくお願いします」

当たり前のように手渡されたので、ジョルジュは反射的にそれを受け取った。

(´・ω・`)「さて、外にでようか」

( ^ω^)「え、お、はいですお」

ショボンは立ち上がりブーンの手を取ると、素早くその場を退散する。

( ゚∀゚)「ってこれ伝票じゃねえか! 三百二十円ぐらいケチるんじゃねえよ! おい!」


…………。


ファミレスの扉を出て、数歩の所で二人は止まる。

( ^ω^)「……なんなんですかお、あれは」

(´・ω・`)「タイミング的には事故のことだと思うんだけどね」

……それしかない、か。
二人があの場所から離れて、会話を始めてから既に数十分は過ぎている。
近場だし、目撃者もいただろう、それだけの時間があれば、居場所を突き止めるぐらいはできると言う事か。

(´・ω・`)「とりあえず本物の警察みたいだね、これは都合がいい」

( ^ω^)「え?」

驚いた様にショボンを見つめる。
彼はくすりと笑ってから答えた。


(´・ω・`)「君の友人が危ないんだろう? 適当な理由をでっち上げて保護してもらおう」

( ^ω^)「お! 頭いいですお!」

(´・ω・`)「僕たちは拘束される事になるけど、仕方ないか、ある意味では君も安全だし」

顎に手を当てて考え込む、その仕草もまた、綺麗だった。

(´・ω・`)「ただ……この先どうするかだね」

( ^ω^)「どうって……」

(´・ω・`)「君が生き残る為の方法さ」

( ^ω^)「…………」

(´・ω・`)「やっぱり……、『元凶』、『原因』を捕らえるのが一番手っ取り早いよね」

『誰が自分を殺しているのか』という思考をする以上、『自分を殺している誰かを捕まえる事が出来れば』良いのだ。
『死なない』為に逃げ回る、以外に決着が最もわかりやすい手段。
だが。


( ^ω^)「それが誰なのかわかりませんお」

『彼女』はこの三回のシークエンスですら、そもそも夢でしかあった事が無い。
それ以外に、どう考えても自分をここまでして『殺したい』と思っている人物が想像できなかった。

(´・ω・`)「そもそも、なんで『十回』なんだろうね?」

( ^ω^)「お?」

(´・ω・`)「だって殺したいだけならそもそも一回殺せばすむ話じゃないか、むしろそっちの方が早い」

( ^ω^)「それは、僕も考えましたお」

クーにもいわれた事。
『勝利条件』。
これが『勝負』である以上、こっちにも勝利のチャンスが無くてはいけない。
『十回死ぬ』と言う事は死を何度も繰り返す地獄ではなく、自分が生きる為の希望であると言う事。

そう思いたかった。


( ゚∀゚)「……糞餓鬼共……、いい度胸じゃねえか……」

ゆぅらりと死んだ顔で現れたのは、どうみてもジョルジュだった。
どう見ても憔悴している、出てくるのに時間がかかったのを察するに会計だけではすまなかったのだろう。
店内であんな行動をしたら当然だが。

( ゚∀゚)「たっぷり絞ってやるからな……、畜生……、美人の店員に怒られちまったじゃねえか」

(´・ω・`)「八割は自分の責任だと思いますが」

(#゚∀゚)「五割はテメェらだよ!」

ぶつぶつと怨嗟の言葉を呟きながら、ジョルジュは駐車場へ向かって歩きだす。


( ゚∀゚)「言っておくが任意同行じゃなくて強制連行だからな、俺が決めた」

( ^ω^)「横暴だお」

( ゚∀゚)「うるせぇ、鉄拳が出て無いだけありがたいと思いやがれ」

(´・ω・`)「拳すっ飛ばして銃撃とうとしてたくせに」

( ゚∀゚)「いいんだよ警官だからよ」

そして、三人は案内された車に乗り込み、今に至る。


( ゚∀゚)「あぁ、わかった、こっちゃこっちでなんとかすっから、じゃな」

携帯電話を切ると、懐にしまいこみ、運転を再開する。
ブーンとショボンは後部座席に居た。

( ゚∀゚)「んで、なんだ餓鬼一号」

( ^ω^)「いや、運転しながら携帯はどうかと思ったけどもういいですお」

( ゚∀゚)「ああ、安心しとけ。この街で俺から点数引ける奴はいねぇ」

そういう問題じゃねぇ。


( ^ω^)「ところで何所へ行くんですお?」

(´・ω・`)「港だな……」

( ゚∀゚)「署だっつってんだろうが!?」

ハンドル部分を思いっきり殴りつけるジョルジュ。

( ゚∀゚)「ぁー、お前等みたいな脳内平和な餓鬼は知らんかも知れんがなぁ、この街の警察署は『下』にあるんだよ」

( ^ω^)「下?」

(´・ω・`)「アンダーグラウンド世界の事だな……」

( ゚∀゚)「わかってて言ってるだろお前等……」

上と下、というのはVIP市と、その周辺でのみ使用できる単語である。
単純に、高低差と言う意味でも上下だ。



VIP市の上には学校や図書館、住宅街、下は警察署や市役所、工業地帯など、それぞれ別れていた。
上と下は線路で分かたれており、その境目にはところどころ踏切がある。

( ゚∀゚)「とりあえず詳しい話は署でじっくり聞かせてもらうが、まあ図書館前の交通事故のことだよ」

( ^ω^)「僕たち被害者ですお」

(´・ω・`)「一歩間違えたら死んでたからね」

( ゚∀゚)「目撃証言の中で、一番危険な形で巻き込まれたのに現場にいなかったのがお前等だけだったんだよ」

車は道路を超えて、やがて大通りに出る。
このまま進むと長い下り坂があり、途中の踏切を越えて『下』区域へと辿り着く。

( ゚∀゚)「だからとりあえず話は聞いておこうと思ってな」



( ^ω^)「ならなんであんな派手な登場を……」

( ゚∀゚)「時々逃げる奴がいるからインパクトをな」

(´・ω・`)「そしてからぶった、と」

( ゚∀゚)「だから誰の所為だ……。 まあいい、どっちにしろ人一人死んでる事件だ、結構しつこく聞くぜ」

( ^ω^)「覚悟は出来てますお」

( ゚∀゚)「上出来だ」

車が、坂道に差し掛かった。
ゆっくりと下ってゆく。


( ^ω^)「それと……ええと刑事さん」

( ゚∀゚)「ジョルジュさんでいい、なんだ餓鬼一号」

この際自分の呼ばれ方は無視するとして。

( ^ω^)「ちょっと頼みがありますお」

( ゚∀゚)「んだよ、煙草はやらんぞ」

( ^ω^)「いえ、友達が……」

( ゚∀゚)「友達ぃ? 薬でもやってんのか」

( ^ω^)「違いますお、ただちょっと危ない状態で……」

( ゚∀゚)「……危ない?」

ジョルジュの顔色が変わった。
間抜けな成人男性から、刑事のそれへと。



( ^ω^)「詳しくは説明できないけど、ええと」

(´・ω・`)「夕食がまだなんですよ」

ショボンがその言葉を遮った。

(´・ω・`)「彼女、マンションの高層階に住んでるんですけど、足が悪くて、今エレベーターも使えないんです」

すらすらと嘘を並べ立てる。

(´・ω・`)「だから僕たちが夕飯を買って届けてあげる予定だったんですけど、こんな状態ですから」

( ゚∀゚)「ほーお」

まったく信用していない口調だった。

(´・ω・`)「だから連絡を取りたいんですが構いませんかね」

( ゚∀゚)「……好きにしろや」


ぽぴぺぷぴぱ

登録は一応しておいたが使う機会など0に等しかった電話番号が携帯のメモリから呼び出される。

( ^ω^)「出てくれお……」

プルルル、プルルル、プルルル、プルルル、プルルル。

( ^ω^)「何してるんだお……、早く出ろお……」


プルルル、プルルル、プルルル、プルルル、プルルル。

ガチャリ。

……通じた。

――通じた!


( ^ω^)「クーかお!? ブーンだお! 今すぐそこを離れ――――」

『どちら様ですか?』

それは。

聞いたことも無い。

男の声だった。



ブーンの頭は混乱したが、しかし思ったことが何より先に口から出てくる。

( ^ω^)「え、あ、貴方こそどちら様ですかお!?

『警察です、この部屋の方と――お知り合いですか?』

( ^ω^)「警察……」

( ゚∀゚)「……っち」

ジョルジュが舌打ちをしたが、ブーンには聞こえていなかった。

( ^ω^)「……クーは、クーは!?」

『……それは小さくて髪が長い、女の子の事でしょうか?』

まるで確認するような口調。
嫌な予感が、どんどんと。


( ^ω^)「そうですお! カーディガンにチェックのロングスカート穿いてる身長百五十センチぐらいの――」

『……あぁ、やっぱか、いや、貴方はこの人のご家族や親類のお方ですか?』

一瞬敬語が崩れ、すぐに口調を元に戻す。

( ^ω^)「いえ……、クーに両親はいませんお、僕は友達ですお」

『両親が、居ない?』

( ^ω^)「え、はい、先生からはそう聞いてますお……」


彼女が一人暮らしをしている理由を尋ねた事があった。
その時、クーはこういった。

川 ゚ -゚)「私が誰かと一緒に衣食住を共にできる人間だと思うかね?」

皮肉めいた笑みだった事を今でも覚えている。



『……そっか、おいおいおいおいなんて話だ、畜生がっ』

カン、カン、カン、カン、と。
踏切に差し掛かり、車は停止した。

ジョルジュはもう何か悟っている様子で、ショボンは目を閉じて悲しそうな瞳で。

携帯電話を片手に持つブーンは、体を固めて震えた声で。

(  ω )「……クーは、クーはどうしたんですかお!?」

『……ええと、クーさんとはどのようなご関係で――――』

( ゚∀゚)「貸せ」

携帯電話を、ブーンから乱暴にもぎ取る。



( ^ω^)「あ」

( ゚∀゚)「VIP市警察署のジョルジュだ」

すると、電話口の相手は驚いたように声を変えた。

『ジョルジュ? 何でお前が!』

( ゚∀゚)「うるせぇ、電話で面倒な話してんじゃねえ、今、会話してた餓鬼は署に連れて行くからテメェも戻って来い」
『おい、詳しい事情を』

ピ。

会話の終了するボタンを押して、後ろも見ずにブーンに携帯を投げ渡した。

( ^ω^)「あ、あの――」

( ゚∀゚)「足が悪いとか大嘘ついてんじゃねえよ、すぐわかるだろボケ野郎、いいか落ち着いて聞いとけ馬鹿」

早口でまくし立ててから、バツが悪そうに。
しかしジョルジュは断言した。



「その娘は、もう死んでる」




ガタンゴトン、と電車が通過していく。
その間、誰も何も言わない。
ブーンは携帯を握り締めて震えていた。
ショボンは何も言わずその肩に手を置いた。
長く感じた、その沈黙があまりにも重すぎて。
電車が通過し終わるまで、それは続いた。

( ゚∀゚)「どうやら色々繋がってるみたいだな――、話、たっぷり聞かせてもらおうか」

ジョルジュの一言に反応するかのように。
やがて、踏み切りが開いた。

…………。


その建物は一言で言えば『素朴』であり『偉大』だった。
クーが住んでいる、いや、住んでいたマンションと比べればずいぶんと古臭くて、しかし歴史を感じさせる。
VIP市警察署、ジョルジュとギコの所属するこの街の交番を統括する警察機関。

( ^ω^)「……クー」

一度クーに殺された身としては、複雑だった。
何故こんな事になったのか、わからない。

(´・ω・`)「……ただ、証明されたね」

( ^ω^)「そうです……お」

これで、はっきりとわかった。
一度ブーンが死んだ場所では、次の『今日』でも同じ事柄が起こる。

たまたま死ぬ原因のある場所に、偶然ブーンがいる、と考えるのは違うだろう。
相手は十回、コチラを『殺す』と明言してきているのだから、当然ブーンが巻き込まれなくては意味が無い。
『必ず人が死ぬ事柄が十回同じ街に連続して起こる』なんて自体はもう偶然ではなく、運命だ。

なら僕は、運命と戦っているのか。

運命と、戦えというのか。


( ゚∀゚)「こっちだ」

ジョルジュに案内されて、辿り着いたのは、『取調室 T』と書かれたプレートのついた部屋だった。

( ゚∀゚)「わりぃな、別に犯人扱いとかそういうわけじゃねーからよ」

扉を開けると、そこは予想よりずいぶんと広い場所だった。
ソファにテーブル、流し台にコンロまである。

( ゚∀゚)「ここは任意同行で話を聞かせてくれる奴等のための部屋だよ。容疑者用の部屋はまた別だ」

( ^ω^)「……知らなかったお」

( ゚∀゚)「こんな面倒な事してんのはウチだけだと思うぜ?」

けらけらと笑いながら『座れよ』と促す。
指示通りに二人はソファの方へと座った。

( ゚∀゚)「もうじき俺の同僚が来るから……、友達の事はそいつに聞いてくれ」

( ^ω^)「ありがとうございますお……」


それから暫くは、ブーン達が事故にあった経緯と、詳しい状況を説明する時間が続いた。
自分が十回死んでいる最中である、と言う事は伏せる。
ショボンのような『死相が見える』レベルの変態性でも無い限りは、信用してなどくれないだろう。
何より相手は、大人だ。

( ゚∀゚)「つまり、お前たちがあの場に居合わせたことは偶然で、助かったのもまた偶然と」

( ^ω^)「そうですお」

(´・ω・`)「危機一髪だったね」

ジョルジュは書類のような物に、話を聞いては文字を書き込んでいく。
その作業がひと段落した所で、ぼそりと言った。

( ゚∀゚)「はぁん、成る程成る程、嘘くせぇな」




( ^ω^)「お!?」

(´・ω・`)「はい?」

頷きながら書類作業を進めるジョルジュの一言に、ブーンとショボンは固まった。

( ^ω^)「それはどういう意味ですかお……」

( ゚∀゚)「俺の前じゃ嘘はつけねぇって事だ」

顔を上げて、ブーンと視線を結ぶ。
その顔は、やけに愉しそうだった。

( ゚∀゚)「そもそもなんでこんな性格破綻者の俺が刑事なんてやってると思うんだ、お前等は」

( ^ω^)(自覚あったんだお……)

(´・ω・`)(自覚はあったのか……)


( ゚∀゚)「俺はな、嘘を吐いてるか吐いて無いかってのが、顔見りゃわかるんだよ」

刑事の勘といえばそれまでだが、ジョルジュは偏に人間の状態を把握する技術に長けているのであった。
ショボンの言っていたコールドリーディングと同じく、それは観察力と読唇術。
ジョルジュ本人は意識してそんな事をしている訳ではないが、脳がそれを『違和感』と捕らえた時、彼が何故、この警察署でギコと同様、一目置かれているのか、という理由を垣間見る事が出来る。

( ゚∀゚)「昔っからそうなんだよなぁ、嘘吐いてるやつってのはわかるんだよ、なんとなくだけどな」

( ^ω^)「嘘……」

( ゚∀゚)「大体はお前等の言うとおりなんだろうけどなぁ、どっか、大事な部分を隠してねぇか?」

ブーン達が嘘を吐いているのは、『よけられたのが偶然で無い事』と『事故が起こるのが確定していた事』だ。
そしてそれを説明するならば当然『十回の死』も説明しなくてはならなくなる。


(´・ω・`)「……僕たちも立て続けに色々あって混乱してますから、辻褄が合わない部分があってちょっと違和感があるだけでしょう」

( ゚∀゚)「混乱、ねぇ」

(´・ω・`)「事故に巻き込まれて友人も亡くしているんですから、当然です」

はっ、とジョルジュは鼻で笑った。

( ゚∀゚)「俺の言ってる嘘っつーのはそんなんじゃねーよ。そいつが信じ込んでる事ならどんな異世界物語でも俺は信じてやるさ、ただ――」


『意図的に吐いてる嘘だけは絶対に誤魔化させねぇ』




( ゚∀゚)「さぁ、ここまで来たんだ、腹割ろうぜ」

( ^ω^)「…………」

ブーンは内心、この人に打ち明けたいという気持ちがあった。
だがしかし、クーの言葉がどうしても胸に突き刺さっている。

銃という人間を殺すツールを自由に使えるような人間を、信用できるのか。

ブーンが何か言おうとした瞬間、取調室の扉が勢い良く開いた。


(  ゚Д゚) 「ジョルジュッ!」

黒いコートを羽織った、威風堂々とした男だった。
肩幅がやけに大きく、ジョルジュと違い、一目で『刑事』とわかるような、ドラマにでも出てきそうな服装をしている。
そしてこの声には、聞き覚えが――――

( ゚∀゚)「来たか馬鹿ばかや」

( ^ω^)「クーは!」

ジョルジュがそれを言い終える前にブーンは立ち上がって、ギコの元へと歩み寄る。

( ^ω^)「クーは! クーはどうしたんですかお!」

(  ゚Д゚) 「その声、お前が電話で話してた奴か」

( ^ω^)「そうですお!」

(  ゚Д゚) 「……そうか」


一瞬視線をそらしたが、すぐに向き直り、ギコはブーンを見つめた。
その瞳は、温度の低い物だった。
冷たいのではなく、ぬるく緩んでいるような。

(  ゚Д゚) 「お前の友達は……自殺した」

( ^ω^)「じ、じさつ?」

誰かに殺されたのでは、無い?

(  ゚Д゚) 「現場状況から判断するにそうとしか考えられないんだ、すまん」

( ^ω^)「いえ……、刑事さんの所為じゃありませんお……」

バツが悪そうに頭をかきながら、 ギコはジョルジュを見て言う。

(  ゚Д゚) 「おいおいおいおいジョルジュ、全部詳しく説明してもらわねぇと気がすまねえぞ俺は」

( ゚∀゚)「俺もだ馬鹿野郎、おら行くぞテメェら」


がた、と立ち上がり、歩き出す。
扉の前まで移動するジョルジュを横目で見て、ショボンが呟いた。

(´・ω・`)「行くって、どこへ?」

振り向き、ジョルジュはにやりと笑う。

( ゚∀゚)「その女子高生が死んだ場所に決まってんだろ馬鹿野郎、何か危ない予兆はあったんだろ? お前等が見れば何かわかるかも知れねーだろうが」

(  ゚Д゚) 「お前、民間人を――」

( ゚∀゚)「テメーだって同じ事考えてたんだろ?」

ジョルジュの肩に手をかけたギコだったが、しかし図星だったようで、すぐに手を離し。

(  ゚Д゚) 「……っち」


( ゚∀゚)「つってもこいつばっかは拒否権無しとはいかねえしな、どうする?」

尋ねる。

答えなんて、決まっている。

( ^ω^)「――行きますお」

それが何かをつかめる事になるならば。

( ^ω^)「行って、僕は」

どうなると、言うのだろう。

(´・ω・`)「なら、僕も行きます」

ショボンも立ち上がった。
はっ、と笑い、ジョルジュは言う。

( ゚∀゚)「いい答えだぜ、少年」

かつん、と革靴のかかとが床を蹴る。
ブーン達はそれに続いた。

…………。


(  ゚Д゚) 「しっかし、煙草くせぇ車だな」

( ゚∀゚)「黙れ」

ここに来る時ものっていたジョルジュの車、助手席にギコ、運転席にジョルジュ、後部座席にはブーンとショボン。
外はすっかり暗くなっていた、時計を確認したら、もう七時に近い。

( ゚∀゚)「じゃあとりあえず現場に辿り着くまでに……」

後ろを振り向く訳ではないが、ジョルジュはこればかりは拒否を許さんと言わんばかりの語調で言った。

( ゚∀゚)「俺の聞きたいことは全部、聞かせてもらおうか」

( ^ω^)「……わかりましたお」

(´・ω・`)「ブーン君」

( ^ω^)「いいんですお、信じてくれても信じてくれなくても」


ブーンは中学時代、ドクオを助けた時の事を思い出した。
きっかけは今と同じ、引きこもりの生徒にプリントを届ける、それだけ。

初めてあった時のドクオは死んだ目をしていた。
こんな目を出来る人間がいるなんて、信じられなかった。
こんな目をさせられる人間がいるなんて、信じられなかった。

無言でプリントをむしりとると、逃げるように家の中へ駆け込むドクオの後姿。
その時ブーンは、彼と友達になりたいと思った。

結論からいってブーンはなんでもした。

行く時にお菓子を持っていく、ゲームを持っていく、興味のありそうな話を用意していく。
最初は会話もままならなかったが、そんな事を一ヶ月も繰り返すうちにだんだんコミュニケーションが成立していくようになった。

その時のブーンは一心不乱で、目的しか見えていなかった。
何も考えず、最終地点にある結果だけを追い求めて突っ走っていた。

( ^ω^)「思い出したお、僕は、生きていたい」

生きていく為なら、僕は。


( ^ω^)「もっと愉しい事をいっぱいしたいお、二年になったら修学旅行だってあるお、留年の危機を乗り越える為の勉強だってみんなでやれば怖くないお」

(  ゚Д゚) 「……何言ってんだお前」

( ゚∀゚)「いいから黙ってろ」

( ^ω^)「そのためには今日を生きていかなくちゃいけないお!」

車はやがて、上と下を分かつ坂道へと辿り着いた。

ゆっくりと、坂を上っていく。

( ^ω^)「聞いてくださいお刑事さん、僕は――」

ブーンは全てを話した。
自分の今と、事故と、クーの死んだ原因を。




刑事二人は沈黙し、視線だけを見合わせる。
その様子は、とても複雑そうだった。

( ゚∀゚)「……嘘を言ってるようにゃ聞こえなかったが……、しかしなぁ」

信じる訳にはいかない、と言いたげなジョルジュだったが、しかしギコはぼそりと呟いた。

(  ゚Д゚) 「俺は……納得したよ」

( ^ω^)「……納得?」

(  ゚Д゚) 「いや、こんな話をするのもなんだけどよ……、ガイシャ……、クーちゃんだっけか、あの子はやっぱ自殺したんだわ」

(´・ω・`)「どういう意味ですか?」

車内の視線がギコへ集中する。

(  ゚Д゚) 「つまりさ、クーちゃんはお前を守ってるんだよ」


( ^ω^)「……クーが、僕を?」

(  ゚Д゚) 「だってそうだろ? クーちゃんは一回お前を殺した、だけど次の『今日』以降は絶対にお前、クーちゃんのマンションに行かないだろう」

ブーンが死の記憶を取り戻さないのなら、わざわざ部屋に行く事はしない。
ブーンが死の記憶を取り戻しているのなら、やっぱり部屋に行く事はないだろう。

それの意味は。


(  ゚Д゚) 「『十回死が襲ってくる内』の『一回』はお前、それで確実に回避できるじゃねえかよ」





どう転んだところで、記憶を取り戻すが取り戻すまいが。

『二回目以降の今日』、ブーンがあの場所で死ぬ可能性は無くなるのだ。

( ^ω^)「……ぁ」

(  ゚Д゚) 「だからか、あんなに満足そうな顔をして死んでたのは――」

カン、カン、カン、と踏切の音がする。
坂の中腹部分、線路の通るその場所で車は一時停止する。

( ^ω^)「いや、だって、それは、まさか……」

カン、カン、カン、カン、カン。

( ^ω^)「クー、僕は……」



カン、カン、カン、カン、カン。

(´・ω・`)「あれ?」

( ゚∀゚)「ちょっと待てギコ」

カン、カン、カン、カン、カン。

ショボンとジョルジュが同時に声を上げた。

(´・ω・`)「それっておかしくないですか?」

( ゚∀゚)「その仮説だとお前、クーって娘はよ……」


その時。

ブーンは見た。

一瞬だけ視線を通しただけだった。

そのつもりだった。

だが『それ』は間違いなくそこに居た。

視線を戻す。

いる。

線路の上。

そこに。

白い蜃気楼のような影が居た。



(*゚-゚)


ショボンとジョルジュの声が、同時に重なる。


『ブーンが体験してる死の記憶と同じ情報を持ってないといけない――――』


影とブーンの目があった。

影は、『彼女』は。

(*゚ー゚)


くすり、と笑って。


消えた。


そして。


ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!


それは、聞いたことも無い轟音だった。

( ゚∀゚)「――――っ!!」

ジョルジュがとっさにギアを変えて、アクセルを踏み込み、バックを試みる。

だが、間に合わない。

信じられる訳が無い。

こんな事、想像もできる訳が無い。

想定の範囲外、すぎる。

まさか。



(´・ω・`)「電車が――――」



(  ゚Д゚) 「脱線だとぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


その圧倒的な質量は、重力によって坂の下側へと横向きに落下を始める。
直線距離に進んでいたベクトルが、一気に変換されて。

それは彼等の知る由も無い話であるが、この脱線事故の原因は置石であると、三日後に判明する。
死者百人以上、重傷者三百人以上を出したVIP市始まって以来最大の悲劇とされるその『脱線事故』は。

周囲にあった建物や車を飲み込み。

破壊した。

ブーンが最後に見たのは姿は、『彼女』が微笑んでこちらを見る姿。
唇が動いて、何かを呟いていた。
その声は何故か、耳の奥に聞こえた――。

『あと、――回』

:三回目の死亡・事故死。
:実行犯・不明
:死亡時刻・六時五十九分

…………。


川 ゚ -゚)「……ああ、終わったのか」

クーは気がついたら自分の部屋にいた。
ベッドの中だ、タオルケットが暖かい。

太陽はまだ昇りきっていない、深夜と朝方の丁度境目の時間だった。

川 ゚ -゚)「やれやれ、何度も死ぬのはごめんなんだが――」

目を閉じて、眠りの中に入る為に、意識を遮断する。

がんばれ、と呟いた。

:( ^ω^)は十回死ぬようです・続く。




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